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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1216055
審判番号 不服2007-9763  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-05 
確定日 2010-05-06 
事件の表示 平成 8年特許願第 25067号「水分の低減されたガス化燃料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 8月19日出願公開、特開平 9-217072〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願(以下「本願」という。)は、平成8年2月13日になされた特許出願であり、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成17年 2月21日付け 拒絶理由通知
平成17年 4月15日 意見書
平成19年 2月27日付け 拒絶査定
平成19年 4月 5日 本件審判請求
平成19年 6月20日 手続補正書(審判請求理由補充書)

第2 本願に係る発明について

本願に係る発明は、願書に添付された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係るものは、以下の事項により特定されるものである(以下、「本願発明」という。)。
「水分を含み粘度の低下された液状燃料を酸素により部分酸化してガス化するガス化燃料の製造方法において、前記液状燃料を所定温度に加熱して水層と燃料層とに分離させ、ガス化直前の段階で液液分離して得られる燃料層を酸素により部分酸化してガス化することを特徴とする水分の低減されたガス化燃料の製造方法。」

第3 原審の拒絶査定の概要

原審において、平成17年2月21日付け拒絶理由通知書で概略以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1
・引用文献等 1-2
引用文献1には、水分添加により粘度の低下された液状燃料を所定温度に加熱して水層と燃料層に分離する方法が記載されている(特許請求の範囲、【0015】?【0016】段落)。
そして、得られた燃料層の燃料を、酸素により部分酸化してガス化(引用文献2の特許請求の範囲など)することは、当業者が適宜なし得るものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

・・(中略)・・
引 用 文 献 等 一 覧

1.特開平07-103451号公報
2.特開平07-150148号公報
・・(後略)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成17年 2月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。(審決注:上記「及び手続補正書」は明らかな誤記である。)

[ 備 考 ]
・請求項 1-6
・引用文献等 1-4
引用文献1には、水分添加により粘度の低下された液状燃料を、所定温度に加熱して水層と燃料層に分離する方法が記載されている。
このようにして得られた燃料層を、引用文献1記載の発明のように燃焼系統に供給するための液体燃料とするか、引用文献2記載の発明のように部分的に酸化してガス化燃料とするかは、当業者が所望に応じて適宜定め得ることである。

この点について、出願人は、平成17年4月15日付け意見書において、「引例2には超重質油を部分酸化する旨の記載がありますが、引例2に記載された発明の構成要件及び[0012]の記載を見ても分かる通り、引例2に記載された方法は、ガスの温度を下げるばかりでなく、水浴を通過することによってガスに水分を含ませる結果となることは明らか・・・予め水を添加した超重質油から水分を除去して、且つエネルギー効率を向上させようとする引例1に記載の発明において、ガスの温度が下がるためにエネルギー効率が悪く、除去したい水分を逆に添加する結果となる引例2に記載の方法を適用することは、全く動機づけができ」ない旨主張している。
しかしながら、引用文献2の【図1】を参照すると、水浴(8)を通過しているのは、燃焼/ガス化炉(6)に由来する排出ガスである。燃料を部分酸化しているのは、燃焼/ガス化炉(6)とは別に設けられているガス化炉本体(1)であり、ガス化炉本体(1)に由来するガス化ガスは、そもそも水浴(8)を通過していないから、出願人の上記主張は当を得ていない(ガス化炉本体(1)に由来するガス化ガスについては【0009】段落を、燃焼/ガス化炉(6)に由来する排出ガスについては【0010】段落を、それぞれ参照されたい)。

したがって、本願の請求項1-6に係る発明は、依然として、引用文献1-4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

引 用 文 献 等 一 覧

1.特開平07-103451号公報
2.特開平07-150148号公報
・・(後略)」

第4 拒絶査定における各引用例及び周知例に記載された事項

1.引用例1(特開平7-103451号公報)について
原査定で引用された上記引用例1には、以下の事項が記載されている。

(a1)「水分添加によりエマルジョン化して粘度を低下させたイオウ化合物含有超重質油を所定の温度まで加熱し、燃焼系統の直前で前記所定の温度まで加熱された前記超重質油から水分を除去し、水分を除去された状態の前記超重質油を前記燃焼系統に供給すると共に、前記燃焼系統からの排煙を湿式排煙脱硫系統に導入し、更に、前記超重質油から除去された水分を前記湿式排煙脱硫系統に供給するようにすることを特徴とする超重質油の燃焼脱硫方法。」(【請求項1】)

(a2)「本発明は水分添加によりエマルジョン化して粘度を低下させたイオウ化合物含有超重質油の燃焼脱硫方法に関する。」(【0001】)

(a3)「【発明が解決しようとする課題】
天然オリノコタールの使用形態はエマルジョン化されたものであり、水を約30重量%含むので、これをボイラのバーナに供給する従来法では、この水を気化させるためのエネルギが無駄に消費されているという第1の問題点がある。すなわち、水を約30重量%含む燃料を燃焼させれば、この水はすべて蒸気として煙と共に排出していることになる。このエネルギをエンタルピで計算すると、例えば水1kgを含んだ場合について考えれば、初期温度が30℃の水(30kcal/kg)が120℃の蒸気(626kcal/kg)として排出されているとすると、約596kcal/kg が無駄になっている。」(【0003】)

(a4)「勿論、これら3つの問題点は水の添加によりエマルジョン化された天然オリノコタールのような超重質油に限らず、水の添加により粘度を低下させるような他のイオウ化合物含有超重質油全般に当てはまることである。従って、この種の超重質油において、もし約30重量%の水をできるだけ除去した状態でボイラで燃焼させることができれば大型の火力発電所を想定すると省エネルギと効率向上、省資源に大きく寄与することができる。
このような観点から、本発明は粘度低下のために水を添加されたイオウ化合物含有超重質油の合目的な燃焼脱硫方法を提供しようとするものである。」(【0006】?【0007】)

(a5)「【実施例】
以下に図1を参照してオリマルジョンである場合の本発明の実施例について説明する。図1において、天然オリノコタール70重量%に対して30重量%程度の割合で水及び界面活性剤が注入されて液状にされたオリマルジョンはタンク1に蓄積されている。タンク1内のオリマルジョンの温度は常温に近い20?30℃であり、ポンプ2により約20kg/cm^(2)に昇圧されて第1熱交換器3に供給される。第1熱交換器3の熱交換源は後述するデハイドレータ5で除去された高温の水であり、ここでオリマルジョンは50?60℃に加熱され、次いで第2熱交換器4へ供給されてスチームにて150?200℃に加熱される。
以上のようにして加熱されたオリマルジョンはデハイドレータ5に供給される。デハイドレータ5は周知のエレクトロスタティック型であり、ドラム状の容器内部に多数の電極を有してこれらの電極と胴体との間に直流あるいは交流の電圧により電界を加えることにより、オリマルジョンをオリノコタール成分と水分とに分離して水分を除去するものである。この水分の除去原理としては、水の分子は双極子をもち、これに電界を加えると水分子が並びやすくなって凝集しやすくなるからであると説明される。これによりエマルジョン状態がこわされ、オリノコタール成分と水分とに分離する。オリノコタールは温度を上げると比重が大幅に低下し、一方、水は温度によってそれほど比重が変化しないので、水との比重差が大きくなって分離しやすくなる。
デハイドレータ5で分離されたオリノコタール成分は150℃程度以上の十分流動性のある状態で水分は通常2重量%以下、好ましくは1?1.5重量%まで低下しており、そのままボイラ6に供給される。
・・(中略)・・
ボイラ6では空気予熱器8から送られてくる250℃程度の高温空気によってオリノコタール成分を燃焼させ、そこで発生した排煙は・・(中略)・・温度約400℃でボイラ6から排出される。」(【0015】?【0018】)

(a6)「【発明の効果】
本発明によれば、第1に粘度低下のために水を添加された超重質油であっても、水を除去した状態でボイラによる燃焼を可能にし、無駄なエネルギの消費を低減することができること・・(中略)・・の効果が得られる。」(【0025】)

(a7)【図1】(第4頁中段)




2.引用例2(特開平7-150148号公報)について
原査定で引用された上記引用例2には、以下の事項が記載されている。

(b1)「超重質油を部分酸化するガス化炉本体、同ガス化炉本体から排出される未反応物と気相からの析出物が導かれ空気比を変えて燃焼及びガス化のいづれか一方を行わせる炉、及び同炉の後流域に設けられ同炉の排ガスを通過させる水浴を有することを特徴とする超重質油ガス化装置。」
(【請求項1】)

(b2)「【産業上の利用分野】
本発明は、石油蒸留残渣、アスファルト、オリマルジョンなどの超重質油を部分酸化によってガス化するのに適用される超重質油ガス化装置に関する。」(【0001】)

(b3)「【課題を解決するための手段】
本発明は前記した課題を解決するため、超重質油を部分酸化するガス化炉本体、このガス化炉本体から排出される未反応物と気相からの析出物が導かれ燃焼及びガス化のいづれか一方を選択的に行わせる別置きの炉(以下燃焼/ガス化炉とする)、及び同炉の後流域に設けられこの炉の排ガスを通過させる水浴を有する構成の超重質油ガス化装置を提供する。この別置きの炉で燃焼及びガス化のいづれを行わせるかはその空気比を調節して選択する。
【作用】
本発明による超重質油ガス化装置は前記した構成を有しているので、ガス化炉本体から排出されるチャー(未反応分、及び気相析出分)を、別置きの燃焼/ガス化炉にて燃焼(酸化処理)及びガス化(部分酸化処理)のいづれか一方を行わせる。
・・(中略)・・
すなわち、別置きの燃焼/ガス化炉における空気比を0.35?0.45程度とすることで、ガス化炉として作用させる場合には、回収された化学エネルギを有する高カロリーガスをガス化炉本体出口へ流入させることで、ガス化炉本体の運転には影響を与えない。」(【0005】?【0007】)

(b4)「【実施例】
以下、本発明による超重質油ガス化装置を図示した一実施例により具体的に説明する。図1において、超重質油10及び酸化剤11が、ガス化炉本体1に噴出され、空気比0.35?0.45程度で部分酸化される。未燃分及び気相析出物を含んだ1200?1900℃のガス化ガスは熱交換器2で熱回収され、ポーラスフィルタ3で固体成分が取り除かれる。ポーラスフィルタ3を出たガス化ガス15はこのあと脱硫システム等を経てガスタービンラインへと導かれる。・・(後略)」(【0009】)

(b5)【図1】(第4頁)




3.周知例1(特開昭54-76493号公報)について
新たに提示する周知例1には、以下の事項が記載されている。

(c1)「炭素と水素を含む燃料を、自由酸素を含むガスにより、自由流非触媒ガス発生器の反応領域において部分酸化することにより、H_(2)とCOを含み、約815℃?1930℃の温度および約1?250絶対気圧の圧力の混合ガスを製造する方法・・(後略)」(特許請求の範囲第1項)

(c2)「炭素と水素を含有する広範囲な可燃性有機物を、ガス発生器において自由酸素を含むガスと反応させて前記流出ガス流を発生させることができる。・・(中略)・・
水素および水素を含み、部分酸化ガス発生器に一般に採用できる燃料であれば、ガス状、液体状および固体状の炭化水素、炭素系材料およびそれらの混合物質を本発明に使用できる。・・(中略)・・
この明細書で用いる液状炭化水素という用語は適当な液状張込み原料を指すものであるが、・・石油溜分および残渣、・・原油、アスフアルト、・・残渣油、タールサンド油および頁岩油、・・およびそれらの混合物のような種々の物質を含む。」(第4頁左下欄第6行?右下欄第16行)

(c3)「燃料原料は室温にでき、あるいは315?650℃の範囲の温度、たとえば430℃まで予熱できるが、なるべくその分解温度以下にする。燃料の予熱はガス発生器から直接出る流出ガス流との熱交換により予め加熱されている伝熱流体との非接触熱交換により行うことができる。」(第5頁左上欄第12行?第17行)

4.周知例2(特開昭60-122701号公報)について
新たに提示する周知例2には、以下の事項が記載されている。

(d1)「重炭化水素を部分酸化して水素を製造する方法において、コークス乾式消火設備のプレチヤンバー部に重炭化水素と酸素を吹込み、生成ガスを取得し、次いでボイラー等の排熱回収設備で該生成ガスの顕熱を回収し、熱回収後のガスを要すれば脱硫装置を経由しPSAに導入し、該ガスより水素を製造・・(中略)・・することを特徴とするCDQ設備による重炭化水素の部分酸化による水素製造法。」(特許請求の範囲第1項)

(d2)「[技術分野]
本発明はコークス乾式消火設備(CDQ)をガス発生炉として有効活用し重炭化水素を部分酸化して水素を安価に製造する方法に関する。
[従来技術]
従来の重炭化水素を部分酸化することによつて(CO+H_(2))ガスを多量に得る方法には、テキサコ法とTEC法が一般によく知られている。」(第1頁右下欄第3行?第10行)

(d3)「第1図は本発明法による工程図であり、第1図に基いて本発明を更に詳しく述べる。
・・(中略)・・コークス顕熱回収設備(ガス発生炉)1は従来のCDQ設備の一部を改造したものである。このプレチヤンバー部2の温度は920?980℃に保持されている。一方石油系重質油例えばアスフアルト等の重炭化水素を予熱器4で予熱し、同時に(1)式の反応に必要なO_(2)量よりも多くのO_(2)をプレチヤンバー部2に吹込み反応温度を1000°?1100℃に保持した。」(第2頁左下欄第10行?右下欄第3行)

(d4)第1図(第4頁下段)




第5 当審の判断

1.引用例1に記載された発明
上記引用例1には、「水分添加によりエマルジョン化して粘度を低下させたイオウ化合物含有超重質油を所定の温度まで加熱し、燃焼系統の直前で前記所定の温度まで加熱された前記超重質油から水分を除去し、水分を除去された状態の前記超重質油を前記燃焼系統に供給する」「超重質油の燃焼方法」が記載され(上記第4の1.の摘示(a1)参照。)、当該「水分添加によりエマルジョン化して粘度を低下させたイオウ化合物含有超重質油」が「オリマルジョン」等である点(摘示(a4)及び(a5)参照。)及び「水分を除去」する方法として「エレクトロスタティック型」「デハイドレータ」中で「電界を加えることにより、オリマルジョンをオリノコタール成分と水分とに分離して水分を除去するものである」点(摘示(a5)参照。)もそれぞれ記載されている。
なお、当該「オリノコタール成分」は、当該燃焼方法における「燃料成分」であることが自明である。
また、当該「水分」の「除去」が、超重質油の燃焼の際の「無駄なエネルギー消費」の防止を目的として行われることも記載されている(摘示(a3)、(a4)及び(a6)参照。)。
したがって、上記第4の1.の(a1)ないし(a6)の摘示事項からみて、上記引用例1には、
「水分添加によりエマルジョン化して粘度の低下された超重質油を燃焼させる燃焼方法において、前記水分添加によりエマルジョン化して粘度の低下された超重質油を所定温度に加熱した後、燃焼系統に供給する直前で水分と燃料成分とに分離させ水分を除去して得られる燃料成分を燃焼系統に供給して燃焼させる燃焼方法」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2.対比・検討

(1)対比
本願発明と上記引用発明とを比較すると、引用発明における「水分添加によりエマルジョン化して粘度の低下された超重質油」、「水分」及び「燃料成分」は、それぞれ、本願発明における「水分を含み粘度の低下された液状燃料」、「水層」及び「燃料層」に相当する。
また、引用発明における「水分添加によりエマルジョン化して粘度の低下された超重質油を所定温度に加熱した後、燃焼系統に供給する直前で水分と燃料成分とに分離させ水分を除去して得られる燃料成分」は、超重質油につき熱交換器で150?200℃まで加熱された上でデハイドレータで電界を印加し水分を分離して除去して燃料成分を得ているものであり(上記摘示(a5)参照。)、水分と燃料成分とを分離させ液液分離して燃料成分を得ていることが明らかであるから、本願発明における「液状燃料を所定温度に加熱して水層と燃料層とに分離させ、・・液液分離して得られる燃料層」に相当する。
さらに、引用発明における「燃焼させる」は、燃料を酸素により酸化することを意味することが当業者に自明であるから、本願発明における「液状燃料を酸素により・・酸化して」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「水分を含み粘度の低下された液状燃料を酸素により酸化する方法において、前記液状燃料を所定温度に加熱して水層と燃料層とに分離させ、酸化処理の直前の段階で液液分離して得られる燃料層を酸素により酸化することを特徴とする方法」
に係る点で一致し、下記の2点でのみ相違している。

相違点1:本願発明では、「燃料を酸素で部分酸化」するのに対して、引用発明では、「燃料成分を燃焼系統に供給して燃焼させる」点

相違点2:本願発明は、「液状燃料を酸素により部分酸化してガス化するガス化燃料の製造方法」に係るのに対して、引用発明は、「燃料成分を燃焼系統に供給して燃焼させる燃焼方法」である点

(2)検討

ア.上記相違点1及び2について
上記相違点1及び2につき併せて検討すると、上記引用例2(摘示(b1)、(b2)及び(b4)参照。)、周知例1及び周知例2にもそれぞれ記載されているとおり、オリマルジョン、アスファルトないし蒸留残渣油などの(超)重質油を(ガス発生)炉などの高温反応装置に供給し酸素あるいは空気などの酸化性ガスの存在下で部分酸化し、水素あるいは一酸化炭素などを含有する燃料ガスを製造することは、本願出願前の当業界の周知技術であり、また、周知例1又は2に記載されているとおり、アスファルトなどの水分を特に含有しない(超)重質油を予熱して(ガス発生)炉などの高温反応装置に供給し部分酸化して燃料ガスを得ることも、本願出願前の当業界の周知技術である。
さらに、上記引用例2(摘示(b3)参照。)にも記載されているとおり、燃料を炉などの高温反応装置で酸素などの酸化性ガスの存在下酸化するにあたって、酸化性ガスの存在量比を調節することにより、「燃焼(酸化処理)」及び「ガス化(部分酸化処理)」のいずれをも可能であることも、少なくとも公知の技術であるものといえる。
してみると、水分添加によりエマルジョン化して粘度の低下された超重質油を燃焼させる燃焼方法に係る引用発明において、当業者が所望により水分を含み粘度の低下された液状燃料から燃料ガスを得ようと意図した場合に、上記当業界の周知技術及び公知技術に基づき、処理の際の酸化性ガスの存在量比を調節し、酸化処理である「燃焼」に代えて部分酸化処理を行うことをもって、ガス化燃料の製造方法を構成することは、当業者が適宜なし得ることであるか、少なくとも容易になし得ることである。

イ.本願発明の効果について
さらに、本願発明の効果につき検討すると、上記1.で示したとおり、引用発明においても、水分添加によりエマルジョン化して粘度の低下された超重質油に係る燃焼系統に供給される前の水分除去が、超重質油の燃焼の際の「無駄なエネルギー消費」の低減化・防止を目的として行われることが記載されており、さらに、高温反応装置に供給される燃料の水分が除去されている場合、反応装置から排出されるガスの水分含有量が減少されているであろうことは当業者に自明であるから、引用発明に上記当業界の周知技術及び公知技術知識を組み合わせた場合、ガス化炉などの装置における「無駄なエネルギー消費」の防止ができ、さらに反応装置から排出されるガスの水分含有量が減少されているであろうことは、当業者が予期し得ることといえる。
したがって、本願発明が、上記引用発明及び当業界周知の技術ないし公知技術知識を組み合わせた場合に比して、当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏しているものではない。

ウ.小括
したがって、本願発明は、上記引用発明及び当業界周知の技術ないし公知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 審判請求人の意見・主張について

審判請求人は、上記平成19年6月20日付け手続補正書(審判請求理由補充書)において、
「確かに、審査官殿のご指摘の通り、引例1は、イオウ化合物含有超重質油の脱硫方法に関し、水分添加により粘度の低下された液状燃料を加熱して水層と燃料層とに分離する方法が記載され、分離した液状成分をそのままボイラーに供給して、空気予熱器から送られる高温空気で燃焼し、発生した排煙を脱硝装置、空気予熱器、電気集塵器を通過して湿式排煙脱硫装置に導かれることで、排煙処理温度が従来法より低下し、SO_(2)の吸収効率が良くなるという発明でありますが、しかしながら、液状燃料を部分酸化してガス燃料とすることについては、全く記載されていないだけでなく、示唆すらされていません。
また、引例2に記載された発明は、石油蒸留残渣、アスファルト等の超重質油ガス炉より排出するチャーの処理法に関し、空気比を調節して、チャーを燃焼(酸化)又はガス化(部分燃焼)の何れかさせ、燃焼した排ガスを水浴に通すことによって、排ガス中に含まれる重金属を取り除くためのガス化装置に関する発明です。
確かに審査官殿のご指摘通り引例2には燃料層の燃料を部分酸化してガス化(引例2の特許請求の範囲)するとご指摘がありますが、燃料は残渣のチャーとの空気比を変えて、燃焼か部分酸化のいずれか一歩を行わせる炉であり、燃料に水を加える、燃料から水分を分離するという記載は全くありません。
よって、予め水を添加した超重質油から水分を除去して、脱硫効率をあげるため、引例1に記載の超重質油の燃焼脱硫方法という発明においては、水分と分離した液体燃料の熱分解は行っておらず、液体燃料を燃焼した排ガス中のイオウ除去が目的であり。引例2に記載の、投入燃料の重量の数%?10%以下の残渣であるチャーの処理では、水分に関しての記載はなく、空気比を変えて燃焼及びガス化のいずれか一方を行う炉とその後流域に設けた排ガスを通過する水浴を有する超重質油ガス化装置という発明は、残渣であるチャーの処理装置であり、 したがって、本件特許出願の請求項1に記載の発明は、引例1から引例2に記載された発明より、当業者といえども容易に想到し得るものではないと思料致します。」
と主張している(「3.本願発明と引例との対比」の欄)。
そこで、上記審判請求人主張の点について以下検討する。
審判請求人は、上記引用例2(引例2)に係る発明につき「石油蒸留残渣、アスファルト等の超重質油ガス炉より排出するチャーの処理法に関し、空気比を調節して、チャーを燃焼(酸化)又はガス化(部分燃焼)の何れかさせ、燃焼した排ガスを水浴に通すことによって、排ガス中に含まれる重金属を取り除くためのガス化装置に関する発明」であり、前審審査官が指摘した「燃料層の燃料を部分酸化してガス化(引例2の特許請求の範囲)する」ものではなく、「燃料は残渣のチャーとの空気比を変えて、燃焼か部分酸化のいずれか一歩を行わせる炉であ」ると主張しているものと解される。
しかしながら、引用例2の図面の記載により説明すると、引用例2に記載された発明は、超重質油10と酸化剤(空気又は酸素)11をガス化炉本体1に供給し、超重質油を部分酸化してガス化し、生成したガスを熱交換器2を介してポーラスフィルタ3に送ってチャーなどの固形物を除去して濾別されたガスをガス化ガスライン15に送ることを主要な構成とするガス化方法に係るものとみるのが自然である。
してみると、審判請求人の上記引用例2に係る発明についての認定・主張は、明らかに根拠を欠くものであって、当を得ないものである。
また、引用発明(引例1に記載の発明)については、上記第5の1.で示したとおり、「水分により粘度が低下された超重質油の燃焼方法」に係るものであり、さらに「水分の除去」につき、ボイラにおける燃焼を可能とし無駄なエネルギー消費を低減することも意図するのである(上記摘示(a6)など参照。)。
してみると、審判請求人の上記引例1に記載の発明に係る認定・主張についても、当を得ないものである。
したがって、審判請求人の上記主張は、いずれも論拠を欠き採用する余地がないものであって、当審の上記判断を左右するものではない。

第7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び当業界周知の技術ないし公知技術知識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-08 
結審通知日 2010-03-09 
審決日 2010-03-23 
出願番号 特願平8-25067
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
発明の名称 水分の低減されたガス化燃料の製造方法  
代理人 酒井 宏明  
代理人 田中 重光  
代理人 石川 新  

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