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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H03G 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H03G |
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管理番号 | 1216056 |
審判番号 | 不服2007-9993 |
総通号数 | 126 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-04-09 |
確定日 | 2010-05-06 |
事件の表示 | 特願2003-110899「差動出力型バーストモード光受信機」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月 7日出願公開、特開2003-318680〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成15年4月15日(パリ条約による優先権主張2002年4月15日、大韓民国)の出願であって、平成17年10月31日付けで拒絶理由通知がなされ、平成18年5月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年5月9日に審判請求書の「請求の理由」を補正した手続補正書(方式)及び手続補正書が提出されたものであって、「差動出力型バーストモード光受信機」に関するものと認める。 2.原査定の理由及び請求人の主張 2-1.平成17年10月31日付けの拒絶理由通知 平成17年10月31日付けで審査官が通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。 「この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。また、この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。 記 次のa?eのとおりであるから、請求項1?5に係る発明は明確でなく、発明の詳細な説明に記載したものでもない。また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。 a.(略) b.(略) c.請求項1?5に係る発明における「自動利得制御部」、発明の実施の形態における「AGC部140」とは如何なるものであるのかが不明である。 ・・・(中略)・・・ 「自動利得制御部」に関し、請求項1には「前記前置増幅器からの出力信号に歪みが発生しないように前記最低値レベルからの出力信号の利得を自動的に調節する」と記載されているが、その技術内容が不明である。 第0026段落には「通常は最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される時に、その信号の最低レベルで歪み始める。これにより、本発明の一実施例では、自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点で、AGC140の動作が始まるように構成されている。」と記載されているが、「通常は最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される時に、その信号の最低レベルで歪み始める。」、「TIA110の出力信号の歪み開始点」、「自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点で、AGC140の動作が始まる」の意味が不明であり、 また、図5のものにより、「自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点で、AGC140の動作が始まる」どいう動作ができるのかも不明である。 ・・・(中略)・・・ d.請求項1?5に係る発明における「差動バッファ」、発明の実施の形態における「差動バッファ150」とは如何なるものであるのかが不明である。 「差動バッファ」に関し、請求項1には「前記前置増幅部からの出力及び前記一対の抵抗器により発生された信号基準電圧を入力して前記最低値及び最高値レベル検出部から発生したオフセットを取り除く」と記載されているが、 発明の実施形態において、「前記最低値及び最高値レベル検出部から発生したオフセット」の意味が説明されておらず、また、その「前記最低値及び最高値レベル検出部から発生したオフセット」をどのようにして取り除くのかが具体的に説明されていない。 ・・・(中略)・・・ 請求項5の記載では、「オフセット調節装置」とはどのようなものであるのかが不明確であり、発明の実施の形態では、「オフセット調節装置252」の回路構成は記載されているものの、「オフセット調節装置252」の動作説明が何等記載されていない。 e.(略)」 2-2.平成18年5月8日に提出された意見書における請求人の主張 上記拒絶理由の通知に対し請求人が平成18年5月8日に手続補正書とともに提出した意見書における主張の概要は、次のとおりのものである。 「1)拒絶理由について 審査官殿は、本願発明の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていないと認定しており、その理由として理由a?eが挙げられております。そこで、以下に、理由a?eに対し、意見を述べます。 1-1)拒絶理由bについて (略) 1-2)拒絶理由cについて 審査官殿は、本願発明の特許請求の範囲及び発明の実施の形態において、「自動利得制御部」及び「AGC部140」が如何なるものか不明である、と認定しています。 しかしながら、本願発明の段落0025には「最低値レベル検出部120で検出された最低値電圧レベルは、AGC140に出力され、これに応答してAGC140は、AGC制御信号を発生する。」と記載されており、最低値レベル検出部120が、TIA110から出力される信号を検出し、最低値電圧レベル(図4のV_BOT)をAGC140に出力します。そして、段落0026には「信号有無判断部142は、トランジスタQ1のベースに入力される最低値レベルを分析して信号の存在の有無を判断する。」と記載されていることから、最低値レベル検出部120から出力された最低値電圧レベル(図4のV_BOT)がAGC140のトランジスタQ1に入力されることが明白であると思料致します。 次に、当該段落0025には、「最低値レベル検出部120で検出された最低値電圧レベルは、AGC(automatic gain controller)140に出力され、これに応答してAGC140は、AGC制御信号を発生する。入力電流レベルが-31dBmから-16dBmまでの範囲を超えると、出力に信号歪み現象が発生する。そして、AGC140は信号歪みを防止するように動作をする。」と記載されております。 すなわち、AGC140の従来技術における機能と、本願発明の図4(AGC140とTIA110との接続関係)及び図5(AGC制御信号生成の旨の記載)から、 本願発明のAGC140は、最低値レベル検出部120から入力される最低値電圧レベルに応答してTIA110の利得を調節するためのAGC制御信号(段落0026参照)を当該TIA110に出力するように動作することが明白であると思料致します。 そして、段落0026には「通常は最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される時に、その信号の最低レベルで歪み始める。」と記載され、段落0025には「入力電流レベルが-31dBmから-16dBmまでの範囲を超えると、出力に信号歪み現象が発生する。」と記載されております。 従いまして、最低値レベル検出部120に入力される前置増幅器110からの出力信号は、当該TIA110によって増幅される際に、その出力信号の最低レベルで信号歪みが発生しますので、最低値レベル検出部120により出力された最低値電圧レベルに応答して当該AGC140が自動的に動作することが理解できます。 このように、本願発明の明細書には、上述のように自動利得制御部(AGC140)が如何なるものであるかを、当業者にとって理解できる程度に十分に記載されているものと思料致します。 ・・・(中略)・・・ 1-3)拒絶理由dについて 審査官殿は、本願発明の特許請求の範囲及び発明の実施の形態において、「差動バッファ」及び「差動バッファ150」が如何なるものか不明である、と認定しています。 そこで、本願発明の差動バッファ150及びオフセット調節装置について、以下に説明します。 まず、本願発明の「差動増幅器」は、段落0032に記載されているように、トランジスタQ1とQ2とが差動増幅器を形成しています。また、本願発明の「複数の抵抗器」は、図6に記載された抵抗器230、232、234、236を示しており、段落0032に記載されているように、これらの抵抗器によりオフセット調節装置252が構成されています。 そして、本願発明の図6に示すように、トランジスタQ1及びQ2(差動増幅器)に電流が流れると(前置増幅部からの出力信号及び信号基準電圧信号を受信すると)、抵抗器226、228の電圧降下が直ちに図6の示したoutput1とoutput2に影響を与えるようになります。 例えば、トランジスタQ1のベースとトランジスタQ2のベースに入ってくる信号間にオフセットが存在すると、抵抗器226と抵抗器228に流れる電流の量が異なるので、電圧降下も異なります。このような状態となると、出力output1とoutput2とは、相互に負荷サイクルが正確に50%にはなりません。 このため、これを最小化するために、抵抗器230、232、234、236で構成されたオフセット調節装置を用いて、オフセット電圧差が減るようにしています。 例えば、オフセットによる電流の差が100mAである場合、それによる電圧降下が500mVであれば、オフセット調節装置の抵抗器により一定部分の電流が抵抗として消耗され、50mAになると、電圧降下は250mVに減るようになります。従って、二つの出力output1とoutput2のオフセット電圧差が減るようになります。 上述のように、本願発明の「差動バッファ」は、図6に記載された回路図から、その構成及び動作について理解できるものと思料致します。 1-4)拒絶理由eについて (略)」 2-3.平成18年12月28日付けの拒絶査定 上記意見書の主張を踏まえた上での審査官の平成18年12月28日付けの拒絶査定の概要は、次のとおりのものである。 「この出願については、平成17年10月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。 なお、意見書手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。 備 考 拒絶理由通知において指摘されたc?eの点の不備が依然として解消されていない。 cの点について 補正後の請求項1?5に係る発明における「自動利得制御部」、発明の実施の形態における「AGC部140」とは如何なるものであるのかが、依然として不明である。 図5に関する説明が、依然として全般的に不明確である。 図5のものがどのような動作をして図5のものからどのような信号が出力されるのかが、依然として不明である。 本願明細書、意見書の何れにおいても、図5に関し、説明が記載されているのは、「トランジスタQ1」、「トランジスタQ2」、「信号有無判定部」、「トランジスタQ6」、「トランジスタQ7」、「トランジスタQ8」に関する部分にすぎず、他の部分については、説明が記載されていない。 また、第0026段落には「通常は最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される時に、その信号の最低レベルで歪み始める。これにより、本発明の一実施例では、自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点で、AGC140の動作が始まるように構成されている。」と記載されているが、「通常は最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される時に、その信号の最低レベルで歪み始める。」、「TIA110の出力信号の歪み開始点」、「自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点で、AGC140の動作が始まる」の意味は、意見書の内容を参酌しても依然として不明である。 ・・・(中略)・・・ dの点について 補正後の請求項1?5に係る発明における「差動バッファ」、発明の実施の形 態における「差動バッファ150」とは如何なるものであるのかが、依然として 不明である。 「差動バッファ」に関し、補正後の請求項1には「前記前置増幅部からの出力信号及び前記一対の抵抗器により発生された信号基準電圧が入力され、前記最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部において発生したオフセットを取り除く差動バッファ」と記載されているが、 発明の実施形態において、「前記最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部において発生したオフセット」の意味が、依然として説明されておらず、また、その「前記最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部において発生したオフセット」をどのようにして取り除くのかが、依然として具体的に説明されていない。 補正後の請求項5の記載では、「オフセット調節装置」とはどのようなものであるのかが、依然として不明確であり、発明の実施の形態では、「オフセット調節装置252」の回路構成は記載されているものの、「オフセット調節装置252」の動作説明が、依然として何等記載されていない。 意見書におけるdの点に関する説明の内容は、「トランジスタQ1のベースに入ってくる信号とトランジスタQ2のベースに入ってくる信号間にオフセットが存在するとき」に「出力output1とoutput2のオフセット電圧差」を減らすことを説明したものであって、 補正後の請求項1に記載されている「前記最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部において発生したオフセットを取り除く」という事項、補正後の請求項5に記載されている「前記最低値レベル検出部と最高値レベル検出部から発生するオフセットエラーを減らす」という事項の説明であるとは認められない。 ・・・(中略)・・・ eの点について (略)」 2-4.平成19年4月9日に提出された審判請求書の「請求の理由」を補正した平成19年5月9日付け手続補正書(方式)における請求人の主張 上記拒絶査定に対して請求人が平成19年5月9日に手続補正書とともに提出した上記手続補正書(方式)における主張の概要は、次のとおりのものである。 「3.補正事項 (1)特許請求の範囲の補正について 平成18年5月8日付提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲に対して補正を行い、補正後の請求項1に係る発明は、 「差動出力型バーストモード光受信機であって、 バーストモード信号を示す電流を電圧信号に変換する前置増幅部と、 前記前置増幅部からの出力信号の最低値レベル電圧を検出する最低値レベル検出部と、 前記前置増幅部からの出力信号の最高値レベル電圧を検出する最高値レベル検出部と、 前記最低値レベル検出部に接続され、前記最低値レベル検出部から入力された前記最低値レベル電圧に応答して前記前置増幅部から出力される出力信号の利得を調節するためのAGC制御信号を該前置増幅部に出力する自動利得制御部と、 前記最低値レベル検出部と前記最高値レベル検出部にそれぞれその一端が接続され、他端が互いに接続されて信号基準電圧を発生する一対の抵抗器と、 前記前置増幅部からの出力信号及び前記一対の抵抗器により発生された信号基準電圧が入力され、前記最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部で発生した前記信号基準電圧とのオフセットを取り除く差動バッファと、からなることを特徴とする差動出力型バーストモード光受信機。」であります(下線部は、補正箇所を示す)。 また、平成18年5月8日付提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲における請求項3及び4を削除し、請求項5(補正後の請求項3)を補正しました。 (2)その他の補正事項について 本願発明の図面における図7を補正しました。その他に、特許請求の範囲の補正事項に鑑みた補正を行っております。 (3)補正の根拠について 補正後の請求項1の補正事項は、出願当初の明細書の段落0025、0026、図4、並びに、段落0030から0032、図6に基づくものである。 また、補正後の請求項3の補正事項は、段落0032、図6に基づくものである。 また、段落0026の補正事項は、出願当初の明細書の段落0025及び0026に基づくものである。 4.各拒絶理由c、d、及びeについて 1)拒絶理由c 当該拒絶理由では、図5に関する説明が依然として全般的に不足であることから、本願発明の特許請求の範囲及び発明の実施の形態における「自動利得制御部(AGC部140)」が如何なるものか不明であると認定していますが、当該認定は、以下の通り、誤りであると思料致します。 すなわち、本願発明の段落0025には「最低値レベル検出部120で検出された最低値電圧レベルは、AGC140に出力され、これに応答してAGC140は、AGC制御信号を発生する。」と明記されており、当業者であれば、「自動利得制御部(AGC部140)」が如何なるものか明白であると思料致します。 より具体的に説明すると、本願発明の段落0025以下に記載されているように、自動利得制御部は、最低値レベル検出部から入力された最低値レベル電圧に応答して前置増幅部から出力される出力信号の利得を調節するためのAGC制御信号を前置増幅部に出力するのであり、従来のAGC回路と異なる特殊なAGC制御信号を出力することを明示していません。言い換えれば、従来のAGC回路と異なる特殊な構成である旨が明示されていない以上、当業者の技術水準及び従来技術に基づいて、本願発明の段落0025以下及び図5の説明から、本願発明の自動利得制御部に従来のAGC回路を適用させて理解することができ、その機能を技術的に把握することができます。 例えば、特開平08-307362号公報、特開平10-303820号公報、及び特開平11-331095号公報に記載されている従来技術及び当業者の技術水準に基づいて、当業者であれば本願発明の自動利得制御部を明白であるものと思料致します。 従いまして、図5に関する説明が依然として全般的に不足であることを理由に、本願発明の自動利得制御部が如何なるものであるかとする認定は、誤りであり、また、本願発明の図5の説明及び平成18年5月8日付提出の意見書の説明において、「トランジスタQ1」、「トランジスタQ2」、「信号有無判定部」、「トランジスタQ6」、「トランジスタQ7」、「トランジスタQ8」に関する部分以外の説明がないために、本願発明の自動利得制御部が如何なるものであるか不明であるとすることはできないとする認定はできないものと思料致します。 このように、本願発明の自動利得制御部(AGC140)が如何なるものであるかを、十分に理解できるものと思料致します。 また、当該拒絶理由では、自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点で、AGC140の動作が始まる」の意味が不明であると指摘していますが、本書と同日付けで提出した手続補正書による段落0025及び段落0026の補正により、解消したものと思料致します。 2)拒絶理由dについて 本書と同日付けで提出した手続補正書による補正により、本願発明の差動バッファにおける「最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部において発生したオフセット」の意味を明確にしました。 すなわち、本願発明の差動バッファは、前置増幅部からの出力信号及び一対の抵抗器により発生された信号基準電圧が入力され、最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部で発生した信号基準電圧とのオフセットを取り除く動作を遂行します。 この本願発明の差動バッファの動作は、図4に示すように、差動バッファ150に、TIA110の出力信号と一対の抵抗器によって発生した信号基準電圧(Sig_Ref)が入力される点、及び段落0030から0032の記載に基づくものです。 従いまして、本願発明の差動バッファが如何なるものであるかが明確となり、本願発明のオフセット調節装置252が、平成18年5月8日付提出の意見書において説明した動作を行うことが、当業者であれば十分に理解できるものと思料致します。 すなわち、本願発明の「差動増幅器」は、段落0032に記載されているように、トランジスタQ1とQ2とが差動増幅器を形成しています。また、本願発明の「複数の抵抗器」は、図6に記載された抵抗器230、232、234、236を示しており、段落0032に記載されているように、これらの抵抗器によりオフセット調節装置252が構成されています。 そして、本願発明の図6に示すように、トランジスタQ1及びQ2(差動増幅器)に電流が流れると(前置増幅部からの出力信号及び信号基準電圧信号を受信すると)、抵抗器226、228の電圧降下が直ちに図6の示したoutput1とoutput2に影響を与えるようになります。 例えば、トランジスタQ1のベースとトランジスタQ2のベースに入ってくる信号間にオフセット(最低値レベル検出部(最高値レベル検出部)で発生した出力信号と信号基準電圧とのオフセット)が存在すると、抵抗器226と抵抗器228に流れる電流の量が異なるので、電圧降下も異なります。このような状態となると、出力output1とoutput2とは、相互に負荷サイクルが正確に50%にはなりません。 このため、これを最小化するために、抵抗器230、232、234、236で構成されたオフセット調節装置を用いて、オフセット電圧差が減るようにしています。 例えば、オフセットによる電流の差が100mAである場合、それによる電圧降下が500mVであれば、オフセット調節装置の抵抗器により一定部分の電流が抵抗として消耗され、50mAになると、電圧降下は250mVに減るようになります。従って、二つの出力output1とoutput2のオフセット電圧差が減るようになります。 ・・・(中略)・・・ 3)拒絶理由eについて (略)」 3.当審の判断 3-1.拒絶理由cについて 請求人は、原審で通知した上記拒絶理由cに対して、上記「2-4.4.1)」において、「本願発明の段落0025には「最低値レベル検出部120で検出された最低値電圧レベルは、AGC140に出力され、これに応答してAGC140は、AGC制御信号を発生する。」と明記されており、当業者であれば、「自動利得制御部(AGC部140)」が如何なるものか明白であると思料致します。」と述べるとともに、「自動利得制御部は、最低値レベル検出部から入力された最低値レベル電圧に応答して前置増幅部から出力される出力信号の利得を調節するためのAGC制御信号を前置増幅部に出力するのであり、従来のAGC回路と異なる特殊なAGC制御信号を出力することを明示していません。言い換えれば、従来のAGC回路と異なる特殊な構成である旨が明示されていない以上、当業者の技術水準及び従来技術に基づいて、本願発明の段落0025以下及び図5の説明から、本願発明の自動利得制御部に従来のAGC回路を適用させて理解することができ、その機能を技術的に把握することができます。」と述べ、その根拠として、「例えば、特開平08-307362号公報、特開平10-303820号公報、及び特開平11-331095号公報に記載されている従来技術及び当業者の技術水準に基づいて、当業者であれば本願発明の自動利得制御部を明白であるものと思料致します。」と述べている。 しかしながら、上記「特開平08-307362号公報」には、図3の従来例に関して、「【0007】AGC制御回路34は、AGC増幅器33から出力される信号の振幅が、一定の値となるように、AGC増幅器33の利得を制御するとともに、制御信号選択回路36に対して、所定レベルの制御信号を出力する。また、AGC増幅器33の利得が最大となった場合には、その利得を最大値に維持するとともに、制御信号選択回路36に対して出力する制御信号のレベルを変更する。」と記載され、図1の実施例に関して、「【0019】AGC制御回路14は、AGC増幅器13から出力される信号の振幅がある一定の値となるように、AGC増幅器13の利得あるいはAPD11の増倍率を制御する回路である。AGC制御回路14は、AGC増幅器13の利得制御によって出力振幅を一定値にできる場合には、APD11の増倍率が所定の増倍率となるような制御信号をバイアス制御回路16に対して出力するとともに、AGC増幅器13の利得制御を行う。また、AGC増幅器13の利得が最大となった場合には、AGC増幅器13の利得を最大利得に維持し、出力する制御信号のレベルを変更することによって、APD11の増倍率を調整し、AGC増幅器13からの出力信号の振幅の一定化を図る。」と記載されているものの、「最低値レベル検出部から入力された最低値レベル電圧に応答して前置増幅部から出力される出力信号の利得を調節するためのAGC制御信号」を前置増幅部に出力するような自動利得制御部が記載されているとは認められない。 また、上記「特開平10-303820号公報」には、図2の従来例に関して、「【0004】また、AGC増幅器(7)は、入力される信号のレベルを検出し、APDバイアス回路(5)にその信号(帰還信号)を出力する。APDバイアス回路(5)は、前記AGC増幅器(7)からの帰還信号によりAPD(2)に加わるバイアス電圧を調整する。 【0005】AGC増幅器(7)に入力される信号レベルが小さくデータ識別に最適な振幅にまで増幅するのにゲインが不十分であるときは、APD(2)のバイアス電圧を大きくすることでAPD(2)の増倍率を増加させ、データ識別に十分な振幅が得られるまでAGC増幅器(7)に入力されるレべルを大きくする。反対にAGC増幅器(7)に入力されるレベルが大きすぎて、データ識別に最適な振幅にするのにゲインを調整できないとき、APD(2)に加わるバイアス電圧を小さくすることでAPD(2)の増倍率を下げ、調整可能なレベルの信号がAGC増幅器(7)に入力されるようにする。」と記載されているものの、この記載における「AGC増幅器(7)に入力される信号レベルが小さ」いことを検出することは、「最低値レベル電圧」を検出することには該当せず、上記記載において、「最低値レベル電圧」に応答して「前置増幅部」に対する「AGC制御信号」を発生させるともされていない。 さらに、上記「特開平10-303820号公報」には、図1の実施例に関して、「【0017】すなわち、APD(2)を破損する可能性のある過大なもしくは過小な光信号が入力された場合は、レベル検出器(4)はHighレベル信号を出力する。破損する可能性がない信号が入力された場合はLowレベル信号を出力する。 【0018】APDバイアス回路(5)は、レベル検出器(4)からの信号がHighレベルである時は、あらかじめ設定されているAPD(2)を破損しないバイアス電圧をAPD(2)に加えるように制御され、逆にLowレベル信号である時は、AGC増幅器(7)からの帰還信号により入力レベルに応じてバイアス電圧を調整するように制御される。」とも記載されているが、この記載における「レベル検出器(4)」も「最低値レベル電圧」を検出するものではなく、上記記載から、「最低値レベル電圧」に応答して「前置増幅部」に対する「AGC制御信号」を発生させる動作を行うことも読み取れない。 そして、上記「特開平11-331095号公報」には、「AGC制御信号」を発生させる動作に関連する記述は全く見当たらず、やはり、「最低値レベル検出部から入力された最低値レベル電圧に応答して前置増幅部から出力される出力信号の利得を調節するためのAGC制御信号を前置増幅部に出力するような自動利得制御部」が記載されているとは認められない。 以上のように、本願発明の「自動利得制御部」が、請求人の例示する従来技術に基づいて明白であるとすることはできない。 そこで、平成19年5月9日付け手続補正書により補正された段落【0025】、【0026】の記載から、本願発明の「自動利得制御部(AGC部140)」が明白に把握することができるか否かについて、以下に検討する。 上記段落【0025】、【0026】の記載は、次のようなものである。 「【0025】 最低値レベル検出部120は、TIA110から出力される信号の最低値電圧レベルを検出し、最高値レベル検出部130は、TIA110から出力される信号の最高値電圧レベルを検出する。最低値レベル検出部120で検出された最低値電圧レベルは、AGC(automatic gain controller)140に出力され、これに応答してAGC140は、TIA110の利得を調節するためのAGC制御信号を発生させ、このAGC制御信号をTIA110に出力する。 【0026】 図5は、本発明の一実施形態による差動出力型バーストモード光受信機のAGC140の詳細回路図を示す。図5に示したように、AGC140は、TIA110から出力された信号の最低値レベルがトランジスタQ1、Q2をターンオフさせると、TIA110の利得を調節するためのAGC制御信号を発生するように構成されている。また、AGC制御信号は、入力信号の変動により発生するが、例えば、AGC制御信号を低い入力信号レベルでは発生しないように構成することができる。つまり、通常、最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される際に、その信号の最低レベルで歪み始めるが、本実施形態では、この信号の歪みを利用し、自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点でAGC140の動作が始まるように構成し、当該AGC140が、信号の歪みを防止するように動作をする。具体的には、入力電流レベルが-31dBmから-16dBmまでの範囲を超えると、出力に信号歪み現象が発生するので、この入力電流レベルの範囲でAGC制御信号を発生させるように構成する。このように、本発明の一実施例では、自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点で、AGC140の動作が始まるように構成されている。すなわち、AGC140は、入力信号のレベルに応じて利得特性を補償する。このためにAGC140は、抵抗器R3、トランジスタQ3、Q4及びQ5から構成される信号有無判断部142を含んでいる。信号有無判断部142は、トランジスタQ1のベースに入力される最低値レベルを分析して信号の存在の有無を判断する。」 上記段落【0026】の記載において、「また、AGC制御信号は、入力信号の変動により発生するが、例えば、AGC制御信号を低い入力信号レベルでは発生しないように構成することができる。つまり、通常、最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される際に、その信号の最低レベルで歪み始めるが、本実施形態では、この信号の歪みを利用し、自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点でAGC140の動作が始まるように構成し、当該AGC140が、信号の歪みを防止するように動作をする。」とあるが、「例えば、AGC制御信号を低い入力信号レベルでは発生しないように構成することができる。」との記載を解釈すると、「AGC制御信号」が「高い入力信号レベル」のときに発生するように構成するということであり、このことと「通常、最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される際に、その信号の最低レベルで歪み始める」ことの関係が明確に示されていないことから、その意味するところが不明であり、さらには、「本実施形態では、この信号の歪みを利用し」との記載の「歪みを利用し」とは、どのように利用することなのかが不明であり、結局、上記記載全体の意味するところが不明である。 また、「具体的には、入力電流レベルが-31dBmから-16dBmまでの範囲を超える」との記載が意味するところは、例えば、入力電流レベルが「-32dBm」というように下側に超える場合も、「-15dBm」というように上側に超える場合も含むものと解されるところ、このことと「最低レベルで歪み始める」ことの関係が不明であり、結局、「TIA110の出力信号の歪み開始点」とは、どのような時点をさすのかが不明である。 以上のとおり、本願発明の「自動利得制御部」は、請求人の例示する従来技術、あるいは平成19年5月9日付け手続補正書により補正された段落【0025】、【0026】の記載のいずれを見ても、明白に把握することはできず、補正後の請求項1における「自動利得制御部」の「前記最低値レベル検出部から入力された前記最低値レベル電圧に応答して前記前置増幅部から出力される出力信号の利得を調節するためのAGC制御信号を該前置増幅部に出力する」ことの技術内容は依然として不明であり、かつ、補正後の段落【0026】に記載の「通常、最低値レベル検出部120に入力される信号は、TIA110によって増幅される際に、その信号の最低レベルで歪み始めるが、本実施形態では、この信号の歪みを利用し、自動的にTIA110の出力信号の歪み開始点でAGC140の動作が始まるように構成し、当該AGC140が、信号の歪みを防止するように動作をする。具体的には、入力電流レベルが-31dBmから-16dBmまでの範囲を超えると、出力に信号歪み現象が発生するので、この入力電流レベルの範囲でAGC制御信号を発生させるように構成する。」という技術内容が依然として不明であり、かつ、上記技術内容の動作を図5のものによって果たすことができるのかどうかが依然として不明である。 よって、原審で通知した上記拒絶理由cの点の不備は、依然として解消していない。 3-2.拒絶理由dについて 請求人は、原審で通知した上記拒絶理由dに対して、上記「2-4.4.2)」において、「本願発明の差動バッファは、前置増幅部からの出力信号及び一対の抵抗器により発生された信号基準電圧が入力され、最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部で発生した信号基準電圧とのオフセットを取り除く動作を遂行します。」と述べるとともに、「本願発明の「差動増幅器」は、段落0032に記載されているように、トランジスタQ1とQ2とが差動増幅器を形成しています。また、本願発明の「複数の抵抗器」は、図6に記載された抵抗器230、232、234、236を示しており、段落0032に記載されているように、これらの抵抗器によりオフセット調節装置252が構成されています。 そして、本願発明の図6に示すように、トランジスタQ1及びQ2(差動増幅器)に電流が流れると(前置増幅部からの出力信号及び信号基準電圧信号を受信すると)、抵抗器226、228の電圧降下が直ちに図6の示したoutput1とoutput2に影響を与えるようになります。 例えば、トランジスタQ1のベースとトランジスタQ2のベースに入ってくる信号間にオフセット(最低値レベル検出部(最高値レベル検出部)で発生した出力信号と信号基準電圧とのオフセット)が存在すると、抵抗器226と抵抗器228に流れる電流の量が異なるので、電圧降下も異なります。このような状態となると、出力output1とoutput2とは、相互に負荷サイクルが正確に50%にはなりません。 このため、これを最小化するために、抵抗器230、232、234、236で構成されたオフセット調節装置を用いて、オフセット電圧差が減るようにしています。 例えば、オフセットによる電流の差が100mAである場合、それによる電圧降下が500mVであれば、オフセット調節装置の抵抗器により一定部分の電流が抵抗として消耗され、50mAになると、電圧降下は250mVに減るようになります。従って、二つの出力output1とoutput2のオフセット電圧差が減るようになります。」と述べている。 (なお、上記「オフセットを取り除く動作」について、当審における前置審尋に対して平成21年2月9日付けで請求人から提出された回答書においては、「出願明細書の図4、図6及びそれに関する説明部分である段落「0030」?「0032」を参照しますと、本願発明の差動バッファは、前置増幅部からの出力信号及び、最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部で発生した信号基準電圧(Sig Ref)が入力され、上記入力された二つの信号間のオフセットエラーを低減するための動作を遂行することが分かります。」と述べている。) しかしながら、そもそも「前置増幅部からの出力信号」は、交流的に上下に振れる信号であり、緩やかに変化する直流的な電圧ではないから、「最低値レベル検出部」及び「最高値レベル検出部」から作られた「信号基準電圧」との間の「オフセット」を直ちに検出することができるとは言えず、該「オフセット」がどのような値であるかを検出することについて、本願の明細書及び図面の全体を見ても何ら記載されていない以上、「オフセット」がどのような値であるかはわからず、その「オフセット」を取り除くために抵抗器230、232、234、236をどのような値に設定すべきかは、本願の明細書及び図面の全体を見ても理解することができない。 しかも、「前置増幅部からの出力信号」と「信号基準電圧」との間の「オフセット」は、経年的に変化する値であると解され、そのような動的に変化する「オフセット」を、図6に示される固定抵抗230、232、234、236によって取り除くことができるのかどうかも不明である。 なお、上記請求人の主張において、「例えば、オフセットによる電流の差が100mAである場合、それによる電圧降下が500mVであれば、オフセット調節装置の抵抗器により一定部分の電流が抵抗として消耗され、50mAになると、電圧降下は250mVに減るようになります。従って、二つの出力output1とoutput2のオフセット電圧差が減るようになります。」と述べているが、本願の明細書及び図面の全体を見ても、「オフセットによる電流の差」をどのように検出して、またその検出した値をどのように用いて抵抗値の設定もしくは抵抗値の動的な制御を行うかが何ら記載されていない以上、上記のような作用効果が得られることの根拠が不明である。 以上のとおり、上記請求人の主張を参酌し、補正された段落【0031】、【0032】の記載を見ても、補正後の請求項1における「前記前置増幅部からの出力信号及び前記一対の抵抗器により発生された信号基準電圧が入力され、前記最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部で発生した前記信号基準電圧とのオフセットを取り除く差動バッファ」、及び、補正後の請求項3(出願当初の請求項5に対応するもの)における「前記差動増幅器に接続された複数の抵抗器を備え、前記最低値レベル検出部及び最高値レベル検出部で発生した前記信号基準電圧とのオフセットエラーを減少させるオフセット調節装置」を用いて、どのように「オフセット」を取り除くかが、依然として不明である。 よって、原審で通知した上記拒絶理由dの点の不備は、依然として解消していない。 4.むすび 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-11-25 |
結審通知日 | 2009-12-01 |
審決日 | 2009-12-14 |
出願番号 | 特願2003-110899(P2003-110899) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(H03G)
P 1 8・ 537- Z (H03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉村 博之、白井 孝治 |
特許庁審判長 |
長島 孝志 |
特許庁審判官 |
池田 聡史 飯田 清司 |
発明の名称 | 差動出力型バーストモード光受信機 |
代理人 | 岸田 正行 |
代理人 | 川上 成年 |
代理人 | 小川 英宣 |
代理人 | 水野 勝文 |