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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1216078
審判番号 不服2007-18172  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-29 
確定日 2010-05-06 
事件の表示 特願2001- 70961「キャラクタ型会話システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月20日出願公開、特開2002-269087〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年3月13日の出願であって、平成19年2月13日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月23日付けで手続補正がなされたが、同年5月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月30日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年7月30日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年7月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正内容
平成19年7月30日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)の内容は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「音声情報を取得して言語データを生成する音声認識手段及びワードスポット手段と文章データに基づいて音声による言語を出力させる発話手段とを有するコンピュータを用いてキャラクタ性のある会話をユーザと交わすシステムであって、
品詞情報、及び、時間、場所等、会話内容の結束性を維持するための属性情報等のフィールドカテゴリ毎に分類された多数の語彙を収め、連結可能な品詞同士の組み合わせ、連結可能な属性同士の組み合わせ等、前記語彙を組み合わせた際に意味を持つ文を生成させるための組み合わせの可否を決定する連結情報が記録された意味ネットワークデータベースと、
前記ユーザの発話音声及び前記ユーザによって入力された前記文章データのうち少なくとも何れか一方を単語単位に分割すると共に該分割された単語の前記属性情報に基づいて話題の方向性としてのトピックを判断し、確認型文、疑問型文、報告型文等の雛形を形成し所定箇所に名詞、動詞等の所定の品詞を埋め込むための空欄箇所が設けられた、複数種類の文型があらかじめリストとして用意され、前記トピックに適用可能な任意の前記文型に対し、前記意味ネットワークデータベースに蓄積された前記語彙のうち、前記任意の文型の前記トピックを形成する前記属性情報に関連性のある前記属性情報を有する前記フィールドカテゴリに収められた前記語彙であって文章形成に必要な名詞の前記語彙または動詞の前記語彙を取得して該取得した語彙を前記任意の文型の前記空欄箇所に埋め込んで自由文を生成するSDDモジュールと、
複数の個別トピックごとに情報深度が段階的に設定され、各段階の情報深度において複数の反応文が用意されて、前記ユーザの発話音声及び前記文章データのうち少なくとも何れか一方として入力された前記言語データを生成する単語同士の繋がり、及び、該単語における対象の人称、時間、場所、事象等、繋がりの方向性としての特定の前記トピックに基づいて前記繋がり及び前記トピックの方向性との一致確率が高い前記反応文の文生成を行わせて会話を展開する定型トピックモジュールと、
前記SDDモジュール又は前記定型トピックモジュールにおいて生成された前記自由文又は前記反応文に基づいて形成される回答文が要求する情報のタイプごとにカテゴライズされた複数のヒット語の情報、前記ヒット語を含む前記回答文の意味内容としての解釈情報、前記意味内容の前記回答文を発話した前記ユーザが会話相手に対して一般的に期待している回答内容としてのユーザ期待情報からなる情報群が複数蓄積されたヒット語リストテーブルを備え、前記自由文又は前記反応文に対する前記回答文の意味内容としての該回答文の繋がり、該回答文のトピックを抽出し、該抽出に基づいて前記ヒット語リストテーブルから対応する前記ヒット語を選択し出力することで、前記SDDモジュールと前記定型トピックモジュールとの間の談話的結束性を維持・管理しつつ、会話の連続展開を可能にする連接モジュールとを備えていることを特徴とするキャラクタ型会話システム。」
に補正することを含むものである。
なお、平成19年7月30日付け手続補正書における請求項1に付してあったアンダーラインについては、平成19年4月23日付け手続補正書における請求項1の記載からの補正箇所について、当審において付し直した。

以下、上記補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるかについて、検討する。

(1-1)「意味ネットワークデータベース」中の「時間、場所等、会話内容の結束性を維持するための属性情報」について

当初明細書等には、以下の記載がなされている。

A.「【0020】意味ネットワークデータベース10には、約5000語の語彙が発音・文法情報とともに登録され、名詞テーブルおよび述語テーブルを備えている。名詞テーブルに設けられるフィールドカテゴリには、ターゲット名詞、リンク名詞、上位概念、下位概念、連想語彙、述語、品詞情報、属性情報、等が含まれる。また、述語テーブルに設けられるフィールドカテゴリには、ターゲット述語、述語名詞、反義述語、リンク名詞、品詞情報、属性情報、等が含まれる。
【0021】この意味ネットワークデータベース10は、他のモジュール20?60を実行するうえできわめて重要な役割を果たす。すなわち、話題の展開・復帰・発展および結束性のある文の生成を実現するには、特定の統語制約を課す必要があるが、意味ネットワークデータベース10自体が語彙間におけるある程度の結束性を保持しているため、このキャラクタ型会話システム1の目的を実現するには最適の知識管理データベースである。
【0022】SDD(Speaker Driven Discourse)モジュール20は、このキャラクタ型会話システム1が自律性を確保するため、自発的にさまざまな話題を提供するとともに、ユーザの対応に応じて自由文を生成する機能を実現するものであり、そのため、人間の行う談話活動の発展パターン情報が記憶され、談話内における状況に応じて最適なパターンを選択し、そのパターンをもとに会話展開を行う機能を有している。
【0023】すなわち、SDDモジュール20は、以下に説明するように、日本語の談話文法における各特徴を最大限に活用し、最小限の談話制約条件をもって自律的談話機能を実現している。日本語の談話文法では、既知情報を省略し、文中に表出させないという特徴的な制約がある。つまり、トピックと聞き手が一旦定まったら、聞き手の名称やトピックを表出させる必要はない。例えば、
A:昨日は(君は)(君の)会社へ行った?
B:(僕は)(僕の会社へ)行ったよ。
A:(君の仕事は)疲れた?
B:まあまあ。
A:残業は(したのかい)?
B:ない。」

上記A.の記載において、上記段落【0021】には、「話題の展開・復帰・発展および結束性のある文の生成を実現するには、特定の統語制約を課す必要があるが、意味ネットワークデータベース10自体が語彙間におけるある程度の結束性を保持している」と記載されているものの、「意味ネットワークデータベース10自体」が保持している「語彙間におけるある程度の結束性」が、どの情報に基づいて維持されるのかについての記載はなされていない。
そして、上記段落【0020】には、「名詞テーブルに設けられるフィールドカテゴリには、・・・属性情報、等が含まれる。また、述語テーブルに設けられるフィールドカテゴリには、・・・属性情報、等が含まれる。」と記載されているが、この記載中の「属性情報」が、「語彙間におけるある程度の結束性」を維持するための情報であるとの記載はなされておらず、さらには、「会話内容の結束性を維持するための」情報であるとの記載もなされていない。
さらに、上記段落【0023】には、「昨日」という時間情報、「会社」という場所情報が含まれる会話例が示されているが、それらの情報が「語彙間におけるある程度の結束性」あるいは「会話内容の結束性」を維持するための「属性情報」であるとの説明はなされていない。
そして、当初明細書等の他のいずれの箇所を見ても、「属性情報」が「会話内容の結束性を維持するための」情報であることは、記載も示唆もされていない事項であり、また、このことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認められる。

したがって、「属性情報」が「時間、場所等、会話内容の結束性を維持するための」情報であるとする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

(1-2)「意味ネットワークデータベース」が「連結可能な品詞同士の組み合わせ、連結可能な属性同士の組み合わせ等、前記語彙を組み合わせた際に意味を持つ文を生成させるための組み合わせの可否を決定する連結情報が記録された」ものであることについて

上記A.の記載において、上記段落【0020】には、「意味ネットワークデータベース10には、約5000語の語彙が発音・文法情報とともに登録され、・・・」と記載され、上記段落【0021】には、「・・・すなわち、話題の展開・復帰・発展および結束性のある文の生成を実現するには、特定の統語制約を課す必要があるが、意味ネットワークデータベース10自体が語彙間におけるある程度の結束性を保持している・・・」と記載されているが、「意味ネットワークデータベース10」中に、「連結可能な品詞同士の組み合わせ、連結可能な属性同士の組み合わせ等、語彙を組み合わせた際に意味を持つ文を生成させるための組み合わせの可否を決定する連結情報」を記録するとの記載はなされていない。
さらに、上記段落【0023】には、会話例が示されているが、意味ネットワークデータベース中に上記連結情報を記録することとの関連性を説明するものではない。
そして、当初明細書等の他のいずれの箇所を見ても、「意味ネットワークデータベース」中に、「連結可能な品詞同士の組み合わせ、連結可能な属性同士の組み合わせ等、語彙を組み合わせた際に意味を持つ文を生成させるための組み合わせの可否を決定する連結情報」を記録することは、記載も示唆もされていない事項であり、また、このことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認められる。

したがって、「意味ネットワークデータベース」が「連結可能な品詞同士の組み合わせ、連結可能な属性同士の組み合わせ等、前記語彙を組み合わせた際に意味を持つ文を生成させるための組み合わせの可否を決定する連結情報が記録された」ものであるとする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

(1-3)「SDDモジュール」が「・・・該分割された単語の前記属性情報に基づいて話題の方向性としてのトピックを判断し・・・」という動作を行うことについて

上記(1-1)で検討したように、当初明細書等において、「属性情報」が「会話内容の結束性を維持するための」情報であることは、記載も示唆もされていない事項である。
そして、上記A.の記載において、上記段落【0023】には、会話例が示されているが、分割された単語の属性情報に基づいて話題の方向性としてのトピックを判断することは記載されていない。
さらに、当初明細書等の他のいずれの箇所を見ても、「SDDモジュール」が、分割された単語の属性情報に基づいて話題の方向性としてのトピックを判断する動作を行うことは、記載も示唆もされていない事項であり、また、このことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認められる。

したがって、「SDDモジュール」が「・・・該分割された単語の前記属性情報に基づいて話題の方向性としてのトピックを判断し・・・」という動作を行うとする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

(1-4)「SDDモジュール」が「前記トピックに適用可能な任意の前記文型に対し、前記意味ネットワークデータベースに蓄積された前記語彙のうち、前記任意の文型の前記トピックを形成する前記属性情報に関連性のある前記属性情報を有する前記フィールドカテゴリに収められた前記語彙であって文章形成に必要な名詞の前記語彙または動詞の前記語彙を取得して該取得した語彙を前記任意の文型の前記空欄箇所に埋め込んで自由文を生成する」という動作を行うことについて

当初明細書等には、以下の記載がなされている。

B.「【0036】図2、図3に示す例では、第1発話ステップ、第1ヘッジ発話、第2発話ステップ、継続処理の順に会話が進行する。
【0037】第1発話ステップにおいて、まず、SDDモジュール20が、用意されている○1(審決注:○囲み数字を表記することができないため、「○1」と表記した。以下、同様。)確認型文リスト、○2報告型文リスト、○3疑問型文リスト、○4発展型文リスト、○5転換型文リスト、○6状況設定型文リスト、の中から、○3疑問型文リストを選択し、さらに文型「$ユーザ名$ニトッテN1(名詞)ッテドウイウモノカナ」を選択する(ステップSR1)。
【0038】つぎに、SDDモジュール20が、ユーザ情報管理モジュール50から”鈴木”を引用して、それを文型のユーザ名に埋め込み(ステップSR2)、また、意味ネットワークデータベース10から”酒”を引用して、それを文型のN1(名詞)に埋め込み(ステップSR3)、それにより、「鈴木にとって酒ってどういうものかな?」という文を生成して(ステップSR4)、ロボットに発話させる。このとき、SDDモジュール20は、要求情報タイプテーブルを参照することで(ステップSR5)、上記の発話文が、Wh情報を埋める情報を要求するタイプの文であることを認識する。
【0039】この第1発話に対し、ユーザが、例えば、「知らないなあ」と応じる(ステップSU1)。
【0040】すると、SDDモジュール20による上記の要求情報タイプ認識に基づいて、連接モジュール40が、Wh情報ヒット語リストテーブルを参照し(ステップSR11)、ユーザ応答ヒット語をチェックし(ステップSR12)、ユーザ反応解釈テーブルを参照して(ステップSR13)、ユーザの第1発話「知らないなあ」は「理解不能」メッセージであるとして解釈する。そして、対応ヘッジをチェックし(ステップSR14)、第1ヘッジ発話として、例えば、「じゃあさ」というヘッジ出力をロボットに発話させる。
【0041】続いて、SDDモジュール20が、第2ステップ接続テーブルを参照して(ステップSR21)、文型「V1(動詞)(ナ)ノッテ|V2(動詞)コトナノカナァ」を選択し、意味ネットワークデータベース10から、”酒”と意味的結束性を有する”飲む”、”楽しい”を引用して、V1、V2(動詞)にそれぞれ埋め込み(ステップSR22)、それによって、「飲むのって楽しいことなのかなぁ?」という文を生成して(ステップSR23)、ロボットに発話させる。
【0042】この第2発話に対し、ユーザが、例えば、「ううん、まあ楽しいよ」と応じる(ステップSU11)。
【0043】すると、継続チェック部101が、関連語や関連トピックが定型トピックモジュール30に存在するか否かをチェックし(ステップSR31)、存在する場合はそのフローへ飛ぶ。
【0044】また、存在しない場合は、意味ネットワークデータベース10を参照して(ステップSR32)、関連語や関連トピックが定型トピックモジュール30またはSDDモジュール20に存在するか否かをチェックする。
【0045】そして、関連語・リンク語チェック部102が、関連語リンクチェックを行い(ステップSR33)、存在する場合は、定型トピックモジュール30かSDDモジュール20に飛ばす。その際、第2発話ステップにおける発話文型と飛ばし先との整合性によって、連接モジュール40をバイパスするか否かを決定する(ステップSR34)。
【0046】続いて、SDD関数チェック部103がSDD関数チェックを行い(ステップSR35)、関連語や関連トピックが存在する場合は、定型トピックモジュール30かSDDモジュール20に飛ばす一方(ステップSR36)、存在しない場合は、ランダムに新しい話題をスタートさせる(ステップSR37)。」

上記B.の記載において、上記段落【0038】には、「つぎに、SDDモジュール20が、ユーザ情報管理モジュール50から”鈴木”を引用して、それを文型のユーザ名に埋め込み(ステップSR2)、また、意味ネットワークデータベース10から”酒”を引用して、それを文型のN1(名詞)に埋め込み(ステップSR3)、それにより、「鈴木にとって酒ってどういうものかな?」という文を生成して(ステップSR4)、ロボットに発話させる。・・・」と記載されているが、「意味ネットワークデータベース10から”酒”を引用して、それを文型のN1(名詞)に埋め込」む際に、”鈴木”という単語が有する属性情報に関連性のある属性情報を”酒”という単語が有するとはされていない。
また、上記段落【0041】には、「続いて、SDDモジュール20が、第2ステップ接続テーブルを参照して(ステップSR21)、文型「V1(動詞)(ナ)ノッテ|V2(動詞)コトナノカナァ」を選択し、意味ネットワークデータベース10から、”酒”と意味的結束性を有する”飲む”、”楽しい”を引用して、V1、V2(動詞)にそれぞれ埋め込み(ステップSR22)、それによって、「飲むのって楽しいことなのかなぁ?」という文を生成して(ステップSR23)、ロボットに発話させる。」と記載され、「意味ネットワークデータベース10から、”酒”と意味的結束性を有する”飲む”、”楽しい”を引用」する旨の記載はなされているものの、”酒”という単語が有する属性情報に関連性のある属性情報を”飲む”、”楽しい”が有するとはされていない。
そもそも、上記(1-1)で検討したように、当初明細書等において、「属性情報」が「会話内容の結束性を維持するための」情報であることは、記載も示唆もされていない事項であり、上記B.の記載においても、「属性情報」をどのように用いて、単語同士の意味的結束性を判断するかが一切記載されていない。
そして、当初明細書等の他のいずれの箇所を見ても、「SDDモジュール」が「トピックに適用可能な任意の文型に対し、意味ネットワークデータベースに蓄積された語彙のうち、前記任意の文型の前記トピックを形成する属性情報に関連性のある前記属性情報を有するフィールドカテゴリに収められた前記語彙であって文章形成に必要な名詞の前記語彙または動詞の前記語彙を取得して該取得した語彙を前記任意の文型の空欄箇所に埋め込んで自由文を生成する」という動作を行うことは、記載も示唆もされていない事項であり、また、このことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認められる。

したがって、「SDDモジュール」が「前記トピックに適用可能な任意の前記文型に対し、前記意味ネットワークデータベースに蓄積された前記語彙のうち、前記任意の文型の前記トピックを形成する前記属性情報に関連性のある前記属性情報を有する前記フィールドカテゴリに収められた前記語彙であって文章形成に必要な名詞の前記語彙または動詞の前記語彙を取得して該取得した語彙を前記任意の文型の前記空欄箇所に埋め込んで自由文を生成する」という動作を行うとする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

(1-5)「定型トピックモジュール」が「・・・前記ユーザの発話音声及び前記文章データのうち少なくとも何れか一方として入力された前記言語データを生成する単語同士の繋がり、及び、該単語における対象の人称、時間、場所、事象等、繋がりの方向性としての特定の前記トピックに基づいて前記繋がり及び前記トピックの方向性との一致確率が高い前記反応文の文生成を行わせて会話を展開する」という動作を行うことについて

当初明細書等には、以下の記載がなされている。

C.「【0026】ところで、人間の談話は、必ずしも一定の動性(スピード)を保ちながら推移するわけではなく、特定トピックをめぐるやりとりにおいては、むしろ動性は下がり、情報領域が狭まって情報深度が深まる傾向がある。すなわち、文生成の動性と情報深度とは反比例の関係にある。このうち動性をSDDモジュール20によって確保する一方で、情報深度を確保するために設けられているのが定型トピックモジュール30である。そのため、定型トピックモジュール30は、複数の(40を超す)個別トピックに対してさまざまな情報深度が設定され、各深度において複数の反応文が用意されている。そして、SDDモジュール20と定型トピックモジュール30とを組み合わせることで、相反する談話動性と情報深度とを同時に確保することを実現している。」

上記C.の記載において、「定型トピックモジュール30は、複数の(40を超す)個別トピックに対してさまざまな情報深度が設定され、各深度において複数の反応文が用意されている。」と記載されているものの、「定型トピックモジュール」が「ユーザの発話音声及び文章データのうち少なくとも何れか一方として入力された言語データを生成する単語同士の繋がり、及び、該単語における対象の人称、時間、場所、事象等、繋がりの方向性としての特定のトピックに基づいて前記繋がり及び前記トピックの方向性との一致確率が高い反応文の文生成を行わせて会話を展開する」という動作を行うことについては、何も記載されていない。

また、上記B.の段落【0043】?【0046】の記載を見ても、「関連語や関連トピックが定型トピックモジュール30に存在するか否かをチェック」すること、「関連語・リンク語チェック部102が、関連語リンクチェックを行い(ステップSR33)、存在する場合は、定型トピックモジュール30かSDDモジュール20に飛ばす」こと、「SDD関数チェック部103がSDD関数チェックを行い(ステップSR35)、関連語や関連トピックが存在する場合は、定型トピックモジュール30かSDDモジュール20に飛ばす」こと等は記載されているものの、「定型トピックモジュール」が「ユーザの発話音声及び文章データのうち少なくとも何れか一方として入力された言語データを生成する単語同士の繋がり、及び、該単語における対象の人称、時間、場所、事象等、繋がりの方向性としての特定のトピックに基づいて前記繋がり及び前記トピックの方向性との一致確率が高い反応文の文生成を行わせて会話を展開する」という動作を行うことについては、何も記載されていない。

そして、当初明細書等の他のいずれの箇所を見ても、「定型トピックモジュール」が「ユーザの発話音声及び文章データのうち少なくとも何れか一方として入力された言語データを生成する単語同士の繋がり、及び、該単語における対象の人称、時間、場所、事象等、繋がりの方向性としての特定のトピックに基づいて前記繋がり及び前記トピックの方向性との一致確率が高い反応文の文生成を行わせて会話を展開する」という動作を行うことは、記載も示唆もされていない事項であり、また、このことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認められる。

したがって、「定型トピックモジュール」が「・・・前記ユーザの発話音声及び前記文章データのうち少なくとも何れか一方として入力された前記言語データを生成する単語同士の繋がり、及び、該単語における対象の人称、時間、場所、事象等、繋がりの方向性としての特定の前記トピックに基づいて前記繋がり及び前記トピックの方向性との一致確率が高い前記反応文の文生成を行わせて会話を展開する」という動作を行うとする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

(1-6)「ヒット語リストテーブル」が「・・・複数のヒット語の情報、前記ヒット語を含む前記回答文の意味内容としての解釈情報、前記意味内容の前記回答文を発話した前記ユーザが会話相手に対して一般的に期待している回答内容としてのユーザ期待情報からなる情報群が複数蓄積された」ものであることについて

上記B.の記載において、上記段落【0040】には、「すると、SDDモジュール20による上記の要求情報タイプ認識に基づいて、連接モジュール40が、Wh情報ヒット語リストテーブルを参照し(ステップSR11)、ユーザ応答ヒット語をチェックし(ステップSR12)、ユーザ反応解釈テーブルを参照して(ステップSR13)、ユーザの第1発話「知らないなあ」は「理解不能」メッセージであるとして解釈する。」と記載されているものの、上記記載中の「連接モジュール40が、Wh情報ヒット語リストテーブルを参照し(ステップSR11)、ユーザ応答ヒット語をチェックし(ステップSR12)、ユーザ反応解釈テーブルを参照して(ステップSR13)」との記載からは、図4の「U第1ステップでのヒット語」の下に示されるものが「ヒット語リストテーブル」を表し、「U反応に対する解釈」の下に示されるものが「ユーザ反応解釈テーブル」を表しているものと解され、上記段落【0040】の記載からは、「ヒット語リストテーブル」が「ヒット語を含む回答文の意味内容としての解釈情報、前記意味内容の前記回答文を発話したユーザが会話相手に対して一般的に期待している回答内容としてのユーザ期待情報からなる情報群が複数蓄積された」ものであることは読み取れない。
また、図4の下に示される「処理概要」の、
「1)ロボット第1ステップの発話文型タイプによって、ユーザ第1発話時におけるヒット語リストが選択される(第1ステップでのヒット語)
2)ヒットした語のタイプによりユーザの反応にたいするロボット側の解釈が決定される(U反応にたいする解釈)。
3)次にロボットが理解したユーザ発話の解釈によって、第2ステップでユーザがロボットにどのような発話を期待しているかが推測される(U期待情報)。」
との記載を見ても、図4に関する発明の詳細な説明の記載は、段落【0047】に、「図4は、SDDモジュール20における連接モジュール40の内容を示すテーブル、図5は、SDDモジュール20におけるヘッジ連接を示すテーブルであり、図中の符号Cは中立、Nは消極、Pは積極を意味する。」とあるだけであり、この記載からも、「ヒット語リストテーブル」が「ヒット語を含む回答文の意味内容としての解釈情報、前記意味内容の前記回答文を発話したユーザが会話相手に対して一般的に期待している回答内容としてのユーザ期待情報からなる情報群が複数蓄積された」ものであることは読み取れない。
そして、当初明細書等の他のいずれの箇所を見ても、「ヒット語リストテーブル」が「ヒット語を含む回答文の意味内容としての解釈情報、前記意味内容の前記回答文を発話したユーザが会話相手に対して一般的に期待している回答内容としてのユーザ期待情報からなる情報群が複数蓄積された」ものであることは、記載も示唆もされていない事項であり、また、このことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認められる。

したがって、「ヒット語リストテーブル」が「・・・複数のヒット語の情報、前記ヒット語を含む前記回答文の意味内容としての解釈情報、前記意味内容の前記回答文を発話した前記ユーザが会話相手に対して一般的に期待している回答内容としてのユーザ期待情報からなる情報群が複数蓄積された」ものであるとする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

(2)むすび
以上のとおり、上記(1)に示す請求項1に係る補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。
したがって、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.補正却下の決定を踏まえた検討
(1)本願の請求項の記載
平成19年7月30日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1の記載は、平成19年4月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1のとおりの次のものである。
「音声情報を取得して言語データを生成する音声認識手段及びワードスポット手段と文章データに基づいて音声による言語を出力させる発話手段とを有するコンピュータを用いてキャラクタ性のある会話をユーザと交わすシステムであって、
品詞情報、属性情報等のフィールドカテゴリ毎に分類された多数の語彙を収めた、意味ネットワークデータベースと、
複数種類の文型があらかじめリストとして用意され、任意の前記文型に対し、前記意味ネットワークデータベースに蓄積された前記語彙から前記フィールドカテゴリに基づいて該文型のトピックに適合する前記フィールドカテゴリから必要な名詞または動詞の前記語彙を取得して該取得した語彙を埋め込んで自由文を生成するSDDモジュールと、
複数の個別トピックごとに情報深度が段階的に設定され、各段階の情報深度において複数の反応文が用意されて、特定の前記トピックを中心に前記反応文の文生成を行わせて会話を展開する定型トピックモジュールと、
前記SDDモジュール又は前記定型トピックモジュールにおいて生成された前記自由文又は前記反応文に基づいて形成される回答文が要求する情報のタイプごとにカテゴライズされた複数のヒット語の情報を有するヒット語リストテーブルを備え、前記自由文又は前記反応文に対する前記回答文の意味内容を解釈し、該解釈に基づいて前記ヒット語リストテーブルから対応する前記ヒット語を選択し出力することで、前記SDDモジュールと前記定型トピックモジュールとの間の談話的結束性を維持・管理しつつ、会話の連続展開を可能にする連接モジュールとを備えていることを特徴とするキャラクタ型会話システム。」

(2)平成19年2月13日付けの拒絶理由通知
平成19年2月13日付けで審査官が通知した拒絶理由のうち、「理由2」の概要は、次のようなものである。

「2.この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


特許請求の範囲第1乃至6項には、各種モジュールの作用効果が記載されているだけで、如何なる技術的思想(アルゴリズムの類)で実現するのか、「発明の詳細な説明」の欄にある記載を参酌しても不明である。」

(3)平成19年4月23日付けで提出された意見書における請求人の主張
上記拒絶理由通知に対し、請求人は、平成19年4月23日付け意見書において、次のような主張をしている。

「2.本願発明が特許されるべき理由
補正後の本願請求項1に係る発明は、
「音声情報を取得して言語データを生成する音声認識手段及びワードスポット手段と文章データに基づいて音声による言語を出力させる発話手段とを有するコンピュータを用いてキャラクタ性のある会話をユーザと交わすシステムであって、
品詞情報、属性情報等のフィールドカテゴリ毎に分類された多数の語彙を収めた、意味ネットワークデータベースと、
複数種類の文型があらかじめリストとして用意され、任意の前記文型に対し、前記意味ネットワークデータベースに蓄積された前記語彙から前記フィールドカテゴリに基づいて該文型のトピックに適合する前記フィールドカテゴリから必要な名詞または動詞の前記語彙を取得して該取得した語彙を埋め込んで自由文を生成するSDDモジュールと、
複数の個別トピックごとに情報深度が段階的に設定され、各段階の情報深度において複数の反応文が用意されて、特定の前記トピックを中心に前記反応文の文生成を行わせて会話を展開する定型トピックモジュールと、
前記SDDモジュール又は前記定型トピックモジュールにおいて生成された前記自由文又は前記反応文に基づいて形成される回答文が要求する情報のタイプごとにカテゴライズされた複数のヒット語の情報を有するヒット語リストテーブルを備え、前記自由文又は前記反応文に対する前記回答文の意味内容を解釈し、該解釈に基づいて前記ヒット語リストテーブルから対応する前記ヒット語を選択し出力することで、前記SDDモジュールと前記定型トピックモジュールとの間の談話的結束性を維持・管理しつつ、会話の連続展開を可能にする連接モジュールとを備えていることを特徴とするキャラクタ型会話システム。」です。
・・・(中略)・・・
(2)補正の根拠の明示
本意見書と同日付けで提出の手続補正書における請求項1の補正事項(下線を付している部分)のうち、「音声情報を取得して言語データを生成する音声認識手段及び文章データに基づいて音声による言語を出力させる発話手段を有する(コンピュータを用いて・・・)」という記載は、出願当初の明細書の段落〔0017〕「このキャラクタ型会話システムは、コンピュータを用いてキャラクタ性のある会話をユーザと交わすシステムであって、・・・」という記載、段落〔0049〕「上記のようなキャラクタ型会話システム1は、・・・毎回違う返事を期待することができる。」という記載等に基づきます。
また、「品詞情報、属性情報等のフィールドカテゴリ毎に分類された(多数の語彙を・・・)」という記載は、出願当初の明細書の段落〔0020〕の「意味ネットワークデータベース10には・・・品詞情報、属性情報、等が含まれる。」という記載に基づきます。
また、「複数種類の文型があらかじめリストとして用意され、・・・必要な名詞または動詞の前記語彙を取得して該取得した語彙を埋め込んで(自由文を生成する・・・)」という記載は、出願当初の明細書の〔請求項3〕及び段落〔0037〕「第1発話ステップにおいて・・・を選択する(ステップSR1)」及び段落〔0038〕「つぎに、SDDモジュール20が、・・・文を生成して(ステップSR5)」という記載に基づきます。
また、「複数の個別トピックごとに情報深度が段階的に設定され、各段階の情報深度において複数の反応文が用意されて、特定の前記トピックを中心に前記反応文の文生成を行わせて会話を展開する」という記載は、出願当初の明細書の〔請求項4〕及び段落〔0026〕「そのため、定型トピックモジュール30は、複数の・・・各深度に応じて複数の反応文が用意されている。」等の記載に基づきます。
また、「前記SDDモジュール又は前記定型トピックモジュールにおいて生成された前記自由文・・・該解釈に基づいて前記ヒット語リストテーブルから対応する前記ヒット語を選択し出力することで、」という記載は、出願当初の明細書の段落〔0027〕?〔0031〕「連接モジュール40が、会話の連続展開を・・・成立した知識が、後出の会話に反映されるようになっている。」という記載、及び段落〔0040〕「すると、SDDモジュール20による上記の要求情報タイプ認識に基づいて、連接モジュール40が、Wh情報ヒット語リストテーブルを参照し、・・・対応ヘッジをチェックし(ステップSR1)」という記載に基づきます。
・・・(中略)・・・
(3)上記補正に基づいて、本願発明を構成する各モジュールがコンピュータハードウェアとソフトウェアの共働によって実現されるものであることが明確化されました。また、これら各モジュールが、音声認識手段及びワードスポット手段に基づいて取得した音声情報及び該音声情報に基づいて生成した言語データや、意味ネットワークデータベース、ヒット語リストテーブル等に記録されたデータを用いて文章データを生成し、生成した文章データを発話手段によって音声として出力させることでユーザとの会話を継続的に行うこと、またこれらの文章データの生成等もコンピュータハードウェアとソフトウェアの共働によって実現されるものであることが明確化されました。」

(4)平成19年5月15日付けの拒絶査定
上記意見書の主張を踏まえた上での審査官の平成19年5月15日付けの拒絶査定は、次のようなものである。

「 この出願については、平成19年2月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。

備考

特許請求の範囲第1乃至5項には、各種モジュールの作用効果が記載されているだけで、如何なる技術的思想(アルゴリズムの類)で実現するのか、「発明の詳細な説明」の欄にある記載を参酌しても、依然として不明である。

例えば、

(1)特許請求の範囲第1項には「品詞情報、属性情報等のフィールドカテゴリ毎に分類された多数の語彙を収めた意味ネットワークデータベース」と記載されている。しかしながら、「属性情報等」が如何なる情報なのか具体的でないこともあり、如何なる構造を有したデータベースなのか不明である。また、本願明細書第21段落にあるような「意味ネットワークデータベース10自体が語彙間におけるある程度の結束性を保持している」とは、どの様な構造をもって「語彙間におけるある程度の結束性を保持している」としているのか、「発明の詳細な説明」の欄にある記載を参酌しても不明である。

(2)特許請求の範囲第1項の「SDDモジュール」に関して、「文型のトピック」をどこから取得するのか、如何なる技術的思想をもって「文型のトピックに適合する前記フィールドカテゴリ」を選択するのか、如何なる技術的思想をもって「必要な名刺(審決注:この「名刺」との記載は、「名詞」の明らかな誤記であると認められる。)又は動詞の前記語彙を取得」するのか、「発明の詳細な説明」の欄にある記載を参酌しても不明である。

(3)特許請求の範囲第1項の「定型トピックモジュール」に関して、「特定のトピック」をどのように選択するのか、「トピックを中心」とは如何なる趣旨なのか、如何なる技術的思想をもって「トピックを中心に前記反応文の文生成」するのか不明である。

(4)特許請求の範囲第1項の「連接モジュール」に関して、如何なる技術的思想をもって「前記自由文又は前記反応文に対する前記回答文の意味内容を解釈」するのか、如何なる技術的思想をもって「談話的結束性を維持・管理」するのか、「発明の詳細な説明」の欄にある記載を参酌しても不明である。」

(5)当審の判断
(5-1)「品詞情報、属性情報等のフィールドカテゴリ毎に分類された多数の語彙を収めた、意味ネットワークデータベース」について

上記A.に摘記した発明の詳細な説明の段落【0020】の「意味ネットワークデータベース10には、約5000語の語彙が発音・文法情報とともに登録され、名詞テーブルおよび述語テーブルを備えている。名詞テーブルに設けられるフィールドカテゴリには、ターゲット名詞、リンク名詞、上位概念、下位概念、連想語彙、述語、品詞情報、属性情報、等が含まれる。また、述語テーブルに設けられるフィールドカテゴリには、ターゲット述語、述語名詞、反義述語、リンク名詞、品詞情報、属性情報、等が含まれる。」との記載では、「意味ネットワークデータベース」が備える「名詞テーブル」あるいは「述語テーブル」に設けられる「フィールドカテゴリ」に「品詞情報、属性情報等」が含まれるとされるだけで、「意味ネットワークデータベース」が具体的にどのような構造を有するデータベースなのかが不明である。
また、上記A.に摘記した発明の詳細な説明の段落【0021】には、「意味ネットワークデータベース10自体が語彙間におけるある程度の結束性を保持している」との記載もなされているが、「意味ネットワークデータベース」の具体的にどのような構造によって「語彙間におけるある程度の結束性を保持」することになるのかが不明である。

(5-2)「複数種類の文型があらかじめリストとして用意され、任意の前記文型に対し、前記意味ネットワークデータベースに蓄積された前記語彙から前記フィールドカテゴリに基づいて該文型のトピックに適合する前記フィールドカテゴリから必要な名詞または動詞の前記語彙を取得して該取得した語彙を埋め込んで自由文を生成するSDDモジュール」について

上記B.に摘記した発明の詳細な説明の段落【0037】?【0038】の記載を見ても、「文型のトピック」をどこから取得するのか、また、如何なる技術的思想をもって「文型のトピックに適合するフィールドカテゴリ」を選択するのか、さらには、如何なる技術的思想をもって「必要な名詞又は動詞の前記語彙を取得」するのかが不明である。

(5-3)「複数の個別トピックごとに情報深度が段階的に設定され、各段階の情報深度において複数の反応文が用意されて、特定の前記トピックを中心に前記反応文の文生成を行わせて会話を展開する定型トピックモジュール」について

上記C.に摘記した発明の詳細な説明の段落【0026】の記載を見ても、「情報深度を確保するために設けられている」「定型トピックモジュール30」が「複数の(40を超す)個別トピックに対してさまざまな情報深度が設定され、各深度において複数の反応文が用意されている」ものであるとされているだけで、「特定のトピック」をどのように選択するのか、また、如何なる技術的思想をもって「特定のトピックを中心に反応文の文生成を行わせて会話を展開する」のかが不明である。

(5-4)「前記SDDモジュール又は前記定型トピックモジュールにおいて生成された前記自由文又は前記反応文に基づいて形成される回答文が要求する情報のタイプごとにカテゴライズされた複数のヒット語の情報を有するヒット語リストテーブルを備え、前記自由文又は前記反応文に対する前記回答文の意味内容を解釈し、該解釈に基づいて前記ヒット語リストテーブルから対応する前記ヒット語を選択し出力することで、前記SDDモジュールと前記定型トピックモジュールとの間の談話的結束性を維持・管理しつつ、会話の連続展開を可能にする連接モジュール」について

発明の詳細な説明の段落【0027】?【0031】の、
「【0027】連接モジュール40が、会話の連続展開を可能にするため維持・管理する談話結束性は、領域の狭い順に、○1同一文内における統語・意味論的結束性、○2ユーザ発話文とロボット応答文における結束性、○3談話内におけるトピックと発話される各文の間の結束性、○4既知ユーザ情報とロボットの現場発話との間の結束性、の4つのレベルに分類できる。
【0028】このうち、○1同一文内における統語・意味論的結束性については、ロボットが自由生成する文形式が対象となる。このキャラクタ型会話システム1では、日本語構文の分析に基づき、SDDモジュール20に主述構文を中心とした文生成を行わせることで、統語的結束性を確保した。これにより、意味ネットワークデータベース10上で結束性を保持しながら格納されている語彙同士を、その意味論的結束性を破壊することなく文に反映することができるようにしている。また、[+人間]という素性を主語名詞に要求する述語については、[+人間]のフラグをデータベース内に設けて、主述における共起関係の絞り込みを行なっている。
【0029】また、○2ユーザ発話文とロボット応答文における結束性については、ヘッジ管理によって実現している。すなわち、「ヘッジ」とは、実質的内容を伴った発話をする前にいわば「つなぎ」や「まくら言葉」として発話される行為で、談話結束性の維持に大きな役割を果たすものである。すなわち、ユーザの応答文の直後に、ロボットを発話させるのではなく、ユーザの命題に対する態度を確認・共感・反論するフレーズを入れてから、その後に発話文を連続させることで、文同士の段差を埋め、結束性を確保する。そのため、このキャラクタ型会話システム1では、SDDモジュール20内部、定型トピックモジュール30内部、連接モジュール40内部、およびこれら相互間において、ユーザの反応に応じて適切な反応を返すヘッジ管理を行なっている。
【0030】また、○3談話内におけるトピックと発話される各文の間の結束性については、トピック管理という概念によって実現している。すなわち、このキャラクタ型会話システム1では、先行するトピックがある場合、それを追い越す新情報語彙の出現に制限をかけるようになっている。
【0031】さらに、○4既知ユーザ情報とロボットの現場発話との間の結束性については、ユーザが以前に発話した内容、発話態度、情報をログとして記憶・維持するユーザ情報学習機能と、ロボットが発話した情報を記憶・維持する生成文管理ログ機能とをもたせることで実現している。すなわち、このキャラクタ型会話システム1では、ユーザ情報管理モジュール50がユーザ情報学習機能を有し、また、キャラクタ管理モジュール60が生成文管理ログ機能を有していて、それにより、過去の会話によってユーザとロボットとの間に成立した知識が、後出の会話に反映されるようになっている。」
との記載、及び上記B.に摘記した段落【0040】の記載を見ても、単に作用効果を述べているだけで、如何なる技術的思想をもって「前記自由文又は前記反応文に対する前記回答文の意味内容を解釈」し、さらには、如何なる技術的思想をもって「談話的結束性を維持・管理」するのかが不明である。

以上、(5-1)?(5-4)で検討したように、特許請求の範囲の請求項1には、各種モジュールの作用効果が記載されているのみであり、如何なる技術的思想(アルゴリズムの類)で実現するのか、「発明の詳細な説明」の欄にある記載を参酌しても、依然として不明である。

(6)むすび
したがって、本願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-22 
結審通知日 2010-02-23 
審決日 2010-03-19 
出願番号 特願2001-70961(P2001-70961)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G06F)
P 1 8・ 561- Z (G06F)
P 1 8・ 537- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 飯田 清司
池田 聡史
発明の名称 キャラクタ型会話システム  
代理人 佐野 弘  

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