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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200513073 審決 特許
不服200421594 審決 特許
不服200625545 審決 特許
不服200815319 審決 特許
無効2007800236 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
管理番号 1216114
審判番号 不服2008-26655  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-16 
確定日 2010-04-30 
事件の表示 平成10年特許願第520585号「置換三環化合物群」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月 7日国際公開、WO98/18464、平成13年 3月 6日国内公表、特表2001-503055〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年10月23日(パリ条約による優先権主張1996年10月30日 米国)を国際出願日とする出願であって、本願の請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年7月3日付け誤訳訂正書により訂正された特許請求の範囲の請求項4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項4】 請求項1記載の化合物を医薬的に許容される担体または希釈剤とともに含む、sPLA_(2)を阻害する医薬製剤。」
ここで、請求項1に記載の化合物とは
「式(III):(化学構造式及び各記号の説明は省略)
で示される化合物または医薬的に許容されるその塩、ラセミ体、溶媒和物、互変異性体、光学異性体。」(請求項1)である。

2.当審における拒絶理由
一方、当審における、平成21年4月28日付けで通知した拒絶の理由は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものとはいえない。」という理由を含み、以下の点を指摘している。
「請求項4に記載された発明は、請求項1に記載された化合物を医薬的に許容される担体または希釈剤とともに含む、sPLA_(2)を阻害する医薬製剤の発明であるが、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載により医薬としての有用性が裏付けられているとは到底認められない。」

3.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件について
特許法第36条第6項第1号の規定によれば、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることとの要件に適合するものでなければならない。
特許制度は、発明を公開させることを前提に、当該発明に特許を付与して、一定期間その発明を業として独占的、排他的に実施することを保障し、もって、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。 そして、ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は、本来、当該発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから、特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。
そして、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、上記の観点に立って、本願について検討する。

(2)本願明細書の特許請求の範囲の記載について
本願発明に係る本願明細書の特許請求の範囲の請求項4には、「請求項1記載の化合物を医薬的に許容される担体または希釈剤とともに含む、sPLA_(2)を阻害する医薬製剤。」と記載されている。ここで、請求項1に記載の化合物とは
「式(III):(化学構造式及び各記号の説明は省略)
で示される化合物または医薬的に許容されるその塩、ラセミ体、溶媒和物、互変異性体、光学異性体。」(請求項1)である。
ところで、医薬製剤において、有効成分とともに医薬的に許容される担体または希釈剤を含むこと自体は慣用技術であり、請求項4には、請求項1記載の化合物を有効成分とする医薬についての用途発明が記載されているものと認められる。
そして、医薬とは疾病を予防もしくは治療するためのものであるが、請求項4の「sPLA_(2)を阻害する医薬製剤」という事項からは、請求項4に係る医薬製剤の発明が、どのような疾病に関する医薬製剤であるか不明瞭なので発明の詳細な説明の記載を検討する。本願明細書(平成21年7月3日提出の誤訳訂正書)の段落【0003】の「本発明はまた、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、リューマチ性関節炎、膵嚢胞性繊維症、発作、急性気管支炎、慢性気管支炎、急性細気管支炎、慢性細気管支炎、骨関節炎、痛風、脊椎関節症、硬直性脊椎炎、ライター症候群、乾癬性関節症、胃腸病原性脊椎炎、若年性関節症または若年性強直性脊椎炎、反応性関節症、感染性関節炎または感染後関節炎、淋菌性関節炎、結核性関節炎、ウイルス性関節炎、糸状菌関節炎、梅毒性関節炎、ライム病、「血管性症候群」に関連する関節症、多発性結節性関節炎、過敏性血管炎、ルーゲーリック肉芽腫症、リューマチ性多発性筋痛、ジョイントセル関節炎、カルシウム結晶沈着関節症、偽性痛風、非関節性リューマチ症、滑液嚢炎、滑液性腱鞘炎、外上顆炎(テニス肘)、手根管圧迫症候群、反復使用損傷(タイピング)、種々な型の関節症、神経障害性関節病(チャルコおよび関節)、出血性関節症、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、肥厚性骨関節症、多中心性網組織球症、ある種の疾患に関連する関節炎、サーコイローシス、血色素症、鎌状赤血球病とその他の異常血色素症、リポ蛋白過剰血症、ガンマグロブリン欠乏血症、副甲状腺機能亢進症、先端巨大症、家族性地中海熱、ベハット病、全身性紅斑性狼瘡、または置換多発性軟骨症、および関連する疾患の病理作用の軽減方法であって、その処置を必要としている哺乳類に式IIIで示される化合物の、sPLA2媒介性の脂肪酸放出を阻害し、それによりアラキドン酸カスケードおよびその有害な産物を阻害または予防するのに十分な治療的に有効な量を投与する方法を提供する。」との記載によれば、「sPLA_(2)を阻害する医薬製剤」は、上記の「敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患」の病理作用の軽減のための医薬製剤である。
すなわち、本願の請求項4には、式(III)で示される化合物または医薬的に許容されるその塩、ラセミ体、溶媒和物、互変異性体、光学異性体(請求項1記載の化合物)を有効成分とする、本願明細書の段落【0003】に記載されている「敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患」の病理作用の軽減のための医薬の発明が記載されていると認められる。

(3)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、一般式(III)で示される三環式化合物に関する発明について説明が記載されているが、一般式(III)で示される三環式化合物を有効成分とする医薬の発明に関しては、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
発明の背景
発明の分野
本発明は、敗血性ショックのような症状に対して、sPLA_(2)媒介性の脂肪酸放出を阻害するのに有用な新規置換三環有機化合物群に関する。」
(イ)「【従来の技術】
【0002】
背景
ヒト非膵臓性分泌ホスホリパーゼA_(2)(以後、「sPLA_(2)」と称する)の構造および物理的性質は、2つの文献、すなわち Seilhamer, Jeffrey J.; Pruzanski, Waldemar; Vadas Peter; Plant, Shelley; Miller, Judy A.; Kloss, Jean; および Johnson, Lorin K.;「慢性関節リウマチ滑液中に存在するホスホリパーゼA_(2)のクローニングおよび組換え発現」; The Journal of Biological Chemistry, Vol. 264, No. 10, Issue of April 5, pp. 5335-5338, 1989; および Kramer, Ruth M.; Hession, Catherine; Johansen, Berit; Hayes, Gretchen; McGray, Paula; Chow, E. Pingchang; Tizard, Richard; および Pepinsky, R. Blake;「ヒト非膵臓性ホスホリパーゼA_(2)の構造および特性」; The Journal of Biological Chemistry, Vol. 264, No. 10, Issue of April 5, pp. 5768-5775, 1989; に詳細に記載されており、その開示内容は引用により本明細書中に包含される。
sPLA_(2)は、膜リン脂質を加水分解するアラキドン酸カスケードでの、律速的な酵素であると信じられている。そこで、sPLA_(2)媒介性の脂肪酸(例えば、アラキドン酸)の放出を阻害する化合物を開発することは重要である。このような化合物は例えば敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘導性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、リューマチ性関節炎などのようなsPLA_(2)の過剰産生によって誘導および/または維持される病状の一般的処置のために価値があろうと思われる。
sPLA_(2)誘導性疾患についての新規化合物および処置法を開発することは望ましい。Alexanderほか、米国特許第3,939,177号および第3,979,391号には抗菌剤として有用な1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾール化合物が開示されている。」
(ウ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
発明の概要
これらの置換三環化合物はヒトsPLA_(2)媒介性の脂肪酸放出の阻害に有効である。
本発明はまた、式IIIで示される化合物を1つまたはそれ以上の医薬的に許容される希釈剤、担体および賦形剤とともに含む医薬製剤である。
本発明はまた、sPLA_(2)の阻害方法であって、その処置を必要としている哺乳類に式IIIで示される化合物の治療的に有効な量を投与することを特徴とする方法である。
本発明のさらなる態様では、処置を必要としている哺乳類におけるsPLA_(2)の選択的阻害方法であって、該哺乳類に式IIIで示される化合物の治療的に有効な量を投与することを特徴とする方法を提供する。
本発明はまた、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、リューマチ性関節炎、膵嚢胞性繊維症、発作、急性気管支炎、慢性気管支炎、急性細気管支炎、慢性細気管支炎、骨関節炎、痛風、脊椎関節症、硬直性脊椎炎、ライター症候群、乾癬性関節症、胃腸病原性脊椎炎、若年性関節症または若年性強直性脊椎炎、反応性関節症、感染性関節炎または感染後関節炎、淋菌性関節炎、結核性関節炎、ウイルス性関節炎、糸状菌関節炎、梅毒性関節炎、ライム病、「血管性症候群」に関連する関節症、多発性結節性関節炎、過敏性血管炎、ルーゲーリック肉芽腫症、リューマチ性多発性筋痛、ジョイントセル関節炎、カルシウム結晶沈着関節症、偽性痛風、非関節性リューマチ症、滑液嚢炎、滑液性腱鞘炎、外上顆炎(テニス肘)、手根管圧迫症候群、反復使用損傷(タイピング)、種々な型の関節症、神経障害性関節病(チャルコおよび関節)、出血性関節症、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、肥厚性骨関節症、多中心性網組織球症、ある種の疾患に関連する関節炎、サーコイローシス、血色素症、鎌状赤血球病とその他の異常血色素症、リポ蛋白過剰血症、ガンマグロブリン欠乏血症、副甲状腺機能亢進症、先端巨大症、家族性地中海熱、ベハット病、全身性紅斑性狼瘡、または置換多発性軟骨症、および関連する疾患の病理作用の軽減方法であって、その処置を必要としている哺乳類に式IIIで示される化合物の、sPLA_(2)媒介性の脂肪酸放出を阻害し、それによりアラキドン酸カスケードおよびその有害な産物を阻害または予防するのに十分な治療的に有効な量を投与する方法を提供する。」
(エ)「【0071】
三環式化合物の治療的使用
本明細書に記載する化合物は、主にヒトのsPLA_(2)の直接的な阻害によって有益な治療的効果を達成するものであり、アラキドン酸カスケードにおいてアラキドン酸のアンタゴニストとして、または、5-リポキシゲナーゼ、シクロオキシゲナーゼなどのアラキドン酸カスケード中のアラキドン酸以降の他の活性物質のアンタゴニストとして、作用するのではないと考えられる。
本発明の方法は、sPLA_(2)に媒介される脂肪酸の放出を阻害するものであって、sPLA_(2)2と治療的に有効な量の式(III)で示される化合物またはその塩とを接触させることを包含する。
本発明化合物は敗血性ショック、成人呼吸困難症候群、膵炎、外傷、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、およびリューマチ性関節炎の病理学的影響を緩和するために哺乳類(たとえば、ヒト)を処置するための方法に使用してもよく、その方法は哺乳類に式(III)で示される化合物の治療的に有効な量を投与することを包含する。この「治療的に有効な」量はsPLA_(2)に媒介される脂肪酸の放出を阻害することによって、アラキドン酸カスケードおよびその有害な産物を阻害または予防するために十分な量である。このsPLA_(2)を阻害するために必要な本発明化合物の治療的な量は体液の標本を採取してそのsPLA_(2)含有量を通常の方法によって検定すれば容易に決定できる。」
(オ)「【0072】
本発明の医薬的製剤
前に指摘した通り、この発明の化合物はsPLA_(2)が媒介する、たとえばアラキドン酸のような脂肪酸の放出を阻害するために有用である。用語「阻害する」は、本発明の化合物による、sPLA_(2)が開始する脂肪酸放出の、予防的または治療的に有意義な低下、を意味する。「医薬的に許容される」は担体、希釈剤、または添加剤がその製剤の他成分に適合するが、被投与体に有害であってはならないことを意味する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
活性成分は、たとえば無菌水、無菌有機溶媒または双方の混合物のような医薬的に許容される担体に溶解または懸濁できる。活性成分は、例えばプロピレングリコール水などの適当な有機溶媒に溶解できることが多い。他の組成物は粉砕した活性成分を澱粉またはナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液または適当な油に分散して製造することができる。
以下の医薬的製剤例1から8までは、単なる例示であって、如何なる意味でも本発明の範囲を限定する意図で記載されたものでもない。ここに「活性成分」は式(III)またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物またはプロドラッグで示される化合物を示す。」
(カ)「【0073】
製剤例1
製剤例1
次の成分を用いて硬ゼラチンカプセルを製造する:
量(mg/カプセル)
5-ヒドロキシ-7-(5-シアノペンチル)-9-
メチル-1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾール-
4-カルボキサミド 250
乾燥澱粉 200
ステアリン酸マグネシウム 10
合計 460mg
【0074】
製剤例2
次の成分を用いて錠剤を製造する:
・・・・・
【0080】
製剤例8
静脈内注射用製剤を次の通りに製造する:
5-(ジ-t-ブトキシホスホニル)メトキシ-7-
デシル-9-(5-プロピルチオフェニ)メチル-
1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾール-4-
カルボン酸ヒドラジド 100mg
等張食塩水 1000mL
一般に前記成分の溶液を分速1mLで対象に静脈内投与する。」
(キ)「【0081】
検定実験
実験例1
次の色素産生検定操作法を用いて組換えヒト分泌ホスホリパーゼA_(2)の阻害剤を確認し、評価した。本明細書に記載する検定法は96ウェルのミクロタイタープレートを使用する高容検定に適合させたものである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
化合物は全て三回検査をした。典型的には化合物は5μg/mL最終濃度で試験した。
各化合物は405ナノメートルで測定した時に非阻害対照反応物と比較して40%またはそれ以上の阻害を示す時に活性であると解釈した。405ナノメートルでの無発色は阻害の証明とした。最初に活性が判明した化合物は活性を確認するために再検定し、十分な活性があればIC50値を決定した。
典型的にはIC50値(下記の表I参照)は反応物中、被験化合物の最終濃度を45μg/mLから0.35μg/mLの範囲とする順次2倍希釈法によって、判定した。阻害剤が強力になるほど、さらに大きな希釈を必要とした。全ての場合に阻害剤を含有する酵素反応が起こす405ナノメートルで測定する、非阻害の対照反応物のものに対する阻害%を決定した。各試料は三回測定し、測定値を平均し、プロットしてIC50を算出した。IC50は対数濃度に対する阻害値を10%?90%の範囲でプロットして判定した。
実験例1で試験した本発明化合物(実施例1?19)は100μMよりも少ない濃度で有効であることが判明した。
(ク)「【0082】
実験例2
方法:
雄性ハートレー株モルモット(500?700g)を頚部脱臼で屠殺し、その心臓と肺臓とを無傷のまま摘出し、通気(95%O_(2):5%CO_(2))クレブス緩衝液に入れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
本発明の化合物(実施例1?19)を実験例2で試験して、20μMよりも少ない濃度で有効であることが判明した。
(ク)「【0083】
実験例3
sPLA_(2)のトランスジェニックマウス検定法
材料および方法
この実験に使用するマウスは6?8月齢の成熟した、ZnSO_(4)-刺激、半接合2608a系統トランスジェニックマウス(Foxほか、1996年)であった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
経口試験には、各化合物を水中に1?5%エタノール/10?30%ポリエチレングリコール300に溶解するか、または水中に5%デキストロースに懸濁して経口胃管注入によって投与した。血清を眼窩後部から調製して前記の通りにPLA_(2)触媒活性を検定した。
【0084】
文献
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
本発明化合物を実験例3で試験し、有効であることが判明した。」

イ 上記の記載の摘示の(ア)には、【発明の属する技術分野】として、明細書に記載する発明が、敗血性ショックのような症状に対して、sPLA_(2)媒介性脂肪酸放出を阻害するのに有用な新規置換三環有機化合物群に関するものであること、(イ)には、【従来の技術】として、ヒト非膵臓性分泌ホスホリパーゼA_(2)(sPLA_(2))の構造および物理的性質は、2つの文献に詳細に記載されていること、sPLA_(2)は、膜リン脂質を加水分解するアラキドン酸カスケードでの、律速的な酵素であると信じられており、sPLA_(2)阻害剤の開発が、「敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘導性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、リューマチ性関節炎などのようなsPLA_(2)の過剰産生によって誘導および/または維持される病状の一般的処置のために価値があろうと思われる」と記載されている。
そして、(ウ)には、【発明が解決しようとする課題】として、「敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患の病理作用の軽減方法であって、その処置を必要としている哺乳類に式IIIで示される化合物の、sPLA_(2)2媒介性の脂肪酸放出を阻害し、それによりアラキドン酸カスケードおよびその有害な産物を阻害または予防するのに十分な治療的に有効な量を投与する方法を提供する」ことが記載されている。
以上の記載によれば、本願明細書の発明の詳細な説明は、医薬の発明としては、一般式(III)で示される三環式化合物を有効成分とする、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患の病理作用を軽減するための医薬の発明について記載しようとするものであるが、一般式(III)で示される三環式化合物を有効成分とする医薬が、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患の病理作用を軽減することを裏づける薬理データは一切記載されていない。

(4)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
ア 特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない。そして、上記(2)から明らかなとおり、本願発明は、ある物質の未知の属性の発見に基づき、当該物質の新たな医薬用途を提供しようとするものであり、いわゆる医薬についての用途発明である。
そして、医薬についての用途発明は、一般に、個々の物質について医薬として有用か否かを調べる薬理試験を行い、その試験結果である薬理データを検討することにより発明がなされるものであるから、このような発明において、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、当該物質(有効成分)が当該医薬用途において有用であることが、(i)薬理データの記載が無くとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、(ii)特許出願時の技術常識を参酌して、当該物質が当該医薬用途において有用であると当業者において認識できる程度に薬理データを開示して記載することを要するものと解するのが相当である。

イ そこで、本願の特許請求の範囲の請求項4の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かについて検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明には、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患を対象とした薬理試験のデータといえるものはなんら記載されていない。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明は、薬理データが記載されていなくても、一般式(III)で示される三環式化合物が、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患の病理作用を軽減するための医薬として有用であると当業者に理解できる程度に記載されているといえるか否かについて検討する。
本願出願日当時は、上記の記載の摘示(イ)に記載されているように、一般式(III)で示される三環式化合物に類似する1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾール化合物が抗菌剤として有用であることが知られているだけであり、一般式(III)で示される三環式化合物の化学構造だけから、一般式(III)で示される三環式化合物が、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患の病理作用を軽減するための医薬として有用であることが予測できないことは明らかである。
次に、上記の記載の摘示の(カ)?(ク)には、一般式(III)で示される三環式化合物について、sPLA_(2)阻害剤として有用であることを示す実験例1?3が記載されているので、この実験例について検討する。
(イ)には、【従来の技術】として、sPLA_(2)阻害剤の開発が、「敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘導性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、リューマチ性関節炎などのようなsPLA_(2)の過剰産生によって誘導および/または維持される病状の一般的処置のために価値があろうと思われる」ことが記載されている。しかしながら、本願出願当時に、「敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘導性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、リューマチ性関節炎などのような」疾患の患者にsPLA_(2)の濃度が高まるとの現象が見られることが知られていたとしても、疾患の結果としてsPLA_(2)の濃度が高まったのか、sPLA_(2)の過剰産生が原因となってこれらの疾患が発症したかは不明であり、sPLA_(2)の過剰産生が原因となってこれらの疾患が発症することが技術常識であったとは認めることはできないし、また、sPLA_(2)の過剰産生が原因となってこれらの疾患が発症するとしても、ヒト等の哺乳動物の生命活動は多くの要因が関与する複雑な系であり、単にsPLA_(2)の生産を抑えれば疾患の治療ができるというものでもなく、上記の記載は単に出願人の推測を述べたものに過ぎない。
また、(エ)には、「三環式化合物の治療的使用」という表題のもと、「本明細書に記載する化合物は、主にヒトのsPLA_(2)の直接的な阻害によって有益な治療的効果を達成するものであり」と記載されており、その作用機序に関し「アラキドン酸カスケードにおいてアラキドン酸のアンタゴニストとして、または、5-リポキシゲナーゼ、シクロオキシゲナーゼなどのアラキドン酸カスケード中のアラキドン酸以降の他の活性物質のアンタゴニストとして、作用するのではないと考えられる。」と記載されているがいずれも出願人の見解あるいは推測が記載されているだけである。
したがって、これら従来技術に関する(イ)の記載、作用機序に関する(エ)の記載は、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物が、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったということを示すものではなく、本願明細書の発明の詳細な説明には、一般式(III)で示される三環式化合物がsPLA_(2)阻害剤として有用であることが(カ)?(ク)の実験例として記載されているとしても、このことをもって、発明の詳細な説明が、一般式(III)で示される三環式化合物が、敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患の病理作用を軽減するための医薬として有用であると当業者に理解できる程度に記載されているということはできない。

この点について、請求人は、平成21年7月3日付けの意見書において、参考資料1?13を引用して、本願出願当時(1997年10月23日当時)の技術常識を参酌すれば、明細書の発明の詳細な説明において医薬としての有用性が十分に裏付けられているといえると主張している。
そこで、この請求人の主張について順次検討する。まず、敗血症ショックについて請求人が引用した参考資料について検討する。参考資料1は、敗血症ショック患者に見られるsPLA_(2)濃度の上昇という現象を示すにとどまり、sPLA_(2)の過剰生産が原因となって敗血症ショックが発症することを示すものではない。このような文献をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物が敗血症ショックの治療において有用であることが、本願出願当時に技術常識であったとはいえない。また、参考資料2には、PLA_(2)阻害剤(SB203347)の投与により、マウス敗血症モデルの致死率が改善したことが示す実験データが記載されているが、この実験データは、SB203347という1化合物についての実験データであり、この1例をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物全般が、敗血症ショックの治療において有用であることが、本願出願当時に技術常識であったとはいえない。
次に、外傷誘発性ショックについて請求人が引用した参考資料について検討する。参考資料3は、術後誘発される多臓器不全(MOF)の患者に見られる重傷度が高い程sPLA_(2)濃度が高いという現象を示すにとどまり、sPLA_(2)の過剰生産が原因となって術後誘発される多臓器不全(MOF)が発症することを示すものではない。このような文献をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物が外傷誘発性ショックの治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。また、参考資料4(Gut 1998, 29:489-94)は、本願出願(1997年10月23日)の翌年の1998年の文献であり、この文献が直ちに本願出願時の技術常識を示すものとはいえないし、2化合物についてのデータであり、この2例をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物全般が、外傷誘発性ショックの治療において有用であることを示す文献であるとはいえない。。
次に、成人呼吸困難症について請求人が引用した参考資料について検討する。参考資料5は、ARDS患者の血中、肺胞洗浄液(BALF)においてsPLA_(2)活性が上昇したという現象を示すにとどまり、sPLA_(2)の過剰生産が原因となってARDSが発症することを示すものではない。このような文献をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物が成人呼吸困難症の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。
次に、膵炎について請求人が引用した参考資料について検討する。参考資料6、7は、健常人の値と比較して、壊死性膵炎、浮腫性膵炎においてsPLA_(2)濃度が高いという現象を示すにとどまり、sPLA_(2)の過剰生産が原因となって膵炎が発症することを示すものではない。このような文献をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物が膵炎の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。そして、参考資料8には、急性膵炎モデルにおいてsPLA_(2)阻害剤(BM16.2056)の投与により、膵臓障害(壊死、炎症など)の改善を示す実験データが記載されているが、この実験データは、BM16.2056という1化合物についての実験データであり、この1例をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物全般が、膵炎の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。
次に、気管支喘息について請求人が引用した参考資料について検討する。参考資料9は、喘息患者に抗原刺激を行ったところsPLA_(2)の増加が確認されたという現象を示し、喘息患者において、気管収縮や気道浮腫を引き起こすアラキドン酸の生成にsPLA_(2)が重要な役割を担っているとの著者の見解を示すにとどまり、sPLA_(2)の過剰生産が原因となって気管支喘息が発症することを示すものではない。このような文献をもって、sPLA_(2)2阻害活性を有する化合物が気管支喘息の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。
次に、アレルギー性鼻炎について請求人が引用した参考資料について検討する。参考資料10は、アレルギー性鼻炎患者の鼻洗浄液においてsPLA_(2)活性が上昇したという現象を示し、アレルギー性鼻炎の炎症プロセスにおける関与を示唆するにとどまるものであり、sPLA_(2)の過剰生産が原因となってアレルギー性鼻炎が発症することを示すものではない。このような文献をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物がアレルギー性鼻炎の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。
次に、リウマチ性関節炎について請求人が引用した参考資料について検討する。参考資料11は、リウマチ患者や変形性関節炎患者の血清中のPLA_(2)活性が健常人の血清中のsPLA_(2)活性と比べて高いという現象を示すにとどまり、sPLA_(2)の過剰生産が原因となってリウマチ性関節炎が発症することを示すものではない。このような文献をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物がリウマチ性関節炎の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。
次に、関節炎一般について請求人が引用した参考資料について検討する。参考資料12は、人為的にsPLA_(2)を関節に注入することにより関節炎が発症したことを示すにとどまり、自然に発症する関節炎が、sPLA_(2)の過剰生産が原因となって発症することを示すものではない。このような文献をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物が関節炎の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。そして、参考資料13には、カラゲニン足浮腫のラットにsPLA_(2)阻害剤(YM-26734)を投与すると、浮腫、白血球の浸出を低下させたことを示す実験データが記載されているが、この実験データは、YM-26734という1化合物についての実験データであり、この1例をもって、sPLA_(2)阻害活性を有する化合物全般が、関節炎の治療において有用であることが本願出願当時に技術常識であったとはいえない。
以上のとおりであり、請求人の主張は理由がない。

また、上記の記載の摘示(エ)の第2段落以降は、sPLA_(2)の治療的に有効な量は通常の方法によって検定すれば容易に決定できるということが、(オ)には、製剤・用法・用量に関する説明が、(カ)には、製剤例が記載されており、いずれも、一般式(III)で示される三環式化合物の医薬としての有用性を示すものではない。

以上のとおりであるから、本願出願時の技術常識を参酌しても、本願明細書の発明の詳細な説明は、一般式(III)で示される三環式化合物が敗血性ショック、成人呼吸困難症、膵炎、外傷誘発性ショック、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、・・・(省略)・・・置換多発性軟骨症及び関連する疾患の病理作用を軽減するための医薬として有用であると当業者に理解できる程度に記載されているということはできない。

4.むすび
したがって、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-01 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-18 
出願番号 特願平10-520585
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 弘實 謙二
星野 紹英
発明の名称 置換三環化合物群  
代理人 新田 昌宏  
代理人 田村 恭生  
代理人 坪井 有四郎  
代理人 鮫島 睦  

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