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審決分類 |
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 B62M 審判 一部無効 2項進歩性 B62M |
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管理番号 | 1216542 |
審判番号 | 無効2009-800166 |
総通号数 | 127 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-07-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-07-30 |
確定日 | 2010-04-18 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3563390号発明「自転車の速度切換装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3563390号に係る発明についての出願は、2001年(平成12年)12月15日(パリ条約による優先権主張1999年(平成11年)12月15日、大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成16年6月11日にその発明について特許の設定登録がなされた。 これに対し、平成20年6月6日に請求人(株式会社シマノ)より別途無効審判の請求がなされ(無効2008-800103号事件)、平成20年11月4日に被請求人(エムビーアイ・カンパニー、リミテッド)より答弁書及び訂正請求書が提出され、平成20年12月17日に請求人より弁駁書が提出され、特許庁は、平成21年3月25日に上記無効2008-800103号事件について、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」旨との審決をした。 さらに、請求人は、原告として知的財産高等裁判所に上記審決について審決取消を求めて出訴したが、平成21年12月15日に「原告の請求は棄却する。」旨の判決がなされ、平成22年1月5日にその判決が確定した。 一方、平成21年7月30日に請求人(寺澤澄人)より新たに本件無効審判の請求がなされ、平成21年10月22日に被請求人(エムビーアイ・カンパニー、リミテッド)より答弁書及び訂正請求書(この訂正は上記無効2008-800103号事件の上記平成20年11月4日の訂正と同じ内容のものである。)が提出され、平成21年11月27日に請求人により弁駁書が2通提出され、平成22年1月22日に被請求人により答弁書が再度提出され、平成22年2月5日付けで書面審理通知がなされたものである。 II.訂正について 本件にかかる平成21年10月22日付けの訂正と全く同じ内容の訂正である無効2008-800103号事件にかかる平成20年11月4日付けの訂正が知的財産高等裁判所で認められ、確定しているので、本件特許はすでに訂正されているものであるから、本件にかかる平成21年10月22日付けの訂正の可否については、検討するまでもなく認められるべきものである。 なお、訂正請求書第3頁第6?7行で訂正事項8について、「周囲」と記載されているが、訂正明細書では「周面」と記載されており、これは、「周面」と記載すべき明らかな誤記である。 III.本件発明 本件特許請求の範囲は上記平成21年10月22日付けの訂正によって訂正されたので、その請求項1乃至12に係る発明は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 駆動スプロケットの駆動力を受ける従動スプロケットと; 前記従動スプロケットの一側に固定され複数の遊星歯車を具えたキャリアと、前記遊星歯車の各段に噛合し内周面にラチェット歯が形成された少なくとも2つの太陽歯車と、前記遊星歯車の他側に噛合するリング歯車を含む変速部と; 前記キャリア及びリング歯車によって回転して後輪に動力を伝達するハブシェルと、前記キャリアとハブシェルの間に又は前記リング歯車とハブシェルの間に位置して動力を選択的に媒介するクラッチ手段を含む出力部と; 爪位置付け部を具えたハブシャフトと、少なくとも2つの太陽歯車のラチェット歯に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪と、内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リングと、外周面に溝とひっかかり部(審決注:「ひっかり部」は誤記)が形成され変速媒介部を通じて爪制御リングの位置を切換える切換ディスクと、前記切換ディスクの位置を復帰させるためのばねと、前記切換ディスクを自由に動かすための間隔維持部とを含む変速制御部と;からなり、 前記各爪は、前記爪制御リングの内側に位置して当該爪制御リングの内周面の溝に位置可能な押し部と、前記太陽歯車のラチェット歯に係合又は解除可能なストッパ部とから形成され、前記爪制御リングが、前記太陽歯車のラチェット歯と前記ハブシャフトの外径面との間に位置することがない、 自転車の速度切換装置。」(以下「本件特許発明」という。) 「【請求項2】 前記変速制御部の爪制御リングの内周面に、前記少なくとも2組の爪のうちの同じ太陽歯車に係合し又は解除される1組の爪を位置制御する溝が当該爪制御リングの中心に対して対称的に形成される、請求項1の速度切換装置。 【請求項3】 前記爪制御リングの溝のうちで、前記1組の爪を制御する溝と他の前記1組の爪を制御する溝とが当該爪制御リングの中心に対し等角度の間隔で形成されない、請求項2の速度切換装置。 【請求項4】 前記爪が、ハブシャフトの爪位置付け部に等角度の間隔で装着される、請求項1の速度切換装置。 【請求項5】 前記爪が、爪制御リングの内側に位置する押し部と、前記太陽歯車の内周面に形成されたラチェット歯に係合し又は解除されるストッパ部とを有する、請求項1の速度切換装置。 【請求項6】 前記爪制御リングから遠く離れたところに位置する爪に、厚さが爪本体より薄い延長部が構成され、前記爪とその他の構成要素との係合を妨げるようになっている、請求項5の速度切換装置。 【請求項7】 前記変速媒介部が、爪制御リングの一側面に形成されるスプライン溝と、前記スプライン溝に連結され連結溝が形成された連結部と、前記連結溝に設置され切換ディスクの凹凸部に連結され、回転運動を媒介するポークリングを有する、請求項1の速度切換装置。 【請求項8】 前記間隔維持部が、キャリアと前記維持部の間に位置するベアリングを支持する支持部と、前記ハブシャフトに固定される固定ディスクと、前記固定ディスクに固定され、切換ディスクに形成されるアーク溝を通じて前記支持部に接触する多数個のスペーサピンを有する、請求項1の速度切換装置。 【請求項9】 前記支持部が回転可能で、貫通孔が形成されている、請求項8の速度切換装置。 【請求項10】 前記爪が3組以上構成される場合、複数の爪制御リングが各々の爪の間に装着される、請求項1の速度切換装置。 【請求項11】 前記クラッチ手段が、ピン群が形成されたクラッチリングと、前記キャリアとリング歯車の外周面に形成された傾斜部を有する、請求項1の速度切換装置。 【請求項12】 前記クラッチ手段が、遊星歯車の周面と前記ハブシェルとの間の空間に設置される第1爪と、前記ハブシェルの内側部に形成されるリング歯車部を有する、請求項1の速度切換装置。」 なお、無効2008-800103号事件の平成21年12月15日付けの判決において、訂正請求書の「ひっかり部」の記載を「ひっかかり部」の誤記と認定されたので、この審決においても同様に認定した。 IV.請求人及び被請求人の主張の概略 1.請求人の主張 (1)無効理由1 本件特許発明(請求項1に係る発明)は、当業者が実施できるように明確かつ十分に明細書の詳細な説明に記載されていないために、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明に係る特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。 (2)無効理由2 本件特許発明は、公知技術と同一の発明であるから特許法第29条第1項に該当し、特許を受けることができないものであり、本件特許発明に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。 (3)無効理由3 本件特許発明は、甲第4号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。 証拠方法 甲第1号証:平成21年10月22日付け答弁書の第10頁 甲第2号証:平成21年10月22日付け答弁書の第15頁 甲第3号証:平成21年10月22日付け答弁書の第14頁 甲第4号証:特開平7-10069号公報 甲第5号証:特開平6-263080号公報 甲第6号証:特開平6-227477号公報 甲第7号証:請求項1の構成要件と公知技術を対比する表 甲第8号証:訂正請求書に添付された特許請求の範囲の写し 2.被請求人の主張 (1)無効理由1について 当業者が明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識に基づき、本件特許発明を実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されているから、特許法第123条第1項第4号に該当せず、本件特許発明に係る特許は無効とすべきものではない。 (2)無効理由2及び3について 請求人は、審判請求書において、何らの先行技術に関する証拠も提示しておらず、どのような先行技術に対して、本件特許発明が新規性又は進歩性を欠くと主張するのかも不明であり、特許法第123条第1項第2号に該当せず、本件特許発明に係る特許は無効とすべきものではない。 請求人は、平成21年11月27日付けの弁駁書において新たな証拠として、甲第4号証乃至甲第6号証を添付して、本件特許発明は、これらに基づいて容易に発明をすることができたものと主張しているが、このような新たな証拠に基づく無効理由の主張は、審判請求書の要旨変更であって、特許法第131条の2第1項の規定に違反するものであり、同第2項における補正不許可の決定がなされるべきものである。 また、これらの証拠について検討してみても、甲第4号証の発明に甲第5号証と甲第6号証のものを組み合わせることができないものである上に、たとえ組み合わせてみても本件特許発明の構成及び作用効果を生じるものではなく、本件特許発明は甲第4号証乃至甲第6号証から容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第123条第1項第2号に該当せず、本件特許発明に係る特許は無効とすべきものではない。 証拠方法 乙第1号証:伊藤茂、「メカニズムの事典」、理工学社、1983年5月10日第1版発行 乙第2号証:特開平7-10069号公報 乙第3号証:特公昭52-5735号公報 乙第4号証:特公昭52-49619号公報 乙第5号証:平成21年(行ケ)第10114号判決(添付された審決を含む) 乙第6号証:平成21年(行ケ)第10114号判決が確定したことの証明書(写し) V.当審の判断 A.無効理由1について 1.2組の爪と2つの太陽歯車のラチェット歯の切換構造について (1)請求人の主張 請求人は 、本件特許発明の装置が、低速から中速、中速から高速に速度を切り換える際の各爪を外側に突出させる構造が記載されておらず、また、爪が外側に突出することで、太陽歯車のラチェット歯に係合させる構造が記載されていないことから、明細書が実施可能に記載されていないと主張している。 さらに、請求人は、弁駁書にて、爪を外側に付勢するためのばねを配置するにしても、爪の形状、爪の配置、及びラチェット歯の位置を踏まえた上で、爪を外側に付勢するためのばねを、どのような位置に、どのように配置するかを明細書の詳細な説明に明確かつ十分に記載しなければならない旨の主張をしている。 (2)当審の判断 本件特許発明には、「爪位置付け部を具えたハブシャフトと、少なくとも2つの太陽歯車のラチェット歯に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪と、内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リング」と、「各爪は、爪制御リングの内側に位置して当該爪制御リングの内周面の溝に位置可能な押し部と、太陽歯車のラチェット歯に係合又は解除可能なストッパ部とから形成され」ることが特定されている。 これらから、本件特許発明においては、ハブシャフトの爪位置付け部に装着される各爪の押し部が、爪制御リングの内周面の溝によって位置制御され、それによって、各爪のストッパ部がそれぞれ太陽歯車のラチェット歯に係合又は係合解除されることが明確である。 そして、そのための具体的な構成については、明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに技術常識から明らかであることを以下に示す。 「【0012】 ・・・図5及び図6に示されるように、前記変速制御部の爪制御リング(430)の内周面には、爪(421、422)の位置を制御するために、溝が中心に対して対称的に形成されている。 前記溝は、一対の傾斜溝(431)と角溝(432)が、交互に形成されるのを特徴とし、これは爪制御リング(430)の内周面に形成される。前記溝は、等角度の間隔で形成されてはいないが、前記爪(421、422)は爪位置付け部(411)に等角度の間隔で装着されるようにし、爪の中で一対の爪のみ、選択的に、円滑に制御されるようにする。 【0013】 また、前記爪(421、422)は、図7に示されるように、前記爪制御リング(430)の内側に位置する押し部(421a、422a)と、複数の太陽歯車(231、232)の内周面に形成されたラチェット歯(231a、232a)に係合し又は解除されるストッパ部(421b、422b)とからなる。・・・」 なる記載があるとともに、図6には、第1爪(421)、第2爪(422)がハブシャフトの爪位置付け部(411)に装着され各爪の各押し部が爪制御リング(430)の溝(431)に位置することが図示されている。 また、図5には、第1爪(421)がハブシャフトの爪位置付け部(411)の溝に装着された状態で爪の上記先端部が溝(431)に沿って突出するように回動した状態が記載されている。 さらに、第2爪についても同様な状態が図9Cに示されている。 これらの動作については、中速状態において、「第1爪(421)は、外側に突出され、その結果、爪制御リング(430)の第1太陽歯車(231)の内側に形成されたラチェット歯(231a)に係合する。」(段落【0018】)ことが図9Bとともに記載されており、高速状態において、「第2爪(422)は角溝(432)に位置して、出た突出状態になり、第2爪(421)(注:(422)の誤記)は第2太陽歯車(232)に形成されたラチェット歯(231a)(注:(232a)の誤記)に係合する。」(段落【0020】)ことが図9Cとともに記載されている。 そして、図7の第1爪(421)、第2爪(422)の斜視図から明らかなように、それぞれの爪は、押し部(421a、422a)とストッパ部(421b、422b)が一体のものとして構成されていることから、押し部(421a、422a)が爪制御リング(430)の内周面の溝(431、432)に位置することで、ハブシャフト周面の爪位置付け部において、外側に突出すれば、同じくストッパ部(421b、422b)も外側に突出して、その先端部が各太陽歯車のラチェット歯に係合することは明らかである。 このように各爪のストッパ部はラチェット歯に係合可能とされ、押し部は、爪制御リング(430)の内周面の溝(431、432)における一種のカム作用によって位置制御されている。 ところで、爪をラチェットに係合させる場合もカム作用による位置制御を行う場合もそれらをばねによって付勢しておくことは、技術常識である。(「メカニズムの事典」(乙第1号証の126ページ17.19及び17.20、141ページの18.24及び18.25を参照のこと) そして、このような技術常識からして、本件明細書及び図面に記載された各爪が、各制御リングの内周面の溝の方向に、また、太陽歯車の内周面のラチェット歯の方向に付勢されており、爪の押し部の先端が爪制御リングの先端に位置すれば、外側に突出し、同時に爪のストッパ部が太陽歯車のラチェット歯に係合するような構成となっていることは、明細書に記載するまでもなく自明なことである。 また、当該自転車の変速装置の分野において、変速作用をなすための爪を付勢するために通常、リング状のばねが用いられることも周知慣用である。(必要があれば、特開平7-10069号公報(乙第2号証)の制御爪12a、13a、ラチェット爪7が爪ばねにより付勢される点(段落【0008】、段落【0009】を参照のこと)、特公昭52-5735号公報(乙第3号証)の自動変速用の爪24,ばね25(第1図を参照のこと)の点、特公昭52-49619号公報(乙第4号証)の爪451、スプリング454の点(第1図、第2図を参照のこと)を参照されたい。) さらに、本件特許明細書の図7、図6、図3には、上記周知例と同様なリング状のばねの様なものが記載されている。 具体的には、図6の斜視図において、第2爪(422)の左端に形成された溝に挿入されたばねの様なものが記載され、図7の展開斜視図においては第2爪(422)の左側と第1爪(421)の右側に、それぞれリング状のばねの様なものが記載されている。図3の断面図においても、第2爪(422)の左端の溝内に黒丸として表示され、第1爪(421)のストッパ部の右端の溝内に黒丸としてばねの様なものが表示されている。 してみれば、自転車の変速装置における爪が爪ばねによって付勢されていることが、当業者にとって技術常識または周知慣用の手段であり、また、本件発明はそのような付勢手段の具体的構造を特徴とするものではないので、それ以上の記載を要しないだけである。 以上のとおり、本件明細書、図面の記載並びに技術常識からして、本件発明の実施例における第1爪(421)、第2爪(422)が外側に突出することが実施不可能であるとはいえない。 よって、低速から中速、中速から高速に速度を切り換える際の各爪を外側に突出させる構造や、爪が外側に突出することで太陽歯車のラチェット歯に係合させる構造については、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されているとするのが相当である。 2.切換デイスクの位置を復帰させるためのばねについて (1)請求人の主張 (1-1)請求人は、請求項1に係る発明の「切換ディスクの位置を復帰させるためのばね」について実施可能に記載されていないと主張し、特に、このばねが具体的にどのような形態でどのような位置にどのように設けられているのか記載されていないと主張している。 (1-2)請求人は、爪(421、422)が、溝(431、432)に嵌ると抜け出せないために、爪制御リングが逆転できずに、ばねによって爪制御リング及び切換ディスクを復帰させることはできないと主張し、被請求人の答弁に対して、弁駁書にて、明細書にはそのような記載がないこと、図5では爪(421、422)の外側面が凹に湾曲しているので溝の角部で押せないことを主張している(弁駁書第3ページ第27行?第5ページ第15行)。 (1-3)請求人は、高速から中速にする場合に、爪制御リングを中速状態の位置で位置決めする構造が明細書に記載されておらず、また、爪制御リング、爪形状が新規であるために従来の技術を適用できない旨の主張をしている。 (2)当審の判断 (2-1)本件特許発明における発明特定事項である「切換ディスクの位置を復帰させるためのばね」については、本件特許明細書に「変速制御部は、・・・外周面に溝(451)とひっかかり部(452、図5参照)が形成され変速媒介部(440)を通じて爪制御リング(430)の位置を切換える切換ディスク(450)と、前記切換ディスク(450)の位置を復帰させるためのばね(460)と、前記切換ディスクを自由に動かすための間隔維持部とからなる。」(段落【0011】)と、実施例における「ばね(460)」として記載されている。 そして、本件特許明細書の図3に、ばね(460)は固定ディスク(472)を一体的に図面右側からハブシャフト(410)に固定する円板状部材と切換ディスク(450)との間に配置することが示されている。なお、固定ディスク(472)がハブシャフト(410)に固定されることは、段落【0014】に記載されている。 このように、ばね(460)がハブシャフト(410)側の固定部材と切換ディスク(450)との間に設けられることは、ばね(460)は切換ディスク(450)が変速段を上げるために所定回転した後に、元の変速段に戻すために、切換ディスク(450)を復帰させるためのものであることからも当然の構成である。 また、切換ディスク(450)が回転すると爪制御リング(430)も一体的に回転するものであり、その構成は、図7ととともに段落【0014】に「前記変速媒介部(440)は、爪制御リング(430)の一側面に形成されるスプライン溝(433)と、このスプライン溝(433)に連結され連結溝(441a)が形成された連結部(441)と、前記連結溝(441a)に設置され切換ディスク(450)のスプライン部(453)に連結され、回転運動を媒介するポークリング(442)とからなる。」と記載されている。 以上から、切換ディスク(450)の位置を復帰させるためのばね(460)が、どの箇所にどのように設けられており、このばね(460)によって切換ディスク(450)が復帰する際に爪制御リング(430)と一体回転するための構成も明らかである。 (2-2)爪が爪制御リングの内周面の溝に位置した後に、爪制御リング及び切換ディスクがばねによって復帰できるか否かを検討する。 本件発明の図9Aの低速状態においては、第1爪(421)、第2爪(422)とも、その先端が溝(431、432)に位置しておらず、倒伏した状態である。 この状態から中速とするには、ワイヤ等によって切換ディスクを所定角度回転することで、爪制御リングも一体的に所定角度だけ図示で右回転する。この図9Bの中速状態では、第1爪(421)の先端が溝(431)に位置することで外側に突出する。 この状態から高速とするには、ワイヤ等によって切換ディスクをさらに所定回転することで、爪制御リングも一体的にさらに所定角度だけ図示で右回転する。この図9Cの高速状態では、第1爪(421)の爪制御リングの内周面に沿って倒伏し、第2爪(422)の先端が溝(432)に位置することで外側に突出する。 この高速状態から中速状態に戻す場合は、切換ディスクに対するワイヤ等の拘束を外すことで、切換ディスクの位置を復帰させるためのばねの付勢力によって切換ディスクが中速状態まで図示で左回転して、上記中速状態に戻る。 請求人は、この高速状態から中速状態(中速状態から低速状態)に戻すことができないと主張しているが、本件発明の図5や図9A?Cから、第2爪(422)が溝(432)に位置した状態から、爪制御リングが左回転することで第2爪(422)が再び倒伏して中速状態となるのは明らかである。 図9Cの高速状態では、第2爪(422)の先端が溝(432)に位置して、第2爪(422)は外側に突出している。この状態から、切換ディスクがばねの力に応じて回転力を与えられ、それと一体に回転する爪制御リングが図示で左回転を生じる。この際に、爪制御リングの溝(432)(図9Cにおいて最も下側の溝)の左側角部が第2爪(422)の側面を押しながら左回転をすることになる。これによって、当然に第2爪(422)は、ハブシャフトの周面に倒伏されることになる。 したがって、切換ディスク及び爪制御リングは、特別の困難もなく中速状態へ復帰する回転を行い、同時に各爪も位置制御されるものである。 このことは、中速状態から低速状態に戻る場合も同様であって、図9Bにおける溝(431)(最も右側の溝)の下側角部が第1爪(421)に作用する。 また、爪(421、422)と溝(431、432)とは、一種のカムとカム溝との作用をしているのであって、爪が溝から抜け出すことができないような形状とすることなどあり得ないことは技術常識であり、爪(421、422)が溝(431、432)から抜け出すための形状関係が明細書の詳細な説明に記載されていないために発明が実施できないという請求人の主張は、技術常識に反したものである。 したがって、爪が爪制御リングの溝にはまり込んだ状態からは、爪制御リングを逆回転できず、ばねによって爪制御リング及び切換デイスクを復帰させることはできないという請求人の主張は採用できないものであり、この点については、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されているとするのが相当である。 (2-3)切換ディスク(450)の回転によって爪制御リング(430)が一体的に回転することは、上述した以外にも明細書の各所に記載されており、例えば、段落【0018】に「利用者がレバー(図示せず。)を引くとレバーに連結されているワイヤのような連結手段が引かれ、ここに連結された切換ディスク(450)が、一定角度回転される。 前記切換ディスクが或る角度回転すると、切換ディスク(450)のスプライン部(453)に連結されたポークリング(442)が回転するようになり、爪制御リング(430)も回転される。」と記載されるとおりである。 本件発明において、爪制御リング(430)は切換ディスク(450)によって従動的に位置決めされるもので、その点については従来からの一般的な切換ディスクと何ら変わるものではなく、爪制御リング独自の位置決め手段を必要とするものではないことは当然である。 爪制御リングが切換ディスクによって位置決めされることは、例えば、乙第2号証において、操作部材22(切換ディスクに相当)が一方のストロークエンドと他方のストロークエンド、及びその間の操作位置に操作され、それと一体的に変速スリーブ21が回転して位置決めされること(乙第2号証の段落【0011】を参照のこと)と同様である。 したがって、本件明細書に爪制御リングの位置決め構造が記載されていないために、本件特許発明が実施不可能であるということはあり得ない。 例えば、使用者が握り手にあるレバーを操作して、レバーと連結しているワイヤを引くあるいは放すことによって、ワイヤの位置決めを行う。位置決めされたワイヤは、レバー側に位置制御維持手段によって維持されることが、通常の慣用手段であり、その場合、変速制御部自体に位置を維持する手段を必要としないことは技術常識である。 よって、高速状態からレバーを操作して位置決めされたワイヤが中速状態に対応する位置に移動すれば、爪制御リング(430)の溝(431)に爪(421)が外方に突出して位置することになる。 3.小括 以上のとおりであるから、本件特許発明は、当業者が実施できるように明確かつ十分に明細書の詳細な説明に記載されていないために、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明に係る特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきであるとする請求人の主張は採用することができない。 B.無効理由2について 次に、無効理由2について検討する。 請求人は、審判請求書において、何らの先行技術に関する証拠も提示しておらず、どのような先行技術に対して、本件特許発明が新規性を欠くと主張するのかも不明であることから、特許法第123条第1項第2号には該当せず、本件特許発明に係る特許は無効とすべきものではない。 C.無効理由3について さらに、無効理由3について検討する。 被請求人は、平成22年1月22日付け答弁書において、弁駁書における新たな証拠(甲第4号証乃至甲第6号証)に基づく無効理由の主張は、審判請求書の要旨変更である旨を主張しているが、当審においては、審判請求書の要旨変更とはみなさず、無効理由3の証拠方法である甲第4号証乃至甲第6号について検討することにする。 1.甲第4号証?甲第6号証の記載事項 甲第4号証(特開平7-10069号公報)には、「自転車用内装変速ハブ」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 (A)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、自転車用内装変速ハブ、詳しくは、少なくとも3段階の変速が可能な内装変速ハブに関する。」 (B)「【0007】 【実施例】図1に示すように、左右一対のハブ鍔1a,1bを備えるハブ体1と、このハブ体1の一端側にハブ体1との相対回動を可能に配置した駆動体2とを、ボール3,4および玉押し5を介してハブ軸6に回動可能に取り付け、ハブ体1の内側にハブ体周方向に分散して位置する複数個の遊星ギヤ11・・を備える変速伝動機構10と、前記遊星ギヤ11よりハブ体1の奥側に位置する箇所にハブ体周方向に分散して位置する複数個のラチェット爪7・・とを、駆動体2とハブ体1との間に設けるとともに、ハブ軸6に外嵌してある変速スリーブ21を備える変速制御機構20によって前記変速伝動機構10を切り換え操作するように構成して、内装変速ハブを構成してある。この内装変速ハブは、自転車の車輪駆動に用いるものであり、ハブ軸6を車体フレームに締め付け固定することによって自転車用車体に組み付けるように、かつ、駆動体2をチェンギヤ2aによって回動駆動することにより、ハブ体1が回動して車輪駆動ができるようにしてある。そして、変速制御機構20の操作部材22に変速ワイヤ8を連結し、この変速ワイヤ8を引っ張り操作したり、緩め操作して変速制御機構20を操作することにより、変速伝動機構10が切り換わって駆動体2からハブ体1への伝動比が変化し、車輪駆動速度が低、中、高速の3段階に切り換わるようにしてあり、詳しくは、つぎのように構成してある。 【0008】前記変速伝動機構20は、前記駆動体2と、前記遊星ギヤ11と、この遊星ギヤ11が備える大径ギヤ部11aに咬合する第1太陽ギヤ12と、遊星ギヤ11が前記大径ギヤ部11aよりハブ体奥側に位置する箇所に備える第2太陽ギヤ13とでなり、つぎに詳述する如く3種の伝動状態に切り換わるように構成してある。すなわち、遊星ギヤ11は、ハブ体1と一体に回動するようにハブ体1に一体成形したリングギヤ部1cに咬合するように配置して、駆動体2に回動可能に取り付けてある。第1および第2太陽ギヤ12,13は、前記変速スリーブ21に回動可能に外嵌するリング形に形成してある。第1および第2太陽ギヤ12,13それぞれの内周側に、図2に示す如き制御爪12aまたは13aを取り付け、この制御爪12a,13aが基端側の取り付け部を中心にして揺動することにより、第1太陽ギヤ12、第2太陽ギヤ13が回動不能と回動可能とに切り換わるようにしてある。つまり、制御爪12a,13aがこれの基端側に付設してある爪ばね(図示せず)の起立付勢作用によって太陽ギヤ12,13の内周側に揺動し、図2に示す如く爪先端側が前記変速スリーブ21の切欠き孔24または25に入り込んでハブ軸6に備えてあるギヤ固定用突起6aに係止すると、制御爪12a,13aがロック姿勢になる。すると、ハブ軸6は車体に回動不能に締め付け固定されていて、制御爪12aを介して第1太陽ギヤ12に、または、制御爪13aを介して第2太陽ギヤ13にストッパー作用することにより、太陽ギヤ12,13は回動操作力が作用しても、回動しなくなる。そして、制御爪12a,13aが爪ばねに抗して揺動し、図2に示す如く爪先端側がハブ軸6の前記ギヤ固定用突起6aから外れると、制御爪12a,13aがロック解除姿勢になる。すると、ハブ軸6のストッパー作用が解除することにより、太陽ギヤ12,13は回動操作力が作用すると、自由に回動するようになる。したがって、第1太陽ギヤ12および第2太陽ギヤ13のいずれもが回動可能になると、駆動体2が回動駆動されて遊星ギヤ11がハブ軸6の軸芯周りで公転回動しても、遊星ギヤ11は太陽ギヤ12および13との咬合による変速作用も、ハブ体1のリングギヤ部1cとの咬合による伝動作用も行わない。このため、変速伝動機構10は、駆動体2の回動力をそのままの回転速度で前記ラチット爪7に伝達するように第1伝動状態になる。第1太陽ギヤ12が回転不能で、第2太陽ギヤ13が回転可能になると、駆動体2が回動駆動されるに伴い、遊星ギヤ11が公転回動すると同時に、第1太陽ギヤ12との咬合のために自転回動して増速作用するとともにリングギヤ部1cに伝動作用する。このため、変速伝動機構10は、駆動体2の回動力を遊星ギヤ11により増速してリングギヤ部1cに伝達するように第2伝動状態になる。第1太陽ギヤ12が回転可能で、第2太陽ギヤ13が回転不能になると、駆動体2が回動駆動されるに伴い、遊星ギヤ11が公転回動すると同時に、第2太陽ギヤ13との咬合のために自転回動して増速作用するとともリングギヤ部1cに伝動作用する。このため、変速伝動機構10は、駆動体2の回動力を遊星ギヤ11により増速してリングギヤ部1cに伝達するように第3伝動状態になる。この第3伝動状態では、遊星ギヤ11の大径ギヤ部11aと小径ギヤ11bとの径差に起因し、前記第2伝動状態での増速比よりも高い増速比で駆動体2の回動力を増速してリングギヤ部1cに伝達する。 【0009】前記ラチェット爪7は、駆動体2に起伏揺動するように取り付けてあるとともに、先端側が駆動体2からハブ体側に突出してハブ体1のラチェット歯部1dに係止する起立姿勢に爪ばね(図示せず)によって付勢してある。これにより、変速伝動機構10が前記第1伝動状態にあって遊星ギヤ11がリングギヤ部1cに伝動しない場合には、ラチェット爪7が駆動体2の回動力をハブ体1のラチェット歯部1dに伝達する。そして、変速伝動機構10が前記第2伝動状態または第3伝動状態にあって、遊星ギヤ11がリングギヤ部1cに伝動する場合には、ハブ体1がラチェット歯部1dによってラチェット爪7を倒伏側に押圧操作しながら回動することにより、ラチェット爪7はハブ体1に係止していながらも、ハブ体1が駆動体2に先行して回動することを許容する。 【0010】前記変速制御機構20は、前記変速スリーブ21と、この変速スリーブ21の一端側に位置する前記操作部材22と、変速スリーブ20の他端側に作用するリターンばね23とによって構成してある。変速スリーブ21には、図2に示すように、第1太陽ギヤ12の前記制御爪12aを操作するための前記切欠き孔24および第1操作筒部26を備え、かつ、第2太陽ギヤ13の前記制御爪13aを操作するための前記切欠き孔25および第2操作筒部27を備えてある。変速スリーブ21の一端側部分21aを玉押し5とハブ軸6との間を通して操作部材22に連結してあるとともに、玉押し5のスリーブ部分挿通孔のハブ軸周方向での長さのために、前記一端側部分21aが玉押し5を挿通しながらも変速スリーブ21がハブ軸6に対して回動することを可能にして、操作部材22と変速スリーブ21とが一体に回動することを可能にしてあることにより、操作部材22に連結した変速ワイヤ8を引っ張りあるいは緩め操作し、変速ワイヤの引っ張り力またはリターンばねの弾性復元力によって操作部材22をハブ軸芯周りで揺動操作することによって、変速制御機構20の切り換え操作ができるように、かつ、変速制御機構20が第1太陽ギヤ11および第2太陽ギヤ12を回動可能と回動可能とに切り換えて変速伝動機構10を前記第1、第2、第3伝動状態のいずれかに切り換え操作するように構成してある。すなわち、操作部材22がハブ軸芯周りで揺動して一方のストロークエンドに位置すると、変速スリーブ21が図2(イ)に示す第1回転位置になって、その第1操作筒部26および第2操作筒部27がハブ軸6のギヤ固定用突起6aに対して同図の如く位置する。すると、第1太陽ギヤ12および第2太陽ギヤ13が遊星ギヤ11からの操作力のために矢印方向に回動しようとすると、第1太陽ギヤ12とともに回動する制御爪12aは第1操作筒部26の傾斜端部26aによるガイド作用のために第1操作筒部26に乗り上がってギヤ固定用突起6aを乗り越えて行き、第2太陽ギヤ13とともに回動する制御爪13aは第2操作筒部27の傾斜端部27aによるガイド作用のために第2操作筒部27に乗り上がってギヤ固定用突起6aを乗り越えて行く。つまり、制御爪12aおよび13aが前記ロック解除姿勢になる。これにより、変速制御機構20は第1太陽ギヤ12および第2太陽ギヤ13のいずれもを回動可能に切り換え操作し、変速伝動機構10を前記第1速状態に切り換え操作する。操作部材22が一方のストロークエンドと他方のストロークエンドとの間の操作位置になると、変速スリーブ21が図2(ロ)に示す第2回転位置になって、その第1操作筒部26および第2操作筒部27がギヤ固定用突起6aに対して同図の如く位置する。すると、第1太陽ギヤ12の制御爪12aの先端側が変速スリーブ21の切欠き孔24に入り込んでギヤ固定用突起6aに係止する。これに対し、第2太陽ギヤ13が矢印方向に回動しようとすると、第2太陽ギヤ13とともに回動する制御爪13aが第2操作筒部27に乗り上がってギヤ固定用突起6aを乗り越えて行く。つまり、制御爪12aは前記ロック姿勢で、制御爪13aは前記ロック解除姿勢になる。これにより、変速制御機構20は第1太陽ギヤ12を回動不能で、第2太陽ギヤ13を回動可能に切り換え操作し、変速伝動機構10を前記第2伝動状態に切り換え操作する。操作部材22が他方のスロトークエンドに位置すると、変速スリーブ21が図2(ハ)に示す第3回転位置になって、その第1操作筒部26および第2操作筒部27がギヤ固定用突起6aに対して同図の如く位置する。すると、第1太陽ギヤ12が矢印方向に回動しようとすると、第1太陽ギヤ12とともに回動する制御爪12aが第1操作筒部26に乗り上がってギヤ固定用突起6aを乗り越えて行く。これに対し、第2太陽ギヤ13の制御爪13aの先端側が変速スリーブ21の切欠き孔25に入り込んでギヤ固定用突起6aに係止する。つまり、制御爪12aは前記ロック解除姿勢で、制御爪13aは前記ロック姿勢になる。これにより、変速制御機構20は第1太陽ギヤ12を回動可能で、第2太陽ギヤ13を回動不能に切り換え操作し、変速伝動機構10を前記第3伝動状態に切り換え操作する。 【0011】要するに、操作部材22に連結した変速ワイヤ8を引っ張り操作したり、緩め操作して操作部材22を回動操作することにより、変速スリーブ21が回動し、変速制御機構20の切り換え操作ができるとともに、変速制御機構20が変速伝動機構10を前記第1?第3伝動状態のいずれかに切り換え操作し、低速と中速および高速の3段階の速度状態のいずれかに切り換わる。すなわち、操作部材22を一方のストロークエンドに操作すると、変速スリーブ21が前記第1回転位置になって低速状態になる。つまり、図3(イ)に示すように、変速制御機構20が第1太陽ギヤ12と第2太陽ギヤ13のいずれもを回動可能に切り換え操作して変速伝動機構を第1伝動状態に切り換え操作する。このために、駆動体2を回動駆動すると、その回動力がそのままの回転速度でラチェット爪7からハブ体1のラチェット歯部1dに伝達し、ハブ体1が駆動体2と同じ回転速度で回動する。操作部材22を一方のストロークエンドと他方のストロークエンドとの間の操作位置に操作すると、変速スリーブ21が前記第2回転位置になって中速状態になる。つまり、図3(ロ)に示すように、変速制御機構20が第1太陽ギヤ12を回転不能で第2太陽ギヤ13を回転可能に切り換え操作して変速伝動機構10を前記第2伝動状態に切り換え操作する。このために、駆動体2を回動駆動すると、その回動力が遊星ギヤ11により増速してリングギヤ部1cに伝達し、ハブ体1が駆動体2の回動速度より高速度で回動する。操作部材22を他方のストロークエンドに操作すると、変速スリーブ21が前記第3回転位置になって高速状態になる。つまり、図3(ハ)に示すように、変速制御機構20が第1太陽ギヤ12を回転可能で第2太陽ギヤ13を回転不能に切り換え操作して変速伝動機構10を前記第3伝動状態に切り換え操作する。このために、駆動体2を回動駆動すると、その回動力が遊星ギヤ11により中速状態の場合より高い増速比で増速してリングギヤ部1cに伝達し、ハブ体1が駆動体2の回動速度より高速度で回動する。」 (C)「【0016】 ・・・駆動体2を構成するに、たとえばチェンギヤ2aおよび遊星ギヤ11を支持する駆動体部分と、ラチェット爪7を支持する駆動体部分とを別部品に形成して連結することにより、遊星ギヤ11やラチェット爪7などの支持を可能にするのであるが、如何なる具体構成を採用して実施してもよい。ラチェット爪7に替え、ボール式やローラ式の一方向伝動クラッチを採用して実施してもよい。したがって、これらを、一方向伝動手段7と総称する。・・・」 (D)上記摘記事項Bの「駆動体2をチェンギヤ2aによって回転駆動する」という記載と図1からみて、「チェンギヤ2aの一側に固定される駆動体2」であることが示されている。 (E)図1には、「外周面に変速ワイヤ8が嵌っている溝が形成された操作部材22」が示されている。 そうすると、上記記載事項からみて、上記甲第4号証には、 「チェンギヤ2aと; 前記チェンギヤ2aの一側に固定され複数の遊星ギヤ11を備えた駆動体2と、前記遊星ギヤ11の大径ギヤ部11aと小径ギヤ部11bのそれぞれに咬合し内周側に制御爪12a、13aが配置された第1太陽ギヤ12と第2太陽ギヤ13と、前記遊星ギヤ11の他側に咬合するリングギヤ部1cを含む変速伝導機構10と; 前記駆動体2及びリングギヤ部1cによって回転して動力を伝達するハブ体1と、前記駆動体2とハブ体1の間に位置して第1の伝導状態にある場合は回動力を伝達するラチェット爪7を含むものと; ハブ軸6と、第1太陽ギヤ12、第2太陽ギヤ13のそれぞれの内周側に取り付けられた取り付け部を中心に揺動する制御爪12a、13aが各々係合し又は解除される、前記ハブ軸6に設けられたギヤ固定用突起6aと、切欠き孔24、25と第1操作筒部26及び第2操作筒部27が形成され制御爪12a、13aの位置を制御する変速スリーブ21と、外周面に溝が形成され一端側部分21aを通じて変速スリーブ21の位置を切換える操作部材22と、前記操作部材22の位置を復帰させるためのリターンばね23とを含む変速制御機構20と;からなる、 自転車用内装変速ハブ」 の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。 甲第5号証(特開平6-263080号公報)には、「自転車用変速装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 (F)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、自転車のクランク軸部に設ける遊星歯車付きの自転車用変速装置に関するものである。」 (G)「【0016】10は前記したハンガワン5,7a及び鋼球11を介して回転自在に枢支されたクランク軸、12,13は各ハンガワン5,7aとクランク軸10との間に設けたオイルシールであり、14はクランク軸10の両端にそれぞれ嵌着したクランクアームである。 【0017】またギヤケース4内のクランク軸10に略円盤状のキャリヤ15を固着する。15aはキャリヤ15の中心部を形成するボス部で、その内周部15bはクランク軸10のセレーション部10aに嵌合している。 【0018】キャリヤ15の図1における右側端面には、複数個(本実施例では図2に示すように3個)の遊星歯車16を同一円周等分位置に軸17によりキャリヤ15に対して回転自在に枢支する。そして前記遊星歯車16の内側に、リング状の太陽歯車18を該遊星歯車16と噛合するよう設けると共に、前記キャリヤ15と太陽歯車18の間に一方向クラッチ19を設ける。 【0019】すなわち、図2に示すように、前記太陽歯車18の内周部にラチェット歯18aを刻設すると共に、それと対向するキャリヤ15に設けたボス部15aの外周部に複数個(本実施例では2個)の爪20を回動自在に枢着し、該爪20の遊端をばね21によって前記ラチェット歯18aに係合させるようにして一方向クラッチ19を構成する。 【0020】一方、前記遊星歯車16とギヤケース4との間に、その内周に内歯22aをもち、且つその外周にラチェット歯22bを刻設した内歯歯車22を設けて前記遊星歯車16と噛合させる。」 (H)「【0030】しかしながらキャリヤ15が矢印B方向に回転すると、前記太陽歯車18とキャリヤ15との間に介在させた一方向クラッチ19が働き、太陽歯車18はキャリヤ15と一体的に矢印Bの方向に回転する。従って遊星歯車24は太陽歯車18、軸25を介して図6の矢印Cの方向に公転する。・・・」 以上の記載事項と図2からみて、甲第5号証には、 「クランクアーム14により回転自在に枢支されたクランク軸10に略円板状のキャリヤ15を嵌合し、該キャリヤ15の外周に2つの爪20が設けられ、該2つの爪20がリング状の太陽歯車18の内周のラチェット歯18aに係合させて一方向クラッチ19を構成した、クランク軸部に設けた自転車用変速装置」が記載されているものと認められる。 甲第6号証(特開平6-227477号公報)には、「自転車用変速機の変速切換装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 (I)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、自転車のクランク軸部に設ける遊星歯車機構付きの自転車用変速機の変速切換装置に関するものである。」 (J)「【0017】図5?図9は、本発明の変速切換装置の第2実施例を示すもので、これは前記した一方向クラッチC_(2) を使用するものである。本実施例においては、ギヤケース4のケース本体4aの外周に開口4h (図6参照)を設け、そこに略ボックス状の爪台42を嵌着し、この爪台42内に前記各ラチェット歯20b, 21b, 22b にそれぞれ対応する爪43, 44, 45 (図7参照)を軸46により爪台42に対して回動自在に設け、これらの爪43, 44, 45の一端部(先端部)をそれぞれ対応するラチェット歯20b, 21b, 22b に係合するように付勢するばね47を各爪の遊端部と爪台42との間に設ける。 【0018】また前記爪台42の外周部42a に、前記爪43, 44, 45の他端部 (後端部) が突出し得る開口42b を設け、この爪台42の外周部42a に摺接する彎曲した変速帯板48(図7,8参照)に、前記爪43, 44, 45の他端部を嵌入させ得る開口49, 50, 51をそれぞれ位相をずらせて設け、この変速帯板48の一方をギヤケース4に植設したばね掛止杆36にコイルばね38を介して接続する。 【0019】また変速帯板48の他方をだるまねじ39とナット40を介して操作ワイヤー41に接続し、この操作ワイヤー41を変速レバー (図示せず) によって操作することにより前記爪43, 44, 45の一つを選択的に前記ラチェット歯20b, 21b, 22b の一つに係合できるようにして自転車用変速機の変速切換装置を構成する。なお52は爪台42の外周部42a に変速帯板48を挟むようにかぶせたカバーである。 【0020】つぎに上述のように構成した本発明装置の作用を説明する。変速操作装置(図示せず)を操作して、操作ワイヤー41を図2,6,7の矢印Aの方向に最大限まで引っ張ると、爪とラチェット歯の関係は図4,9の(a) の状態になる。すなわちこの場合、爪27, 28, 29または爪43, 44, 45がすべてラチェット歯20b, 21b, 22b との係合が解除されている。従って、従動回転体7とクランク軸10との間の一方向クラッチC_(3 )だけが接続している。 【0021】この状態でクランクアーム14を図2,6の矢印Bの方向に回転させると、クランク軸10、一方向クラッチC_(3 )を介して従動回転体7が矢印Bの方向へ回転すると共に、スプロケット8が同方向へ回転するから、チエーン(図示せず)を介して後輪が回転して自転車が走行する。この場合クランク軸10とスプロケット8との回転比は1:1で、所謂ローの状態である。 【0022】つぎに前記した状態から操作ワイヤー41を図2,6,7の矢印Cの方向に一段ゆるめると、爪ラチェット歯の関係は図4,9の(b) の状態になる。すなわちこの場合、図4のものでは、爪29が変速円筒32の開口35より突出してラチェット歯22b と係合して一方向クラッチC_(1) が接続する。従って内歯歯車22とギヤケース4との間が接続される。 【0023】また図9のものでは、爪45の後端部が変速帯板48の開口51内に落ち込むことにより、爪45の先端部がラチェット歯22b と係合して一方向クラッチC_(2) が接続する。従って内歯歯車22とギヤケース4との間が接続される。 【0024】この状態でクランクアーム14を図2,6,7の矢印Bの方向に回転させると、クランク軸10、遊星キヤリア15、軸17を介して遊星歯車16が図2,6の矢印Dの方向に公転するが、この場合内歯歯車22が一方向クラッチC_(1) , C_(2) によって矢印D方向の回転を阻止されているため、この内歯歯車22と噛合している遊星歯車16c が矢印Eの方向に自転する。ところが遊星歯車16a, 16b, 16c は一体的に形成されているので、遊星歯車16の回転によって内歯歯車20, 21は矢印Fの反対方向に回転するが、この場合内歯歯車20, 21とギヤケース4との間の一方向クラッチC_(1) またはC_(2) は接続していないから、内歯歯車20, 21は空転するだけである。 【0025】すなわち、遊星歯車16の自転は歯車16c によって定まる。従って遊星歯車16cと一体的に形成された遊星歯車16a と噛合している太陽歯車9及びそれと一体のスプロケット8が矢印G方向に増速されて回転することになる。本実施例における増速比は、1.87である。 【0026】また、前記した図4,9の(b) の状態から操作ワイヤー41を図2,6,7の矢印Cの方向にさらに一段ゆるめると、爪とラチェット歯の関係は図4,9の(c)の状態になる。すなわちこの場合、図4のものでは爪28が開口34より突出してラチェット歯21b と係合して一方向クラッチC_(1) を接続する。従って内歯歯車21とギヤケース4の間が接続する。 【0027】また図9のものでは、爪44の後端部が開口50内に落ち込むことにより、爪44の先端部がラチェット歯21b と係合して一方向クラッチC_(2) が接続する。従って内歯歯車21とギヤケース4との間が接続される。 【0028】この状態でクランクアーム14を図2,6の矢印Bの方向に回転させると、前の場合と同様にクランク軸10、遊星キヤリア15、軸17を介して遊星歯車16が図2,6の矢印Dの方向に公転するが、この場合内歯歯車21が一方向クラッチC_(1),C_(2)によって矢印D方向の回転を阻止されているため、この内歯歯車21と噛合している遊星歯車16b が矢印Eの方向に自転する。ところが遊星歯車16a, 16b, 16c は一体的に形成されているので内歯歯車20は矢印Fの反対方向に回転し、内歯歯車22は矢印F方向に回転させられるが、内歯歯車20, 22とギヤケース4との間の一方向クラッチC_(1),C_(2) は接続していないから、内歯歯車20, 22は空転するだけである。すなわちこの場合遊星歯車16の自転は歯車16b によって定まる。従って、遊星歯車16a と噛合している太陽歯車9およびそれと一体のスプロケット8が矢印G方向に前回よりさらに増速されて回転することになる。本実施例における増速比は、2.2 である。 【0029】また、前記した図4,9の(c) の状態から操作ワイヤー41を図2,6,7の矢印Cの方向にさらに一段ゆるめると、爪とラチェット歯の関係は図4,9の(d)の状態になる。すなわちこの場合、図4のものでは爪27が開口33より突出してラチェット歯車20b と係合して一方向クラッチC_(1) を接続する。従って内歯歯車20とギヤケース4との間が接続する。 【0030】また図9のものでは、爪43の後端部が開口49内に落ち込むことにより、爪43の先端部がラチェット歯20b と係合して一方向クラッチC_(2 )が接続する。従って内歯歯車20とギヤケース4との間が接続される。 【0031】この状態でクランクアーム14を図2,6の矢印Bの方向に回転させると、前の場合と同様にクランク軸10、遊星キヤリア15、軸17を介して遊星歯車16が図2,6の矢印Dの方向に公転するが、この場合内歯歯車20が一方向クラッチC_(1),C_(2)によって矢印D方向の回転を阻止されているため、この内歯歯車20と噛合している遊星歯車16a が矢印Eの方向に自転する。ところが遊星歯車16a, 16b, 16c は一体的に形成されているので内歯歯車21, 22は矢印Fの方向に回転させられるが、内歯歯車21, 22とギヤケース4との間の一方向クラッチC_(1),C_(2) は接続していないから、内歯歯車21, 22は空転するだけである。すなわちこの場合遊星歯車16の自転は歯車16a によって定まる。従って遊星歯車16a と噛合している太陽歯車9およびそれと一体のスプロケット8が矢印G方向に前回よりさらに増速されて回転することになる。この状態が所謂トップの状態で、本実施例における増速比は、2.6 である。 【0032】逆に減速する場合は、操作ワイヤー41を図2,6,7の矢印Aの方向に順に引っ張る。すなわち図4,9において(d) →(c) →(b) →(a) のように操作すれば良い。」 2.対比・判断 本件特許発明と甲4発明とを対比する。 a:本件特許発明と甲4発明はいずれも自転車の速度切換装置に関するものである。 b:甲4発明には、駆動スプロケットについて記載されていないが、甲4発明も自転車に関するものであることから、駆動チェーンに係合する駆動スプロケットを有していることは明らかであり、また、甲4発明の「チェンギヤ2a」は、駆動チェーンに係合可能なものであるから、本件特許発明の「駆動スプロケットの駆動力を受ける従動スプロケット」に相当する。 c:甲4発明の「遊星ギヤ11」、「備えた」「駆動体2」、「遊星ギヤ11の大径ギヤ部11aと小径ギヤ部11b」、「咬合」、「第1太陽ギヤ12と第2太陽ギヤ13」、「リングギヤ部1c」、「変速伝導機構10」は、それぞれ本件特許発明の「遊星歯車」、「具えた」「キャリア」、「遊星歯車の各段」、「噛合」、「2つの太陽歯車」、「リング歯車」、「変速部」に相当する。 d:甲4発明の「前記チェンギヤ2aの一側に固定され複数の遊星ギヤ11を備えた駆動体2と、前記遊星ギヤ11の大径ギヤ部11aと小径ギヤ部11bのそれぞれに咬合し内周側に制御爪12a、13aが配置された第1太陽ギヤ12と第2太陽ギヤ13と、前記遊星ギヤ11の他側に咬合するリングギヤ部1cを含む変速伝導機構10」と本件特許発明の「前記従動スプロケットの一側に固定され複数の遊星歯車を具えたキャリアと、前記遊星歯車の各段に噛合し内周面にラチェット歯が形成された少なくとも2つの太陽歯車と、前記遊星歯車の他側に噛合するリング歯車を含む変速部」とは、「前記従動スプロケットの一側に固定され複数の遊星歯車を具えたキャリアと、前記遊星歯車の各段に噛合した2つの太陽歯車と、前記遊星歯車の他側に噛合するリング歯車を含む変速部」である限りにおいて一致する。 e:甲4発明の「ハブ体1」、「ラチェット爪7」は、それぞれ本件特許発明の「ハブシェル」、「クラッチ手段」に相当し、甲4発明の「前記駆動体2及びリングギヤ部1cによって回転して動力を伝達するハブ体1と、前記駆動体2とハブ体1の間に位置して第1の伝導状態にある場合は回動力を伝達するラチェット爪7を含むもの」と本件特許発明の「前記キャリア及びリング歯車によって回転して後輪に動力を伝達するハブシェルと、前記キャリアとハブシェルの間に又は前記リング歯車とハブシェルの間に位置して動力を選択的に媒介するクラッチ手段を含む出力部」とは、「前記キャリア及びリング歯車によって回転して動力を伝達するハブシェルと、前記キャリアとハブシェルの間に位置して動力を選択的に媒介するクラッチ手段を含む出力部」である限りにおいて一致する。 f:甲4発明の「ハブ軸6」は、本件特許発明の「ハブシャフト」に相当する。 g:甲4発明の「ハブ軸6と、第1太陽ギヤ12、第2太陽ギヤ13のそれぞれの内周側に取り付けられた取り付け部を中心に揺動する制御爪12a、13aが各々係合し又は解除される、前記ハブ軸6に設けられたギヤ固定用突起6aと、切欠き孔24、25と第1操作筒部26及び第2操作筒部27が形成され制御爪12a、13aの位置を制御する変速スリーブ21」と本件特許発明の「爪位置付け部を具えたハブシャフトと、少なくとも2つの太陽歯車のラチェット歯に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪と、内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リング」とは、「ハブシャフトと、2つの太陽歯車のハブシャフトへの係合又は解除を制御する係合・解除手段」である限りにおいて一致する。 h:甲4発明の「一端側部分21a」、「操作部材22」、「リターンばね23」、「変速制御機構20」は、それぞれ本件特許発明の「変速媒介部」、「切換ディスク」、「ばね」、「変速制御部」に相当し、甲4発明の「外周面に溝が形成され一端側部分21aを通じて変速スリーブ21の位置を切換える操作部材22と、前記操作部材22の位置を復帰させるためのリターンばね23と、を含む変速制御機構20」と本件特許発明の「外周面に溝とひっかかり部が形成され変速媒介部を通じて爪制御リングの位置を切換える切換ディスクと、前記切換ディスクの位置を復帰させるためのばねと、前記切換ディスクを自由に動かすための間隔維持部とを含む変速制御部」とは、「外周面に溝が形成され変速媒介部を通じて係合・解除手段を切換える切換ディスクと、前記切換ディスクの位置を復帰させるためのばねとを含む変速制御部」である限りにおいて一致する。 そうすると、両者は、 「駆動スプロケットの駆動力を受ける従動スプロケットと; 前記従動スプロケットの一側に固定され複数の遊星歯車を具えたキャリアと、前記遊星歯車の各段に噛合した2つの太陽歯車と、前記遊星歯車の他側に噛合するリング歯車を含む変速部と; 前記キャリア及びリング歯車によって回転して動力を伝達するハブシェルと、前記キャリアとハブシェルの間に位置して動力を選択的に媒介するクラッチ手段を含む出力部と; ハブシャフトと、2つの太陽歯車のハブシャフトへの係合又は解除を制御する係合・解除手段と、外周面に溝が形成され変速媒介部を通じて係合・解除手段を切換える切換ディスクと、前記切換ディスクの位置を復帰させるためのばねとを含む変速制御部と;からなる、 自転車の速度制御装置。」 の点で一致し、以下の各点で相違する。 <相違点1> キャリア及びリング歯車によって回転して動力を伝達するハブシェルにおいて、動力を伝達する先が、本件特許発明では「後輪」であるのに対して、甲4発明では、明記されていない点。 <相違点2> 2つの太陽歯車をハブシャフトに係合・解除可能に配置する構成について、本件特許発明では、「2つの太陽歯車」を「内周面にラチェット歯が形成された少なくとも2つの太陽歯車」とし、「ハブシャフトと、2つの太陽歯車のハブシャフトへの係合又は解除を制御する係合・解除手段」を「爪位置付け部を具えたハブシャフトと、少なくとも2つの太陽歯車のラチェット歯に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪と、内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リング」とし、「外周面に溝が形成され変速媒介部を通じて係合・解除手段を切換える切換ディスク」を「外周面に溝とひっかかり部が形成され変速媒介部を通じて爪制御リングの位置を切換える切換ディスク」とし、「変速制御部」に「切換ディスクを自由に動かすための間隔維持部」を含むとしているのに対して、甲4発明では、「2つの太陽歯車」を「内周側に制御爪12a、13aが配置された2つの太陽歯車12、13」とし、「ハブシャフトと、2つの太陽歯車のハブシャフトへの係合又は解除を制御する係合・解除手段」を「ハブシャフトと、2つの太陽歯車12、13のそれぞれの内周側に取り付けられた取り付け部を中心に揺動する制御爪12a、13aが各々係合し又は解除される、前記ハブシャフトに設けられたギヤ固定用突起6aと、切欠き孔24、25と第1操作筒部26及び第2操作筒部27が形成され制御爪12a、13aの位置を制御する変速スリーブ21」とし、「外周面に溝が形成され変速媒介部を通じて係合・解除手段を切換える切換ディスク」を「外周面に溝が形成され変速媒介部を通じて変速スリーブ21の位置を切換える切換ディスク」とし、「変速制御部」には、間隔維持部を有していない点。 <相違点3> 本件特許発明では、「前記各爪は、前記爪制御リングの内側に位置して当該爪制御リングの内周面の溝に位置可能な押し部と、前記太陽歯車のラチェット歯に係合又は解除可能なストッパ部とから形成され、前記爪制御リングが、前記太陽歯車のラチェット歯と前記ハブシャフトの外径面との間に位置することがない」構成を有しているのに対して、甲4発明では、当該構成を有していない点。 上記各相違点について検討する。 <相違点1>について 自転車は、クランクアームを回転して駆動チェーンを介して後輪に動力を伝達するのが一般的であり、甲4発明において、ハブシェルからの動力を後輪に伝達することに格別の困難性はない。 <相違点2>について 本件特許発明は、太陽歯車を「内周面にラチェット歯が形成された少なくとも2つの太陽歯車」とし、ハブシャフトを「爪位置付け部を具えたハブシャフト」とし、「少なくとも2つの太陽歯車のラチェット歯に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪」を設けたものとし、「内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リング」を設けたものである。 そして、ハブシャフトに取り付けられた爪は、爪制御リングにより外側に突出された状態と突出されていない状態とに制御され、当該「突出された状態」においてラチェット歯と係合することにより、太陽歯車とハブシャフトとを係合した状態とし、一方、当該「突出されていない状態」においてラチェット歯と係合しないことにより、太陽歯車とハブシャフトとの係合を解除した状態とするものである。 すなわち、本件特許発明は、ラチェット歯と爪との係合・解除による、太陽歯車とハブシャフトとの係合・解除の制御を、内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リングによる爪の制御により実現しているものである。 一方、甲4発明は、太陽歯車を「内周側に制御爪12a、13aが配置された2つの太陽歯車12、13」とし、ハブシャフトを「2つの太陽歯車12、13のそれぞれの内周側に取り付けられた取り付け部を中心に揺動する制御爪12a、13aが各々係合し又は解除される、前記ハブシャフトに設けられたギヤ固定用突起6a」を備えたものとし、さらに「切欠き孔24、25と第1操作筒部26及び第2操作筒部27が形成され制御爪12a、13aの位置を制御する変速スリーブ21」を設けたものである。 そして、ハブシャフトのギヤ固定用突起6aに対する切欠き孔24の周方向位置を変更することによりギヤ固定用突起6aと制御爪12aとが係合する状態と係合しない状態との制御を行い、2つの太陽歯車のうちの一方の太陽歯車とハブシャフトとの係合した状態と、係合を解除した状態とを選択できるようにしたものであり、同様に、ハブシャフトのギヤ固定用突起6aに対する切欠き孔25の周方向位置を変更することによりギヤ固定用突起6aに制御爪13aが係合する状態と係合しない状態との制御を行うことにより、2つの太陽歯車のうちの他方の太陽歯車とハブシャフトとの係合した状態と、係合を解除した状態とを選択できるようにしたものである。 すなわち、甲4発明は、ギヤ固定用突起6aと制御爪12a、13aとの係合・解除による、太陽歯車とハブシャフトとの係合・解除の制御を、ギヤ固定突起の軸方向に並ぶ変速スリーブ21の制御により実現しているものである。 そうすると、甲4発明における、ギヤ固定用突起6aと制御爪12a、13aは、それらの機能からみて、それぞれ本件特許発明1のラチェット歯と爪に対応すると考えられるものの、甲4発明の、切欠き孔24、25を形成した変速スリーブ21が、内周面に溝を形成した爪制御リングに相当するものではないから、本件特許発明の、「内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リング」を備えているとはいえない。 また、甲第5号証には、前述したように「クランクアーム14により回転自在に枢支されたクランク軸10に略円板状のキャリヤ15を嵌合し、該キャリヤ15の外周に2つの爪20が設けられ、該2つの爪20がリング状の太陽歯車18の内周のラチェット歯18aに係合させて一方向クラッチ19を構成した、クランク軸部に設けた自転車用変速装置」が記載されているものと認められるが、このクランク軸10は車輪の中心部に車輪を回転自在に支持するような「ハブシャフト」ではなく、人が足によって回転させるクランクアーム14と一体に回転するもので、まして、請求人の主張する「ハブシャフトに爪が取り付けられること」は記載も示唆もされていないし、上述の「内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リング」についても記載も示唆もない。 次に、請求人は、甲第6号証に記載された「変速板帯48」が、本件特許発明の「爪制御リング」に該当すると主張している。 しかしながら、甲第6号証に記載のものも、ハブシャフトではなくクランク軸10を対象としたものあって、請求人が爪制御リングに該当するという変速板帯48による制御の対象となっている爪43?45は、太陽歯車9の外周部のさらに外側の内歯歯車20?22のさらに外側に位置する爪台42に取り付けられている(段落【0017】を参照のこと)。 よって、このような爪を制御する変速板帯48は、本件特許発明の「ハブシャフトに取り付けられていて、太陽歯車のラチェット歯との係合・解除を行う爪の制御を行う爪制御リング」に相当するものではない。 また、この変速板帯48の開口49?51は、本件特許発明の「爪制御リングの内周面の溝」に相当するものではない。 したがって、甲第6号証にも「内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リング」が記載されてはいない。 以上のとおりであるから、甲4発明における「2つの太陽歯車」を「内周側に制御爪12a、13aが配置された2つの第1太陽歯車12、13」とし、「ハブシャフトと、2つの太陽歯車のハブシャフトへの係合又は解除を制御する係合・解除手段」を「ハブシャフトと、2つの太陽歯車12、13のそれぞれの内周側に取り付けられた取り付け部を中心に揺動する制御爪12a、13aが各々係合し又は解除される、前記ハブシャフトに設けられたギヤ固定用突起6aと、切欠き孔24、25と第1操作筒部26及び第2操作筒部27が形成され制御爪12a、13aの位置を制御する変速スリーブ21」とし、「外周面に溝が形成され変速媒介部を通じて係合・解除手段を切換える切換ディスク」を「外周面に溝が形成され変速媒介部を通じて変速スリーブ21の位置を切換える切換ディスク」とし、「変速制御部」には、間隔維持部を有していないことにかえて、「2つの太陽歯車」を「内周面にラチェット歯が形成された少なくとも2つの太陽歯車」とし、「ハブシャフトと、すくなくとも2つの太陽歯車のハブシャフトへの係合又は解除を制御する係合・解除手段」を「爪位置付け部を具えたハブシャフトと、少なくとも2つの太陽歯車のラチェット歯に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪と、内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リング」とし、「外周面に溝が形成され変速媒介部を通じて係合・解除手段を切換える切換ディスク」を「外周面に溝とひっかかり部が形成され変速媒介部を通じて爪制御リングの位置を切換える切換ディスク」とし、「変速制御部」に「切換ディスクをを自由に動かすための間隔維持部」を含むとすることは、当業者が容易になし得るものであるとすることはできない。 <相違点3>について 上記<相違点2>について、において検討したとおり、甲第4号証乃至甲第6号証には、爪を制御する爪制御リングの内周面に、爪を制御するための溝を形成することが、記載されていない。 また、請求人は、甲第5号証に記載された「爪20」と甲第6号証に記載された「爪43?45」が、それぞれ本件特許発明の「爪のストッパ部」と「爪の押し部」に該当すると主張しているが、甲第4号証乃至甲第6号証のいずれにも、一つの爪を爪制御リングの溝に位置可能な押し部と太陽歯車に係合又は解除可能なストッパ部から構成したものは開示されていないことから、上記請求人の主張は採用できない。 そうすると、それ以上の詳細を検討するまでもなく、本件特許発明において「前記各爪は、前記爪制御リングの内側に位置して当該爪制御リングの内周面の溝に位置可能な押し部と、前記太陽歯車のラチェット歯に係合又は解除可能なストツパ部とから形成され、前記爪制御リングが、前記太陽歯車のラチェット歯と前記ハブシャフトの外径面との間に位置することがない」構成を有するものとすることを、当業者が容易になし得るものであるとすることはできない。 以上のとおり、相違点2及び3に係る本件特許発明の構成は、甲第4号証乃至甲第6号証の記載から当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 よって、本件特許発明は甲第4号証乃至甲第6号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 3.小括 以上のとおり、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであるとする請求人の主張は採用することができない。 VI.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明(請求項1に係る発明)に係る特許を無効とすることはできない。 審判にかかる費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 自転車の速度切換装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 駆動スプロケットの駆動力を受ける従動スプロケットと; 前記従動スプロケットの一側に固定され複数の遊星歯車を具えたキャリアと、前記遊星歯車の各段に噛合し内周面にラチェット歯が形成された少なくとも2つの太陽歯車と、前記遊星歯車の他側に噛合するリング歯車を含む変速部と; 前記キャリア及びリング歯車によって回転して後輪に動力を伝達するハブシェルと、前記キャリアとハブシェルの間に又は前記リング歯車とハブシェルの間に位置して動力を選択的に媒介するクラッチ手段を含む出力部と; 爪位置付け部を具えたハブシャフトと、少なくとも2つの太陽歯車のラチェット歯に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪と、内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リングと、外周面に溝とひっかり部が形成され変速媒介部を通じて爪制御リングの位置を切換える切換ディスクと、前記切換ディスクの位置を復帰させるためのばねと、前記切換ディスクを自由に動かすための間隔維持部とを含む変速制御部と;からなり、 前記各爪は、前記爪制御リングの内側に位置して当該爪制御リングの内周面の溝に位置可能な押し部と、前記太陽歯車のラチェット歯に係合又は解除可能なストッパ部とから形成され、前記爪制御リングが、前記太陽歯車のラチェット歯と前記ハブシャフトの外径面との間に位置することがない、 自転車の速度切換装置。 【請求項2】 前記変速制御部の爪制御リングの内周面に、前記少なくとも2組の爪のうちの同じ太陽歯車に係合し又は解除される1組の爪を位置制御する溝が当該爪制御リングの中心に対して対称的に形成される、請求項1の速度切換装置。 【請求項3】 前記爪制御リングの溝のうちで、前記1組の爪を制御する溝と他の前記1組の爪を制御する溝とが当該爪制御リングの中心に対し等角度の間隔で形成されない、請求項2の速度切換装置。 【請求項4】 前記爪が、ハブシャフトの爪位置付け部に等角度の間隔で装着される、請求項1の速度切換装置。 【請求項5】 前記爪が、爪制御リングの内側に位置する押し部と、前記太陽歯車の内周面に形成されたラチェット歯に係合し又は解除されるストッパ部とを有する、請求項1の速度切換装置。 【請求項6】 前記爪制御リングから遠く離れたところに位置する爪に、厚さが爪本体より薄い延長部が構成され、前記爪とその他の構成要素との係合を妨げるようになっている、請求項5の速度切換装置。 【請求項7】 前記変速媒介部が、爪制御リングの一側面に形成されるスプライン溝と、前記スプライン溝に連結され連結溝が形成された連結部と、前記連結溝に設置され切換ディスクの凹凸部に連結され、回転運動を媒介するポークリングを有する、請求項1の速度切換装置。 【請求項8】 前記間隔維持部が、キャリアと前記維持部の間に位置するベアリングを支持する支持部と、前記ハブシャフトに固定される固定ディスクと、前記固定ディスクに固定され、切換ディスクに形成されるアーク溝を通じて前記支持部に接触する多数個のスペーサピンを有する、請求項1の速度切換装置。 【請求項9】 前記支持部が回転可能で、貫通孔が形成されている、請求項8の速度切換装置。 【請求項10】 前記爪が3組以上構成される場合、複数の爪制御リングが各々の爪の間に装着される、請求項1の速度切換装置。 【請求項11】 前記クラッチ手段が、ピン群が形成されたクラッチリングと、前記キャリアとリング歯車の外周面に形成された傾斜部を有する、請求項1の速度切換装置。 【請求項12】 前記クラッチ手段が、遊星歯車の周面と前記ハブシェルとの間の空間に設置される第1爪と、前記ハブシェルの内側部に形成されるリング歯車部を有する、請求項1の速度切換装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、自転車の速度切換装置に関し、特に、自転車や、その他チェーンとスプロケット等を利用する動力伝達装置において、後輪のハブに、内装歯車を構成して速度を切換え、ハブシャフトに取付けられた制御手段を利用し、前記内装歯車を制御することで、見た目によく、速度切換の操作が容易で、速度切換の際、すぐにその効果が発生し、騒音や振動を発生させることなく、速度の段数を容易に拡張することが出来る自転車の速度切換装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 一般的に、自転車には、速度切換装置が装着され、場合によっては、車椅子、及びペダルを利用するおもちゃの自転車等にも、速度切換装置が装着されることもある。 一般的な自転車の速度切換装置としては、普通、異なる直径のスプロケットを前輪、或いは、後輪に設置し、スプロケットを調節して、速度を切換える方法が使用されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、このような一般的な速度切換装置は、多くのスプロケットが一ヵ所に装着されるので、かさ張りが大きくなるだけではなく、特に、速度切換の時、騒音や衝撃が発生する問題点があった。 これに対して、代案として自転車等の後輪のハブの内部に設置される内装歯車方法の速度切換装置があり、これはハブシェルの中に小型の歯車等と制御手段を構成して、歯車の歯数比によって、速度を切換えるものである。 前記のような内装歯車方式の速度切換装置の例の1つとして、日本公開特許公報平7-10069号の自転車用内装歯車タイプの変速ハブを挙げることができる。 前記内装歯車方式の速度切換装置は、図1に示されるように、ハブシャフト(6)と駆動体(2)と、回転自在のハブ体(1)と、少なくとも2つの歯車部(11a、11b)に各々に係合する少なくとも2個の太陽歯車(12,13)を具える変速伝動機構(10)と、前記駆動体(2)と前記ハブ体(1)との間に設けられ、ハブ体(1)が駆動体(2)に先行して回転することを許容する一方向駆動手段(7)と、前記ハブ体(1)に固設し、遊星歯車(11)に係合するリング歯車部(1c)と、複数個の太陽歯車(12,13)の回転状態を切り換えて、前記変速伝動機構(10)を切換操作する変速制御部(20)で構成される。 【0004】 従って、前記変速制御部(20)を操作することにより、駆動体(2)の回転力が一方向駆動手段(7)からハブ体(1)に伝動する低速状態と、前記駆動体(2)の回転力が増速して、遊星歯車(11)からリング歯車部(1c)に伝達する。少なくとも2段階の高速状態とに切換えが出来る。 すなわち、低速状態にあっては、駆動体2の回転力が一方向伝動手段(7)によって、ハブ体(1)に直接伝達されるが、高速状態に転換するためには、変速制御部20を調節して、太陽歯車12、13の中で1つが選択的に固定され、駆動体(2)の回転により、遊星歯車(11)が選択的に固定された太陽歯車に噛合いしている状態で、リング歯車等(1c)とともに回転する。 【0005】 この場合には、太陽歯車の歯数、遊星歯車(11)の歯数、及びリング歯車部(1c)の歯数比に従って速度が調節されるが、固定された太陽歯車で、回転する遊星歯車(11)の回転速度が、一方向伝動手段(7)の速度を越えて、リング歯車部(1c)に伝達されるので、高速運転が可能になる。 また、前記変速制御部(20)の作用は、図2a乃至図2cに示されるように、太陽歯車(12、13)の一側に設置される制御爪(12a、13a)と、歯車固定用突起(6a)及び変速スリープ(21)により、作動するようになる。すなわち、制御爪(12a、13a)が変速スリーブ(21)に固定し太陽歯車が固定されるか、又は制御爪(12a、13a)から太陽歯車を解除して、各段の変速が起こるのである。 【0006】 低速状態では、図2aで示されるように、歯車固定用突起(6a)によって、2つの制御爪(12a、13a)が変速スリーブ(21)から解除される。しかし、第1高速状態では、図2bに示されるように、一方の制御爪(12a)が変速スリーブ(21)に固定され、一方の太陽歯車(13)のみ回転が出来、この場合には、遊星歯車(11)の半径が大きい部分が、太陽歯車(12)と噛合する。 これに対して、もう一方の制御爪(13a)が変速スリーブ(21)に固定されるようになり、前記の場合とは違って、太陽歯車(12)が回転可能になって、図2aで示されるように、遊星歯車(11)の半径が小さい部分が太陽歯車(12)に噛合する。すなわち、第2高速状態である。 【0007】 しかし、前記のような速度切換装置の速度制御方式では、制御爪(12a、13a)が両方に設置されているので、自転車の利用者が変速レバーを引いた後に、制御爪(12a、13a)が作動するまでには、効果が発生せず、最大限、車輪が回転した後に、作動するという問題が発生する。 前記の問題点は制御爪を2つ以上設置することで、或る程度解決することが出来るが、変速スリーブ(21)の形状を変えなければならず、歯車固定用突起(6a)にも、変形が加えられなければならないため、制御爪の数を増やすには、限界がある。 また、前記制御爪が作動しない時には、制御爪(12a、13a)と変速スリーブ(21)の間に、常に摩擦が発生して、騒音と摩擦による摩耗も起こる問題点がある。 さらに、遊星歯車を拡張して3段以上の速度切換装置を作る時には、前記の問題点がもっとひどくなる。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明の目的は、後輪のハブに、内装歯車を構成して速度を切換させ、ハブシャフトに取付けられた制御手段を利用し、前記内装歯車を制御することで、見た目によく、速度切換の操作が容易で、速度切換の際、すぐにその効果が発生し、騒音や振動することなく、変速の段数を容易に拡張することが出来る自転車の速度切換装置を提供することにある。 【0009】 このような目的による観点として、本発明は、駆動スプロケットの駆動力を受ける従動スプロケットと;前記従動スプロケットの一側に固定され複数の遊星歯車を具えたキャリアと、前記遊星歯車の各段に噛合し内周面にラチェット歯が形成された少なくとも2つ以上の太陽歯車と、前記遊星歯車の他側に噛合するリング歯車を含む変速部と;前記キャリア及びリング歯車によって回転して後輪に動力を伝達するハブシェルと、前記キャリアとハブシェルの間に又は前記リング歯車とハブシェルの間に位置して動力を選択的に媒介するクラッチ手段を含む出力部と;爪位置付け部を具えたハブシャフトと、少なくとも2つの太陽歯車のラチェット歯に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪と、内周面に溝が形成され、少なくとも2組の爪の位置を制御する爪制御リングと、外周面に溝とひっかり部が形成され変速媒介部を通じて爪制御リングの位置を切換える切換ディスクと、前記切換ディスクの位置を復帰させるためのばねと、前記切換ディスクを自由に動かすための間隔維持部とを含む変速制御部と;からなり、前記各爪は、前記爪制御リングの内側に位置して当該爪制御リングの内周面の溝に位置可能な押し部と、前記太陽歯車のラチェット歯に係合又は解除可能なストッパ部とから形成され、前記爪制御リングが、前記太陽歯車のラチェット歯と前記ハブシャフトの外径面との間に位置することがなく構成して達成される。 【0010】 【発明の実施の形態】 図3及び図4に示されるように、本発明の自転車の速度切換装置は、概略、駆動スプロケット(図示せず。)の駆動力が伝達される従動スプロケット(100)と、変速部と、出力部と、変速制御部とからなる。 変速部は、従動スプロケット(100)の一側に固定され複数の遊星歯車(220)が具備されたキャリア(210)と、遊星歯車(220)の各段に噛合し、内周面にラチェット歯(231a、232a)が形成された、少なくとも2つの太陽歯車(231、232)と、前記遊星歯車(220)のもう一方の側に噛合するリング歯車(240)とからなる。 出力部は、キャリア(210)及びリング歯車(240)によって後輪に動力を伝達するハブシェル(310)と、前記キャリア(210)とハブシェル(310)の間に、又は前記リング歯車(240)とハブシェル(310)の間に位置して、動力を選択的に媒介するクラッチ手段(320)とからなる。 【0011】 変速制御部は、爪位置付け部(411)を具えたハブシャフト(410)と、2つ以上の太陽歯車(231、232)のラチェット歯(231a、232a)に各々係合し又は解除される少なくとも2組の爪(421、422)と、少なくとも2組の爪(421、422)の位置を制御する爪制御リング(430)と、外周面に溝(451)とひっかかり部(452、図5参照)が形成され変速媒介部(440)を通じて爪制御リング(430)の位置を切換える切換ディスク(450)と、前記切換ディスク(450)の位置を復帰させるためのばね(460)と、前記切換ディスクを自由に動かすための間隔維持部とからなる。 【0012】 本実施例では、クラッチ手段(320)は、ピン群が形成されたクラッチリングと、キャリア(210)とリング歯車(240)の外周面に形成された傾斜部(241)で構成され、クラッチリングの相対的な位置移動により、キャリア(210)或いは、リング歯車(240)とハブシェル(310)が一体となって回転するようになる。 しかし、場合によって、前記クラッチリングと傾斜部(241)の代わりに、ラチェット歯とラチェット爪を使用することができる。 図5及び図6に示されるように、前記変速制御部の爪制御リング(430)の内周面には、爪(421、422)の位置を制御するために、溝が中心に対して対称的に形成されている。 前記溝は、一対の傾斜溝(431)と角溝(432)が、交互に形成されるのを特徴とし、これは爪制御リング(430)の内周面に形成される。前記溝は、等角度の間隔で形成されてはいないが、前記爪(421、422)は爪位置付け部(411)に等角度の間隔で装着されるようにし、爪の中で一対の爪のみ、選択的に、円滑に制御されるようにする。 【0013】 また、前記爪(421、422)は、図7に示されるように、前記爪制御リング(430)の内側に位置する押し部(421a、422a)と、複数の太陽歯車(231、232)の内周面に形成されたラチェット歯(231a、232a)に係合し又は解除されるストッパ部(421b、422b)とからなる。 前記爪制御リング(430)から遠く離れたところに位置する爪(422)には、厚さが爪本体より薄い延長部(422c)を構成して、爪422とその他の構成要素との係合を妨げるようにする。 【0014】 以下の説明をしやすくするために、爪制御リング(430)から近いところに位置する太陽歯車(231)(以下、第1太陽歯車)と係合する爪を第1爪(421)として、太陽歯車(232)と係合する爪を第2爪(422)とする。 前記変速媒介部(440)は、爪制御リング(430)の一側面に形成されるスプライン溝(433)と、このスプライン溝(433)に連結され連結溝(441a)が形成された連結部(441)と、前記連結溝(441a)に設置され切換ディスク(450)のスプライン部(453)に連結され、回転運動を媒介するポークリング(442)とからなる。 また、前記間隔維持部(470)は、キャリア(210)とこの維持部の間に位置するベアリング(50:図3参照)を支持する支持部(471)と、ハブシャフト(410)に固定される固定ディスク(472)と、この固定ディスク(472)に固定され、切換ディスク(450)に形成されるアーク溝(454)を通じて、前記支持部(471)に接触する複数のスペーサピン(473)とからなる。 【0015】 前記支持部(471)は回転可能で、貫通孔(471a)が形成されていて、変速媒介部(440)の回転を阻止しないようにしている。 図8は、本発明の自転車の速度切換装置の他の実施形態を示す断面図で、3段の遊星歯車(220)とこの遊星歯車(220)の各段に噛合する3つの太陽歯車(231、232、233)で構成され、この太陽歯車(231、232、233)の回転を制御する変速制御部も、4段に拡張したものを示している。 すなわち、3組以上の爪を構成する場合には、各々の爪の間に、複数の爪制御リングが装着される。 その構成要素等は、形態の変形以外には、以前の実施例と一致する。 【0016】 以上のように、本発明によると、速度段を拡張することが可能で、爪制御リングが設置された部分で、実際的な速度制御が出来るので、速度の段階を拡張しても、構成要素等の設置には制約が殆どない。 従って、必要によっては4段を超える段階にも拡張が出来る。 上記のような構成を具えている本発明の自転車の速度変速装置の動作を以下に説明する。 低速、中速、及び高速の状態を、図3乃至図7、図9A乃至図9Cに示された実施例について説明する。 【0017】 1.低速状態 低速状態では、図9Aに示されるように、前記爪(421、422)がともに爪制御リング(430)の位置制御溝(431、432)に位置せず、第1及び第2太陽歯車(231、232)と噛合していない状態である。 自転車のペダルを踏んで、従動プロケット(100)が回転すると、この従動スプロケットと(100)に固着されているキャリア(210)が回転するようになり、クラッチ手段(320)を通じてハブシエル(310)へ、その回転力が伝達される。 この時、前記太陽歯車(231、232)と噛合している遊星歯車(220)が、キャリア(210)の回転につれてともに回転するようになるが、前記遊星歯車(220)と噛合している太陽歯車(231、232)は自由状態なので、遊星歯車(220)は空転する。 【0018】 2.中速状態 中速状態では、図9Bに示されるように変速制御部が位置する。すなわち、利用者がレバー(図示せず。)を引くとレバーに連結されているワイヤのような連結手段が引かれ、ここに連結された切換ディスク(450)が、一定角度回転される。 前記切換ディスクが或る角度回転すると、切換ディスク(450)のスプライン部(453)に連結されたポークリング(442)が回転するようになり、爪制御リング(430)も回転される。 従って、第1爪(421)は、外側に突出され、その結果、爪制御リング(430)の第1太陽歯車(231)の内側に形成されたラチェット歯(231a)に係合する。 この時、第2爪(422)は、半分くらい出た突出状態になり、これは次の段階の変速のため、爪制御リング(430)の動きに敏感に反応して、騒音が殆ど発生しない効果がある。 前記のような中速の結合関係で、従動スプロケット(100)が回転すると、キャリア(210)が同時に回転するようになり、このキャリア(210)に付着された、遊星歯車(220)がともに回転する。ここで、遊星歯車の大径段(第1段)は、第1爪(421)によって固定された第1太陽歯車(231)に噛合い、キャリア(210)より速く回転する。この中速状態の速度比は、歯数によって計算すれば、キャリア(210)の回転速度を1とすると、以下のように表現される。 【0019】 速度比=1+(遊星歯車第1段の歯数/リング歯車の歯数)×(第1太陽歯車の歯数/遊星歯車第1段の歯数)=1+(第1太陽歯車の歯数/リング歯車の歯数) 本実施例では、低速状態に比べて約1.5倍程度の速度の増加がある。 すなわち、遊星歯車(220)を通じるリング歯車(240)の回転が、キャリア(210)の回転速度より速くなり、この時クラッチリング(320)は、先行する方のみ作用するようになっているので、リング歯車(240)を通じる回転力がハブシェル(310)に伝達される。 【0020】 3.高速状態 中速状態で、利用者がレバーを一度引くと、変速ディスク(450)が回転されて、図9Cに示すように高速状態になる。 切換ディスク(450)が或る角度回転すると、前記中速の場合と同様に、この切換ディスク(450)のスプライン部(453)に連結されたポークリング(442)が回転するようになり、爪制御リング(430)も回転される。 従って、第1爪(421)は、ハブシャフト(410)の爪位置付け部(411)の内側に位置し、第2爪(422)は角溝(432)に位置して、出た突出状態になり、第2爪(421)は第2太陽歯車(232)に形成されたラチェット歯(231a)に係合する。 前記のような結合関係において、ペダルを踏んで、従動スプロケット(100)が回転すると、キャリア(210)が同時に回転するようになり、遊星歯車(220)がともに回転する。ここで、遊星歯車(220)小径段(第2段)は、第2爪(422)によって固定された第1太陽歯車(232)に噛合して、キャリア(210)より速く回転する。この高速状態の速度比は、歯数によって計算すれば、キャリア(210)の回転速度を1とすると、以下のように表現される。 速度比=1+(遊星歯車第1段の歯数/リング歯車の歯数)×(第2太陽歯車の歯数/遊星歯車第2段の歯数) 本実施例では、低速状態に比べて約2倍程度の速度の増加がある。 すなわち、中速の場合と同様に、遊星歯車(220)を通じるリング歯車(240)の回転が、キャリア(210)の回転速度より速くなり、この時クラッチリング(320)は、先行する方のみ作用するようになっているので、回転力がハブシェル(310)に伝達される。 第2実施例の場合には、3組の爪(421、422、423)を制御して、前記の低速、中速、高速の速度段を提供する。 【0021】 図10は、本発明の自転車の速度切換装置の実施形態3を示す断面図で、全体的な構成は前記の実施例と似ている。 ここで、遊星歯車(220)の設置方向を前記実施例と反対に構成し、クラッチ手段(320)としてクラッチベアリングを使用する代わりに、遊星歯車(220)の設置方向の変更によって発生する空間に、第1爪(321)を構成し、ハブシェル(310)の内側部にリング歯車部(322)を形成する(図3及び図8参照)。 また、爪制御リング(430)に固着され、ディスク(443)を貫通して切換ディスク(450)に連結されるピン(444)が爪制御リング(430)と切換ディスク(450)の間に設置される。(また、図10に示されるように、ディスク(443)はベアリング(50)を支持する。) 前記第1爪(321)は、遊星歯車(220)の軸に設置されるばね(321a)によって、リング歯車部(322)と係合する。 従って、従動スプロケット(100)から伝達される回転力は、速度切換段に拘らず、第1爪(321)とリング歯車部(322)の係合によって、ハブシェル(310)へ伝達される。 【0022】 また、図11は、本発明の第4実施例を示す断面図で、第3実施例と同様に、遊星歯車(220)の設置方向を、前記実施例と反対に構成し、クラッチ手段(320)としてクラッチベアリングを使用する代わりに、遊星歯車(220)の設置方向の変更によって発生する空間に、第2爪(323)を構成する。 また、その外周部に遊星歯車(220)と第2爪(323)とともに、係合するリング歯車(242)を構成して、前記リング歯車(242)とハブシェル(310)の間に、設置され係合する第3爪(324)を構成する。 その他の構成要素は、前記第3実施例と同一である。 従って、低速状態の場合には、従動スプロケット(100)から伝達される回転力は、第2爪(323)とリング歯車(242)に連結され第3爪(324)を通じてハブシェル(310)へ伝達される。 中速状態や高速状態では、従動スプロケット(100)から伝達される回転力は、遊星歯車(220)とリング歯車(242)と第3爪(324)を通じてハブシェル(310)へ伝達される。 中速状態や高速状態であっても、第2爪(323)はリング歯車(242)とも係合を維持しているが、遊星歯車(220)から伝達される回転がより速いので、実際的に結合は発生しいない。 【0023】 【産業上の利用可能性】 上記に説明されたように、本発明の自転車の速度切換装置は、自転車やその他のチェーンとスプロケット等を利用する動力伝達装置において、後輪のハブに、内装歯車を構成して速度を切換え、ハブシャフトに取付けられた制御手段を利用し、前記内装歯車を制御することで、見た目によく、速度切換の操作が容易で、速度切換の際、すぐにその効果が発生し、騒音や振動することなく、変速の段数を容易に拡張することが出来る効果がある。 【図面の簡単な説明】 【図1】従来の自転車の速度切換ハブの部分断面図。 【図2】従来の自転車の速度切換ハブの速度切換装置の各変速段であって、変速部の状態を示す概略図。 【図3】本発明の装置の断面図。 【図4】図3のA-A線に沿った断面図。 【図5】本発明の自転車の速度切換装置の変速制御部を示す断面図。 【図6】本発明の自転車の速度切換装置の変速制御部を示す斜視図。 【図7】本発明の自転車の速度切換装置の変速制御部を示す分解斜視図。 【図8】本発明の自転車の速度切換装置の他の実施形態を示す断面図。 【図9A】本発明の自転車の速度切換装置の低速状態での変速制御部の状態を示す概略図。 【図9B】本発明の自転車の速度切換装置の中速状態での変速制御部の状態を示す概略図。 【図9C】本発明の自転車の速度切換装置の高速状態での変速制御部の状態を示す概略図。 【図10】本発明の自転車の速度切換装置の実施形態3を示す断面図。 【図11】本発明の自転車の速度切換装置の実施形態4を示す断面図。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2010-02-23 |
結審通知日 | 2010-02-25 |
審決日 | 2010-03-09 |
出願番号 | 特願2001-545146(P2001-545146) |
審決分類 |
P
1
123・
121-
YA
(B62M)
P 1 123・ 536- YA (B62M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柳田 利夫、黒瀬 雅一 |
特許庁審判長 |
寺本 光生 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 横溝 顕範 |
登録日 | 2004-06-11 |
登録番号 | 特許第3563390号(P3563390) |
発明の名称 | 自転車の速度切換装置 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 寺崎 史朗 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 寺崎 史朗 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |