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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F03G
管理番号 1216586
審判番号 不服2009-12667  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-13 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 特願2007-556913「車両用ホイールエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日国際公開、WO2007/088933〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は、2007年2月1日(パリ条約による優先権主張2006年2月3日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成20年12月17日付けの拒絶理由通知に対して平成21年1月27日付け(書面上の「提出日」は平成21年1月30日とされているが、実際に提出されたのは同年1月27日であるので、提出日はこのように記載した。)で意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けの手続補正書によって明細書を補正する手続補正がなされ、同年7月21日付けの却下理由通知書に対して同年7月29日付けで上申書が提出されたが、同年10月15日付けで同年7月13日付けの手続補正書による手続補正が却下されたものである。

なお、平成21年1月27日付けの意見書の「(1)平成20年12月22日付の拒絶通知書により指摘された箇所については平成21年1月30日に補正の手続きを行っており、本拒絶理由は解消されていると思います」において、「平成20年12月22日付」の「拒絶通知書」は、上記のように、平成20年12月17日付けの拒絶理由通知のことを意味すると認められ、また、「平成21年1月30日」の「補正の手続き」は、上記のように、平成21年1月27日に提出された手続補正書のことを意味すると認められる。


2.本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
車輪のタイヤホイールの中心部に回転可能なクランク軸を有するように設けられたクランクと、
前記タイヤホイール内で前記クランクに連結された第1コンロッドと、
前記クランク軸と平行となるように、前記タイヤホイールの左右の側壁間に掛け渡された支軸と、
この支軸に分岐部を中心に回動可能に設けられ、前記分岐部から所定の角度をなすように延出する外腕部と内腕部とからなり、前記内腕部の先端部が前記第1コンロッドに回動可能に連結され、前記外腕部の先端部がタイヤの内周面に指向する第2コンロッドと、
この第2コンロッドの前記外腕部の先端部に回動可能に連結されて前記タイヤの内周面に摺動可能なシュー部とを備え、
走行時に前記車輪が上下変動するに伴い、前記車輪の走行面に接地する部分が圧縮変形し、前記シュー部が前記タイヤの内周面に押圧されて、前記第2コンロッドが前記支軸を中心とする回転モーメントを受け、前記第1コンロッドに伝えて前記クランクを回転させて動力源とすることを特徴とする車両用ホイールエンジン。」

なお、請求項1に係る発明の実施の形態の一つとして、明細書における実施例1(段落0028ないし0038並びに図1及び2)が記載されているものと認める。


3.原審における拒絶理由及び拒絶査定の概要

原審における平成20年12月17日付けの拒絶理由通知書で指摘した拒絶理由及び原審における平成21年4月6日付けの拒絶査定の概要は、以下のとおりである。

明細書及び図面の記載に対して、課題を解決しようとする手段の記載及び各請求項に係る発明の実施例についての記載からは、本願各請求項に係る発明各々について、「車両用ホイールエンジン」としてどのようにして動力源となるのかが明確とは認められないので、明細書及び図面の記載に基づいて、通常の知識を有する者(当業者)が、本願各請求項に係る発明の実施ができる程度に記載されたものとは認められない、ということである。


4.請求人の主張等

請求人は、平成21年1月27日に提出された手続補正書による手続補正において図2を変更し、平成21年10月15日付けで却下された平成21年7月13日付けの手続補正書による手続補正において明細書の段落【0038】を変更するとともに、平成21年1月27日付けの意見書及び審判請求書において釈明を行った。


5.当審の判断

本願の各請求項に係る発明は、「本発明は、走行時、総重量により車輪に生じる上下方向の変動成分を動力源に変換できるように改良した車両用ホイールエンジンに関する。」(明細書の【技術分野】【0001】)ものであって、「本発明は、---(中略)---走行時に発生する車輪の上下変動を動力源として有効利用して、補助動力や車載バッテリーの充電用などに活用することが可能な車両用ホイールエンジンを提供することにある。」(明細書の【発明が解決しようとする課題】【0006】)ことを発明が解決しようとする課題とし、「車輪の上下変動は、一般に振動エネルギーとして外部に放出されるものであるため、何ら新たなエネルギーを供給することなく動力源を発生させている。」(明細書の【課題を解決するための手段】【0008】)、すなわち、「車両」が「走行」するときに「新たなエネルギーを供給することなく」動力を発生させるという作用を実現しようとする「車両用ホイールエンジン」に関する発明と認められるが、本願明細書及び図面の記載からは、いかにして当該発明を具現化するものか明らかでなく、本願明細書は、本願の各請求項に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確に記載されたものとは認められない。

より具体的には、明細書及び図面の記載において、「車両」が「走行」するときに「新たなエネルギーを供給することなく」動力を発生させる「車両用ホイールエンジン」の発明をいかにして具現化するのかについて、例えば以下の点において明確でない。

(1)明細書の実施例に関する記載事項として、請求項1に係る発明に関する記載のうち実施例1に関する
「 【0032】
上記構成において、走行時、車両が図2に矢印Mで示す方向に進行する場合、車輪1は矢印Nの方向に回転する。これに伴い、車両が走行面23で上下方向の変動力を受けるため、タイヤ14の所定部が走行面23と圧接する接地位置では、車輪1のタイヤ14が車両の総重量を受けて弾性変形により圧縮方向に撓む。タイヤ14の圧縮変形に伴って、シュー部22がタイヤ14の内周面14aから押圧力を受け、短脚部21およびピン20を介して第2コンロッド18に支軸9を中心とする回転モーメントを与える(図2の矢印A参照)。
【0033】
この回転モーメントにより、第2コンロッド18が梃子となって、時計回り方向とは反対に回動し、ピン19を介して第1コンロッド16を矢印B方向に回動させる。第1コンロッド16の回動により、ピン17に矢印C方向の外力を生じさせる。この外力により、第1コンロッド7の自由な回動変位を許しながら、クランク3を中間クランク5およびクランク4と一緒に矢印D方向に180度の角度だけ回転させる。
この回転動作は、第2コンロッド18が車輪1と一緒に位置Pから位置Qまでの略90度の角度だけ回転した時に生じる。このため、車輪1が略90度回転する毎に、クランク4が中間クランク5およびクランク3と一緒に車輪1の2倍量である略180度の回転を生じることになる。
【0034】
この場合、走行面23に対するタイヤ14の圧縮変位δを予め把握しておき、第2コンロッド18(外腕部18bおよび内腕部18cを含む)と第1コンロッド16とのリンク長さ寸法比を決めておく。第2コンロッド18に伝わったタイヤ14の圧縮変位δが第1コンロッド16を介してクランク3を略半周(径方向の距離に換算して略2×R)だけ回転できるように設定しておくものである。」(明細書の段落【0032】ないし【0034】)

という記載や、

図面の実施例に関する記載事項として、請求項1に係る発明に関する記載のうち実施例1に関する図面である図1及び2等からみて、

原査定において判断するように、「タイヤ14の圧縮変形に伴って、タイヤ14の内周面14aから押圧力を受けて」動く「シュー部22」とその動きに連動する「第2コンロッド18」、「第1コンロッド16」及び「クランク3」等の動きだけに着目すれば、なんらかの動力を発生させるもののようにみえる。

すなわち、「車両の総重量を受けて」「タイヤ14」の「走行面23」に接地する部位が圧縮変形した状態で、「車輪1」が回転して車両が走行する際、「車輪1」の回転と共に周方向に回動する「シュー部22」が、「タイヤ14」が「走行面23」に接地していない位置から圧縮変形した「タイヤ14」の「走行面23」に接地する部位に至り、さらに「車輪1」が回転すると、圧縮変形して半径方向に収縮した「タイヤ14」の「内周面14a」に「シュー部22」が当接して「走行面23」に対して垂直方向上方に押圧力を受け、これにより「第2コンロッド18」、「第1コンロッド16」及び「クランク3」を回動させて「タイヤホイール2」に支持されている「クランク軸3a」を回転させることにより、確かになんらかの動力を発生させるもののようにみえる。

しかしながら、原査定において続いて判断する、「シュー部22」を押す抵抗分だけ「車輪1」を回転させるのに余計にエネルギーが必要となることについては解消されているとはいえない。

つまり、上記のように、「シュー部22」が、「タイヤ14」が「走行面23」に接地していない位置から圧縮変形した「タイヤ14」の「走行面23」に接地する部位に至り、さらに「車輪1」が回転して、圧縮変形して半径方向に収縮した「タイヤ14」の「内周面14a」から「シュー部22」が「走行面23」に対して垂直方向上方に押圧力を受けるには、エンジン等の主たる動力源の出力により「車輪1」を回転させることを要し、その際、圧縮変形して半径方向に収縮した「タイヤ14」の「内周面14a」と回転中心としての「クランク軸3a」との間を、「シュー部22」、「第2コンロッド18」、「第1コンロッド16」及び「クランク3」からなる伸張した状態にある動力伝達機構が通過する際に「シュー部22」が「タイヤ14」の「内周面14a」から「走行面23」に対して垂直方向上方に押圧力を受けて該動力伝達機構を回動して半径方向に収縮させて「クランク軸3a」を回転させるのに必要なエネルギーの分だけ、エンジン等の主たる動力源側で余計に仕事をして「車輪1」を回転させることになる。
そうすると、これは、「シュー部22」を上方に変位させるのに要するエネルギーの分だけエンジン等の主たる動力源によって余計に仕事をして、その余計な仕事分のエネルギーにより「シュー部22」を上方に変位させているだけにすぎず、「シュー部22」の上方への変位はエンジン等の主たる動力源より新たに供給されるエネルギーの消費部分に該当し、車両全体の系としてみれば、このエンジン等の主たる動力源より新たに供給されるエネルギーを当該「車両用ホイールエンジン」で消費しているだけであって、明細書に記載されているように、「新たなエネルギーを供給することなく」動力を発生させる動力源が形成されたものとは認められない。

そして、明細書の他の記載を参酌しても、この点を解消する記載があるとは認められない。

してみると、係る実施例1の記載は、「新たなエネルギーを供給することなく」動力を発生させる「車両用ホイールエンジン」の発明を具現化したものを明確に記載したものとは認められない。

なお、請求人は審判請求書において、「重力に起因する車両の重量に由来するタイヤの圧縮変位を有効利用して動力源として取り出して」(審判請求書の【むすび】(1))「シュー部に伝達してクランクを回す」(審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】2.まとめ(2))とし、「シュー部を介するクランクへの回転伝達は、重力に起因する車両の重量によって行われます。」(審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】2.まとめ(3))と釈明するが、本願明細書における段落【0033】の「この回転動作は、第2コンロッド18が車輪1と一緒に位置Pから位置Qまでの略90度の角度だけ回転した時に生じる。」や、続く段落【0034】の「この場合、走行面23に対するタイヤ14の圧縮変位δを予め把握しておき」という記載等からみて、まず「タイヤの圧縮変位」が「車両の重量」によりもたらされ、すなわち、この「車両の重量」に起因するエネルギーはこの「タイヤの圧縮変位」においておおよそ消費され、その上で、車輪が回転したときに「シュー部」を介してさらに「クランクを回す」ものであるから、そのためにはこの「クランクを回す」のに要する分だけさらなるエネルギーが必要となるのであって、これが既に消費された「車両の重量」に起因するものとする、上記の釈明は妥当なものとはいえない。


(2)明細書の実施例に関する記載事項として、請求項1に係る発明に関する記載のうち実施例1に関する図2及び明細書の段落【0032】ないし【0034】からみて、「車両の総重量を受けて」「タイヤ14」が圧縮方向に変形し、「シュー部22」が「タイヤ14」の「内周面14a」から押圧力を受けて図面上方へ移動する場合、「第2コンロッド18」、「第1コンロッド16」及び「クランク3」の反時計回りの回動を伴って「クランク軸3a」は反時計回りに回転されるものと認められる。
一方、図2及び明細書の段落【0035】の「タイヤ14の所定部が接地位置から走行面23から離れた非接地位置に回動すると、第2コンロッド18は車輪1の遠心力を受けて、矢印Aとは反対方向に回動し、元の位置に復帰する。」からみて、「第2コンロッド18」、「第1コンロッド16」及び「クランク3」の反時計回りの回動を伴って「クランク軸3a」が反時計回りに回転した後、「シュー部22」が取り付けられた「第2コンロッド18」は、「車輪1」の遠心力を受けて、「シュー部22」、「第2コンロッド18」、「第1コンロッド16」及び「クランク3」の反時計回りの回動を伴って「クランク軸3a」が反時計回りに回転するときとは逆向きの時計回りに回動するとしている。そして、明細書の段落【0035】において続けて「これに伴い、第1コンロッド16が、クランク3の回転に影響を与えることなく、ピン17を中心にして矢印Bとは反対方向に自由回動する。」とされている。
なお、明細書の段落【0036】にも「第2コンロッド10についても、タイヤ14の特定部分が走行面23から離れた非接地位置から接地位置に回転すると、第2コンロッド10、第1コンロッド16、短脚部21およびシュー部22は、第2コンロッド18の場合と同様に作動する。」と記載されている。
しかしながら、明細書及び図面の記載からは、「シュー部22」、「第2コンロッド18」、「第1コンロッド16」及び「クランク3」の反時計回りの回動を伴って「クランク軸3a」が回転するときとは逆向きの時計回りに回動するにあたり、「クランクの回動に影響を与えることなく」「自由回動」させるための手段が明確でない。
すなわち、図1、図2及び明細書の段落【0030】の「クランク4と中間クランク5との間には、別の第1コンロッド16が設けられ、その一端部がピン17を介してクランク4および中間クランク5に回動可能に連結されている。」等からみて、「シュー部22」、「第2コンロッド18」及び「第1コンロッド16」は、「クランク3」と「ピン6、17」を介して回動可能に連結されているにすぎず、互いの回動に影響を与えることなく逆向きに自由回動することを許容するものとは認められない。
また、図1、図2及び明細書の段落【0028】の「側壁2aの中心部には、タイヤホイール2内でクランク3がクランク軸3aを介して回動可能に支持されている。」等からみて、「クランク3」は「クランク軸3a」を介して回動可能に支持されていると認められる。
そうすると、「シュー部22」が「タイヤ14」の「内周面14a」から押圧力を受けて「クランク軸3a」が反時計回りに回転した後、再度「シュー部22」が「タイヤ14」の「内周面14a」から押圧力を受けて「クランク軸3a」が反時計回りに回転する時に備えるべく、「シュー部22」、「第2コンロッド18」及び「第1コンロッド16」を元の位置に復帰させるときは、「クランク軸3a」もそれまでの反時計回りとは逆方向に回転されることになり、「クランク軸3a」の回転する方向は「車輪1」の回転する方向さらには車両の走行する方向に対応することからみると、その動きは、動力源として機能するどころか、かえって「車輪1」の回転さらには車両の走行そのものを阻害してしまう方向に作用することになる。

さらに、平成21年1月27日付け手続補正書により変更された図2では、段落【0032】の「走行時、車両が図2に矢印Mで示す方向に進行する」にて走行時の車両の進行する方向を示すとされる白抜き矢印Mと、段落【0032】の「車輪1は矢印Nの方向に回転する」にて「車輪1」の回転する方向を示すとされる矢印Nの向きがそれぞれ補正前に対して逆向きにされ、該白抜き矢印Mは補正前の左向きの矢印から右向きの矢印に、該矢印Nは補正前の反時計回り方向の矢印から時計回り方向の矢印にそれぞれ変更されている。
これに対し、「車両の総重量を受けて」「タイヤ14」が圧縮方向に変形し、「シュー部22」が「タイヤ14」の「内周面14a」から押圧力を受けて図面上方へ移動する場合には、「第2コンロッド18」、「第1コンロッド16」及び「クランク3」の反時計回りの回動を伴って「クランク軸3a」は反時計回りに回転されることになる。
そうすると、このときの反時計回りの回転は、「車輪1」の回転する方向を示すこの補正された時計回りの矢印Nの方向及びこれによる車両の進行する方向を示す補正された右向きの矢印と逆方向になるため、上記のように「クランク軸3a」が反時計回りに回転されるような動作をする実施例1に記載の車両用のホイールエンジンは、動力源として機能するどころか、かえって「車輪1」の回転さらには車両の走行そのものを阻害してしまう方向に作用するものである。

そして、明細書の他の記載を参酌しても、この点を解消する記載があるとは認められない。

してみると、係る実施例1の記載は、「車両」が「走行」するときに動力を発生させる「車両用ホイールエンジン」の発明を具現化したものを明確に記載したものとは認められない。


(3)明細書の実施例に関する記載事項として、請求項1に係る発明に関する記載のうち、実施例1において数値を用いた
「 【0037】
ちなみに、大衆乗用車で13インチホイールを有し、車両の総重量が約1000kgで、クランク軸3a(4a)とピン6(16)との間の偏心距離Rとする場合を想定する。車両用ホイールエンジン1Aを四輪に設けた場合、車輪1の各々には約250kgの荷重が加わるとすると、各車輪1が一回転する毎にクランク3(4)の回転トルクTは次のようである。
偏心距離Rが15cmでは、回転トルクT=250kg×0.15m×9.8×2
=735N・mとなる。
偏心距離Rが10cmでも、回転トルクT=250kg×0.10m×9.8×2
=490N・mとなる。」

という記載には、

「各車輪1が一回転する毎」の「クランク3(4)の回転トルクT」が記載され、

続く、
「 【0038】
例えば、13インチホイールの車両で、16mを2秒の割合で走行する時、車輪は5回転する。クランク軸3a(4a)はクランク3(4)と一緒にそれぞれ10回転し、合計で20回転することになる。
この場合のクランク3(4)は、毎秒当たり10回転となるので、偏心距離Rが15cmのクランクでは、毎秒当たりの仕事量(U)は、735N・m×10(1/s)=7350N・m・(1/s)≒7.4kWとなる。
偏心距離Rが10cmのクランクでも、毎秒当たりの仕事量(U)は、490N・m×10(1/s)=4900N・m・(1/s)≒5.0kWとなる。」

という記載には、

「クランク3(4)」における「毎秒当たりの仕事量(U)」として、「735N・m×10(1/s)=7350N・m・(1/s)≒7.4kW」や「490N・m×10(1/s)=4900N・m・(1/s)≒5.0kW」と記載されてはいるが、

これらは、「クランク3(4)の回転トルクT」としての「735N・m」や「490N・m」に、「毎秒当たり10回転」に関するものと考えられる「10(1/s)」を乗算しただけにすぎず、力(トルク)と移動距離(変位)の乗算で表される、いわゆる「仕事」を示すものとは認められない。

そして、明細書の他の記載を参酌しても、この点を解消する記載があるとは認められない。

また、仮にこれがなんらかの動力を計算しようとしているものであるとしても、当該計算式において、上記(1)にて指摘した「シュー部22」を上方に変位させるのに要するエネルギーの分だけ「車輪1」を回転させるのに余計にエネルギーが必要となることについて考慮されておらず、実施例1において発生した動力を表すものとはいえない。

してみると、係る実施例1の記載は、「車両」が「走行」するときに動力を発生させる「車両用ホイールエンジン」の発明を具現化したものを明確に記載したものとは認められない。

なお、平成21年10月15日付けで却下された平成21年7月13日付けの手続補正書による手続補正は、明細書の段落【0038】の数式について「13インチホイール」の「回転距離を1mとして換算している」ことを追加する補正ではあったが、そもそも願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に明示的に記載されてはおらず、また、それらより自明な事項ともいえず、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではなく、特許法第17条の2第3項の規定を満たしていないため、本願が却下された手続補正によって特許法第36条第4項に規定する要件を満たすことにはならない。


したがって、上記(1)ないし(3)より、本願明細書及び図面の記載は、請求項1に記載された「車両用ホイールエンジン」の発明をいかにして具現化するものか明らかでなく、そのような記載に基づいて、当該技術分野における通常の知識を有する者が、請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。
すなわち、原審における判断のとおり、本願発明はどのようにして車両用の動力源となるのかについて、その構成が明確でない。

また、請求項1を引用して記載した請求項2ないし8及び16に係る発明についても同様に、当該技術分野における通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。

さらに、請求項9に係る発明の実施の形態の一つとして、明細書における実施例10(明細書の段落【0056】ないし【0060】及び図10)が記載されているものと認められ、請求項1に係る発明の実施の形態の一つとして認められる実施例9(明細書の段落【0054】ないし【0055】)に対して、「実施例10が実施例9と異なるところは、短脚部21(13)をなくし、車両用ホイールエンジン1Aを単体の別ユニットとして自動車などの車両に後付けできるようにした」(明細書の段落【0056】)と記載されていること等からみて、請求項9に係る発明の作動原理は請求項1に係る発明と略同様なものと認められる。
そうすると、請求項9に係る発明についても同様に、当該技術分野における通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。
加えて、請求項9を引用して記載した請求項10ないし15及び16に係る発明についても同様に、当該技術分野における通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。


よって、原審の判断のとおり、本願明細書及び図面の記載は、請求項1ないし16に記載された「車両用ホイールエンジン」の発明をいかにして具現化するものか明らかでなく、そのような記載に基づいて、当該技術分野における通常の知識を有する者が、請求項1ないし16の各請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。


6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

なお、請求人は、平成21年7月29日付けにて提出の上申書において、再度、補正の機会を求める旨記載しているが、同年10月15日付けで却下された同年7月13日付けの手続補正書による手続補正の内容を参酌しても、上記「5.当審の判断」のとおり、これをもって原査定の理由が解消されるものとは認められない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-18 
結審通知日 2010-03-23 
審決日 2010-03-26 
出願番号 特願2007-556913(P2007-556913)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (F03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平岩 正一  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 加藤 友也
河端 賢
発明の名称 車両用ホイールエンジン  
代理人 石黒 健二  

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