• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1216721
審判番号 不服2007-6742  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-07 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 特願2002-170516「ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月15日出願公開、特開2004- 10603〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
この出願は、平成14年6月11日の出願であって、平成18年10月2日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年1月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同年4月5日に手続補正書が提出され、同年5月9日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成21年6月12日付けで審尋が通知され、同年7月28日に回答書が提出されたものである。

2 本願発明
この出願の請求項1?3に係る発明は、平成18年12月27日付け及び平成19年4月5日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとをバッチ反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、
両原料の仕込みについて、両原料の供給に要する時間のうち供給された原料の温度が40℃以上となる全供給時間の40%以上の供給時間の間、それまでに反応器に投入した(メタ)アクリル酸の合計量とアルキレンオキシドの合計量とのモル比(アルキレンオキシド/(メタ)アクリル酸)が1.0を超えるように調整し、反応終了後の原料酸濃度が0.10重量%以下になるまで反応を行うとともに、
前記反応の終了後、ジエステル抑制剤を添加する、
ことを特徴とする、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

〈引用刊行物〉
A 特開平10-237022号公報
B 特開2001-348362号公報

4 刊行物の記載事項
本願出願前に頒布された上記特開平10-237022号公報(以下、「引用文献2」という。)、特開2001-348362号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)引用文献1(特開2001-348362号公報)
a-1 「触媒の存在下でカルボン酸とアルキレンオキシドを反応させてヒドロキシアルキルエステルを製造する方法において、当該反応液中のカルボン酸のモル濃度をaモル%、アルキレンオキシドのモル濃度をbモル%とした時に、反応を通じてa<bなる関係を維持するように反応を行うことを特徴とする、ヒドロキシアルキルエステルの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

a-2 「【発明が解決しようとする課題】したがって本発明が解決しようとする課題は、カルボン酸とアルキレンオキシドを反応させてヒドロキシアルキルエステルを製造するプロセスにおいて、反応の転化率や選択率を十分に高めることができる方法を提供することである。」(段落【0004】)

a-3 「本発明において用いることが出来るカルボン酸は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、安息香酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられるが、特に好ましくは、アクリル酸とメタクリル酸(これらを併せて(メタ)アクリル酸と称す)である。」(段落【0008】)

a-4 「本発明において、触媒の存在下におけるカルボン酸とアルキレンオキシドとの反応は、この種の反応に一般的に用いられている方法に従って行うことができる。例えば、バッチ式で反応を行う場合、・・・いくつかに分割して投入することもできる。
また、連続式で反応を行う場合には、・・・反応液の一部を循環させる形態をとってもよい。」(段落【0009】?【0010】)

a-5 「反応温度は、通常、40?130℃の範囲で行うことが好ましく、より好ましくは50?100℃の範囲である。反応温度が40℃よりも低ければ、反応の進行が遅くなって実用レベルから離れてしまい、一方、反応温度が130℃よりも高ければ、副生成物が多くなったり、原料であるカルボン酸が不飽和二重結合を有していると、そのカルボン酸や生成物であるヒドロキシアルキルエステルの重合等が起こるので好ましくない。」(段落【0012】)

a-6 「なお、単に原料アルキレンオキシドの仕込みモル量を原料カルボン酸の仕込みモル量より過剰としただけでは、反応を通じて上記a<bなる関係を必ずしも維持することはできない(特公平6-720号公報)。また、上述のように、本発明に係る製造方法においては、上記反応液中のカルボン酸のモル濃度をaモル%、アルキレンオキシドのモル濃度をbモル%とした時に、反応を通じてa<bなる関係を維持するように反応を行うことを特徴とするが、バッチ式で反応を行う場合の前記「反応を通じて」とは、「設定のモル比まで原料が仕込まれた後の反応工程において」という意である。また、バッチ式で反応を行う場合は、反応液中のカルボン酸のモル濃度aモル%とアルキレンオキシドのモル濃度bモル%の関係をできるだけ早くa<bとするほうが好ましい形態であり、具体的には、全反応時間(アルキレンオキシドの投入開始から、アルキレンオキシド又はカルボン酸が設定の反応率に到達するまでの時間)に対する全アルキレンオキシドの投入時間の割合を70%以下とするのが好ましく、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下である。」(段落【0015】)

a-7 「次に、本発明の製造方法の具体的な実施態様について、図1?5に基づいて説明する。ただし、本発明の製造方法はこれらの実施態様に限定されるものではない。図1は、単一の槽型反応器を用いた本発明の一つの実施態様を示した説明図である。・・・以下、図1?5に基づいて、本発明を詳細に説明する。
図1においては、槽型反応器1にライン3および4から、それぞれ、アルキレンオキシドおよびカルボン酸を導入し、反応終了後、目的生成物ヒドロキシアルキルエステルを含む反応液をライン8から抜き出す。図1の槽型反応器を用いた反応は種々の態様にしたがって行うことができる。例えば、アルキレンオキシドの全量をあらかじめ反応器1に仕込み、カルボン酸を少量ずつ連続的にライン4から導入する(態様(1))。また、アルキレンオキシドの全量をあらかじめ反応器1に仕込み、カルボン酸を2つ以上に分割して逐次的にライン4から導入する(態様(2))。さらに、カルボン酸の一部をあらかじめ反応器1に仕込み、次いでアルキレンオキシドの全量を供給した後、残りのカルボン酸を、場合によっては更に分割して、ライン4から導入する(態様(3))。」(段落【0031】?【0032】)

(2)引用文献2(特開平10-237022号公報)
b-1 「(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとを触媒の存在下に反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造するに当り、反応液中のアルキレンオキシド濃度が10重量%以下の条件下にジエステル生成防止剤を添加し、その後は該ジエステル生成防止剤の存在下に反応液中のアルキレンオキシド濃度を10重量%以下に維持しながら反応を行うことを特徴とするヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。」(特許請求の範囲請求項1)

b-2 「一般に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを合成する場合、反応の副生物としてアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(以下、単に「ジエステル」という)が生成する。特に、反応終了時の近くで未反応の(メタ)アクリル酸が少なくなった時点(仕込み量の0.1重量%以下)で反応液に過剰のアルキレンオキシドが溶存残留しているとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの不均化反応が起こり易く、アルキレングリコールとともにジエステルが副生する。
また、このジエステルは、合成したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際にも、その不均化反応によって生成する。特に、反応に使用した触媒の共存下に比較的高温にさらされると、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの不均化反応が起こり易くなる。」(段落【0004】?【0005】)

b-3 「また、蒸留工程におけるジエステルの生成を抑制する方法としては、例えば特開平5-194321号公報に、触媒として鉄を用いた際に触媒不活性化剤である長鎖脂肪酸類またはジオール類を添加する方法が、また特開平7-118203号公報には、反応終了後、蒸留前に多価アルコールを添加する方法が開示されている。」(段落【0008】)

5 当審の判断
(1)引用文献1に記載の発明
引用文献1には、触媒の存在下でカルボン酸とアルキレンオキシドを反応させてヒドロキシアルキルエステルを製造するにあたり、反応液中のカルボン酸のモル濃度をaモル%、アルキレンオキシドのモル濃度をbモル%としたときに、反応を通じてa<bなる関係を維持するように反応を行う方法が記載されている(摘記a-1)。
引用文献1記載の方法は、バッチ式で反応を行う場合、連続式で反応を行う場合のいずれにも適用できるものであり(摘記a-4)、具体的な実施態様について、図1?5に基づいて説明がされている(摘記a-7)。そして、図1について、単一の槽型反応器を用いた実施態様の説明として、単一の槽型反応器にアルキレンオキシドおよびカルボン酸を導入し、反応終了後、目的生成物であるヒドロキシアルキルエステルを抜き出す方法が記載されている。これは、バッチ式で反応を行うことを説明するものである。さらに同摘記a-7に、図1の槽型反応器を用いた反応の態様として、アルキレンオキシドの全量をあらかじめ反応器に仕込み、カルボン酸を少量ずつ連続的にラインから導入する態様(1)、アルキレンオキシドの全量をあらかじめ反応器に仕込み、カルボン酸を2つ以上に分割して逐次的にラインから導入する態様(2)、及び、カルボン酸の一部をあらかじめ反応器に仕込み、次いでアルキレンオキシドの全量を供給した後、残りのカルボン酸を、場合によっては更に分割して、ラインから導入する態様(3)が例示されている。
上記態様(1)、(2)では、アルキレンオキシドの全量があらかじめ反応器に仕込まれ、これにカルボン酸が導入されており、また、態様(3)では、カルボン酸の一部があらかじめ仕込まれ、次いでアルキレンオキシドの全量が供給され、これに残りのカルボン酸が導入されており、いずれの態様においても、反応の初期にアルキレンオキシドがカルボン酸よりも過剰に供給されている。また、引用文献1記載の製造方法は、反応液中のカルボン酸のモル%「a」とアルキレンオキシドのモル%「b」とが、反応を通じて「a<b」なる関係を維持するように反応を行うものであり、カルボン酸とアルキレンオキシドは等モルで反応するので、アルキレンオキシドはカルボン酸より常に多くのモル数存在させることが必要となる。そうしてみると、上記態様(1)?(3)において、反応の初期から反応を通じて、アルキレンオキシドをカルボン酸に対し過剰のモル数存在させていることになる。
以上のことから、引用文献1には、
「触媒の存在下でカルボン酸とアルキレンオキシドとをバッチ反応させてヒドロキシアルキルエステルを製造するに当たり、反応の初期から反応を通じて、アルキレンオキシドをカルボン酸に対し過剰のモル数存在させる製造方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本願発明との対比
引用発明においては、反応の初期から反応を通じて、アルキレンオキシドをカルボン酸に対し過剰のモル数存在させるのであるから、アルキレンオキシドの合計量のモル数もカルボン酸の合計量のモル数より常に多く供給することが必要であり、結果として、投入したカルボン酸の合計量とアルキレンオキシドの合計量のモル比(アルキレンオキシド/カルボン酸)は常に1.0を越えるように調整されていることになる。また、アルキレンオキシドとカルボン酸との反応は、40℃以上の温度で行われるものである(摘記a-5)。そうしてみると、カルボン酸とアルキレンオキシドの供給において、40℃以上の温度となる全供給時間で上記モル比が1.0を越えるように調整されているといえる。
さらに、引用発明では、カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸(本願発明における(メタ)アクリル酸)が特に好ましく用いられる(摘記a-3)。
上記の認定を踏まえて、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとをバッチ反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、
両原料の仕込みについて、両原料の供給に要する時間のうち供給された原料の温度が40℃以上となる全供給時間の40%以上の供給時間の間、それまでに反応器に投入した(メタ)アクリル酸の合計量とアルキレンオキシドの合計量とのモル比(アルキレンオキシド/(メタ)アクリル酸)が1.0を超えるように調整する、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。」である点で一致し、両者は、次の(i)、(ii)の点でのみ相違する。
(i)本願発明において、反応を終了させる条件について、「反応終了後の原料酸濃度が0.10重量%以下になるまで反応を行う」、と規定されているのに対し、引用発明では、反応を終了させる条件が特定されていない点(以下、「相違点1」という。)
(ii)本願発明において、「反応の終了後、ジエステル抑制剤を添加する」、と規定されているのに対し、引用発明では、ジエステル抑制剤が添加されていない点(以下、「相違点2」という。)

(3)判断
以下、上記相違点1、2について検討する。
ア 相違点1について
引用文献2には、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを合成する場合、反応の副生物としてアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(ジエステル)が生成すること、特に、反応終了時の近くで未反応の(メタ)アクリル酸が少なくなった時点(仕込み量の0.1重量%以下)で、不均化反応により生成することが記載されている(摘記b-2)。
引用発明は、その課題として、カルボン酸とアルキレンオキシドを反応させてヒドロキシアルキルエステルを製造するプロセスにおいて、反応の転化率や選択率を十分に高めることができる方法を提供する(摘記a-2)もので、より多くの原料化合物を目的物に転化することすることを目指すものであるが、引用文献2により上記のように、(メタ)アクリル酸が少なくなった時点から不均化反応により副生物が生成することが知られているのであれば、選択率を考慮して、その時点での(メタ)アクリル酸の濃度「0.1重量%」を反応終了の目安とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明において、反応を終了させる条件について、「反応終了後の原料酸濃度が0.10重量%以下になるまで反応を行う」とするのは、当業者にとって容易である。

イ 相違点2について
引用文献2には、ジエステルが、合成したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に生成すること(摘記b-2)、また、蒸留工程におけるジエステルの生成を抑制する方法としては、長鎖脂肪酸類またはジオール類を添加する方法、反応終了後、蒸留前に多価アルコールを添加する方法が従来知られていることが記載されている(摘記b-3)。
ここで、長鎖脂肪酸類、ジオール類、多価アルコールは、本願発明でいうジエステル抑制剤(本願明細書段落【0032】)であり、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとの反応により得られたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、蒸留により精製されるものであるから、引用文献2の記載を基に、反応の終了後ジエステル抑制剤を添加することに格別の創意は認められない。
したがって、引用発明において、「反応の終了後、ジエステル抑制剤を添加する」のは、当業者にとって容易である。

(4)効果について
本願発明は、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの含有量と酸成分の含有量とがともに少ない高品質のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを得ることができるという効果を奏するものであるが(本願明細書段落【0053】)、副生物であるアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが生成する(メタ)アクリル酸の濃度「0.1重量%」を反応の終了点とし、さらに、反応の終了後、ジエステル抑制剤を添加することによりアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの生成を抑制し得ることが引用文献2に記載されていることからすれば、その効果は格別なものとすることはできない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 審判請求人の主張について
審判請求人は、審尋に対する回答書において、
(1)として、「刊行物Bにおいて記載されている対比技術は、「連続式反応」であって、「バッチ式反応」ではない」こと、
(2)として、「刊行物Bのバッチ式反応は、このように、設定のモル比まで原料が仕込まれた後の反応工程においてのみ、a<bなる関係を維持するようにしており、設定のモル比まで原料が仕込まれるまでの間の量的コントロールを問わない技術でありますから、「それまでに反応器に投入した(メタ)アクリル酸の合計量とアルキレンオキシドの合計量とのモル比の調整」に関する技術である本願発明とは馴染まず、そのため、本願発明と対比すべき技術ではない」こと、
(3)として、「そもそも、刊行物Bの開示自体が本願発明を排除している」こと、
(4)として、「原審審査官殿は、前置報告書において、「アクリレート系化合物が重合しやすいことは広く知られており、『ジエステル抑制剤』を添加することに格別の創意を要するものとはしない。」と述べておられますが、このご認定は、技術的誤解に基づくもの」であること、
(5)として、「本願発明は、バッチ式反応によるものであり、バッチ式反応では、すべての転化率(0→100%)を通過して反応を行うので、その高転化率反応下における副生物の生成をも十分に低減するため、「両原料の供給に要する時間のうち供給された原料の温度が40℃以上となる全供給時間の40%以上の供給時間の間、それまでに反応器に投入した(メタ)アクリル酸の合計量とアルキレンオキシドの合計量とのモル比(アルキレンオキシド/(メタ)アクリル酸)が1.0を超えるように調整」することとしているのであります。
ジエステルの生成を抑制するためには、この構成要件が必須であり、この構成要件がなければ、ジエステル生成の十分なる抑制は不可能」なこと、
を主張している。

これらの主張について検討する。
(1)の主張について
刊行物B(「引用文献1」に同じ。以下、同様。)にはバッチ式反応も記載されており、本願発明と対比させる発明は、上記「5(1)」に示した「引用発明」であるから、「対比技術は、「連続式反応」であって、「バッチ式反応」ではない」とする請求人の主張は採用できない。
(2)の主張について
引用発明は上記「5(1)」に示したとおりであって、引用文献1の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明(摘記a-1)に、引用文献1の段落【0009】及び段落【0032】で示される事項(摘記a-4及び摘記a-7)を考慮して、より具体的な発明を導き、こうして導いた発明を引用発明としたのであるから、上記「5(1)」に示した引用発明と本願発明とを対比することに何ら問題はない。
したがって、請求人のこの主張も採用できない。
(3)の主張について
この主張の根拠として請求人は、上記の指摘箇所に続いて、「すなわち、刊行物Bの段落[0015]1?4行には、「なお、単に原料アルキレンオキシドの仕込みモル量を原料カルボン酸の仕込みモル量より過剰としただけでは、反応を通じて上記a<bなる関係を必ずしも維持することはできない」と記載している点であります。」と述べている。
しかしながら、本願発明は、上記「2」に示したとおりであって、「単に原料アルキレンオキシドの仕込みモル量を原料カルボン酸の仕込みモル量より過剰としただけ」の発明ではないのであるから、引用文献1に本願発明を排除する記載があるとの請求人の主張は採用できない。
(4)の主張について
ジエステル抑制剤の添加の有無は、上記「5(2)」に本願発明と引用発明との「相違点2」として示したものであり、この点が容易であることは、上記「5(3)イ」に示したとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
(5)の主張について
請求人の指摘する「両原料の供給に要する時間のうち供給された原料の温度が40℃以上となる全供給時間の40%以上の供給時間の間、それまでに反応器に投入した(メタ)アクリル酸の合計量とアルキレンオキシドの合計量とのモル比(アルキレンオキシド/(メタ)アクリル酸)が1.0を超えるように調整」は、上記「5(2)」に示したように、本願発明と引用発明との相違点ではなく、一致点である。
したがって、この点を基にして本願発明が引用発明から容易でない、という請求人の主張は採用できない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-12 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2002-170516(P2002-170516)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 千弥子
橋本 栄和
発明の名称 ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法  
代理人 松本 武彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ