• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1216724
審判番号 不服2007-10618  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-12 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 特願2001-374540「活性型カスパーゼ-14特異的抗体及びその作成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月20日出願公開、特開2003-171400〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年12月7日を出願日とする特許出願であって、その請求項1に係る発明は、平成19年5月14日付手続補正書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「不活性型プロカスパーゼ-14には結合せず、活性型カスパーゼ-14にのみ特異的な抗体の作成方法であって、不活性型プロカスパーゼ-14アミノ酸配列内の活性化されるための切断部位:
Thr-Val-Gly-Gly-Asp
の連続アミノ酸配列を含んで成り、上記配列のAsp残基をC末端とするペプチドを抗原として用いることを特徴とする、方法。」(以下、「本願発明」という。)
2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用例1として引用された本願出願日前の1998年に頒布された刊行物であるDev. Brain Res. (1998)Vol.111, No.1, p.77-87(以下、「引用例1」という。)は、「切断部位に対して作られた抗血清による、発生における脊椎動物神経系中の活性型カスパーゼ-3(CPP32)の検出」という表題の学術文献であって、
(i)「我々は以前、マウス胎仔の後根神経節及び三叉神経節で、カスパーゼ-3が非常に発現されていることを示した[…括弧内の文献名等は省略…]。しかしながら、カスパーゼはアポトーシスの間に活性型にプロセスされるから、免疫組織化学的染色やin situハイブリダイゼーション法によって、発生の間に自然に起こる細胞死における活性型カウパーゼの関与を調べることは難しい。我々は、カスパーゼ-3の切断部位に対する抗血清(抗p20/17)を調製した。この抗血清は、カスパーゼ-3の断片(p20/17)と反応したが、プロカスパーゼ-3(p32)、並びにプロカスパーゼ-7(p34)及びその切断断片(p24)とは反応しなかった。」(第77頁要約の項第1行?第7行)、
(ii)「マウス胎仔の発生の間に神経系に自然に起こる細胞死におけるカスパーゼ-3の関与を明らかにするために、カスパーゼ-3の切断断片(p20/17)と特異的に反応するカスパーゼ-3の切断部位に対する抗血清(抗p20/17)を調製した。本研究において、我々は、抗p20/17を用いた免疫組織化学的染色によって、マウス胎仔の発生の間のカスパーゼ-3の活性化を、直接的に調べた。」(第78頁左欄第27行?第36行)、
(iii)「2.3.カスパーゼ-3の切断部位に対する抗血清の調製
カスパーゼ-3の活性断片に対する抗血清(抗p20/17)は、フォドリンとカルパインの切断部位に対する抗体の調製ための手順に基づいて調製された。抗p20/17は、マウスカスパーゼ-3切断部位の合成6アミノ酸、CGIETDのKLHとの複合体を兎に注射することにより産生させた。抗p20/17は、ペプチドアフィニティーカラムクロマトグラフィーによって精製された。」(第78頁右欄下から第10行?下から第1行)、と記載されている。
また、同じく原査定の拒絶の理由で引用例2として引用された本願出願日前の2000年に頒布された刊行物であるMicrobiol. Mol. Biol. Rev. (2000)Vol.64,No.4, p.821-846(以下、「引用例2」という。)はカスパーゼの総説であって、第823頁の図1には、14のカスパーゼファミリーと線虫のカスパーゼ-3について、そのプロテアーゼ領域の相同性に基づく系統的関係、プロ領域と大サブユニットと小サブユニットからなるプロテアーゼ領域の構造等が並べて示されており、ヒトカスパーゼ-14はサイトカイン機能を有するものに分類され、記載されている。また、第824頁の図2には、4量体の活性型カスパーゼ-3の構造が記載され、p17大サブユニットのC末端とp12小サブユニットのN末端間に間隙を有することが示されており、
(iv)「小及び大カスパーゼサブユニットは、1つのプロカスパーゼ由来であって、続いて臨界のアスバラギン酸残基で切断されるから、活性カスパーゼの構造は、どのようにカスパーゼが活性化されるかを理解する上で役立つ(図2)。最も重要な特徴は、p20(審決注:大サブユニット)C末端とp10(審決注:小サブユニット)N末端間がcis(p20-p10の対が活性部位を形成する)であって相対的距離を有するものであり、trans(p20-p10が対を形成しない)ではないことである。」(第823頁左欄下から第5行?右欄第3行)、と記載されている。
さらに、同じく原査定の拒絶の理由で引用例3として引用された本願出願日前の1998年に頒布された刊行物であるCell Death Differ. (1998)Vol.5, No.10, p.838-846(以下、「引用例3」という。)は、「新しいカスパーゼ類似体、カスパーゼ-14の同定」という表題の学術文献であって、マウスカスパーゼ-14の遺伝子を同定し、ヒトカスパーゼ-14と比較したところ、アミノ酸レベルで72%の同一性及び83%の相同性を有することが記載され(第824頁左欄第10行?第12行)、両者の全アミノ酸配列が示された第839頁の図1Aには、マウスカスパーゼ-14、ヒトカスパーゼ-14及びヒトカスパーゼ-1の全アミノ酸配列が並べて記載され、図1の説明の第5行?第7行には、「横括弧は、マウスカスパーゼ-14のp18とp11サブユニット間の推定切断部位を含む、2つのEELGGDEヘプタペプチドを示す。ヒトカスパーゼ-14においては、これら可能な切断部位のうち1つだけが保存されているる」と記載され、図1Aには、ヒトカスパーゼ-14のその部分のヘプタペプチドのアミノ酸配列が、ETVGGDEであることが示されている。また、第843頁左欄第1行?第9行には、
(v)「図4Aは、マウスカスパーゼ-8は、35.5kDaマウスカスパーゼ-14を、24kDa(p18)と11kDa(p11)の断片に弱く切断することを示す。これらの産物は、D_(155)及び/またはD_(162)での切断を示唆する。これらのAsp残基はどちらも、同定された、繰り返しEELGGDEヘプタペプチド(図1A)の中にあるから、切断は両方の部位で起こる可能性が高い。ヒトカスパーゼ-14では、これらの部位の1つだけが保存されている(図1A)。」、と記載されている。
3.対比・判断
(1)対比
上記引用例1記載事項(iii)にある、プロカスパーゼ-3には結合せず、活性型カスパーゼ-3にのみ特異的に結合する抗体の製造に使用した抗原である「マウスカスパーゼ-3切断部位の合成6アミノ酸、CGIETD」とは、大サブユニットp20のC末端のアミノ酸断片であり、不活性型プロカスパーゼ-3アミノ酸配列内の活性化されるための切断部位CGIETDの連続アミノ酸配列を含んでなり、その配列のAsp残基をC末端とするペプチドである。
そこで、本願発明と引用例1に記載された事項を比較すると、両者は、不活性型プロカスパーゼには結合せず、活性型カスパーゼにのみ特異的な抗体の作成方法であって、不活性型プロカスパーゼのアミノ酸配列内の活性化されるための切断部位の連続アミノ酸配列を含んで成り、上記配列のAsp残基をC末端とするペプチドを抗原として用いることを特徴とする方法である点で共通するが、カスパーゼが、前者では、ヒトカスパーゼ-14であり、抗原ペプチドがThr-Val-Gly-Gly-Asp(以下、1文字表記で「TVGGD」という。)を含むものであるのに対して、後者では、マウスカスパーゼ-3であり、抗原ペプチドがCGIETDである点で相違する。
なお、本願請求項1にはカスパーゼ-14とのみ記載され、ヒトカスパーゼ-14とは記載されていないが、マウスカスパーゼ-14の活性化されるための切断部位のアミノ酸配列はTVGGDではなく、TVGGDを切断部位に有するカスパーゼ-14がヒトカスパーゼ-14であることは明らかである。
(2)判断
カスパーゼ類は、プロカスパーゼがAsp残基で切断されて活性型となることは、引用例1?3にも記載のように本願出願日前既に周知の技術的事項であり、そのため、上記引用例1においては記載事項(ii)にあるように、活性型カスパーゼ-3の機能を解明するために、活性型カスパーゼ-3に特異的に結合する抗体を作製し、免疫組織化学的染色によって神経組織における活性型カスパーゼ-3を直接検出している。そしてその抗体は、引用例2記載事項(iv)にあるような、切断により相対的距離を有する大サブユニットのC末端と小サブユニットのN末端のうち、大サブユニットp20のC末端のオリゴペプチドを抗原として作製することが、引用例1記載事項(iii)に記載されている。
そうすると、このような記載に接した当業者が、引用例3に記載され、表皮に特異的に発現することが知られていているが、まだ機能の解明されていないヒトカスパーゼ-14においても、その機能を解明するために活性型ヒトカスパーゼ-14に特異的な抗体を作製しようとすること、及び抗原として引用例1に記載された切断部位のペプチドを用いようとすることは、自然な発想である。しかも、引用例3にはヒトプロカスパーゼ-14の切断部位として、唯一ETVGGDEが推定されており、このことは、当業者がまず、この推定切断部位のC末端のオリゴペプチドETVGGDを抗原として用いて抗体を作製しようとする強い示唆があるものであり、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、そのペプチドを抗原として活性型カスパーゼ-14に特異的な抗体が得られ、その抗体によりヒト表皮細胞中の活性型カスパーゼ-14を免疫組織化学的染色で検出できたという本願発明において奏される効果についても、引用例1?3の記載から予測できない程の格別なものではない。
したがって、本願発明は、引用例1?3に記載された事項から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)審判請求人の主張
審判請求人は、平成19年6月21日付審判請求理由の手続補正書において、「引用例3におけるプロセッシングを受けたカスパーゼ-14についての言及は全てマウス(murine)カスパーゼ-14に関するものであります(例えば、引用例3のAbstract の第2?3行を参照されたい「Here, we report the identification of a new murine caspase homologue, viz, caspase-14.」)。それに対し、本発明のカスパーゼ14はヒトカスパーゼ-14であります(例えば、本願明細書実施例1を参照されたい)。 …途中省略…
ヒトカスパーゼ-14とマウスカスパーゼ-14はそのアミノ酸配列の相同性を理に同じ「カスパーゼ-14」という名称が付けられておりますが、生体内でのその作用・機能がどれだけ共通しているかは今でも十分に解明されておりません。例えば、参考資料4の第10562頁のFigure 1に示されているとおり、両者の基質特異性をみても、相当な違いがあります。従いまして、ヒトカスパーゼ-14とマウスカスパーゼ-14は生体内での役割が相当に異なっている可能性が高く、その活性化形態も相当に異なっている可能性があります。よって、マウスカスパーゼ-14に関する引用例3の開示内容に基づき、当業者がヒトカスパーゼ-14の活性化に関与する切断部位を容易に想到し得るものではありません。確かに本発明により見出されたヒトカスパーゼ-14の活性化に関与する切断部位は引用例3に示されている切断部位に相当しますが、それはあくまでも偶然にすぎません。しかも、引用例3はマウスカスパーゼ-14の「推定」切断部位を示しているにすぎず、マウスカスパーゼ-14でさえ、果たしてその推定部位で本当にプロセッシングを受けているのかは引用例3の開示内容では確認することができません。例え当業者といえども容易なものではなかったと思料します。」と主張している。
確かに、引用例3の活性型カスパーゼに切断する酵素等の記載は、マウスカスパーゼ-14に関するものが主であるが、図1Aには、ヒトプロカスパーゼ-14の推定切断部位が1箇所であり、その部分のアミノ酸配列がETVGGDEであることが示されており、「本発明により見出されたヒトカスパーゼ-14の活性化に関与する切断部位は引用例3に示されている切断部位に相当しますが、それはあくまでも偶然にすぎません」という請求人の主張の根拠が不明である。
また、本願発明は請求人のいうとおり、ヒトカスパーゼ-14に関するものであるが、「ヒトカスパーゼ-14とマウスカスパーゼ-14は生体内での役割が相当に異なっている可能性が高く、その活性化形態も相当に異なっている可能性がある。」という主張については、本願出願前、ヒトカスパーゼ-14の活性型がp17とp11の大、小サブユニットからなり、ヒトカスパーゼ-14の活性型形態は他のカスパーゼと同じであることが知られており(必要があれば、審判請求人が平成18年11月13日付意見書に添付した参考資料1であるJ. Invest. Dermatol. (2000) Vol.115, No.6, p.1148-1151参照)、上記主張は採用できないばかりか、マウスとヒトのカスパーゼ-14の機能はまだ解明されていないのであるから、むしろその機能を解明しようとする強い動機付けが存在するものともいえ、以上の理由から、請求人の上記主張は採用できない。
4.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-11 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2001-374540(P2001-374540)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 引地 進
鵜飼 健
発明の名称 活性型カスパーゼ-14特異的抗体及びその作成方法  
代理人 西山 雅也  
代理人 樋口 外治  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ