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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1216731
審判番号 不服2007-20681  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-26 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 特願2002- 69034「50GHz以上のミリ波を利用した通信用の回路部材」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月25日出願公開、特開2003-268040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年3月13日の出願であって、平成19年3月13日付けで拒絶理由通知がなされ、同年5月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月20日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成19年7月26日に審判請求書が提出され、同年10月9日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年5月18日に提出された手続補正書によって補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィンからなる成形品から構成され、50GHz以上のミリ波を利用した通信用の回路部材であって、
前記成形品は、吸水率が0.01%以下で、熱膨張率が7×10^(-5)以下で、50GHzにおける誘導正接が2.0×10^(-4)以下であることを特徴とする50GHz以上のミリ波を利用した通信用の回路部材。」

第3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成19年3月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1の概要は、次のとおりである。
「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



*理由1,2について
本発明は、「吸水率0.01%以下で、熱膨張率が7x10-5以下で、非晶質の合成樹脂からなる誘電体樹脂材料」に関するが、発明の詳細な説明をみても、該材料としてどのような合成樹脂があるか、明らかでない。
また明細書には、吸水率0.01%以下で、熱膨張率が7x10-5以下で、非晶質の合成樹脂として、【0013】から【0014】に「アモルファスポリオレフィン」なるものが記載され、【化1】式が記載されているが、化学構造からみて、これが非晶質な重合体であるとは認められないから、明細書には、請求項1?6に係る発明が記載されているとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」
そして、拒絶査定には、概略、以下のとおり記載されている。
「この出願については、平成19年 3月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものである。
備考
補正によって、50GHz以上のミリ波を利用した通信用の回路部材が特定の要件を満足する「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」からなることが特定された。
しかし、発明の詳細な説明、例えば、【0007】の「前記誘電体樹脂材料は、例えば、非晶質ポリオレフィンであり、ジメタノナフタレン及びその誘導体を含む共重合体が好ましい。」、【0013】の「アモルファスポリオレフィンの中で以下の化学式を有するジメタノナフタレン構造は、特に特性が優れていた。」の記載や、【化1】の「共重合体」の化学構造をみても、本発明が特定する「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」が具体的にどのようなものであるか、理解することができない。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」
(当審注:本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】は、平成19年5月18日付け手続補正によって削除された。)

第4.原査定の拒絶の理由の妥当性についての検討
1.本願明細書の記載事項
a.「【発明の実施の形態】本発明者らは、まず、不飽和二重結合、エーテル結合、水酸基、窒素や燐、硫黄が含まれていることによる電波による共振に基づく損失を考慮し、実用的な樹脂としてアモルファスポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの樹脂材料について、50GHz以上の周波数帯域で使用可能な回路部材として利用可能なものがあるかどうかを検討した。誘電正接は、例えば、1MHz程度の誘電正接の値で50GHz以上での特性を予想することはできない。1MHz程度の誘電正接は、アモルファスポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンは同程度でポリスチレンが若干劣る程度であるが、50GHzではポリスチレンは誘電正接が7?10x10^(-4)と大きく回路の損失につながる。これはベンゼン環を含むことが原因と思われる。一方、特開平10-316829号公報によれば、ポリプロピレンは約10GHzでも誘電正接が約6x10^(-4)と大きく50GHzでは特性上不十分である。誘電正接は低ければ低いほど好ましいが、本発明で許容できる誘電正接は2.0x10^(-4)、好ましくは、1.8x10^(-4)である。また、ポリプロピレンは線膨張係数も広い温度範囲で使うには大き過ぎる。線膨張係数が大きすぎると実用上動作が不安定になる。
本発明では、材料の化学構造やそれに由来する誘電正接もさることながら、50GHz以上の電波を利用する回路部材において初めて寒暖の差・乾湿の差によって伝送効率が著しく影響を受けるという事実に遭遇したので安定して使用できる樹脂材料の選定が必要であり、材料選定の目安を見直す必要に迫られた。吸水率、熱膨張率の2つの条件は、特に、50GHz以上の電波を利用する回路部材において乾湿の差、寒暖の差による変動を小さくできることを、また、非晶質であるということが高い精度で成型できるための、必須条件になっている。
これら条件は、10乃至40GHz程度では実用上問題にならなかった条件であった。特に、ミリ波における寸法精度は少なくとも波長の1%以下に抑えることが必要とされ、例えば、60GHzにおいては数十μmの精度が必要とされる。この程度の精度には射出成型時の冷却過程における結晶化なども影響を与える。従って、成型用材料として非晶質であることが望ましい。この精度は更に使用の際にも乱されることが少ないようにしなければならない。」(段落【0008】?【0010】)

b.「【実施例】表1に射出成型されたプラスチック樹脂材料を示す。かかる樹脂材料を用いて、50GHzの周波数帯域において動作するストリップラインより構成された共振回路を用いて環境試験後に伝送特性評価実験を行なった。
【表1】

特性の変動幅が最も少なかったものはアモルファスポリオレフィンであった。アモルファスポリオレフィンは、約38GHzにおける誘電正接も約1.30x10^(-4)乃至1.50x10^(-4)であり、50GHzにおいても約1.8x10^(-4)以下と特開平10-316829号公報の約2.5x10^(-4)よりも十分小さな値なることがわかった。」(段落【0011】?【0013】)

c.「更に、アモルファスポリオレフィンの中で以下の化学式を有するジメタノナフタレン構造は、特に特性が優れていた。
【化1】

」(段落【0013】?【0014】)

2.合議体の判断
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければいけない。」(以下、「実施可能要件」という。)と規定している。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するかどうかについて検討する。
本願発明は、「50GHz以上のミリ波を利用した通信用の回路部材」という物の発明であるところ、物の発明について実施することができるとは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、発明の詳細な説明においては、当業者が、かかる発明について、その物を作ることができるように、かつ、その物を使用できるように記載されていなければならない。
そして、本願発明に係る回路部材は、上記第2.記載のとおり、「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィンからなる成形品」から構成されるものであるから、本願発明に係る回路部材を当業者が作ることができるように記載されているというためには、発明の詳細な説明においては、「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィンからなる成形品」を当業者が作ることができるように記載されていなければならない。
そこで、かかる成形品について、当業者が作ることができるように記載されているかどうかについて検討する。
発明の詳細な説明において、樹脂材料からなる成形品が実際に製造されたことが確認できるのは、摘示事項b.の【表1】等に結果の示された【実施例】に記載された成形品だけであって、本願発明に係る成形品は、上記第2.のとおり、「吸水率が0.01%以下で、熱膨張率が7×10^(-5)以下で、50GHzにおける誘導正接が2.0×10^(-4)以下であること」なる事項により特定されるものであるから、【実施例】に記載された成形品のうち、かかる事項を満足する成形品は、「プラスチック樹脂材料」として「アモルファスポリオレフィン」と記載されたものだけであることは明らかである。
しかしながら、発明の詳細な説明には、上記摘示事項からみても、かかる「アモルファスポリオレフィン」については、いかなる構造からなる樹脂材料であるのか、及び製造方法を含めた入手手段はどのようなものであるのかを特定するために必要な記載がなく、しかも、【表1】記載のアモルファスポリオレフィンが「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む」ものであるのかどうかについての記載もないことから、かかる実施例における成形品が本願発明に係る「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィンからなる成形品」に該当するものであるのかどうかを確認することができない。
また、仮に、かかる「アモルファスポリオレフィン」が「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」に相当するものであるとしても、発明の詳細な説明における記載は上記のとおりであり、「ジメタノナフタレン又はその誘導体」をどの程度、どのような構造で含む「非晶質ポリオレフィン」であるのかが記載されていないことから、かかる「アモルファスポリオレフィン」を「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」として具体的に確認することができない。
さらに、摘示事項c.には、「更に、アモルファスポリオレフィンの中で以下の化学式を有するジメタノナフタレン構造は、特に特性が優れていた。」と記載されていることから、「以下の化学式を有するジメタノナフタレン構造」として示されるものは、「アモルファスポリオレフィン」が包含する範囲に含まれる好適な態様であると解される。しかしながら、「以下の化学式を有するジメタノナフタレン構造」なる記載からは、【化1】を参照しても、「ジメタノナフタレンが重合した部分構造を含む共重合体」が理解できるだけであって、かかる共重合体に関してジメタノナフタレン以外の共重合成分については何ら記載がないことから、かかる共重合体を具体的に理解することができない。また、【化1】の共重合体の下に記載された部分構造式以外の部分、すなわち、ジメタノナフタレン以外の共重合成分により、共重合体の特性が変わることは自明であるから、ジメタノナフタレン以外の共重合成分がどのような成分であって、いかなる組成比であっても、摘示事項c.における「特性」について同等の効果を奏するものであるとも認められない。そうであれば、「以下の化学式を有するジメタノナフタレン構造」なる樹脂材料を具体的に確認することはできず、また、実施例に用いられた樹脂材料としての「アモルファスポリオレフィン」との関係も何ら記載がないことから、摘示事項c.は、当業者が本願発明に係る成形品を作ることができるような記載であるとはいえない。
そして、上記摘示事項を含めて、発明の詳細な説明には、「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィンからなる成形品」をいかにして作るのかについての記載はない。
してみれば、発明の詳細な説明の記載からは、本願発明に係る「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィンからなる成形品」が作られたことが確認できないし、また、発明の詳細な説明には、かかる成形品を作ることができるように記載されていない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものではない。

3.請求人の主張についての検討
請求人は、審判請求書において、『この刊行物等提出書には特開平8-213113号広報(刊行物1)、特開平8-332701号広報(刊行物2)、「非晶質ポリオレフィン ZEONEX 総合カタログ」(刊行物3)及び「環状オレフィンコポリマー アペル」(刊行物4)が開示されている。情報提供人の主張にあるように、刊行物1および刊行物2には、熱可塑性ノルボルネン系樹脂で、ジメタノナフタレン構造を有するものが開示されている(刊行物1明細書段落【0013】、刊行物2【0135】)。これらの従来技術から、「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」は、出願当時、いわゆる当業者に知られている。・・・そして、上述のように本発明の回路部材に使用される材料と同系列の樹脂、「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」は出願当時入手可能であったことがわかる。「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」の種々の特性を調整することは当業者であれば、明細書にその方法を明記するまでもなく十分可能である。例えば、極性基を導入せず(吸水率、誘電正接の調整)、代わりに立体障害等を大きくし樹脂内での分子鎖の動きを制限する(熱膨張率の調整)、などである。以上から、「吸水率が0.01%以下で、熱膨張率が7×10^(-5)以下で、50GHzにおける誘導正接が2.0×10^(-4)以下であるジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」の詳しい製法を記載するまでもなく、かかる材料は出願当時、当業者に知られ、入手可能であったに等しいと言える。』と主張するが、仮に、請求人の主張のとおり、本願出願当時、「ジメタノナフタレン又はその誘導体を含む非晶質ポリオレフィン」が当業者に知られていたとしても、かかる非晶質ポリオレフィンからなる成形品を特定の特性を有するものとすることまでが、本願出願当時の技術常識を参酌して、自明のこととはいえないことから、かかる主張をもって本願明細書に係る記載不備が解消するものではなく、請求人の主張は採用できない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由とされた理由1は妥当なものであるので、本願は、原査定の拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-11 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2002-69034(P2002-69034)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C08F)
P 1 8・ 537- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 松浦 新司
前田 孝泰
発明の名称 50GHz以上のミリ波を利用した通信用の回路部材  
代理人 藤元 亮輔  

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