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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M |
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管理番号 | 1216758 |
審判番号 | 不服2008-12344 |
総通号数 | 127 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-15 |
確定日 | 2010-05-13 |
事件の表示 | 特願2004- 26064「エンジンの燃料供給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日出願公開、特開2005-214185〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本件出願は、平成16年2月2日の出願であって、平成20年1月7日付けの拒絶理由の通知に対して、同年3月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年6月2日付けの手続補正書によって明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において、平成21年8月3日付けで書面による審尋がなされたものである。 【2】平成20年6月2日付けの明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成20年6月2日付けの手続補正を却下する。 [理 由] 1.本件補正の内容 平成20年6月2日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年3月17日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項1及び2を、下記の(a)に示す請求項1と補正する内容を含むものである。 (a)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 エンジンのシリンダヘッドに設けられて燃料を燃焼室内に噴射する複数のインジェクタと、上記シリンダヘッドの内部に通路状に形成されて上記インジェクタに燃料タンクからの燃料を供給する供給ラインと、上記シリンダヘッドの内部に通路状に形成されて上記インジェクタからオーバフローする燃料を燃料タンク側へ戻す戻りラインとを有し、 上記インジェクタの側壁にその内部に連通する燃料供給穴と燃料戻り穴とを同一平面内にて同一軸線上に位置させて形成し、上記燃料供給穴には上記供給ラインを接続すると共に上記燃料戻り穴には上記戻りラインを接続し、隣り合うインジェクタ間では上記供給ラインと戻りラインとを共通化して1本のラインとして一つの経路上に配設したエンジンの燃料供給システムであって、 上記インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴の穴径を直径約8.5?14mmの大きさにすると共に、上記供給ライン及び戻りラインの管径を上記各穴径に合わせた大きさとし、 上記インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料の供給ライン及び戻りラインが接続される部分は外側に膨らんだ筒形状に形成され、この部分に燃料溜まり部を設けた、 ことを特徴とするエンジンの燃料供給システム。」(下線部は補正箇所を示す。) (b)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 エンジンのシリンダヘッドに設けられて燃料を燃焼室内に噴射する1個又は複数のインジェクタと、このインジェクタに燃料タンクから燃料を供給する供給ラインと、上記インジェクタからオーバフローする燃料を燃料タンク側へ戻す戻りラインとを有し、 上記インジェクタの側壁にその内部に連通する燃料供給穴と燃料戻り穴とを同一平面上に位置させて形成し、上記燃料供給穴には上記供給ラインを接続すると共に上記燃料戻り穴には上記戻りラインを接続し、上記供給ラインと戻りラインとを一つの経路上に配設したエンジンの燃料供給システムであって、 上記インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴の穴径を直径約8.5?14mmの大きさにすると共に、上記供給ライン及び戻りラインの管径を上記各穴径に合わせた大きさにしたことを特徴とするエンジンの燃料供給システム。 【請求項2】 上記インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料の供給ライン及び戻りラインが接続される部分は、外側に膨らんだ筒形状に形成され、この部分に燃料溜まり部を設けたことを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料供給システム。」 2.補正の適否の判断 本件補正前の請求項1を削除し、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される発明(請求項1を引用。)の発明特定事項である a)「1個又は複数」、 b)「このインジェクタに燃料タンクから燃料を供給する供給ライン」、 c)「上記インジェクタからオーバフローする燃料を燃料タンク側へ戻す戻りライン」、 d)「同一平面上」及び e)「上記供給ラインと戻りラインとを一つの経路上に配設した」 をそれぞれ A)「複数」、 B)「上記シリンダヘッドの内部に通路状に形成されて上記インジェクタに燃料タンクからの燃料を供給する供給ライン」、 C)「上記シリンダヘッドの内部に通路状に形成されて上記インジェクタからオーバフローする燃料を燃料タンク側へ戻す戻りライン」、 D)「同一平面内にて同一軸線上」及び E)「隣り合うインジェクタ間では上記供給ラインと戻りラインとを共通化して1本のラインとして一つの経路上に配設した」 と補正するものであるから、 上記a)については、択一的記載であったものの一方のみを上記A)とすることで限定し、 上記b)については、「供給ライン」の構成を限定して上記B)とし、 上記c)については、「戻りライン」の構成を限定して上記C)とし、 上記d)については、「同一平面」におけるさらなる範囲を限定して上記D)とし、 上記e)については、「供給ライン」と「戻りライン」とを一つの経路上に配設した範囲を限定して上記E)とし、 これらそれぞれを包含するものであるから、請求項1に関する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、単に「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。 3.独立特許要件について 3-1.引用文献記載の発明及び技術 3-1-1.引用文献1記載の発明 (1)原査定の拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-183964号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「1.シリンダヘッドにユニットインジェクタを取付け、前記シリンダヘッド上に配されているカムシャフトのカムによって前記ユニットインジェクタ内のプランジャを加圧し、前記ユニットインジェクタの先端側のノズルの噴口から燃料を噴射するようにした装置において、 フィードポンプによって加圧された燃料を前記シリンダヘッドのギャラリ内を循環させるようにし、前記ギャラリ内の燃料を前記ユニットインジェクタ内に充填して加圧するようになし、しかも前記ギャラリからタンク内に戻される余剰の燃料を冷却手段によって冷却するようにしたことを特徴とする燃料噴射装置。」(特許請求の範囲の請求項1) (イ)「第1図は本発明の第1の実施例に係る燃料噴射装置を示すものであって、エンジンのシリンダブロック10には縦方向に延びる貫通孔から成るシリンダ11が形成されており、このシリンダ11内にはピストン12が摺動可能に保持されている。そしてシリンダ11の上部開口はシリンダヘッド13によって閉じられるようになっている。シリンダヘッド13には各気筒に対応するユニットインジェクタ14が取付られている。そしてこのユニットインジェクタ14の先端側の燃料噴射ノズルの噴口からピストン12の頂部に形成されている燃焼室15に向けて燃料が噴射されるようになっている。 ユニットインジェクタ14についてさらに詳細に説明すると、このユニットインジェクタ14にはプランジャ18が摺動可能に取付けられており、このプランジャ18をカムシャフト19に取付けられているカム20によって押圧することにより、燃料を加圧して噴射するようにしている。カムシャフト19の端部にはギヤ21が固着されている。そしてこのギヤ21はギヤ22に噛合うとともに、ギヤ22がギヤ23に噛合っている。ギヤ23はフィードポンプ24の入力軸に固着されるようになっている。そしてこのフィードポンプ24には吸引管25が接続されるとともに、吸引管25によって燃料タンク26内の燃料を吸引するようにしている。なお吸引管25の途中にはフィルタ27が取付けられている。 フィードポンプ24の出口側には燃料供給管30が接続されるとともに、この燃料供給管30がシリンダヘッド13のギャラリ31と連通されるようになっている。またこのギャラリ31の出口側には燃料戻し管32が接続されている。そしてこの戻し管32の先端側は燃料冷却用クーラ33に接続されている。また燃料冷却用クーラ33の出口側は燃料戻し管34と接続され、この戻し管34を通して燃料タンク26内に燃料を戻すようにしている。」(第2ページ右下欄第6行ないし第3ページ右上欄第5行) (ウ)「以上のような構成において、エンジンの出力の一部によってフィードポンプ24がギヤ23を介して駆動されると、フィードポンプ24がタンク26から吸引した燃料を低圧に加圧する。そして低圧の燃料はシリンダヘッド13のギャラリ31内に導入される。しかもギャラリ31内の燃料はシリンダヘッド13のインジェクタ14に充填される。そしてギヤ21を介してカムシャフト19がエンジンの出力によって駆動されると、カムシャフト19に取付けられているカム20がユニットインジェクタ14のプランジャ18を順次押圧し、これによってインジェクタ14内に充填された燃料を加圧することになる。加圧された燃料はユニットインジェクタ14の先端側のノズルの噴口からピストン12の燃焼室15に向けて噴射されることになり、ピストン12によって加圧された吸気の熱によって自然着火されるようになる。このようにしてエンジンが出力を発生することになる。 フィードポンプ24はユニットインジェクタ14が噴射する燃料の実噴射量の2?3倍の量をギャラリ31内に供給する。従って余剰の燃料は戻し管32を通して戻されることになる。そしてこの戻し管32を通して戻された燃料は燃料冷却用クーラ33によって冷却され、このあとに燃料戻し管34を通してタンク26に戻されるようになっている。」(第3ページ右上欄第8行ないし同ページ左下欄第14行) (2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(ウ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。 (エ)上記(1)の(ア)ないし(ウ)及び第1図の記載からみて、燃料は、燃料タンク26からフィードポンプ24を経てシリンダヘッド13の内部に通路状に形成されているギャラリ31内に導入され、ユニットインジェクタ14に入り先端側のノズルの噴口から燃焼室15に向けて噴射され、余剰の燃料は戻し管32を通して燃料タンク26へ戻されることがわかる。 このとき、複数ある各ユニットインジェクタ14へ供給される燃料の供給経路は、シリンダヘッド13の内部に通路状に形成されて上記ユニットインジェクタ14に燃料タンク26からの燃料を供給する、「ギャラリ31」となり、また、複数ある各ユニットインジェクタ14から戻される燃料の戻り経路は、シリンダヘッド13の内部に通路状に形成されて上記ユニットインジェクタ14から余剰で戻される燃料を燃料タンク26側へ戻す「ギャラリ31」となり、さらに、隣り合うユニットインジェクタ14間での、供給経路でもあり戻り経路でもある経路は、前記供給経路と前記戻り経路とを共通化して「1本のギャラリ31」として一つの経路上に配設されていることがわかる。 (オ)上記(1)の(イ)、(ウ)及び第1図の記載からみて、燃料はユニットインジェクタ14に入り先端側のノズルの噴口から燃焼室15に向けて噴射されるので、ユニットインジェクタ14の側壁にその内部に連通する燃料供給穴があり、また、ユニットインジェクタ14から余剰の燃料は戻し管32を通して燃料タンク26へ戻されるので、ユニットインジェクタ14の側壁にその内部に連通する燃料戻り穴があることは明らかである。 また、シリンダヘッド13の内部に直線の通路状にギャラリ31が形成されており、当該燃料供給穴と当該燃料戻り穴とは、供給経路であり戻り経路でもあるギャラリ31と接続関係にあるものであるから、ユニットインジェクタ14の側壁にその内部に連通する燃料供給穴と燃料戻り穴とを同一平面内にて同一軸線上に位置させて形成し、上記(エ)の記載を合わせると、上記燃料供給穴には「ギャラリ31」を接続すると共に上記燃料戻り穴には「ギャラリ31」を接続していることは明らかである。 (3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「エンジンのシリンダヘッド13に設けられて燃料を燃焼室15内に噴射する複数のユニットインジェクタ14と、上記シリンダヘッド13の内部に通路状に形成されて上記ユニットインジェクタ14に燃料タンク26からの燃料を供給するギャラリ31と、上記シリンダヘッド13の内部に通路状に形成されて上記ユニットインジェクタ14から余剰で戻される燃料を燃料タンク26側へ戻すギャラリ31とを有し、 上記ユニットインジェクタ14の側壁にその内部に連通する燃料供給穴と燃料戻り穴とを同一平面内にて同一軸線上に位置させて形成し、上記燃料供給穴には上記ギャラリ31を接続すると共に上記燃料戻り穴には上記ギャラリ31を接続し、隣り合うユニットインジェクタ14間では上記ギャラリ31を共通化して1本のギャラリ31として一つの経路上に配設したエンジンの燃料噴射装置であって、 上記ユニットインジェクタ14の燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料のギャラリ31が接続される部分を有した、 エンジンの燃料噴射装置。」 3-1-2.引用文献2記載の技術 (1)原査定の拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-96265号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 ハウジングの下方に、上下方向に渡って弁室が穿設されるとともに弁室内には、弁棒が移動自在に配置され、前記、弁棒の下端には、弁室に連なって形成されたバルブシートの弁座を開閉する弁部を備え、弁棒の上端には、ハウジング空間内に突出するパイプの下端に少なくとも対向する可動コアを備え、一方、ハウジングの外側から弁室内に向けて燃料孔が開口して穿設されたボトムフィード型電磁式燃料噴射弁において、弁室内に、燃料孔からバルブシートの弁座に向かう燃料を濾過するフィルターを配置したことを特徴とするボトムフィード型電磁式燃料噴射弁。 【請求項2】 前記、フィルターは、上側環状枠体と、下側環状枠体と、上側環状枠体と下側環状枠体との間にあって上下方向に配置される筒状の網と、により形成され、弁室内に配置されるフィルターは、その下側環状枠体の下面が弁室内のバルブシート側に形成される縮小段部上に当接して配置され、上側環状枠体の上面が弁室内の上部近傍に固定配置される上側弁棒センタリング部材に当接して配置したことを特徴とする請求項1記載のボトムフィード型電磁式燃料噴射弁。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】) (イ)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、電子式燃料噴射装置に用いられ、燃料ポンプによって加圧された燃料を制御して内燃機関へ供給する電磁式燃料噴射弁に関するもので、そのうち特に電磁式燃料噴射弁を構成するハウジングの下方外側の燃料孔から弁室内に燃料を供給し、この燃料をバルブシートの弁座を介して弁孔より噴射するボトムフィード型電磁式燃料噴射弁に関し、このボトムフィード型電磁式燃料噴射弁内を弁座に向けて流れる燃料中に含まれる異物を除去する為のフィルターに関するものである。」(段落【0001】) (ウ)「【0021】 【実施例】本発明になるボトムフィード型電磁式燃料噴射弁の一実施例を図1によって説明する。尚、図3と同一構造部分は同一符号を使用して説明を省略する。下側ハウジング20は、その上端20Aに、可動コア15が上下方向に移動しうる可動コア作動室20Bが上方に向かって開口して穿設され、下側ハウジング20の下端20Cにはバルブシート挿入孔20Dが下方に向かって開口して穿設され、可動コア作動室20Bとバルブシート挿入孔20Dとは、上下方向に渡って穿設される弁室20Eによって連絡される。可動コア作動室20Bの下底部には、上方に臨む第1係止段部20Fが形成され、弁室20Eの下方近傍には上方に臨む第2係止段部20Gが形成され、更にバルブシート挿入孔20Dの上底部には、下方に臨む第3係止段部20Hが形成される。一方、この下側ハウジング20の下方の外側部から弁室20E内に向けて複数の燃料孔20Jが貫通して穿設される。(尚、前記第2係止段部20Gは、弁室20E内のバルブシート8側に形成される縮小段部となる。) 【0022】弁室20E内に配置されるフィルター30は以下によって形成される。図2によって説明すると、30Aは環状をなす上側環状枠体であり、30Bは環状をなす下側環状枠体である。そして、上側環状枠体30Aと下側環状枠体30Bとは、支柱30Cによって連絡され、上側環状枠体30Aの内側と下側環状枠体30Bの内側との間には上下方向の筒状の網30Dが取着される。このフィルター30は合成樹脂材料を射出成形して製作されるもので、このとき網30Dは同時に一体成形される。又、上側及び下側環状枠体30A,30Bと支柱30Cの外径は、弁室20Eの内径より小径とすることが好ましい。更に又、上側環状枠体30Aの上面30E上及び下側環状枠体30Bの下面30F上にそれらの面より突出する環状突リブRを設ける。 【0023】そして下側ハウジング20には、次の如く各構成部品が組付けられる。下側ハウジング20の下端20Cからバルブシート挿入孔20D内の第3係止段部20Hに向けて、下側弁棒センタリング部材9、バルブシート8、計量板10、環状リング11が順次挿入され、次いで下側ハウジング20の下端20Cを環状リング11に向けて内方へカシメる。以上によると、バルブシート挿入孔20D内にあって第3係止段部20H上に下側弁棒センタリング部材9、バルブシート8、計量板10、環状リング11が固定的に配置され、このときバルブシート8の流路8Bの上流は下側弁棒センタリング部材9の流路9Bを介して弁室20Eへ連絡される。 【0024】次に、下側ハウジング20の上端20Aに開口する可動コア作動室20Bを介して弁室20E内にフィルター30を挿入する。これによると、フィルター30の下側環状枠体30Bの環状突リブRが第2係止段部20G上に当接する。次に、可動コア作動室20Bの第1係止段部20F上に上側弁棒センタリング部材11を配置するとともにその上面上の縮小された可動コア作動室20Bに圧入リング12を圧入する。以上によると、フィルター30の下側環状枠体30Bの下面30Fの環状突リブRは第2係止段部20Gに当接し、上側環状枠体30Aの上面30Eの環状リブRは上側弁棒センタリング部材11の下面に当接し、かかる状態においてフィルター30は弁室20E内に固定される。そして、可動コア15、弁部14を備えた弁棒13が上側弁棒センタリング部材11の弁棒案内孔11A、下側弁棒センタリング部材9の弁棒案内孔9A内に挿入配置されるもので、これによると弁部14はバルブシート8の流路8B内にあって弁座8Cに対向して配置され、可動コア15は可動コア作動室20B内に収納配置されて、弁棒13は移動自在にセンタリング配置される。 【0025】そして、かかる下側ハウジング20の上端20Aが、従来例と同様に下方端1Cから上側ハウジング1の係止段部1Bに向けて挿入され、次いで下方端1Cが下側ハウジング20に向けて内方へカシメられ、もってボトムフィード型電磁式燃料噴射弁の組付けが完了する。尚、図1において、かかるボトムフィード型電磁式燃料噴射弁が装着される燃料分配管Mは一点鎖線で示される。」(段落【0021】ないし【0025】) (エ)「【0026】図示せぬ燃料ポンプから圧送される高圧燃料は、燃料分配管M内の燃料流路M1より、ボトムフィード型電磁式燃料噴射弁の下側ハウジング20に穿設された燃料孔20Jを介して弁室20E内へ供給される。弁室20E内にあっては、フィルター30の上側環状枠体30Aの環状突リブRが上側弁棒センタリング部材11の下面に当接し、下側環状枠体30Bの環状突リブRが第2係止段部20G(いいかえると縮小段部)に当接していることから、燃料孔20Jを介して弁室20E内へ供給される燃料は、フィルター30の網30Dを介してのみ弁室20Eの内方へ流入するもので、この網30Dを燃料が通過する際、燃料中に含まれる異物は除去される。従って、バルブシート8の弁座8Cへ供給される燃料は異物を含むことのない清浄な燃料のみが供給されるので、弁部14による弁座8Cの正確な閉塞を保持しうるもので、燃料制御性の秀れたボトムフィード型電磁式燃料噴射弁を提供できる。尚、弁棒13と弁部14は別体であってもよい。」(段落【0026】) (2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(エ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。 (オ)上記(1)の(イ)及び図1の記載からみて、ボトムフィード型電磁式燃料噴射弁は、内燃機関の電子式燃料噴射装置に用いられるものであることがわかる。 (カ)上記(1)の(ア)、(ウ)及び(エ)並びに図1及び2の記載からみて、燃料分配管Mにボトムフィード型電磁式燃料噴射弁が取付けられていることがわかる。そしてこのボトムフィード型電磁式燃料噴射弁は、燃料分配管に取り付けられた燃料噴射弁の両側の燃料流路のいずれか一方の燃料流路から他方の燃料流路へ燃料が流れる形態のものであることから、燃料分配管Mに取り付けられたボトムフィード型電磁式燃料噴射弁両側の燃料流路M1のいずれか一方の燃料流路M1からボトムフィード型電磁式燃料噴射弁の下側ハウジング20に穿設された一方の燃料孔20Jを介して弁室20Eに流れ込んだ燃料は、他方の燃料孔20Jから他方の燃料流路M1へ流れているのは明らかである。 また、図2のフィルター30における上側環状枠体30A、下側環状枠体30B及び筒状の網30D等からフィルター30は全体として筒形状に形成されており、当該フィルター30がボトムフィード型電磁式燃料噴射弁の弁室20E内に配置されるので、該弁室20Eや下側ハウジング20は外側に膨らんだ筒形状に形成されており、この筒形状の部分に燃料が溜まることは明らかである。 (3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているものと認められる。 「内燃機関の電子式燃料噴射装置におけるボトムフィード型電磁式燃料噴射弁において、ボトムフィード型電磁式燃料噴射弁の一方の燃料孔20J及び他方の燃料孔20Jに燃料の一方の燃料流路M1及び他方の燃料流路M1が接続される部分は外側に膨らんだ筒形状に形成され、この部分に燃料が溜まる弁室20Eを設けた技術。」 3-2.対比・判断 (1)対比 本願補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「シリンダヘッド13」は、その機能及び形状や構造からみて、本願補正発明における「シリンダヘッド」に相当し、同様に、「燃焼室15」は「燃焼室」に、「ユニットインジェクタ14」は「インジェクタ」に、「燃料タンク26」は「燃料タンク」に、「ギャラリ31」は「供給ライン」、「戻りライン」及び「1本のライン」に、「余剰で戻される燃料」は「オーバフローする燃料」に、「燃料噴射装置」は「燃料供給システム」に、それぞれ相当する。 また、引用文献1記載の発明における「上記ユニットインジェクタ14の燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料のギャラリ31が接続される部分を有した」という事項は、「上記インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料の供給ライン及び戻りラインが接続される部分を有した」という限りにおいて、本願補正発明における「上記インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料の供給ライン及び戻りラインが接続される部分は外側に膨らんだ筒形状に形成され、この部分に燃料溜まり部を設けた」という事項と一致する。 したがって、本願補正発明と引用文献1記載の発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「エンジンのシリンダヘッドに設けられて燃料を燃焼室内に噴射する複数のインジェクタと、上記シリンダヘッドの内部に通路状に形成されて上記インジェクタに燃料タンクからの燃料を供給する供給ラインと、上記シリンダヘッドの内部に通路状に形成されて上記インジェクタからオーバフローする燃料を燃料タンク側へ戻す戻りラインとを有し、 上記インジェクタの側壁にその内部に連通する燃料供給穴と燃料戻り穴とを同一平面内にて同一軸線上に位置させて形成し、上記燃料供給穴には上記供給ラインを接続すると共に上記燃料戻り穴には上記戻りラインを接続し、隣り合うインジェクタ間では上記供給ラインと戻りラインとを共通化して1本のラインとして一つの経路上に配設したエンジンの燃料供給システムであって、 上記インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料の供給ライン及び戻りラインが接続される部分を有した、 エンジンの燃料供給システム。」 <相違点> ・相違点1 燃料供給穴及び燃料戻り穴の穴径と、当該穴径と供給ライン及び戻りラインの管径との関係に関し、 本願補正発明では、「燃料供給穴及び燃料戻り穴の穴径を直径約8.5?14mmの大きさにすると共に、供給ライン及び戻りラインの管径を上記各穴径に合わせた大きさとし」たのに対し、引用文献1記載の発明では、燃料供給穴及び燃料戻り穴の穴径は不明であり、また、供給ライン及び戻りラインの管径を上記各穴径に合わせた大きさとしたか不明である点(以下、「相違点1」という。)。 ・相違点2 インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料の供給ライン及び戻りラインが接続される部分に関し、 本願補正発明では、「外側に膨らんだ筒形状に形成され、この部分に燃料溜まり部を設けた」のに対し、引用文献1記載の発明では、外側に膨らんだ筒形状に形成されたか不明であり、この部分に燃料溜まり部を設けたかも不明である点(以下、「相違点2」という。)。 (2)判断 上記相違点1及び2について検討する。 ・相違点1について エンジンの燃料供給システムにおいて、供給ライン及び戻りラインの管径をインジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴の各穴径に対応させた大きさとすることは、従来周知の技術(以下、「周知技術」という。必要があれば、例えば、上記引用文献2の図1及び図3参照。)である。 また、燃料供給穴及び燃料戻り穴の穴径、若しくは、供給ライン及び戻りラインの管径は、燃料の必要な供給量、インジェクタや供給ライン及び戻りラインの貫通しているシリンダヘッドのサイズや形状、加工・組立ての状況等に対応させて当業者が必要に応じて適宜選定する設計事項(例えば、特表2001-502397号公報の特に、特許請求の範囲の請求項5、第7ページ第8ないし27行及び第8ページ第5ないし21行並びに図2及び3参照。燃料通路(17)の直径を10?15mmとした記載がある。)である。 そうすると、引用文献1記載の発明において、上記周知技術を採用し、供給ライン及び戻りラインの管径をインジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴の各穴径に対応させて合わせた大きさとし、その際、燃料供給穴及び燃料戻り穴の穴径を適宜選定して、上記相違点1に係る本願補正発明のようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。 ・相違点2について 本願補正発明と引用文献2記載の技術とを対比すると、引用文献2記載の技術における「内燃機関」は、その機能及び形状や構造からみて、本願補正発明における「エンジン」に相当し、同様に、「電子式燃料噴射装置」は「燃料供給システム」に、「ボトムフィード型電磁式燃料噴射弁」は「インジェクタ」に、「一方の燃料孔20J」は「燃料供給穴」に、「他方の燃料孔20J」は「燃料戻り穴」に、「一方の燃料流路M1」は「供給ライン」に、「他方の燃料流路M1」は「戻りライン」に、「燃料が溜まる弁室20E」は「燃料溜まり部」に、それぞれ相当するので、引用文献2記載の技術は、本願補正発明における用語にあわせて記載すると、 「エンジンの燃料供給システムにおけるインジェクタにおいて、インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料の供給ライン及び戻りラインが接続される部分は外側に膨らんだ筒形状に形成され、この部分に燃料溜まり部を設けた技術。」 であるといえる。 ここで、引用文献1記載の発明も引用文献2記載の技術もいずれもエンジンの燃料供給システムという同じ技術分野に属するもので一致しており、さらに、インジェクタへの燃料の供給ライン及び戻りラインが接続されるものであることでも一致している。 そうすると、引用文献1記載の発明において、引用文献2記載の技術を採用し、上記相違点2に係る本願補正発明のようにすることは、当業者が容易になし得る程度のことにすぎない。 また、本願補正発明は、全体として検討してみても、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。 3-3.まとめ したがって、本願補正発明は引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得る程度のことであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 【3】本願発明について 1.本願発明の内容 平成20年6月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1及び2に係る発明は、平成20年3月17日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、前記【2】の[理 由]の1.(b)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。 2.引用文献記載の発明及び技術 原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(特開平4-183964号公報)の記載事項及び引用文献1記載の発明、及び、引用文献2(特開平9-96265号公報)の記載事項及び引用文献2記載の技術は、前記【2】の[理 由]の3.の3-1.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、実質的に、前記【2】で検討した本願補正発明における発明特定事項である A)「複数」、 B)「上記シリンダヘッドの内部に通路状に形成されて上記インジェクタに燃料タンクからの燃料を供給する供給ライン」、 C)「上記シリンダヘッドの内部に通路状に形成されて上記インジェクタからオーバフローする燃料を燃料タンク側へ戻す戻りライン」、 D)「同一平面内にて同一軸線上」及び E)「隣り合うインジェクタ間では上記供給ラインと戻りラインとを共通化して1本のラインとして一つの経路上に配設した」、 さらに、 F)「上記インジェクタの燃料供給穴及び燃料戻り穴に燃料の供給ライン及び戻りラインが接続される部分は外側に膨らんだ筒形状に形成され、この部分に燃料溜まり部を設けた」 をそれぞれ a)「1個又は複数」、 b)「このインジェクタに燃料タンクから燃料を供給する供給ライン」、 c)「上記インジェクタからオーバフローする燃料を燃料タンク側へ戻す戻りライン」、 d)「同一平面上」及び e)「上記供給ラインと戻りラインとを一つの経路上に配設した」、 さらに、 f)「インジェクタ」 と、それぞれの限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記【2】の[理 由]の3.の3-2.及び3-3.に記載したとおり、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本願発明は、全体として検討してみても、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-03-19 |
結審通知日 | 2010-03-23 |
審決日 | 2010-03-26 |
出願番号 | 特願2004-26064(P2004-26064) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小林 正和 |
特許庁審判長 |
早野 公惠 |
特許庁審判官 |
八板 直人 柳田 利夫 |
発明の名称 | エンジンの燃料供給システム |
代理人 | 笹島 富二雄 |