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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1216766
審判番号 不服2008-16239  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-26 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 特願2005-187451「X線CTスキャナ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日出願公開、特開2005-324052〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、本願は、平成8年7月12日に出願した特願平8-183866号(以下、「原出願」の一部を平成17年6月27日に新たな特許出願としたものであって、平成20年1月24日付け拒絶理由通知に対し、同年3月31日付けで手続補正されたが、同年5月21日付けで拒絶査定され、これに対し、同年6月26日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年7月28日付けで手続補正されたものである。

第2 平成20年7月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正後の本願発明
本件補正により特許請求の範囲請求項1は、次のとおり補正された。

「【請求項1】被検体に対するX線ビームのスライス厚方向及びこのスライス厚方向に直交するチャンネル方向に複数のX線検出素子を2次元的に配列し且つ前記スライス厚方向の前記X線検出素子のピッチを不均等に形成した2次元検出器と、この2次元検出器の検出信号を収集処理してその検出信号に応じたディジタルデータを得るデータ収集素子を前記スライス厚方向及びチャンネル方向に対応させて複数個配列して成るデータ収集装置とを備えたX線CTスキャナにおいて、
前記2次元検出器は前記スライス厚方向に沿って各チャンネル毎に複数の検出素子列を有し、この各チャンネル毎の検出素子列は、前記スライス厚方向の中心部に最小スライスピッチを有する複数の基本検出素子を配置し、そのスライス厚方向に沿った前記基本検出素子の両サイドに前記最小スライスピッチよりもn倍(n:自然数)大きいスライスピッチを有するX線検出素子を配置した不均等ピッチ構造に構成し、
前記2次元検出器の各X線検出素子を前記スライス厚方向毎にスライス厚条件に応じて切換可能に選択し、同一スライス層のX線透過データを前記データ収集装置のスライス厚方向に対応するデータ収集素子に送るように接続し、それぞれ同一のスライス厚のX線透過データが得られるようにする検出素子選択手段を備え、 前記検出素子選択手段は、4スライス以上に対応した前記X線検出素子を選択し、最小スライスピッチより大きなスライスピッチのスライス厚が設定された場合において、スライス厚方向における内側のスライスに対応して選択される検出素子数は、外側のスライスに対応して選択される検出素子数よりも多いことを特徴とするX線CTスキャナ。」(下線は補正された箇所である。)

すると、本件補正は、
本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項に関し、
「検出素子選択手段」の構成として、「前記検出素子選択手段は、4スライス以上に対応した前記X線検出素子を選択し、最小スライスピッチより大きなスライスピッチのスライス厚が設定された場合において、スライス厚方向における内側のスライスに対応して選択される検出素子数は、外側のスライスに対応して選択される検出素子数よりも多い」と限定したものを含むものである。

したがって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「平成18年法改正前」とする。)の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶理由通知で引用された、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-606号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】 X線発生源と、
該X線発生源と被検体との間に設けられ、ファンビームX線のスライス方向であるX線スライス幅W_(i)(但し、iはスライス幅番号であって、i=1、2、…、n)を、最小スライス幅W_(1)の整数倍に調整することができるX線スライス幅調整機構と、
チャンネル幅t_(0)、最小スライス幅W_(1)相当のスライス検出幅d_(1)のサイズを有する検出素子が、ファンビーム方向にチャンネル相当分、スライス方向に少なくとも最大スライス幅W_(n)相当のスライス検出幅分配列した構成をなし、且つ前記X線発生源と対向して回転するX線検出器と、を備えたX線CT装置。
【請求項2】 X線発生源と、
該X線発生源と被検体との間に設けられ、ファンビームX線のスライス方向であるX線スライス幅W_(i)(但し、iはスライス幅番号であって、i=1、2、…、n)を、最小スライス幅W_(1)の整数倍で可変することができるX線スライス幅調整機構と、
チャンネル幅t_(0)、最小スライス幅W_(0)相当のスライス検出幅d_(1)のサイズを有する検出素子を、ファンビーム方向にチャンネル相当分、スライス方向に少なくとも最大スライス幅W_(n)相当のスライス検出幅分、配列した構成をなし、且つ前記X線発生源と対向して回転するX線検出器と、
前記検出素子のX線受光量を各々計測して増幅する複数の増幅素子から成る増幅器と、
設定調整されたX線スライス幅W_(i)のスライス幅番号iに応じて選択された、スライス方向の増幅素子数分の出力を加算して取り出すようにした、増幅素子出力の選択手段と、
を備えたX線CT装置。」

(1-イ)「【0017】【実施例】以下本発明を実施例に基づいて、より詳しく述べる。図1は、実施例におけるX線CT装置の検出系をに示したものである。情報処理系は、ブロック図で簡単に示してある。図において、10はCT装置のX線発生源であるX線管の焦点、11はCT装置のX線の二次的放射源の役割を果たすX線スライス幅調整機構、23はX線検出器、35はプリアンプ、41は画像処理装置、51は制御装置、61は画像表示装置、90は加算選択手段である。
【0018】X線検出器23は、n列の検出素子群25、26…から成る。検出素子群25、26は、素子群毎に、チャンネル総数分mの単位検出素子70から成る。従って、X線検出器23は、n×mの単位検出素子を配列したものである。単位検出素子70は、チャンネル方向の検出幅tとスライス方向の検出幅d_(1)から成る。隣り合う単位検出素子は、相互に独立してX線を検出できるように区分されている。単位検出素子70の検出幅d_(1)は、スライス幅調整機構11の最小スライス幅W_(1)に対応した検出幅である。検出素子群25、26…の総列数nは、スライス幅調整機構11の最大スライス幅W_(n)に対応した値である。即ち、総列数nによる総スライス幅WはW=n×W_(1)であり、これがW_(n)に相当する。
・・・(中略)・・・
【0021】X線スライス幅調整機構11は、スライス幅Wとしてn個のW_(i)(但し、iは整数であって例えばi=1、2、…、n、即ち、W1、W2、…、Wn個。ここで、W_(1)が最小スライス幅、W_(n)が最大スライス幅に相当する)のスライス幅を選択可能な構成である。ここでスライス幅Wとは、X線管の焦点10とX線検出器の検出面との距離の、半分の位置(回転中心軸)での、スライス方向のX線幅である。最小スライス幅W_(1)と第i番目のスライス幅W_(i)は、W_(i)=iW_(1)となっている。かくしてスライス幅調整機構11は最小スライス幅W_(1)の整数倍のスライス幅が選択できる。最小スライス幅W_(1)でのX線検出面での検出幅はd_(1)である。即ち、最小スライス幅W_(1)は、単位検出素子の検出スライス幅d_(1)に対応させてある。最大スライス幅W_(n)は総列数nでのスライス幅nW_(1)に相当する。これは検出面でみるに、nd_(1)となる。
【0022】図3?図5に加算選択手段90の選択事例を具体的に示す。図3は、スライス幅Wが、W=W_(8)(=8W_(1))の例であって、チャンネル番号1の例である。このチャンネル番号1での8個の検出素子で得るデータをD_(11)、D_(12)…、D_(18)と示した。サフィックスの最初の数字がチャンネル番号であり、サフィックスの第2の数字が検出素子番号を示す。図3(イ)?(ニ)は、この8個のデータD_(11)?D_(18)に対する、加算選択手段90による選択例を示す。
【0023】図3(イ)…8個のデータD_(11)?D_(18)の全加算の例。これは、8個のデータD_(11)?D_(18)の平均値を第1チャンネルの計測データとする例である。
図3(ロ)…4個のデータD_(11)?D_(14)、D_(15)?D_(18)に2分し、それぞれ加算した例。第1チャンネルから2つの計測データ(D_(11)+D_(12)+D_(13)+D_(14))、(D_(15)+D_(16)+D_(17)+D_(18))が得られる。これにより1回の計測で2つのスライス分(1スライスは4W_(1)の大きさ)の計測データを得、2つの再構成像を得ることができる。
図3(ハ)…2個のデータ毎に区分し、D_(11)+D_(12)、D_(13)+D_(14)、D_(15)+D_(16)、D_(17)+D_(18)と区分毎に加算し、4つのスライス分(1スライスは2W_(1)の大きさ)の計測データを得、4つの再構成像を得ることができる。
図3(ニ)…加算を一切行わずに、8個のデータをそのまま得る例であり、8スライス(1スライスはW_(1)の大きさ)の計測データを得、8つの再構成像を得ることができる。」

(1-ウ)「【0026】このように本実施例では、スライス選択機構11により最小スライス幅W_(1)の整数倍のスライス幅Wを選択できると共に、この選択したスライス幅のもとで、加算選択手段90により更に種々の選択が可能になる。この際、加算選択手段90による選択は、診断目的や要求画像精度、診断部位等によって、操作者が判断して行う。
【0027】加算選択手段90の具体構成を図6(イ)、(ロ)に示す。図6(イ)はアナログ式の例であり、スイッチ群91に対して、外部からの選択指令で加算群92内の該当加算器への入力数及び対応入力番号を決める。この選択結果の入力を受けて加算器(アナログ)群92の該当加算器が加算を行う。図6(ロ)はディジタル式の例であり、AD変換群93で信号D_(1)?D_(n)のすべてのAD変換を行ってデータ化し、これをメモリ94に格納する。メモリ94に対して外部から読出制御を行って、選択指令に従ってのデータ読出しを行う。そして加算器(ディジタル)で必要な加算を行う。
【0028】加算選択手段90で得られたデータは、画像処理装置41へ送られて演算され、X線断層像に再構成される。」

上記摘記事項(1-ア)記載の「ファンビームX線のスライス方向であるX線スライス幅W_(i)(但し、iはスライス幅番号であって、i=1、2、…、n)を、最小スライス幅W_(1)の整数倍で可変することができるX線スライス幅調整機構」、及び、上記摘記事項(1-ウ)記載の「スイッチ群91に対して、外部からの選択指令で加算群92内の該当加算器への入力数及び対応入力番号を決める。」からみて、スイッチ群91に対して、X線スライス幅調整機構からの選択指令で加算群92内の該当加算器への入力数及び対応入力番号を決めることが読み取れる。

また、上記摘記事項(1-ア)記載の「ファンビームX線のスライス方向であるX線スライス幅W_(i)(但し、iはスライス幅番号であって、i=1、2、…、n)を、最小スライス幅W_(1)の整数倍で可変することができるX線スライス幅調整機構」、及び、上記摘記事項(1-イ)記載の「2個のデータ毎に区分し、D_(11)+D_(12)、D_(13)+D_(14)、D_(15)+D_(16)、D_(17)+D_(18)と区分毎に加算し、4つのスライス分(1スライスは2W_(1)の大きさ)の計測データを得、4つの再構成像を得ることができる。」からみて、X線スライス幅調整機構からの選択指令で、加算選択手段90は、2個のデータ毎に区分し、区分毎に加算し、4つのスライス分の計測データを得、4つの再構成像を得ることができることが読み取れる。

これらの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「チャンネル幅t_(0)、最小スライス幅W_(1)相当のスライス検出幅d_(1)のサイズを有する検出素子が、ファンビーム方向にチャンネル相当分、スライス方向に少なくとも最大スライス幅W_(n)相当のスライス検出幅分配列した構成をなし、且つ前記X線発生源と対向して回転するX線検出器と、
X線スライス幅W_(i)(但し、iはスライス幅番号であって、i=1、2、…、n)を、最小スライス幅W_(1)の整数倍で可変することができるX線スライス幅調整機構と、
前記検出素子のX線受光量を各々計測して増幅する複数の増幅素子から成る増幅器に接続したスイッチ群91に対して、前記X線スライス幅調整機構からの選択指令で加算群92内の該当加算器への入力数及び対応入力番号を決め、この選択結果の入力を受けて加算を行う加算器からなる加算器群92を有する加算選択手段90とを備え、
X線スライス幅調整機構からの選択指令で、加算選択手段90は、2個のデータ毎に区分し、区分毎に加算し、4つのスライス分の計測データを得、4つの再構成像を得ることができるX線CT装置。」

(2)原査定の拒絶理由通知で引用された、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-169912号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】 所定厚のファンビームX線を被検体に向かって放射するX線管装置と前記被検体を透過した透過X線を多チャンネルで検出するX線検出器とを前記被検体を挟んで対向配置したまま回転軸の回りを回転自在に架台で支持し、前記X線管装置と前記X線検出器の回転軌道の各位置でX線爆射および透過X線の検出を繰り返して前記被検体に関する多方向の投影データを収集し、その多方向の投影データを再構成処理装置で再構成処理に供することにより断層像を得るX線コンピュータトモグラフィ装置において、
前記X線検出器は、同一開口度であって各チャンネルに対応する複数の検出素子を前記ファンビームX線の拡がり方向に沿って1次元配列した第1の検出素子列と、前記第1の検出素子列の各検出素子の前記開口度と異なる開口度であって各チャンネルに対応する複数の検出素子を前記ファンビームX線の拡がり方向に沿って1次元配列した第2の検出素子列とを、同一チャンネルを整合して併設してなり、
前記X線検出器と前記再構成処理装置との間に介在し、選択手段で選択した所望のスライス厚にしたがって、前記第1検出素子列で検出した各チャンネルの投影データ、前記第2検出素子列で検出した各チャンネルの投影データ、または前記第1検出素子列と前記第2検出素子列の同一チャンネルを加算した投影データを選択的に前記再構成処理装置に供給する手段を具備したことを特徴とするX線コンピュータトモグラフィ装置。」

(2-イ)「【0017】図3はこのデータ合成装置17のブロック図である。データ収集装置6からの検出信号は中央処理ユニット(CPU)22を介してデータ記憶部23に記憶される。このCPU22の入力端にはスライス厚を選択するためのスライス厚選択部24が接続されていて、このスライス厚選択部24で所望のスライス厚が選択されると、データ記憶部23の検出信号が読み出されCPU22を介してデータ選択部25に送られる。データ選択部25は、図5に示すように、各チャンネルに対応してn個のデータ選択部251 ?25n を備えていて、スライス厚選択部24で選択したスライス厚を満たすように検出素子列が選択され、その選択された検出素子列の各チャンネルの検出信号だけが出力される。そして、この選択された検出素子列の各チャンネルの検出信号は、各データ選択部251 ?25n に対応して接続されたデータ加算部26のデータ加算部261 ?26n に送られ、そこでチャンネル毎に加算され、画像再構成処理装置18に多方向投影データとして出力されるようになっている。
【0018】画像再構成処理装置18は、データ合成装置17からの多方向投影データを逐次近似法やフーリエ計算法などの再構成処理法に供して、X線吸収係数に応じたCT値を多点について計算しCT像を生成し、このCT像を画像データ記憶装置19や画像表示装置20に出力する。次に以上のように構成された本実施例の作用について説明する。
【0019】多方向投影データの収集にあたっては、高電圧制御装置8、架台制御装置9および寝台制御装置15が主制御装置16により統括的に制御され、架台駆動装置5の駆動によるリングフレームの回転に伴ってX線管2およびnチャンネル型2次元アレイ検出器4が被検体Pの回りを所定の角速度で間欠回転または連続回転し、その回転の各位置で、高電圧発生装置7からX線管2に高電圧が供給されてX線爆射が繰り返され、またnチャンネル型2次元アレイ検出器4の全ての検出素子列21a ?21f の全ての検出素子の同時検出が繰り返される。
【0020】nチャンネル型2次元アレイ検出器4の全検出素子で検出された各検出信号は、データ収集装置6で各別に増幅され且つディジタル変換された後、スリップリング装置等の図示しないデータ転送部を介してデータ合成装置17に供給され、CPU22を介して、一旦、データ記憶部23に記憶される。
【0021】そして、スライス厚選択部24をして、1mm、2mm、5mm、10mmの選択範囲の中の所望のスライス厚が選択されると、全ての検出信号がデータ記憶部23から読み出されCPU22を介してチャンネル毎にデータ選択部25の各データ選択部251 ?25n に送られる。データ選択部25では、スライス厚選択部24で選択したスライス厚を構成するように、検出素子列21a ?21f が次のように選択される。つまり、1mmスライス厚が選択されると検出素子列21c (または21d )が選択され、2mmスライス厚が選択されると検出素子列21c および21d が選択され、5mmスライス厚が選択されると検出素子列21b 、21c 、21d および21e が選択され、10mmスライス厚が選択されると検出素子列21a ?21f の全ての列が選択される。
【0022】例えば、2mmスライス厚が選択されると、検出素子列21c および21d が選択され、この検出素子列21c および21d を構成する各検出素子の検出信号だけが、データ選択部25の各データ選択部251 ?25n からデータ加算部26の各データ加算部261 ?26n に送られる。」

(2-ウ)「【0027】以上のように本実施例は、X線管装置を回転軌道の各位置でX線爆射すると共に、被検体の各経路を透過したX線を、複数の検出素子を1次元配列した検出素子列を多列備えるX線検出器の全ての検出素子で同時検出し、この検出後に所望のスライス厚にしたがって検出素子列を選択し、この選択した検出素子列の同一チャンネルを加算して再構成処理装置に供給しそこで再構成処理に供しているので、一回のデータ収集で得たデータを選択的に用いて様々なスライス厚の断層像を生成することができる。
【0028】本発明は上述した実施例に限定されることなく、種々変形して実施可能である。例えば、上述の図2に示したnチャンネル型2次元アレイ検出器は、一回のデータ収集で一スライスのデータを収集するシングルスライス用の検出器であったが、各検出素子列の奥行き長や検出素子列数等を任意に変更し、例えば図6に示した検出素子配列の構造を採用してもよい。図6に示したnチャンネル型2次元アレイ検出器は、同一幅で奥行き長Da が5mmのn個の検出素子を一次元に配列した検出素子列22a と、奥行き長Db が3mmのn個の検出素子を一次元に配列した検出素子列22b と、奥行き長Dc が1mmのn個の検出素子を一次元に配列した検出素子列22c と、奥行き長がDc と同じ1mmのn個の検出素子を一次元に配列した検出素子列22d とを一組として設け、この組と同じ組み合わせの検出素子列22e ?22h を併設した他の組を上記一組に併設し、一回のデータ収集で2スライスのデータを収集するダブルスライス対応としてもよい。」

3.対比・判断
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。

(1)引用例1発明の「チャンネル幅t_(0)、最小スライス幅W_(1)相当のスライス検出幅d_(1)のサイズを有する検出素子が、ファンビーム方向にチャンネル相当分、スライス方向に少なくとも最大スライス幅W_(n)相当のスライス検出幅分配列した構成をなし、且つ前記X線発生源と対向して回転するX線検出器」と、
本願補正発明の「被検体に対するX線ビームのスライス厚方向及びこのスライス厚方向に直交するチャンネル方向に複数のX線検出素子を2次元的に配列し且つ前記スライス厚方向の前記X線検出素子のピッチを不均等に形成した2次元検出器」及び「前記2次元検出器は前記スライス厚方向に沿って各チャンネル毎に複数の検出素子列を有し」とは、
機能・構造からみて、「被検体に対するX線ビームのスライス厚方向及びこのスライス厚方向に直交するチャンネル方向に複数のX線検出素子を2次元的に配列した2次元検出器」及び「前記2次元検出器は前記スライス厚方向に沿って各チャンネル毎に複数の検出素子列を有し」という点で共通する。

(2)引用例1発明の「前記検出素子のX線受光量を各々計測して増幅する複数の増幅素子から成る増幅器に接続したスイッチ群91に対して、外部からの選択指令で加算群92内の該当加算器への入力数及び対応入力番号を決め、この選択結果の入力を受けて加算を行う加算器」と、
本願補正発明の「この2次元検出器の検出信号を収集処理してその検出信号に応じたディジタルデータを得るデータ収集素子」とは、
機能・構造、及び、他の構成との接続関係からみて、「この2次元検出器の検出信号を収集処理してその検出信号を得るデータ収集素子」という点で共通する。

(3)引用例1発明の「加算器群92を有する加算選択手段90」は、他の構成からみてスライス厚方向及びチャンネル方向に各加算器により加算を行うといえるから、本願補正発明の「データ収集素子を前記スライス厚方向及びチャンネル方向に対応させて複数個配列して成るデータ収集装置」に相当する。

(4)引用例1発明の「X線スライス幅W_(i)(但し、iはスライス幅番号であって、i=1、2、…、n)を、最小スライス幅W_(1)の整数倍で可変することができるX線スライス幅調整機構」は、「スイッチ群91に対して、前記X線スライス幅調整機構からの選択指令で加算群92内の該当加算器への入力数及び対応入力番号を決め」るものであるから、本願補正発明の「前記2次元検出器の各X線検出素子を前記スライス厚方向毎にスライス厚条件に応じて切換可能に選択し、同一スライス層のX線透過データを前記データ収集装置のスライス厚方向に対応するデータ収集素子に送るように接続し、それぞれ同一のスライス厚のX線透過データが得られるようにする検出素子選択手段」に相当する。

(5)引用例1発明の「加算選択手段90は、2個のデータ毎に区分し、区分毎に加算し、4つのスライス分の計測データを得、4つの再構成像を得ることができる」と、
本願補正発明の「前記検出素子選択手段は、4スライス以上に対応した前記X線検出素子を選択し、最小スライスピッチより大きなスライスピッチのスライス厚が設定された場合において、スライス厚方向における内側のスライスに対応して選択される検出素子数は、外側のスライスに対応して選択される検出素子数よりも多い」とは、
機能からみて、「前記検出素子選択手段は、4スライス以上に対応した前記X線検出素子を選択する」点で共通する。

(6)引用例1発明の「X線装置」は、機能・構造からみて、本願補正発明の「X線CTスキャナ」に相当する。

以上、(1)?(6)の考察から、両者は、

(一致点)
「被検体に対するX線ビームのスライス厚方向及びこのスライス厚方向に直交するチャンネル方向に複数のX線検出素子を2次元的に配列した2次元検出器と、この2次元検出器の検出信号を収集処理してその検出信号を得るデータ収集素子を前記スライス厚方向及びチャンネル方向に対応させて複数個配列して成るデータ収集装置とを備えたX線CTスキャナにおいて、 前記2次元検出器は前記スライス厚方向に沿って各チャンネル毎に複数の検出素子列を有し、 前記2次元検出器の各X線検出素子を前記スライス厚方向毎にスライス厚条件に応じて切換可能に選択し、同一スライス層のX線透過データを前記データ収集装置のスライス厚方向に対応するデータ収集素子に送るように接続し、それぞれ同一のスライス厚のX線透過データが得られるようにする検出素子選択手段を備え、 前記検出素子選択手段は、4スライス以上に対応した前記X線検出素子を選択することを特徴とするX線CTスキャナ。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
2次元検出器、及び、検出素子選択手段の構成が、
本願補正発明では、「スライス厚方向のX線検出素子のピッチを不均等に形成し」、「各チャンネル毎の検出素子列は、前記スライス厚方向の中心部に最小スライスピッチを有する複数の基本検出素子を配置し、そのスライス厚方向に沿った前記基本検出素子の両サイドに前記最小スライスピッチよりもn倍(n:自然数)大きいスライスピッチを有するX線検出素子を配置した不均等ピッチ構造に構成し」、「最小スライスピッチより大きなスライスピッチのスライス厚が設定された場合において、スライス厚方向における内側のスライスに対応して選択される検出素子数は、外側のスライスに対応して選択される検出素子数よりも多い」のに対し、
引用例1発明では、「スライス検出幅d_(1)のサイズを有する検出素子」であり、「2個のデータ毎に区分し、区分毎に加算し、4つのスライス分の計測データを得」ている点。

(相違点2)
2次元検出器の検出信号を収集処理してその検出信号に応じたデータ収集素子が、本願補正発明では、「検出信号に応じたディジタルデータを得る」のに対し、引用例1発明の加算器には、デジタルデータを得る機能の有無が不明な点。

4.当審の判断
上記(相違点1)について検討する。
引用例2には上記2.(2)の摘記事項(2-ア)乃至(2-ウ)の記載から、「nチャンネル型2次元アレイ検出器は、同一幅で奥行き長Daが5mmの検出素子列22aと、奥行き長Dbが3mmの検出素子列22bと、奥行き長Dcが1mmの検出素子列22c と、奥行き長が1mmの検出素子列22dとを一組として設け、この組と同じ組み合わせの検出素子列22e?22hを併設した他の組を上記一組に併設し、すなわち、奥行き1mmの検出素子列を2列設け、その両サイドにそれより3倍大きいスライスピッチを有する検出素子列を有した構造であり、所望のスライス厚に応じて、各検出素子列からのデータを選択してスライス厚保に相当するデータを形成し、一回のデータ収集で2スライスのデータを収集するダブルスライス対応としたX線コンピュータトモグラフィ装置」が記載されているといえる。

したがって、引用例1発明のX線CT装置も、引用例2に記載されたX線コンピュータトモグラフィも、スライス厚の条件に応じて、複数の検出素子を選択して、複数のスライスデータを形成するという同一技術分野に属するから、引用例1発明の検出素子として、同一スライスピッチのものに代えて、引用例2に記載された不均一のスライスピッチの構造のものを採用することは、当業者であれば容易になしうることである。
そして、上記採用に伴い、4つのスライスデータを形成する際に、検出素子を適宜の数で組合せることは、例えば、引用例2の記載の範囲においても、4スライスを全て5mm厚で形成するように設定すれば、内側は22b?22dの3列、外側は22aの1列と、本願補正発明と同条件での選択が当然になされることから、検出素子のスライスピッチとスライス厚の設定の範囲で適宜なしうる程度のことである。

よって、引用例1発明に対し、引用例2に記載された検出素子の構造を適用し、本願補正発明のようにすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点2)について検討する。
X線CT装置において、検出した信号をもとに画像を形成する以上、検出から画像形成までのうちの何れかの過程でディジタルデータに変換することは、原出願の出願日前に例示するまでもない周知の技術であり、加算器の構造をデジタルデータを扱えるようにすることも、上記2.(2)の摘記事項(1-ウ)に記載されている。
よって、引用例1発明の加算器に対し、周知のデジタルデータを扱う機能を付加し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

したがって、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2に記載された発明、及び、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。

そして、本願補正発明の奏する効果についても、引用例1、2及び上記周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお、請求人は、当審における審尋に対する平成21年12月25日付け回答書において、請求項1において、「この各チャンネル毎の検出素子列は、前記スライス厚方向の中心部に最小スライスピッチを有する2のm乗(m:2以上の自然数)の数の基本検出素子を配置し、そのスライス厚方向に沿った前記基本検出素子の両サイドに前記最小スライスピッチよりも2倍大きいスライスピッチを有するX線検出素子を2の(m-2)乗の数ずつそれぞれ配置した不均等ピッチ構造に構成し、」(下線部は、追加された箇所である。)とした補正案を示している。

しかしながら、出願当初の明細書には、「2のm乗(m:2以上の自然数)の数の基本検出素子」、「最小スライスピッチよりも2倍大きいスライスピッチを有するX線検出素子を2の(m-2)乗の数ずつそれぞれ配置」の記載がなく、最小スライス厚が1mmが8列あり、その両サイドに2mmが2列づつの実施例、及び、最小スライス厚が1mmが4列あり、その両サイドに2mmが1列づつの実施例は記載されているものの、各列数について、それらを拡張して一般化できるともいえないため、新規事項を追加したものといえる。
ゆえに、上記補正案は採用できない。

5.本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年7月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1乃至8に係る発明は、平成20年3月31日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】被検体に対するX線ビームのスライス厚方向及びこのスライス厚方向に直交するチャンネル方向に複数のX線検出素子を2次元的に配列し且つ前記スライス厚方向の前記X線検出素子のピッチを不均等に形成した2次元検出器と、この2次元検出器の検出信号を収集処理してその検出信号に応じたディジタルデータを得るデータ収集素子を前記スライス厚方向及びチャンネル方向に対応させて複数個配列して成るデータ収集装置とを備えたX線CTスキャナにおいて、
前記2次元検出器は前記スライス厚方向に沿って各チャンネル毎に複数の検出素子列を有し、この各チャンネル毎の検出素子列は、前記スライス厚方向の中心部に最小スライスピッチを有する複数の基本検出素子を配置し、そのスライス厚方向に沿った前記基本検出素子の両サイドに前記最小スライスピッチよりもn倍(n:自然数)大きいスライスピッチを有するX線検出素子を配置した不均等ピッチ構造に構成し、
前記2次元検出器の各X線検出素子を前記スライス厚方向毎にスライス厚条件に応じて切換可能に選択し、同一スライス層のX線透過データを前記データ収集装置のスライス厚方向に対応するデータ収集素子に送るように接続し、それぞれ同一のスライス厚のX線透過データが得られるようにする検出素子選択手段を備えたことを特徴とするX線CTスキャナ。」

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及び2は、前記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から、「検出素子選択手段」の構成として、「前記検出素子選択手段は、4スライス以上に対応した前記X線検出素子を選択し、最小スライスピッチより大きなスライスピッチのスライス厚が設定された場合において、スライス厚方向における内側のスライスに対応して選択される検出素子数は、外側のスライスに対応して選択される検出素子数よりも多い」との限定を除いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定的な発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.」に記載したとおり,引用例1発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである以上、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-10 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2005-187451(P2005-187451)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小田倉 直人  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 後藤 時男
居島 一仁
発明の名称 X線CTスキャナ  
代理人 波多野 久  
代理人 関口 俊三  

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