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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1216897
審判番号 不服2007-5167  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-16 
確定日 2010-05-21 
事件の表示 特願2001-209398「インクジェット記録ヘッドおよび記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月28日出願公開、特開2002-154208〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年7月10日の出願(優先権主張 平成12年7月10日、平成12年9月6日)であって、当審において、平成21年11月2日付けで拒絶理由の通知がなされ、これに対して、平成22年1月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?10に係る発明は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】シリコン基板に設けられた、記録液に吐出エネルギーを付与する複数のエネルギー発生素子と、前記吐出エネルギーを受容する記録液を貯留する複数の流路と、前記複数の流路に記録液を供給する供給口と、前記エネルギー発生素子に対向して設けられ、記録液を吐出する複数の吐出口と、を有する複数の記録素子基板と、前記複数の記録素子基板を支持する支持基板と、を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記複数の記録素子基板は、記録液としてブラックのインクを吐出するブラック吐出口を前記吐出口として備えた第1の記録素子基板と、記録液としてシアンのインクを吐出するシアン吐出口とマゼンタのインクを吐出するマゼンタ吐出口とイエローのインクを吐出するイエロー吐出口とを前記吐出口として備えた第2の記録素子基板と、からなり、
前記第1の記録素子基板から吐出を行う際の吐出方式は、前記エネルギー発生素子の作動により記録液に発泡をもたらすとともに、該発泡により形成された気泡が消泡して消滅する第1の吐出方式であり、
前記第2の記録素子基板から吐出を行う際の吐出方式は、前記エネルギー発生素子の作動により記録液に発泡がもたらされる際に該発泡により形成された気泡が前記吐出口から外部の大気と連通する第2の吐出方式であり、
前記第1の記録素子基板から吐出される記録液の吐出量が、前記第2の記録素子基板から吐出される記録液の吐出量よりも多く、
前記第1の記録素子基板が有する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離は、前記第2の記録素子基板が有する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離よりも長く、
前記第1および第2の記録素子基板は同一の前記支持基板に設けられていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。」


2.引用例の記載事項
これに対して、上記拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物は次のとおりである。
刊行物1:特開平1-242259号公報
刊行物2:特開平8-48035号公報
刊行物3:特開平10-119272号公報
刊行物4:特開平10-44420号公報
刊行物5:特開平5-261941号公報
刊行物6:特開平9-193405号公報
刊行物7:特開平9-52363号公報
刊行物8:特開2000-168088号公報
刊行物9:特開平6-344575号公報

なお、上記拒絶理由では、刊行物2が主引例とされた。

これら刊行物には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)刊行物1
(1a)「2.特許請求の範囲
1.液滴を吐出させるためのオリフィスと、液体に熱による状態変化を生じせしめ、前記オリフィスより液体を吐出させるための熱エネルギー作用部と、前記オリフィスと前記熱エネルギー作用部をその一部とし、前記液体をその中に保持する液室と、該液室に液体を供給する手段とを有する液体噴射記録ヘッドにおいて、前記オリフィス及び熱エネルギー作用部は1対1で対応し、前記オリフィス及び熱エネルギー作用部は、異なる動作をする2組のオリフィス及び熱エネルギー作用部から成り、そのうちの1組にはほぼ一定のパルス巾の電気エネルギーが加えられてほぼ均一な液滴を吐出し、別の1組には前記パルス巾より小さいパルス巾の電気エネルギーが1?複数パルス加えられて、前記均一な液滴より小さい液滴を1?複数滴吐出することを特徴とする液体噴射記録ヘッド。」

(1b)「第7図は、以上に説明したバブルジェット型インクジェット記録ヘッドの要部切断図で、これは、一般に、EDGE SHOOTERと呼ばれるものである。
第8図は、前記EDGE SHOOTERに対して、SIDE SHOOTERと呼ばれるものの要部断面図、第9図は、その動作原理を示す図で、・・・液滴12を噴射するものである。」(第4頁左下欄第17行?右下欄第6行)

(1c)「なお、以上には、本発明を“SIDE SHOOTER”型の液体噴射記録ヘッドに適用した場合の例について説明したが、“EDGE SHOOTER”型にも適用できることはいうまでもない。」(第5頁右上欄第7?11行)

(1d)第7図、第8図は以下のとおり。


(2)刊行物2
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクを吐出するために利用されるエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子と、該各発生素子に対応して設けられた液路と、該各液路に連通する複数の吐出口と、複数の吐出口を有する吐出口形成部材とを有し、異なる複数の体積のインクを吐出するインクジェットヘッドにおいて、
吐出体積の小さいインクを吐出する前記吐出口と該吐出口に対応する前記吐出エネルギ発生素子との距離を、吐出体積の大きいインクを吐出する前記吐出口と該吐出口に対応する前記吐出エネルギ発生素子との距離よりも短く設定したことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】 請求項1記載のインクジェットヘッドにおいて、前記吐出エネルギ発生素子は熱エネルギ発生素子であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項3】 請求項2記載のインクジェットヘッドにおいて、前記熱エネルギ発生素子は、前記インクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する電気熱変換体であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項4】 請求項1?3のいずれかの項に記載のインクジェットヘッドにおいて、前記吐出体積は、インクの色の違いによって異なることを特徴とするインクジェットヘッド。」

(2b)「【0006】そこで、本発明者らは、イエロー(以下、Yとする)、マゼンタ(以下、Mとする)、シアン(以下、Cとする)およびブラック(以下、Bkとする)の4色のインクを用いて普通紙に対して行うカラー記録について、360DPIで数々の実験を繰り返したところ、Yの吐出液滴体積を40pl(ピコリットル)程度とし、MおよびCの各吐出液滴体積を50pl程度とし、Bkの吐出液滴体積を80pl程度とするのが濃度およびブリーディングの両面から最も好適であることを見いだした。」

(2c)「【0021】【作用】請求項1記載の発明においては、吐出体積の小さいインクを吐出する吐出口と該吐出口に対応する吐出エネルギ発生素子との距離を、吐出体積の大きいインクを吐出する吐出口と該吐出口に対応する吐出エネルギ発生素子との距離よりも短く設定したので、吐出口面積および吐出エネルギ発生素子の面積が同一であれば、上記距離により吐出体積の設定が容易となる。」

(2d)「【0025】(実施例1)図1は、本発明のインクジェットヘッドの一実施例の要部を示す図であって、(a)はBk用のノズル-ヒータの構成を示す平面図であり、(b)はMまたはC用のノズル-ヒータの構成を示す平面図であり、(c)はY用のノズル-ヒータの構成を示す平面図である。
【0026】まず、図1の(a)において、10は、例えばシリコンからなるヘッド基板(以下、単に基板とする)である。基板10の表面には厚さ約2μmのSiO_(2) 層が形成されているが、図示しない。このような基板10上には例えばHfB_(2) からなる厚さ約0.1μmの抵抗層(以下、Bk用ヒータとする)11および例えばAlからなる厚さ約0.5μmの配線層(以下、Bkヒータ用配線)12がそれぞれ形成されている。これらBk用ヒータ11およびBkヒータ配線12は例えばフォトリソグラフィ技術を利用したパターニングにより形成することができる。本実施例では、Bk用ヒータ11とBkヒータ用配線12とは全体でコ字状をなしている。コ字は2本の平行線の部分とこれら平行線の一端部を連結する部分とから構成されるが、Bk用ヒータ11はコ字のうち、連結部分近傍であって1本の平行線の一部に設けられている。コ字の残りの部分は、Bkヒータ用配線12が形成されている。Bk用ヒータ11が設けられていない方の平行線を構成するBkヒータ用配線12上および、この配線と、Bk用ヒータ11を挟んで反対側の基板10上には、それぞれ例えば感光性樹脂からなるノズル壁部13が形成されている。このノズル壁部13は、例えば感光性樹脂フィルムをラミネートした後、フォトマスクを用いたパターン露光により現像して厚さ約30μm程度に形成することができる。このようにしてパターニングされたヒータおよび配線部の上に、これら各金属層を保護するために厚さ約1.0μmのSiO_(2) 、次いで厚さ約0.5μmのTaの保護膜(各々図示略)を順次スパッタリングにより成膜することができる。次に、これら2層の保護膜の不要部分をフォトリソグラフィにより取り除くことにより配線の形成された基板10を得る。そして、2本のノズル壁部13の上に図示しない平板を接合することにより、インクの液路を得ることができる。この液路の端部は、2本のノズル壁部13間の離間寸法を漸次短くして液路を絞り込んで形成した液路の開口であり、また、インク液滴の吐出口であるBk用オリフィス14となっている。
【0027】なお、このBk用オリフィス14とBk用ヒータ11のオリフィス寄り端縁との間の距離は、図1の(a)に示すようにL_(HO-a)で表わされている。
【0028】次に、図1の(b)において、20は基板であり、21はMまたはC用ヒータであり、22はMまたはCヒータ用配線であり、23はノズル壁部であり、24はMまたはC用オリフィスであり、それぞれ図1の(a)における10?14にそれぞれ対応しており、実質的な相違はない。但し、上記各構成要素の形状、寸法または各要素間の配置関係等には、当該ノズルで吐出されるインクの吐出特性等を考慮して後述の相違が設けられていることは言うまでもない。なお、MまたはC用オリフィス24とMまたはC用ヒータ21のオリフィス寄り端縁との間の距離は、図1の(b)に示すように共にL_(HO-b)で表わされている。
【0029】同様に、図1の(c)において、30は基板であり、31はY用ヒータであり、32はYヒータ用配線であり、33はノズル壁部であり、34はY用オリフィスであり、それぞれ図1の(a)における10?14にそれぞれ対応しており、実質的な相違はない。但し、この場合も、上記各構成要素の形状、寸法または各要素間の配置関係等には、当該ノズルで吐出されるインクの吐出特性等を考慮して相違を設けてある。なお、Y用オリフィス34とY用ヒータ31のオリフィス寄り端縁との間の距離は、図1の(c)に示すようにL_(HO-c)で表わされている。
【0030】ここで、上記L_(HO-a)とL_(HO-b)とL_(HO-c)とは、この順に短くなっており、各オリフィスから吐出されるインク液滴の吐出体積もこの順に小さくなるように設定されている。
【0031】次に、上記のようにインクの色ごとに構成されたヘッド基板を用いてそれぞれ色ごとのインク吐出部(図2においてBkインク吐出部を15とし、Cインク吐出部を25とし、Mインク吐出部を26とし、Yインク吐出部を35とする)を作製することができる。」

(2e)図1は、以下のとおり。

(2f)「【0051】(実施例2)次に、図3は本発明のインクジェットヘッドの他の実施例における要部を示す平面図である。本実施例の特徴は、先の実施例における各色のノズル-ヒータがそのヘッド基板を共有し、同一基板上に各色のノズル-ヒータ群が形成されている点にある。
【0052】61はBk用ヒータ群を示し、各ヒータは各30μm×150μmのサイズを有し、62,63はC・M用ヒータ群を示し、各ヒータは各24μm×120μmのサイズを有し、64はY用ヒータ群を示し、各ヒータは各21μm×105μmのサイズを有している。なお、60は先の実施例と同様に厚さ約0.6mmのシリコンウェハに厚さ約2μmのSiO_(2 )を形成した基板である。ここで、36はヒータを駆動するための機能素子が配設された領域を示しており、37は装置側から電気信号を受けるためのコンタクトパッドを示している。」

(2g)図3は、以下のとおり。


これら記載事項によれば、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「シリコン基板に設けられた、インクを吐出するために利用されるエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子と、該各吐出エネルギ発生素子に対応して設けられた液路と、該各液路に連通する複数の吐出口と、複数の吐出口を有する吐出口形成部材とを有し、異なる複数の体積のインクを吐出するインクジェットヘッド(特に、実施例では「エッジシューター型」が示されている。)において、
ブラックのインクの吐出体積が、カラー(イエロー、マゼンタ、シアン)のインクの吐出体積よりも多く、
吐出体積の小さいカラーのインクを吐出する前記吐出口と該吐出口に対応する前記吐出エネルギ発生素子との距離を、吐出体積の大きいブラックのインクを吐出する前記吐出口と該吐出口に対応する前記吐出エネルギ発生素子との距離よりも短く設定されており、
同一のシリコン基板上に各色の吐出口形成部材と吐出エネルギ発生素子が形成されている、
インクジェットヘッド。」

(3)刊行物3
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 個々のノズルに対応して複数の電気熱変換素子を基板上に配置し、該電気熱変換素子によりインクを加熱することによって気泡を生じせしめ、該気泡により該インクの少なくとも一部を吐出して記録を行うとともに、前記電気熱変換素子の選択、組み合わせにより該ノズルより種々の吐出量を吐出可能なインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記複数の電気熱変換素子のいずれかを加熱する場合に、加熱により成長した気泡が外気と連通するように構成したことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】 複数の電気熱変換素子の駆動において、少なくとも最も小さい液滴の吐出を行う場合は、加熱により成長した気泡を外気と連通させ、大液滴の吐出を行う場合は、加熱により成長した気泡が外気と連通する事がないように構成した請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。」

(3b)「【0006】ここで良好な画質を得るためにインクジェットヘッドに要求される吐出性能に関して、特に小液滴に関して述ベると、望ましくはBkインクの場合は35plから45pl程度、カラーインクの場合は20plから25pl程度の吐出量が必要である。また吐出速度は現在量産されているインクジェットヘッドの吐出速度を参考にすると10m/sから15m/s程度が望ましい。」

(3c)「【0015】上記のとおりの発明では、複数の電気熱変換素子の駆動において、少なくとも最も小さい液滴の吐出を行う場合は、電気熱変換素子を安定吐出領域となるノズル口に近づけて配置し、加熱により成長した気泡を外気と連通させ、適正な液滴吐出量と速い液滴吐出速度を確保し、大液滴の吐出を行う場合は加熱により成長した気泡が外気と連通することがないように、電気熱変換素子を小液滴の場合と比べノズル口から離して配置し、適正な液滴吐出量と速い液滴吐出速度を確保できる。よって、上述の吐出液適のコントロールで十分な階調制御を行い、記録画像の高画質化を可能とすると共に信頼性の高いインクジェット記録ヘッドの実現が可能となる。」

(3d)「【0017】(第1の実施の形態)図1に本発明のインクジェット記録ヘッドの第1の実施形態によるノズル内の電気熱変換素子の配置状態を示す。本実施形態はインクジェット記録ヘッドのノズル1の中に電気熱変換素子2、3を並列に配置すると共に、ノズル口から各電気熱変換素子2、3の配置位置までの距離Lを変えてある。本形態では電気熱変換素子3より電気熱変換素子2の方がノズル口の近くに配置してある。例えば本形態では電気熱変換素子2のサイズは20×55μmでノズル口からの距離Lは25μmとして、電気熱変換素子3のサイズは30×105μmでノズル口からの距離Lは105μmとする。
【0018】図2を用い本実施形態による小液滴の吐出状態を説明する。図2(a)は初期状態を示し、ノズル1内部がインク20で満たされている。ここで小液滴吐出のため電気熱変換素子2に通電し電気熱変換素子2の近傍のインク20を急激に加熱することによって、電気熱変換素子2上に膜沸騰による気泡4が発生し、急激に膨張する。この気泡はさらに慣性抵抗の小さい吐出口側ヘ成長を続け、図2(b)でついには外気と上記気泡が連通する。この気泡の膨張に伴い気泡と吐出口の間に挟まれたインクはノズルの中を吐出口側に押され吐出液滴6を発生し、図2(c)において飛翔液滴7となって吐出口より外に飛翔する。
【0019】図3は大液滴吐出のため電気熱変換素子3に通電した場合を説明するための図である。図2に示したと同じく図3(a)における膜沸騰により気泡4が成長する。しかし電気熱変換素子2を用いた場合と異なり電気熱変換素子3は吐出口より離れた位置に配置されているため気泡4が成長し最大となっても外気と連通する事はない。また電気熱変換素子3が十分吐出口から離れており、前述の図2の吐出に比ベ吐出量は十分大きい。」

(3e)図1?3は次のとおり。




(4)刊行物4
(4a)「【0079】本体部72におけるインク吐出部74側には、図13に示されるように、被接合面72Sが形成されている。被接合面72Sには、図13および図17に示されるように、インクタンク収容部78A、78B、および、78Cに連通するインク供給路82A、82B、82Cの一方の開口端82a、82b、および、82cが開口している。また、被接合面72Sには、図13に示されるように、インク吐出部79が配されている。
【0080】インク吐出部79は、被接合面72Sに接合される支持部材70と、支持部材70における第2の接合面としての上面に接着される複数の記録素子基板62、64、および、66と、記録素子基板62、64、および、66にそれぞれ電気的に接続され入力端子部72Aからの駆動制御信号群を供給するプリント配線基板62P、64P、および、66Pと、支持部材70の上面に配され複数の記録素子基板62、64、および、66とともにプリント配線基板62P、64P、および、66Pの位置決めを行うフレーム部材68とを含んで構成されている。
【0081】第1の支持部材としての支持部材70は、記録素子基板62?66の厚さと略同一の厚さで長方形の板状に形成されている。また、支持部材70における後述する記録素子基板62?66の配列方向に沿った幅Wは、図19に示されるように、記録素子基板62の一方の端部から記録素子基板66の他方の端部までの長さLと同一もしくはそれよりも長く設定されている。支持部材70は、例えば、記録素子基板24の材料と同一のシリコンで作られている。なお、支持部材70の素材は、シリコンに限られることなく、記録素子基板62?66の材料の線膨張率と同等の線膨張率を有し、かつ、記録素子基板24の材料の熱伝導率と同等もしくは同等以上の熱伝導率を有する材料で作られてもよい。支持部材40の素材は、例えば、アルミナ(Al_(2) O_(3 ))、窒化アルミウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、4窒化3珪素(Si_(3) N_(4 ))、モリブデン(Mo)、タングステン(W)のうちのいずれであってもよい。
【0082】支持部材70は、透孔70a、70b、および、70cを同一直線上に有している。支持部材70は、フレーム部材68に対向する第1の接合面70saと本体部72の被接合面72Sに対向する第2の接合面70sbとを有する。支持部材70における第2の接合面70sbが接着剤により被接合面72Sに接着される。
【0083】その際、図13および図17に示されるように、透孔70aは、被接合面72Sに設けられるインク流路86Aを通じてインク供給路82Aの開口端82aに連通している。透孔70bは、被接合面72Sに設けられるインク流路86Cを通じてインク供給路82Cの開口端82cに連通している。透孔70cは、被接合面72Sにインク流路86A側に湾曲して設けられるインク流路86Bを通じてインク供給路82Bの開口端82bに連通している。
【0084】これにより、インク供給路82Cを通じて供給されたインクは、インク流路86Cを介して支持部材70の透孔70bに供給され、記録素子基板64に供給されることとなる。また、インク供給路82Bを通じて供給されたインクは、インク流路86Bを介して支持部材70の透孔70cに供給され記録素子基板62に供給されることとなる。さらに、インク供給路82Aを通じて供給されたインクは、インク流路86Aを介して支持部材70の透孔70aに供給され、記録素子基板66に供給されることとなる。
【0085】従って、記録素子基板62および66において、同一色のインクを吐出させ、記録素子基板64において異なるインク色のインクを吐出させる必要がある場合、図18に示されるように、任意の色のインクがインクタンクINT3に貯留され、また、同色とされるインクがそれぞれ、インクタンクINT1およびINT2に貯留されるもとで、それぞれのインクが供給されるとき、インクタンクINT3に貯留されているインクが支持部材70の透孔70bを通じて記録素子基板64に供給され、インクタンクINT1およびINT2に貯留されていたインクがそれぞれ記録素子基板62、および、66に供給されるのでインクタンクINT1およびINT2の配置が容易となる。また、インクタンクINT1およびINT2を同一のインクタンクとした場合でも記録素子基板62および66にインクをそれぞれ供給できることとなる。
【0086】記録素子基板62、64、および、66は、それぞれ、同様な構造とされるので記録素子基板62のみについて説明する。
【0087】記録素子基板62の基板62kには、例えば、厚さ0.5?1.0mmのシリコン材料で薄膜が形成されている。シリコン材料で厚さ数μmの薄膜状に作られている。また、基板62kにおける支持部材70の第1の接合面70saに接着剤により接着せしめられる面には、図19に示されるように、オリフィスプレート62Fに対向しインク吐出口62Faの配列方向に伸びるインク供給開口部62kaが設けられている。さらに、そのオリフィスプレート62Fにおけるインク供給開口部62kaを挟んだ両側部分には、図示が省略されるヒータが所定の相互間隔をもってそれぞれ配されている。インク供給開口部62kaを通じて供給されるインクは、オリフィスプレート62Fに形成される流路を通じてそれぞれのヒータに導かれるものとされる。
【0088】記録素子基板62における基板の各電極には、図13および図17に示されるように、プリント配線基板62Pが電気的に接続されている。プリント配線基板62Pと記録素子基板62とをボンディングするにあたっては、例えば、TAB(テープ・オートメイティド・ボンディング)方式により接続される。
【0089】第2の支持部材としてのフレーム部材68は、記録素子基板62、64、66の位置を規制する開口部68a、68b、68cが並列に記録素子基板62、64、66に対応して設けられている。
【0090】プリント配線基板62Pが接続された記録素子基板62、プリント配線基板64Pが接続された記録素子基板64、プリント配線基板66Pが接続された記録素子基板66をそれぞれフレーム部材68および支持部材70を介して本体部72の被接合面72Sに配置するにあたっては、図19および図20に示されるように、先ず、支持部材70の第2の接合面70sbが被接合面72Sに接着剤により接着される。続いて、フレーム部材68が透孔70a、70b、および、70cに対応させて支持部材70の第1の接合面70saに接着される。そして、プリント配線基板62Pが接続された記録素子基板62、プリント配線基板64Pが接続された記録素子基板64、プリント配線基板66Pが接続された記録素子基板66が各開口部68a?68cに挿入され接着剤により支持部材70の第1の接合面70saに接着される。その際、各オリフィスプレート62F?66Fのインク吐出口が互いに同一方向に向くように例えば、画像認識技術が用いられて位置決めされる。
【0091】これにより、複数の記録素子基板62、64、および、66が1個の支持部材70に接着されて組み付けられるので組付け精度が向上し、ひいては、記録精度も向上することとなる。また、支持部材70が上述のような材料により作られているので記録素子基板62、64、および、66の熱膨張に起因する記録素子基板62、64、および、66の熱変形が回避されることとなる。」

(4b)図13,図19は次のとおり。


(5)刊行物5?9
記載事項の摘示は省略。


3.対比・判断
本願発明1と刊行物2記載の発明とを対比すると、
刊行物2記載の発明の「吐出エネルギ発生素子」「インクジェットヘッド」は、本願発明1の「エネルギー発生素子」「インクジェット記録ヘッド」に相当する。
また、刊行物2記載の発明の「ブラックのインクの吐出体積が、カラー(イエロー、マゼンタ、シアン)のインクの吐出体積よりも多く」と、本願発明1の「前記第1の記録素子基板から吐出される記録液の吐出量が、前記第2の記録素子基板から吐出される記録液の吐出量よりも多く」とは、「ブラックのインクの吐出量が、カラーのインクの吐出量よりも多く」の点で共通する。
さらに、刊行物2記載の発明の「吐出体積の小さいカラーのインクを吐出する前記吐出口と該吐出口に対応する前記吐出エネルギ発生素子との距離を、吐出体積の大きいブラックのインクを吐出する前記吐出口と該吐出口に対応する前記吐出エネルギ発生素子との距離よりも短く設定されており」と、 本願発明1の「前記第1の記録素子基板が有する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離は、前記第2の記録素子基板が有する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離よりも長く」とは、
「ブラックのインクを吐出する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離は、カラーのインクを吐出する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離よりも長く」の点で共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「記録液(ブラックのインク、カラーのインク)に吐出エネルギーを付与する複数のエネルギー発生素子と、記録液を吐出する複数の吐出口と、を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
ブラックのインクの吐出量が、カラーのインクの吐出量よりも多く、
ブラックのインクを吐出する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離は、カラーのインクを吐出する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離よりも長くした、
インクジェット記録ヘッド。」

[相違点1]
インクの吐出方式に関し、
本願発明1は、エネルギー発生素子に対向して設けられ記録液を吐出する複数の吐出口がある、いわゆる「サイドシューター型」であって、
ブラックのインクの吐出を行う際の吐出方式は、エネルギー発生素子の作動により記録液に発泡をもたらすとともに、該発泡により形成された気泡が消泡して消滅する第1の吐出方式(いわゆる「BJ方式」)であり、
カラーのインクの吐出を行う際の吐出方式は、エネルギー発生素子の作動により記録液に発泡がもたらされる際に該発泡により形成された気泡が吐出口から外部の大気と連通する第2の吐出方式(いわゆる「BTJ方式」)であるのに対し、
刊行物2記載の発明は、「サイドシューター型」との特定がなく、むしろ「エッジシューター型」であり、
また、ブラックのインクの吐出を行う際の吐出方式、カラーのインクの吐出を行う際の吐出方式の特定がない点。

[相違点2]
記録素子基板、支持基板に関し、
本願発明1は、
シリコン基板に設けられた、複数のエネルギー発生素子、複数の流路、供給口、複数の吐出口を有する記録素子基板が複数あり、
それら複数の記録素子基板は、記録液としてブラックのインクを吐出するブラック吐出口を前記吐出口として備えた第1の記録素子基板と、記録液としてシアンのインクを吐出するシアン吐出口とマゼンタのインクを吐出するマゼンタ吐出口とイエローのインクを吐出するイエロー吐出口とを前記吐出口として備えた第2の記録素子基板と、からなり、
前記第1の記録素子基板から吐出される記録液の吐出量が、前記第2の記録素子基板から吐出される記録液の吐出量よりも多く、
前記第1の記録素子基板が有する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離は、前記第2の記録素子基板が有する前記吐出口と前記エネルギー発生素子との間の距離よりも長く
また、前記第1および第2の記録素子基板は同一の支持基板に設けられているのに対し、
刊行物2記載の発明は、同一のシリコン基板上に各色の吐出口形成部材と吐出エネルギ発生素子が形成された、単一の記録素子基板であり、また、本願発明1のような支持基板の明記がない点。

そこで、上記相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物3には、「少なくとも最も小さい液滴の吐出を行う場合は、電気熱変換素子を安定吐出領域となるノズル口に近づけて配置し、加熱により成長した気泡を外気と連通させ、適正な液滴吐出量と速い液滴吐出速度を確保し、大液滴の吐出を行う場合は加熱により成長した気泡が外気と連通することがないように、電気熱変換素子を小液滴の場合と比べノズル口から離して配置し、適正な液滴吐出量と速い液滴吐出速度を確保する」技術が記載されている。
つまり、刊行物3には、ブラックのインク、カラーのインクの区別はないけれども、大液滴の吐出を行う場合には「BJ方式」、小液滴の吐出を行う場合は「BTJ方式」を採用することが好ましいことが記載されている。
しかも、刊行物3の技術は、刊行物2記載の発明と同様、「小液滴の吐出を行う場合における吐出口と該吐出口に対応する吐出エネルギ発生素子との距離を、大液滴の吐出を行う場合における吐出口と該吐出口に対応する吐出エネルギ発生素子との距離よりも短く設定」しているから、刊行物3の吐出方式は、そのような距離の設定に伴う好ましい吐出方式、あるいはそのような距離の設定によってもたらされる吐出方式であり、刊行物2記載の発明にも応用可能であるといえる。
そうすると、刊行物3に接した当業者であれば、大液滴の吐出を行う場合には「BJ方式」、小液滴の吐出を行う場合は「BTJ方式」を採用する技術を、刊行物2記載の発明において応用してみようと考えることは自然なことである。
また、その際、刊行物2記載の発明、刊行物3記載のものは、実施例レベルでは「エッジシューター型」であるが、「エッジシューター型」「サイドシューター型」は共に周知のタイプであり(例えば、刊行物1を参照。)、適宜選択可能であるから、上記の応用を「サイドシューター型」のものにおいて実現してみようとすることは、当業者であれば容易に想起できることであり、また、「サイドシューター型」のものにしても、その作用効果は当業者が当然に予測し得る程度のことである。
したがって、刊行物2記載の発明において、相違点1に係る本願発明1のごとくなすことは容易である。

(相違点2について)
刊行物4には、記録素子基板62、66は、同一色のインクを吐出させ、記録素子基板64は異なるインク色のインクを吐出させるものであって、複数の記録素子基板62、64、66が1個の支持部材70に接着されて組み付けられており、これにより、組付け精度が向上し、ひいては記録精度も向上することが記載されている。
つまり、刊行物4には、複数の記録素子基板を同一の支持基板に設ける技術が記載されている。
また、刊行物2記載の発明は、同一のシリコン基板上に各色の吐出口形成部材と吐出エネルギ発生素子が形成された、単一の記録素子基板であったが、刊行物4のものは、インク吐出口が配列した記録素子基板が複数設けられたものである。

ところで、一般に、シアンのインクを吐出するシアン吐出口とマゼンタのインクを吐出するマゼンタ吐出口とイエローのインクを吐出するイエロー吐出口とを吐出口として備えた記録素子基板は、本願優先日前に周知であって、これにより、各色に対応するインク吐出口を同一の基板上に設けた記録素子基板とすることで、組立誤差がなくコンパクトになる等のメリットがあることが知られている。必要であれば、特開平9-323409号公報(【0019】【0020】等)、特開平10-95120号公報(【0004】【0005】等)、特開平11-10894号公報(【0014】等)を参照。
また、ブラックのインクを吐出するブラック吐出口については、他色の吐出口と、基板を共有したり、あるいは、別々の基板とすることも周知である。必要であれば、前者として、特開平10-151743号公報(図1、等)や特開2000-33702号公報(【0031】等)、後者として、特開平10-76647号公報(【0051】等)を参照。

他方、刊行物2には、イエローのインク吐出量が、マゼンタのインクの吐出量やシアンのインク吐出量に比べて、少ない例が開示されているところ、一般にイエローのインク吐出量を多少増やす選択肢は当然あり得るから、刊行物2記載の発明において、カラー(イエロー、マゼンタ、シアン)のインクの吐出量を同じにし、また、それに伴い、吐出口とエネルギー発生素子との距離を同じにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

そうすると、刊行物2記載の発明において、上記相違点1に係る「サイドシューター型」の記録素子基板を採用する際に、上記周知技術を考慮すれば、できる限り同一基板上に吐出口を形成することが有利であると、当業者であれば理解する一方で、
シアン吐出用の基板、マゼンタ吐出用の基板、イエロー吐出用の基板は、吐出口とエネルギー発生素子との距離が同じ(インクの吐出量も同じ)であると、同一の基板に吐出口を形成することができるが、ブラックのインクは吐出量が多いから、ブラックのインク吐出用の基板は、シアン等カラーインクの場合よりも基本的に長い距離をとる必要があるので、別の基板に吐出口を形成せざるを得ないことも、当業者に明らかであるから、
結局、当業者であれば、上記周知技術及び「サイドシューター型」記録素子の形成条件を考慮して、本願発明1のごとく「記録液としてブラックのインクを吐出するブラック吐出口を前記吐出口として備えた第1の記録素子基板と、記録液としてシアンのインクを吐出するシアン吐出口とマゼンタのインクを吐出するマゼンタ吐出口とイエローのインクを吐出するイエロー吐出口とを前記吐出口として備えた第2の記録素子基板」とすることを、容易に思い付くといえる。

また、第1の記録素子基板、第2の記録素子基板の2つにした際に、刊行物4の「複数の記録素子基板を同一の支持基板に設ける技術」を適用することも、当業者が適宜なし得ることである。

したがって、刊行物2記載の発明において、相違点1に係る「サイドシューター型」の記録素子基板を採用する際に、相違点2に係る本願発明1のごとくなすことは、当業者にとって容易である。

(効果について)
そして、本願発明1の構成によって奏する効果についても、刊行物1?4記載の事項及び周知技術から当業者が予測し得る程度のことであって、格別のものということができない。

(請求人の主張について)
請求人は、意見書で、「また、拒絶理由通知では、刊行物2,3の発明を応用したサイドシューター型の記録ヘッドを実現することは容易に想起できると述べられています。しかし、刊行物2に記載の発明は、エッジシューター型の記録ヘッドにおいてシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの全色に関してそれぞれの吐出口面と基板面とを同一の記録素子基板内で共有しているものであり、その形態に基づいて、サイドシューター型の記録ヘッドにおいてブラックとカラーとでエネルギー発生素子と吐出口との間の距離を異ならせる構成を容易に想起できるとは到底考えられません。」と主張する。
確かに、刊行物2記載の発明は、「エッジシューター型」の記録ヘッドにおいてシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの全色に関してそれぞれの吐出口面と基板面とを同一の記録素子基板内で共有しているものである。
しかし、刊行物2,3に接した当業者であれば、それが「エッジシューター型」として開示された技術思想であっても、「サイドシューター型」に対しても一定の改変をすれば応用可能であり、その改変として、「サイドシューター型」で、ブラックとカラーとでエネルギー発生素子と吐出口との間の距離を異ならせる構成を実現すると、ブラックとカラーとでヘッド基板の厚みに差が出るので、ブラック用基板とカラー用基板に分けるのが適当であることを、困難なく想起することができるというべきである。
したがって、請求人の主張を採用することができない。

(まとめ)
したがって、本願発明1は、刊行物1?4記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-18 
結審通知日 2010-03-24 
審決日 2010-04-08 
出願番号 特願2001-209398(P2001-209398)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁大仲 雅人  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 柏崎 康司
一宮 誠
発明の名称 インクジェット記録ヘッドおよび記録装置  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 石橋 政幸  

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