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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1216905
審判番号 不服2007-27218  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-04 
確定日 2010-05-21 
事件の表示 特願2000-242602「洗浄方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月19日出願公開、特開2002- 52322〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年8月10日の出願であって,平成18年12月15日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年12月20日)、平成19年2月16日付けで意見書が提出されると共に同日付で手続補正がなされ、平成19年8月30日付けで拒絶査定がなされ(発送日は同年9月5日)、これに対して、平成19年10月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成19年12月21日付けで審判請求書の手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1-9に係る発明は、平成19年2月16日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項3、4に記載された発明は次のとおりのものである。
「【請求項3】 超純水製造装置または医薬品製造装置の濾過膜装置に用いられる限外濾過膜の洗浄方法であって、前記限外濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させることにより、前記微粒子を除去することを特徴とする限外濾過膜の洗浄方法。
【請求項4】 前記微粒子の表面電位を変化させるとともに、前記微粒子に物理的な力を加える請求項3に記載の洗浄方法。」
そして、請求項4を独立形式で記載すると
「超純水製造装置または医薬品製造装置の濾過膜装置に用いられる限外濾過膜の洗浄方法であって、前記限外濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させるとともに、前記微粒子に物理的な力を加えることにより、前記微粒子を除去することを特徴とする限外濾過膜の洗浄方法。」(以下、「本願発明」という。)となる。

3.引用例記載の発明
(1)引用例の記載
(1-1)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の出願日前である平成12年5月9日に頒布された刊行物である特開2000-126562号公報 (以下、「引用例1」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「超純水に界面活性剤を添加してなる洗浄水により、超純水中の微粒子捕捉用濾過膜を洗浄することを特徴とする超純水中の微粒子捕捉用濾過膜の洗浄方法。」(【請求項1】)
(イ)「洗浄水のpHをアルカリ側に調整する請求項1?3のいずれか1項に記載の洗浄方法。」(【請求項4】)
(ウ)「洗浄水に超音波を照射する請求項1?7のいずれか1項に記載の洗浄方法。」(【請求項9】)
(エ)「超純水製造設備において、目的の水質が維持されていることを確認することは重要なことである。前述した超純水中の微粒子の評価方法としては、レーザー散乱や音波を利用したオンライン法の他に、濾過膜で超純水を濾過したときに該濾過膜上に捕捉される微粒子を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用いて測定する直接検鏡法がある。
直接検鏡法では、超純水製造設備の出口水、一般的には2次純水装置の出口水が流れる配管からサンプリング配管を分岐して超純水の一部を流し、途中に配置した微粒子捕捉用濾過膜で一定水量の超純水を濾過して、該超純水中に含まれる微粒子を捕捉する捕捉操作と、この微粒子捕捉操作を行った濾過膜について、走査型電子顕微鏡等による膜表面の撮影、画像処理等を行って微粒子数を計数する計数操作とを実施する。」(【0003】、【0004】)
(オ)「すなわち、溶液中において、微粒子及び濾過膜は帯電しており、その電位は、溶液のpH値に依存してプラスからマイナスへ変化する。微粒子と濾過膜の表面電位が反対符号であれば、静電引力により微粒子は膜から除去し難くくなる。微粒子と濾過膜の表面電位が同符号であれば、反発力により微粒子は膜から除去し易くなり、しかも一度除去した微粒子は再付着し難くなる。本発明で用いる界面活性剤は、粒子や膜の表面に吸着してその表面電位を変化させることができる。・・・」(【0013】)
(カ)「・・・界面活性剤添加洗浄水で濾過膜を洗浄するに当たり、界面活性剤添加洗浄水のpHをアルカリ側に調整する。ここで、「界面活性剤添加洗浄水のpHをアルカリ側に調整する」とは、界面活性剤添加洗浄水のpHが7より大きくなるように調整することをいう。この場合、界面活性剤添加洗浄水のより好ましいpHは8?13、特に9?12である。」(【0028】)
(キ)「すなわち、溶液のpH値によって微粒子及び濾過膜の表面電位は変化する。アルカリ性の溶液中では、微粒子は一般にマイナスの電位を示す。アルカリ性溶液でマイナスの電位を示す濾過膜では、アニオン界面活性剤を添加することにより、微粒子及び濾過膜の表面電位はさらにマイナスに傾き、両者の静電反発力は一層強くなり、より強力な微粒子除去効果が得られる。」【0030】

(1-2)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願の日前である昭和62年8月3日に頒布された刊行物である特開昭62-176507号公報 (以下、「引用例2」という。)には次の事項が記載されている。
(あ)「かかる半導体ウェハーの洗浄用水は通常、以下のようなフローで製造される。すなわち原水を凝集沈殿装置、砂濾過機、活性炭濾過機、逆浸透膜装置、2床3塔式純水製造装置、温床式ポリシャー、精密フィルターなどの一次側給水装置で処理して純水を得、次いで半導体ウェハーを洗浄する直前で前記一次処理純水を混床式ポリシャー、紫外線照射装置、超濾過膜装置で処理し、-次処理純水中に残留する微粒子、コロイダル物質、生菌等を可及的に除去して、いわゆる超純水とするものである。このような用途に用いられる超濾過膜装置は、その被処理水が一次側給水装置で得られる純水であるにもかかわらず、また直前で紫外線照射を行っているにもかかわらず、長時間の透過処理によって、透過水量が低下したり、あるいは透過水中に生菌が漏洩したりする。この原因は、当該超濾過膜装置の被処理水である純水中に極微量残留している高分子有機物等が超濾過膜の膜面に付着したり、あるいは紫外線に耐性を有する一般細菌が膜面に繁殖するためと考えられる。したがって使用する超濾過膜が上述のような汚染を受けた場合、何らかの回生処理をして超濾過膜の性能を回復せしめ、かつ殺菌する必要がある。」(1頁右下欄7行-2頁左上欄行11行)

(2)引用発明の認定
引用例1の記載事項について検討する。
a)引用例1には、上記(ア)、(イ)によれば、「超純水に界面活性剤を添加してなる洗浄水」の「pHをアルカリ側に調整」して、「超純水中の微粒子捕捉用濾過膜を洗浄する」超純水中の微粒子捕捉用濾過膜の洗浄方法が記載されている。
b)上記(エ)には、「超純水中の微粒子の評価方法として・・・濾過膜で超純水を濾過したときに該濾過膜上に捕捉される微粒子を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用いて測定する直接検鏡法」において、「微粒子捕捉用濾過膜」で「一定水量の超純水を濾過して、該超純水中に含まれる微粒子を捕捉する捕捉操作」を行い、「この微粒子捕捉操作を行った濾過膜について、走査型電子顕微鏡等による膜表面の撮影、画像処理等を行って微粒子数を計数する」計数操作を行うことが記載されている。
c)上記(オ)には、「超純水中の微粒子捕捉用濾過膜を洗浄する」方法の原理として、「溶液中において、微粒子及び濾過膜は帯電しており、その電位は、溶液のpH値に依存してプラスからマイナスへ変化する。微粒子と濾過膜の表面電位が反対符号であれば、静電引力により微粒子は膜から除去し難くくなる。微粒子と濾過膜の表面電位が同符号であれば、反発力により微粒子は膜から除去し易くなり、しかも一度除去した微粒子は再付着し難くなる。」と記載されている。
すると、上記超純水中の微粒子捕捉用濾過膜の洗浄方法は、「微粒子と濾過膜の表面電位が同符号であれば、反発力により微粒子は膜から除去し易く」なるので、付着した「微粒子」を「膜から除去」するのに「微粒子」の「表面電位を変化させる」ものであり、そのために、上記(カ)に記載されるように「界面活性剤添加洗浄水で濾過膜を洗浄するに当たり、界面活性剤添加洗浄水のpHをアルカリ側に調整する」ものであるといえる。
d)そして、上記(ウ)には「洗浄水に超音波を照射する」と記載されており、上記超純水中の微粒子捕捉用濾過膜の洗浄方法は、洗浄水に超音波を照射するものであるといえる。
e)上記記載事項(ア)?(オ)と上記a)?d)の検討結果から本願発明の記載ぶりに則して表現すると、
引用例1には、
「直接検鏡法に用いる超純水中の微粒子捕捉用濾過膜の洗浄方法であって、界面活性剤を添加してなる洗浄水のpHをアルカリ側に調整して前記微粒子捕捉用濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させるとともに、洗浄水に超音波を照射して前記微粒子を除去する直接検鏡法に用いる超純水中の微粒子捕捉用濾過膜の洗浄方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比
本願発明と引用発明を対比する。
i)引用発明における「洗浄水に超音波を照射して」は、洗浄水中の微粒子に超音波によって振動を加えることであるから、これは、本願発明における「物理的な力を加えて」に相当する。
ii)引用発明は「界面活性剤を添加してなる洗浄水のpHをアルカリ側に調整する」ことによって「濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させる」ものであるが、本願発明においては「濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させる」とのみあり、そのための手法を発明特定事項として特定するものではないから、引用発明における上記「界面活性剤を添加してなる洗浄水のpHをアルカリ側に調整して前記微粒子捕捉用濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させる」ことは、本願発明における「限外濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させる」ことと濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させる点で共通する。

よって、本願発明と引用発明とは
「濾過膜の洗浄方法であって、前記濾過膜に付着した微粒子の表面電位を変化させるとともに、前記微粒子に物理的な力を加えて前記微粒子を除去することを特徴とする濾過膜の洗浄方法。」の点(一致点)で一致し、以下の点で両者は相違する。
(相違点)
本願発明は、「超純水製造装置または医薬品製造装置の濾過膜装置に用いられる限外濾過膜」の洗浄方法であるのに対して、引用発明は、「直接検鏡法に用いる超純水中の微粒子捕捉用濾過膜」の洗浄方法である点

5.当審の判断
引用例2の上記(あ)によれば、「半導体ウェハーの洗浄用水」として種々の処理の後に「超濾過膜装置」で処理し「超純水」を製造するが、「超濾過膜装置」であっても「長時間の透過処理によって、透過水量が低下したり」するので、「何らかの回生処理をして超濾過膜の性能を回復」させる必要のあることが分かる。
ここで、「超濾過膜」は「限外濾過膜」を意味するものである。(要すれば次の文献を参照されたい。特開昭64-34494号公報の1頁右下欄の「超(限外)濾過膜」、特開昭62-266194号公報の1頁右下欄の「超濾過膜(UF膜)」、特開2000-117059号公報の【0007】の「UF膜(即ち限外濾過膜)」、特開平11-49800号公報の【0060】の「・・超濾過膜・・(・・ultra filtration membrane・・)」)
また、例えば拒絶査定で周知例として引用された特開平07-016566号公報(公開日 平成7年1月20日)の【0002】には「純水や超純水等の処理水を製造するために、RO(逆浸透膜)、UF(限外濾過膜)、MF(精密濾過膜)等の膜装置が用いられている。これらの装置に使用されている水処理用分離膜(以下、単に「分離膜」ということもある。)は長期間使用すると膜に対して微粒子等が沈着してその処理量が低下するので、このような場合には膜を洗浄して再生することが行なわれている。」と記載されているように、超純水製造装置において限外濾過膜が洗浄を要することは周知技術である。
ここで、上記相違点における引用発明の「直接検鏡法に用いる超純水中の微粒子捕捉用濾過膜」の洗浄方法を「超純水製造装置の濾過膜装置に用いられる限外濾過膜」の洗浄方法に適用できるかどうかについて検討する。
まず、引用発明における微粒子捕捉用濾過膜は超純水の製造装置において製造された超純水中の微粒子の捕捉を目的とし、その洗浄においては当該微粒子の除去を行うものである。
これに対して、上記周知の超純水製造装置における限外濾過膜においては超純水の製造工程での微粒子捕捉を目的としその洗浄を要するものである。
すると、微粒子捕捉用濾過膜も限外濾過膜も同様に微粒子を捕捉するものといえ、さらに、例えば、特開昭62-105029号公報には「直接検鏡法」に用いる「フィルタ」として「限外濾過膜」を用いて超純水のモニタリングを行うこと(1頁右下欄12行、3頁左上欄19行-右上欄2行)が記載されており、微粒子捕捉用濾過膜として限外濾過膜を用いる場合があることも周知技術であることに鑑みれば、微粒子捕捉用濾過膜として限外濾過膜を用いることができるのだから、微粒子捕捉用濾過膜と限外濾過膜の微粒子を捕捉するという機能やそれらを構成する材質に有意な差異はないといえ、付着した微粒子を除去する洗浄方法にも両者の間に有意な差異はないといえる。
そうであれば、微粒子捕捉用濾過膜に対して用いられる洗浄法を、同様な微粒子を捕捉するという機能を有する上記周知の超純水製造装置における限外濾過膜の洗浄法として、これを転用することに格別の困難性は見いだせない。
また、上記相違点に基づく本願発明の奏する作用効果も引用例及び周知例の記載から予測できる範囲のものであり、格別なものではない。

なお、請求人は審判請求書の請求の理由において、「引用文献2(引用例1)には、界面活性剤を含む洗浄水は付着している微粒子の除去方法にとっては有用であることが開示されていることは事実である。しかし、本願発明で使用する界面活性剤を含まない塩基性溶液もまた、界面活性剤を必須成分として含む引用文献2の洗浄水と同様に、膜に付着する微粒子の除去効果を発揮するのか否かという問題は引用文献2に記載されていないし、示唆もされていない。このようなことから、引用文献2の記載の発明に基づいて、膜に付着している微粒子の表面電位を変化させるために、本願発明の場合のように、界面活性剤を含まない塩基性溶液で当該膜を洗浄することが容易に想到されるとはいえない。」旨を主張するが、本願発明においては、洗浄の原理として「付着した微粒子の表面電位を変化させる」とあるのみで、「界面活性剤を含まない塩基性溶液」による洗浄を行う点は発明特定事項として記載がないから、請求人の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、上記「4.対比 ii)」に記載したように、これを採用することはできない。
また、仮に、本願発明が「界面活性剤を含まない塩基性溶液」を使用するものであったとしても、引用例1の上記(キ)に「溶液のpH値によって微粒子及び濾過膜の表面電位は変化する。アルカリ性の溶液中では、微粒子は一般にマイナスの電位を示す。アルカリ性溶液でマイナスの電位を示す濾過膜では、アニオン界面活性剤を添加することにより、微粒子及び濾過膜の表面電位はさらにマイナスに傾き、両者の静電反発力は一層強くなり、より強力な微粒子除去効果が得られる」と記載されていることから、引用発明においては、界面活性剤の添加は、アルカリ性溶液によって既に生じている静電反発力を、いっそう強化するものといえるから、適度な静電反発力とするにあたって界面活性剤を添加するか否かは静電反発力を調整するために必要に応じて選択し得ることといえる。

6.むすび
したがって,本願発明は,引用例1、2に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-19 
結審通知日 2010-03-24 
審決日 2010-04-06 
出願番号 特願2000-242602(P2000-242602)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 敬子大島 忠宏  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 斉藤 信人
中澤 登
発明の名称 洗浄方法  
代理人 長門 侃二  

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