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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
管理番号 1217011
審判番号 不服2006-5120  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-20 
確定日 2010-05-19 
事件の表示 特願2002-560107「論文の自動分析方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 1日国際公開、WO02/59857、平成16年 8月12日国内公表、特表2004-524559〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年1月23日(パリ条約による優先権主張・2001年1月23日,米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年5月2日付け拒絶理由通知に対して、同年11月10日付けで手続補正がされたが、同年12月16日付けで拒絶査定され、これに対し、平成18年3月20日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年4月19日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成21年5月12日付けで平成18年4月19日付け手続補正を却下するとともに、同日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対し、同年11月19日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。



第2 平成21年11月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年11月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
1 本件補正について
(1)本件補正前後の特許請求の範囲
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであり、その補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりのものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲(平成17年11月10日付け手続補正後のもの)
「 【請求項1】
エッセイの自動分析方法であって、
コンピュータシステムがエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程と、
前記コンピュータシステムが、予め記憶されたセットの特徴を読み出し、その各々が前記エッセイ中の各文章中に存在するか及び存在しないかを判定する工程と、
前記エッセイ中の各文章においてその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を前記コンピュータシステムが前記の各特徴ごとに演算する工程であって、前記可能性は前記各特徴が存在する場合にはその特徴が存在する場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第1のアルゴリズムにより演算し、前記各特徴が存在しない場合には第2のアルゴリズムによりその特徴が存在しない場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第2のアルゴリズムにより演算する工程と、
前記コンピュータシステムが前記の演算された可能性に基づき、選択された文章を対話要素カテゴリーに割り当てて出力する工程と、を有する。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記対話要素カテゴリーは主題文である。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記の受け入れ工程は電子形式で前記エッセイを受け入れることを含む。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、前記エッセイは、ASCIIファイルのものである。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記の受け入れ工程は、
前記エッセイの紙形式のものをスキャンする工程と、前記のスキャン後の紙のエッセイに光学式文字認識を実行する工程から構成される。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記の所定の特徴セットは、前記エッセイ内での位置をベースにした特徴である。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記の所定の特徴セットは、選択された単語の有無をベースにした特徴である。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、前記の選択された単語は、実証的に主題文に関連があるとされる単語を有する。
【請求項9】
請求項7記載の方法において、前記の選択された単語は信念を示す単語を含む。
【請求項10】
請求項1記載の方法において、前記の所定の特徴セットは修辞関係をベースにした特徴を有する。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、前記の判定工程は、前記エッセイを修辞構造パーサーを使用して構文分析する工程を有する。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、前記の演算工程は、多変量ベルヌーイモデルを利用する工程を有する。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記の演算工程は、各文章に次の数値、
【数1】

を演算するものであるが、ここで
P(A_(i)|T)は、ある文章がクラスTに属する場合にその文章が特徴A_(i)を有する条件付き可能性、
P(A(上棒)_(i)|T)は、ある文章がクラスTに属する場合にその文章が特徴A_(i)を有さない条件付き可能性、
P(A_(i))は、ある文章が特徴A_(i)を有する事前可能性、
P(A(上棒)_(i))は、ある文章が特徴A_(i)を有さない事前可能性、である。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記の割り当て工程は、数値が一番大きい文章を前記の対話要素カテゴリーに割り当てる工程を含む。
【請求項15】
請求項1記載の方法において、前記演算工程は、LaPlace推定量を利用する工程を含む。
【請求項16】
請求項1記載の方法は、エッセイの質問を提供する工程を更に有し、前記エッセイは、前記のエッセイの質問への回答にあたる。
【請求項17】
請求項1記載の方法は、1つ以上の異なる対話要素カテゴリー用に演算及び割り当て工程を繰り返す工程を更に有する。
【請求項18】
請求項1記載の方法は、前記の選択された文章を出力する工程を更に有する。
【請求項19】
請求項1記載の方法は、修正チェックリストを出力する工程を更に有する。
【請求項20】
コンピュータプログラムを内蔵するコンピュータ読込可能媒体であって、前記コンピュータプログラムは、
コンピュータシステムがエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程と、
前記コンピュータシステムが、予め記憶されたセットの特徴を読み出し、その各々が前記エッセイ中の各文章中に存在するか及び存在しないかを判定する工程と、
前記エッセイ中の各文章においてその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を前記コンピュータシステムが前記の各特徴ごとに演算する工程であって、前記可能性は前記各特徴が存在する場合にはその特徴が存在する場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第1のアルゴリズムにより演算し、前記各特徴が存在しない場合には第2のアルゴリズムによりその特徴が存在しない場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第2のアルゴリズムにより演算する工程と、
前記コンピュータシステムが前記の演算された可能性に基づき、選択された文章を対話要素カテゴリーに割り当てて出力する工程と、を有する。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
コンピュータで実行される、複数の文章を含むエッセイの自動分析方法であって、
前記コンピュータには、1つの特徴について、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリー(「主題文」や「結論文」等のカテゴリー)の文章である確率を求めるための第1の数式と、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための第2の数式とが格納されており、
前記第1、第2の数式は、所定の特徴に関する事前確率値を適用することで、それぞれ、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率、または、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めることができるように構成されているものであり、かつ
前記コンピュータには、特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴と、各特徴に関連づけられた前記事前確率値とが格納されており、
この方法は、
(a)コンピュータシステムが複数の文章を含むエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程と、
(b)前記コンピュータシステムが、特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴を読み出し、当該1つ若しくはそれ以上の特徴がそれぞれ前記エッセイ中の各文章中に存在するか及び存在しないかを判定する工程と、
(c)コンピュータシステムが、前記(b)工程で判定された特徴に関する事前確率値を呼び出し、特定の文章に当該特徴が存在すると前記工程(b)で判定された場合には当該事前確率値を前記第1の数式に適用してその特徴が存在する場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に当該特徴が存在しないと判定された場合には当該事前確率値を第2の数式に適用してその特徴が存在しない場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程と、
(d)前記コンピュータシステムが、それぞれの文章について前記1つ若しくはそれ以上の特徴について演算された前記談話カテゴリーの文章である確率に基づき、その確率をそれぞれの文章間で比較することで、前記エッセイに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を前記特定の談話カテゴリーに割り当てそのことを出力する工程と
を有する。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記談話カテゴリーは「主題文」である。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記の受け入れ工程は前記エッセイを電子化された状態で受け入れることを含む。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、前記エッセイは、ASCIIファイル形式のものである。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記の受け入れ工程は、
紙に印刷されたエッセイをスキャンする工程と、前記スキャンされたエッセイに光学式文字認識を実行する工程とを有する。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記特徴の1つは、1エッセイ内での文章の位置である。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記特徴の1つは、特定の単語である。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、前記選択された単語は、「主題文」に関連があると実証された単語を有する。
【請求項9】
請求項7記載の方法において、前記選択された「単語」は信念を示す単語を有する。
【請求項10】
請求項1記載の方法において、前記特徴の1つは修辞関係である。
【請求項11】
請求項10の方法において、前記の判定工程は、前記の特徴の有無を判定する前に、修辞構造パーサーを使用して前記エッセイを構文解析する工程を更に有する。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、前記の演算工程は、多変量ベルヌーイモデルを利用する工程を有する。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記第1の数式は、
以下の計算式、
【数1】

前記第2の数式は、
以下の計算式、
【数2】

であるが、ここで
P(A_(i)|T)は、ある文章がクラスTに属する場合にその文章が特徴A_(i)を有する条件付き確率、
P(A(上棒)_(i)|T)は、ある文章がクラスTに属する場合にその文章が特徴A_(i)を有さない条件付き確率、
P(A_(i))は、ある文章が特徴A_(i)を有する事前確率、
P(A(上棒)_(i))は、ある文章が特徴A_(i)を有さない事前確率、である。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記の割り当て工程は、数値が一番大きい文章を前記の談話カテゴリーに割り当てる工程を含む。
【請求項15】
請求項1記載の方法において、前記演算工程は、LaPlace推定量を利用する工程を含む。
【請求項16】
請求項1記載の方法は、1つ以上の異なる談話カテゴリー用に演算及び割り当て工程を繰り返す工程を更に有する。
【請求項17】
請求項1の方法は、修正用のチェックリストを出力する工程を更に有する。
【請求項18】
コンピュータプログラムを内蔵するコンピュータ読込可能媒体であって、
1つの特徴について、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリー(「主題文」や「結論文」等のカテゴリー)の文章である確率を求めるための第1の数式と、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための第2の数式とが前記コンピュータ読込可能媒体に格納されており、
前記第1、第2の数式は、所定の特徴に関する事前確率値を適用することで、それぞれ、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率、または、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めることができるように構成されているものであり、かつ
特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴と、各特徴に関連づけられた前記事前確率値とが前記コンピュータ読込可能媒体に格納されており、
前記コンピュータプログラムは、
(a)コンピュータシステムが複数の文章を含むエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程と、
(b)前記コンピュータシステムが、特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴を読み出し、当該1つ若しくはそれ以上の特徴がそれぞれ前記エッセイ中の各文章中に存在するか及び存在しないかを判定する工程と、
(c)コンピュータシステムが、前記(b)工程で判定された特徴に関する事前確率値を呼び出し、特定の文章に当該特徴が存在すると前記工程(b)で判定された場合には当該事前確率値を前記第1の数式に適用してその特徴が存在する場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に当該特徴が存在しないと判定された場合には当該事前確率値を第2の数式に適用してその特徴が存在しない場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程と、
(d)前記コンピュータシステムが、それぞれの文章について前記1つ若しくはそれ以上の特徴について演算された前記談話カテゴリーの文章である確率に基づき、その確率をそれぞれの文章間で比較することで、前記エッセイに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を前記特定の談話カテゴリーに割り当てそのことを出力する工程と
を実行するように構成されたものである。」

(2)補正内容
本件補正のうち、上記(1)で示した特許請求の範囲に対する補正は、以下に示すアないしスの補正内容よりなる。
ア 本件補正前の請求項16及び18を削除する。

イ 本件補正前の請求項1を以下(ア)ないし(オ)のとおり補正して、本件補正後の請求項1とする。
(ア)本件補正前の「エッセイの自動分析方法」を、「コンピュータで実行される、複数の文章を含むエッセイの自動分析方法」とするとともに、本件補正前の「コンピュータシステムがエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程」を「コンピュータシステムが複数の文章を含むエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程」とし、自動分析の対象となるエッセイを「複数の文章を含む」ものに限定する。
(イ)「前記コンピュータには、1つの特徴について、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリー(「主題文」や「結論文」等のカテゴリー)の文章である確率を求めるための第1の数式と、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための第2の数式とが格納されており、
前記第1、第2の数式は、所定の特徴に関する事前確率値を適用することで、それぞれ、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率、または、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めることができるように構成されているものであり、かつ
前記コンピュータには、特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴と、各特徴に関連づけられた前記事前確率値とが格納されており、」
との記載を追加し、本件補正前の「エッセイの自動分析方法」に用いられる「コンピュータ」の構成を限定する。
(ウ)本件補正前において、「予め記憶されたセットの特徴を読み出し、その各々が」とあったものを、「特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴を読み出し、当該1つ若しくはそれ以上の特徴がそれぞれ」とし、その記載を明りようなものとする。
(エ)本件補正前の
「前記エッセイ中の各文章においてその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を前記コンピュータシステムが前記の各特徴ごとに演算する工程であって、前記可能性は前記各特徴が存在する場合にはその特徴が存在する場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第1のアルゴリズムにより演算し、前記各特徴が存在しない場合には第2のアルゴリズムによりその特徴が存在しない場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第2のアルゴリズムにより演算する工程」
を、
「コンピュータシステムが、前記(b)工程で判定された特徴に関する事前確率値を呼び出し、特定の文章に当該特徴が存在すると前記工程(b)で判定された場合には当該事前確率値を前記第1の数式に適用してその特徴が存在する場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に当該特徴が存在しないと判定された場合には当該事前確率値を第2の数式に適用してその特徴が存在しない場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程」
として、本件補正前の「対話要素カテゴリー」,「対話要素カテゴリーのメンバー」,「可能性」及び、「アルゴリズム」が、それぞれ、「談話カテゴリー」,「談話カテゴリーの文章」,「確率」及び「数式」を意味することを明りようにするとともに、「演算する工程」が「特徴に関する事前確率値」を「数式に適用」することによりなされることを限定する。
(オ)本件補正前の
「前記コンピュータシステムが前記の演算された可能性に基づき、選択された文章を対話要素カテゴリーに割り当てて出力する工程」
を、
「前記コンピュータシステムが、それぞれの文章について前記1つ若しくはそれ以上の特徴について演算された前記談話カテゴリーの文章である確率に基づき、その確率をそれぞれの文章間で比較することで、前記エッセイに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を前記特定の談話カテゴリーに割り当てそのことを出力する工程」
として、本件補正前の「可能性」及び「対話要素カテゴリー」が、それぞれ、「確率」及び「談話カテゴリー」を意味することを明りようにするとともに、本件補正前の「出力する工程」について、「その確率をそれぞれの文章間で比較する」ことを行うものであること、及び、その出力する対象が「そのこと」であることを追加して、該工程を限定する。

ウ 本件補正前の請求項2における「対話要素カテゴリー」を、「談話カテゴリー」として、その記載を明りようなものとする。

エ 本件補正前の請求項6における「前記の所定の特徴セットは、前記エッセイ内での位置をベースにした特徴である。」を、「前記特徴の1つは、1エッセイ内での文章の位置である。」とし、その記載を明りようなものとする。

オ 本件補正前の請求項7における「前記の所定の特徴セットは、選択された単語の有無をベースにした特徴である。」を、「前記特徴の1つは、特定の単語である。」とし、その記載を明りようなものとする。

カ 本件補正前の請求項8における「実証的に主題文に関連があるとされる単語」を、「「主題文」に関連があると実証された単語」とする。

キ 本件補正前の請求項9における「前記の選択された単語」を、「前記選択された「単語」」とする。

ク 本件補正前の請求項10における「前記の所定の特徴セットは修辞関係をベースにした特徴を有する。」を、「前記特徴の1つは修辞関係である。」とし、その記載を明りようなものとする。

ケ 本件補正前の請求項13を以下(ア)及び(イ)の通り補正する。
(ア)本件補正前の
「前記の演算工程は、各文章に次の数値、
【数1】

を演算するものであるが、」
を、
「前記第1の数式は、
以下の計算式、
【数1】

前記第2の数式は、
以下の計算式、
【数2】

であるが、」
とし、「第1の数式」及び「第2の数式」が何を意味するかを限定する。
(イ)本件補正前の「可能性」を「確率」とし、その記載を明りようなものとする。

コ 本件補正前の請求項14における「対話要素カテゴリー」を、「談話カテゴリー」として、その記載を明りようなものとする。

サ 本件補正前の請求項17における「対話要素カテゴリー」を、「談話カテゴリー」として、その記載を明りようなものとするとともに、上記アの請求項の削除に伴い、その請求項番号を繰り上げて、本件補正後の請求項16とする。

シ 本件補正前の請求項19における「修正チェックリスト」を、「修正用のチェックリスト」とするとともに、上記アの請求項の削除に伴い、その請求項番号を繰り上げて、本件補正後の請求項17とする。

ス 本件補正前の請求項20を以下(ア)ないし(オ)のとおり補正するとともに、上記アの請求項の削除に伴い、その請求項番号を繰り上げて、本件補正後の請求項18とする。
(ア)「1つの特徴について、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリー(「主題文」や「結論文」等のカテゴリー)の文章である確率を求めるための第1の数式と、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための第2の数式とが前記コンピュータ読込可能媒体に格納されており、
前記第1、第2の数式は、所定の特徴に関する事前確率値を適用することで、それぞれ、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率、または、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めることができるように構成されているものであり、かつ
特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴と、各特徴に関連づけられた前記事前確率値とが前記コンピュータ読込可能媒体に格納されており、」
との記載を追加し、本件補正前の「コンピュータ読込可能媒体」に格納される情報を限定する。
(イ)本件補正前の
「コンピュータシステムがエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程」
を、
「コンピュータシステムが複数の文章を含むエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程」
とし、処理の対象となるエッセイを「複数の文章を含む」ものに限定する。
(ウ)本件補正前において、「予め記憶されたセットの特徴を読み出し、その各々が」とあったものを、「特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴を読み出し、当該1つ若しくはそれ以上の特徴がそれぞれ」とし、その記載を明りようなものとする。
(エ)本件補正前の
「前記エッセイ中の各文章においてその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を前記コンピュータシステムが前記の各特徴ごとに演算する工程であって、前記可能性は前記各特徴が存在する場合にはその特徴が存在する場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第1のアルゴリズムにより演算し、前記各特徴が存在しない場合には第2のアルゴリズムによりその特徴が存在しない場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第2のアルゴリズムにより演算する工程」
を、
「コンピュータシステムが、前記(b)工程で判定された特徴に関する事前確率値を呼び出し、特定の文章に当該特徴が存在すると前記工程(b)で判定された場合には当該事前確率値を前記第1の数式に適用してその特徴が存在する場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に当該特徴が存在しないと判定された場合には当該事前確率値を第2の数式に適用してその特徴が存在しない場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程」
として、本件補正前の「対話要素カテゴリー」,「対話要素カテゴリーのメンバー」,「可能性」及び、「アルゴリズム」が、それぞれ、「談話カテゴリー」,「談話カテゴリーの文章」,「確率」及び「数式」を意味することを明りようにするとともに、「演算する工程」が「特徴に関する事前確率値」を「数式に適用」することによりなされることを限定する。
(オ)本件補正前の
「前記コンピュータシステムが前記の演算された可能性に基づき、選択された文章を対話要素カテゴリーに割り当てて出力する工程」
を、
「前記コンピュータシステムが、それぞれの文章について前記1つ若しくはそれ以上の特徴について演算された前記談話カテゴリーの文章である確率に基づき、その確率をそれぞれの文章間で比較することで、前記エッセイに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を前記特定の談話カテゴリーに割り当てそのことを出力する工程」
として、本件補正前の「可能性」及び「対話要素カテゴリー」が、それぞれ、「確率」及び「談話カテゴリー」を意味することを明りようにするとともに、本件補正前の「出力する工程」について、「その確率をそれぞれの文章間で比較する」ことを行うものであること、及び、その出力する対象が「そのこと」であることを追加して、該工程を限定する。

(3)補正目的について
上記各補正内容について検討する。
ア 補正内容アについて
補正内容アは、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げられた「請求項の削除」を目的とするものである。

イ 補正内容イ,ケ及びスについて
補正内容イ,ケ及びスは、発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ 補正内容ウないしク及びコないしシについて
(ア)補正内容ウないしク及びコないしシのうち、補正内容ウないしオ,ク及びサないしシは、いずれも、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号に掲げられた「明りようでない記載の釈明」を目的とするものであり、本件補正前の特許請求の範囲に係る発明を特定するために必要な事項を実質的に変更するものではない。
(イ)補正内容ウないしク及びコないしシのうち、補正内容カ及びキは、いずれも、本件補正前の特許請求の範囲に係る発明を特定するために必要な事項を実質的に変更するものではない。

エ 本件補正のうち、特許請求の範囲についてする補正全体について
本件補正のうち、本件補正前の独立請求項である請求項1及び請求項20についてなされた補正内容イ及びスは、上記イに示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
ここで、本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項2ないし15,17,18は、本件補正により、本件補正後の請求項1を引用する請求項2ないし17となったものである。
よって、本件補正後の請求項2ないし17は、引用する独立請求項である請求項1が本件補正により減縮されたことから、本件補正によって、実質的にその発明を特定するために必要な事項が減縮されたものであると認められる。
したがって、本件補正のうち、補正内容アないしクよりなる特許請求の範囲に対してする補正は、全体として、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認め得るものであることから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項によって特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。


2 独立特許要件について
(1)特許請求の範囲の記載について
ア 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び18には、「1つの特徴について、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリー(「主題文」や「結論文」等のカテゴリー)の文章である確率を求めるための第1の数式と、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための第2の数式とが格納されており、」との記載がある。
さらに、本件補正後の特許請求の範囲の請求項13には、上記「第1の数式」及び「第2の数式」それぞれが、どのような計算式であるかが記載されている。

イ しかしながら、本件補正後の発明の詳細な説明及び図面からは、以下(ア)及び(イ)に示すように、上記アに示した「第1の数式」及び「第2の数式」がどのようなものであるのか記載されておらず、かつ、当該技術分野における技術常識を参酌しても、上記各請求項の記載において、何をもって「第1の数式」とし、何をもって「第2の数式」とするものであるのか、当業者といえども把握できないものである。
(ア)本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0014】?【0016】及び図1には、談話カテゴリー(T)用に各文章(S)について演算する確率式についての説明が記載されている。
しかしながら、その説明において、演算する確率式を示したとする本件補正後の段落【0015】には、【数3】として談話要素の特徴A_(1)…A_(n)の具体的内容を示す式が開示されているのみであり、どのような確率式を用いて、談話カテゴリーの文章である確率を演算するものであるのか記載も示唆もされていない。
(イ)本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0020】?【0034】には、本件の特許請求の範囲の記載されている事項によって特定される発明における、上記「第1の数式」及び「第2の数式」に関して、その具体例が「III.使用例」として記載されている。
しかしながら、上記具体例に関する記載からも、以下aないしdに示すように、「第1の数式」と「第2の数式」が開示されているものとは認められない。
a 本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0029】?【0030】には、段落【0028】に示されるエッセイの最初の文章の確率式に関する説明が記載されているものの、段落【0030】の【数7】には、その具体的な数式が記載されていない。
b 本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0031】?【0032】には、段落【0028】に示されるエッセイの第2文章の確率式について記載されているものの、段落【0032】において【数8】で示される具体的な数式には、P(X|Y)で示される条件付き確率[審決注.条件付き確率をこのように表現することは技術常識である。また、本願の発明の詳細な説明の段落【0016】においても、P(X|Y)を条件付き確率の表記として用いることが明示されている。]は示されておらず、P(X/Y)という当該技術分野において一般的に使用される表記ではなく、かつ、明細書において定義のなされていない表現が使用されている。したがって、上記具体例に関する記載からは、第2文章の確率式がどのようなものであるのか正確に把握できるものではない。
c 本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0033】には、第3文章および第4文章の確率式の値に関する記載があるが、具体的な確率式に関する記載はない。
d 上記aないしcに示したように、本件補正後の発明の詳細な説明には、確率式自体が明確に把握できるように記載されているものではなく、かつ、上記bにて示した【数8】におけるP(X/Y)が、条件付き確率P(X|Y)の誤記であると善解したとしても、これらの記載からは、「第1の数式」と「第2の数式」がそれぞれどのように異なるものであるのか理解できるものではないことから、本件補正後の請求項1及び請求項18において、何を「第1の数式」とし何を「第2の数式」とするものであるのか、当業者といえども明確に把握できるものではない。

ウ 上記のとおりであるから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び18ならびにこれらを引用する請求項2ないし17に記載された事項は、いずれも、本件補正後の発明の詳細な説明又は図面に記載されたものではなく、かつ、本件補正後の発明の詳細な説明又は図面の記載から当業者が自明に把握できたものであるとも認められない。
したがって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし18の記載は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。

(2)発明の詳細な説明の記載について、
ア 本件補正後の請求項1及び18には、
「(b)前記コンピュータシステムが、特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴を読み出し、当該1つ若しくはそれ以上の特徴がそれぞれ前記エッセイ中の各文章中に存在するか及び存在しないかを判定する工程と、
(c)コンピュータシステムが、前記(b)工程で判定された特徴に関する事前確率値を呼び出し、特定の文章に当該特徴が存在すると前記工程(b)で判定された場合には当該事前確率値を前記第1の数式に適用してその特徴が存在する場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に当該特徴が存在しないと判定された場合には当該事前確率値を第2の数式に適用してその特徴が存在しない場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程」
という記載がある。

イ これに関連して、本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0010】ないし【0064】には、【発明を実施するための最良の形態】が記載されている。
しかしながら、この【発明を実施するための最良の形態】における、上記請求項の記載に対応する記載は、以下(ア)ないし(カ)に示すように技術的に不明確なものである。
(ア)本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0014】には、「次に前記ループ115は、(140)以下の式を使用して該談話カテゴリー(T)用に各文章(S)の確率式を演算する。」と記載されている。しかしながら、上記記載に続く段落【0015】の【数3】には、談話要素の特徴A_(1)…A_(n)の具体的内容を示す式が開示されているのみであり、談話カテゴリーの文章である確率を演算するための確率式については、記載も示唆もされていない。
(イ)本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0020】には、「前記方法100は下記のように、主題文識別のために位置および単語の出現の特徴のみを利用すると仮定する。」と記載されている。しかしながら、上記記載に続く段落【0021】の【数4】には、事前学習用の複数のエッセイを解析して求めた事前確率に対応すると考えられる数式が開示されているのみであり、上記段落【0020】の記載に対応しないものとなっている。
(ウ)本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0022】には、「このデータセットから次の事前確率が、全文章数に対して、特徴が出現した頻度を数えることにより決定された(ここにおいて先行する「/」は「非」または補数演算子を意味する。)」と記載されている。しかしながら、上記記載に続く段落【0023】の【数5】には、条件付確率に関する数式が開示されているのみであり、事前確率がどのような値となるものであるかを示すものではないため、上記段落【0022】の記載とは対応しないものとなっている。
(エ)本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0025】には、「次の条件付確率は、同データセットから主題文の文章のみで特徴が発現している回数を数えて決定された。」と記載されている。しかしながら、上記記載に続く段落【0026】の【数6】には、対数を用いた演算に関して記載されているのみであり、上記【0025】の記載とは対応していないものとなっている。
(オ)本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0029】には、「この文章の確率式は以下のように演算される(140)。」と記載されている。しかしがら、上記記載に続く段落【0030】の【数7】には数式は何も記載されておらず、上記【0025】の記載とは対応していない。
(カ)本件補正後の発明の詳細な説明の段落【0026】の【数6】及び段落【0032】の【数8】には、「P(TESIS/S1)」,「P(THESIS/S2)」,「P(W_FEEL/THESIS)」等の、「P(X/Y)」という当該技術分野において一般的に使用される表記ではなく、かつ、明細書において定義のなされていない表現が使用されている。よって、これらの表記の意味が技術的に不明確なものとなっており、その結果、段落【0026】の【数6】及び段落【0032】の【数8】に示される数式の技術的意味が不明確なものとなっている。

ウ 上記イに示したように、本件補正後の発明の詳細な説明は、数式との関係において、その技術的意義が全体として把握できるものではない。
そして、本件補正後の発明の詳細な説明において、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び18の「演算する工程」に対応するものは、段落【0014】ないし【0016】,段落【0029】ないし【0030】,段落【0031】ないし【0032】及び図1のフローチャートにおけるステップ140であると考えられるものの、これらの箇所に記載された具体的な数式は、上記のとおり、発明の詳細な説明の記載と相互に対応していないもの、及び、技術的に不明確な表記によるものであるから、当業者といえども、本件補正後の発明の詳細な説明又は図面の記載から、自明に実施することができたものであるとは認められない。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、本件補正後の請求項1及び18ならびにこれらを引用する請求項2ないし17に記載された事項により特定される発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められず、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件(実施可能要件)を満たさない。

(3)進歩性について
上記(1)に示したように、本件補正後の特許請求の範囲に記載された事項は、本件補正後の発明の詳細な説明又は図面に記載されたものではなく、かつ、上記(2)に示したように、本件補正後の発明の詳細な説明は、本件補正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
しかしながら、本件補正後の特許請求の範囲の記載からは、発明を特定するために必要な事項については把握することができるものであることから、以下では、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)の進歩性についても検討する。

ア 本願補正発明
本願補正発明は、上記「1(1)イ」において、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1として記載したとおりのものである。

イ 引用文献
(ア)引用文献1
当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-29894号公報(以下「引用文献1」という。)には、図示とともに以下aないしdの事項が記載されていると認められる。なお、以下の記載において、下線は審決において付す。
a 「【請求項1】 文章データに含まれる複数の単語に夫々重み付けする手段と、
前記各単語に付与された夫々の重みに基づき、前記文章データを構成する各文毎の重みを求める手段と、
前記各文毎の重みの比較結果に基づき、前記文章データにおける主題文を決定する手段と、
を備える主題文抽出方式。」
b「【0013】図3は、本発明の一実施形態に係る主題文抽出方式における処理流れを示す図である。
【0014】上記方式は、パソコン(図示しない)等の端末に構築されるもので、テンプレートマッチング法に基づくパターンマッチングに頼るのではなく、電子化テキスト(文章データ)を構成する各文に含まれる名詞の重み(スコア)の合計値を各文のスコアに定め、各文のスコアに基づいて主題文を決定することとしている。これにより、上記方式では、予めユーザが抽出したい情報が分かっていないときでも文章データ中から主題文を抽出することができるのである。
【0015】図3において、まず、主題文の抽出対象である文章データ中の各単語、即ち、固有名詞、普通名詞及びサ変名詞等の各名詞にスコアを付与した後(ステップS11)、これらの付与されたスコアを各文毎に加算することによって、各文毎のスコアを求める(ステップS12)。次に、このようにして文章データを構成する全ての文についてスコアを求めた後、文章データ中のn番目(任意の順番)の文LnにおけるスコアSnを、下記の(1)式により求める(ステップS13)。
【0016】Sn=Ln……………………(1)
(1)式により求めた各文の関数F(Ln)のうちから、その極大値を与える文Lmを、上記文章データの主題文に決定する(ステップS14)。」
c 上記b及び図3から、引用文献1の「主題文抽出方式」は、「文章データの主題文」を「決定する」ステップS14を含む「方法」により実行されるものであることが把握できる。
d 上記bから、「主題文の抽出対象である文章データ」は、複数の文を含むことが把握できる。
e 上記aないしdからみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「複数の文よりなる主題文の抽出対象である文章データにおける主題文を決定する手段を備える主題文抽出方式であって、
パソコン等の端末に構築され、
各文の関数F(Ln)のうちから、その極大値を与える文Lmを、上記文章データの主題文に決定するステップS14を含む方法により実行される主題文抽出方式。」

(イ)引用文献2
当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、原田隆史(外4名),「抄録からの主題文の自動抽出」,Library and Information Science,三田図書館・情報学会,1992年3月31日,No.29,第125?137頁 には、以下aないしdに示す事項が記載されていると認められる。
a 「実際の抄録中に含まれる各文がどのような役割を持っており,上記の前提文,主題文,結果文のどの部分に属するものであるのかは,人手では比較的容易に判断することが可能である。しかし,そのためには多くの時間と費用が必要とされる。この判断を自動的に行うことができれば,検索ノイズを低減することが可能になると考えられる。現在まで,コンピュータでこのような文の判断を行うための研究はあまり行われておらず,自動的に文の種類を判断するための規則も明らかとはなっていない。そこで,本研究では実際の抄録を人手によって,前提文,主題文,結果文に分類し,これら韻文の持つ表層的な特徴を分析し,この分析された特徴をもとに各文の種類を自動的に判断する手法の開発を試みた。」(128ページ右欄7?19行)
b 「III.機械による文の種類の自動判断
A.機械による文の種類の判断方法
上記のように,抄録中の前提文,主題文,結果文にはそれぞれの表層的な特徴が見られることが明らかとなった。そこで,この抽出された表現をもとに文のパターン化を行い,その組み合わせパターンごとに抄録中の各文の種類を判断することを試みた。文のパターン化は各文が上記の7つの特徴に対応する,以下の条件のそれぞれに該当するかに基づき,その組み合わせで行った。7つの条件に対して「ある」か「ない」の2つの場合が考えられるため,組み合わせの総数は2の7乗である128通りのパターンが考えられるが,分析対象とした345抄録1630文中に実際に出現したパターンは19通りであった。
1) ある文より前の文字数が140文字以上であるかどうか
2) ある文より後の文字数が120文字以下であるかどうか
3) 「ここでは?」「本?」「表記の?」「標題の?」「題記の?」「この 論文では?」という表記が含まれるかどうか
4) 文末文節の前に「?について」があるかどうか
5) 文末文節の語幹が「述べ」「紹介」「説明」「考察」「提案」「示す」 「行」「調べ」「記述」「開発」「解析」「作成」「研究」であるかど うか
6) 文末の語尾が「?した」であるか,または体言止めであるかどうか
7) 文末文節の語尾が「?ない」「?ている」「?させる」「?される」「 ?できる」「?ない」「?なかった」「?である」「?であった」であ るか,または形容詞止めであるかどうか
しかし、このように各文の表層的な特徴だけに注目して,前提文,主題文,結果文を決定した場合,結果を示してから研究の動機・目的を示すというような,抄録の構造としては不自然な判断がなされることもありえる。例えば,ある抄録中の第一文に対応するパターンからは結果文で有る確率が最も高く,第二文に対応するパターンからは前提文で有る確率が最も高い場合には,結果文が抄録の第一文目,前提文が第二文目ということになるが,調査した353文献中にこのような例は存在しなかった。
そこでこのような問題を取り除くために,文の種類の判断を,その文の表層的なパターンにだけではなく,前の文の種類も考慮して行うものとした。すなわち,ある文の種類は当該文の表層的なパターンに基づく確率と,当該文の前の文の種類に基づく確率との積が最大となるものと判断した。この前の文に基づく確率を以下では基礎遷移確率と呼ぶことにする。文の流れのモデルを第3図に示す。

第3図に示すように,第1文の判断にあたっては初期状態からの遷移と考える。この場合,前提文または主題文と判断されることはあっても結果文と判断されることはない。もし,第1文が前提文であると判断された場合,第2文の判断は前提文からの遷移と考えることになる。したがって,第2文は前提文または主題文と判断されることはあっても結果文と判断されることはない。同様に第2文の種類に基づいて第3文の判断がなされることになる。また,最終文については終了状態への遷移が可能であることが条件となる。第3図に示すように,終了状態へは主題文または結果文のみからの遷移が可能であるため,最終文が前提文と判断されることはない。
例えば,抄録の第一文が前提文か主題文かは初期状態からどちらの文へ遷移するかによって決まるが,それぞれの文への基礎遷移確率は0.317と0.683である。もし,第一文の表層的な特徴のパターンに対応する前提文の確率が0.46,主題文の確率が0.06,結果文の確率が0.48であるとすると,これらと基礎遷移確率との積をとり数値の大きい方へと遷移することになる。すなわち,前提文が0.14582,主題文が0.04098,結果文は0となるため,第1文は前提文と判断される。表層的な特徴だけから見れば結果文と判断される可能性が最も高いが,結果文への基礎遷移確率は0であるため結果文と判断されることはない。第2文についても前提文からの遷移となるので前提文か主題文のいずれかとなる。
B.機械による文の種類の判断結果
1.抄録単位での結果
上記の345抄録1630文で明らかになった基礎遷移確率およびパターンごとの各文の出現確率をもとに,JICST科学技術文献ファイル電気工学分野の1988年5月分に含まれる386抄録を対象として,抄録中の前提文,主題文,結果文の機械による分類を行った。その結果を第4表に示す。
第4表に見られるように,分析対象とした386抄録のうち,268抄録(69.4%)について前提・主題・結果文を完全に判断することができた。また,主題文の一部を正しく予測できたものは65抄録(16.8%)であった。主題文についてシステムの判断が,まったく予測と異なったものは53抄録(13.7%)であった。

」(131ページ右欄9行?132ページ右欄最終行。)
c 記載bにおいて、「表層的な特徴のパターンに基づく確率」は、記載bにおいて1)?7)として示された7つの条件に対して、それぞれ「ある」か「ない」かを判断して求められた確率であると認められる。
d 記載aには「本研究では実際の抄録を人手によって,前提文,主題文,結果文に分類し,これら韻文の持つ表層的な特徴を分析し,この分析された特徴をもとに各文の種類を自動的に判断する手法の開発を試みた。」と記載されており、記載bには「上記の345抄録1630文で明らかになった基礎遷移確率およびパターンごとの各文の出現確率をもとに,JICST科学技術文献ファイル電気工学分野の1988年5月分に含まれる386抄録を対象として,抄録中の前提文,主題文,結果文の機械による分類を行った。」と記載されている。したがって、引用文献2に記載された抄録からの主題文の自動抽出は、事前の分析により明らかになった基礎遷移確率(当該文の前の文の種類に基づく確率)およびパターンごとの各文の出現確率(当該文の表層的な特徴のパターンに基づく確率)から、抄録中の前提文,主題文,結果文の機械による分類を行うものであることが把握できる。
e 上記aないしdからみて、引用文献2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「コンピュータで実行される、抄録について分析された特徴をもとに各文の種類を自動的に判断する手法であって,
抽出された表現をもとに文のパターン化を行い,その組み合わせパターンごとに抄録中の各文の種類を判断するものであり,
前記文のパターン化は各文が以下1)から7)の条件のそれぞれに該当するかに基づき,その組み合わせを考慮するものであって,
これらの7つの条件に対して「ある」か「ない」の2つの場合を考えることにより,当該文の表層的なパターンに基づく確率を求め,
前記当該文の表層的なパターンに基づく確率と,当該文の前の文の種類に基づく確率との積が最大となるものにより,文の種類を判断するものであって,
事前の分析により明らかになった当該文の前の文の種類に基づく確率および当該文の表層的な特徴のパターンに基づく確率をもとに,抄録中の前提文,主題文,結果文の機械による分類を行う。
(文のパターン化の条件)
1) ある文より前の文字数が140文字以上であるかどうか
2) ある文より後の文字数が120文字以下であるかどうか
3) 「ここでは?」「本?」「表記の?」「標題の?」「題記の?」「この
論文では?」という表記が含まれるかどうか
4) 文末文節の前に「?について」があるかどうか
5) 文末文節の語幹が「述べ」「紹介」「説明」「考察」「提案」「示す」
「行」「調べ」「記述」「開発」「解析」「作成」「研究」であるかど
うか
6) 文末の語尾が「?した」であるか,または体言止めであるかどうか
7) 文末文節の語尾が「?ない」「?ている」「?させる」「?される」「
?できる」「?ない」「?なかった」「?である」「?であった」であ
るか,または形容詞止めであるかどうか」

ウ 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「文」,「パソコン等の端末」及び「主題文」は、それぞれ、本願補正発明の「文章」,「コンピュータ」及び「所定の談話カテゴリー」に相当する。
(イ)引用発明1の「パソコン等の端末に構築され、上記文章データの主題文を決定するステップ14を含む方法により実行される主題文抽出方式」は、パソコン等の端末で実行される、自動的に主題文を抽出する方法を備えているものであり、主題文を抽出するために複数の文章よりなる文章データを分析しているものである。したがって、引用発明1の「パソコン等の端末に構築され、上記文章データを主題文に決定するステップ14を含む方法により実行される主題文抽出方式」と本願補正発明の「コンピュータで実行される、複数の文章を含むエッセイの自動分析方法」とは、「コンピュータで実行される、複数の文章を含む文章データの自動分析方法」を有する点で一致する。
(ウ)引用発明1の「各文の関数F(Ln)のうちから、その極大値を与える文Lmを、上記文章データの主題文に決定するステップS14」は、各文における関数値を比較して主題文を決定するステップであるから、本願発明の「その確率をそれぞれの文章間で比較することで、エッセイに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を特定の談話カテゴリーに割り当てそのことを出力する工程」とは、「値をそれぞれの文章間で比較することで、文章データに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を特定の談話カテゴリーに割り当てる工程」を有する点で一致する。
(エ)してみると、本願補正発明1と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「コンピュータで実行される、複数の文章を含む文章データの自動分析方法であって、
この方法は、
値をそれぞれの文章間で比較することで、前記文章データに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を特定の談話カテゴリーに割り当てる工程を有する。」
(オ)一方で、引用発明と本願補正発明とは、以下の点で相違する。
a 相違点1
本願補正発明の「自動分析方法」は、「エッセイ」の分析を行うと特定されるのに対し、引用発明1の「自動分析方法」は、文章データとしてどのようなものを分析するかについて明示がなく、上記のように特定されるか否か不明である点。
b 相違点2
本願補正発明の「自動分析方法」を実行する「コンピュータ」は、「コンピュータには、1つの特徴について、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリー(「主題文」や「結論文」等のカテゴリー)の文章である確率を求めるための第1の数式と、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための第2の数式とが格納されており、前記第1、第2の数式は、所定の特徴に関する事前確率値を適用することで、それぞれ、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率、または、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めることができるように構成されているものであり、かつ前記コンピュータには、特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴と、各特徴に関連づけられた前記事前確率値とが格納され」ると特定されるのに対し、引用発明1の「コンピュータ」はそのような構成を有しておらず、上記のように特定されない点。
c 相違点3
本願補正発明の「自動分析方法」は、
「(a)コンピュータシステムが複数の文章を含むエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程と、
(b)前記コンピュータシステムが、特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴を読み出し、当該1つ若しくはそれ以上の特徴がそれぞれ前記エッセイ中の各文章中に存在するか及び存在しないかを判定する工程と、
(c)コンピュータシステムが、前記(b)工程で判定された特徴に関する事前確率値を呼び出し、特定の文章に当該特徴が存在すると前記工程(b)で判定された場合には当該事前確率値を前記第1の数式に適用してその特徴が存在する場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に当該特徴が存在しないと判定された場合には当該事前確率値を第2の数式に適用してその特徴が存在しない場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程と、
(d)前記コンピュータシステムが、それぞれの文章について前記1つ若しくはそれ以上の特徴について演算された前記談話カテゴリーの文章である確率に基づき、その確率をそれぞれの文章間で比較することで、前記エッセイに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を前記特定の談話カテゴリーに割り当てそのことを出力する工程」
を有すると特定されるのに対し、引用発明1の「自動分析方法」は「値をそれぞれの文章間で比較することで、複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を前記特定の談話カテゴリーに割り当て」る工程を有するものであるものの、それ以外の工程を有しておらず、上記のように特定されない点。

エ 判断
上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
自動分析の対象とする文章データとして、どのようなものを使用するかは、当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。
したがって、引用発明1における自動分析の対象とする「文章データ」として、「エッセイ」を採用し、もって相違点1の構成とすることは、当業者ならば適宜なし得た設計事項である。
(イ)相違点2及び3について
a 引用発明2は、コンピュータにより,実際の抄録を人手によって,前提文,主題文,結果文に分類し,これら韻文の持つ表層的な特徴を分析し,この分析された特徴をもとに各文の種類を自動的に判断する手法に関するものである。
b ここで、引用発明2における「抄録」は複数の文章で構成された「文章データ」であり、「文」は「文章」と称することができるものであり、「各文の種類」である「前提文,主題文,結果文」は「所定の談話カテゴリーの文章」と称することができるものであり、分類を行う「機械」はコンピュータを使用するものであることから「コンピュータシステム」ということができるものである。
c してみると、引用発明2について、以下(a)ないし(g)がいえる。
(a)引用発明2は、コンピュータシステムによって文章データを分析し、その分析された特徴をもとに各文の種類を自動的に判断するものであるから、分析対象となる文章データを受け入れるとともに、処理のためにメモリに格納する必要があることは明らかである。
よって、引用発明2の「自動的に判断する手法」が、「コンピュータシステムが分析対象となる複数の文章を含む文章データを受け入れ、メモリに格納する工程」を有するものであることは、自明である。
(b)引用発明2は、「抄録中の前提文,主題文,結果文にはそれぞれの表層的な特徴が見られることが明らかとなったことから,この抽出された表現をもとに文のパターン化を行」う際に、「文のパターン化は各文が7つの特徴に対応する,以下の7つの条件のそれぞれに該当するかに基づき,その組み合わせで行うものであって,7つの条件に対して「ある」か「ない」の2つの場合を考える」ものである。
したがって、引用発明2の「文のパターン化」は、文章データ中の当該文章が「前提文,主題文,結果文」という「特定の談話カテゴリー」の有する7つの特徴に対応した7つの条件それぞれに該当するかに基づいてなされるものといえる。
そして、引用発明2が「コンピュータシステム」によって実行されるものであることを考慮すれば、上記「各文が7つの特徴に対応する,以下の7つの条件のそれぞれに該当するかに基づき,その組み合わせで行うものであって,7つの条件に対して「ある」か「ない」の2つの場合を考える」ためには、「コンピュータシステムが特定の談話カテゴリーの有する7つの特徴に対応した7つの条件を読み出し、該7つの条件に対して「ある」か「ない」の2つの場合を判定する工程」を引用発明2が有するものであることは自明である。
ここで、引用発明2における「7つの条件に対して「ある」か「ない」の2つの場合を判定する」ことは、その内容からみて、「7つの特徴がそれぞれ文章データ中の各文章中に存在するかしないかを判定する」ことであると認められる。
したがって、引用発明2は、「コンピュータシステムが特定の談話カテゴリーの有する7つの特徴を読み出し、該7つの特徴がそれぞれ文章データ中の各文章中に存在するかしないかを判定する工程」を有するものということができる。
(c)引用発明2は「各条件について「ある」場合と「ない」場合にそれぞれ対応した当該文の表層的なパターンに基づく確率と,当該文の基礎遷移確率との積」を求めているものである。
ここで、上記記載における「各条件について「ある」場合と「ない」場合にそれぞれ対応した当該文の表層的なパターンに基づく確率」は、上記(b)にて示したように、特定の談話カテゴリーの有する各特徴について当該特徴が存在する場合と存在しない場合にそれぞれ対応した「当該文の表層的なパターンに基づく確率」であるから、当該特定の文章に対し、特定の談話カテゴリーの有する各特徴について、当該特徴が存在する場合と存在しない場合とでは、異なる値になるものと認められる。
したがって、引用発明2で求められる「各条件について「ある」場合と「ない」場合にそれぞれ対応した当該文の表層的なパターンに基づく確率と,当該文の基礎遷移確率との積」は、特定の談話カテゴリーに関連する特徴が存在すると判定された場合の数値が適用される「積」と、特定の談話カテゴリーに関連する特徴が存在しないと判定された場合の数値が適用される「積」とが、それぞれ異なる値となるものであるから、「数式」が異なると言え、それぞれ「第1の数式」及び「第2の数式」と称することができるものである。
また、引用発明2において求められる「当該文の表層的なパターンに基づく確率」と「当該文の基礎遷移確率」との「積」が、当該特定の文章が特定の談話カテゴリーの文章である確率となることは、数学的に自明の事項である。
よって、引用発明2は、「コンピュータシステムが、当該特定の文章に特定の談話カテゴリーに関連する特徴が存在すると判定された場合には第1の数式を適用してその特徴が存在する場合における当該文章が特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に特定の談話カテゴリーに関連する特徴が存在しないと判断された場合には第2の数式を適用してその特徴が存在しない場合の当該文章が特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程」を有するものであるといえる。
(d)引用発明2は「事前の分析により明らかになった当該文の基礎遷移確率および当該文の表層的な特徴のパターンに基づく確率をもとに,抄録中の前提文,主題文,結果文の機械による分類を行う」ものである。よって、「基礎遷移確率」及び「当該文の表層的な特徴のパターンに基づく確率」は、事前の分析により得られたものであるから、ともに、「事前確率値」ということができるものである。
ここで、引用発明2では、「各条件について「ある」場合と「ない」場合にそれぞれ対応した当該文の表層的なパターンに基づく確率と,当該文の基礎遷移確率との積」を求める際に、「当該文の表層的なパターンに基づく確率」及び「基礎遷移確率」をどのように求めるものであるか明示はないものの、上記記載及び引用文献2の上記「イ(イ)b」に示された具体的な演算手法を考慮すれば、「当該文の表層的なパターンに基づく確率」及び「基礎遷移確率」として、事前の分析により明らかになっている「事前確率値」を数式に適用して演算することは、当業者ならば自明の事項である。
(e)引用発明2は「コンピュータにより,実際の抄録を人手によって,前提文,主題文,結果文に分類し,これら韻文の持つ表層的な特徴を分析し,この分析された特徴をもとに各文の種類を自動的に判断する手法」に関するものである。
ここで、上記(c)に示したように、引用発明2は、当該特定の文章について、特定の談話カテゴリーに関連する特徴について演算された特定の談話カテゴリーの文章である確率に基づいて、「各文の種類を自動的に判断」するものであり、その目的が「各文の種類を自動的に判断」することであることを考慮すれば、その結果である、文章を特定の談話カテゴリーに割り当てたことをコンピュータシステムが出力する工程を有するものとすることは、当業者ならば自明の事項である。
(f)上記(a)ないし(e)から、引用発明2の「各文の種類を自動的に判断する手法」は、以下の工程を有することが、当業者には自明に把握できる。
「コンピュータシステムが分析対象となる複数の文章を含む文章データを受け入れ、メモリに格納する工程と、
コンピュータシステムが特定の談話カテゴリーの有する7つの特徴を読み出し、該7つの特徴がそれぞれ文章データ中の各文章中に存在するかしないかを判定する工程と、
コンピュータシステムが、上記判定された特徴に関する事前確率値を読み出し、特定の文章に当該特徴が存在すると判定された場合には当該事前確率値を第1の数式に適用してその特徴が存在する場合における当該文章が特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に特徴が存在しないと判断された場合には当該事前確率値を第2の数式に適用してその特徴が存在しない場合の当該文が特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程と、
コンピュータシステムが、それぞれの文章について前記7つの特徴について演算された前記談話カテゴリーの文章である確率に基づき、文章データに含まれる文章を前記特定の談話カテゴリーに割り当てそこのことを出力する工程。」
(g)引用発明2は「コンピュータシステム」によって実行されるものであるから、上記(f)に示す各工程を実施することによって「各分の種類を自動的に判断する手法」を実現するためには、当該「コンピュータ」を、談話カテゴリーに関連する特徴に対応して当該特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための上記第1の数式と、当該特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための上記第2の数式を格納して、それぞれの場合についてその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率を求められるように構成するとともに、談話カテゴリーに関連する7つの特徴と各特長に関連付けられた事前確率値とを格納する構成とする必要があることは、当業者ならば自明の事項である。
c 引用発明1と引用発明2とは、ともに、コンピュータで実行される、複数の文章を含む文章データの自動分析方法という共通した技術分野に属するものであり、かつ、文章データから所定の談話カテゴリーの文章を抽出するという、共通した目的を有するものである。
したがって、引用発明1における自動分析方法の具体的な演算手法として引用発明2の演算手法を採用することは、当業者ならば容易に想到することができたものである。
ここで、引用発明2の自動分析方法は、確率をそれぞれの文章間で比較するかどうかについては明示がない。
しかしながら、引用発明2によって分析された各文章は、それぞれ各談話カテゴリーに関する確率値を有するものであること、引用発明1が談話カテゴリーに関する値をそれぞれの文章間で比較するものであること、及び、文章データ中の幾つの文章を当該文章データの当該談話カテゴリーを代表するものとして出力するかは、当業者が適宜設計することができる事項であることを考慮すれば、引用発明1における自動分析方法の具体的な手法として引用発明2の演算手法を採用する際に、文章データ中のそれぞれの文章間で確率値を比較し、その値の高い文章を当該文章データにおける所定の談話カテゴリーを代表する文章として出力するように設計することは、当業者ならば適宜なし得たものである。
d 上記のとおりであるから、引用発明1における自動分析方法の具体的な演算手法として引用発明2の演算手法を採用することにより、もって上記相違点2及び相違点3の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
(ウ)小括
上記のとおりであるから、相違点1ないし相違点3の構成は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も、引用発明1及び引用発明2の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものに過ぎない。
(エ)審判請求人による平成21年11月19日付け意見書の主張の検討
上記当審による進歩性の判断に関連して、審判請求人は平成21年11月19日付け意見書にて、以下のように主張している。
「6.拒絶理由3についての反論
・・・(中略)・・・
引用文献との比較
上述の拒絶理由にある「コンピュータを用いて抄録から自動的に主題文を抽出する際に、前提文、主題文、結果文を特徴づける、文の長さや単語の有無等の7つの特徴について、それぞれ、特徴が「ある」か「ない」の2つの場合について、その文が前提文、主題文、結果文である確率を事前に算出する」について、引用文献2の記載を調べました。確かに、前提文、主題文、結果文に出現する特徴とその出現頻度については、幾つかの例が挙げられています。審判官殿が特徴が「ない」場合と述べられておられる箇所と思われる記載には、23ページ右欄の「なお、述語が形容詞あるいは形容動詞である文は、いずれも主題文中に出現しないという結果が得られた」、「「この方法では役にたたない」など、否定の付属語をとる文は、いずれも主題文以外であった」、「また「?である」などのような断定を示す付属語にも主題文には少ない表現としてあげることができる」が見受けられます。しかし、これらの結果をどのように使うかは具体的に説明されていませんし、さらに重要な点は、引用文献2で開示される特徴は、ある動詞が「ある」という特徴、または否定の付属語が「ない」という特徴であります。別の言い方をすると、これらは「なにかがあるという特徴」や「なにかがないという特徴」に当たります。引用文献2では、文の種類に関連があると分かった特徴の出現に基づいて規則を設定し、ある文の種類である確率が数値として付与されるものであります。
・・・(中略)・・・
このように、本発明と引用文献2に開示された発明の間には本質的な相違があります。また、引例文献1は、引用文献2で欠落している上記の本願の発明の要素を補完するものでもありませんので、引用文献1と2を組み合わせても本発明に至ることができないのは明確であると思量したします。」(6ページ15行?7ページ下から4行)
しかしながら、上記意見書における引用文献2に関する記載内容及び摘記箇所は、上記当審の拒絶理由にて提示した引用文献2(原田隆史(外4名),「抄録からの主題文の自動抽出」,Library and Information Science,三田図書館・情報学会,1992年3月31日,No.29,第125?137頁)に記載された事項とは対応していない。[意見書における引用文献に関する記載は、その記載内容からみるに、原査定時に引用された「原田隆史(外3名),「抄録からの主題文の自動抽出」,情報処理学会研究報告,社団法人情報処理学会,1993年5月18日,第93巻第39号,第17?26ページ」に記載された事項に対応するもののように思われる。] よって、審判請求人の上記引用文献2に関する主張は受け入れられない。
よって、上記意見書の主張を考慮しても、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2から、当業者が容易に想到することができたものと判断せざるを得ない。

進歩性についてのまとめ
本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3 補正却下の決定のむすび
上記「2(1)」に示したとおり、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし18の記載は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、上記「2(2)」に示したとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項から特定される発明について、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件(実施可能要件)を満たすものではないから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
さらに、上記「2(3)」に示したとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本件審判請求についての判断
1 本願の特許請求の範囲の記載
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし20の記載は、上記「第2 1(1)ア」において、本件補正前の特許請求の範囲(平成17年11月10日付け手続補正後のもの)として記載したとおりのものである。


2 当審拒絶理由の概要
平成21年5月12日付けの当審拒絶理由の概要は、以下(1)ないし(3)に示すとおりである。

(1)本件出願は、明細書及び図面の記載が下記アないしウの点で不備のため、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ア 請求項1及び請求項20の記載は、以下(ア)ないし(キ)の点で技術的に不明確であり、その結果、これらの請求項を引用する請求項2ないし19も技術的に不明確なものとなっている。
(ア)請求項1及び請求項20に記載された「特徴」との語の示す技術的範囲が、請求項6,7,10の記載を参酌しても、技術的に不明確である。
(イ)請求項1及び請求項20に記載された「対話要素カテゴリー」及び「対話要素カテゴリーのメンバー」との語は、学術用語、学術文献などで慣用されている技術用語ではなく、かつ、本願の発明の詳細な説明においてその意味が定義されているものではないことから、技術的に不明確である。
(ウ)請求項1及び請求項20には「第1のアルゴリズム」及び「第2のアルゴリズム」と記載されているが、両者がどのように「アルゴリズム」(通常、コンピュータに対して演算手続などを指示する規則・算法を意味する。)が異なるものであるのか、発明の詳細な説明を参酌しても技術的に不明確である。
(エ)請求項1及び請求項20に記載された「セットの特徴」とは、どのような事項を意味するのか技術的に不明確である。
(オ)請求項1及び請求項20には「出力する」と記載されているが、何を出力するものであるのか技術的に不明確である。
(カ)請求項1及び請求項20に記載された「可能性」と、本願の発明の詳細な説明に記載された「確率」との技術的関係が相互に不明確である。
(キ)上記(ア)ないし(カ)に示した技術的に不明確な記載により、本願の請求項1ないし20に記載された「エッセイの自動分析方法」及び「コンピュータ読込可能媒体」という発明の範囲が、技術的に不明確なものとなっている。

イ 請求項16に記載された「エッセイの質問を提供する工程を更に有し、前記エッセイは、前記のエッセイの質問への回答にあたる。」とは、どのようなことを意味するのか技術的に不明確である。

ウ 請求項18に記載された「選択された文章を出力する工程」と、請求項18が引用する請求項1に記載された「選択された文章を対話要素カテゴリーに割り当てて出力する工程」との技術的関係が不明確である。

(2)本件出願は、明細書及び図面の記載が下記アないしクの点で不備のため、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

ア 本願の発明の詳細な説明に散見される「対話要素」及び「対話要素カテゴリー」との語は、学術用語、学術文献などで慣用されている技術用語ではなく、かつ、本願の発明の詳細な説明においてその意味が定義されているものではないことから、技術的に不明確である。

イ 本願の発明の詳細な説明の段落【0014】?【0017】,【0042】に散見される「対話カテゴリー」とは技術的にどのような意味を有するのか、及び、「対話要素」,「対話要素カテゴリー」とはどのような技術的関係にあるのか不明確である。

ウ 本願の発明の詳細な説明の段落【0026】に記載された【数5】において、P(/W_FEEL|THESIS)及びP(SP_2|TESIS)の演算が誤っている。

エ 本願の発明の詳細な説明の段落【0030】,【0032】,【0042】には「P(T)」のように「T」という記号が散見されるが、この「T」と「Thesis」及び「対話カテゴリー(T)」の相互の関係が技術的に不明確である。

オ 本願の発明の詳細な説明の段落【0031】の、文章分析のための規則に関する記載が技術的に不明確である。

カ 本願の発明の詳細な説明の段落【0032】の【数7】に記載された「・・・+log[P(W_FEEL|T)/P(/W_FEEL)]・・・」は、「・・・+log[P(W_FEEL|T)/P(W_FEEL)]・・・」の誤記ではないか?

キ 本願の発明の詳細な説明の段落【0050】に記載された「停止リスト」とはどのようなものであるのか技術的に不明確である。(審決注.「停止リスト」に関して、平成21年5月12日付けの当審拒絶理由では「停止ライン」と記載されている。しかしながら、段落【0050】には「停止」が付く記載は「停止リスト」しか存在しないことから、該記載が「停止リスト」の誤記であることは明白であり、かつ、審判請求人も平成21年11月19日付け意見書にて「停止ライン」が「停止リスト」の誤記であるとして対応している。よって、本審決においては訂正して示した。)

ク 本願の発明の詳細な説明の段落【0051】における「従属者」との記載は一般的に使用される用語ではない。また、同段落に記載された「テキスト的な関係」とはどのようなものを意味するのか、技術的に不明確である。

(3)本願の請求項1乃至20に係る発明は、引用文献1(特開2000-29894号公報)に記載された発明及び引用文献2(原田隆史(外4名),「抄録からの主題文の自動抽出」,Library and Information Science,三田図書館・情報学会,1992年3月31日,No.29,第125?137頁)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許を受けることができない。


3 当審の判断
(1)特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載不備について
ア 審判請求人は、上記平成21年5月12日付けの当審拒絶理由に対して平成21年11月19日付けで意見書及び手続補正書を提出している。

イ しかしながら、上記「第2」で示したように、上記当審拒絶理由で指摘した事項について提出された平成21年11月19日付け手続補正書は却下されたので、以下では、本件補正前の明細書の記載及び上記平成21年11月19日付け意見書について検討する。
(ア)上記「2(1)」で示した特許請求の範囲の記載不備について
上記のとおり、平成21年11月19日付け手続補正書は却下されているため、本願の特許請求の範囲は、当審が特許請求の範囲に関する記載不備について拒絶理由を通知した、本件補正前のもの(上記「第2 1(1)」にて示した。)となった。
そして、上記「2(1)」のアないしウで示した拒絶理由は、上記意見書による審判請求人の主張を参酌しても、以下aないしcに示すように、依然として解消されていない。
a 請求項1及び20について
本願の請求項1及び20および請求項1を引用する請求項2ないし19には、依然として以下(a)ないし(g)に示す不明確な記載を有する。
(a)「特徴」という語の技術的範囲が不明確である。[上記「2(1)ア
(ア)」に対応]
(b)「対話要素カテゴリー」及び「対話要素カテゴリーのメンバー」とい
う語が技術的に不明確である。[上記「2(1)ア(イ)」に対応]
(c)「第1のアルゴリズム」及び「第2のアルゴリズム」とはどのような
ものか技術的に不明確である。[上記「2(1)ア(ウ)」に対応]
(d)「セットの特徴」とはどのようなものか技術的に不明確である。[上
記「2(1)ア(エ)」に対応]
(e)何を「出力する」ものであるのか、請求項の記載から把握できず、技
術的に不明確である。[上記2(1)ア(オ)に対応]
(f)請求項中の「可能性」という記載と、発明の詳細な説明中の「確率」
という記載との間の相互の技術的関係が不明確である。[上記2(1
)ア(カ)に対応]
(g)上記(a)ないし(f)に示したとおり、請求項1及び20には技術
的に不明確な記載を有しており、その結果、請求項1及び20に記載
された発明の範囲が、技術的に不明確なものとなっている。[上記2
(1)ア(キ)に対応]
b 請求項16について
上記請求項における「エッセイの質問を提供する工程を更に有し、前記エッセイは、前記のエッセイの質問への回答にあたる。」との記載が技術的に不明確である。
c 請求項18について
上記請求項に記載された「選択された文章を出力する工程」と、請求項18が引用する請求項1に記載された「選択された文章を対話要素カテゴリーに割り当てて出力する工程」との技術的関係が不明確である。
(イ)上記「2(2)」で示した発明の詳細な説明の記載不備について
上記のとおり、平成21年11月19日付け手続補正書は却下されているため、本願の発明の詳細な説明は、当審が発明の詳細な説明に関する記載不備について拒絶理由を通知した、本件補正前のものとなった。
これについて、上記意見書による審判請求人の主張を参酌したところ、上記「2(2)」のアないしクで示した拒絶理由のうち、オに示した拒絶の理由は、上記意見書による釈明により解消されたと認めることができるものの、他の理由(アないしエ及びカないしク)については、以下aないしgに示すように、依然として解消されていない。
a 本願の発明の詳細な説明に散見される「対話要素」及び「対話要素カ
テゴリー」との語が技術的に不明確である。[上記「2(2)アに対
応]
b 本願の発明の詳細な説明の段落【0014】?【0017】,【00
42】に散見される「対話カテゴリー」とは技術的にどのような意味
を有するのか、及び、「対話要素」,「対話要素カテゴリー」とはど
のような技術的関係にあるのか不明確である。[上記「2(2)イ」
に対応]
c 本願の発明の詳細な説明の段落【0026】に記載された【数5】に
おいて、P(/W_FEEL|THESIS)及びP(SP_2|TESIS)の演算が誤っている。
[上記「2(2)ウ」に対応]
d 本願の発明の詳細な説明の段落【0030】,【0032】,【00
42】には「P(T)」のように「T」という記号が散見されるが、この
「T」と「Thesis」及び「対話カテゴリー(T)」の相互の関係が技術
的に不明確である。[上記「2(2)エ」に対応]
e 本願の発明の詳細な説明の段落【0032】の【数7】に記載された
「・・・+log[P(W_FEEL|T)/P(/W_FEEL)]・・・」は、
「・・・+log[P(W_FEEL|T)/P(W_FEEL)]・・・」の誤記であると考え
られる。[上記「2(2)カ」に対応]
f 本願の発明の詳細な説明の段落【0050】に記載された「停止リス
ト」とはどのようなものであるのか技術的に不明確である。[上記「
2(2)キ」に対応]
g 本願の発明の詳細な説明の段落【0051】における「従属者」との
記載は一般的に使用される用語ではない。また、同段落に記載された
「テキスト的な関係」とはどのようなものを意味するのか、技術的に
不明確である。[上記「2(2)ク」に対応]
(ウ)上記当審の判断に関し、審判請求人は上記意見書にて、上記「2(1)」の各拒絶理由(特許請求の範囲の記載不備)及び上記「2(2)」のアないしエ及びカないしクに示した拒絶理由(発明の詳細な説明についての記載不備)について、本件補正によっていずれも解消された旨主張している。
しかしながら本件補正は、上記「第2」で示したように、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさず、同法同条第4項に規定する要件(実施可能要件)も満たさず、かつ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものとして却下されたので、上記審判請求人が意見書で主張する、本件補正により上記拒絶理由が解消されたとの主張は採用できない。

ウ 以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載は、審判請求人による平成21年11月19日付け意見書の主張を考慮しても、技術的に明確なものであるとは認められない。
よって、本件出願は、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項20に関する記載、および、請求項1ないし請求項20に対応する発明の詳細な説明の記載が依然として技術的に不明確なものであるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法36条4項及び6項2号に規定する要件を満たしていない。

(2)進歩性について
ア 本願発明
上記(1)に示したように、本願の特許請求の範囲に記載された事項は、本願の発明の詳細な説明又は図面に記載されたものではなく、かつ、本願の詳細な説明は、本件補正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
しかしながら、本願の特許請求の範囲の記載について、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、以下(ア)ないし(オ)に示す解釈に基づけば、その発明を特定するために必要な事項を把握できることから、この解釈に基づいて進歩性について検討する。
(ア)請求項1に記載された「特徴」および「セットの特徴」は、発明の詳
細な説明全体の記載を参酌し、その文が「主題文」であるかどうかを
判断するために使用される文または文書の有する複数の特徴を意味す
るものであると考えられること
(イ)請求項1に記載された「対話要素カテゴリー」は、請求項2の記載を
参酌すると、当該文が「主題文」であるか否かという、文の種類に関
する概念を包含するものであると考えられること
(ウ)請求項1に記載された「第1のアルゴリズム」および「第2のアルゴ
リズム」は、発明の詳細な説明の段落【0028】?【0034】の
アルゴリズムに関する記載を考慮すると、「主題文」であるか否かを
特徴の有無に応じて異なる事前確率を用いるとともに、共通する演算
手法を用いて演算することを包含する概念であると考えられること
(エ)本願発明は、少なくとも当該文が「主題文」であるか否かを「出力す
る」ものであると考えられること
(オ)請求項1に記載された「可能性」は、少なくとも「確率」に基づく概
念であると考えられること

イ 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献およびこれらの記載事項は、前記「第2 2 2-2」に記載したとおりである。

ウ 対比・判断
(ア)本願発明は、前記「第2 2(3)」で検討した本願補正発明から、
a 「コンピュータで実行される、複数の文章を含むエッセイの自動分析方法」を「エッセイの自動分析方法」とするとともに、「コンピュータシステムが複数の文章を含むエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程」を「コンピュータシステムがエッセイを受け入れ、メモリに格納する工程」とし、自動分析の対象となるエッセイが「複数の文章を含む」ものであるとの限定を省き、
b 「前記コンピュータには、1つの特徴について、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリー(「主題文」や「結論文」等のカテゴリー)の文章である確率を求めるための第1の数式と、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めるための第2の数式とが格納されており、
前記第1、第2の数式は、所定の特徴に関する事前確率値を適用することで、それぞれ、その特徴が文章中に存在する場合におけるその文章が所定の談話カテゴリーの文章である確率、または、その特徴が文章中に存在しない場合におけるその文章が前記所定の談話カテゴリーの文章である確率を求めることができるように構成されているものであり、かつ
前記コンピュータには、特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴と、各特徴に関連づけられた前記事前確率値とが格納されており、」
との記載を削除して、「エッセイの自動分析方法」に用いられる「コンピュータ」の構成に対する限定を省き、
c 「特定の談話カテゴリーに関連する1つ若しくはそれ以上の特徴を読み出し、当該1つ若しくはそれ以上の特徴がそれぞれ」を、「予め記憶されたセットの特徴を読み出し、その各々が」とし、その記載を不明りようなものとし、
d 「コンピュータシステムが、前記(b)工程で判定された特徴に関する事前確率値を呼び出し、特定の文章に当該特徴が存在すると前記工程(b)で判定された場合には当該事前確率値を前記第1の数式に適用してその特徴が存在する場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算し、当該特定の文章に当該特徴が存在しないと判定された場合には当該事前確率値を第2の数式に適用してその特徴が存在しない場合におけるその文章が前記特定の談話カテゴリーの文章である確率を演算する工程」を、「前記エッセイ中の各文章においてその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を前記コンピュータシステムが前記の各特徴ごとに演算する工程であって、前記可能性は前記各特徴が存在する場合にはその特徴が存在する場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第1のアルゴリズムにより演算し、前記各特徴が存在しない場合には第2のアルゴリズムによりその特徴が存在しない場合におけるその文章が対話要素カテゴリーのメンバーである可能性を第2のアルゴリズムにより演算する工程」として、「談話カテゴリー」,「談話カテゴリーの文章」,「確率」及び「数式」という明りような記載を、それぞれ、「対話要素カテゴリー」,「対話要素カテゴリーのメンバー」,「可能性」及び、「アルゴリズム」という不明りようなものにするとともに、「演算する工程」が「特徴に関する事前確率値」を「数式に適用」することによりなされるとの限定を省き、
e 「前記コンピュータシステムが、それぞれの文章について前記1つ若しくはそれ以上の特徴について演算された前記談話カテゴリーの文章である確率に基づき、その確率をそれぞれの文章間で比較することで、前記エッセイに含まれる複数の文章のうちの1またはそれ以上の文章を前記特定の談話カテゴリーに割り当てそのことを出力する工程」うぃ、「前記コンピュータシステムが前記の演算された可能性に基づき、選択された文章を対話要素カテゴリーに割り当てて出力する工程」として、「確率」及び「談話カテゴリー」という明りような記載を、それぞれ、「可能性」及び「対話要素カテゴリー」という不明りような記載にするとともに、「出力する工程」について「その確率をそれぞれの文章間で比較する」との限定を省くとともに、出力する対象が「そのこと」であるとの限定を省いたものに相当する。
(イ)ここで、本願発明は、本願補正発明から構成要件を省くとともに、その記載を不明瞭なものにしたものに相当するが、上記アに示した解釈に基づいて、不明りようである部分についてもその発明を特定するために必要な事項が認定すると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(3)」に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、当審拒絶理由に示した(1)ないし(3)の理由は、いずれも妥当なものと認められる。


4 むすび
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、また、本願は、当審拒絶理由に示した(1)ないし(3)の理由によって拒絶すべきものである。
すなわち、本願の特許請求の範囲の記載は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものであるから、特許を受けることができないものであり、かつ、本願の発明の詳細な説明は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないものであるから、特許を受けることができないものであり、さらに、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-11 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2010-01-06 
出願番号 特願2002-560107(P2002-560107)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G09B)
P 1 8・ 536- WZ (G09B)
P 1 8・ 537- WZ (G09B)
P 1 8・ 121- WZ (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清藤 弘晃宮本 昭彦  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 江成 克己
上田 正樹
発明の名称 論文の自動分析方法  
代理人 矢口 太郎  
代理人 山口 康明  

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