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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1217027
審判番号 不服2007-30118  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-05 
確定日 2010-05-19 
事件の表示 特願2002-581632「乗物用通信のための扁平スロットアンテナと、その作製および設計の方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月24日国際公開、WO02/84800、平成17年 4月28日国内公表、特表2005-512347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成14年3月22日(パリ条約による優先権主張2001年4月10日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年6月19日付けで手続補正がなされたが、平成19年8月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年11月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年11月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正は補正前の平成19年6月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「共振周波数を有する交差スロットアンテナであって、
(a)内部にキャビティを有する導電構造体と、
(b)前記導電構造体内に交差するように形成された第1および第2のスロットであって、前記一方のスロットがアンテナの共振周波数より上の共振周波数を有するように、また、前記第2のスロットがアンテナの共振周波数より下の共振周波数を有するように、前記スロットの長さが異なるスロットと、
(c)前記導電構造体に結合され、そして、スロットからの無線周波数信号を共通給電点に結合するように構成された共通給電点と、
を備えるアンテナ。」という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「共振周波数を有する交差スロットアンテナであって、
(a)内部にキャビティを有する導電構造体と、
(b)前記導電構造体内に交差するように形成された第1および第2のスロットであって、前記一方のスロットがアンテナの共振周波数より上の共振周波数を有するように、また、前記第2のスロットがアンテナの共振周波数より下の共振周波数を有するように、前記スロットの長さが異なるスロットと、
(c)前記導電構造体に結合され、そして、スロットからの無線周波数信号に結合されるように構成された単一の共通給電点と、
を備えるアンテナ。」という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
上記補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、本願発明の「スロットからの無線周波数信号を共通給電点に結合するように構成された共通給電点」を補正後の発明の「スロットからの無線周波数信号に結合されるように構成された単一の共通給電点」として共通給電点が単一である点を限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で認定したとおりである。

(2)引用発明
原査定の拒絶理由に引用された特開平7-22833号公報(以下、「引用例」という。)には「交差スロットマイクロ波アンテナ」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0012】
【実施例】本発明によるマイクロ波アンテナ20はストリップ線路により供給される空洞を背後に有する交差スロットとして図1、2で示されている。アンテナは2つの交差するスロット24,26 が設けられている放射板22を含む。スロット24,26 は互いに90°に方向づけられており、それぞれL1、L2の異なった長さである。(同様に、2つのスロット24,26 は“交差スロット”として特徴づけられる)。
【0013】放射板22の下には放射板にマイクロ波励起を生成するため放射板と共同して動作する線形手段がある。線形手段は放射板22から分離されてそれと平行に位置する線形導体28であることが好ましい。動作上、マイクロ波駆動信号は放射板22と線形導体28に供給され、マイクロ波が放射板22から放射される結果を生む。
【0014】背面板30は放射板22と線形導体28から分離してそれらと平行に位置される。好ましくは線形導体28は放射板22と背面板30との間で対称的に位置される。背面板30はマイクロ波アンテナ20が両方向よりも単一の放射方向32でのみ放射するように接地面として機能する。方向32と反対に放射されるエネルギは放射方向32に背面板30により反射して戻される。
【0015】誘電体33で構成される放射板22と背面板30との間の空間は誘電体としての空気で充満されてもよい。代りに、ガス、セラミックまたはガラスのような他の誘電体はアンテナ20の放射特性を変更するために板22,30 間の空間に満たされることができる。
【0016】図1、2で示されるアンテナ20の形態では放射板22と背面板30は円形の平面図(図1)と空洞の長方形断面図(図2)とを有する統合した外部導体36を形成するため側面板34により接続される。従って線形導体28は誘電体内の外部導体の内部内の中心の内部導体を形成する。スロット24,26 のないこの構造は同軸導体と機能で匹敵するストリップ路線導体として観察される。」(段落【00012】-【0016】)

ロ.「【0019】この構造の適切なスロット長と傾斜角度を決定するためにスロットの1つ(スロット24で示されている)は目標とするマイクロ波放射の波長の(空気誘電体に対する)半分より僅かに長く最初に形成され、他方のスロット(スロット26として示されている)は目標のマイクロ波放射の半分の波長より僅かに短く製造される。・・・ (以下、略) 」(段落【0019】)

ハ.「【0023】本発明はSバンド(周波数がほぼ7GHz)用の単一アンテナ20とKバンド(周波数20GHz)アンテナ用の2×2アンテナアレイとして設けられている。SバンドアンテナではL1は2.54cmである。L2は1.3 cmで、Tは15°である。Kバンドアンテナアレイを形成する各アンテナではL1は約0.7 cm、L2は約0.33cm、Tは15°である。
【0024】本発明の方法で達成された結果の例として、図5は6.9 GHz近くの周波数範囲で動作するSバンドの単一素子アンテナ用の偏波パタ-ンである。偏波パタ-ンは通常適切でありほぼ完全な円偏波を示す。類似の結果が約21.8GHzで動作するKバンドのアンテナアレイで達成された。」(段落【0023】-【0024】)

上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
・「交差スロットマイクロ波アンテナ」は「スロットアンテナ」の一種であり、
・「放射板22と背面板30は円形の平面図(図1)と空洞の長方形断面図(図2)とを有する統合した外部導体36を形成するため側面板34により接続される。」(上記摘記事項イ、段落0016)のであり、「空洞」とは「キャビティ(cavity)」であるから、「外部導体36」は「内部にキャビティを有する導電構造体」と言うことができ、
・「アンテナは2つの交差するスロット24,26 が設けられている放射板22を含む。スロット24,26 は互いに90°に方向づけられており、それぞれL1、L2の異なった長さである。(同様に、2つのスロット24,26 は“交差スロット”として特徴づけられる)。」(上記摘記事項イ、段落0012)の記載によれば、交差スロットが放射板22に形成されており、また、上記したように放射板22をその構造の一部として備えた「外部導体36」は「内部にキャビティを有する導電構造体」であるから、「導電構造体内に交差するように形成されたスロット26およびスロット24」が記載されていると言うことができ、
・「スロットの1つ(スロット24で示されている)は目標とするマイクロ波放射の波長の(空気誘電体に対する)半分より僅かに長く最初に形成され、他方のスロット(スロット26として示されている)は目標のマイクロ波放射の半分の波長より僅かに短く製造される。」(上記摘記事項ロ、段落【0019】)の記載において、「目標のマイクロ波放射」の共振周波数は当然「アンテナの共振周波数」と言うべきものである。また、スロットアンテナのスロット長が共振波長の1/2であることは技術常識であり、波長と周波数とは逆数関係にあるから、「スロット26」が「目標のマイクロ波放射の半分の波長より僅かに短」いとは「スロット26がアンテナの共振周波数より上の共振周波数を有する」ことを意味し、「スロット24」が「目標とするマイクロ波放射の波長の(空気誘電体に対する)半分より僅かに長」いとは「スロット24がアンテナの共振周波数より下の共振周波数を有する」ことを意味していることは自明であり、
・「線形導体28」は「放射板にマイクロ波励起を生成するため放射板と共同して動作」(上記摘記事項イ、段落0013)するのであるから、該「線形導体28」はアンテナにマイクロ波信号を給電する部材であって、受信時には放射板のスロットからのマイクロ波に結合されるものであると認められる。また、「本発明はSバンド(周波数がほぼ7GHz)用の単一アンテナ20」(上記摘記事項ハ、段落0023)の記載によれば引用例のアンテナはSバンド用であり、Sバンドの信号とは無線周波数信号ということができる。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。
「共振周波数を有する交差スロットアンテナであって、
(a)内部にキャビティを有する導電構造体と、
(b)前記導電構造体内に交差するように形成されたスロット26およびスロット24であって、前記スロット26がアンテナの共振周波数より上の共振周波数を有するように、また、前記スロット24がアンテナの共振周波数より下の共振周波数を有するように、前記スロットの長さが異なるスロットと、
(c)前記スロットからの無線周波数信号に結合されるように構成された線形導体28と、
を備えるアンテナ。」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比すると、補正後の発明の「第1のスロット」、「第2のスロット」はそれぞれ引用発明の「スロット26」、「スロット24」に相当し、補正後の発明の「一方のスロット」は引用発明の「スロット26」に相当する。また、補正後の発明の「共通給電点」と引用発明の「線形導体28」とはともに「スロットからの無線周波数信号に結合されるように構成された給電部材」である点で共通している。
したがって、両者は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「共振周波数を有する交差スロットアンテナであって、
(a)内部にキャビティを有する導電構造体と、
(b)前記導電構造体内に交差するように形成された第1および第2のスロットであって、前記一方のスロットがアンテナの共振周波数より上の共振周波数を有するように、また、前記第2のスロットがアンテナの共振周波数より下の共振周波数を有するように、前記スロットの長さが異なるスロットと、
(c)スロットからの無線周波数信号に結合されるように構成された給電部材と、
を備えるアンテナ。」

(相違点)
「給電部材」に関し、補正後の発明は「導電構造体に結合され」、「単一の共通給電点」を構成するものであるのに対し、引用発明ではそのような構成をとるものではない点

そこで、上記相違点について検討する。
交差スロットが設けられた導電面の一点に同軸線の中心導体を接続して該交差スロットの各スロットに共通に給電するように構成された交差スロットアンテナの給電部材は、ともに本件の国際出願に対して作成された国際調査報告に引用された文献である、米国特許第4371877号明細書(特に、FIG.3,FIG.13)、CHEN WEN-SHYANG他,“Compact circularly-polarised circular microstrip antenna with cross-slot and peripheral cuts”,ELECTRONICS LETTERS,IEE STEVENAGE,GB,vol.34,no.11(特に、Fig.1)、請求人により平成17年8月18日付け上申書において提示された台湾特許公告第395564号公報(特に、第一図)等にも記載されているように周知の給電部材に過ぎず、引用発明の線形導体28からなる給電部材に代えて上記周知の給電部材を用いることに格別の困難性は認められない。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成19年11月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用例の記載および周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例の記載および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-10 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2010-01-04 
出願番号 特願2002-581632(P2002-581632)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
P 1 8・ 575- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 圭一郎西脇 博志  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 小宮 慎司
新川 圭二
発明の名称 乗物用通信のための扁平スロットアンテナと、その作製および設計の方法  
代理人 石川 泰男  

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