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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1217028
審判番号 不服2007-31146  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-19 
確定日 2010-05-19 
事件の表示 特願2001-357367「CDRを移植されたIII型抗CEAヒト化マウスモノクローナル抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 6日出願公開、特開2002-218990〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年9月28日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年10月5日 米国)とする特願平8-512588号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成13年11月22日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成21年11月16日付手続補正書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「親マウスクラスIII抗CEAモノクローナル抗体の軽鎖の可変領域及び重鎖の可変領域と、ヒト抗体の軽鎖定常領域及び重鎖定常領域とを含んでなるキメラモノクローナル抗体又はそのFab’又はF(ab)2断片であって、該キメラ抗体は該親マウスクラスIII抗CEAモノクローナル抗体の特異性を保持するものの、ヒト患者において該親マウスクラスIII抗CEAモノクローナル抗体よりも免疫原性が小さく、該キメラモノクローナル抗体は配列番号4の軽鎖可変領域と配列番号2の重鎖可変領域を含んでなることを特徴とするキメラモノクローナル抗体又はその断片。」(以下、「本願発明」という。)
2.引用例
これに対して、当審で引用文献1として引用された本願優先日前の1990年に頒布された刊行物であるCancer Research(1990)Vol.50,No.3 SUPPL.,p.828s-834s(以下、「引用例1」という。)は、著者の1人が本願の発明者の1人である「異なるヒト結腸直腸ガン抗原に対するマウスモノクローナル抗体による、ヌードマウスでの腫瘍ターゲティングの比較」という表題の学術文献であって、
(i)「5つのヒト結腸直腸ガンに対する放射ヨウ素標識されたマウスモノクローナル抗体(MAbs)の腫瘍ターゲティングについて、GW-39ヒト結腸腫瘍の異種移植片を有するヌードマウスで研究した。全てのMAbsはIgG1イソタイプである。そのうち2つ(NP-4とMN-14)のMAbsは、クラスIIICEAに特異的なエピトープに対する抗体であるが、それらの親和性は10倍異なる。」(第828頁左欄第1行?第6行)、
(ii)「NP-4は、CEA特異的であると思われているクラスIIIタイプのエピトープに結合する。NP-4タイプの抗体は、抗CEAMAbsとして最も望ましい特徴を有する可能性があるというコンセプトにより、抗CEAMAbsの第2世代がImmunomedics,Incによって開発された。これらMAbsの1つ、MN-14(IMMU-14)は、NP-4と同じエピトープを認識するが、MN-14は、NP-4よりCEAに対して10倍高い親和性を有する。」(第828頁右欄下から第1行?第829頁左欄第7行)、と記載され、第829頁「材料と方法」の項には、MN-14のハイブリドーマ細胞系はImmunomedics,Inc.(Newark,NJ)で開発された(第829頁左欄第28行?第29行)ものであることが記載されている。
また、同じく当審で引用文献2、3として引用された本願優先日前の1990年6月14日、1993年5月13日に頒布された刊行物である特開平2-154696号公報、特表平5-502587号公報(以下、それぞれ「引用例2」、「引用例3」という。)には、
(iii)「マウス由来の可変領域およびヒトの定常部領域から成り、ヒトのガン胎児抗原(CEA)を認識するキメラモノクローナル抗体、並びにその誘導体。」(引用例2の請求項1)、
(iv)「1.人化抗体分子(HAM)において、癌胎児性抗原に対して特異性を有し、可変ドメインの相補性決定領域(CDR)の少なくとも一つはマウスモノクローナル抗体A5B7(A5B7MAb)に由来し、HAMの残りの免疫グロブリン部分はヒト免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を有する人化抗体。
2.キメラ人化抗体である「請求項1」記載のHAM。」(引用例3の請求項1及び2)、と記載され、そして、引用例2にはキメラ抗体を発現するハイブリドーマ細胞系CEA4-8-13を製造したこと(第35頁右下欄下から第5行?下から第3行)が、引用例3にはキメラA5B7という抗CEAキメラ抗体を製造し、抗CEA活性を競合RIAにより評価したこと(第9頁表2)が、それぞれ記載されている。
3.対比・判断
(1)本願発明について
本願明細書の段落【0097】、【0106】にはそれぞれ、「VHのDNA配列から翻訳されたマウスMN14重鎖可変領域のアミノ酸配列を図1に示す(配列番号1及び配列番号2)。」、「マウスMN14κ軽鎖可変領域のDNA及びアミノ酸配列が図2に示されている(配列番号3及び配列番号4)。」と記載され、本願発明の「配列番号2の重鎖可変領域」、「配列番号4の軽鎖可変領域」とは、マウスモノクローナル抗体MN14の重鎖可変領域、軽鎖可変領域である。そして、マウスモノクローナル抗体MN14について本願明細書の段落【0029】には、「マウス抗CEAのIgG1モノクローナル抗体MN14、及びその生成は、以前に説明されている。Hansen et al., Cancer, 71:3478 (1993)、Primus et al.,米国特許第4,818,709号を参照。MN14はクラスIII、抗CEAモノクローナル抗体の基準の全てを満たし、EIAで胎便と非反応性であり、かつ通常の組織とは反応しない。」と記載されており、従来技術として記載されたHansen et al., Cancer, 71:3478 (1993)の記載を参照(特に第3479頁Materials and Methods の中の MN Monoclonal Antibodiesの項)すると、マウスMN14とは、Immunomedics,Incによって開発された、第2世代の抗CEAMAbsであり、クラスIII抗CEAマウスモノクローナル抗体である。
そうすると、本願発明のマウスMN14と引用例1記載事項(ii)に記載のMN-14は、Immunomedics,Incにより開発されYRMN14と名付けられ、かつ、第2世代のクラスIII、抗CEAマウスモノクローナル抗体であるという点で一致するので、両者は同一のマウスモノクローナル抗体であると認められる。

(2)MN-14の入手可能性について
そこで、引用例1に記載のMN-14の入手可能性について検討すると、学術文献において学術的公表がなされた場合には、そこに記載された一般に入手困難な材料については、例えば追試のためなどに必要な場合においては、他者の求めに応じて提供されるのが慣習であり、しかも、引用例1のCancer Researchは、その投稿規定中に「Availability of Materials. It is understood that by publishing any work in Cancer Research the authors agree available to other academic researchers any of the cells,clones of cells,DNA,antibody,or other material research reported and not available from commercial suppliers.」(http://cancerres.aacrjournals.org/misc/ifora.shtml)(材料の利用可能 Cancer Researchでのいかなる研究の公表により、著者は、他の学究研究者に対して、商業的供給者から利用可能でない、いかなる細胞、細胞のクローン、DNA、抗体或いは他の報告された研究材料を、利用可能とすることに合意すると理解されている。)と記載されており、Cancer Researchで公表がなされた時には記載された抗体等の一般には入手困難な材料であって追試のために必要なものについては、他者の求めに応じて提供されることを前提として、投稿がなされているものと認められる。そうであれば、引用例1の著者の一部は、本願出願人であるイムノメディクス,インコーポレイテッド(以下、「イムノメディクス社」という。)に所属しているから、記載されたMN-14やそのハイブリドーマ細胞系については他者の求めがあれば提供され得るものと、一般的には理解される。
これに対して審判請求人は、平成21年11月16日付けで提出した意見書に、本願発明者の1人で、上記引用例1の著者の1人でもあるHans J.HANSEN博士の宣誓書を添付して、「出願人は、Cancer Reserch社の投稿規定のためにMN-14が公衆に入手可能であるとの主張を認めることはできない。
Cancer Reserch社の投稿規定にもかかわらず、イムノメディクス法人は、下記のCancer Reserch社の投稿者ガイドラインにしたがって、何人に対しても、そのいかなる独占的抗体も、決して提供したことはない。
独占的抗体を、物質譲渡合意に署名する意思のある研究者のみに提供することは、イムノメディクス法人の確立された方針であり、当該合意では、提供された物質には、イムノメディクス社の所有権が残存し、提供された物質によってなされた全ての発明は、イムノメディクス社の所有物であり、研究者は、提供された物質及び情報を公衆のいかなる成員と共有する意思はなく、提供された物質を物質譲渡合意において明示された限定された非営利研究目的にのみ使用することができる。
イムノメディクス社は、未だ非公開のCDR配列を同定する目的のためか又はそのCDR配列を含むキメラもしくはヒト化抗体を構築する目的のために、公衆のいかなる成員に対してもいかなる独占的抗体を提供することに合意したことはなく、そして合意するつもりもない。上記の目的のために公衆のいかなる成員に対してもイムノメディクス社の抗体を提供する可能性は全くない。
本願の優先日に至るまでそしてその時点において、さらに現在に至るまで、当業者は、MN-14 CDR配列を含むキメラか又はヒト化抗体を調製する目的のためにイムノメディクス社からMN-14抗体又はハイブリドーマを入手することはできなかった。
Cancer Reserch社の投稿規定に適合しなくても、Cancer Reserch社によって課せられる罰則はない。したがって、投稿規定の遵守は、投稿者の自由意思にゆだねられており、投稿者の義務ではない。
Cancer Reserch社の投稿規定の存在のみによって、イムノメディクス社が実際に公衆にハイブリドーマ又は抗体を提供することに合意した事実、又は実際に公衆の任意の成員にハイブリドーマ又は抗体を提供したことの証拠にはならない。
イムノメディクス社が、本願の優先日前に、公衆のいかなる成員に対してもMN-14ハイブリドーマを提供していなかったことの証拠として、本発明の発明者の一人である、ハンセン博士の宣誓書及びその抄訳をここに添付する。」と主張している。
上記添付されたHans J.HANSEN博士の宣誓書には、「MN-14はイムノメディクス社により所有し所持されている専売の細胞系であった。従って、MN-14をコードするDNAは、上記出願の優先日前に公衆に利用可能ではなかった。」とあるが、「専売の細胞系」の意味が漠然としており、この宣誓書によっても、Cancer Researchの上記投稿規定が存在するにもかかわらず、引用例1に記載された材料については、他者が求めても提供しないこととする特段の事情については説明されていないので、かかる主張のみでは、MN-14の入手可能性を否定することはできない。
そして、Cancer Researchの投稿規定が上記のようなものである以上、特段の事情がない限り、投稿者は、それに従って行動することが期待されるのであるから、請求人の主張は信義則に反し許されない。
さらに、入手可能性とは、引用例1に記載されたMN-14抗体が実際に他者に提供されていたという事実が必要なものではなく、その可能性があれば十分であると解されるものであるから、引用例1にはマウスモノクローナル抗体MN-14及びそのハイブリドーマ細胞系が、当業者が入手可能なように記載されているものと認められる。
なお、Cancer Researchだけでなく、上記(1)で述べたように、本願明細書の段落【0029】に記載の従来技術であるHansen et al., Cancer, 71:3478 (1993)にもMN-14が記載されており、別の学術文献にも記載されていることから、さらにその入手可能性は高いものといえる。

(3)対比
そこで、本願発明と引用例1に記載された事項を比較すると、両者は、クラスIII抗CEAマウスモノクローナル抗体であって、配列番号4の軽鎖可変領域と配列番号2の重鎖可変領域を含んでなる抗体に関連するものである点で一致するが、前者は、ヒト抗体の軽鎖定常領域及び重鎖定常領域とを含んでなるキメラモノクローナル抗体であって、親マウスクラスIII抗CEAモノクローナル抗体の特異性を保持するものの、ヒト患者において該親マウスクラスIII抗CEAモノクローナル抗体よりも免疫原性が小さいものであるのに対して、後者には、キメラ抗体を作製することは記載されていない点で相違する。
(4)当審の判断
本願優先日当時、抗体医薬、診断剤として用いられる可能性のある抗CEAマウスモノクローナル抗体を、ヒトへの投与時の免疫原性を減少させるためにキメラ抗体とすることは、上記引用例2、3にも記載のように既に周知の手段であり、引用例1に記載のクラスIII抗CEAマウスモノクローナル抗体をキメラ抗体として、親マウモノクローナル抗体の特異性を保持するものの、ヒト患者において該親マウスモノクローナル抗体よりも免疫原性が小さくすることは、上記周知手段から当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、本願発明に係るキメラ抗体において奏される効果は、引用例1の記載及び上記周知手段から予測できない程の格別なものであるとはいえず、本願発明は、引用例1の記載及び周知手段に基づき当業者であれば容易になし得たことである。
(5)小括
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は引用例1の記載及び上記周知手段に基づき当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-08 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2010-01-04 
出願番号 特願2001-357367(P2001-357367)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
上條 肇
発明の名称 CDRを移植されたIII型抗CEAヒト化マウスモノクローナル抗体  
代理人 齋藤 房幸  
代理人 津国 肇  
代理人 鈴木 音哉  

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