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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1217137
審判番号 不服2007-15898  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-07 
確定日 2010-05-20 
事件の表示 特願2001-399768号「注射器用ピストン」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月8日出願公開、特開2003-190285号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成13年12月28日の出願であって、その請求項1?4に係る発明は、平成22年1月28日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「表面がプラスチックフィルムでラミネートされたゴム製の注射器用ピストンにおいて、液接触側のピストン先端部の注射筒の内面と接触する摺動面に、幅が0.05?0.5mm、深さは0.02?0.3mm、溝間隔が該溝幅と同程度である2本以上の微細環状溝が形成されていることを特徴とするプラスチック製の注射器に用いるためのピストン。」

2.引用例の記載事項
当審において通知した拒絶の理由に引用された、実願昭63-34485号(実開平1-138455号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
a.「(1) ゴム弾性体を基材として、その薬液との接触部分及び注射器内壁との摺動部分の全面をテトラフルオロエチレン樹脂フィルム、エチレン・テトラフルオロエチル樹脂フィルム又は超高分子量ポリエチレン樹脂フィルムにてラミネートされた滑栓に於て、前記注射器内壁との摺動部分に環状突起を4個以上、ピッチ2mm以下で有してなる注射器の滑栓。
(2) ラミネートされた樹脂フィルムの厚みが0.010mm?0.2mmである実用新案登録請求の範囲第1項記載の注射器の滑栓。
(3) 注射器内壁との摺動部分長さlが6?15mmである実用新案登録請求の範囲第1項記載の注射器の滑栓。」(実用新案登録請求の範囲)
b.「〔産業上の利用分野〕
本考案は薬液を人体又は動物に投与する際に用いられる注射器の滑栓に関するものである。
〔従来の技術〕
注射器の一般的な構成は第4図に示すように、外筒45、滑栓41、滑栓ロッド(プランジャーロッド)46からなっており、外筒45はガラス又は熱可塑性プラスチックで、また滑栓41はガラス,ゴム又は熱可塑性エラストマー等の弾性体で形成されている。ガラス外筒とガラス滑栓の組合せは近年殆んど使用されておらず、ガラス外筒と弾性体滑栓の組合せは薬液容器兼用の注射器に使用され、プラスチック外筒と弾性体滑栓の組合せは1回使用限定(使い捨て)のディスポーザブル注射器に使用されるのが普通である。第3図は従来の弾性体滑栓31の断面を示すもので、注射筒内壁との摺動部分はその両端に環状突起44a,44bを有し、この部分が内壁と接触する部分となる。」(1ページ20行?2ページ18行)
c.「実施例
環状突起の数を4?8個,ピッチ(x)を2mm又は1.5mm、摺動部長さ(l)を6?14mmの範囲内で変化させた形状で、ラミネート層をTFE,ETFE,PEのいずれかとした本考案の滑栓を作製した(表の実施例1?9)。」(8ページ2行?7行)
d.「〔考案の効果〕
以上説明のように、本考案の滑栓は、ゴム弾性体表面に耐薬品性に優れた樹脂フィルムを積層してあり、4個以上という多数の環状突起を設けてシール部を実質的に増加されたことで、シール性が非常に向上している」(11ページ12行?17行)

これらの記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「表面が樹脂フィルムでラミネートされたゴムで形成された注射器の滑栓において、注射筒内壁と接触する摺動部分に、ピッチ2mm以下の4個以上の環状突起が形成されているプラスチック製の注射器の滑栓。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「樹脂フィルム」は、文言の意味、機能又は構成等からみて本願発明の「プラスチックフィルム」に相当し、以下同様に、「ゴムで形成された」は「ゴム製の」に、「注射器の滑栓」は「注射器用ピストン」及び「注射器に用いるためのピストン」に、「注射筒内壁」は「注射筒の内面」に、それぞれ相当する。
引用発明の「注射筒内壁と接触する摺動部分」は、引用例1の第1図及び第2図からみて、薬液と接触する側の滑栓先端部の注射筒内壁と接触する摺動部分を含んでいるから、本願発明の「液接触側のピストン先端部の注射筒の内面と接触する摺動面」に相当する。
環状突起が4個以上形成されると、環状突起の間には、2本以上の環状溝が形成されているから、引用発明の「ピッチ2mm以下の4個以上の環状突起が形成されている」と、本願発明の「幅が0.05?0.5mm、深さは0.02?0.3mm、溝間隔が該溝幅と同程度である2本以上の微細環状溝が形成されている」とは、どちらも「2本以上の環状溝が形成されている」点で共通する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「表面がプラスチックフィルムでラミネートされたゴム製の注射器用ピストンにおいて、液接触側のピストン先端部の注射筒の内面と接触する摺動面に、2本以上の環状溝が形成されているプラスチック製の注射器に用いるためのピストン。」
そして、両者は次の点で相違する。
(相違点)
相違点:本願発明では、環状溝が、幅が0.05?0.5mm、深さは0.02?0.3mm、溝間隔が溝幅と同程度である微細環状溝であるのに対し、引用発明では、環状溝の幅及び深さがどの程度か明らかでなく、溝間隔が溝幅と同程度であるかどうか明らかでなく、微細環状溝であるかどうか明らかでない点。

上記相違点について検討する。
環状溝の幅及び深さについて、ピストンの大きさなども考慮して数値範囲の最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮である。
そしてまた、本願発明では、環状溝の溝幅が0.05?0.5mm、溝間隔が溝幅と同程度である0.05?0.5mm程度であるから、環状溝のピッチは0.10?1.0mm程度であるのに対して、引用発明の環状突起のピッチは2mm以下であり、引用例1には、環状突起のピッチが1.5mmである実施例が記載されている。そして、引用例1において、環状突起のピッチが1.5mmであるとき、環状突起の間に形成される環状溝のピッチも1.5mmである。
そうすると、引用発明の環状溝のピッチは1.5mmであるのに対して、本願発明の環状溝のピッチは0.10?1.0mm程度であることから、両者に大きな差はない。
しかも、本願発明において、環状溝が、幅が0.05?0.5mm、深さは0.02?0.3mm、溝間隔が溝幅と同程度であるとしている数値限定に臨界的意義があるとも認められない。
さらに、溝間隔と溝幅について、引用例1の第1図には溝間隔が溝幅と同程度であることが図示されている。
以上の点から、引用発明において、環状溝の幅を0.05?0.5mm、深さを0.02?0.3mm、溝間隔を溝幅と同程度として、環状溝を微細環状溝とし、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-19 
結審通知日 2010-03-23 
審決日 2010-04-06 
出願番号 特願2001-399768(P2001-399768)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 吉澤 秀明
増沢 誠一
発明の名称 注射器用ピストン  
代理人 吉田 勝広  
代理人 近藤 利英子  

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