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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1217168
審判番号 不服2008-13233  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-23 
確定日 2010-05-20 
事件の表示 特願2004- 97743「微生物を検出するためのアッセイ系、キットおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月30日出願公開、特開2005-172789〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年3月30日(パリ条約による優先権主張2003年12月9日,米国)の出願であって,平成20年2月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年5月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は,平成19年9月3日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであると認められ,その請求項1に係る発明は次のとおりである。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
微生物DNAを検出するための方法であって,
(a)生物活性プライマーを用いて微生物cDNAを増幅すること;
(b)ハイブリダイゼーションチューブの中で微生物cDNAを微生物特異的プローブとハイブリダイズさせること,かつ当該プローブは,磁気ビーズに連結していること;
(c)ハイブリダイゼーションチューブを洗浄のために磁気ウェルに移動すること;
(d)チューブにブロッキング溶液を加えること;
(e)チューブにアビジン酵素複合体またはストレプトアビジン酵素複合体を加えること;
(f)洗浄反応を行い,磁場を用いて妨害物質を除去すること;
(g)磁気ビーズを懸濁すること;および
(h)酵素の基質を加えた後に発光または色の変化を検出することを含むこと;および(i)ステップ(h)の色の変化を対照例の色の変化と比較すること;
を特徴とする方法。」

第3 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願の優先権主張の日前に頒布された特開2003-93039号公報(以下「刊行物1」という。)及び国際公開第00/31295号(以下「刊行物2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

<刊行物1>
(1-ア)
「特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも(A)反応容器保持具,加温・冷却装置及び磁力制御装置を備えてなる反応部,(B)チップラック及び廃液収容容器を備えてなるチップラック・廃液部,(C)洗浄液収容容器及び加温・冷却装置を備えてなる洗浄液部,及び(D)複数本のチップノズルを装備し,該チップノズルにチップを装着・脱着させる機構と,装着されたチップが処理液を吸引・注入する機構とを有し,X-Z軸方向へ自在に移動可能なアームユニットを備えてなるヘッド部,より構成される自動核酸ハイブリダイゼーション装置。
【請求項2】 更に,(E)試薬収容容器を備えてなる試薬部をもつ請求項1記載の自動核酸ハイブリダイゼーション装置。
【請求項3】 請求項1又は2記載のハイブリダイゼーション装置を用いて,下記工程(1)?(8)を自動で行い,次いで反応容器中の標識核酸量を測定することを特徴とするサンプル中の核酸検出方法。
(1)核酸プローブ固定化磁性粒子と標識されたサンプル核酸が注入・混合された反応容器を反応部に設置し,加温・冷却装置により反応容器中の温度を核酸のディネーチャー温度に設定し,当該温度を所定時間保持してサンプル核酸を一本鎖化する。
(2)反応容器中の温度を核酸のアニーリング温度に変更し,当該温度を所定時間保持してアニーリングを行なう。
(3)磁力制御装置を稼働して磁性粒子に結合したサンプル核酸を容器中に偏在させる。
(4)アームユニットを稼働してチップラック・廃液部に移動し,チップノズルにチップを装着する。
(5)アームユニットを反応部に移動し,反応容器中の上清をチップノズルにて吸引する。
(6)アームユニットをチップラック・廃液部に移動し,チップノズル内の吸引上清を廃棄収容容器に注入する。
(7)アームユニットを洗浄液部に移動し,洗浄液収容容器から予め加温・冷却装置によりアニーリング温度に温度調節された洗浄液を吸引し,所定時間浸漬した後,反応部の反応容器中に洗浄液を注入する。
(8)(5)?(7)の洗浄動作を所定回数繰り返す。」

(1-イ)
「【0013】
尚,本発明装置を用いた核酸ハイブリダイゼーションにおいて使用される磁性粒子としては,水溶液中で不溶性であり且つ磁性を示すものであるならば特に限定されるものではない。例えば,Fe O ,γ-Fe O ,Co-γ-Fe O ,(NiCuZn)O・Fe O ,(CuZn)O・Fe O ,(MnZn)O・Fe O ,(NiZn)O・Fe O,SrO・6Fe O ,BaO・6Fe O ,SiO2で被覆したFe O(粒径約200 A)〔Enzyme Microb.Tecnol.,vol2,p.2-10(1980) 参照〕,各種の高分子材料(ナイロン,ポリアクリルアミド,ポリスチレン等)とフェライトとの複合微粒子及び磁性細菌が菌体内に合成する磁性細菌粒子等が挙げられる。」

(1-ウ)
「【0019】
本発明のハイブリダーゼーション装置には,必要に応じて更に試薬収容容器を備えてなる試薬部(E)を設けることができる。例えば,ハイブリダイズされた核酸を検出するための標識が必要な場合は,当該標識試薬(例えばアルカリフォスファターゼ標識アンチ-DIG Fab'フラグメント(anti-DIG-AP)等)や酵素発色基質(例えば,アルカリフォスファターゼ発光基質等)を収納するための試薬部を設ける必要がある。
一方,予めサンプル核酸を標識したものを用いた場合には,本試薬部を設ける必要はない。
【0020】
本発明装置において用いられる核酸ハイブリダイゼーション法は,サンプル中の核酸と核酸プローブ固定化磁性粒子のハイブリダイゼーションを利用するものであれば,ハイブリダイゼーション法が1ステップ法であっても2ステップ法(サンドイッチ法)であってもよい。また,用いる核酸プローブも一本鎖DNA,RNA又はPNAのいずれであってもよい。」

(1-エ)
「【0023】
(3)DNA固定化磁性細菌粒子の作製
磁性細菌粒子への修飾は,磁性細菌膜上に存在すると考えられるアミノ基を利用した。まず,磁性細菌AMB-1株より抽出・精製された磁性細菌粒子(BMPs)1mgを2.5%グルタルアルデヒドを含むPBS1mL中に懸濁し,室温で30分間反応させることにより,磁性細菌粒子膜上のアミノ基に対してアルデヒド基の導入を行った。反応後,磁気回収し,PBSで3回洗浄した。
洗浄後,修飾BMPs 1mgに対して,ストレプトアビジン(New England Bio Labs.)100μgをPBS 1mL中に懸濁し,室温で2時間反応させることによりBMPsとストレプトアビジンを架橋した。架橋後,PBSで3回磁気回収,及び洗浄を行った後,DNAの非特異吸着を押さえるためにNaBH4で未反応のアルデヒド基を還元し,ストレプトアビジン固定化BMPs(SA-BMPs)とした。作製したSA-BMPs 300μgに対して5′末端にビオチン標識したオリゴDNA 300pmolをPBS 300μl中でアビジン・ビオチン反応を行わせ,オリゴDNA固定化磁性細菌粒子(DNA-BMPs)を作製した。」

(1-オ)
「【0024】
(4)サンプルDNAの調製
シアノバクテリアからのゲノムDNAの抽出は,MagExtractor-genome-の抽出法を改良した方法により抽出を行った。抽出された全ゲノムDNAに対して,原核微生物を16SrDNA増幅用プライマーRSF-1,RSR-2(E.coli 1523-1542ntのアンチセンス)(Kawaguchi et al.1992)を用い,PCRによって遺伝子増幅を行った。
尚,遺伝子増幅の際に,蛍光,発光若しくは電気化学的シグナルによって検出可能な蛍光色素,アルカリフォスファターゼ,フェロセン等のマーカーで標識したdUTPを用いてPCRを行うことで標識されたサンプル核酸を調製することができる。例えば,FITC標識された16SrDNAを合成する場合には,蛍光物質であるFITC標識されたdUTPを用いてPCRを行えばよい。」

(1-カ)
「【0029】
5.洗浄工程
チップラック・廃液部上に移動させたアームユニットを下方へ移動させ,チップノズルとディスポチップを勘合させることで,チップラック・廃液部に保持されたチップノズルを装着する。アームユニットを反応部へ移動させ,そのまま降下させて,適当な位置で停止後,チップノズルにて反応容器中の上清を吸引し,廃液部に移動して排出させる。
その後,アームユニットを洗浄液部へ移動させ,洗浄液収容容器より60℃に維持された洗浄液を吸引し,洗浄液内に浸漬させたまま所定時間保持した後,再びアームユニットを反応部へ移動させ,反応容器中にこれを注入する。約3分間の待機後,再びチップノズルで反応容器中の上清を吸引し,チップラック・廃液部に排出する。この洗浄動作を3回繰り返し,最後に洗浄液を注入し動作を終了する。
【0030】
動作終了後も反応部の磁気吸引力は維持させ,温度は0?15℃,好ましくは4℃で維持するように制御する。これにより,反応溶液中の磁性体が容器底部に凝集した状態を保ち,溶液の性質が変質することを防ぐことができる。尚,洗浄液部の温度制御は切断する。また,反応容器には,装置外からの光を遮断するためのカバーを装着することにより,核酸中に取り込んだ蛍光物質の劣化を防ぐことができる。
【0031】
6.検出
反応容器を装置から取出し,蛍光プレートリーダ(FLUOstarTM)によって反応容器内に生じる光の変化を測定する。
この結果,Microcystis aeruginosa NIES-98のPCR産物試料から最も強い発光が観察された。」

これらの記載事項と図面を総合すると,刊行物1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「ハイブリダイゼーション装置を用いて,下記工程(1)?(8)を自動で行い,次いで反応容器中の標識核酸量を測定するサンプル中の核酸検出方法。
(1)核酸プローブ固定化磁性粒子と標識されたサンプル核酸が注入・混合された反応容器を反応部に設置し,加温・冷却装置により反応容器中の温度を核酸のディネーチャー温度に設定し,当該温度を所定時間保持してサンプル核酸を一本鎖化する。
(2)反応容器中の温度を核酸のアニーリング温度に変更し,当該温度を所定時間保持してアニーリングを行なう。
(3)磁力制御装置を稼働して磁性粒子に結合したサンプル核酸を容器中に偏在させる。
(4)アームユニットを稼働してチップラック・廃液部に移動し,チップノズルにチップを装着する。
(5)アームユニットを反応部に移動し,反応容器中の上清をチップノズルにて吸引する。
(6)アームユニットをチップラック・廃液部に移動し,チップノズル内の吸引上清を廃棄収容容器に注入する。
(7)アームユニットを洗浄液部に移動し,洗浄液収容容器から予め加温・冷却装置によりアニーリング温度に温度調節された洗浄液を吸引し,所定時間浸漬した後,反応部の反応容器中に洗浄液を注入する。
(8)(5)?(7)の洗浄動作を所定回数繰り返す。」(以下「引用発明」という。)

<刊行物2>
(2-ア)
「2)目的遺伝子のPCR増幅
・・・
また本発明の目的から,実際の検査やキットでは,一方のプライマーがビオチンで標識されたプライマー対が用いられる。
例えばHLA-A2対立遺伝子の第2エクソン,第2イントロンおよび第3エクソンを含む領域の増幅には,A2-5Tと5’末端をビオチンで標識したA3-273Tとをプライマー対として用い,PCR法を行えばよい。またHLA-A対立遺伝子の第4エクソンを含む領域の増幅には,A4-8Cと5’末端をビオチン標識したA4-254Gとをプライマー対として用い,PCR法を行えばよい。なお前記プライマーについては本発明者ら自身の文献(Tissue Antigens 1997,前出)を参照のこと。」(13頁8?22行)

(2-イ)
「5)シグナルの検出
以下にシグナルの検出の一例を説明する。DNAプローブとハイブリダイズしたPCR増幅産物はそれ自身が含有する標識,例えばビオチンなどを利用して検出する。すなわちビオチンに対し結合性を有するストレプトアビジンコンジュゲートアルカリフォスファターゼまたはストレプトアビジンコンジュゲートペルオキシダーゼを上記マイクロタイタープレートの各ウェルに加えてシールなどにより蓋をし,適当な温度条件で放置して反応させる。そしてp-ニトロフェニルリン酸(PNPP)または3,3’,5,5’-テトラメチルベンジヂン(TMB)などの発色基質を用いて,ハイブリダイズした増幅遺伝子をシグナルとして検出する。シグナルの検出は吸光度測定などにより行う。なお前記シグナルは機械による自動検出も可能であるが,発色による場合は肉眼によって容易に検出できる。」(17頁1?11行)

第4 本願発明と引用発明との対比
1 上記(1-オ)によると,引用発明の「サンプル中の核酸」の具体例として,微生物である「シアノバクテリア」からのゲノムDNAが記載されていることから,引用発明の「サンプル中の核酸検出方法」は,微生物DNAを検出することにも使用できることは明らかである。そうすると,引用発明の「サンプル中の核酸検出方法」は,本願発明の「微生物DNAを検出するための方法であって」に相当することは明らかである。
2 本願発明の段落【0022】の「PCRは,増幅の結果を判定するために検出技法と併せて用いなければならない分子生物学のツールである。本発明では,PCR増幅にビオチン標識プライマー対を用いる。」との記載からみて,本願発明の「生物活性プライマー」は,「増幅の結果を判定するための標識が付いたプライマー」であるといえる。一方,上記(1-オ)の記載からみて,引用発明の「標識されたサンプル核酸」とは,「増幅用プライマーを用いPCRによって遺伝子増幅を行う際に,アルカリフォスファターゼ等のマーカーで標識したdUTPを用いて標識されたサンプル核酸」を含むものといえる。そうすると,引用発明の「標識されたサンプル核酸」は,本願発明の「(a)生物活性プライマーを用いて微生物cDNAを増幅すること」に相当する。
3 引用発明の「反応容器」,「アニーリング」,「核酸プローブ」,「固定化磁性粒子」が,それぞれ,本願発明の「ハイブリダイゼーションチューブ」,「ハイブリダイズ」,「微生物特異的プローブ」,「磁気ビーズ」に相当することは明らかである。そうすると,引用発明の「(2)核酸プローブ固定化磁性粒子と標識されたサンプル核酸が注入・混合された反応容器を反応部に設置し,加温・冷却装置により反応容器中の温度を核酸のディネーチャー温度に設定し,当該温度を所定時間保持してサンプル核酸を一本鎖化する。(3)反応容器中の温度を核酸のアニーリング温度に変更し,当該温度を所定時間保持してアニーリングを行なう。」が,本願発明の「(b)ハイブリダイゼーションチューブの中で微生物cDNAを微生物特異的プローブとハイブリダイズさせること,かつ当該プローブは,磁気ビーズに連結していること」に相当する。
4 引用発明の「(4)磁力制御装置を稼働して磁性粒子に結合したサンプル核酸を容器中に偏在させる。(5)アームユニットを稼働してチップラック・廃液部に移動し,チップノズルにチップを装着する。(6)アームユニットを反応部に移動し,反応容器中の上清をチップノズルにて吸引する。(7)アームユニットをチップラック・廃液部に移動し,チップノズル内の吸引上清を廃棄収容容器に注入する。(8)アームユニットを洗浄液部に移動し,洗浄液収容容器から予め加温・冷却装置によりアニーリング温度に温度調節された洗浄液を吸引し,所定時間浸漬した後,反応部の反応容器中に洗浄液を注入する。(9)(5)?(7)の洗浄動作を所定回数繰り返す。」が,本願発明の「(f)洗浄反応を行い,磁場を用いて妨害物質を除去すること」に相当することは明らかである。
5 上記(1-カ)の記載からみて,引用発明の「標識核酸量を測定する」とは「反応容器内に生じる光の変化を測定する」ことを含むといえる。そうすると,引用発明の「下記工程(1)?(8)を自動で行い,次いで反応容器中の標識核酸量を測定する」と本願発明の「(g)磁気ビーズを懸濁すること;および(h)酵素の基質を加えた後に発光または色の変化を検出することを含むこと;および(i)ステップ(h)の色の変化を対照例の色の変化と比較すること」は,「発光の変化を検出することを含む」点で共通する。

そうすると,両者は,
(一致点)
「微生物DNAを検出するための方法であって,
(a)生物活性プライマーを用いて微生物cDNAを増幅すること;
(b)ハイブリダイゼーションチューブの中で微生物cDNAを微生物特異的プローブとハイブリダイズさせること,かつ当該プローブは,磁気ビーズに連結していること;
(f)洗浄反応を行い,磁場を用いて妨害物質を除去すること;
(h)発光の変化を検出することを含むこと;を特徴とする方法。」
である点で一致し,以下の点で相違するといえる。

(相違点1)
本願発明は「(c)ハイブリダイゼーションチューブを洗浄のために磁気ウェルに移動する」のに対して,引用発明は「アームユニット」を稼働して,「反応容器」の洗浄をしている点。

(相違点2)
本願発明は「(d)チューブにブロッキング溶液を加えること」というステップを含んでいるのに対して,引用発明は「ブロッキング溶液」を加えているのか明らかではない点。

(相違点3)
本願発明は「(e)チューブにアビジン酵素複合体またはストレプトアビジン酵素複合体を加えること」というステップを含んでいるのに対して,引用発明は「アビジン酵素複合体またはストレプトアビジン酵素複合体」を加えているのか明らかではない点。

(相違点4)
発光の変化を検出する際に,本願発明は「(g)磁気ビーズを懸濁すること;」,「(h)酵素の基質を加え」,「(i)ステップ(h)の色の変化を対照例の色の変化と比較すること;」というステップを含んでいるのに対して,引用発明は「標識核酸量を測定する」との記載に留まり,詳細な手順は不明である点。

第5 相違点についての当審の判断
(相違点1)について
DNAハイブリダイゼーションにおいて,磁性粒子の入った反応容器を磁力制御装置に移動することによりB/F分離を行うことは,本願出願の優先権主張日前に周知の事項である。
例えば,特開2003-164279号公報には「【0021】このハイブリダイゼーション装置を用いれば,下記工程(1)?(10)を自動で行い,次いで反応容器中の標識核酸量を測定することにより,サンプル中の核酸が検出できる。(1)核酸プローブ固定化磁性粒子と標識されたサンプル核酸が注入・混合された反応容器をディネーチャー部5に設置し,加温・冷却装置により反応容器中の温度を核酸のディネーチャー温度に設定し,当該温度を所定時間保持してサンプル核酸を一本鎖化する。このとき,反応容器中の磁性粒子は,磁力制御により可動化されている。(2)アームユニットを稼働してディネーチャー部5の反応容器をアニーリング部6に移送する。(3)アニーリング部6の加温・冷却装置により反応容器中の温度を核酸のアニーリング温度に設定し,当該温度を所定時間保持してアニーリングを行なう。(4)アームユニットをアニーリング部6に移動し,反応容器をB/F分離部7に移送する。(5)磁力制御装置を稼働して磁性粒子に結合したサンプル核酸を反応容器底部に不動化させる。以下略。」と記載されている。
また,特開平11-215978号公報には「【0040】図5に示すように,攪拌処理が終了すると容器スタンドは搬送手段により保持手段17のある図5C位置に移動される。この場所で停止し,次の処理であるB/F分離が行われる。この状態を図13に示す。保持手段を構成する永久磁石41が抽出容器底部に接触し,抽出容器内部の磁性シリカ粒子61を容器底部に保持せしめる。」と記載されている。
そうすると,反応容器を移動せずに洗浄を行なうのか,或いは,反応容器を移動して洗浄を行なうのかは単なる設計事項といえ,相違点1に係る本願発明の構成とすることに格別な困難性はない。

(相違点2)について
特異的反応を利用してDNAやたんぱく質を検出する分野において,非特異的反応を抑えるためにブロッキング溶液を加えることは本願出願の優先権主張日前に周知の事項である。
例えば,特表平8-510129号公報には「特異的結合メンバーを付着させたあと,非特異的結合を最少限に抑えるために表面を更に,血清,タンパク質,または他のブロッキング剤で処理してもよい。」(27頁8?10行)と記載されている。
また,特表平9-511910号公報には「C.固定化プライマーのハイブリダイゼーションおよび伸長の検出 各穴をHW緩衝液(3×SSC,0.1%N-ラウロイルサルコシン)で3回およびブロッキング用緩衝液(10mMのトリス-HCl(pH7.5)および800mMのNaClにおける0.5%のGENIUSブロッキング試薬,ベーリンガー・マンハイム登録商標)で1回洗浄し,次いで80μLのテトラメチルベンチジンおよび西洋ワサビペルオキシダーゼ[キケガード・アンド・ペリー・ラボラトリース]と共にインキュベートした。反応を80μLの1M O-ホスフェートにより適する時点で停止させた。それぞれ150μLを他のマイクロタイター板に移し,ODをモレキュラ・デバイシス社,メンロ・パーク,CAからのマイクロタイター解読装置により450nmにて測定した。このアッセイの結果を表1に要約する。」(63頁下から6行?64頁5行)と記載されている。
そうすると,引用発明においてもブロッキング溶液を添加することは,当業者であれば容易に想到し得るというべきである。

(相違点3)について
上記(2-ア)及び(2-イ)によると,刊行物2には,DNAをPCR増幅する際,プライマーの標識としてビオチンを用いた場合,PCR増幅産物を検出するために,ビオチンに対し結合性を有するストレプトアビジンコンジュゲートアルカリフォスファターゼまたはストレプトアビジンコンジュゲートペルオキシダーゼを反応させ,そしてp-ニトロフェニルリン酸(PNPP)または3,3’,5,5’-テトラメチルベンジヂン(TMB)などの発色基質を用いて,ハイブリダイズした増幅遺伝子をシグナルとして検出する事項が記載されている。
一方,上記(1-オ)に「遺伝子増幅の際に,蛍光,発光若しくは電気化学的シグナルによって検出可能な蛍光色素,アルカリフォスファターゼ,フェロセン等のマーカーで標識したdUTPを用いてPCRを行うことで標識されたサンプル核酸を調製することができる。」と記載されているように,引用発明の「標識されたサンプル核酸」の「標識」として,任意のマーカーが使用できることは明らかである。
そうすると,引用発明の「標識」として刊行物2に記載されているビオチンを用い,そして,ビオチンに対し結合性を有するストレプトアビジンコンジュゲートアルカリフォスファターゼまたはストレプトアビジンコンジュゲートペルオキシダーゼを反応させるステップを追加することは,当業者であれば容易に想到し得るというべきである。

なお,請求人は審判請求書において「しかしながら,平成19年9月3日付提出の意見書で述べたように,引例1はビオチンの使用について,プローブ末端への使用を示唆しています。また,引例2はビオチンの使用について,プライマー末端への使用を示唆しています。このため,上記の引例を組み合わせると,プライマーとプローブがビオチン標識され,どちらのシグナルであるか検出が難しくなってしまいます。したがって,そのような組み合わせをする動機付けもなく,当業者が試みるとは考えられません。」と主張している。
しかしながら,上記(1-イ)によると,刊行物1で用いられる磁性粒子としては,水溶液中で不溶性であり且つ磁性を示すものであるならば特に限定されるものではない。
そして,磁性粒子への核酸プローブの固定化方法として,ビオチン・ストレプトアビジンを用いない固定化方法も周知である。例えば,特開平5-281230号公報には「【0027】(実施例2)核酸プローブ結合性磁性粒子の調製磁性粒子としてディノインダストリア社(Dyno Industrier A. S.,Norway)製XP-6006を用いた。磁性粒子100 μl と実施例1で調製したTDH1プローブ 132pmolを1mMホウ酸緩衝液(pH8) 中で混合し(最終液量 200μl),37℃で4時間反応させ, 250μl のモノエタノールアミン塩酸水溶液を加え,更に30分間反応させた。反応終了後,磁石で磁性粒子を集めて反応液を除去後,1mlの水で5回洗浄した後, 789μl のHEPES緩衝液(20mM, pH7.0, 1% BSA を含む)に再懸濁し,超音波処理(20kHz, 50W, 2秒間) し,4℃で保存した。粒子に結合したプローブ数は以下の方法で測定した。以下略。」と記載されている。
そうすると,プライマーの標識としてビオチンを用いた場合,検出反応に影響を与えない方法で磁性粒子に核酸プローブを固定することは当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎないというべきである。
よって,請求人の主張は採用できない。

(相違点4)について
上記(2-イ)によると,刊行物2には,プライマーにビオチンを用いた場合,シグナルの検出にp-ニトロフェニルリン酸(PNPP)または3,3’,5,5’-テトラメチルベンジヂン(TMB)などの発色基質を用いることが記載されている。そして,酵素と発色基質の反応効率を高めるために,洗浄工程で凝集した磁気ビーズを懸濁することは技術常識である。
また,本願の発明の詳細な説明の「【0046】VI.結果の解釈 (1)≧100,000RLU:M.tbコンプレックスに陽性(2)<25,000RLU:M.tbコンプレックスに陰性(3)25,000?100,000RLU:M.tbコンプレックスに陽性と考えられる。再試験を行って結果を検証する。(4)再試験値≧25,000RLU:M.tbコンプレックスに陽性(5)再試験値<25,000RLU:M.tbコンプレックスに陰性」との記載からみて,本願発明の「(i)ステップ(h)の色の変化を対照例の色の変化と比較すること;」という事項は,検出した光の強度を閾値と比較しているといえるが,当該技術分野において,検出した光の強度を閾値と比較することにより測定結果を判断することは技術常識に過ぎない。
そうすると,引用発明に刊行物2に記載されている事項を適用し,相違点4に係る本願発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得るというべきである。

また,本願発明に係る効果も,引用発明,刊行物2に記載された事項及び周知の事項から予測し得る範囲内であり,格別顕著なものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明,刊行物2に記載された事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-17 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-05 
出願番号 特願2004-97743(P2004-97743)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白形 由美子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 後藤 時男
松本 征二
発明の名称 微生物を検出するためのアッセイ系、キットおよび方法  
代理人 高橋 剛  
代理人 高橋 雅和  

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