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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01C
管理番号 1217172
審判番号 不服2008-17636  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-10 
確定日 2010-05-20 
事件の表示 特願2007- 84197「ナビゲーション装置の経路探索方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月30日出願公開、特開2007-218924〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年5月22日に出願された特願2003-144675号の一部を平成19年3月28日に新たな特許出願としたものであって、平成20年6月4日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに平成20年8月4日付で手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は平成20年8月4日付手続補正書により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「現在地検出機能を備えたナビゲーション装置の経路探索方法であって、
前記ナビゲーション装置は、
地図上の道路を構成する各リンクのリンクデータを含む地図データと、
前記各リンクについて、過去に収集された交通情報の統計値より定まる統計データとを記憶する記憶装置を備えており、
出発地および目的地を設定する出発地・目的地設定ステップと、
前記現在地検出機能により検出された現在地の周辺地域に存在する各リンクの、現在の交通情報より定まる現況データを入手する現況データ入手ステップと、
前記現況データ入手ステップによる現在位置周辺のリンクの現況データの入手が完了しているか否かを判定し、完了していないと判定した場合は、
前記地図データと、
前記出発地および前記目的地間の経路を構成する経路構成リンク各々の通過時の日時および状況に対応する収集条件の統計データとを用いて、
前記出発地および前記目的地間の推奨経路を探索する経路探索ステップと、
前記現況データ入手ステップによる現在位置周辺のリンクの現況データの入手が完了していると判定した場合は、
前記地図データと、
前記出発地および前記目的地間の経路を構成する経路構成リンク各々の通過時の日時及び状況に対応する収集条件の統計データと、
前記現況データ入手ステップで入手した現況データとを用いて、
前記出発地および前記目的地間の推奨経路を探索する経路探索ステップとを行う、
ことを特徴とするナビゲーション装置の経路探索方法。」

なお、平成20年8月4日付の手続補正書による上記アンダーライン部分の補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「現在位置周辺のリンクの現況データの入手」が「完了していない場合」と「完了した場合」についてその判断を行う「判定」をしていることを明りょうにするものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

2.引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-280880号公報(以下「引用文献」という。)には、「経路算出方法」に関し、図面と共に次の事項が記載されている。
・「【請求項2】道路地図データが記憶された道路地図メモリと、
外部からの最新のリンクコスト情報を取得する通信手段と、
通信手段により取得される最新のリンクコスト情報、及び各リンクに対応付けられた過去の交通情報を所定の時間要素ごとに統計的に処理することにより得られた統計リンクコスト情報を記憶した交通情報メモリと、
道路地図データを構成するリンクごとに、複数の時間帯が指定された利用テーブルと、
計算開始リンクが特定されると、当該計算開始リンクについてこの利用テーブルで指定された複数の時間帯を取得し、それぞれ取得された時間帯又はそれぞれ取得された時間帯以後の時間帯に係る統計リンクコスト情報又は最新のリンクコスト情報を前記交通情報メモリの記憶内容からそれぞれ参照し、これらの統計リンクコスト情報又は最新のリンクコスト情報に基づいて当該計算開始リンクからユーザにより設定された目的地等までの複数本の経路を計算する経路計算手段と、
経路計算手段によって計算された経路のいずれか又は全てを出力する出力手段とを有することを特徴とする経路算出装置。」
・「【請求項5】外部からの最新のリンクコスト情報を取得する通信手段と、
経路計算手段によって計算された経路に沿った、統計リンクコスト情報と通信手段を通して得られた最新のリンクコスト情報とを参照して、経路旅行時間を算出する旅行時間算出手段とをさらに有し、
前記出力手段は、経路旅行時間をも出力するものであることを特徴とする請求項1記載の経路算出装置。
【請求項6】経路計算手段によって計算された経路に沿った、統計リンクコスト情報と前記最新のリンクコスト情報とを参照して、経路旅行時間を算出する旅行時間算出手段をさらに有し、
前記出力手段は、経路旅行時間をも出力するものであることを特徴とする請求項2記載の経路算出装置。」
・「【0002】
【従来の技術】従来より画面上に車両の位置方位を表示し、車両の走行の便宜を図るために開発された車載ナビゲーション装置が広く利用されている。前記車載ナビゲーション装置は、ディスプレイ、各種センサ又はGPS受信機(以下「各種センサ等」という)、道路地図メモリ、コンピュータ等を車両に搭載し、各種センサ等から入力される位置データ及び道路地図メモリに格納されている道路との関係に基づいて車両位置を検出し、この車両位置を道路地図とともにディスプレイに表示するものである。」
・「【0004】一方、出発地から目的地に至る走行経路の選択をするために、ユーザによる目的地の設定入力に応じて車両の現在地(出発地とみなす)から目的地までの経路をコンピュータにより自動的に計算する方法が提案されている(特開平5-53504 号公報参照)。この方法は計算の対象となる道路又は車線を一連のベクトルとして表し(このベクトルを「リンク」という)、出発地(目的地でもよい)に近いリンクを計算開始リンクとし、目的地(出発地でもよい)に近いリンクを計算終了リンクとし、これらの間の道路地図メモリに記憶された道路地図データを読み出して作業領域に移し、作業領域において計算開始リンクから始まるリンクのトリーを全て探索し、最短リンクコストのトリーを得、このトリーを構成する経路のリンクコストを順次つないで、計算終了リンクに到達する経路を選択する方法である。」
・「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の経路算出装置は、道路地図データが記憶された道路地図メモリと、各リンクに対応付けられた過去の交通情報を所定の時間要素ごとに統計的に処理することにより得られた統計リンクコスト情報を記憶した交通情報メモリと、道路地図データを構成するリンクごとに、複数の時間帯が指定された利用テーブルと、計算開始リンクが特定されると、当該計算開始リンクについてこの利用テーブルで指定された複数の時間帯を取得し、それぞれ取得された時間帯又はそれぞれ取得された時間帯以後の時間帯に係る統計リンクコスト情報を前記交通情報メモリの記憶内容からそれぞれ参照し、これらの統計リンクコスト情報に基づいて当該計算開始リンクからユーザにより設定された目的地等までの複数本の経路を計算する経路計算手段と、経路計算手段によって計算された経路のいずれか又は全てを出力する出力手段とを有するものである(請求項1)。」
・「【0028】前記車載地図専用ディスクDには、前記表示用道路地図データの他に、経路計算用道路地図データ、対応テーブル、利用テーブルが格納されている。経路計算用道路地図データは、道路地図(高速自動車国道,自動車専用道路,その他の国道,都道府県道,政令指定都市の市道,その他の生活道路を含む)をメッシュ状に分割し、各メッシュ単位で道路の交差点等に相当するノードと各ノードをつなぐベクトルであるリンクとの組合わせからなる相対的に細かい第2経路ネットワークを、高速道路・国道対応地図と一般道路対応地図と詳細地図との3階層に分け、かつ時間帯ごとに分けて記憶している。その記憶内容は、固定リンクコスト、時間帯ごとの統計リンクコストT_(S)(t) 、各リンクごとのリンク長、そのリンクの始点ノード及び終点ノードの座標等が対応付けられたものとなっている。
【0029】前記統計リンクコストT_(S)(t) は、予め作成されたものであって、前記路上ビーコンAを通じて過去一定期間に、当該交通情報提供エリア内で提供された時間帯ごとのリンク交通情報に基づいて、季節、月、曜日、平日/休日の別等(これらを時間要素という)のいずれか1つ又は複数の組合せごとに平均をとって記憶し、車載地図専用ディスクDに書き込んだ値である。」
・「【0037】コントローラ16は、ユーザによりリモコンキー4を介して目的地及び各種計算条件(有料道路を優先するか否か、フェリー利用を優先するか否か、又は経由地を経由するか否か、など)が入力されると、この入力された目的地データ等をSRAM162に記憶するとともに、車載地図専用ディスクDから経路計算用道路地図データを読出し、目的地及び車両位置検出部14で検出された現在地にそれぞれ近いリンク間の最短時間経路を例えばダイクストラ法又はポテンシャル法を用いて算出する。算出された最短時間経路は、ディスプレイ3に表示されている道路地図上に例えば破線で重畳表示される。
【0038】ここで、前記ポテンシャル法とは次のような方法である。すなわち、出発地(目的地でもよい)に近いリンクを計算開始リンクとし、目的地(出発地でもよい)に最も近いリンクを計算終了リンクとし、ユーザにより入力された各種計算条件に基づいて、計算開始リンクから始まる所定地図領域内のリンクをすべて探索する。このとき、各リンクの統計リンクコストT_(S)(t) 又は旅行時間予測値T_(P)(t)(後述する)を順次加算し、最短でない経路は切捨て、最短経路を実現する経路のみを残すという処理を繰り返す。その結果、最終的に、最短経路のみからなる経路のトリーが得られるので、計算終了リンクから計算開始リンクまでの経路を逆に辿っていけば、最短時間経路を得ることができる。
【0039】コントローラ16にはまた、ビーコン受信機7が接続されている。CPU161は、車両が路上ビーコンAの送信エリア内に進入して(図1参照)、路上ビーコンAから送信されている一連の最新のリンク交通情報がビーコン受信機7で受信されると、当該リンク交通情報をSRAM162に与えて保持させる。CPU161では、前記方法によって最短時間経路を算出する際、SRAM162にリンク交通情報が保持されている場合には、前記経路計算用道路地図データに含まれている統計リンクコストT_(S)(t) に、当該リンク交通情報を利用して求めたリンクコスト(以下「リアルタイムリンクコスト」という)を加味して予測リンクコストT_(P)(t) を求め、この予測リンクコストT_(P)(t) に基づいて複数の経路を算出する。SRAM162にリンク交通情報が保持されていない場合には、統計リンクコストT_(S)(t) をそのまま用いて複数の経路を算出する。
【0040】図5から図8は、前記車載ナビゲーション装置1における複数の経路の算出処理を説明するためのフローチャートである。ユーザは、走行前又は走行中に、リモコンキー4を操作して目的地や経由地(以下代表して「目的地」という)を入力する。コントローラ16は、車両位置検出部14で検出された現在地に最も近いリンクを計算開始リンクとし、目的地に最も近いリンクを計算終了リンクとする(図5のステップS1)。」
・「【0044】……<リアルタイムリンクコストと統計リンクコストT_(S)(t) を併用して複数の経路を算出する方法>リアルタイムリンクコストをそのまま用いて経路を求めるのでは、リアルタイムリンクコストの瞬時的変動が激しすぎるので、この方法では、これを平滑化するため、統計リンクコストT_(S)(t) を加味した指数平滑手法を用いて予測リンクコストT_(P)(t) を求め、この予測リンクコストT_(P)(t) をリンクコストとして用いて所定地図領域内の経路を探索する。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「各種センサ等から入力される位置データ及び道路地図メモリに格納されている道路との関係に基づいて車両位置を検出する機能を備えたナビゲーション装置の経路算出方法であって、
前記ナビゲーション装置は、
地図上の道路を構成する各リンクのリンクデータを含む地図データを記憶する道路地図メモリと、
前記各リンクについて、過去に収集された交通情報の統計処理により得られる統計リンクコスト情報を記憶する交通情報メモリとを備えており、
車両の現在地から目的地までの経路をコンピュータにより自動的に計算するために、ユーザにより目的地を設定入力するステップと、
車両が路上ビーコンAの送信エリア内に進入して、路上ビーコンAから送信されている一連の最新のリンク交通情報がビーコン受信機7で受信されると、当該リンク交通情報をSRAM162に与えて保持させるステップと、
SRAM162にリンク交通情報が保持されていない場合には、統計リンクコストT_(S)(t)をそのまま用いて複数の経路を算出するステップと、
SRAM162にリンク交通情報が保持されている場合には、経路計算用道路地図データに含まれている統計リンクコストT_(S)(t) に、当該リンク交通情報を利用して求めたリアルタイムリンクコストを加味して予測リンクコストT_(P)(t) を求め、この予測リンクコストT_(P)(t) に基づいて複数の経路を算出するステップとを行う、
ナビゲーション装置の経路算出方法。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「各種センサ等から入力される位置データ及び道路地図メモリに格納されている道路との関係に基づいて車両位置を検出する機能」はその機能・作用からみて、前者の「現在地検出機能」に相当し、以下同様に「経路算出方法」は「経路探索方法」に、「道路地図メモリ」と「交通情報メモリ」は「記憶装置」に、「統計処理により得られる統計リンクコスト情報」は「統計値より定まる統計データ」に、それぞれ相当する。
また、後者の「車両の現在地から目的地までの経路をコンピュータにより自動的に計算するために、ユーザにより目的地を設定入力するステップ」は、現在地から目的地までの経路を計算するための入力であるから、現在地を出発地として同時に設定するものであるといえるので、前者の「出発地および目的地を設定する出発地・目的地設定ステップ」に相当している。
さらに、路上ビーコンから与えられるデータは通常、その周辺のデータのみであるから、後者の「車両が路上ビーコンAの送信エリア内に進入して、路上ビーコンAから送信されている一連の最新のリンク交通情報がビーコン受信機7で受信されると、当該リンク交通情報をSRAM162に与えて保持させるステップ」は前者の「現在地検出機能により検出された現在地の周辺地域に存在する各リンクの、現在の交通情報より定まる現況データを入手する現況データ入手ステップ」に相当する。
そして、後者の「SRAM162にリンク交通情報が保持されていない場合には、」は、交通情報の保持の有無を判断しているといえるので前者の「現況データ入手ステップによる現在位置周辺のリンクの現況データの入手が完了しているか否かを判定し、完了していないと判定した場合は、」に相当するということができ、
後者の「統計リンクコストT_(S)(t)」は前者の「出発地および目的地間の経路を構成する経路構成リンク各々の通過時の日時および状況に対応する収集条件の統計データ」に相当するとともに、後者の「地図データ」が「地図上の道路を構成する各リンクのリンクデータを含む」ものであり、経路の算出にはリンクデータとリンクコストを用いることが技術常識であるから、後者の「SRAM162にリンク交通情報が保持されていない場合には、統計リンクコストT_(S)(t)をそのまま用いて複数の経路を算出するステップ」は前者の、現在位置周辺のリンクの現況データの入手が「完了していないと判定した場合は、地図データと、出発地および目的地間の経路を構成する経路構成リンク各々の通過時の日時および状況に対応する収集条件の統計データとを用いて、前記出発地および前記目的地間の推奨経路を探索する経路探索ステップ」に相当するということができ、
後者の「SRAM162にリンク交通情報が保持されている場合には、前記経路計算用道路地図データに含まれている統計リンクコストT_(S)(t) に、当該リンク交通情報を利用して求めたリアルタイムリンクコストを加味して予測リンクコストT_(P)(t) を求め、この予測リンクコストT_(P)(t) に基づいて複数の経路を算出するステップ」は前者の「現況データ入手ステップによる現在位置周辺のリンクの現況データの入手が完了していると判定した場合は、地図データと、出発地および目的地間の経路を構成する経路構成リンク各々の通過時の日時及び状況に対応する収集条件の統計データと、前記現況データ入手ステップで入手した現況データとを用いて、前記出発地および前記目的地間の推奨経路を探索する経路探索ステップ」に、相当するということができる。

そうすると本願発明と引用発明とは、実質的な相違点がない。

なお、請求人は平成20年8月4日付の審判請求の理由において、本願発明が、現在位置周辺の現況データが取得できた場合にかぎり、現況データを使用することとして、現在位置周辺の現況データが取得できない場合は、たとえ、それより遠い領域の現況データが取得できていたとしても使用しないものであるのに対し、引用発明は、取得できた現況データを何ら制限することなく、全て経路探索に用いるものであって、引用文献の記載から、現在位置周辺のリアルタイムリンクコストが取得できたか否かによって、経路探索に用いるデータを意図的に切り替えること、については一切読みとることができない旨主張しているが、本願発明において、「現在位置周辺」と「それより遠い領域」との区別について何ら定義されているわけではなく、引用発明においても、外部から取得するデータは、路上ビーコンAから送信されている一連の最新のリンク交通情報であるから、本願発明における「現在位置周辺の現況データ」と何ら相違を認めることができず、請求人の上記主張は請求項の記載に基づかないものであって採用できないものである。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-22 
結審通知日 2010-01-26 
審決日 2010-04-06 
出願番号 特願2007-84197(P2007-84197)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片岡 弘之  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 大河原 裕
槙原 進
発明の名称 ナビゲーション装置の経路探索方法  
代理人 特許業務法人湘洋内外特許事務所  

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