• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03F
管理番号 1217174
審判番号 不服2008-20907  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-14 
確定日 2010-05-20 
事件の表示 特願2004-237047「デジタルアンプの保護回路」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 2日出願公開、特開2006- 60278〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年8月17日の出願であって、平成20年4月11日付けで拒絶理由通知がなされ、同年6月4日付けで手続補正がなされたが、同年7月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年6月4日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「スピーカ出力端子に発生した直流電圧を検出する直流電圧検出回路と、
この直流電圧検出回路から検出信号が出力されたときに保護動作を行う制御回路と、
正の電源電圧と負の電源電圧の中点電位のずれを検出する中点電位検出回路とを有し、
前記中点電位検出回路は、一端に前記正の電源電圧が入力された第1の抵抗と、一端に前記負の電源電圧が入力され、他端が前記第1の抵抗の他端と接続された第2の抵抗とからなり、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗の接続点が前記直流電圧検出回路の入力に接続され、
前記中点電位のずれが検出されたときに前記直流電圧検出回路から検出信号を出力させるようにしたことを特徴とするデジタルアンプの保護回路。」

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特公昭60-36651号公報(以下、「引用例1」という。)、特開昭61-141211号公報(以下、「引用例2」という。)、及び実願昭62-22339号(実開昭63-129315号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という。)には、それぞれ、図面とともに次の事項が記載されている。

(引用例1)
A.「本発明は交流電圧を整流して直流電圧を作り、之を被パルス幅変調信号増巾回路に動作電圧として供給する整流回路を設け被パルス幅変調信号増巾装置の保護装置に関する。」(第1頁第1欄第15?18行)

B.「以下に第1図を参照して本発明の一実施例を詳細に説明する。先ず被パルス幅変調信号増巾回路5について説明する。入力端子7が被パルス幅変調信号(矩形波信号)が供給され、これが駆動回路8に供給される。そして、駆動回路8よりの正及び負の各半サイクルの信号が、ドレインが互いに接続された一対のPチャンネル形及びNチャンネル形の増巾用電界効果トランジスタQ_(9a),Q_(9b)の各ゲートに供給されて、これらトランジスタQ_(9a),Q_(9b)が交互にオンオフせしめられる。そしてこれらトランジスタQ_(9a),Q_(9b)の各ソースが夫々電源回路1の正負の両直流電圧の得られる電源出力端子T_(21)及びT_(22)に夫々接続される。
トランジスタQ_(9a),Q_(9b)の各ドレインはコイル10及びコンデンサ11からなる低域通過ろ波器9の入力側に接続される。そしてこの低域通過ろ波器9の出力が低周波信号としてスピーカ等の負荷12に供給される。」(第1頁第2欄第19行?第2頁第3欄第9行)

C.「次に電源回路1の整流回路3の直流電圧のレベルを検出する検出回路6について説明する。端子T_(21)及びT_(22)間には直流電圧検出用の抵抗器R_(5)及びR_(6)の直列回路が接続されている。NPN形のトランジスタQ_(4)及びQ_(5)が設けられ、抵抗器R_(5)及びR_(6)の接続中点がトランジスタQ_(4)のベースとトランジスタQ_(5)のエミッタに接続される。トランジスタQ_(4)のベースと接地との間に抵抗器R_(7)が接続されている。トランジスタQ_(4)のエミッタとトランジスタQ_(5)のベースとが接地される。」(第2頁第4欄第8?17行)

D.「この入力端子7に供給される被パルス幅変調信号の周波数が20Hz程度と非常に低い場合、又は負荷12のインピーダンスが低下した場合において負荷12に大電が流れ、この場合は第3図Cに斜線で示すI_(2)の直流電流が流れ、これによって、負の電源電圧を得る整流回路3Bの平滑用コンデンサC_(2b)が逆に充電されて、この為、端子T_(22)の負の直流電圧の絶対値が上昇する。また、負側に大なる三角波電流が流れる場合には、第3図Bに斜線で示す-I_(1)の直流電流により平滑用コンデンサC_(2a)が充電されて、端子T_(21)の正の直流電圧が上昇する。而して、端子T_(21)の直流電圧の絶対値が上昇したか又は端子T_(22)の負の直流電圧の絶対値が上昇したかに応じてトランジスタQ_(4)又はQ_(5)がオンとなり、これによりトランジスタQ_(8)がオンとなり、トランジスタQ_(6)のエミッタベース間に所定電圧を与えてこれをオンにしたコンデンサC_(3)の電荷がこのトランジスタQ_(8)のエミッタ・コレクタ間によって短絡され、これに応じてトランジスタQ_(6)がオフとなり、これによって今まで導通状態にあったトランジスタQ_(7)もオフとなり、リレー13のコイル15には通電されなくなり、その接点14はオフとなる。」(第3頁第5欄第21行?第6欄第6行)

E.「上述せる本発明によれば交流電圧を整流して直流電圧を作り、被パルス幅変調信号増巾回路に供給する整流回路を有する被パルス幅変調信号増巾装置において、過負荷時における整流回路の平滑用コンデンサの破壊及び被パルス幅変調信号増巾回路の増巾用トランジスタ(スイッチングトランジスタ)の破壊を有効に防止をすることができる。」(第3頁第6欄第10?17行)

上記A?Eの記載及び関連する図面を参照すると、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例1記載の発明」という。)
「NPN形のトランジスタQ_(4)及びNPN形のトランジスタQ_(5)よりなる回路と、
前記トランジスタQ_(4)又はQ_(5)がオンとなったときの出力によりリレー13のコイル15を無通電状態として接点14をオフとするトランジスタQ_(8),コンデンサC_(3),トランジスタQ_(6)及びQ_(7)よりなる回路と、
端子T_(21)の正の直流電圧又は端子T_(22)の負の直流電圧の絶対値が上昇することを検出する検出回路とを有し、
前記検出回路は、一端が前記端子T_(21)に接続された抵抗器R_(5)と、一端が前記端子T_(22)に接続され、他端が前記抵抗器R_(5)の他端と接続された抵抗器R_(6)とからなり、前記抵抗器R_(5)と前記抵抗器R_(6)の接続中点が前記トランジスタQ_(4)のベース及び前記トランジスタQ_(5)のエミッタに接続され、
前記端子T_(21)の正の直流電圧又は前記端子T_(22)の負の直流電圧の絶対値が上昇することが検出されたときに前記トランジスタQ_(4)又はQ_(5)をオンにさせるようにした被パルス幅変調信号増巾装置の保護装置。」

(引用例2)
F.「従来の技術
一般にステレオ低周波増幅回路の直流検出保護には、第2図に示す様にリレーが用いられている。
第2図において、イは直流検出保護回路、ロ,ハは低周波増幅回路、SP_(1),SP_(2)はスピーカー、1,2は検出端子、3,4,5はLPFを構成する抵抗、6はLPFを構成するコンデンサ、7,8は検出トランジスタ、9,10,12はリレードライブ回路を構成する抵抗、11はリレードライブトランジスタ、13はリレー、a_(1),a_(2)はリレー13の接点、14はリレードライブ回路を構成するコンデンサである。
回路にVccが印加されると、トランジスタ7,8はoffしているので、抵抗10を通してコンデンサ14が充電され、トランジスタ11はonし、接点a_(1),a_(2)は閉じている。
ここで、低周波増幅回路イまたはロ(審決注:この記載は、「ロまたはハ」の誤記であると認められる。)のどちらかが破壊して出力に直流が発生した場合、抵抗3または4を通して、トランジスタ7または8のベースが順バイアスされるので、トランジスタ11のベースはグランドに落ちトランジスタ11はoffし、接点a_(1),a_(2)が開き、スピーカーSP_(1)またはSP_(2)は保護される。」(第1頁左下欄第16行?右下欄第18行)

(引用例3)
G.「(ロ)従来の技術
現在、ステレオ装置の音響増幅器には、動作電圧を正及び負の2電源で供給する方式を使用し、出力コンデンサなしにスピーカが接続される出力点の直流電圧がアース電圧に保持されるOCL増幅器が多用されている。前記OCL増幅器においては、出力点と負荷(スピーカ)とが直流的にも直結されている為、該OCL増幅器の異常により負荷に直流電圧が印加され、該負荷を破壊するので、前記OCL増幅器には、例えば特公昭61-15614号公報に示される如く、負荷が破壊されるのを保護する負荷保護回路が設けられている。前記負荷保護回路は、OCL増幅器の出力点に直流電圧が発生したことを検出する直流電圧検出回路を設け、該直流電圧検出回路により直流電圧が検出されたときに前記出力点に接続される負荷を開放したり、負荷を短絡したりして該負荷が破壊されるのを保護するものである。前記負荷保護回路としては、例えば第2図に示す如きものが知られている。」(明細書第2頁第13行?第3頁第12行)

引用例2の上記Fの記載、引用例3の上記Gの記載、及び関連する図面を参照すると、次の技術が周知技術であるものと認められる。
「スピーカ等の負荷が接続される増幅器の出力端子に発生した直流電圧を検出する直流電圧検出回路から検出信号が出力されたときに保護動作を行う保護回路。」

4.対比
本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、次のことがいえる。

(あ)引用例1記載の発明における「NPN形のトランジスタQ_(4)」は、そのエミッタが接地されるものであり、ベースに一定電圧値以上の正の直流電圧が印加された場合にオンとなるものである。
また、引用例1記載の発明における「NPN形のトランジスタQ_(5)」は、そのベースが接地されるものであり、エミッタに絶対値が一定電圧値以上の負の直流電圧が印加された場合にオンとなるものである。
してみれば、引用例1記載の発明における「NPN形のトランジスタQ_(4)及びNPN形のトランジスタQ_(5)よりなる回路」は、「直流電圧検出回路」を構成しているということができ、該「トランジスタQ_(4)」又は「トランジスタQ_(5)」がオンになったときに得られる出力信号は、「直流電圧検出回路」からの「検出信号」であるということができる。
また、引用例1記載の発明において、「リレー13のコイル15を無通電状態として接点14をオフとする」動作は、引用例1の上記Eに記載されているように、「過負荷時における整流回路の平滑用コンデンサの破壊及び被パルス幅変調信号増巾回路の増巾用トランジスタ(スイッチングトランジスタ)の破壊を有効に防止」するための動作であり、「保護動作」であるということができる。
してみれば、引用例1記載の発明における「トランジスタQ_(8),コンデンサC_(3),トランジスタQ_(6)及びQ_(7)よりなる回路」は、本願発明における「制御回路」に相当する。
よって、引用例1記載の発明における「トランジスタQ_(4)又はQ_(5)がオンとなったときの出力によりリレー13のコイル15を無通電状態として接点14をオフとするトランジスタQ_(8),コンデンサC_(3),トランジスタQ_(6)及びQ_(7)よりなる回路」は、本願発明における「直流電圧検出回路から検出信号が出力されたときに保護動作を行う制御回路」に相当する。

(い)引用例1記載の発明における「端子T_(21)の正の直流電圧又は端子T_(22)の負の直流電圧の絶対値が上昇することを検出する検出回路」は、具体的には「一端が前記端子T_(21)に接続された抵抗器R_(5)と、一端が前記端子T_(22)に接続され、他端が前記抵抗器R_(5)の他端と接続された抵抗器R_(6)とからなり、前記抵抗器R_(5)と前記抵抗器R_(6)の接続中点がトランジスタQ_(4)のベース及びトランジスタQ_(5)のエミッタに接続され」るものであり、「端子T_(21)の正の直流電圧」と「端子T_(22)の負の直流電圧」の中点電位が接地電位から正側あるいは負側に一定電圧値以上ずれた場合に「トランジスタQ_(4)」あるいは「トランジスタQ_(5)」をオンにするものである。
よって、引用例1記載の発明における「端子T_(21)の正の直流電圧又は端子T_(22)の負の直流電圧の絶対値が上昇することを検出する検出回路」は、本願発明における「正の電源電圧と負の電源電圧の中点電位のずれを検出する中点電位検出回路」に相当し、引用例1記載の発明における「一端が前記端子T_(21)に接続された抵抗器R_(5)と、一端が前記端子T_(22)に接続され、他端が前記抵抗器R_(5)の他端と接続された抵抗器R_(6)とからなり、前記抵抗器R_(5)と前記抵抗器R_(6)の接続中点がトランジスタQ_(4)のベース及びトランジスタQ_(5)のエミッタに接続され」る構成は、本願発明における「一端に前記正の電源電圧が入力された第1の抵抗と、一端に前記負の電源電圧が入力され、他端が前記第1の抵抗の他端と接続された第2の抵抗とからなり、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗の接続点が直流電圧検出回路の入力に接続され」る構成に相当する。

(う)引用例1記載の発明における「端子T_(21)の正の直流電圧又は端子T_(22)の負の直流電圧の絶対値が上昇することが検出されたときにトランジスタQ_(4)又はQ_(5)をオンにさせる」動作は、本願発明における「中点電位のずれが検出されたときに直流電圧検出回路から検出信号を出力させる」動作に相当する。

(え)引用例1記載の発明における「被パルス幅変調信号増巾装置」、「保護装置」は、本願発明における「デジタルアンプ」、「保護回路」に相当する。

上記(あ)?(え)の事項を踏まえると、本願発明と引用例1記載の発明とは、次の点で一致し、また、相違するものと認められる。

(一致点)
本願発明と引用例1記載の発明とは、ともに、
「直流電圧検出回路と、
この直流電圧検出回路から検出信号が出力されたときに保護動作を行う制御回路と、
正の電源電圧と負の電源電圧の中点電位のずれを検出する中点電位検出回路とを有し、
前記中点電位検出回路は、一端に前記正の電源電圧が入力された第1の抵抗と、一端に前記負の電源電圧が入力され、他端が前記第1の抵抗の他端と接続された第2の抵抗とからなり、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗の接続点が前記直流電圧検出回路の入力に接続され、
前記中点電位のずれが検出されたときに前記直流電圧検出回路から検出信号を出力させるようにしたデジタルアンプの保護回路。」
である点。

(相違点)
「直流電圧検出回路」が、本願発明においては「スピーカ出力端子に発生した直流電圧を検出する直流電圧検出回路」であるのに対し、引用例1記載の発明においては「スピーカ出力端子に発生した直流電圧を検出する」ものではない点。

5.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
上記引用例2及び引用例3に見られるように、「スピーカ等の負荷が接続される増幅器の出力端子に発生した直流電圧を検出する直流電圧検出回路から検出信号が出力されたときに保護動作を行う保護回路」は周知技術にすぎない。
また、引用例1のものにおける「直流電圧検出回路」の具体的回路構成と、上記引用例2及び引用例3のものにおける「直流電圧検出回路」の具体的回路構成は、ともに、同様の2つのNPN形のトランジスタよりなるものであり、しかも、増幅器における保護回路に用いられる「直流電圧検出回路」であることは共通するものであるから、引用例1記載の発明における「直流電圧検出回路」として、上記引用例2及び引用例3に見られるような周知の「スピーカ等の負荷が接続される増幅器の出力端子に発生した直流電圧を検出する直流電圧検出回路」を兼用して用いるようにすることは、当業者が適宜になし得ることである。
よって、引用例1記載の発明に対して上記周知技術を適用し、「直流電圧検出回路」を「スピーカ出力端子に発生した直流電圧を検出する直流電圧検出回路」とすることは、当業者が適宜になし得ることである。

そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1記載の発明及び周知技術から当業者が容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用例1記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-03 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2004-237047(P2004-237047)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑中 博幸  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 真木 健彦
飯田 清司
発明の名称 デジタルアンプの保護回路  
代理人 山川 政樹  
代理人 西山 修  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 山川 茂樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ