• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1217192
審判番号 不服2009-2866  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-09 
確定日 2010-05-20 
事件の表示 特願2007-179417「携帯式超音波撮像システム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月20日出願公開、特開2007-325937〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成8年6月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成7年6月29日,米国,平成8年2月12日,米国)を国際出願日とする特願平9-504611号の一部を平成19年7月9日に新たな特許出願としたものであって,平成20年3月14日付け拒絶理由通知に対して,同年9月22日付けで手続補正がされたが,同年11月5日付けで拒絶査定され,これに対し,平成21年2月9日に拒絶査定不服審判の請求され,同年3月11日付けで手続補正(以下,「本件補正」という。)されたものである。

第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおり補正された。
「【請求項1】
超音波アレープローブであって、プローブの作動を制御する、プローブ制御信号を記憶するメモリーを含むプローブ回路と変換器アレイを備え、プログラム可能な集積回路ビーム形成装置からのビーム形成画像データを受け取る処理システムに接続された超音波アレープローブ、ここでビーム形成装置が複数の遅延チャネルであって、個々のチャネルが複数の選択可能な時間遅延を有する、を具備し、
該処理システムが、
対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理及びドップラー処理の少なくとも1つを実行するための信号処理ソフトウエア;
及び
超音波画像の表示のための処理された信号を受け取るパーソナルコンピユータプラットホームに接続された表示装置を具備し、
該処理システム、プローブ及びビーム形成装置が、10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する
ことを特徴とする超音波診断画像システム。」

2.補正の適否
本件補正により,特許請求の範囲請求項1において,補正前「遅延を有する」とあるのを「時間遅延を有する」と限定するものである。
したがって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下で検討する。

(1)原査定の拒絶の理由において引用された,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-161641号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(1-ア)「【0033】これらのスイッチは、片手での操作が容易となるように配置する。図3は左手の上に本体装置を乗せ親指で各種スイッチを操作する配置例である。図3の反対側に各種スイッチを配置し、残りの指で操作するタイプとしてもよい。検者は、右手で超音波探触子1を患者に当てて操作し、左手で本体装置2を操作する構成である。逆の操作でももちろん支障はない。図4は、RF信号あるいは検波信号を直接メモリカードに出力するリニア電子走査型超音波探触子1の構成例である。受波整相回路25の出力を直接画像データ入出力部30に導くことで実現している。メモリカードとしてディジタルメモリカードを使用する場合、RF信号あるいは検波信号はデジタル変換されていることは言うまでもない。アナログメモリカードを使用する場合には、RF信号あるいは検波信号はデジタル変換せずそのまま記憶する。
【0034】リニア電子走査型超音波探触子1において、超音波探触子1は、振動子の配列である振動子アレー21と、超音波の送受を行なう送受波回路22と、受波された超音波を増幅する受波増幅器24と、送波や受波の超音波ビームを形成する受波整相回路25と、送受波回路22、受波増幅器24、受波整相回路25を制御するコントロール部A、23とを内蔵している。この結果、受波整相回路25の出力を本体装置2に伝達する信号線は1本となる。この信号線の他に必要なライン(線)は、超音波探触子1を動作させるために本体装置2の電源変換部29から電源の供給を受けるための電源線、本体装置2と超音波探触子1との間で制御信号を授受するための制御線のみとなり、フレキシブルで軽量のケーブルにより本体装置2と超音波探触子1とを接続することができる。
【0035】本体装置2はリニア電子走査型超音波探触子1のみを制御することができ、リニア電子走査型超音波探触子1のみからの受波信号データを信号処理するものであり、本体装置2は、受波信号データを処理する信号処理部27と、被検者の超音波画像を表示する画像表示部28と、画像データ、あるいは画像を作り出すために必要なRF信号データ又は検波信号データ、及び患者情報データ、本体装置識別コード等の情報をメモリカード4に転送するデータ入出力部30と、バッテリパック10より電源供給をうけ必要な電圧に変換する電源変換部29と、信号処理部27、画像表示部28、データ入出力部30、電源変換部29を制御するコントロール部B、26とから構成される。
【0036】受波整相回路25からの信号は、以下に示す3通りの方法で信号処理される。第1の信号処理では、受波整相回路25からのA/Dされた信号をそのままデータ入出力部30で、メモリカード4に記憶するものである。第2の信号処理では、受波整相回路25からの信号は信号処理部27で信号処理されて画像データを得て、画像表示部28に表示するとともに、ディジタル化された画像データをデータ入出力30で、メモリカード4に記憶するものである。第3の信号処理では、以上で説明した第1及び第2の信号処理を含むものである。
【0037】以上に説明したように、信号処理部27に取り込まれた受波信号は、RF信号あるいは検波信号のままディジタル変換され、データ入出力部30で外部記憶媒体であるメモリカード4に記憶することができる。信号処理部27はリニア電子走査、コンベックス電子走査、セクタ電子走査、メカニカルセクタ走査等の多種の超音波の走査方式に適用が可能なようにしてもよいが、回路規模が大きくなるので、本発明では特定の超音波の走査方式にのみ適用可能なようにする。このため本体装置2の回路規模は簡略化でき、装置のサイズも小型が可能となり、さらに本体装置を安価で製作することができる。ある走査方式に対する本体装置の一部の回路機能を利用して他の走査方式の超音波探触子を走査制御でき、探触子と本体装置の接続が着脱可能なときは本体装置を共用できることはいうまでもない。また、信号処理部27は、距離や面積の計測等の処理を行なわず、単純な機能のみ例えば、被検者の診断に必要な最小限の超音波画像のみを処理する機能を有する。
【0038】図5に本体装置とは別に設けられるデータ処理装置11における信号処理部の基本構成を示す。データ処理装置11のデータ入出力部31にセットされたメモリカードから画像データ、あるいは受波信号データ(RF信号データ又は検波信号データ)及び、本体装置の識別コード、患者情報データ等の各種の情報を読み取り、データ処理部32において、前記情報、特に超音波の走査方式を識別して処理を行う。メモリカードから画像データを読み取り、表示モニタ部12へ表示出力できることはいうまでもない。本体装置で記憶されたメモリカードのセグメントを指定すると、指定された領域に記憶されている本体装置の識別コードにより超音波の走査方式を自動的に識別して、これに適合したデータ処理を自動的、あるいは検者が設定する条件に従って実行する。」

(1-イ)「【0014】【作用】超音波探触子内に振動子アレーの他に,必要に応じて送受波回路,受波増幅回路,受波整相回路,制御回路等の電子回路を集積し,それぞれの診断目的に対応した超音波探触子の超音波の走査方式の種類にたいし専用の本体装置を設けるので,超音波探触子及びこれに対応する専用の本体装置の回路規模が小さくなり,ハンディータイプの超音波診断装置を達成できる。」

(1-ウ)「【0031】図3に携帯容易な超音波診断装置の一例を示す。基本的にこの超音波診断装置は、超音波探触子1と、本体装置2と、バッテリパック10とメモリカード4からなる。本体装置2は、表示部3を備え、表示部3には液晶パネル等の軽量、低電力タイプのフラットパネルが適している。本体装置2は、ゲインコントロールスイッチ5、信号処理モードスイッチ6a、画像フリーズスイッチ6b、データ転送スイッチ6c、本体装置主スイッチ7、等を備えている。メモリカード4は本体装置2のメモリカード接続端子9に装着され、バッテリパック10は本体装置2の電源入力端子8に接続され電源を供給する。本体装置主スイッチ7がオンの状態で、電源が供給され本体装置2は作動可能となる。」

(1-エ)「【0050】また,携帯容易な装置の形態としては,片手で持ち片手で各種のスイッチの操作ができるものであり,たとえば図3に示すような形状で,重さ1kg以下,縦方向の長さ25cm以下,横方向の長さ12cm以下,高さ5cm以下,ケ-ブルは1m程度であることが望ましい。さらに別の形態としては,ラップトップパソコンと同様の形態で9インチ程度のパネル画面や,パネルキ-ボ-ド等を設け,膝あるいはベッド,机等において操作するものでもよい。」

(1-オ)「【0018】図1により本発明による超音波診断装置の全体概念を説明する。本発明による超音波診断装置は、超音波を送受波する一個の超音波振動子又は超音波振動子群からなる超音波探触子1A、1B?と、超音波探触子とケーブルで接続され超音波探触子からの受波信号データを取り込み信号処理を行ない画像を表示しさらに画像データあるいは受波信号データ(RF信号データ又は検波信号データ)を外部記憶媒体4A、4B?に出力する本体装置2A、2B?と、画像データあるいは受波信号データ、本体装置(例えば、リニア電子走査型超音波診断装置等)の識別コード、患者情報データ(例えば、診断日時、検者氏名、氏名に準じたID、カルテの番号、病歴等)等を記憶する外部記憶媒体であるメモリカード4A、4B?と、本体装置に電源を供給するバッテリパック10A、10B?と、外部記憶媒体であるメモリカードから受波信号データ、本体装置の識別コード、患者情報データを読み取り、本体装置の識別コードによって超音波の走査方式を判読して、本体装置では達成できない高度なデータ処理を行なうデータ処理装置11と、データ処理の結果を表示する表示モニタ部12とから構成される。データ処理の結果を出力するビデオプリンタ14等は必要に応じて使用する。本体装置は超音波の走査方式毎に独立して用意されており、超音波探触子と一対で使用される。例えば、リニア電子走査、コンベックス電子走査、セクタ電子走査、メカニカルセクタ走査等の各走査に対して、それぞれ超音波探触子と本体装置が用意され、診断時には一対で使用される。これらの超音波探触子と本体装置は別体として製作され、ケーブル、コネクタで結合できるようにしてもよいし、超音波探触子と本体装置がケーブルで連結され一体に形成されていてもよい。さらにケーブルを使用せずに超音波探触子と本体装置が同一の外筐に一体形成されていてもよい。」

上記摘記事項(1-ア)記載の「受波整相回路25の出力を本体装置2に伝達する」及び「受波信号データを処理する信号処理部27」から,受波信号データは受波整相回路25からの出力であることが読み取れる。
上記摘記事項(1-ア)の記載から,本体装置2は超音波探触子1と接続していることが読み取れる。
上記摘記事項(1-イ)の記載から,受波整相回路は集積化した回路であることが読み取れる。
上記摘記事項(1-ウ)及び(1-エ)の記載から,超音波探触子1と、本体装置2と、バッテリパック10とメモリカード4からなる携帯容易な超音波診断装置は,重さ1kg以下の重さであることが読み取れる。

これらの記載を総合すると,引用例1には,次の発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「超音波探触子1は,振動子アレー21と,送波や受波の超音波ビームを形成する集積した受波整相回路25を備え,前記受波整相回路25からの受波信号データを処理する本体装置2に接続された超音波探触子1を具備し,
該本体装置2は,
被検者の診断に必要な最小限の超音波画像のみを処理する機能を有する信号処理部27,
及び,
画像表示部28を具備し,
上記本体装置2,超音波探触子1,受波整相回路25が,1kg以下の重さを有する携帯容易な超音波診断装置」

(2)本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開昭59-183384号公報(以下,「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。

(2-ア)「この加算器44の出力は、各々が第一マルチプレクサ48の8つの入力に夫々接続された7つの出力をもつ第二遅延線50の入力に接続されている。遅延線46の出力では10ナノ秒刻みで0乃至70ナノ秒の遅延を得ることができ、遅延線50の出力では80ナノ秒刻みで0乃至480ナノ秒の遅延を得ることができる。従って、マルチプレクサ48と52とをアドレス指定するだけで0乃至550ナノ秒の範囲の任意の遅延を10ナノ秒の精度で得ることが可能である。マルチプレクサ52の出力は、加算増幅器SOMの入力とインパルス発生器62の動作入力60とに接続されている。」(第8頁右下欄第5行?第9頁左上欄第3行)

(2-イ)「アドレス発生器66は2つのマルチプレクサ48,52を制御する(アドレス指定結線67,68)。制御コンピュータ手段は主として、例えばプロセッサPrに接続されたキイボードKの如き制御アセンブリを介してオペレータが選択したパラメータの組合せにより得られる所与のシーケンスに対応する命令の読取りを内部で選択するためのプログラムメモリMpから成る。プログラムメモリは、アドレス発生器66と各回路34のデマルチプレクサ36,38とを制御する。オペレータがデイスプレイするパラメータとしては特に、超音波の周波数と集束ゾーンの個数及び限界とがある。これらのパラメータに従ってプロセッサは所定数のプログラムメモリの命令を編成し、超音波シヨツトのタイミングと、連続遅延律と、デイスプレイされるべき有用部分と、2つのシヨツト間の待ち時間と、利得補正とを、集束ゾーンの深さに従って制御する。この際、エコーの減衰、微傾角の値、等が考慮されている。各変換素子を励起するためにプロセツサは、マルチプレクサ48,52の先行ポジシヨニングの関数たる遅延を有するシヨツト命令を発する(この命令は結線43によって伝送される)。この命令がインパルス発生器62を動作させる。インパルスの持続時間はプログラムメモリによつて制御される(結線64)。受信の際、有効化された回路32によつて伝送されるエコーは、SOM増幅器によつて加算される前に遅延(遅延線46の入力に接続された増幅器40)を生ずべく処理され、これにより、受信時の“集束(focalization)”が達成される。」(第9頁左上欄第12行?左下欄第6行)

(3)対比・判断
本願補正発明と引用例1発明を対比する。
(a)引用例1発明の「振動子アレー21」,「送波や受波の超音波ビームを形成する集積した受波整相回路25」,「受波信号データ」,「画像表示部28」は,その機能・構成からみて,本願補正発明の「変換器アレイ」,「集積回路ビーム形成装置」,「ビーム形成画像データ」,「表示装置」に各々相当する。

(b)引用例1発明の「超音波探触子1」は,「振動アレー21」及び「受波整相回路25」を備えているから,本願補正発明の「超音波アレープローブ」に相当する。

(c)引用例1発明の「本体装置2」は,「超音波探触子1」と接続していることから,本願補正発明の「処理システム」に相当する。

(d)引用例1発明の「携帯容易な超音波診断装置」は,「超音波探触子1」及び「本体装置2」を具備していることから,本願補正発明の「超音波診断画像システム」に相当する。

(e)引用例1発明の「被検者の診断に必要な最小限の超音波画像のみを処理する機能を有する信号処理部27」と,本願補正発明の「対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理及びドップラー処理の少なくとも1つを実行するための信号処理ソフトウエア」とは,「対象領域からの処理された信号の処理を実行するための信号処理手段」という点で共通する。

上記(a)?(e)の考察から,両者は,

(一致点)
「超音波アレープローブであって、変換器アレイを備え、集積回路ビーム形成装置からのビーム形成画像データを受け取る処理システムに接続された超音波アレープローブを具備し、
該処理システムが、
対象領域からの処理された信号の処理を実行するための信号処理手段
及び
表示装置を具備した超音波診断画像システム。」

である点で一致し,次の4点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明では,「超音波アレープローブ」が「プローブの作動を制御する、プローブ制御信号を記憶するメモリーを含むプローブ回路」を備え,「集積回路ビーム形成装置」が「プログラム可能」であり,「ビーム形成装置」が「複数の遅延チャネルであって、個々のチャネルが複数の選択可能な時間遅延を有する」のに対して,引用例1発明の「超音波探触子1」及び「受波整相回路25」は,時間遅延を用いた超音波測定に係る具体的構成が不明である点。

(相違点2)
対象領域からの処理された信号の処理を実行するための信号処理手段が,本願補正発明では,「対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理及びドップラー処理の少なくとも1つを実行するための信号処理ソフトウエア」であるのに対して,引用例1発明では,「被検者の診断に必要な最小限の超音波画像のみを処理する機能を有する信号処理部27」である点。

(相違点3)
表示装置に接続する構成が,本願補正発明では,「超音波画像の表示のための処理された信号を受け取るパーソナルコンピユータプラットホーム」であるのに対し,引用例1発明では,パーソナルコンピユータプラットホームに接続しているか否かが不明である点。

(相違点4)
本願補正発明が,パーソナルコンピユーターを含む「処理システム,プローブ,ビーム形成装置が,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する」のに対して,刊行物1発明は,パーソナルコンピユーターを含んでいないため同構成での重さが不明な点。

(4)当審の判断
上記相違点について順に検討する。
(a)(相違点1)について
引用例2には,上記摘記事項(2-ア),(2-イ)の記載から,本願補正発明の「プローブの作動を制御するプローブ制御信号を記憶するメモリーを含むプローブ回路」,「複数の遅延チャネルであって、個々のチャネルが複数の選択可能な時間遅延を有する」に各々相当する「制御アセンブリを介してオペレータが選択したパラメータの組合せにより得られる所与のシーケンスに対応する命令の読取りを内部で選択するためのプログラムメモリMp」,「遅延線46の出力では10ナノ秒刻みで0乃至70ナノ秒の遅延を得ることができ、遅延線50の出力では80ナノ秒刻みで0乃至480ナノ秒の遅延を得ることができる。従って、マルチプレクサ48と52とをアドレス指定するだけで0乃至550ナノ秒の範囲の任意の遅延を10ナノ秒の精度で得ることが可能」な構成を有する時間遅延を用いたビーム形成手段及びその制御系が記載されている。
また,上記摘記事項(1-オ)記載の「本体装置は超音波の走査方式毎に独立して用意されており、超音波探触子と一対で使用される。例えば、リニア電子走査、コンベックス電子走査、セクタ電子走査、メカニカルセクタ走査等の各走査に対して、それぞれ超音波探触子と本体装置が用意され、診断時には一対で使用される。」からみて,引用例1において,「超音波探触子1」を遅延時間により制御して測定を行うセクタ電子走査式のものを採用できることが示唆されている。
よって,引用例1発明に記載された超音波探触子において,その回路系として,引用例2に記載された遅延時間を用いたビーム形成手段及びその制御系を採用し,本願補正発明のように構成することは,当業者であれば容易になし得たことである。

(b)(相違点2)について
超音波診断装置の技術分野において,「対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理」及び「スキャン変換を実行するための信号処理ソフトウエア」は,本願優先権主張日前より周知である。

例えば,スキャン変換を行う処理部にCPUを具備するものとして,特開平4-354290号公報には,「【0023】なお,ここで,前記A/D変換器3,バッファメモリ4,フレームメモリ4,D/A変換器6,およびCPU9は,いわゆるディジタルスキャンコンバータ(DSC)を構成するようになっている。なお,このディジタルスキャンコンバータは,図示していないが,超音波走査をTV信号走査への変換をも行っているものである。」との記載があり,
特開昭62-139640号公報には,「このDSC3は,上記画像メモリ5の他に,CPU(中央処理装置)6と,ROM(読出し専用メモリ)7と,ワーク用の第一のRAM(随時読出し書込みメモリ)8と,マーク類表示メモリ9と,混合器10と,テレビ信号読出し回路11とを有している。」(第2頁左下欄第9?14行)との記載があり,
特開平4-90749号公報には,次の事項が記載されている。
「前記高分解能キー19,通常キー20,および高感度キー21のうち,いづれかのキーが操作された場合は,その旨の出力が前記ディジタルスキャンコンバータ13内のCPU50に入力され,この入力に基づいてメモリ22から前記操作されたキーに応じたデータが読み出されるようになっている。」(第4頁右上欄第5-11行),及び,第1図にデジタルスキャンコンバータ内に,CPUとフレームメモリが含まれていることが図示されている。
上記の各文献の処理部はCPUを備えていることから,これらのものにおいても,ソフトウエアで処理が行われているといえる。
よって,信号処理手段として,引用例1発明の信号処理部に代えて,周知の「対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理を実行するための信号処理ソフトウエア」を採用することにより,本願補正発明のように構成することは,当業者が容易になし得たことである。

(c)(相違点3)について
パーソナルコンピュータは,様々な装置と接続できる汎用の装置である。そして,表示装置として,パーソナルコンピユータプラットホームに接続された表示装置を利用することは,本願優先権主張日前より周知である。
例えば,国際公開第93/08863号には,「By way of example, in one embodiment of the invention, the system personal computer screen displays the diameter mode signal echo pattern in M-mode, wherein the X-axis represents time, the Y-axis represents depth, and the Z-axis represents echo amplitude.」(第25頁第4?8行)(訳「本発明の一例として,システムのパーソナルコンピュータスクリーンは径モード信号 エコーパターンをMモードで表示する。その場合,X軸は,時間を表す。Y軸は,深さを表す。Z軸は,エコーの振幅を表す。」),「In the preferred embodiment, the ultrasound probe of the present invention is used in connection with a system that includes a Doppler unit ( not shown) and personal computer (not shown).」(第22頁第4-7行)(訳「好適例では本発明の超音波プローブはドップラーユニット(図示せず)とパーソナルコンピュータ(図示せず)を備えるシステムと接続して使用する。」)との記載があり,
特開平5-228141号公報には,「【0027】図8にこのような装置の一実施例を概観図で示す。ラップトップパソコン20にアダプタ21を接続し円環状振動素子アレー27を接続する。ラップトップパソコン20のディスプレーには,Aモード波形,骨診断指標,骨状態評価結果,断層像等が表示可能であり,もちろん各種データを記憶し,長期にわたる経時記録ができ経時変化を表示できる。」,「【0009】また,環状に振動素子を配列し,関心部位の体表にベルト状に配置し,これを,例えば,パーソナルコンピュータ等の制御機能を有する演算処理装置に接続し小型で汎用の骨診断装置,あるいは既存の超音波診断装置に接続しオプションとして設置できる簡単な骨診断装置とすることができる。」との記載があり,
特開平6-90956号公報には,「【0015】表示手段は,医師が解析の結果を見ることができるものであれば,任意の形態のディスプレイでよい。しばしばパーソナルコンピュータの普通のディスプレイのようなディスプレイが最初の診察のために使われるだろう。・・・」との記載がある。

よって,引用例1発明の画像表示部に対し,周知のパーソナルコンピユータプラットホームを接続し,本願補正発明のように構成することは,当業者であれば容易になし得ることである。

(d)(相違点4)について
引用例1には,上記摘記事項(1-イ)及び(1-エ)の記載にあるように装置を回路の集積化による小型化や軽量化を図るという技術的課題が記載されている。
そして,本願明細書及び図面の記載事項を参酌しても,10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さとすることに臨界的な意義が特段みいだせない。
よって,引用例1発明に対し,上記(a)?(c)において検討したような公知・周知の構成を採用,付加した場合に,携帯型装置になるように,適宜の小型化,軽量化を行うことは,当業者の通常の努力の範囲でなし得ることである。

そして,本願補正発明の効果も,引用例1発明,引用例2に記載された事項,及び,周知技術に基づいて当業者が予想し得る範囲内のものであり,格別顕著なものとはいえない。

よって,本願補正発明は,引用例1発明,引用例2に記載された事項,及び,周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)補正案について
請求人は,当審における審尋に対する平成21年11月11日付けの回答書において,特許請求の範囲をさらに限定した補正案を示している。当該補正案は,「超音波アレープローブ」を「超音波アレープローブハウジング」と限定するものである。
しかしながら,引用例1の超音波探触子1もハウジングを有していることから,引用例1に記載されている事項であり,上記補正案によってもその進歩性があるとはいえない。
また,引用例1に関し,「広い帯域における本発明の集積回路とメモリーの作動によるスキャンヘッドにおける電力消費と発熱の抑制を示唆しているとは言えないと考える。」なる主張を行っているが,上記(4)(d)で説示したとおり,引用例1には,回路の集積化に係る記載があり,回路の集積化により電力消費量と発熱量の抑制を図ることは技術常識であるといえる。
よって,上記主張は採用できない。

(6)むすび
以上のとおり,平成21年3月11日付けの手続補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成21年3月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1に係る発明は,平成20年9月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,「本願発明」という。)。

「【請求項1】
超音波アレープローブであって、プローブの作動を制御する、プローブ制御信号を記憶するメモリーを含むプローブ回路と変換器アレイを備え、プログラム可能な集積回路ビーム形成装置からのビーム形成画像データを受け取る処理システムに接続された超音波アレープローブ、ここでビーム形成装置が複数の遅延チャネルであって、個々のチャネルが複数の選択可能な遅延を有する、を具備し、
該処理システムが、
対象領域からの処理された信号のスキャン変換処理及びドップラー処理の少なくとも1つを実行するための信号処理ソフトウエア;
及び
超音波画像の表示のための処理された信号を受け取るパーソナルコンピユータプラットホームに接続された表示装置を具備し、
該処理システム、プローブ及びビーム形成装置が、10ポンド(4.53kg)又はそれ未満の重さを有する
ことを特徴とする超音波診断画像システム。」

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2は,前記「第2[理由]3.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から,
「時間遅延を有する」とあったところ,「遅延を有する」と,限定を除いたものである。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,更に他の限定的な発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2[理由]3.」に記載したとおり,引用例1発明,引用例2に記載された事項,及び,周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである以上,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-14 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-06 
出願番号 特願2007-179417(P2007-179417)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 居島 一仁
岡田 孝博
発明の名称 携帯式超音波撮像システム  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ