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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
管理番号 1217283
審判番号 不服2007-12564  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-01 
確定日 2010-05-27 
事件の表示 平成 8年特許願第140282号「印刷紙葉のための紙葉供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月28日出願公開、特開平 9- 24605〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1996年6月3日(パリ条約による優先権主張1995年6月22日、スイス)の出願であって、平成18年3月27日付け、同年11月20日付けで手続補正がなされたが、同年12月26日付けで同年11月20日付け手続補正が補正却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年5月1日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年同月31日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。
その後、平成20年4月22日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年8月18日に回答書が提出された。
当審においてこれを審理した結果、平成21年2月20日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は同年9月16日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成21年9月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「調整部材(M1...Mn)によって変更可能な動力による制御機構(4,5,7,9)によって調整可能な機能パラメータと調整部材(M1...Mn)の制御を行う制御装置(2)とを備えている印刷紙葉のための紙葉供給装置において、
紙葉供給装置(1)に、機能パラメータの挙動によって調整部材(M1...Mn)を介して制御機構を制御することにより供給された印刷紙葉(6)の実際値を記憶するための測定値記録装置(10,11、12)が設けられていること、および調整部材(M1...Mn)を制御するための上記制御装置(2)が調整装置(C1,..Cn)を備えており、この調整装置の調整出力部に上記調整部材(M1...Mn)が接続されていて、かつ上記制御装置(2)がその基準値とアルゴリズムの適合を行うための学習可能な制御機構(17)と結合されており、この制御機構(17)に測定記録装置(10,11,12)の測定値と調整装置C1...Cn)の出力(22)とが導入可能であるように構成されていること、および学習可能な制御装置(17)が書込み/読取りデータ記憶装置を備えて形成されていることを特徴とする紙葉供給装置。」
(なお、「制御機構(17)」、「制御装置(17)」とあるが、いずれも同じものを意味しているものと解されるので、後者は「制御機構(17)」の誤記と認められる。)

3.引用刊行物
平成21年2月20日付け当審の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-201564号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア.【請求項1】 少なくとも一部にニューラルネットワークを有して紙送り機構を制御する制御系を設けたことを特徴とする紙送り装置。
【請求項2】 多数枚積層された用紙から一枚ずつ分離して給紙する給紙機構を有する紙送り機構とし、用紙の送り速度、用紙の張力、信号が与えられてから用紙が動作するまでの遅れ時間の少なくとも一つを計測する評価特性検出手段を設け、前記給紙機構に対して用紙の分離特性調整機構を設けたことを特徴とする請求項1記載の紙送り装置。
イ.【0018】
【実施例】本発明の第一の実施例を図1ないし図3に基づいて説明する。本実施例は、図2に示すように、送りローラ11と阻止ローラ12とのローラ対による摩擦分離方式の給紙機構13を備えたFR方式の紙送り装置に適用したものである。これらのローラ11,12は直径25mmの大きさのものであり、図3に示すように組違いローラのオーバラップ組合せ構造とされている。このような給紙機構13は用紙台14上に積載された用紙15中の最上位紙が呼出しローラ16により呼出し給紙される個所に設けられている。17はガイドマイラである。また、阻止ローラ12の軸にはこの送りローラ11に対する阻止ローラ12のオーバラップ量を可変調整するためのアーム18及びソレイド19(審決注:「ソレノイド19」の誤記と認められる。)からなるオーバラップ量調整機構20が連結されている。また、阻止ローラ12の軸には別のレバー21も連結され、引っ張りばね22による圧力調整機構23と連結されている。この圧力調整機構23は、例えば、図示例のように、引っ張りばね22の一端に係止したコロ23aとこのコロ23aを変位させるカム23bと前記コロ23aの変位する方向(従って、引っ張りばね22の伸びる方向)を規制するガイド部材23cとにより構成し、図示しないモータによりカム23bを回転させて引っ張りばね22の長さを調整することによりその圧力を調整するものとすればよい。もちろん、他の機構による圧力調整機構であってもよい。このレバー21の動き量を規制するストッパ24も設けられ、阻止ローラ12の連れ回り量を決定するように構成されている。なお、この阻止ローラ12は部分的な摩耗を防止するため、送り方向とは逆方向に少しずつ回転する機構に連結されている。
【0019】また、本実施例では、積載された用紙15の最上位等に位置して紙の張力を検出する張力検出センサ25や、信号が与えられてから紙15が動作するまでの遅れ時間を検出するフォトセンサ26が設けられている。これらの張力検出センサ25やフォトセンサ26は評価特性検出手段の一つとなる。
ウ.【0021】しかして、本実施例では、図1に示すように、給紙機構13を制御対象とするニューラルネットワーク27を備えた制御系28が設けられている。図1中、(a)はニューラルネットワーク27の学習時、(b)は動作時の構成を示す。本実施例にあっては、制御対象である給紙機構13に入力される情報τは、管理特性としての阻止ローラ12の圧力とオーバラップ量、この給紙機構13から取出される情報xは、紙送りの評価特性としての用紙15の張力と紙の動作遅れ時間である。また、ニューラルネットワーク27としては適宜構造のものでよいが、本実施例では、入力層、中間層及び出力層が各々2ニューロン(神経細胞模倣素子)からなる3層構造のものが用いられている。
【0022】このような構成において、まず、図1(a)に示すように管理特性τをスイープ、その時の紙送り機構の評価特性xをニューラルネットワーク27の入力として、このニューラルネットワーク27の出力と管理特性τとの誤差を演算器29で算出し、バックプロパゲーション法により逆伝播させて学習を行ない、紙送り機構の逆モデルを獲得する。
【0023】具体的には、図面用紙、135k上質紙、中厚口普通紙及び68kジアゾ用紙を各々通紙しながら、阻止ローラ12の圧力を50?500gf、オーバラップ量を0?2.0mmの範囲で変化させて行なうようにした。ただし、不送りが生じた場合には評価特性xは本来の意味を持たなくなるので、ニューラルネットワーク27には代用値を入力させて学習させるようにした。本実施例では、用紙15の張力を0gf、紙の動作遅れ時間を1.0秒とした。
【0024】動作時には、制御系28は図1(b)に示すような構成となる。ここで、xdは最も安定して紙送りを実行する評価特性xの値である。本実施例では、学習時において不送り及び重送のなかった場合の評価特性xの平均値を用いた。この時のニューラルネットワーク27の出力(管理特性τ)はオーバラップ量が1.18mm、阻止ローラ12の圧力が195gfである。
【0025】ここに、本実施例では、上述したようにニューラルネットワーク27を学習させて給紙動作を開始させ、その後は、随時、即ち給紙を行なう毎に、駆動時の管理特性τと評価関数xの測定値とを用いて修正学習を行なうものとした。
【0026】このような動作・制御をとる本実施例の効果を確認するために上質紙を用いて給紙試験を行なったところ、従来の給紙方式(阻止ローラ12の圧力を195gf、オーバラップ量を1.18mmに固定した状態での給紙方式)では給紙枚数が増えるに従いジャムの発生する確率が高くなったが、本実施例方式による場合には給紙枚数にかかわらず良好なる分離給紙結果が得られたものである。
エ.【図1】(b)は、第一の実施例の制御系の動作時のブロック図であって、最も安定して紙送りを実行する評価特性xdがニューラルネットワーク27に入力されていることが看取できる。

上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。
「少なくとも一部にニューラルネットワークを有して紙送り機構を制御する制御系を設けた紙送り装置において、
前記紙送り機構は、送りローラ11と阻止ローラ12とのローラ対による摩擦分離方式で給紙する給紙機構13であり、
阻止ローラ12の軸にはこの送りローラ11に対する阻止ローラ12のオーバラップ量を可変調整するためのアーム18及びソレノイド19からなるオーバラップ量調整機構20が連結され、また、阻止ローラ12の軸には別のレバー21も連結され、引っ張りばね22による圧力調整機構23と連結され、この圧力調整機構23は、モータによりカム23bを回転させて引っ張りばね22の長さを調整することによりその圧力を調整するものであり、
給紙機構13に、紙の張力を検出する張力検出センサ25と、信号が与えられてから紙15が動作するまでの遅れ時間を検出するフォトセンサ26が設けられ、
給紙機構13に入力される情報τは、管理特性としての阻止ローラ12の圧力とオーバラップ量であり、この給紙機構13から取出される情報xは、紙送りの評価特性としての用紙15の張力と紙の動作遅れ時間であって、
学習時には、阻止ローラ12の圧力を50?500gf、オーバラップ量を0?2.0mmの範囲で変化させて、評価特性xをニューラルネットワーク27に入力させて学習させるようにし、
動作時には、学習時において不送り及び重送のなかった場合の評価特性xの平均値であって、最も安定して紙送りを実行する評価特性xdがニューラルネットワーク27に入力され、その後は、随時、即ち給紙を行なう毎に、駆動時の管理特性τと評価関数xの測定値とを用いて修正学習を行ない、良好な分離給紙結果が得られる紙送り装置。」(以下、「引用発明」という。)

4.対比
本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「『ソレノイド19』及び『モータ』」、「『オーバラップ量調整機構20』及び『圧力調整機構23』」、「『オーバラップ量』、『阻止ローラ12の圧力』及び『管理特性τ』」、「『紙15』及び『用紙15』」、「紙送り装置」、「『紙送り機構』及び『給紙機構13』」、「『用紙15の張力』、『紙の動作遅れ時間』及び『評価特性x』」、「最も安定して紙送りを実行する評価特性xd」及び「ニューラルネットワーク27」は、それぞれ本願発明の「調整部材(M1...Mn)」、「制御機構(4,5,7,9)」、「機能パラメータ」、「『印刷紙葉』及び『印刷紙葉(6)』」、「紙葉供給装置」、「紙葉供給装置(1)」、「実際値」、「基準値」及び「制御装置(17)」に相当する。
引用発明は、「阻止ローラ12のオーバラップ量を可変調整するためのアーム18及びソレノイド19」を有しているから、ソレノイド19の変位によるアーム18を押圧する押圧力が生じことは明らかであり、また、引用発明は、「モータによりカム23bを回転させて引っ張りばね22の長さを調整」しているから、モータで回転させられるカム23bによる引っ張りばね22の張力が生じことは明らかである。よって、引用発明の前記ソレノイド19の押圧力及び引っ張りばね22の張力は、本願発明の「変更可能な動力」に相当する。
引用発明の「オーバラップ量調整機構20」によって、「オーバラップ量」が調整され、「圧力調整機構23」によって、「阻止ローラ12の圧力」が調整されることは明らかであるから、引用発明の「『オーバラップ量』及び『阻止ローラ12の圧力』」が、本願発明の「機能パラメータ」に相当する。
引用発明の「紙送り機構を制御する制御系」の内、「ニューラルネットワーク」を除いた部分に「ソレノイド19」及び「モータ」の制御を行う制御部分がそれぞれ存在することは明らかであるから、「ソレノイド19」の制御を行う部分及び「モータ」の制御を行う部分それぞれが、本願発明の「調整装置(C1,..Cn)」に相当し、それらを総称したものが、本願発明の「制御装置(2)」に相当する。
引用発明の「張力検出センサ25」は、「紙の張力を検出」し、引用発明の「フォトセンサ26」は、「信号が与えられてから紙15が動作するまでの遅れ時間を検出」するから、いずれも本願発明の「測定値記録装置(10,11、12)」と、「測定装置」の点で共通する。
引用発明の「ソレノイド19」の制御を行う部分及び「モータ」の制御を行う部分が、それぞれ「ソレノイド19」及び「モータ」に接続されていることは明らかである。
引用発明は、「最も安定して紙送りを実行する評価特性xdがニューラルネットワーク27に入力され、その後は、随時、即ち給紙を行なう毎に、駆動時の管理特性τと評価関数xの測定値とを用いて修正学習を行ない、良好な分離給紙結果が得られる」ものであるから、引用発明の「ニューラルネットワーク27」は、評価特性xdに適合させ、良好な分離給紙結果を得る処理手順で紙送りを実行しようとするものであり、本願発明の「基準値とアルゴリズムの適合を行うための学習可能な制御機構(17)」に相当する。
よって、両者は、
「調整部材によって変更可能な動力による制御機構によって調整可能な機能パラメータと調整部材の制御を行う制御装置とを備えている印刷紙葉のための紙葉供給装置において、
紙葉供給装置に、機能パラメータの挙動によって調整部材を介して制御機構を制御することにより供給された印刷紙葉の実際値の測定装置が設けられていること、および調整部材を制御するための上記制御装置が調整装置を備えており、この調整装置の調整出力部に上記調整部材が接続されていて、かつ上記制御装置がその基準値とアルゴリズムの適合を行うための学習可能な制御機構と結合されている紙葉供給装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]実際値の測定装置に関し、本願発明は、「実際値を記憶するための測定値記録装置(10,11、12)」と特定されているのに対し、引用発明は、紙の張力及び遅れ時間(実際値)を測定するものの、記憶しているか否か明らかでない点。
[相違点2]本願発明は、「この制御機構(17)に測定記録装置(10,11,12)の測定値と調整装置C1...Cn)の出力(22)とが導入可能であるように構成されている」と特定されているのに対し、引用発明は、制御機構(ニューラルネットワーク27)に測定値(評価特性x)を入力させるものの、調整装置の出力が導入可能であるか否か明らかでない点。
[相違点3]制御機構に関し、本願発明は「書込み/読取りデータ記憶装置を備えて形成されている」と特定されているのに対し、引用発明は、書込み/読取りデータ記憶装置を備えているか否か明らかではない点。

5.判断
上記相違点1について検討する。
引用発明は、「学習時には、阻止ローラ12の圧力を50?500gf、オーバラップ量を0?2.0mmの範囲で変化させて、評価特性xをニューラルネットワーク27に入力させて学習させるようにし」、「動作時には、学習時において不送り及び重送のなかった場合の評価特性xの平均値であって、最も安定して紙送りを実行する評価特性xdがニューラルネットワーク27入力され」るものである。制御系一般において、平均値を算出する際にデータを記憶することは例示するまでもなく周知技術である。引用発明において、平均値を算出するべく、測定値(評価特性x)を記憶するための記憶手段を設け、上記相違点1のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

上記相違点2について検討する。
引用発明の「紙送り機構を制御する制御系」の内、「ソレノイド19」の制御を行う部分及び「モータ」の制御を行う部分(本願発明の「調整装置」に相当。)が、それぞれ「ソレノイド19」の制御情報及び「モータ」の制御情報を出力していることは明らかであり、「ソレノイド19」の制御情報が「オーバラップ量」に関連し、「モータ」の制御情報が「阻止ローラ12の圧力」に関連していることは明らかである。また、引用発明は、「学習時には、阻止ローラ12の圧力を50?500gf、オーバラップ量を0?2.0mmの範囲で変化させ」、「給紙を行なう毎に、駆動時の管理特性τと評価関数xの測定値とを用いて修正学習を行な」うものである。一般に、制御系が精緻な制御をすることは自明の課題であるから、引用発明においても、制御系が精緻な制御を可能とするように、「ニューラルネットワーク27」に種々の情報を入力し、学習可能とするように、「ソレノイド19」の制御を行う部分及び「モータ」の制御を行う部分が出力している「ソレノイド19」の制御情報及び「モータ」の制御情報も「ニューラルネットワーク27」に導入可能とし、上記相違点2のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

上記相違点3について検討する。
一般に、制御機構に書込み/読取りデータ記憶装置を備えることは周知技術であり、引用発明の「ニューラルネットワーク27」には、「評価特性xdが入力され」ているから、該データを保持するように書込み/読取りデータ記憶装置を備え、上記相違点3のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
以上のように、本願発明の相違点1?3のような構成とすることは、刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたことであり、かかる発明特定事項を採用することによる本願発明の効果も当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-10 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-14 
出願番号 特願平8-140282
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 聡永石 哲也  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 上田 正樹
江成 克己
発明の名称 印刷紙葉のための紙葉供給装置  
代理人 江崎 光史  
代理人 奥村 義道  

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