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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01J
管理番号 1217358
審判番号 不服2007-30137  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-10 
確定日 2010-05-26 
事件の表示 特願2001-208598「冷陰極蛍光ランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月20日出願公開、特開2002-367561〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・当審拒絶理由の概要
この出願は、平成13年6月4日の特許出願であって、平成17年7月27日付けで手続補正(以下「補正1」という。)がなされ、平成19年7月13日付けで手続補正(以下「補正2」という。)がなされ、同年9月3日付け(送達:同年同月12日)で拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月7日付けで手続補正(以下「補正3」という。)がなされたものである。
その後、当審において、平成21年11月18日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、平成22年1月19日付けで手続補正(以下「補正4」という。)がなされるとともに、同日付けで意見書(以下単に「意見書」という。)が提出された。
そして、当審拒絶理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である特開平10-312887号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明、特開2001-15065号公報(以下「引用文献2」という。)に記載された発明、特開2001-76617号公報(以下「引用文献3」という。)に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、補正1ないし補正4により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定される次のとおりのものと認める。

「内面に蛍光体被膜を形成し、内径がφ1?φ4mmのガラスバルブ内に放電媒体を封入すると共に、前記ガラスバルブの内周面との間に隙間を形成して両端内側に1対の円筒状冷陰極を対向配置し封着してなる冷陰極蛍光ランプにおいて、
0.1?1.2mgのCs化合物からなるエキソ電子放射性物質よりなる金属膜を前記円筒状冷陰極の外周面に於ける内端部にのみ設け、前記円筒状冷陰極の内周面には設けず、且つ前記円筒状冷陰極の外周面と前記ガラスバルブの内周面との隙間をhとすると、該隙間hが0<h≦0.15mmに形成されていることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。」

第3 当審の判断
1 引用文献に記載された発明
当審拒絶理由で引用された引用文献1である特開平10-312887号公報には、以下の事項が記載されている。

<記載事項1>
「【0022】図1は冷陰極放電灯点灯装置の第1の要部構成例を示したものである。図1において、8は放電媒体(希ガス,水銀など)を封有するガラス管(たとえば外径2.0mm,内径 1.4mm,長さ 200mm)、9,9′は前記ガラス管8の両端部にそれぞれ封装された一対の冷陰極、10,10′は前記冷陰極9,9′に電気的に接続してガラス管8外部から所要の電力を供給する導入線、11,11′は前記冷陰極9,9′の外周面に設けられた SnO_(2) を主体とする電子放射性物質の塗布層、12はガラス管8内壁面に形成された蛍光体層である。
【0023】ここで、冷陰極9,9′は、Ni製の円筒電極などであり、前記ガラス管8の端部に封止・導入した導入線10,10′の先端を、前記Ni電極に溶接し、電気的および機械的に接続・保持して放電電極として機能させる構成を採っている。
【0024】また、13は電流制御手段、14は直流電圧発生装置である。そして、電流制御手段13は、前記冷陰極放電灯15の電子放射性物質11,11′の層を備えた一方の冷陰極9′に一端が直列に接続している。一方、直流電圧発生装置14は、前記電流制御手段13の他端に一端が直列に接続し、前記一方の冷陰極9′に正極性の電圧を定常的、パルス的もしくは脈動的に直流電圧を印加するするとともに、他端が他方の冷陰極9に接続し、かつ接地されている。」

<記載事項2>
「【0028】図6は、この発明に係る第2の冷陰極放電灯点灯装置の概略構成例を示す回路図である。この実施例は、電子放射性物質(Al_(2 )O_(3 ))11,11′の層を冷陰極9,9′先端に対応する位置(両者の先端部が一致)もしくは突出させて、ガラス管8内壁面に設けた他は、第1の構成例の場合と同様の構成を採ったものである。 図6に図示した構成を採った冷陰極放電灯点灯装置の場合も、図5の比較特性図に示す(線B)ように、放電遅れ時間(秒)がほぼ 3×10^(-3)? 7×10^(-2)程度で、大幅に低減・短縮しており、上記従来例に比べて、放電遅れが改善されるだけでなく、立上がりの信頼性も大幅に向上していることが確認された。
【0029】上記電子放射性物質の種類、その電子放射性物質の塗着部(電極外周面、電極周りのガラス管内壁面)、電流制御手段を介して印加する直流電圧の極性と、各冷陰極放電灯点灯装置の放電遅れの有無(立上がり特性の良否…○,×)を要約すると表に示すごとくなる。
【0030】

本発明は上記実施例に限定されるものでなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で、いろいろの変形を採ることができる。たとえば、ガラス管の外径、肉厚、長さ、あるいは円筒状カップの外径、肉厚、長さなど、直流電圧の発生手段、電子放射性物質も選択された種類の範囲内で適宜選択できる。」

<記載事項3>
「【0031】
【発明の効果】本発明によれば、冷陰極放電灯内に配置した電子放射性物質から、ほぼ同様に電子放射に寄与する。つまり、初期放電に要する電子が容易、かつ確実に供給されるので、放電遅れが大幅に解消されるだけでなく、放電の信頼性も向上し、たとえば筐体内に装着配置され、暗黒な状態におかれている場合でも、立上がり性のよい光照射装置が提供される。」

<記載事項4>
図1の記載は次のとおりである。




ア 記載事項1から、「内壁面に蛍光体層12が形成され、外径2.0mm、内径1.4mmのガラス管8に放電媒体を封有すると共に、ガラス管8の両端部に円筒電極である一対の冷陰極9、9’をそれぞれ封装し、冷陰極9,9’の外周面にSnO_(2)を主体とする電子放射性物質の塗布層11,11’が設けられた冷陰極放電灯15」との技術事項が読み取れる。

イ 「冷陰極9,9’がガラス管8の内周面との間に隙間を形成して配置される」という技術事項は、記載事項4の図1の記載及びこの出願の出願時の技術常識からみて明らかである。

ウ 記載事項2から、上記アの冷陰極放電灯15における冷陰極9,9’の外周面に設けられる電子放射性物質11,11’として、「Cs_(2)CO_(3)を用いる」との技術事項が読み取れる。

エ 記載事項3から、「冷陰極放電灯内に配置した電子放射性物質から初期放電に要する電子が供給されるので、暗黒な状態におかれている場合でも立ち上がり性がよい」との技術事項が読み取れる。

したがって、上記ア?エの技術事項を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「内壁面に蛍光体層12が形成され、外径2.0mm、内径1.4mmのガラス管8に放電媒体を封入すると共に、ガラス管8の内周面との間に隙間を形成して両端部に円筒電極である一対の冷陰極9、9’をそれぞれ封装した冷陰極放電灯15において、冷陰極9,9’の外周面にCs_(2)CO_(3)からなる電子放射性物質の塗布層11,11’が設けられ、電子放射性物質から初期放電に要する電子が供給されるので、暗黒な状態におかれている場合でも立ち上がり性がよい冷陰極放電灯15。」

当審拒絶理由で引用された引用文献2である特開2001-15065号公報には、以下の事項が記載されている。

<記載事項5>
「【0011】
【発明の実施の形態】次に、本発明にかかる冷陰極蛍光ランプの第1の実施例について図1を参照して説明する。同図において、1は、例えば硼・珪酸ガラスにて構成されたガラスバルブであって、それのバルブ外径は、例えば1.5?6.0mmの範囲内に、好ましくは1.5?3.0mmの範囲内に設定されている。尚、ガラスバルブ1は硼・珪酸ガラスの他に、鉛ガラス,ソーダガラス,低鉛ガラスなども使用できる。
【0012】このガラスバルブ1の内面にはそれのほぼ全長に亘って発光層2が形成されている。この発光層2を構成する蛍光体としては、例えばハロリン酸塩蛍光体,希土類蛍光体などの蛍光体を目的,用途などに応じて1種類を単独で、又は複数種類を混合して使用される。
【0013】又、上述のガラスバルブ1のそれぞれの端部には金属線材よりなる棒状,スリーブ状などの電極3,3が配置されている。この電極3,3としてはニッケルなどの金属部材が好適するが、他の金属を適用することも可能である。この電極3,3にはリード線4,4が電気的・機械的に接続されており、ガラスバルブ1の端部から外部に導出されている。尚、電極3とリード線4とは異なった部材にて構成されているが、両者を同一部材にて構成することも可能である。
【0014】特に、ガラスバルブ1の内部空間の任意部分にはセシウム化合物5が存在されている。この実施例では、少なくとも一方の電極3の表面に所定量のセシウム化合物5が被着されている。このセシウム化合物としては、酸化セシウム,塩化セシウム,硫酸セシウム,炭酸セシウム,クロム酸セシウム,硝酸セシウムよりなる群から選択された少なくとも1つが望ましく、電極3への被着量は0.1mg以上が、好ましくは0.1?10.0mgの範囲内が推奨される。
【0015】尚、ガラスバルブ1の内部空間にはアルゴン,ネオン,キセノンなどの希ガス及び水銀が所要量封入されている。」

<記載事項6>
「【0016】このように構成された冷陰極蛍光ランプは、例えば次のように製造される。まず、塩化セシウム,硫酸セシウム,炭酸セシウム,クロム酸セシウム,硝酸セシウムよりなる群から選択された少なくとも1つのセシウム化合物5を純水に混入・撹拌して適当な粘度の懸濁液を調製する。この懸濁液(5)に、リード線4に電気的・機械的に接続された一方の電極3を浸漬し引き上げ、乾燥させる。次に、内面に発光層2が形成されたガラスバルブ1の一方の端部内に電極3を、リード線4がガラスバルブ1の端部から突出するように配置する。この状態で、ガラスバルブ1の端部を加熱・軟化させることにより、リード線4は例えばガラスビードを介してガラスバルブ1の端部に気密に封止される。」

<記載事項7>
「【0019】この実施例によれば、少なくとも一方の電極3には0.1mg以上、好ましくは0.1?10.0mgの範囲に設定されたセシウム化合物5が被着されているために、暗黒状態で確実に点灯(始動)する割合を向上できる。従って、ノート形パソコン,ワープロなどのOA機器における液晶表示装置のバックライトユニットに適用した場合、そのバックライトユニット部分が仮に密閉構造に構成されてほぼ暗黒状態におかれていたとしても、確実に点灯させることができる。
【0020】しかしながら、セシウム化合物の被着量が0.1mg未満になると、暗黒状態での始動特性が損なわれ、始動しないものの割合が大きくなる。逆に、その割合が10.0mgを超えても、暗黒状態での始動特性は損なわれないものの、コストが高くなるのみならず、セシウム化合物が振動,衝撃によって電極3から剥離(脱落)して発光層2に付着して外観特性が損なわ易くなる。従って、セシウム化合物の被着量は上記範囲内に設定することが望ましい。」

<記載事項8>
「【0028】
【実施例】次に、実験例について説明する。図1において、外径が3mm,長さが230mmの硼・珪酸ガラスよりなるガラスバルブの内面に、453nmに発光ピークを有するユーロピウム付活クロロリン酸ストロンチウム・カルシウム・バリウム・マグネシウム蛍光体と544nmに発光ピークを有するセリウム・テルビウム付活リン酸ランタン蛍光体と453nmに発光ピークを有するユーロピウム付活酸化イットリウム蛍光体とを重量比でそれぞれ45%,25%,30%の割合で混合した混合蛍光体を塗布し、乾燥・焼成して発光層を形成する。次に、粉末状のクロム酸セシウムと純水とを混合して懸濁液を調製し、この懸濁液に、リード線の先端にバット溶接した1mmφ×4.5mm(外径×長さ)のニッケルよりなる電極を浸漬し、引き上げて乾燥させる。以下、図1に示す冷陰極蛍光ランプの製造方法に準じて冷陰極蛍光ランプを製造する。尚、ガラスバルブの内部空間にはネオン(95%)-アルゴンの混合希ガスと水銀5mgを封入した。
【0029】この冷陰極蛍光ランプにおいて、電極へのセシウム化合物の被着量を0?10mgの範囲で変化させて暗黒状態での始動状況(不点灯品の発生数)について測定したところ、図3に示す結果が得られた。尚、始動状況は、冷陰極蛍光ランプを、照度が0.1Lxに設定された環境下に24時間放置した後、電極間に50KHz,1000Vの高周波高電圧を印加し、それぞれの対象試料12本のうち、即時(20?30mS)に点灯しなかったものの本数を示している。
【0030】図3において、セシウム化合物の被着量が0mgのもの(従来品)では暗黒状態での不点灯品の発生数が12本中12本であり、0.05mgでは12本中6本であるが、0.1mgでは12本中1本に激減しており、0.5mg以上ではすべてが即時点灯している。尚、セシウム化合物の被着量が0.1mg未満の0?0.05mgでは即時点灯しないものの、10S以上経過した後に点灯するものもあり、点灯状態にバラツキが多く、安定性に欠けるものであった。」

<記載事項9>
図3の記載は次のとおりである。




オ 記載事項5から、「内面に蛍光体により構成される発光層2が形成され、外径が1.5?3.0mmのガラスバルブ1の内部空間に希ガス及び水銀が封入されており、ガラスバルブ1の端部に配置したスリーブ状の電極3の表面に炭酸セシウム、クロム酸セシウムなどのセシウム化合物5を0.1mg?10.0mg被着した冷陰極蛍光ランプ」との技術事項が読み取れる。

カ 記載事項7から、「電極3に0.1?10.0mgのセシウム化合物5を被着することにより、暗黒状態で確実に点灯する割合を向上する」との技術事項が読み取れる。

キ 記載事項8及び記載事項9から、上記オの冷陰極蛍光ランプの具体例として、「外径が3mmのガラスバルブの端部に配置した外径1mmφの電極の表面にセシウム化合物5としてクロム酸セシウムを0.1mg、0.5mg又は1.2mg被着した冷陰極蛍光ランプ」との技術事項が読み取れる。

したがって、上記オ?キの技術事項を総合勘案すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
「内面に蛍光体により構成される発光層2が形成され、外径が1.5?3.0mmのガラスバルブ1の内部空間に希ガス及び水銀が封入されており、ガラスバルブ1の端部に配置したスリーブ状の電極3の表面に炭酸セシウム、クロム酸セシウムなどのセシウム化合物5を0.1mg?10.0mg被着して暗黒状態で確実に点灯する割合を向上した冷陰極蛍光ランプであって、その具体例として外径が3mmのガラスバルブの端部に配置した外径1mmφの電極の表面にセシウム化合物としてクロム酸セシウムを0.1mg、0.5mg又は1.2mg被着した冷陰極蛍光ランプ。」

当審拒絶理由で引用された引用文献3である特開2001-76617号公報(公開日:平成13年3月23日)には、以下の事項が記載されている。

<記載事項10>
「【0037】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態につき、実施例の図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例では、外套管に耐熱ガラス材料を用いた液晶表示装置の照明装置に用いるための放電管(冷陰極蛍光灯)に本発明を適用した場合を例として説明する。
【0038】図1は本発明の1実施例を説明する放電管の要部断面図である。この放電管は外套管であるガラス管1の両端内部に電極2を収容してある。図1では一端部のみを示してある。
【0039】ガラス管1の内面には蛍光体層9が塗布されており、電極2はカップ状で、その一端にある開口部は主放電領域(両電極の間の領域:以下、単に放電領域)に向き、底部の外壁にはガラスの熱膨張率に近似する金属であるニッケル-コバルト-鉄合金の導入線3がレーザ溶接されている。溶接部を符号6で示す。」

<記載事項11>
「【0055】本実施例で用いるカップ状電極と外套管の寸法的な関係を図6(a)の断面図を用いて説明する。
【0056】本実施例では、ガラス管1の内径R2に対し、カップ状電極2の円筒部の外径R1を、エージング時のカップ内での放電がカップ外周に回らない程度の大きさに設定する。R1が小さいと、カップ状電極2内の放電がその外周に及び、カップ状電極2の外周にて当該電極表面がスパッタされる。このスパッタされた電極材料は、当該カップ状電極2の外周に対向する領域aとして図6(a)に示されるガラス管1の内壁に付着する。電極材料自体がガラス管1の内壁にスパッタ膜を形成すると、ガラス管内に封入された水銀を捕獲し、化合物(ニッケル電極の場合、ニッケル-水銀の化合物)を形成する。ガラス管1内に封入された放電管の発光動作に寄与する水銀の量は、その内壁上の電極材料のスパッタ膜に捕獲された分減少し、放電管の光源としての性能を損なう。
【0057】カップ状電極2の円筒部の外径R1をある程度大きくすると、カップ状電極2内部の放電に比べて、その外周の放電は弱まり、領域aにおけるガラス管1内壁における電極材料のスパッタ膜の形成は、その弊害が無視できる程度に抑えられる。このような条件を満たす上記R1とR2の比率は、放電管製品の保証値(エージング条件)と動作定格値として定められる電流値に依存する。例えば、保証電流値を8mA、定格電流値を6mAとした場合、R2=2mmに対して、R1は1.6mm以上、望ましくは1.7mm以上となる。換言すれば、カップ状電極2の円筒部(特に開口部)の外径R1は、ガラス管1の内径の80%以上、望ましくは85%以上に設定することになる。一方、カップ状電極2の円筒部の外径R1の上限は、これをガラス管1に組み込む加工精度に依存し、上記R2=2mmのガラス管1を用いる本実施例の場合、R1は1.8mm以下(R2の90%以下)に設定することになった。なお、カップ状電極2の円筒部の外径R1のガラス管1の内径R2に対する比率の下限は、これを利用する放電管の保証電流値や定格電流値が低くなるほど下がる。」

ク 記載事項10から、「内面に蛍光体層9が塗布されたガラス管1の両端内部にカップ状の電極2を収容した冷陰極蛍光灯。」との技術事項が読み取れる。

ケ 記載事項11から、上記クの冷陰極蛍光灯において、「ガラス管1の内径R2に対し、カップ状電極2の円筒部の外径R1を、エージング時のカップ内での放電がカップ外周に回らない程度の大きさにして、その具体例として、R2=2mm、R1は1.7mm以上とする」との技術事項が読み取れる。ここで、R2=2mm、R1が1.7mm以上のとき、「カップ状電極の外周面とガラス管の内周面との隙間は0.15mm以下」となる。

したがって、上記ク?ケの技術事項を総合勘案すると、引用文献3には次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認める。
「内面に蛍光体層9が塗布されたガラス管1の両端内部にカップ状の電極2を収容した冷陰極蛍光灯において、ガラス管1の内径R2に対し、カップ状電極2の円筒部の外径R1を、エージング時のカップ内での放電がカップ外周に回らない程度の大きさにした冷陰極蛍光灯であって、その具体例として、R2=2mm、R1は1.7mm以上とし、カップ状電極の外周面とガラス管の内周面との隙間を0.15mm以下とした冷陰極蛍光灯。」

2 対比
本願発明と引用発明1とを比較する。

ア 引用発明1の「蛍光体層12」は本願発明の「蛍光体被膜」に相当し、以下同様に、「外径2.0mm、内径1.4mmのガラス管8」は「内径がφ1?φ4mmのガラスバルブ」に、「放電媒体」は「放電媒体」に、「円筒電極である一対の冷陰極9、9’」は「1対の円筒状冷陰極」に、それぞれ相当する。また、引用発明1の「冷陰極放電灯15」は、蛍光体層12を有するものであるから、本願発明の「冷陰極蛍光ランプ」に相当することは明らかである。
そうすると、引用発明1の「内壁面に蛍光体層12が形成され、内径1.4mmのガラス管8に放電媒体を封入すると共に、ガラス管8の内周面との間に隙間を形成して両端部に円筒電極である一対の冷陰極9、9’をそれぞれ封装した冷陰極放電灯15」は、本願発明の「内面に蛍光体被膜を形成し、内径がφ1?φ4mmのガラスバルブ内に放電媒体を封入すると共に、前記ガラスバルブの内周面との間に隙間を形成して両端内側に1対の円筒状冷陰極を対向配置し封着してなる冷陰極蛍光ランプ」に相当する。

イ 引用発明1の「Cs_(2)CO_(3)」は、本願発明の「Cs化合物」に相当する。また、引用発明1の「Cs_(2)CO_(3)からなる電子放射性物質」は、暗黒な状態におかれている場合でも初期放電に要する電子を供給するものであるから、本願発明の「Cs化合物よりなるエキソ電子放射性物質」に相当するといえる。
また、「金属膜」は、狭義には金属元素のみからなる膜を意味すると考えられるが、本願発明の「金属膜」は、Cs化合物からなるエキソ電子放射性物質よりなるものであり、本願明細書の発明の詳細な説明には、Cs化合物の具体例として、Cs_(2)CrO_(4)、CsClが挙げられている(【0006】)。
そうすると、本願発明の「金属膜」は、金属元素のみからなる膜だけを意味するのではなく、非金属元素を含む金属化合物からなる膜も含むものと解されるから、引用発明1の「Cs_(2)CO_(3)からなる電子放射性物質の塗布層11,11’」は、本願発明の「Cs化合物からなるエキソ電子放射性物質よりなる金属膜」に相当するといえる。

ウ 引用文献1には、Cs_(2)CO_(3)からなる電子放射性物質の塗布層11,11’を冷陰極のどの部分に設けるかに関し、記載事項1の「11,11′は前記冷陰極9,9′の外周面に設けられた SnO_(2) を主体とする電子放射性物質の塗布層」という記載や、記載事項2の「上記電子放射性物質の種類、その電子放射性物質の塗着部(電極外周面、電極周りのガラス管内壁面)」という記載がある。
これらの記載のとおり、引用文献1には、電子放射性物質の塗布層を冷陰極又は電極の内周面には設けないことについての積極的な記載はないが、電子放射性物質の塗布層を冷陰極又は電極のどこに設けるかに関しては、その外周面に設けることのみが記載されていることからみて、電子放射物質の塗布層を冷陰極又は電極の内周面には設けないと解するが自然である。
したがって、上記イの点も考慮すれば、引用発明1の「冷陰極9,9’の外周面にCs_(2)CO_(3)からなる電子放射性物質の塗布層11,11’が設けられ」と、本願発明の「0.1?1.2mgのCs化合物からなるエキソ電子放射性物質よりなる金属膜を前記円筒状冷陰極の外周面に於ける内端部にのみ設け、前記円筒状冷陰極の内周面には設けず」とは、Cs化合物からなるエキソ電子放射性物質よりなる金属膜を前記円筒状冷陰極の外周面に設け、前記円筒状冷陰極の内周面には設けない点で共通する。

よって、上記ア?ウを勘案すれば、本願発明と引用発明1の両者は、
「内面に蛍光体被膜を形成し、内径がφ1?φ4mmのガラスバルブ内に放電媒体を封入すると共に、前記ガラスバルブの内周面との間に隙間を形成して両端内側に1対の円筒状冷陰極を対向配置し封着してなる冷陰極蛍光ランプにおいて、
Cs化合物からなるエキソ電子放射性物質よりなる金属膜を前記円筒状冷陰極の外周面に設け、前記円筒状冷陰極の内周面には設けない冷陰極蛍光ランプ。」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
Cs化合物からなるエキソ電子放射性物質の重量について、本願発明は、0.1?1.2mgであるのに対して、引用発明1は、Cs_(2)CO_(3)からなる電子放射性物質の重量が不明である点。

[相違点2]
金属膜を設ける位置について、本願発明は、金属膜を円筒状冷陰極の外周面に於ける内端部にのみ設け、円筒状冷陰極の内周面には設けないのに対して、引用発明1は、電子放射性物質の塗布層を冷陰極9,9’の外周面に設け、冷陰極9,9’の内周面には設けないものの、外周面の内端部にのみ設けるかどうかは明らかでない点。

[相違点3]
円筒状冷陰極の外周面とガラスバルブの内周面との隙間hについて、本願発明は、隙間hが0<h≦0.15mmに形成されているのに対して、引用発明1は、当該隙間hの大きさが不明である点。

3 相違点についての判断
上記相違点について検討する。

[相違点1]について
引用発明2を再掲する。
「内面に蛍光体により構成される発光層2が形成され、外径が1.5?3.0mmのガラスバルブ1の内部空間に希ガス及び水銀が封入されており、ガラスバルブ1の端部に配置したスリーブ状の電極3の表面に炭酸セシウム、クロム酸セシウムなどのセシウム化合物5を0.1mg?10.0mg被着して暗黒状態で確実に点灯する割合を向上した冷陰極蛍光ランプであって、その具体例として外径が3mmのガラスバルブの端部に配置した外径1mmφの電極の表面にセシウム化合物としてクロム酸セシウムを0.1mg、0.5mg又は1.2mg被着した冷陰極蛍光ランプ。」

引用発明1と引用発明2とはいずれも、暗黒状態での点灯を改善するという同一の目的のために、筒状の電極の少なくとも外周面にセシウム化合物を被着するという同一の構成を採用した冷陰極蛍光ランプに関する発明であり、さらには、そのガラスバルブの外径も、引用発明1が2mm、引用発明2が1.5?3.0mmと、同等のサイズである冷陰極ランプに関する発明である。
そうすると、引用文献1ではCs_(2)CO_(3)からなる電子放射性物質の被着量についての記載はないものの、同一の目的のために、同等のサイズの冷陰極蛍光ランプの筒状の電極の少なくとも外周面に電子放射物質を被着した引用発明2を参酌して、その被着量を引用発明2における具体値と同じく0.1mg、0.5mg又は1.2mgとして、暗黒状態で確実に点灯する割合を向上するようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

請求人は意見書で、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項に関して、引用文献2には、本願発明でエキソ電子放射性物質の重量を1.2mg以下とする理由であるちらつきに関する記載がなく、また、ちらつきは冷陰極の外周面に電子放射性物質を塗布した場合に発生する特有の現象であり、引用文献2に記載のガラスバルブ内面やリード線等に電子放射性物質を設けたランプにはちらつき現象は発生しないので、ちらつき無発生の効果は引用文献2からは予測できない顕著な効果である旨を主張している。
なるほど、引用文献2には、セシウム化合物の被着量とちらつきとの関係についての直接的記載はない。しかしながら、本願発明でちらつきを考慮した結果規定される電子放射性物質の重量である0.1?1.2mgなる値は、本願発明や引用発明1のような内径φ1?φ4mmのガラスバルブ内に冷陰極を対向配置した冷陰極蛍光ランプの暗黒状態での点灯を改善するために、冷陰極の少なくとも外周面に被着される電子放射性物質としてのセシウム化合物の重量として、引用文献2に具体例として開示されていることは上記のとおりであり、本願発明がちらつきを考慮して規定したエキソ電子放射性物質の重量は従来公知の値に過ぎない。換言すれば、従来実施されていたエキソ電子放射性物質の重量が、従来実施されていた他の重量に対してちらつきが少ないという、公知の構成の奏する作用を発見ないし確認したに過ぎないものである。
また、引用発明2は請求人の主張するようにガラスバルブ内面やリード線等に電子放射性物質を設けたランプではなく、電極の表面に電子放射性物質を設けたものであり、電極の表面が電極の外周面を含むことは、引用文献2の上記記載事項6における、セシウム化合物5の懸濁液に電極を浸漬することにより電極の表面にセシウム化合物5を被着する旨の記載からも明らかなことである。そうすると、請求人の主張するちらつき無発生の効果は、電極の外周面を含む表面にセシウム化合物5を0.1mg、0.5mg又は1.2mg被着した引用発明2が本質的・内在的に有する効果であるといえる。
よって、請求人の上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項に関する主張は採用できない。

したがって、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1,2に基づいて、当業者が容易に想到し得る事項である。

[相違点2]について
まず、引用文献1には電子放射性物質の塗布層を冷陰極の外周面のどの部分に設けるか特に記載されていないが、初期放電に要する電子を供給するという電子放射性物質の塗布層に求められる特性からすれば、塗布層は放電が起こる側である内側即ち内端部も含めて設けられると考えるのが自然である。

ここで、本願発明が金属膜を円筒状冷陰極の外周面に於ける内端部にのみ設けることの技術的意義について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、次の記載がある。

「【0009】
本発明において、エキソ電子放射性物質よりなる金属膜5を円筒状冷陰極3の外周面に於ける内端部のみに塗布し、内周面には塗布しない理由は、エージング時間の短縮化、イニシャル時の輝度の向上及びスネーキングの発生を防止するためである。
(中略)
又、25℃の温度環境及びランプ電流8mAの条件下でエージング15分後のランプ点灯状態を調べた。スネーキング発生率が、図1及び図2に示される実施例の冷陰極蛍光ランプは0%であった。比較のために、有底円筒状冷陰極の外周面内端部及び内周面にCs_(2)CrO_(4)の金属膜を被着形成した電極を用いた冷陰極蛍光ランプについても同様の条件でエージング15分後のランプ点灯状態を調べた。その結果は、スネーキング発生率が100%であった。上記スネーキング発生率の結果及び図6より、有底円筒状冷陰極は、エキソ電子放射性物質の金属膜を内周面に形成することは好ましくないことが判明した。」

上記の記載は、金属膜を内周面には設けず、外周面にのみ設けるのは、エージング時間の短縮化、イニシャル時の輝度の向上及びスネーキングの発生を防止するためであることを説明するものであるが、金属膜を外周面に設ける際に、外周面のうち「内端部にのみ」設けることの技術的意義は何ら説明されていない。さらには、「内端部」が外周面の内側端部からどの領域までを指すのかも、発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明である。

そして、引用発明1は電子放射性物質の塗布層を冷陰極9,9’の内周面には設けないものであることは先に述べたとおりであるから、本願発明で金属膜を外周面のうち内端部にのみ設けることに格別の技術的意義が認められない以上、引用発明1において電子放射性物質の塗布層を冷陰極9,9’の外周面の内端部にのみ設けることは、当業者が適宜なし得る設計変更の域を出るものではない。

請求人は意見書で、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項に関して、本願発明は円筒状冷陰極の内周面や内端面(先端面)には金属膜を設けないものであるのに対して、引用発明1は電子放射性物質の塗布を冷陰極の内端面(先端面)にも設けているので、これによりスネーキングが発生するという問題点を有している旨を主張している。
しかしながら、まず、本願発明の「金属膜を円筒状冷陰極の外周面に於ける内端部にのみ」設けることは、本願明細書の発明の詳細な説明の上記の記載からみて、金属膜を内周面には設けず、外周面のしかも内端部に設けたことを意図したにとどまるのであって、内端面(先端面)に設けないことまでをも意味しているとは解されない。したがって、請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、採用できない。
また、仮に本願発明の「金属膜を円筒状冷陰極の外周面に於ける内端部にのみ」設けることが、内端面(先端面)に設けないことを特定するものであるとしても、金属膜を内端面(先端面)に設けた場合と設けない場合とのスネーキングの発生の比較については、本願明細書の発明の詳細な説明には何ら記載されておらず、また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から推論できるものでもない。よって、請求人の主張する、内端面(先端面)に設けないことによりスネーキングの発生が防止できるという効果は参酌できない。
よって、請求人の上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項に関する主張は採用できない。

したがって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得る事項である。

[相違点3]について
引用発明3を再掲する。
「内面に蛍光体層9が塗布されたガラス管1の両端内部にカップ状の電極2を収容した冷陰極蛍光灯において、ガラス管1の内径R2に対し、カップ状電極2の円筒部の外径R1を、エージング時のカップ内での放電がカップ外周に回らない程度の大きさにした冷陰極蛍光灯であって、その具体例として、R2=2mm、R1は1.7mm以上とし、カップ状電極の外周面とガラス管の内周面との隙間を0.15mm以下とした冷陰極蛍光灯。」

引用文献1,3に記載された発明のような円筒状電極を有する冷陰極蛍光ランプにおいて、放電が円筒状電極の外周に回り込むのが好ましくないことは、引用文献3の他にも、当審拒絶理由でも示した特開平8-321279号公報(特に、【0005】参照。以下「周知例1」という。)や、特開平6-20644号公報(特に、【0007】参照。以下「周知例2」という。)に見られるように、本願出願時によく知られていることである。また、放電が筒状の冷陰極の外周に回り込むとちらつきが起こり好ましくないことも、周知例1,2に見られるように、この出願の出願時に周知の技術事項である。

よって、引用発明1において、引用発明3及び上記周知の技術事項を参酌して、ガラス管8の内径に対し冷陰極9,9’の外径を放電が冷陰極9,9’の外周に回り込まない程度の大きさとすることは当業者が容易になし得たことである。また、本願発明において冷陰極9,9’の外周面とガラス管8の内周面との隙間hの具体的な値として0.15mm以下のものとすることも、ガラス管1の内径R2が、本願発明の内径φ1?φ4mmや引用発明1の内径1.4mmと略同程度の2mmである引用発明3において、カップ状電極の外周面とガラス管の内周面との隙間が0.15mm以下とされていることからみて、格別のものではない。

請求人は意見書で、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項に関して、放電の回り込み現象はマイナスの要素だけではなく、距離hを小さい値に設定することは必ずしも好ましいことではない旨、及び、周知例1にも引用文献3にも放電の回り込みとちらつきの関係については一切記載されていない旨を主張している。
しかしながら、まず、放電の回り込みとちらつきの関係は周知例1,2に記載されており、周知の技術事項であることは上記のとおりである。
また、引用文献3に距離hを小さくすることにより放電がカップ外周に回らないようにすることが記載されていることは上記のとおりであり、上記周知の技術事項を参酌すれば放電の回り込みによるちらつきを防止するという、引用発明1に引用発明3を適用する動機づけがあるから、仮に請求人が主張するように距離hを大きくすることに何らかの好ましい点があったとしても、このことが引用発明3の引用発明1への適用を阻害する要因とはならない。
よって、請求人の上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項に関する主張は採用できない。

したがって、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1,3及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得る事項である。

そして、相違点1ないし3に係る本願発明の発明特定事項を総合的に勘案しても、各相違点に係る発明特定事項を併せて採用することに格別の困難性は認められない。

また、本願発明によってもたらされる効果についても、引用発明1ないし3及び周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1ないし3及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-29 
結審通知日 2010-03-31 
審決日 2010-04-14 
出願番号 特願2001-208598(P2001-208598)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 剛  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 山川 雅也
波多江 進
発明の名称 冷陰極蛍光ランプ  
代理人 河野 隆一  

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