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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1217367
審判番号 不服2009-12788  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-14 
確定日 2010-05-26 
事件の表示 特願2005-211764「転がり軸受用保持器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 1日出願公開、特開2007- 24295〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成17年7月21日の出願であって、平成21年4月2日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年7月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成21年7月14日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年7月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成21年7月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
グリース封入転がり軸受の転動体を保持し、使用時においてグリース中へのクロムの溶出がない金属製の転がり軸受用保持器の製造方法であって、
冷延鋼板からなる前記保持器の表面に防錆処理として電気亜鉛メッキを施す工程と、該保持器を水洗して硝酸水溶液に浸漬し、再度水洗する工程と、該保持器を3価クロム浴に浸漬して乾燥する3価クロメート処理工程とを有することを特徴とする転がり軸受用保持器の製造方法。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である金属製の転がり軸受用保持器について、「使用時においてグリース中へのクロムの溶出がない」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:特開2002-357227号公報

原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物1には、「転がり軸受」に関し、図1とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、環境汚染が生じることがない転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の転がり軸受、特に玉軸受においては、シール装置は外輪の内周面に固定されていることが一般的である。シール装置としては、シールド板(図1参照)やゴムシール装置(図2参照)が一般的に知られており、シールド板は金属製で、内輪の外周面との間に僅かなラビリンスが形成された非接触タイプである。……
【0003】このようなシールド板及びゴムシール装置の芯金には、従来は、耐食性に優れた複合電気亜鉛メッキ鋼板(電気亜鉛合金メッキ鋼板)が用いられている。この複合電気亜鉛メッキ鋼板は、母材となる冷延鋼板に、亜鉛,ゴバルト,モリブデン等の金属(亜鉛が主成分)を含む処理液で電解処理して第1層目のメッキ層を設けた後、さらに6価クロムクロメートで電解処理を行って第2層目のメッキ層を設けたものである。
……
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような複合電気亜鉛メッキ鋼板は、有毒な6価クロムを含有しているため、環境汚染の問題等により使用が難しくなってきている。そこで、本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決し、6価クロムのような有毒な物質を含有せず環境汚染が生じることがない転がり軸受を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1に記載の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記両輪の間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記両輪のいずれか一方に取り付けられて前記両輪の間に介在されたシール装置と、を備えるとともに、前記シール装置が、金属板で構成されたシールド板と、金属板で構成された芯金及び該芯金の少なくとも一部に固着されたゴム部を備えたゴムシール装置と、の少なくとも一方である転がり軸受において、前記金属板は、厚さ0.1?1.0mmの冷延鋼板に、電気亜鉛メッキ,……及び3価クロムクロメート処理のうちの少なくとも1種の表面処理を施したものであることを特徴とする。
【0007】このような構成であれば、前記シール装置が有毒な6価クロムを含有していない前記金属板で構成されているので、前記シール装置を備えた転がり軸受から有毒な6価クロムが溶出することがなく、環境汚染が生じることがない。……」

(イ) 「【0010】次に、冷延鋼板に施される表面処理について説明する。有毒な6価クロムを使用する前述の複合電気亜鉛メッキに代わる環境汚染の問題のない表面処理としては、具体的には、電気亜鉛メッキ,……3価クロムクロメート処理等があげられ、これらは耐食性及びコスト面で実用的である。」

(ウ) 「【0014】次に、上記の各表面処理について詳細に説明する。電気亜鉛メッキは、硫酸亜鉛メッキ浴(硫酸浴),塩化亜鉛メッキ浴などの中に冷延鋼板を通して処理を行う方法が一般的であり、6価クロムクロメート処理と組み合わせた複合電気亜鉛メッキに比べて耐食性の面ではやや劣るが、ゴムとの接着性に優れている。……
【0015】前記金属板をゴムシール装置の芯金として使用する場合は、芯金の表面は実質的にゴム部を接着するための接着剤で覆われているから、耐食性はそれほど問題とはならないが、シールド板として使用する場合は、耐食性をさらに向上させるために、電気亜鉛メッキを施した後にリン酸塩処理や3価クロムクロメート処理を施すことが好ましい。」

(エ) 「【0020】……3価クロムクロメート処理は単独で用いられることは少なく、主に他の金属メッキ処理の後にさらに耐食性,ゴムとの接着性を向上させるために行う。……
……
【0022】さらに、3価クロムクロメート処理は、具体的には、硫酸クロムや塩化クロムをベースとする3価クロム浴などの中に通して処理を行う方法が一般的である。……」

(オ) 「【0025】まず、図1の玉軸受について説明する。図1の玉軸受は、内輪1と、外輪2と、前記両輪1,2の間に転動自在に配設された複数の玉3と、両輪1,2の間に玉3を保持する保持器4と、シール装置であるシールド板5,5(ZZ形)と、を備えている。シールド板5は、環状の板状部5aの外周縁部に係止部5bが連続して形成された構成となっていて、この係止部5bを、外輪2の内周面の両端部に外輪2の全周にわたって設けらた断面略V字形のシール溝2a,2aに嵌入することにより、シールド板5,5が外輪2に固定されている。
【0026】そして、シールド板5の板状部5aの内周縁部が内輪1の外周面に近接していて(非接触)、シールド板5,5が内輪1の外周面と外輪2の内周面との間の開口部分をほぼ覆っている。このことによって、内輪1と外輪2との間に形成される空間(玉3の設置部分)に存在する図示しないグリースや発生したダストが外部に漏洩したり、あるいは、外部に浮遊する塵挨が該空間内に侵入したりすることが防止されている。
【0027】このシールド板5は、厚さ0. 3mmのアルミキルド鋼からなる冷延鋼板に電気亜鉛メッキを施して表面処理層を設けた金属板を、プレス金型を用いて打ち抜いて製造したものである。……」

(カ) 「【0035】このような玉軸受のシールド板又はゴムシール装置に、1wt%濃度の塩化ナトリウム水溶液を、外方から板状部に対して垂直に噴霧して(噴霧量は1L/min)、12時間後のシールド板又はゴムシール装置の表面の錆の発生を観察した(耐食性試験)。その結果を表3及び表4に示す。」

(キ) 「【0038】表3及び表4においては、錆の発生が認められなかったものを○、錆の発生が僅かに認められたものを△、錆の発生が全面において認められたものを×として示した。表3及び表4の耐食性試験の結果のうちシールド板を備えた玉軸受の試験結果から、表面処理層の平均付着量が多いほど耐食性が優れている傾向があることがわかる。平均付着量と錆の発生の関係から、各メッキの耐食性を判断すると、以下の序列(右へ向かうにしたがって耐食性高い)になることがわかった。
【0039】電気亜鉛メッキ<……<電気亜鉛-ニッケル合金メッキまた、第一の表面処理を施した後に3価クロムクロメート処理,……を施すことによって、耐食性が向上することがわかる。」

上記記載事項(ア)?(キ)によれば、刊行物1には、環境汚染が生じることがない金属製の転がり軸受用シールド板の製造方法が記載されているものと認められる。特に、上記記載事項(オ)及び図1の記載を参酌すれば、転がり軸受の実施の形態である玉軸受には、グリースが封入されているものと認められ、また、冷延鋼板からなるシールド板5の表面には電気亜鉛メッキが施されるものと認められ、上記記載事項(カ)(キ)からみて、上記電気亜鉛メッキを施す工程は、耐食性を向上させて錆の発生を防止するための防錆処理として行われるものと認められる。さらに、上記記載事項(ウ)(エ)によれば、刊行物1には、上記電気亜鉛メッキを施す工程の後に、シールド板を3価クロム浴などの中に通して処理を行う3価クロムクロメート処理工程を有することが記載されているものと認められる。

よって、上記記載事項(ア)?(キ)及び図面の記載を総合すると、刊行物1には、
「グリース封入転がり軸受の金属製の転がり軸受用シールド板の製造方法であって、
冷延鋼板からなる上記シールド板の表面に防錆処理として電気亜鉛メッキを施す工程と、該シールド板を3価クロム浴などの中に通して処理を行う3価クロムクロメート処理工程とを有する転がり軸受用シールド板の製造方法。」
の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.発明の対比

本願補正発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「シールド板」及び本願補正発明の「保持器」は、ともに転がり軸受に備えられる「転がり軸受用部材」といえるものである。また、処理対象物を3価クロム浴などの中に通した後、通常は乾燥するものであるから、刊行物1発明の「3価クロム浴などの中に通して処理を行う3価クロムクロメート処理工程」は、本願補正発明の「3価クロム浴に浸漬して乾燥する3価クロメート処理工程」に実質的に相当する。

よって、本願補正発明と刊行物1発明とは、
[一致点]
「グリース封入転がり軸受の金属製の転がり軸受用部材の製造方法であって、
冷延鋼板からなる前記転がり軸受用部材の表面に防錆処理として電気亜鉛メッキを施す工程と、該転がり軸受用部材を3価クロム浴に浸漬して乾燥する3価クロメート処理工程とを有する転がり軸受用部材の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「転がり軸受用部材」が、本願補正発明では、転動体を保持する「保持器」であるのに対して、刊行物1発明では、「シールド板」である点。

[相違点2]
本願補正発明では、「防錆処理として電気亜鉛メッキを施す工程」と「3価クロム浴に浸漬して乾燥する3価クロメート処理工程」との間に、「水洗して硝酸水溶液に浸漬し、再度水洗する工程」を有するのに対して、刊行物1発明では、そのような工程がない点。

[相違点3]
本願補正発明では、「使用時においてグリース中へのクロムの溶出がない」金属製の転がり軸受用保持器であるのに対して、刊行物1発明では、「環境汚染が生じることがない」金属製の転がり軸受用シールド板であるものの、「使用時においてグリース中へのクロムの溶出がない」かどうか明らかではない点。

4.当審の判断

(1)相違点1について
刊行物1の上記記載事項(オ)及び図1には、転がり軸受の実施の形態である玉軸受が、シールド板5とともに玉3を保持する保持器4を備えていることが記載されている。上記保持器4の材質としては種々のものがあるが、冷延鋼板等の鉄製の保持器も一般的に用いられているところである。そして、冷延鋼板等の鉄製の保持器においては、耐食性を向上させて錆の発生を防止するために、保持器の表面に亜鉛メッキを施した後にクロメート処理を施すことは周知の技術である(例えば、特開平1-295022号公報の第2ページ右下欄第7?20行、特開平9-88974号公報の段落【0011】?【0013】を参照)。
そうすると、刊行物1に記載された転がり軸受の保持器の材質を上記シールド板と同様の冷延鋼板にすることは、当業者が設計上考慮できる材料の選択にすぎず、当該保持器に刊行物1発明のシールド板の製造方法を適用することに当業者が格別の困難性を要することはなく、そのことを阻害するような事情も見あたらない。したがって、刊行物1発明の製造方法を転がり軸受の保持器に適用して3価クロムクロメート処理(3価クロメート処理)を含む処理を行うことにより、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
亜鉛メッキ工程と3価クロメート処理工程との間に、「水洗して硝酸水溶液に浸漬し、再度水洗する工程」を設けることは、周知の技術である(例えば、特開2003-3270号公報の段落【0007】、【0009】、【0010】、【0018】、【0023】を参照)から、刊行物1発明における、「防錆処理として電気亜鉛メッキを施す工程」と「3価クロム浴などの中に通して処理を行う3価クロムクロメート処理工程」との間に、「水洗して硝酸水溶液に浸漬し、再度水洗する工程」を設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
上記相違点1及び相違点2に係る本願補正発明の製造方法は、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術から当業者が容易に想到し得たものである以上、当該製造方法により製造された金属製の転がり軸受用保持器は、「使用時においてグリース中へのクロムの溶出がない」という機能を備えているものというべきであるから、上記相違点3に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)作用効果について
本願補正発明が奏する作用効果は、いずれも刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成21年7月14日付けの審判請求書の請求の理由において、刊行物1には、保持器表面の3価クロメート処理層から封入グリースへのクロム溶出を防止するという課題(課題1)、及び、グリース封入軸受のメンテナンス時に、その洗浄に際して洗浄液の影響により保持器表面の3価クロメート処理層が剥離することを防止するという課題(課題2)は記載されていない旨主張し、また、当審における審尋に対する平成21年12月4日付けの回答書においても、同様の主張をしている。
しかしながら、本願補正発明及び刊行物1発明は、環境汚染が生じることがないようにするという主要な課題においては共通しているし、また、上記(1)?(3)で説示したように、刊行物1発明の製造方法及び上記各周知の技術を適用した冷延鋼板の転がり軸受用保持器は、上記課題1及び課題2を解決し得るものである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成21年7月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成20年12月2日付け及び平成21年2月13日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
グリース封入転がり軸受の転動体を保持する金属製の転がり軸受用保持器の製造方法であって、
冷延鋼板からなる前記保持器の表面に防錆処理として電気亜鉛メッキを施す工程と、該保持器を水洗して硝酸水溶液に浸漬し、再度水洗する工程と、該保持器を3価クロム浴に浸漬して乾燥する3価クロメート処理工程とを有することを特徴とする転がり軸受用保持器の製造方法。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、金属製の転がり軸受用保持器についての限定事項である「使用時においてグリース中へのクロムの溶出がない」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定的に減縮した本願補正発明が、上記【2】3.及び4.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2010-03-12 
結審通知日 2010-03-23 
審決日 2010-04-05 
出願番号 特願2005-211764(P2005-211764)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 勇  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 大山 健
常盤 務
発明の名称 転がり軸受用保持器の製造方法  
代理人 和気 操  

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