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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04R
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04R
管理番号 1217555
審判番号 不服2008-13151  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-22 
確定日 2010-06-22 
事件の表示 特願2006-276769「ヘッドホン装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月15日出願公開、特開2007- 43744、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年10月10日の出願であって、特願平10-105029号(出願日:平成10年4月15日)の分割出願であり、平成19年10月3日付け拒絶理由通知に応答して平成19年12月10日付けで手続補正書が提出され、更に平成20年1月7日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに応答して平成20年3月14日付けで手続補正書が提出されたが、平成20年4月10日付けで当該手続補正書は却下され、同日付で拒絶査定がなされたものである。
これに対し、平成20年5月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年6月23日付けで手続補正がなされている。

第2 平成20年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年6月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
本件補正は、平成19年1月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1について、補正前の
「【請求項1】
耳介の表面部にスピーカユニットの放音部を当接させるように、上記スピーカユニットを収納したハウジングと、
上記ハウジングが回動可能に取り付けられ、耳掛け部を有し、利用者の後頭部を回り込むように装着されるヘッドバンドとを備え、
上記耳掛け部は、装着時に耳介の前側部に対応する位置に位置する取付部を有すると共に、耳介の上方部に対応する位置から耳介の裏側部とこの耳介の裏側部に対向する頭部との間に介在される部材とを有し、
上記ハウジングの耳介の前側部に対応する位置に支持機構を設けると共に、上記取付部を支持機構に係合させ、上記取付部と上記支持機構とにより耳介を挟む方向に上記ハウジングを付勢するバネ部材を上記係合位置に係合させて、非装着時に上記取付部と上記支持機構とが近接するようにしたヘッドホン装置。」
を、
「【請求項1】
耳介の表面部にスピーカユニットの放音部を当接させるように、上記スピーカユニットを収納したハウジングと、
上記ハウジングが回動可能に取り付けられ、耳掛け部を有し、利用者の後頭部を回り込むように装着され、頭部を挟む方向に付勢されるヘッドバンドとを備え、
上記耳掛け部は、装着時に耳介の前側部に対応する位置に位置する取付部を有すると共に、耳介の上方部に対応する位置から耳介の裏側部とこの耳介の裏側部に対向する頭部との間に介在される部材とを有し、
上記ハウジングの耳介の前側部に対応する位置に支持機構を設けると共に、上記取付部を支持機構に係合させ、上記取付部と上記支持機構とにより耳介を挟む略水平方向に上記ハウジングを付勢するバネ部材を上記取付部と上記支持機構との係合位置に係合させて、非装着時に上記取付部と上記支持機構とが近接するようにし、
上記支持機構は、上記取付部に対して、上記ハウジングを、このハウジングより上記耳介の前側部側に突出した接続部で、略垂直方向に延びた上記取付部側の支軸によって上記耳介を挟む略水平方向に回動支持し、
上記ハウジングを上記支軸及びこの支軸の延長線上より離間するように配置するヘッドホン装置。」
と補正するものである。

当該補正は、補正前の請求項1における支持機構について、
「上記支持機構は、上記取付部に対して、上記ハウジングを、このハウジングより上記耳介の前側部側に突出した接続部で、略垂直方向に延びた上記取付部側の支軸によって上記耳介を挟む略水平方向に回動支持し、
上記ハウジングを上記支軸及びこの支軸の延長線上より離間するように配置する」と、形式的に限定的減縮をするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、同法を単に「平成18年改正前特許法」と記す。)第17条の2第4項の規定に適合するものである。

しかしながら、「上記ハウジングを上記支軸及びこの支軸の延長線上より離間するように配置」なる記載は、その意味が不明である。
その結果、当該補正による請求項1の記載は、特許を受けようとする発明を明確に記載したものではなく、本願は特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、出願の際に独立して特許を受けられるものではない。
したがって、当該補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 平成20年4月10日付けの補正の却下の決定について

[結論]
平成20年4月10日付けでした、平成20年3月14日付け手続補正書でした明細書、特許請求の範囲、又は図面についての補正の却下の決定を取り消す。

[理由]

1.平成20年3月14日付けの手続補正

当該補正により補正された特許請求の範囲に記載された発明は次のものである。
「 【請求項1】
耳介の表面部にスピーカユニットの放音部を当接させるように、上記スピーカユニットを収納したハウジングと、
上記ハウジングが回動可能に取り付けられ、耳掛け部を有し、利用者の後頭部を回り込むように装着されるヘッドバンドとを備え、
上記耳掛け部は、装着時に耳介の前側略中央部に対応する位置に位置する取付部を有すると共に、耳介の上方部に対応する位置から耳介の裏側部とこの耳介の裏側部に対向する頭部との間に介在される部材とを有し、
上記ハウジングは、耳介の前側略中央部に対応する位置に支持機構を設けると共に、上記取付部を当該支持機構に係合させ、上記取付部と上記支持機構とにより耳介を挟む方向に上記ハウジングを付勢するバネ部材を上記係合位置に係合させて、回動可能に支持されると共に、非装着時に上記取付部と上記支持機構とが近接するようにしたヘッドホン装置。 」

2.平成20年4月22日付け補正却下の理由

当該補正却下の理由は、平成20年3月14日付け手続補正書に記載の本願の請求項1に係る発明について、
「 出願人は、先の拒絶理由に対し、手続補正書を提出するとともに、意見書において「引用文献1(実願昭57-086392号(実開昭58-189694号)のマイクロフィルム)記載のものは、耳かけ部とハウジング部をバネ性が付加されている回動部を介して取付けていて、この点では本願発明と一部類似するところはあるが、しかし、引用文献1記載のものは、回動部は耳介の上部側に配置するものであって、本願発明のように耳掛け部は、装着時に耳介の前側略中央部に対応する位置に位置する取付部を有し、ハウジングは、耳介の前側略中央部に対応する位置に支持機構を設け、上記取付部を当該支持機構に係合させるようにしたものではない」という旨を主張している。
しかしながら、回動部をどこに取り付けるかは当業者が実施にあたって適宜決定しうる事項であって、耳介の前側略中央部に配置したことで顕著な作用効果を奏するものとも認められない。
してみると、文献1においても、回動部を耳介の前側略中央部に配置し、支持機構をそれに対応する位置に設けるようにすることは、当業者が容易になし得たものである。
したがって、当該補正後の請求項1に係る発明は、独立して特許を受けることができない。
よって、この補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。 」
とするものである。

3.当該補正の却下の決定を取り消す理由

引用文献1(実願昭57-086392号(実開昭58-189694号)のマイクロフィルム)には、ドライバーを内装したハウジング部10と、耳かけ部11と、耳かけ部と連結されたリアバンド12と、ハウジング部10と耳かけ部11との間にあって耳介の前側部に位置し、バネ性を付加されて、ハウジング部10を耳に押しつけるための回動部13を有するヘッドホンが記載されている。
しかしながら、第3図から明らかなように、引用文献1記載のものは、回動部は耳介の上部側に配置するものであって、本願発明のように耳掛け部は、装着時に耳介の前側略中央部に対応する位置に位置する取付部を有し、ハウジングは、耳介の前側略中央部に対応する位置に支持機構を設け、上記取付部を当該支持機構に係合させるようにしたものではない。

当該補正による本願請求項1に係る発明は、「耳介の前側略中央部に対応する位置に支持機構を設けると共に、上記取付部を当該支持機構に係合させ、上記取付部と上記支持機構とにより耳介を挟む方向に上記ハウジングを付勢するバネ部材を上記係合位置に係合させて、回動可能に支持されると共に、非装着時に上記取付部と上記支持機構とが近接するようにした」ものである。
ここで、当該補正による本願請求項1に係る発明における「耳かけ部」とは、明細書及び図面の記載から明らかなように、図において42で示されるヘッドバンドの一部(耳にかかる部分)を構成するものであるから、回動可能な支持機構は、ヘッドバンドの先端である取付部に設けられることを意味する。
したがって、当該補正による本願請求項1に係る発明は、ハウジングはヘッドバンドに対して回動し、バネ性の回動部は、ハウジングはヘッドバンドに対して近接するように、耳に押しつけてヘッドホンを装着するものである。

一方、引用文献1に記載の発明における耳かけ部11は、単に耳かけ部という意味で広義には同じことではあるものの、この耳かけ部11には、耳介の前側に位置するものが存在しないから、該補正による本願請求項1に係る発明と引用文献1に記載の発明とにおいて、「耳かけ部」という同じ文言を用いているものの、両者の意味するものは相違する。

また、引用文献1に記載された発明は「リアバンド」を有するものであって、「ヘッドバンド」を有しない。「リアバンド」と「ヘッドバンド」が異なるものであることは、該引用文献1の明細書第4頁の記載から明らかである。

当該補正による本願請求項1に係る発明において、回動部は「装着時に耳介の前側略中央部に対応する位置」に位置するものであり、耳介の前側から水平方向に回動するものであるのに対し、引用文献1に記載の発明は、耳介の前側に位置するものが何ら存在せず、回動部はが耳介の上部に位置するものであって、回動方向が相違する。

また、この構成上の相違により、引用文献1に記載の発明が、回動部が左右個々の耳介において独立して耳介を挟むことになるのに対して、当該補正による本願請求項1に係る発明は、ヘッドバンドを介在することにより左右両耳介を挟むことになる。
両者はヘッドホン装着時の装着感が全く異なるものであり、当該補正による本願請求項1に係る発明と、引用文献1に記載の発明は、その効果においても相違する。

また、拒絶理由において引用された引用文献2(実願昭54-070997号(実開昭55-171183号)のマイクロフィルム)、および引用文献3(実願昭56-036036号(実開昭58-006489号)のマイクロフィルム)は、「耳かけ部側に設けられた取付部とハウジング側に設けられた支持機構によってハウジングと耳かけ部を取り付けるもの」として提示されたものであり、引用文献1に記載された発明における「耳かけ部」が本願請求項1に係る発明における「耳かけ部」と実質的に相違するものであると同様、引用文献2、3に記載の発明も、当該補正による本願請求項1に係る発明の上記特徴を何ら示唆するものではない。

したがって、当該補正による本願請求項1に係る発明は、引用文献1?3に記載の発明から容易に発明をすることができたとすることはできない。

平成20年4月22日付け補正却下において、「回動部をどこに取り付けるかは当業者が実施にあたって適宜決定しうる事項であって、耳介の前側略中央部に配置したことで顕著な作用効果を奏するものとも認められない。」点を容易性の判断として、補正却下の理由としたものであるが、引用文献1には、そもそも耳介の前側に耳かけ部は存在しないのであるから、そのような判断は誤りである。
したがって、当該補正を特許法第29条第2項違背による独立特許要件違背とすることはできない。

よって、平成20年3月14日付けの手続補正に対する補正の却下の決定を取り消す。

第4.本願発明について

1.本願発明の認定

平成20年4月10日付けの補正の却下の決定は取り消されたため、本願の請求項に係る発明は、平成20年3月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載されたは次のものとなる。(再掲)

「 【請求項1】
耳介の表面部にスピーカユニットの放音部を当接させるように、上記スピーカユニットを収納したハウジングと、
上記ハウジングが回動可能に取り付けられ、耳掛け部を有し、利用者の後頭部を回り込むように装着されるヘッドバンドとを備え、
上記耳掛け部は、装着時に耳介の前側略中央部に対応する位置に位置する取付部を有すると共に、耳介の上方部に対応する位置から耳介の裏側部とこの耳介の裏側部に対向する頭部との間に介在される部材とを有し、
上記ハウジングは、耳介の前側略中央部に対応する位置に支持機構を設けると共に、上記取付部を当該支持機構に係合させ、上記取付部と上記支持機構とにより耳介を挟む方向に上記ハウジングを付勢するバネ部材を上記係合位置に係合させて、回動可能に支持されると共に、非装着時に上記取付部と上記支持機構とが近接するようにしたヘッドホン装置。 」
(以下、これを「本願発明」と記す。)

2.拒絶査定の適否の判断

平成20年4月10日付け拒絶査定は、平成20年1月7日付け拒絶理由通知書に記載された理由により拒絶をすべきとしたものである。
平成20年1月7日付け拒絶理由通知書に記載された理由は、本願請求項1に係る発明が、次の3つの文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、としたものである。
「 引 用 文 献 等 一 覧
1.実願昭57-086392号(実開昭58-189694号)
のマイクロフィルム
2.実願昭54-070997号(実開昭55-171183号)
のマイクロフィルム
3.実願昭56-036036号(実開昭58-006489号)
のマイクロフィルム 」

しかしながら、上記「第3」において判断したように、文献1には、本願発明の特徴である「取付部と上記支持機構とにより耳介を挟む略水平方向に上記ハウジングを付勢するバネ部材を上記取付部と上記支持機構との係合位置に係合させて、非装着時に上記取付部と上記支持機構とが近接するように」する点については、記載も示唆もされていない。
また、文献2、文献3に記載の発明も、耳かけ部側に設けられた取付部とハウジング側に設けられた支持機構によってハウジングと耳かけ部を取り付けたものではあるが、本願発明の特徴については記載も示唆もされていない。

本願発明の構成を、拒絶理由通知書で提示した刊行物に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない。

よって、原査定は誤りである。

第5 むすび

平成20年4月10日付けでなされた、平成20年3月14日付け手続補正に対する補正の却下の決定、並びに同日付けでなされた拒絶査定に対する判断は上記のとおりである。

なお、平成20年8月1日付け前置報告書において、周知発明として特開平10-79994号公報が提示されいる。
この周知発明は、スピーカを取り付けてヘッドホンとして使用可能な耳カバー装置であって、スピーカの取り付けられる耳カバー部と後頭部において頭部を挟む方向に付勢するバンド部の連結構造として、耳カバー部側の突出タブとバンド部側のタブとが略垂直方向に延びたヒンジ用の軸であるピンによって耳介を挟む略水平方向に回動支持するものの、これは本願発明の特徴である、「取付部と上記支持機構とにより耳介を挟む略水平方向に上記ハウジングを付勢するバネ部材を上記取付部と上記支持機構との係合位置に係合させて、非装着時に上記取付部と上記支持機構とが近接するように」する考え方を示唆するものではない。
該周知発明を拒絶理由通知で提示した文献1?3に記載の発明と組合せたとしても、本願発明の構成を想起することはできない。

なお、引用文献1に記載の発明は、「ヘッドバンド」に代えて後頭部のみに位置する「リアバンド」を用いる発明でるあるから、引用刊行物1に記載の発明に対して「ヘッドバンド」を用いるようにすることには、そもそも阻害要因がある。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2010-06-10 
出願番号 特願2006-276769(P2006-276769)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H04R)
P 1 8・ 121- WY (H04R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 境 周一小宮 慎司新川 圭二  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 吉村 博之
伊藤 隆夫
発明の名称 ヘッドホン装置  
代理人 藤井 稔也  
代理人 小池 晃  
代理人 野口 信博  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 祐成 篤哉  

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