• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200625545 審決 特許
不服20051624 審決 特許
不服200721854 審決 特許
不服200627219 審決 特許
不服200510192 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1217610
審判番号 不服2006-27912  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-11 
確定日 2010-06-02 
事件の表示 平成 7年特許願第511488号「慢性痛の処置に有用なレボブピバカイン」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 4月20日国際公開、WO95/10276、平成 9年 4月15日国内公表、特表平 9-503777〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成6年10月13日(パリ条約による優先権主張1993年10月13日、イギリス国)を国際出願日とする出願であって、平成18年8月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成18年12月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は,明細書の記載からみて、平成13年10月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)

「1.レボブピバカイン又はその塩を含む、実質上デクスブピバカインを含まない、ヒトの患者において慢性痛を処置するための医薬組成物。」

3.引用文献の記載の概要
これに対して、原審における拒絶の理由に引用された,本願の優先日前である1974年に頒布された”Anesthesia and Analgesia, 1974, Vol.53, No.6, p.841-843"(以下、「引用例A」という。)には,次の事項が記載されている。(原文は英文)
a-1.「ブピバカインを用いた硬膜外ブロックによる慢性痛の処置
悪性腫瘍ではない重度の(severe)疼痛を有する13人の患者に対して、繰り返しブピバカイン(0.75%)を硬膜外に投与して(痛みを)ブロックする処置をした。そのうち10人の患者において、永続的で顕著な軽減から完全な(6ヵ月以上)軽減が見られた。このテクニックは、難治性疼痛に対する各種の処置に簡便で安全な手段を付加するものと思われる。脊髄の膠様質への作用が仮定できる。」(冒頭部分)
a-2.「悪性腫瘍ではない重度の疼痛の軽減は、繰り返し神経をブロックするか、硬膜下腔内のバルボタージ(脊椎麻酔の一方法)、あるいはクモ膜下で高浸透圧性の冷却された生理食塩水を用いることにより、時折成功するにもかかわらず、神経外科学あるいは神経剥離術が道理に合わない(unjustified)場合に、依然として成功してない。ハンニントン-キフは、最近、1回のブピバカインによる末梢ブロック後に改善したことを報告している。彼の結果は、いまだ確認されておらず、彼の手法はわれわれの13人の患者では失敗した。しかしながら、彼らの内10人は、ブピバカインを硬膜外に繰り返し注射した後に顕著な、あるいは完全な軽減を示した。」(841頁左欄1行?12行)
a-3.「すべての末梢および硬膜外ブロックには、保存剤を含有せず、1:200,000の割合でエピネフリンを含有するブピバカイン(0.75%)を用いた。改善された患者らは、各々、少なくとも6ヵ月継続した。誰も明確な感覚上の、あるいは運動場の欠損を示さなかった。13人のケースを表にまとめた。」(841頁左欄下から7行?末行)
a-4.「考察
慢性痛は、非常に大きな主観的要素を有しており、自然の寛解を示すこともあり、不合理な処置に対してすら応答する。したがって、客観的な研究が困難である。我々の研究結果は、この重要な留保の下に提出されるものである。
末梢ブロックよりも硬膜下ブロックに応答した我々の患者らは、示唆の役割を除外している、すなわち「悪循環」から逃れているようにみえ、かつ、ブピバカインの中心的な作用を指摘しているようにみえる。ブロメージとコーエンの研究によれば、硬膜外薬剤は、後部索および側柱、とくに膠様質に蓄積する。ブピバカイン投与後にみられる術後無痛は、この薬剤が、既に報告されたバルボタージや生理食塩水による洗浄後にみられるように、脳脊髄幹の長期の変化を引き起こすという見解を支持するだろう。当該文献では、ブピバカイン投与後の神経または脳脊髄幹における組織学的変化を示す証拠は提出していないが、神経組織に対して、単回または繰り返しでの接触後におけるこの薬剤の作用についての徹底的な研究は存在しない。」(841頁右欄1行?下から6行)
a-5.上記13人の患者と、そのブピバカイン投与形態及びその結果が表にしめされており、例えば26歳の患者については、大腿切断(AK)後5年間、ひどく痛む幻想肢痛(既に無い足が痛む)、断端および瘢痕を有していたが、毎日8ml(0.75%のブピバカインを含有。以下同じ。)を3日間硬膜外カテーテル経由で投与下結果、顕著に改善し、義足を付けて仕事に復帰することができ、さらなる治療は不要であったこと、22歳の患者については、右足からシュラプネル(人名)除去後6ヶ月間右足の中心部および中間部のひどい神経痛を有していたが、毎日10mlを3日間硬膜外カテーテル経由で投与下結果、残留不快感は最小になり、激しい肉体作業にもどることができ、さらなる処置は不要とみなされたこと、20歳の患者については、強制された行進のあと6ヶ月間、激しい、絶え間ない広範な痛みを左足に感じたが、理学療法(P.T.)では軽減しなかたところ、毎日8mlを3日間硬膜外カテーテル経由で投与した結果、完全で永久的な軽減が達成できたこと、55歳の患者については、右鼠径部および陰嚢における3週間にわたるひどい神経痛を有し、尿管結石除去後6ヵ月経ってから痛み出したところ、6mlの硬膜外単回投与を毎日、2日間行った結果、完全で永久的な軽減を達成できたこと、48歳の患者については、右鼠径部のヘルニア縫縮術後、4週間にわたり、痛みのある瘢痕を有していたが、毎日6mlを3日間硬膜外カテーテル経由で投与したら、完全で永久的な軽減を達成できたこと、50歳の患者については、胸部に管挿入後、5週間にわたり、右のT6肋間のひどい神経痛を有していたが、毎日4mlを3日間硬膜外カテーテル経由で投与した結果、完全で永久的な軽減を達成できたこと、63歳の患者については、ヘルペス感染後の、右のT8からT10に至る肋間神経痛の4ヵ月にわたるひどい痛みがあり、非常に衰弱したが、毎日3mlの単回投与でのT8-T9の硬膜外ブロックを4日間行った結果、顕著な改善が得られ、いくらかの残留不快感が残ったこと、78歳の患者については、ヘルペス感染後の、右のT4からT5に至る肋間神経痛の6ヵ月にわたるひどい痛みがあったが、毎日4mlを3日間硬膜外カテーテル経由で投与した結果、顕著な改善が得られ、いくらかの残留不快感が残ったことが記載されている。(842頁の表)

また、同じく原審における拒絶の理由に引用された,本願の優先日前である1993年9月に頒布された”Anesth. Analg., 1993,Sep.,Vol.77,No.3,p.477-482"(以下、「引用例B」という。)には、以下の記載がある(原文は英語)。
b-1.「(表題)心筋によるブピバカインの摂取:単離された灌流下のラビットの心臓におけるブピバカインエナンチオマー類の薬物速度論及び薬力学
(要約)ラセミ薬剤のエナンチオマー類は、一般に、その薬物速度論的及び/又は薬力学的性質において相違する。ブピバカインは、単離された神経調整物に対して異なった毒性を示すことが知られている2つの光学異性体の混合物であるので、われわれは、R(+),S(-)-エナンチオマー及びブピバカインのラセミ体の心筋の摂取動態を比較するために、単離されたラビットの心臓モデルで一定の速度で冠動脈流入(coronary inflow)を行っているものを用いることを決定した。QRS期間の増加も測定した。また、3つの薬剤について、流入濃度ー効果の相関性を分析した。ブピバカインの2つのエナンチオマー及びラセミ体は同じような心筋の薬物速度的性質を示した。・・・。全ての薬剤は、投与を中止すると、急激な流出濃度の低下を示した。定常状態での組織/灌流液濃度比は、3つの薬剤で同じようなものだった。S(-)異性体を投与された心臓では、R(+)体あるいはラセミ混合物よりもはるかに少ない、重篤な不整脈の発生を伴ったQRS期間の増幅(widening)を示した(pronounced)。Emaxモデルについては、不整脈の発生にもかかわらず、QRS期間の増幅は適切にモデル化された(modelled)。Emax(QRS期間の理論的最大値)の半値を生起する流入灌流濃度であるC50は、3つの薬剤全てにおいて同じであった。著者達は、S(-)ブピバカインはより小さな有害作用を、蛋白質を含有しない緩衝液中での一定の冠血流量において灌流下にある単離されたウサギの心臓に対して及ぼすという結論に至った。」(477頁)

また、同じく原審における拒絶の理由に引用された,本願の優先日前である1972年に頒布された”Acta Pharmacol. et Toxicol., 1972, Vol.31, p.273-286"(以下、「引用例C」という。)には、以下の記載がある(原文は英語)。
c-1.「(表題)2種の局所麻酔化合物の光学活性異性体毒物学的及び局所麻酔効果
要約:「・・・・。ブピバカイン:静注及び皮下注射で投与された場合、ブピバカインの異性体間には、その毒性において大きな差異があった;D(+)異性体はより毒性であった。このことは、L(-)ブピバカインによる浸潤麻酔(infiltration anaesthesia)の非常に長い(持続)期間と同様に、ブピバカイン異性体間の吸収速度の相違を示すものである。これは、メピバカイン異性体について実証されたものと同様である。」(273頁)
c-2.「図5:メピバカイン、ブピバカイン及びそれらの光学異性体のモルモットにおける皮内でのwheal testでの麻酔期間」(280頁)

4.対比・判断
上記3.a-1.,a-2.及びa-5.によれば、引用例Aには、「ブピバカインを含む、ヒトの患者において慢性痛を処置するための医薬組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、「ブピバカインを含む、ヒトの患者において慢性痛を処置するための医薬組成物」である点で一致し、一方、前者においては、ブピバカインのエナンチオマーであるレボブピバカインとデクスブピバカインの等量混合物であるブピバカインラセミ体のうち、レボブピバカインを含み、実質上デクスブピバカインを含まないのに対して、後者においてはレボブピバカインとデクスブピバカインの等量混合物であるブピバカインを含有する点で相違する。

この相違点について検討すると、本願の優先日前の医薬分野において、一般にブピバカインのような不斉炭素を1つ有する薬理活性化合物には平面化学構造が同じ2つのエナンチオマーが存在すること、また、各エナンチオマーには、その薬効ばかりでなく、吸収、分布、代謝、排泄、副作用等の生体に対する薬理作用においても、程度の差はあれ、しばしば相違することは周知であったものと認められる。
そうすると、ブピバカインラセミ体が慢性痛の治療に有効であることが引用例Aにより知られているときに、まず該ラセミ体を構成する2つのエナンチオマーのいずれが慢性痛の処置に、より有効性を示すのかを調べてみようとすることは、治療の目的に適した特定の薬理作用のみを持つ医薬品が強く求められていることからも、至極当然のことである。
なお、これら2つのエナンチオマーは既にいずれも引用例B等に記載されているように、本願優先日前に各種薬理実験などに実際に使用されているものであり、それらの副作用についても各種の実験が行われているものである。
そして、慢性痛の治療という観点を考慮すれば、長期治療における副作用について、2つのエナンチオマーを検討することに格別の困難性は認められない。
なお、心毒性については、レボブピバカインのほうがデクスブピバカインよりも少ないことが引用例Cなどで、本願優先日前に知られている。
また、その指標として、それぞれの組織蓄積を調べることについても、長期治療における毒性などの副作用の有無を確認するうえで、普通に想到しうるものである。
2つのエナンチオマーのいずれがより少ない副作用を示すのかを予め予想することはできないものの、それを決定・確認することには格別の困難性は認められず、したがって、そのようにしてレボブピバカインの方がデクスブピバカインよりも組織蓄積性が低いことを確認しても、組織蓄積性を含め生体に対する挙動が2つの光学活性体間で種々に相違する可能性が予想されるのであるから、そのことに格別の困難性は認められない。

請求人は、平成19年4月5日付けで提出した、審判請求を補充する補正書の2頁22行?29行において、「一般に医薬に用いられる典型的な化合物について、一方のエナンチオマーが活性であり、他方のエナンチオマーは不活性であることが知られておりました。しかし、ブピバカインはかかる典型的な化合物には該当しません。従来技術においていずれかのエナンチオマーの長期投与に伴う問題点の比較はなされておらず、単に一方のエナンチオマーであるレボブピバカインの心毒性が低いことが開示されているだけであって、長期投与を伴う慢性疼痛の処置においていずれのエナンチオマーが有効であるかとの開示はなされておりません。」と主張しているが、2つのエナンチオマーが存在する医薬について、「一方のエナンチオマーが活性であり、他方のエナンチオマーは不活性である」という場合のみが「典型的」なのではなく、その薬理効果についていえば、その活性においてそれほど差が無い場合を含めて、いろいろな場合があることは周知なのであって、ブピバカインのようにその2つのエナンチオマーが慢性痛に対する効果にそれほど差がないことをもって、ブピバカインが「かかる典型的な化合物には該当しません」ということにはならない。たとえば、ブピバカインと同様に1つの不斉炭素原子を有する(S)-イブプロフェンは、インビボで(R)-イブプロフェンの約1.4倍のプロスタグランジン阻害作用を示し、ケタミンの(+)-体は強い麻酔作用を持つが、(-)-体は弱い麻酔作用を持ち(平成元年10月10日学会出版センター発行、日本化学会編「季刊化学総説No.6,1989 光学異性体の分離」、214頁)、さらに、ベラパミルは、(-)-体も(+)-体とほぼ同じ程度の冠血管拡張作用を持つが、その心筋収縮力抑制作用および心筋伝導抑制作用は(+)-体の方が少ないので(+)-体の方が安全性の高い、より好ましい抗狭心薬である(以上、「月刊薬事」Vol.29、No.10,1987、23頁右欄?24頁左欄)といった具合である。また、引用例Aによりブピバカインが慢性痛の処置に有効であることが知られているのであるから、その副作用として長期投与に伴う問題点の比較をしてみようとすること及びその確認をすることに格別の困難性が認められないことは上述のとおりであるから、請求人の上記主張は妥当でない。
そして、本願発明の奏する効果についても、2つしかないエナンチオマーのうちのいずれかがより少ない副作用を示す可能性が期待される状況下で、そのエナンチオマーのうちのレボブピバカインが、長期投与の際の副作用が他のエナンチオマーであるデクスブピバカインよりも少ないということを単に確認したというだけのものであり、引用例A?Cから予想される範囲を顕著に超えるものとはいえないものである。

6.むすび
したがって,本願発明は,引用例A、BおよびCに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-22 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-19 
出願番号 特願平7-511488
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中木 亜希  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 穴吹 智子
弘實 謙二
発明の名称 慢性痛の処置に有用なレボブピバカイン  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  
代理人 松谷 道子  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ