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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1217680
審判番号 不服2007-33914  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-17 
確定日 2010-06-03 
事件の表示 平成8年特許願第289622号「多層流体導管」拒絶査定不服審判事件〔平成9年9月30日出願公開、特開平9-257191号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成8年10月31日の出願(パリ条約による優先権主張1995年11月2日、アメリカ合衆国)であって、平成19年9月13日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年1月9日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年1月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成20年1月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明

本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項25は、
「【請求項1】 完全に閉じられた、管状外表面を持つある長さの中空鉄含有金属パイプ;この金属パイプの閉じられた、管状外表面をパイプの端から端まで完全に被覆している均一厚さのCPVC層;およびパイプ長の上記完全に閉じられた管状外表面に沿って且つその周囲にあり、金属パイプとCPVC層との間でCPVC層を金属パイプの管状外表面に結合させている熱活性接着剤層、を含有してなる多層流体導管。」及び
「【請求項25】 鉄含有金属パイプ長の完全に閉じられた管状外表面に沿って且つ完全にその周囲に熱活性接着剤層を適用し;この層を加熱により活性化させ;そして、金属パイプの閉じられた外表面の端から端まで完全に被覆している鉄含有金属パイプ長の管状外表面の完全に周囲で且つ完全に沿って、CPVCが活性接着剤層によって管状外表面に結合されるようにCPVCの管状層を押し出す、上記工程からなる多層流体導管を製造する方法。」である。

そして、本件補正により、特許請求の範囲請求項1及び請求項24は、
「【請求項1】 完全に閉じられた、管状外表面を持つある長さの中空スチールパイプ;このスチールパイプの閉じられた、管状外表面をパイプの端から端まで完全に被覆している均一厚さのCPVC層;およびパイプ長の上記完全に閉じられた管状外表面に沿って且つその周囲にあり、スチールパイプとCPVC層との間でCPVC層をスチールパイプの管状外表面に結合させている熱活性接着剤層、を含有してなる多層流体導管。」及び
「【請求項24】 スチールパイプ長の完全に閉じられた管状外表面に沿って且つ完全にその周囲に熱活性接着剤層を適用し;この層を加熱により活性化させ;そして、スチールパイプの閉じられた外表面の端から端まで完全に被覆しているスチールパイプ長の管状外表面の完全に周囲で且つ完全に沿って、CPVCが活性接着剤層によって管状外表面に結合されるようにCPVCの管状層を押し出す、上記工程からなる多層流体導管を製造する方法。」に補正された。(下線部は、補正箇所に関して、審判請求人が付したものである。)

上記本件補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「鉄含有金属パイプ」又は「金属パイプ」を、「スチールパイプ」に減縮するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、同様に、本件補正後の請求項24についてみても、実質的に、本件補正前の請求項25に記載した発明を特定するために必要な事項である「鉄含有金属パイプ」又は「金属パイプ」を、「スチールパイプ」に減縮するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、上記本件補正は、新規事項を追加する補正には該当しない。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)及び本件補正後の請求項24に係る発明(以下、「本願補正発明24」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例1
原査定の拒絶理由通知において引用された刊行物である、特開昭55-57788号公報(以下、「引用例1」という。)には、「変形可能なチューブおよびその製法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
なお、拗音の大文字を小文字で表記した箇所がある。

(あ)「本発明は加圧下に流体および/または流体伝達信号を搬送するために使用される変形可能なチューブ、さらに詳しくは金属内層と高分子外層とをポリアミドを主成分とする熱溶融接着剤で結合されてなる複合壁を有し、上記内外層の壁厚が実質的に均一な半径方向厚みを有するとともに、高分子または金属製の同一寸法の単一壁を有するチューブ材に連結させるために通常使用されるような連結具に寸法変更を行うことなく、取付けることができるように外径を製造工程中に調製した変形可能なチューブに関する。」(第2頁右上欄第20行?左下欄第10行)
(い)「金属製チューブおよびパイプを高分子材料で被覆することは腐食環境からの保護方法として従来考えられてきた。」(第3頁右上欄第8?10行)
(う)「第1図において、チューブ1は溶接されて継ぎ目のないまたは溶接されかつ引き抜かれた管形状の内層2とその周りに同様に広がって配置された高分子外層3とからなる環状の複合壁で孔5が包囲されている。内層2および外層3の環状壁は実質的に均一な壁厚を有し」(第4頁左上欄第13?18行)
(え)「第1図の内層2はすべての適当な金属材料から製造することができる」(第5頁左上欄第6?7行)
(お)「第2図において、外層3は耐食性、耐候性およびその他の所望の特性を有する適当な高分子材料から製造することができる。高分子外層3は、例えば浸漬、スプレー、粉末溶融等の方法により接着剤層4の外表面に適用することができるが、外層3がそれと直接接触する内表面によって接着剤層4の周りに適合するように高分子外層3を層4の周りに押出成形するのが好ましい。例えば、ゴム、ナイロン、熱可塑性ゴム、ポリウレタン等の種々熱可塑的に加工可能な高分子材料が外層3として選ばれるが、ポリ塩化ビニルまたは高密度ポリエチレン組成物を押出成形して外層3を形成するのが好ましい。」(第5頁左上欄第13行?右上欄第5行)
(か)「接着剤層4はポリアミド系の熱溶融接着剤から構成され、チューブの製造工程中に適用される。管状の内層2の表面を均一に被覆するには、溶融形態のポリアミド系熱溶融接着剤を含む加熱貯槽に通すかまたは粉末形態のポリアミド系熱溶融接着剤の中に適当に加熱された管状の内層2を通過させる流動床法により層2の周りに接着剤層を形成することができるが、押出成形法により層4を均一に付着させるのが好ましい。」(第5頁左下欄第1?9行)
(き)「この加熱された状態にある接着剤被覆チューブを押出加工機内を通して移動させ、接着剤被覆金属チューブの周りに同様の広がりをもって高分子材料の加熱された外層を押出成形する。」(第7頁右上欄第20行?左下欄第4行)
(く)「この加熱状態にあるチューブ(加熱状態にある金属内層、この周りに配置された加熱状態にあるポリアミド系熱溶融接着剤中間層からなり、加熱状態にある押出成形された高分子外層により取囲まれた複合壁によって取囲まれた孔を有するチューブ)は適当な手段(水浴)で充分に冷却されて高分子外層が金属内層に効果的に結合する。」(第7頁左下欄第10?16行)

以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の各発明(引用発明1、引用発明2)が記載されているものと認められる。

【引用発明1】
「管形状の金属内層2、この金属内層2の周りを取囲むように配置される、環状壁が均一な壁厚を有する高分子外層3、および管形状の金属内層2の外表面の周りにあり、金属内層2と高分子外層3との間で高分子外層3を金属内層2の外表面に結合させている熱溶融接着剤の接着剤層4を含む、流体を搬送する複合壁を有するチューブ。」(以下、「引用発明1」という。)

【引用発明2】
「管形状の金属内層2の外表面の周りに熱溶融接着剤の接着剤層を加熱して付着し、そして、管形状の金属内層2の外表面の周りにあり、高分子外層3が熱溶融接着剤の接着剤層4によって金属内層2の外表面に結合されるように環状壁を有する高分子外層3を押出成形し、加熱状態にあるチューブを冷却することにより、高分子外層3を金属内層2に結合させる、工程からなる、流体を搬送する複合壁を有するチューブの製造方法。」(以下、「引用発明2」という。)

(3)対比・判断
(3-1)本願補正発明1について
本願補正発明1と引用発明1とを対比すると、その機能等を勘案すれば、引用発明1の「流体を搬送する複合壁を有するチューブ」は、本願補正発明1の「多層流体導管」に相当する。
そして、技術常識及びその機能等を考慮すれば、引用発明1の「金属内層2」と本願補正発明1の「中空スチールパイプ」(又は「スチールパイプ」)とはそれぞれ「中空金属パイプ」である点では共通し、同様に、引用発明1の「高分子外層3」と本願補正発明1の「CPVC層」とはそれぞれ「高分子の被覆層」である点では共通する。さらに、引用発明1の「熱溶融接着剤の接着剤層4」と本願補正発明1の「熱活性接着剤層」とはそれぞれ「熱反応する接着剤層」である点では共通する。
また、流体導管の技術分野において、導管等を被覆部材で覆う際にその一端から他端までの全体を被覆することは技術常識であることを考慮すれば、引用発明1において、高分子外層3が金属内層2の「周りを取囲むように配置される」ことは、本願補正発明1において、CPVC層がスチールパイプの「閉じられた、管状外表面をパイプの端から端まで完全に被覆している」ことに実質的に相当する。

したがって、本願補正発明1の記載ぶりに倣って整理すると、両者は、以下の点で一致する。
<一致点1>
「完全に閉じられた、管状外表面を持つある長さの中空金属パイプ、この中空金属パイプの閉じられた、管状外表面をパイプの端から端まで完全に被覆している均一厚さの高分子の被覆層、および中空金属パイプ長の上記完全に閉じられた管状外表面に沿って且つその周囲にあり、中空金属パイプと高分子の被覆層との間で高分子の被覆層を中空金属パイプの管状外表面に結合させている熱反応する接着剤層、を含有してなる多層流体導管。」

また、両者は、以下の点で相違している。

[相違点1]
多層流体導管において、互いに結合される「中空金属パイプ」及び「高分子の被覆層」が、本願補正発明1においては、それぞれ「中空スチールパイプ」及び「CPVC層」とされているのに対し、引用発明1においては、それぞれ「金属内層2」および「高分子外層3」とされており、それぞれの材質がスチール及びCPVCに特定されていない点。

[相違点2]
「熱反応する接着剤層」に関して、本願補正発明1においては、「熱活性接着剤層」とされているのに対し、引用発明1においては、「熱溶融接着剤の接着剤層4」とされている点。

以下に、各相違点について検討する。

[相違点1]について
流体導管において、その導管及びその被覆層の材質として、どのようなものを選択するかは、当該流体導管の用途、配置される環境、搬送する流体、耐久性、腐食性、配置容易性、加工性等を考慮して当業者が適宜選択する設計的事項にすぎないものである。そして、流体導管の用途、配置される環境や搬送する流体に応じては、流体導管が熱により大きな影響を受けることがあることは明らかであり、その材質を選択するに当たっては熱による影響を考慮して選択することは、当業者が当然に行うことにすぎないものである。
さらに、管及びその被覆層の材質として、それぞれスチール及びCPVC(注:「塩素化ポリ塩化ビニル」の略号である。)を選択することは、従来周知の技術である。(例えば、特開平6-145629号公報(以下、「周知文献1」という。)の段落【0001】の「塩素化塩化ビニル樹脂のような耐熱性合成樹脂を鋼管のような金属管の内面及び/又は外面にライニングする」との記載、及び、特開平5-295343号公報(以下、「周知文献2」という。)の段落【0023】の「合成樹脂ライニング管を構成するための塩化ビニル系樹脂管と、該塩化ビニル系樹脂管が挿入される金属管が用意される。塩化ビニル系樹脂管としては、塩化ビニルまたは塩素化塩化ビニル等の塩化ビニル系樹脂からなるものを適宜用いることができる。また、金属管としては、鋼管、アルミ管等の種々の金属材料からなる管状部材を用いることができる。」との記載を参照。)
してみると、従来周知の技術を考慮すれば、引用発明1において、「金属内層2」および「高分子外層3」のそれぞれの材質として、スチール及びCPVCを選択することは、当業者にとって容易になし得たものであるといえる。

結局、引用発明1において、「金属内層2」および「高分子外層3」のそれぞれの材質として、スチール及びCPVCを選択することは、当業者にとって技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到し得たものであるから、上記相違点1に係る本願補正発明1の構成は、引用発明1及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

[相違点2]について
接着剤として、どのようなものを選択するかは、接着剤によって互いに結合する部材の材質や熱又はその他の要因による形状の変化、使用される環境、耐久性、結合性能(結合強度、柔軟性、密封性等)、剥離防止、加工性等を考慮して、当業者が適宜選択する設計的事項にすぎないものである。
さらに、本願補正発明1では、接着剤層を構成するのが「熱活性接着剤」である記載されているものの、該「熱活性接着剤」が具体的にどのような接着剤を特定するのか又は含み得るのか必ずしも明りょうではないが、「熱活性」が意味する、熱されると接着作用が発現する機能を有する接着剤であると認められる。しかしながら、該熱されると接着作用が発現する機能を有する接着剤は、「熱硬化型接着剤」として従来周知であり、「熱活性接着剤」と「熱硬化型接着剤」とは実質的に同様のものと認められる。特に、上記管及びその被覆層の材質として、それぞれスチール及びCPVCを選択することが従来周知の技術であることを示す、上記周知文献1(段落【0004】、【0005】等参照)及び周知文献2(段落【0001】、【0003】、【0004】等を参照)には、接着剤として、「熱硬化型接着剤」を選択することも示されており、流体導管の用途、使用環境や該従来周知の技術等を考慮すれば、引用発明1において、「金属内層2」および「高分子外層3」を結合する接着剤として、「熱活性接着剤」(熱硬化型接着剤)を選択することは、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。
結局、引用発明1において、「金属内層2」および「高分子外層3」を結合する接着剤として、熱活性接着剤(熱硬化型接着剤)を選択することは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到し得たものであるから、上記相違点2に係る本願補正発明1の構成は、引用発明1及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明1が奏する効果について検討しても、引用発明1及び従来周知の技術から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。

したがって、本件補正により補正された請求項1に係る発明(本願補正発明1)は、引用発明1及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3-2)本願補正発明24について
上記「(3-1)本願補正発明1について」で述べた本願補正発明1と本願発明1との対比判断に加えて、本願補正発明24と引用発明2とを対比すると、引用発明2における、環状壁を有する高分子外層3を「押出成形する」ことは、本願補正発明24における、CPVCの管状層を「押し出す」ことに、相当する。
また、接着剤を付着する際の結合強度や結合性能等の技術常識を考慮すれば、引用発明2において、「外表面の周り」に接着剤層を付着することは、本願補正発明24における、「管状外表面に沿って且つ完全にその周囲」に接着剤層を適用することに、相当する。

したがって、本願補正発明24の記載ぶりに倣って整理すると、両者は、以下の点で一致する。
<一致点2>
「中空金属パイプ長の完全に閉じられた管状外表面に沿って且つ完全にその周囲に熱反応する接着剤層を適用し、そして、中空金属パイプの閉じられた外表面の端から端まで完全に被覆している中空金属パイプ長の管状外表面の完全に周囲で且つ完全に沿って、高分子の被覆層が熱反応する接着剤層によって管状外表面に結合されるように高分子の被覆層の管状層を押し出す、上記工程からなる多層流体導管を製造する方法。」

また、両者は、以下の点で相違している。

[相違点3]
多層流体導管において、「中空金属パイプ」及び「高分子の被覆層」が、本願補正発明24においては、それぞれ「スチールパイプ」及び「CPVC」とされているのに対し、引用発明2においては、それぞれ「金属内層2」および「高分子外層3」とされており、それぞれの材質がスチール及びCPVCに特定されていない点。

[相違点4]
「熱反応する接着剤層」に関して、本願補正発明24においては、「熱活性接着剤層」とされているのに対し、引用発明2においては、「熱溶融接着剤の接着剤層4」とされている点。

[相違点5]
接着剤層を活性化する工程に関して、本願補正発明24においては、接着剤層を「加熱により活性化」させてから、「CPVCの管状層を押し出す」工程が行われているのに対し、引用発明2においては、加熱して付着された熱溶融接着剤の接着剤層に、高分子外層3を押出成形してから、加熱状態にあるチューブを冷却することにより、高分子外層3を金属内層2に結合させている点。

ここで、上記相違点3及び相違点4については、上記「(3-1)本願補正発明1について」における、相違点1及び相違点2と実質的に同じであり、その判断については、上述したとおりである。

そして、上記相違点5について検討する。
まず、接着剤の「活性化」とは、接着剤の接着作用を発現させることであると解されることは上述したとおりであり、本願補正発明24においては、加熱により接着剤の接着作用が発現させてからCPVC(被覆層)を押し出す工程が行われているから、上記相違点5に係る本願補正発明24においては、接着剤として、加熱により接着剤の接着作用を発現させる接着剤である「熱活性接着剤」(熱硬化型接着剤)を用いることを前提として多層流体導管を製造する方法を特定したものと認められる。
それに対して、接着剤として熱硬化型接着剤を選択することは、当業者にとって容易になし得たものであることは上記[相違点2]として検討したとおりであり、引用発明2において、接着剤として熱硬化性接着剤を採用すると、上記相違点5に係る本願補正発明24と実質的に同様の工程により、チューブ(多層流体導管)が製造されるものと認められる。
結局、本願補正発明24に係る発明は、引用発明2及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

また、本願補正発明24が奏する効果について検討しても、引用発明2及び従来周知の技術から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。

したがって、本件補正により補正された請求項24に係る発明(本願補正発明24)は、引用発明2及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成21年11月30日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、「引用文献1(注:本審決における「引用例1」)の発明では、上記のとおり、中間層として熱溶融型(ホットメルト型)接着剤を用いている(3頁左上欄8?12行参照)のに対し、本願発明では、熱活性接着剤を用いている。ホットメルト型接着剤は周知のとおり100%固形分の熱可塑性樹脂を加熱・溶融し、それを固化させて接着力を得るものであるのに対し、本願発明で用いられる熱活性接着剤は本願明細書に添付の図9および段落[0045]以降、特に[0046]、[0047]によく記載されているように溶剤を含み、加熱されることによって溶融することなしに接着活性を発揮する。
すなわち、熱活性接着剤の熱活性(heat activation)とは、例えば、英和プラスチック工業辞典、小川伸著、(株)工業調査会発行、1992年5月発行(5版第2刷)に次のように記載されているとおり、ホットメルト型接着剤とは相違する。
“heat activation 熱活性化 支持体に塗布し乾燥させた接着剤層を加熱し、粘着性を帯びさせること。”
本願発明は、内層スチールと外層CPVCに対する中間接着層として熱活性接着剤層を用いることにより、内層と外層とを永久的に結合させそしてこの結合を維持するためにスチールとCPVCの異なる熱膨張係数に適応することができるのである(段落[0022]および[0029]等参照)。」と主張している。しかしながら、接着剤に関しては、上記[相違点2]として検討したとおりであるし、また、同様の接着剤の選択により同様の効果が得られることは明らかであるので、審判請求人の主張は採用できない。
また、審判請求人は、上記回答書の3.において、請求項1及び請求項24に対して補正案の提案をしているが、該補正案の請求項1及び請求項24は、実質的に、本願補正発明1及び本願補正発明24を足し合わせて、それぞれ物と方法の発明として特定されたものにすぎず、本願補正発明1及び本願補正発明24が上述したように、特許を受けることができないものである以上、該補正案も同様の理由により特許を受けることができないものである。

(4)むすび
本願補正発明1及び本願補正発明24について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成20年1月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?25に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明25」という。)は、平成19年3月12日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1及び請求項25は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 完全に閉じられた、管状外表面を持つある長さの中空鉄含有金属パイプ;この金属パイプの閉じられた、管状外表面をパイプの端から端まで完全に被覆している均一厚さのCPVC層;およびパイプ長の上記完全に閉じられた管状外表面に沿って且つその周囲にあり、金属パイプとCPVC層との間でCPVC層を金属パイプの管状外表面に結合させている熱活性接着剤層、を含有してなる多層流体導管。」及び
「【請求項25】 鉄含有金属パイプ長の完全に閉じられた管状外表面に沿
って且つ完全にその周囲に熱活性接着剤層を適用し;この層を加熱により活性化させ;そして、金属パイプの閉じられた外表面の端から端まで完全に被覆している鉄含有金属パイプ長の管状外表面の完全に周囲で且つ完全に沿って、CPVCが活性接着剤層によって管状外表面に結合されるようにCPVCの管状層を押し出す、上記工程からなる多層流体導管を製造する方法。」

3-1.本願発明について
(1)本願発明1及び本願発明25
本願発明1及び本願発明25は上記のとおりである。

(2)引用例1
引用例1及びその記載事項並びに引用例1に記載された発明(引用発明1、引用発明2)は上記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は、実質的に、上記2.で検討した本願補正発明1の「スチールパイプ」について、「鉄含有金属パイプ」又は「金属パイプ」に拡張したものに相当する。
また、同様に、本願発明25は、実質的に、上記2.で検討した本願補正発明24の「スチールパイプ」について、「鉄含有金属パイプ」又は「金属パイプ」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1及び本願発明25の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1及び本願補正発明24が、上記2.に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1及び本願発明25も、同様の理由により、引用例1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、引用例1に記載された発明(引用発明1)及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとともに、請求項25に係る発明(本願発明25)は、引用例1に記載された発明(引用発明2)及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明及び請求項25に係る発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-04 
結審通知日 2010-01-06 
審決日 2010-01-21 
出願番号 特願平8-289622
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16L)
P 1 8・ 121- Z (F16L)
P 1 8・ 537- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 雄二谷口 耕之助  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 大山 健
常盤 務
発明の名称 多層流体導管  
代理人 大島 正孝  
代理人 大島 正孝  

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