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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1217745
審判番号 不服2008-11493  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-07 
確定日 2010-06-02 
事件の表示 特願2000-556238「エカリンと磁性粒子を含む乾式化学試薬を用いてフィブリノーゲンアッセイを行う方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月29日国際公開、WO99/67630、平成14年7月2日国内公表、特表2002-519635〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年6月23日(パリ条約による優先権主張 平成10年6月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし29に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし29に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】フィブリノーゲンアッセイを行う方法であって、
(i)(1)液体サンプルを受容するためのサンプルウェルと、(2)複数の磁性粒子が均一に分散して埋め込まれているエカリンを含む乾燥試薬マトリックスを含む反応チャンバとを有する反応スライドを振動磁場に付し、
ここで前記サンプルウェルと反応チャンバとは、前記サンプルウェル内に置かれ前記反応チャンバの容量に対応する液体分析物サンプルの分量が前記サンプルウェルから前記反応チャンバへと移送されるような幾何形状を有する移送ゾーンを介して液体連通しており、
(ii)フィブリノーゲンアッセイを遂行するための適切な条件下で、全血又は血液由来サンプルを前記サンプルウェルに添加し、これによって前記サンプルを前記反応チャンバに導入し、前記試薬を可溶化させ、且つ、前記粒子を解放して、前記振動磁場に対する相対粒子運動の程度の変化に対応して前記振動磁場によって誘起される振動パターンを描くように運動させ、
ここで前記振動パターンは開始時間と停止時間を有し、
(iii)前記反応チャンバを光学的にモニターして、次の(iiia)、(iiib)、(iiic)のうちの一以上のパラメータを測定し、
(iiia)前記フィブリノーゲンアッセイのための前記開始時間と前記停止時間、
(iiib)前記粒子振動の最大振幅Aと前記粒子振動の後続残留ポストピーク最小振幅B、
(iiic)AとBの間の領域における、前記粒子振動曲線の傾き又は前記曲線によって規定される面積、
そして
(iv)前記開始時間と前記停止時間、又は少なくともB、又は前記傾き、又は前記面積を用いて前記パラメータ(iiia)?(iiic)の少なくとも一つを、標準サンプル中の凝固性フィブリノーゲン濃度と関連付けて、前記全血又は血液由来サンプル中の凝固性フィブリノーゲン濃度を測定する
ことを含む方法。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献2)及び刊行物2(原査定の引用文献1)には、以下の事項がそれぞれ記載されている。

(1)刊行物1:特許第2649608号公報の記載事項
(1a)「【請求項1】(i)振動する磁場に、(1)液体試料を受けるための試料受けおよび(2)試薬マトリックスに均一に分布した複数の磁性粒子が埋め込まれている乾式試薬マトリックスを含有する反応室を有する反応スライドを委ね、ここで、該試薬は、フィブリノーゲンへ直接作用するか作用を促進し、そしてフィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼであり;該試料受けおよび反応室は、該試料受け中に置かれた該反応室の容積に相当する容積の液体分析試料が、該試料受けから該反応室へ同時に転送されるような転送ゾーンを介する流体の通路があり;(ii)全血または血液由来試料を該試料受けに添加し、それにより該試料を同時に反応室に導入し、該試薬を溶解させ、そして該振動する磁場により誘起された振動パターン中で該粒子が自由に動くようにし;(iii)該反応室を光学的に監視して、(iii a)該振動する磁場に対する粒子の動きの度合いの変化に対応する、該フィブリノーゲン分析のための開始時間および停止時間、もしくは(iii b)該粒子振動の最大振幅A、およびそれに続く、該粒子振動の、最大振幅Aの後に残留する最小振幅B、または(iii c)該粒子振動曲線の傾きもしくはAとBの間の該曲線により定義される領域、の何れかを測定し;そして、(iv)該開始時間および該停止時間、もしくはAとBとのうち少なくともB、もしくは該傾き、または該領域を使用して、該試料中の凝固し得るフィブリノーゲンの濃度を測定することから成ることを特徴とするフィブリノーゲン分析方法。
【請求項2】該試薬が、プロテアーゼの活性化およびそれに続く凝固カスケードを介してフィブリノーゲン重合を開始させることが可能なトロンボプラスチンであり、そしてAとBとのうち少なくともB、または該曲線により定義される領域が、試料中の凝固可能なフィブリノーゲンの濃度を測定するために使用される請求の範囲第1項記載のフィブリノーゲン分析方法。
【請求項3】該プロテアーゼが、ヒトトロンビン、ウシトロンビン、レプチラーゼ、カッパー・ヘッド毒酵素、またはマラヤ・ピット・クサリヘビ毒酵素から成る群より選ばれた1つである請求の範囲第1項記載のフィブリノーゲン分析方法。」
(1b)「次に、全血または血液由来試料が、この試薬に加えられ、同時に溶解するようにし、それにより、粒子を振動する磁場により誘起される振動パターン中を自由に動くようにする。米国特許出願第07/192,672号に詳細に議論したように、磁場の影響下では、自由磁気粒子は円柱状構造またはスタックを形成し、それは、振動磁場の影響下で、それらの円柱状構造またはスタックの配向の変化により明滅減少を生ずる。
粒子の振動は、粒子に入射光を投射反射(散乱)光を検出することにより、光学的に監視される。試料を乾式試薬マトリックスに添加する前では、乾式試薬マトリックス中に捉えられた磁性粒子は振動され得ない。乾式試薬マトリックスに試料を添加して磁性粒子が自由になった後には、第3図のAとして示したように、粒子に基づく円柱状構造またはスタックの最大数は、大きな度合いで振動させることにより速やかに観測することができ、最大振動振幅を与える。反応の進行に伴い、凝塊は、粒子に基づく円柱状構造またはスタックの増加する数の振動の度合いを減縮するようになる。この明滅パターンにおけるゆっくりとした減少は、第3図のBとして示したように、最大振動振幅A(ピーク)に続いて残留する、粒子振動の最小振幅を生ずる。
本分析において、該振動磁場に対する粒子の動きの度合いを観察して、分析に用いる開始時間および停止時間を測定するか、あるいは、凝固時間以外の動的曲線の少なくとも1つの特徴を使用して、試料中のフィブリノーゲン濃度を測定する。
記載された血液凝固監視システムにおいて、高フィブリノーゲンレベルは、より濃密なフィブリン凝塊を生じ、それは粒子振動を大きな度合いで減縮し、最大振動振幅Aで示されるピークシグナルの後に低い最小振動シグナルを生ずる。凝固曲線は複雑である。1で開始し、最初の粒子振動は明らかに示される。磁気粒子振動の大きさは明らかである。光学的に監視した磁気粒子振動の大きさは1の分析の開始から増加し、そして波の包絡線の上部および下部の2および2′の頂点にそれぞれ達する。
頂点における振動シグナル振幅はAで示し、そして第4図には2および2′の間のシグナルの相違として示した。Aが発生する時間tAが凝固時間である。波形包絡線の頂点に沿って追跡すると、振幅はtAの後に減少する。
3点m1、m2、およびm3を示す。点m1およびm3は任意に選択されたが、固定された時間である。点m2は変曲点として選択される。m1、m2またはm3でとられる曲線の傾きはフィブリノーゲンの尺度として利用することができる。何故なら、それらの傾きは、最も高いフィブリノーゲンレベルで最も急峻(最も負)であり、そしてフィブリノーゲンが減ると急峻ではなくなる。
m3の後、振動シグナルの振幅は時間の経過と共に減少を続け、最後には漸近値Bに近づく。フィブリノーゲン濃度は、A/Bおよび(A-B)/Aに比例する。フィブリノーゲン濃度はまたBに反比例し、そしてA-Bに直接比例するが、しかし、それらのパラメータのみではA/Bまたは(A-B)/Aよりも一般に正確ではない。
フィブリノーゲン濃度の他の、より正確な尺度は、動的曲線の積算部分により得られる領域である。たとえば、2および2′の間の延長した直線の長さすなわち左のAの振幅;右の振幅B′(ここで、B′は時間tB′での曲線の振幅;そしてtB′は一般的にはtA後10秒およびtBの90%までの間の時間がとられるが、より一般的にはtBの60%である)および波形包絡線の上部および下部により定義される領域により囲まれると領域がαと表示され、試料中のフィブリノーゲン濃度に反比例する。
βとして表示される他の領域も利用される。βは、辺A及び対応する辺tB′から成る長方形から、αで表示される領域を差し引いた領域に等しい。βは第4図において、上部のβ1および下部のβ2の二つの部分から成るものとして示される。振幅B′を通り、点2および2′のA線に垂直な平行な線4および4′と交差する線は、βの右の境界を定義する。βはフィブリノーゲン濃度に直接比例し、かつ非常に正確である。
βおよびαは組み合わせて使用してもよく、すなわち、フィブリノーゲンレベルを示すために、比または差が採用される。さらに、αおよび/またはβは、たとえば、面積計算のために水平の尺度としてtBを常に使用することにより、時間とは独立に計算することができる(第4図参照)。」(6頁右欄22行?7頁左欄48行、第3,4図)
(1c)「凝塊形成速度論的アプローチ:本実施態様に使用される試薬は、公知のpH範囲(典型的には7.0?7.4)を制御するに充分な緩衝液と共に、以下の物質を含む、(a)最小B値(PT試験)で正常血漿の凝集を引き起こすに充分な量で存在するトロンボプラスチン+磁性粒子、典型的には8.3mgml-1であるが、広い範囲で変わり得る(米国特許出願第07/192,672号参照);(b)トロンビン+磁性粒子を、機能的に定義した上記(a)と同様の量で;または(c)ヘビ毒、たとえば、レプチラーゼ、カッパーヘッド毒酵素、またはマラヤ・ピット・クサリヘビ毒酵素を(a)と同様の量で、毒+磁性粒子について機能的に定義した上記(a)の量である。」(8頁左欄40行?右欄1行)
(1d)「試料が反応空間へ洗い流され、そして工程中で希釈されるやいなや、乾式化学が開始して溶解され、そして凝固反応が開始する。達成される希釈の範囲は、1マイクロリットルの試料について、1に対し25(容積で)で、3マイクロリットルの試料については3に対し25(容積で)である。この範囲を超えると、凝固試薬の濃度および適当な希釈要素を選択することにより、凝固時間(tA)に対するフィブリノーゲン濃度の対数-対数紙へのプロットが実質的に直線である良好な標準曲線が得られる。」(9頁右欄26行?35行)
(1e)「レプチラーゼは一般に、動的凝固に基づくフィブリノーゲンの分析には、トロンビンよりも好ましい。その理由は、それが、通常抗凝集薬として使用されるヘバリンに影響されないからである。」(11頁左欄40行?43行)
(1f)「トロンビンまたは適当なヘビ毒(たとえば、レプチラーゼ、カッパーヘッド毒またはマラヤピットクサリヘビ毒)の何れも利用できる。この実施態様は、トロンビン時間、レプチラーゼ時間、もしくは等価の試験または、判断のために標準曲線を使用した場合のフィブリノーゲン値と同様の結果を与える。」(第11頁31行?36行)
(1g)第1、2図には、反応スライドを示す図が、また第3、4図には、凝固曲線とフィブリノーゲンを測定するためのパラメータとして用いることのできる動力学凝固波形のさらなる特徴を示す図が示されている。第5図には,レプチラーゼを含む乾式試薬による凝固曲線から得られたデータが図示されている。(12頁?13頁【第1図】?【第5図】)

(2)刊行物2:特開平6-199673号公報の記載事項
(2a)「【0008】多様なヘビの種類の毒は、酵素原のプロトロンビンを酵素トロンビンおよび/またはその触媒活性前駆体のメイゾトロンビン(meizothrombin)に変える酵素を含んでいる。両方の活性生成物はフィブリノーゲンをフィブリンに変え、それにより血漿の凝固が生じる。同様に、両方のトロンビンおよびメイゾトロンビンは合成発色トロンビン感受性基質からの発色団の加水分解的な放出を触媒する。これらのヘビ毒プロトロンビン活性剤の幾つかは補因子を必要とせず、一方第2のグループはカルシウムイオンおよびリン脂質の存在に依存する。第3のグループはカルシウムおよびリン脂質の添加において第V因子を必要とする。ヘビ毒プロトロンビン活性剤に関する詳細は、Rosing J., Tans G., Thromb. Haemost. 65, 627-630, 1991に記載されている。
・・・
【0010】リン脂質に不感受性のプロトロンビン活性剤は、ビペリダエ科(family Viperdiae)に所属するヘビ毒、特にエヒス(Echis)、トリメレスルス(Trimeresurus)およびボスロプス(Bothrops)の類に所属するヘビ毒から、R. K. Scopes, Protein Purification, Springer-Verlag, New York, Heidelberg, Berlin, 2ndedition, (1987)に記載されたような通常のタンパク質分離技術を用いて単離することができる。ボスロプス アトロックス(Bothrops atrox)のヘビ毒からプロトロンビン活性剤を単離するための特別な方法は、Hofmann H. and Bon C., Biochemistry 26,772 (1987)に記載されており、エヒス カリナトゥス(Echis carinatus)のヘビ毒からエカリン(Ecarin)を製造するための方法は、Morita T. and Iwanaga S., J. Biochem. 83, 559 (1978) により提供されている。エカリンは Pentapharm Ltd., Basel, CH から市販されている。」

3 対比・判断
刊行物1の上記記載事項(上記(1a)(1b))から、刊行物1には、
「(i)振動する磁場に、(1)液体試料を受けるための試料受けおよび(2)試薬マトリックスに均一に分布した複数の磁性粒子が埋め込まれている乾式試薬マトリックスを含有する反応室を有する反応スライドを委ね、ここで、該試薬は、フィブリノーゲンへ直接作用するか作用を促進し、そしてフィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼであり;
該試料受けおよび反応室は、該試料受け中に置かれた該反応室の容積に相当する容積の液体分析試料が、該試料受けから該反応室へ同時に転送されるような転送ゾーンを介する流体の通路があり;
(ii)全血または血液由来試料を該試料受けに添加し、それにより該試料を同時に反応室に導入し、該試薬を溶解させ、そして該振動する磁場により誘起された振動パターン中で該粒子が自由に動くようにし;
(iii)該反応室を光学的に監視して、(iii a)該振動する磁場に対する粒子の動きの度合いの変化に対応する、該フィブリノーゲン分析のための開始時間および停止時間、もしくは(iii b)該粒子振動の最大振幅A、およびそれに続く、該粒子振動の、最大振幅Aの後に残留する最小振幅B、または(iii c)該粒子振動曲線の傾きもしくはAとBの間の該曲線により定義される積算部分により得られる領域、の何れかを測定し;そして、
(iv)該開始時間および該停止時間、もしくはAとBとのうち少なくともB、もしくは該傾き、または該領域を使用して、該試料中の凝固し得るフィブリノーゲンの濃度を測定することから成るフィブリノーゲン分析方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「振動する磁場」、「液体試料」、「試料受け」、「反応室」、「フィブリノーゲン分析方法」は、本願発明の「振動磁場」、「液体サンプル」、「サンプルウエル」、「反応チャンバ」、「フィブリノーゲンアッセイを行う方法」にそれぞれ相当する。
(イ)本願発明の「エカリン」は、本願明細書(【0028】)の記載からタンパク質プロトロンビンアクチベータである。プロトロンビンアクチベータとは、プロトロンビンを活性化してトロンビンとするプロテアーゼの一種であり、フィブリノーゲンの重合を誘起するものといえる。そうすると、刊行物1発明の「試薬」である「フィブリノーゲンへ直接作用するか作用を促進し、そしてフィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼ」と、本願発明の「エカリン」とは、フィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼである点で共通している。
(ウ)刊行物1発明の「試薬マトリックスに均一に分布した複数の磁性粒子が埋め込まれている乾式試薬マトリックス」であり「該試薬は、フィブリノーゲンへ直接作用するか作用を促進し、そしてフィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼ」であるものと、本願発明の「複数の磁性粒子が均一に分散して埋め込まれているエカリンを含む乾燥試薬マトリックス」とは、複数の磁性粒子が均一に分散して埋め込まれている、フィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼを含む乾燥試薬マトリックスである点で共通している。
(エ)刊行物1発明の「該試料受けから該反応室へ同時に転送されるような転送ゾーンを介する流体の通路があり」と、本願発明の「ここで前記サンプルウェルと反応チャンバとは、前記サンプルウェル内に置かれ前記反応チャンバの容量に対応する液体分析物サンプルの分量が前記サンプルウェルから前記反応チャンバへと移送されるような幾何形状を有する移送ゾーンを介して液体連通しており」は、刊行物1の第1図に示された反応スライドと本願明細書の図1の反応スライドが、同じ構造を示していることから、相当関係にあることは明らかである。
(オ)刊行物1発明の「(ii)全血または血液由来試料を該試料受けに添加し、それにより該試料を同時に反応室に導入し、該試薬を溶解させ、そして該振動する磁場により誘起された振動パターン中で該粒子が自由に動くようにし」は、フィブリノーゲンアッセイのために行う操作であるから、これを遂行するために適切な条件下で行われることは当然のことである。また、試薬を溶解させることにより、試薬に含まれる粒子が解放され、振動磁場の開始と停止に対応した振動パターンに開始時間と停止時間があることは明らかであるから、本願発明の「(ii)フィブリノーゲンアッセイを遂行するための適切な条件下で、全血又は血液由来サンプルを前記サンプルウェルに添加し、これによって前記サンプルを前記反応チャンバに導入し、前記試薬を可溶化させ、且つ、前記粒子を解放して、前記振動磁場に対する相対粒子運動の程度の変化に対応して前記振動磁場によって誘起される振動パターンを描くように運動させ、ここで前記振動パターンは開始時間と停止時間を有し」に相当する。
(カ)刊行物1発明の「(iii)該反応室を光学的に監視して」は、本願発明の「 (iii)前記反応チャンバを光学的にモニターして」に相当する。
(キ)刊行物1発明の「(iii a)該振動する磁場に対する粒子の動きの度合いの変化に対応する、該フィブリノーゲン分析のための開始時間および停止時間」は、本願発明の「(iiia)前記フィブリノーゲンアッセイのための前記開始時間と前記停止時間」相当する。
(ク)刊行物1発明の「(iii b)該粒子振動の最大振幅A、およびそれに続く、該粒子振動の、最大振幅Aの後に残留する最小振幅B」、「(iii c)該粒子振動曲線の傾きもしくはAとBの間の該曲線により定義される積算部分により得られる領域」と、本願発明の「(iiib)前記粒子振動の最大振幅Aと前記粒子振動の後続残留ポストピーク最小振幅B」、「(iiic)AとBの間の領域における、前記粒子振動曲線の傾き又は前記曲線によって規定される面積」は、刊行物1の第3図及び第4図と本願明細書の図3及び図4に示される振動曲線が同じであることから、相当関係にあるといえる。
(ケ)刊行物1発明の「(iv)該開始時間および該停止時間、もしくはAとBとのうち少なくともB、もしくは該傾き、または該領域を使用して、該試料中の凝固し得るフィブリノーゲンの濃度を測定する」は、「該開始時間および該停止時間」、「AとBとのうち少なくともB」、「該傾き、または該領域」がそれぞれ(iii a)、(iii b)、(iii c)に対応するものである。そして、刊行物1発明は、「フィブリノーゲンの濃度を測定することから成るフィブリノーゲン分析方法」であり、濃度測定に標準曲線が必要であることは技術常識であるし、刊行物1(上記(1d)(1f))には、フィブリノーゲン濃度の標準曲線を得ることが記載されている。そうすると、刊行物1の上記構成は、本願発明の「(iv)前記開始時間と前記停止時間、又は少なくともB、又は前記傾き、又は前記面積を用いて前記パラメータ(iiia)?(iiic)の少なくとも一つを、標準サンプル中の凝固性フィブリノーゲン濃度と関連付けて、前記全血又は血液由来サンプル中の凝固性フィブリノーゲン濃度を測定する」に相当する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
フィブリノーゲンアッセイを行う方法であって、
(i)(1)液体サンプルを受容するためのサンプルウェルと、(2)複数の磁性粒子が均一に分散して埋め込まれているフィブリノーゲンへの作用を促進してフィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼを含む乾燥試薬マトリックスを含む反応チャンバとを有する反応スライドを振動磁場に付し、
ここで前記サンプルウェルと反応チャンバとは、前記サンプルウェル内に置かれ前記反応チャンバの容量に対応する液体分析物サンプルの分量が前記サンプルウェルから前記反応チャンバへと移送されるような幾何形状を有する移送ゾーンを介して液体連通しており、
(ii)フィブリノーゲンアッセイを遂行するための適切な条件下で、全血又は血液由来サンプルを前記サンプルウェルに添加し、これによって前記サンプルを前記反応チャンバに導入し、前記試薬を可溶化させ、且つ、前記粒子を解放して、前記振動磁場に対する相対粒子運動の程度の変化に対応して前記振動磁場によって誘起される振動パターンを描くように運動させ、
ここで前記振動パターンは開始時間と停止時間を有し、
(iii)前記反応チャンバを光学的にモニターして、次の(iiia)、(iiib)、(iiic)のうちの一以上のパラメータを測定し、
(iiia)前記フィブリノーゲンアッセイのための前記開始時間と前記停止時間、
(iiib)前記粒子振動の最大振幅Aと前記粒子振動の後続残留ポストピーク最小振幅B、
(iiic)AとBの間の領域における、前記粒子振動曲線の傾き又は前記曲線によって規定される面積、
そして
(iv)前記開始時間と前記停止時間、又は少なくともB、又は前記傾き、又は前記面積を用いて前記パラメータ(iiia)?(iiic)の少なくとも一つを、標準サンプル中の凝固性フィブリノーゲン濃度と関連付けて、前記全血又は血液由来サンプル中の凝固性フィブリノーゲン濃度を測定することを含む方法である点。

(相違点)
フィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼが、本願発明では、エカリンであるのに対し、刊行物1発明では、フィブリノーゲンへ直接作用するか作用を促進し、そしてフィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼである点。

そこで、上記相違点について検討する。
刊行物2(上記(2a))には、血液サンプルの凝固に関連したアッセイにおいて、多様なヘビ毒がプロトロンビンをトロンビンおよび/またはその触媒活性前駆体のメイゾトロンビンに変える酵素を含んでおり、フィブリノーゲンをフィブリンに変え血漿の凝固が生じること、ヘビ毒から製造されたプロトロンビン活性剤であるエカリンが市販されていることが記載されている。さらに、特表平7-503373号公報(第4頁左下欄9行?最終行)、特表平7-503719号公報(第3頁左下欄最終行?右下欄13行、第4頁右下欄19行?第5頁左上欄2行)、特開平6-30793号公報(【0005】【0006】)にも、記載されるように、プロトロンビンをメイゾトロンビンに分解する化合物としてエカリンが知られていること、エカリンはプロトロンビンのペプチド結合を分断することからプロテアーゼの一種であること、メイゾトロンビンはヘパリンと反応しないものであることは、本願優先日前に周知の事項であるといえる。そして、ヘパリンがトロンビンに作用して血液凝固を阻害することは技術常識であるから、エカリンを用いれば、血液サンプル中にヘパリンが含まれていても凝固反応に影響しないことは当然のこととして理解できる。
そして、刊行物1(上記(1a)(1c)(1e))には、フィブリノーゲンへ直接作用するか作用を促進しフィブリノーゲンの重合を誘起するプロテアーゼとして、ヒトトロンビン、ウシトロンビン、レプチラーゼ、カッパー・ヘッド毒酵素、またはマラヤ・ピット・クサリヘビ毒酵素が記載され、この中でレプチラーゼが、通常抗凝集薬として使用されるヘパリンに影響されないから、動的凝固に基づくフィブリノーゲンの分析には好ましいことが記載されおり、ヘパリンの存在が分析に影響する要因として認識されていたといえる。
そうすると、刊行物1発明において、プロテアーゼとして、レプチラーゼと同様にヘパリンにより影響されないことが知られているエカリンを選択して用いることは、当業者が容易になし得たものといえる。
そして、本願発明の効果について検討すると、ヘパリンの存在により影響されないという効果は、刊行物2及び上記周知技術から予測し得たものとえる。また、血液サンプルのヘマトクリットにより影響されないという効果については、血液凝固時間の試験において、サンプル中の赤血球が粘度に影響し、測定結果に影響を与えることは、例えば、特開平9-171021号公報(【0009】)、特開平6-324048号公報(【0064】の(7))にも記載されるように、本願優先日前に周知の事項であり、赤血球の量は、ヘマトクリット値として測定されるものであることは技術常識であるから、磁性粒子を用いて振動を測定するというサンプル自体の粘度の影響を受けやすいことが明らかである刊行物1発明において、エカリンを採用した際に、粘度に影響する要因であるサンプルのヘマトクリットを認識して測定結果を確認することは、当業者が当然に行うことといえ、効果を確認することに格別の困難性があるとはいえず、奏される効果は予測し得る範囲のものといえる。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1、刊行物2に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-28 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-19 
出願番号 特願2000-556238(P2000-556238)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白形 由美子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
竹中 靖典
発明の名称 エカリンと磁性粒子を含む乾式化学試薬を用いてフィブリノーゲンアッセイを行う方法  
代理人 山本 博人  
代理人 村田 正樹  
代理人 高野 登志雄  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 有賀 三幸  
代理人 中嶋 俊夫  

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