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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03G
管理番号 1217751
審判番号 不服2007-16308  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-11 
確定日 2010-05-06 
事件の表示 平成 9年特許願第534189号「ヒステリシスのある階段状可変利得制御を具備した選択式呼受信機」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月 2日国際公開、WO97/36372、平成11年 6月29日国内公表、特表平11-507494〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成9年3月25日(優先権主張1996年3月27日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成18年4月14日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日付けで手続補正書が提出され、平成19年3月7日付けで拒絶査定され、これに対して同年6月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされた。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成18年10月24日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。

「 入力信号を受信し、入力信号から出力信号を発生する受信機であって、
階段状可変利得制御を有する切換可能利得回路と、
ヒステリシス応答を備え、上記出力信号のレベルを検出し、上記出力信号のレベルを表わすAGC検出器信号を発生する自動利得制御(AGC)検出器と、
上記AGC検出器に結合され、上記AGC検出器信号に応答し、不連続の階段状刻み幅で上記切換可能利得回路の利得を増大又は減少させるべく上記切換可能利得回路の階段状可変利得制御を制御するため信号を発生する状態機械とを有する受信機。」


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-285424号公報(以下、「引用例」という)には、下記の事項が記載されている。

(ア)「上述したフイルタ手段(デイジタルフイルタ)は複数チヤネルの合成波で構成された受信信号の中から希望波のみを選択する機能を有している。従って、デイジタルフイルタ出力信号レベルは希望波レベルに相当する。上述した制御手段は、そのデイジタルフイルタ出力信号レベルを検出し、その検出レベルに応じてRF増幅器の利得を制御するので、希望波レベルに応じた自動利得制御を行なうことが可能となる。また、上述した制御手段は、希望波入力レベルが上述した基準レベルより高くなったときにRF増幅器の利得を低下させるようにするので、希望波入力レベルに対するダイナミツクレンジを拡張でき、受信感度を低下させることなく相互変調特性を改善することができる。
また、第28図に示すようにデイジタルフイルタ11ならびにデイジタルレベル検出器13は既に従来の受信機に存在するため、デイジタルフイルタの出力信号レベルを検出するためのレベル判定器とレベル判定器の検出レベルに応じてRF増幅器の利得を制御するため利得制御器の追加、ならびにRF増幅器を利得可変な構成にすることで、従来の受信機に比較的小規模な回路を追加することによって希望波レベルに応じた自動利得制御を行なうことができ、過入力特性の良好な受信機を構成できる。」(公報第8頁左下欄14行?右下欄19行)

(イ)「〔実施例〕
本発明の無線機(第1実施例)は、第1図に示す如く従来の受信機におけるRF増幅器16(第2図)のかわりにRF帯可変利得増幅器2を用い、デイジタルレベル検出器13の出力とあらかじめ設定した基準レベルとを比較判定するレベル判定器4と、レベル判定器4の出力に応じてRF帯可変利得増幅器2の利得を制御する利得制御器3とを備える。
次に上記各部の動作を説明する。RF帯可変利得増幅器2は複数の値の異なる利得を切り換え可能な構成とし、利得制御器3からの信号によって利得を選択する。レベル判定器4は、あらかじめ基準データを記憶しておき、デイジタルレベル検出器13から出力されたデイジタルデータと基準データとを比較し、比較結果に応じてRF帯可変利得増幅器2の利得を切り換えるための指示(データ)を利得制御器3へ出力する。利得制御器3は、レベル判定器4からの指示(データ)を受けて、RF帯可変利得制御増幅器2の利得を切り換える。
ここで、デイジタルレベル検出器13の出力は希望波信号レベルに相当するため、上記系によって希望波信号レベルに応じた利得制御が可能となる。
例えば上述したRF帯可変利得増幅器2の構成としては高利得の増幅器と低利得増幅器とを備え、これらの増幅器を選択的に切り換える可能な構成とし、デイジタルレベル検出器13で検出した希望波レベルがあらかじめ設定した基準レベルよりも小さい時には、RF帯可変利得増幅器2は高利得の増幅器を用い、希望波レベルが基準レベルを越えた時には低利得の増幅器に切り換えるように制御される。RF帯可変利得増幅器2の具体的構成については、第25図にて後述する。
次に、複数チヤネルの合成波で構成された受信信号に関し、RF帯可変利得増幅器2の入力端からIF帯可変利得増幅器7の出力端までの入出力特性を、次の2つの場合に分けて説明する。
第1の場合は、希望波入力レベルを一定にして、妨害波入力レベルのみを変化させた場合であり、第2の場合は、妨害波入力レベルを一定にして希望波入力レベルのみを変化させた場合である。
RF帯可変利得増幅器2の入力レベルに対するIF帯可変利得増幅器7の出力レベルの関係を第2A図に示す。上述した第1の場合、希望波レベルが一定であるので、IF帯可変利得増幅器7の利得制御レベル以下であれば、デイジタルフイルタ11において妨害波が除去されてデイジタルフイルタ11の出力信号は希望波のみとなり、出力レベルは一定となる。」(公報第11頁左上欄4行?左下欄14行)

(ウ)「本発明を実施する際の従来例からの変更点は、RF帯可変利得増幅器2の構成、利得制御器3ならびにレベル判定器4の追加であり、上述したような、複数チヤネルからなる受信波の中から希望波のみを選択するフイルタ等からなるRF帯の周波数選択性利得制御回路と比較して小規模である。
通常の受信状態においてはフエージング等によって受信信号レベルが時間的に変動する。第2B図のC点に相当する入力信号レベルの前後で希望波レベルが変動すると、RF帯可変利得増幅器2の利得を頻繁に切り換えることになる。その結果、デイジタルフイルタ11の出力レベルが頻繁に変動する。さらに、利得切り換えに伴う過渡特性が加わって、後段の復調系へ悪影響を及ぼす。これを回避するための実施例を第3図の入出力特性を用いて説明する。
第3図において、A点、B点、C点、D点ならびにE点は第2B図に示した入出力特性と同様である。希望波入力レベルがC点に達したときのRF帯増幅器2ヘの操作は上記の実施例と変わらない。低利得時のレベル判定器4における基準レベルの設定を、第1の実施例におけるE点からH点に変更する。従って、-旦RF帯可変利得増幅器2を低利得にした後に希望波入力レベルが低下した場合、入力レベルに関してF点に達するまでRF帯可変利得増幅器2の利得を固定される。そして、入力レベルがF点を下回った時にレベル判定器4が利得切り換え信号を発し、利得制御器3を介してRF帯可変利得増幅器2を高利得に切り換える。これにより、第3図におけるC点とF点との差がマージンとなり、フエージング等によるレベル変動に伴う利得制御の不安定性を回避することができる。
次に、上述したRF帯可変利得増幅器2の利得を多数設定し、そのなかの1つを選択するようにした実施例について説明する。第4図は、RF帯可変利得増幅器2の利得を高中低の3段階の中から選択するようにした場合の入出力特性と示す図である。
今、RF帯可変利得増幅器2の利得をR1,R2,R3(R1>R2>R3)とし、これらの3種の利得を切り換え可能とする。希望波入力レベルを徐々に増加した場合の動作を説明する。希望波レベルが最小の時、RF帯可変利得増幅器2の利得はR1に設定される。希望波レベルが増加してC1点に達すると、レベル判定器4の出力信号が変わり、利得制御器3を介してRF帯可変利得増幅器2の利得がR1からR2に切り換わる。このとき、出力レベルはD点からE点に変化する。さらに入力レベルが増加してC2点に達すると、再びレベル判定器4の出力信号が変わり、RF帯可変利得増幅器2の利得がR2からR3に切り換わる。このとき、出力レベルはD点からE点に変化する。さらに入力レベルが増加してA点を越えると、IF帯可変利得増幅器7の利得制御が行なわれ、出力レベルはB点に固定される。次に入力レベルが減少した場合の動作を説明する。入力レベルがA点以上であれば出力レベルはB点であり、RF帯可変利得増幅器2の利得はR3である。入力レベルが減少してF2点に達すると、RF帯可変利得増幅器2の利得がR3からR2に切り換わり、このとき出力レベルがH点からG点に変化する。さらに入力レベルが減少してF1点に達すると、RF帯可変利得増幅器2の利得がR2からR1に切り換わり、このとき出力レベルがH点からG点に変化する。入力信号レベルにおいてC1-F1ならびにC2-F2が、フエージング等による入力レベル変動に対するマージンとなる。
尚、このような入出力特性を実現するために、レベル判定器4では、基準レベル設定値としてD点とH点に相当する値が設定される。レベル判定器4に関しては、RF帯可変利得増幅器2において選択される利得が3種になることにより回路変更を要する。利得制御器3に関しても、選択する利得が3種になることによる回路変更を要する。」(公報第13頁右上欄7行?第14頁右上欄1行)

(エ)第1図には、受信信号が入力されるRF帯域可変利得増幅器2と、該RF帯域可変利得増幅器2の出力信号と局部発振器6の出力信号を入力するミクサ5と、該ミクサ5の出力信号を入力するIF帯域可変利得増幅器7と、該IF帯域可変利得増幅器7の出力信号を入力するA/D変換器10と、該A/D変換器10の出力信号を入力するデイジタルフイルタ11と、該デイジタルフイルタ11の出力信号を入力するレベル検出器13と、該レベル検出器13の出力信号を入力するレベル判定器4と、該レベル判定器4の出力信号を入力する利得制御器3と、該利得制御器3の出力信号により制御される前記RF帯域可変利得増幅器2からなる無線受信機の構成が記載されている。
また、上記(イ)には、RF帯可変利得増幅器2に入力信号として入力する受信信号は複数チヤネルの合成波で構成された信号であって希望波と希望波以外の妨害波からなっている点、デイジタルフイルタ11は妨害波を除去して希望波を出力信号として出力する点が記載されている。
よって、引用例の無線受信機は、RF帯可変利得増幅器2に希望波と妨害波からなる受信信号を入力信号として入力し、デイジタルフイルタ11が入力した受信信号から妨害波を除去し希望波のみとした信号を出力信号として出力する構成であるといえる。

(オ)上記(イ)には、第2A図について「RF帯可変利得増幅器2の入力レベルに対するIF帯可変利得増幅器7の出力レベルの関係を第2A図に示す。」と記載されている。第2A図及び第4図は、横軸が入力信号レベル、縦軸が出力信号レベルで共通していることから、第4図の横軸の「入力信号レベル」とはRF帯可変利得増幅器2の入力レベルであり、縦軸の「出力信号レベル」とはIF帯可変利得増幅器7の出力レベルであるといえる。

(カ)上記(ウ)乃至(オ)、及び第4図には、以下の利得制御の構成が記載されている。A.IF帯域可変利得増幅器から出力された希望波の出力信号レベルがD点からD点より低いH点の範囲内であれば、デイジタルフイルタの出力信号レベルを検出したレベル検出器の出力レベルは、レベル判定器で設定されている前記D点に相当する基準レベル(以下、「第1の基準レベル」という)と前記H点に相当する基準レベル(以下、「第2の基準レベル」という)の範囲内となるため、RF帯域可変利得増幅器に設定された利得は変更されず維持される。
B.入力信号中の希望波の入力信号レベルが増加し、IF帯域可変利得増幅器から出力された希望波の出力信号レベルがD点に達すると、デイジタルフイルタの出力信号レベルを検出したレベル検出器の出力レベルも第1の基準レベルに達するため、レベル判定器の出力信号が変わり、RF帯域可変利得増幅器の利得を1段階低い値に切り換える。
C.入力信号中の希望波の入力信号レベルが減少し、IF帯域可変利得増幅器から出力された希望波の出力信号レベルがH点に達すると、デイジタルフイルタの出力信号レベルを検出したレベル検出器の出力レベルも第1の基準レベルより低い第2の基準レベルに達するため、レベル判定器の出力信号が変わり、RF帯域可変利得増幅器の利得を1段階高い値に切り換える。

よって、上記(ア)乃至(カ)及び関連図面から、引用例には実質的に、
「入力信号を入力し、入力信号に含まれる希望波を出力信号として出力する無線受信機であって、
RF帯域可変利得増幅器と、
前記出力信号のレベルを検出するレベル検出器と、
入力信号に含まれる希望波の信号レベルの増加に伴い、前記レベル検出器で検出した前記出力信号のレベルが増加して第1の基準レベルに達したことを判定すると、前記RF帯可変利得増幅器を低利得に設定するための信号を出力し、入力信号に含まれる希望波の信号レベルの減少に伴い、前記レベル検出器で検出した前記出力信号のレベルが減少して第1の基準レベルより低い第2の基準レベルに達したことを判定すると、前記RF帯可変利得増幅器を高利得に設定するための信号を出力するレベル判定器と、
前記レベル判定器から前記RF帯可変利得増幅器を低利得に設定するための信号を受けると前記RF帯域可変利得増幅器の利得を1段階低い値に切り換える信号を出力し、前記レベル判定器から前記RF帯可変利得増幅器を高利得に設定するための信号を受けると前記RF帯域可変利得増幅器の利得を1段階高い値に切り換える信号を出力する利得制御器とを有する無線受信機。」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。


4.対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係について
引用発明の「無線受信機」は「受信機」の下位概念であるから、引用発明の「無線受信機」は本願発明の「受信機」に相当し、また、引用発明の無線受信機は、入力信号から希望波の信号を発生しているといえるので、引用発明の「入力信号を入力し、入力信号に含まれる希望波を出力信号として出力する無線受信機」は、本願発明の「入力信号を受信し、入力信号から出力信号を発生する受信機」に相当している。

引用発明の利得制御器はRF帯域可変利得増幅器の利得を制御するものであるから、引用発明の「利得制御器」及び「RF帯域可変利得増幅器」からなる構成は、本願発明の「可変利得制御を有する切換可能利得回路」に相当している。

本願明細書(第4頁29行?第5頁4行)には、
「AGC検出器により検出された信号レベルが基準信号レベルを上回る、若しくは、下回るとき、AGC検出器はRF増幅器の利得を減少若しくは増加させるため状態機械に信号を送る。AGC検出器から送られたこれらの信号はヒステリシスを有する(切換閾値が上昇中の信号と降下中の信号とで異なる)。」
と記載されていることから、本願発明の「ヒステリシス応答」とは、検出された信号レベルが上昇中の閾値と下降中の閾値とが異なることにより生じる応答であると解される。
そこで引用発明について検討すると、引用発明のレベル判定器も、レベル検出器で検出した出力信号のレベルが上昇した場合に用いる第1の基準レベルと下降した場合に用いる第2の基準レベルは異なることから、引用発明のレベル検出器及びレベル判定器からなる構成は「ヒステリス応答」を備えているといえる。
また、引用発明では、レベル検出器で検出した出力信号のレベルが上昇して第1の基準レベルに達したことを判定するとRF帯可変利得増幅器を低利得に設定し、レベル検出器で検出した出力信号のレベルが下降して第2の基準レベルに達したことを判定するとRF帯可変利得増幅器を高利得に設定しているため、引用発明のレベル検出器及びレベル判定器からなる構成は、RF帯域可変利得増幅器に対して自動利得制御を行う構成であるといえる。
してみると、引用発明の「レベル検出器」及び「レベル判定器」からなる構成は、本願発明の「ヒステリシス応答を備え、上記出力信号のレベルを検出し、上記出力信号のレベルを表わすAGC検出器信号を発生する自動利得制御(AGC)検出器」に相当している。

(2)本願発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、
「入力信号を受信し、入力信号から出力信号を発生する受信機であって、
可変利得制御を有する切換可能利得回路と、
ヒステリシス応答を備え、上記出力信号のレベルを検出し、上記出力信号のレベルを表わすAGC検出器信号を発生する自動利得制御(AGC)検出器を有する受信機。」
の点で一致している。

(3)本願発明と引用発明の相違点について
本願発明と引用発明は、下記の点で相違する。
(相違点A)
本願発明の切換可能利得回路は、「階段状可変利得制御を有する」ものであるのに対し、引用発明のRF帯域可変利得増幅器は階段状可変利得制御を有しているかが定かでない点。

(相違点B)
本願発明は、「上記AGC検出器に結合され、上記AGC検出器信号に応答し、不連続の階段状刻み幅で上記切換可能利得回路の利得を増大又は減少させるべく上記切換可能利得回路の階段状可変利得制御を制御するため信号を発生する状態機械」を有しているのに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。


5.当審の判断
(1)相違点Aについて
本願発明の「階段状可変利得制御を有する切換可能利得回路」における「階段状可変利得制御」なる記載は、「利得を階段状に可変する制御」と解されるが、何に対して利得を階段状に可変するかが明らかではない。そこで、「階段状可変利得制御」に係る本願明細書の記載を参酌すると、明細書第3頁22行乃至第4頁29行には、
「図2を参照するに、図1の階段状切換式AGC受信回路の伝達関数が示される。横軸はアンテナ102の入力信号レベル(Vin)を表わす。縦軸は出力信号(Vout)の積分のレベルを表わす。出力電圧の積分Vout1は第1の閾値であり、Vout2は第2の閾値であり、出力電圧Vout1及びVout2の積分は出力信号の許容可能レンジを定める。入力電圧Vin1及びVin2は、夫々出力信号Vout1及びVout2の許容可能レンジに対応した入力信号のレンジを定める。
例えば、入力信号がVin2より低いレベルから上昇するとき、状態機械116は、出力信号のレベルの積分がVout1に達するまで、RF増幅器104の最大利得に対応する状態S1を維持する。出力信号のレベルの積分がVout1202に到達したとき、AGC検出器114は、状態機械116に対しその状態を、階段状可変利得制御118を介してRF増幅器104の第1の階段状利得削減に対応した状態S2に変えるよう通知する。入力電圧Vinが増加すると共に、出力信号の積分は再度Vout1204に達し、AGC検出器114は、状態機械116に対しその状態を、階段状可変利得制御118を介してRF増幅器104の第2の階段状利得削減に対応した状態S3に変えるよう通知する。信号が上昇し続けると共に、状態機械116の状態が入力信号の減衰の更なる増加が無くなる、若しくは、防止され得るようになる最大又は最終状態Snに達するまで上記の過程は繰り返される。
或いは、入力信号がVin1よりも高いレベルから降下するとき、状態機械116は、出力信号のレベルの積分がVout2に達するまで、RF増幅器104の最大減衰に対応する状態Snを維持する。出力信号のレベルの積分がVout2210に到達したとき、AGC検出器114は、状態機械116に対しその状態を、階段状可変利得制御118を介してRF増幅器104の第1の階段状減衰削減に対応した状態Sn-1に変えるよう通知する。入力電圧Vinが減少すると共に、出力信号の積分は再度Vout2212に達し、AGC検出器114は、状態機械116に対しその状態を、階段状可変利得制御118を介してRF増幅器104の第2の階段状減衰削減に対応した状態Sn-1に変えるよう通知する。信号が下降し続けると共に、状態機械116の状態が入力信号の利得の更なる増加が無くなる、若しくは、防止され得るようになる最初又は最大状態に達するまで上記の過程は繰り返される。
このように、AGC制御は連続的ではなく、不連続の刻み幅で行われる。」
と記載されている。

上記には、入力信号が上昇して、出力信号のレベルの積分がVout1に到達する度にRF増幅器104の利得が階段状利得削減されて減少し、入力信号が下降して、出力信号のレベルの積分がVout2に到達する度にRF増幅器104の利得が階段状減衰削減されて増加し、RF増幅器104の利得変化は不連続の刻み幅を有することが開示されている。よって、本願発明の「階段状可変利得制御」とは、入力信号のレベルに対して切換可能利得回路の利得を階段状に増加または減少させる制御であると認められる。

これに対して引用発明では、レベル判定器が「入力信号に含まれる希望波の信号レベルの増加に伴い、前記レベル検出器で検出した前記出力信号のレベルが増加して第1の基準レベルに達したことを判定すると、前記RF帯可変利得増幅器を低利得に設定するための信号を出力し、入力信号に含まれる希望波の信号レベルの減少に伴い、前記レベル検出器で検出した前記出力信号のレベルが減少して第1の基準レベルより低い第2の基準レベルに達したことを判定すると、前記RF帯可変利得増幅器を高利得に設定するための信号を出力する」ものであり、利得制御器が「レベル判定器から前記RF帯可変利得増幅器を低利得に設定するための信号を受けると前記RF帯域可変利得増幅器の利得を1段階低い値に切り換える信号を出力し、前記レベル判定器から前記RF帯可変利得増幅器を高利得に設定するための信号を受けると前記RF帯域可変利得増幅器の利得を1段階高い値に切り換える信号を出力する」ものであり、引用発明の構成では、レベル検出器で検出した出力信号のレベルが第1の基準レベルと第2の基準レベルの範囲内であればレベル判定器からは何も判定されずRF帯域可変利得増幅器の利得は変更されずに維持されるものとなっている。

してみると、引用例には、RF帯域可変利得増幅器の可変利得制御が階段状である点は明記されていないが、上記に記載したように、引用発明の構成は入力レベルに対してRF帯域可変利得増幅器の利得を階段状に増加または減少させる制御構成を有していることになるので、引用発明は実質的に上記相違点Aの構成を有していると解される。

(2)相違点Bについて
本願発明の「状態機械」は、「AGC検出器に結合され」ているものであり、かつ、「上記AGC検出器信号に応答し、不連続の階段状刻み幅で上記切換可能利得回路の利得を増大又は減少させるべく上記切換可能利得回路の階段状可変利得制御を制御するため信号を発生する」ものである。
そこで、引用発明の「利得制御器」の接続構成と、RF帯域可変利得増幅器に対する利得の制御構成について検討する。

最初に接続構成について検討する。
引用発明の「利得制御器」は、「前記レベル判定器から前記RF帯可変利得増幅器を低利得に設定するための信号を受け」、「前記レベル判定器から前記RF帯可変利得増幅器を高利得に設定するための信号を受け」るものであり、また、上記3.(エ)に記載されているように、引用例の第1図にはレベル判定器4と利得制御器3を接続する構成が記載されていることから、引用発明の「利得制御器」は、「レベル判定器」に結合された接続構成となっている。そして、引用発明の「レベル検出器」及び「レベル判定器」からなる構成は上記4.(1)に記載したように本願発明の「自動利得制御(AGC)検出器」に相当しているので、引用発明の「レベル検出器」は、「自動利得制御(AGC)検出器」内の構成である。
よって、引用発明の「利得制御器」は、「自動利得制御(AGC)検出器」に結合された接続構成になっているといえる。

次にRF帯域可変利得増幅器に対する利得制御について検討する。
上記のように、引用発明の「レベル検出器」は、「自動利得制御(AGC)検出器」内の構成であり、同様に上記4.(1)の記載から、引用発明の「RF帯域可変利得増幅器」は、「切換可能利得回路」内の構成である。
引用発明では、「レベル判定器」が出力した信号に応答して「利得制御器」が「RF帯域可変利得増幅器」の利得を制御している。そして、この利得の制御については上記5.(1)に記載したように、「引用発明の構成は入力レベルに対してRF帯域可変利得増幅器の利得を階段状に増加または減少させる」ものであり、「階段状」に増加または減少させられるので、「RF帯域可変利得増幅器の利得」は不連続な値に設定される構成になっている。
よって、引用発明の「利得制御器」は、「AGC検出器信号」に応答し、「不連続の階段状刻み幅で切換可能利得回路の利得を増大又は減少させるべく切換可能利得回路の階段状可変利得制御を制御」する制御構成となっている。

してみると、引用発明の「利得制御器」は、本願発明の「状態機械」の構成を含んだ構成になっていると認められる。そして、回路構成において、部分的な回路部に特定の名称をつけて該回路部を特定することは必要に応じて適宜行われていることなので、引用発明において「利得制御器」の「不連続の階段状刻み幅で切換可能利得回路の利得を増大又は減少させるべく切換可能利得回路の階段状可変利得制御を制御」する部分を「状態機械」という名称に特定することは格別なものではないから、上記相違点Bは当業者が容易に想到し得たものである。

(3)本願発明の作用効果について
請求人は審判請求書の「(3)対比及び判断」の欄において、
「本願発明の受信機は、「不連続の階段状刻み幅で切換可能利得回路の利得を増減させるように切換可能利得回路の階段状可変利得制御を行う状態機械」を備えています。引用文献1,2のAGC回路はそのような状態機械を備えていませんし、不連続な階段状刻み幅で利得を増減させることもできません。引用文献1の可変利得回路は階段状の可変利得制御ではなく、ある既知の可変利得制御に過ぎません。「階段状」は時間的にステップ状であること(一度にワンステップでなされること)を意味します。
何れの引用文献も、時間領域で制御を行うことを開示していません(例えば、引用文献第4図等)。何れの引用文献も本願発明のような「状態機械」を開示していません。」
及び、
「これに対して本発明の受信機における状態機械は一度にワンステップで増やされる又は減らされることを保証します。従来の自動利得制御回路は引用文献1と同様な手法を採用するか、或いはゲイン曲線を利用するようなものに過ぎません。時間的に僅かなワンステップで利得を増やす又は減らすことで、短期間に大きな信号強度変化が生じたとしても、安定性の問題を効果的に回避することができます(第6頁第2行乃至第18行等)。
このような作用効果は引用発明1からは得られません。同様の議論により引用発明2からもそのような作用効果は得られません。」
と主張している。

しかしながら、本願明細書の第6頁第2行乃至第18行の記載である、
「かくして、階段状利得を用いることにより、RF増幅器は信号レベルの大きい変化に対し階段状に切り換えられる。信号レベルの小さい変換に対し、ヒステリシスはRF増幅器利得のあらゆる変化を防止する。従って、例えば、強いRF信号が受信機の入力から消失したとき、RF増幅器利得の階段状の切換がAGCループの発振又は不安定化の機会を著しく削減するので、RF増幅器利得の大きい変化は回避される。入力からのRF信号の消失はミキサに過渡現象を生じさせ、実際上、入力に信号がないときにはRF信号の突然の消失により生じた過渡現象だけが生じる。AGCによって過渡信号を調整しようとする試みは、AGCループを不安定にさせる。
従って、受信機は、速いウォームアップ時間と優れた安定性の両方を実現する。約3.5msに改善されたAGCウォームアップ時間は、初期AGC状態から限界感度まで“カウントダウン”するため必要とされる時間を含む。AGC制御信号は量子化又は階段状にされるので、濾波すべき低周波交流リップルは存在せず、AGC検出器におけるヒステリシスの使用及び成形された減衰刻み幅は、自己受信の影響を最小限に抑える。」
には、「信号レベル」に対してRF増幅器の「利得」を「階段状」に切り換えられることは記載されているが、「時間」に対してRF増幅器の「利得」を「階段状」に切り換えられることは記載されておらず、請求人の主張である「「階段状」は時間的にステップ状であること(一度にワンステップでなされること)」、「状態機械は一度にワンステップで増やされる又は減らされる」、及び、「時間的に僅かなワンステップで利得を増やす又は減らす」についても記載されていない。

そこで、請求人の主張である「「階段状」は時間的にステップ状であること(一度にワンステップでなされること)」について検討する。
上記5.(1)に記載した本願明細書(第3頁22行?第4頁29行)には、入力信号が上昇し続けた場合はRF増幅器の利得を段階的に低下させ、入力信号が下降し続けた場合はRF増幅器の利得を段階的に増加させる制御を行っている点が記載されている。この入力信号が上昇し続けた場合または下降し続けた場合に限って時間的にRF増幅器の利得の変化を見ると、まさしく「階段状」に変化している。しかしながら、入力信号に変化範囲が小さければ、RF増幅器の利得の時間的変化は「階段状」にはならない。そうすると、請求人の主張である「「階段状」は時間的にステップ状であること(一度にワンステップでなされること)」とは、入力信号の変化範囲が大きい場合に、RF増幅器の利得が時間的に「階段状」に変化させることであると解される。
これに対して、引用発明の構成において入力信号が上昇し続けた場合または下降し続けた場合について検討すると、上記3.(ウ)に記載されているように、希望波入力レベルが増加し続けるとRF帯可変利得増幅器の利得をR1、R2、R3と段階的に低下させ、希望波入力レベルが減少し続けるとRF帯可変利得増幅器の利得をR3、R2、R1と段階的に増加させる制御が行われるため、引用発明の構成においても時間的にRF帯可変利得増幅器の利得の変化を見ると「階段状」(「時間的にステップ状であること(一度にワンステップでなされること)」に変化させている。
よって、引用例には時間領域で制御を行うことが開示され、かつ、引用発明のRF帯可変利得増幅器の利得制御は、時間的にステップ状に行われるものであると解される。

次に、引用発明の利得制御による安定性について検討すると、上記4.(1)に記載したように引用発明の構成もヒステリシス応答を有するため、入力レベルに対してマージンが設けられていることになり、上記3.(ウ)に記載されているように、フエージング等による入力信号のレベル変動に伴う利得制御の不安定性を回避できる作用効果を有するものである。また、入力レベルが大きく変化した場合には、上記で検討したようにRF帯可変利得増幅器の利得は「階段状」に変化するため、利得制御による不安定性を低下させる作用効果を有していると認められる。

してみると、上記請求人の主張を採用することはできず、また、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について、検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-27 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-14 
出願番号 特願平9-534189
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伏本 正典  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 飯田 清司
池田 聡史
発明の名称 ヒステリシスのある階段状可変利得制御を具備した選択式呼受信機  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠彦  

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