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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J
管理番号 1217887
審判番号 不服2007-16754  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-14 
確定日 2010-06-10 
事件の表示 特願2002-536362「防曇性ポリプロピレン系シートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月25日国際公開、WO02/32984〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成13年10月15日(優先権主張、平成12年10月16日、日本国)の出願であって、平成18年3月10日付けで拒絶理由が通知され、同年5月15日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成19年5月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月14日に拒絶査定不服の審判が請求され、同年6月27日に審判請求書の手続補正書(方式)とともに手続補正書が提出され、同年9月27日付けで前置報告がなされ、当審において平成21年5月19日付けで審尋がなされ、同年7月24日に回答書が提出され、同年12月16日付けで拒絶理由が通知され、平成22年3月8日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明について

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年3月8日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの以下のものであると認める。
「【請求項1】複数の冷却ロールに巻装されたエンドレスベルトと鏡面冷却ロールとの間に溶融したプロピレン単独重合体からなる溶融ポリプロピレンを導入後、前記エンドレスベルトおよび鏡面冷却ロールで前記溶融ポリプロピレンを圧接してシート状に成形するとともに、急冷してポリプロピレン系樹脂シートを成形するシート成形工程と、
このシート成形工程により得られたポリプロピレン系樹脂シートの少なくとも一方の表面に、防曇剤とバインダ樹脂との混合水溶液であって前記防曇剤および前記バインダ樹脂を固形分量としてそれぞれ10?400mg/m^(2)を塗布した後、乾燥させてコート層を形成するコート層形成工程と、を備えることを特徴とする防曇性ポリプロピレン系シートの製造方法。」

第3.当審において通知した拒絶の理由の概要

当審において通知した、平成21年12月16日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

「本件出願は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開平11-156921号公報 」

第4.当審において通知した拒絶の理由の妥当性についての検討

1.刊行物1の記載事項

本願の特許法第41条第1項の規定による優先権主張の基礎とされた先の出願の出願日(平成12年10月16日)前に頒布されたことが明らかな特開平11-156921号公報(当審における平成21年12月16日付け拒絶理由通知において示した刊行物1と同一。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

1a.「【請求項1】下記特性(a) ?(c) を有することを特徴とする軟質透明ポリオレフィン樹脂シート。
(a)引張り弾性率が20?1000MPa
(b)体積分率の大部分を占める非結晶樹脂相とは異なる屈折率を有する異物の平均長さが10μm 以下、かつシート面の任意の断面内における異物の個数が500個/mm^(2)以下
(c)少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.2 μm 以下
・・・
【請求項3】請求項1又は2に記載の軟質透明ポリオレフィン樹脂シートにおいて、
ホモポリプロピレンの立体規則性について^(13)C-NMRを用いて測定したペンタッド分率において、mmmmの割合(PI 値)が50?90%である低立体規則性ポリプロピレン系樹脂を用いることを特徴とする軟質透明ポリオレフィン樹脂シート。
・・・
【請求項22】冷却ロールと、この冷却ロールと樹脂シートを介して当接する金属製エンドレス部材とを有し、前記冷却ロールと金属製エンドレス部材との間に樹脂シートが導入されてこの樹脂シートが冷却される部分の前記金属製エンドレス部材の背面側には弾性材が設けられた製造装置を使用した軟質透明ポリオレフィン樹脂シートの製造方法であって、
溶融状態にある請求項1?21のいずれかに記載の軟質透明ポリオレフィン樹脂シートを、前記冷却ロールと接触している前記金属製エンドレス部材と、前記冷却ロールとに略同時に接触するようにして前記冷却ロールと金属製エンドレス部材との間に導入し、
前記弾性材を弾性変形させながら前記軟質透明樹脂シートを面状に圧接して冷却することを特徴とする軟質透明ポリオレフィン樹脂シートの製造方法。
【請求項23】請求項22に記載の軟質透明ポリオレフィン樹脂シートの製造方法において、
前記金属製エンドレス部材は、少なくとも2個のロール間に巻装され、前記弾性材はこれらのロールのうちの前記冷却ロール側の外周面に形成されていることを特徴とする軟質透明ポリオレフィン樹脂シートの製造方法。
・・・
【請求項26】 請求項22?25のいずれかに記載の軟質透明ポリオレフィン樹脂シートの製造方法において、
前記樹脂シートと直接接触している前記金属製エンドレス部材及び前記冷却ロールの温度を露点?50℃とすることを特徴とする軟質透明ポリオレフィン樹脂シートの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1、3、22、23、26)

1b.「本発明は、軟質透明樹脂シート及びその製造方法に関する。得られたシートは、食品、医薬品、衣料品等の包装用に利用できる。また、携帯用バッグ、文房具(多色ペンケ-ス、チャック付きケ-ス等)、化粧シ-ト(建装材、家具等)、農業用温室カバ-、目薬ケース、CD-ROMケース、等にも使用できる。」(段落【0001】)

1c.「本発明の第26発明に係る軟質透明ポリオレフィン樹脂シートの製造方法は、第22?第25発明のいずれかにおいて、前記樹脂シートと直接接触している前記金属製エンドレス部材及び前記冷却ロールの温度を露点?50℃とすることを特徴とする。前記樹脂シートを冷却するための金属製エンドレス部材及びロールの温度が露点より低い場合には、シートに水滴斑が発生する。また、50℃を超える場合には、良好な透明性が得られなくなる。好ましくは、30℃以下である。」(段落【0044】)

1d.「〔第1実施形態〕図1を参照して本実施形態に係る軟質透明ポリオレフィン樹脂シート11及びその製造方法を説明する。先ず、本実施形態の製造方法において使用する製造装置の構成を説明する。この製造装置は、押出機(図示せず)のTダイ12と、第1の冷却ロール13と第2の冷却ロール14との間に巻装された金属製エンドレスベルト15と、樹脂シート11と金属製エンドレスベルト15を介して第1の冷却ロール13と接触する第3の冷却ロール16と、第2の冷却ロール14の近傍に設けられた第4のロール17とを備えて構成されている。
前記第1の冷却ロール13は、その外周面にフッ素ゴム等の弾性材18が被覆されている。この弾性材18は、その硬度(JIS K6301 A 型に準拠)が95度以下、厚さが3mm以上のものである。前記金属製エンドレスベルト15は、ステンレス等よりなり、表面粗さが0.5 S以下の鏡面を有している。第1と第2の冷却ロール13,14 の少なくとも一方は、その回転軸19が回転駆動手段(図示せず)と連結されている。
前記第3の冷却ロール16も、表面粗さが0.5 S以下の鏡面を有している。そして、この冷却ロール16は、樹脂シート11と金属製エンドレスベルト15を介して第1の冷却ロール13と接触し、しかもエンドレスベルト15でこの冷却ロール16側に押圧された樹脂シート11を抱き込むようにして設けられている。即ち、金属製エンドレスベルト15とこのエンドレスベルト15と接触している樹脂シート11は、第3の冷却ロール16の外周面の一部に巻き付くようにして蛇行している。 前記第4のロール17は、樹脂シート11がエンドレスベルト15を介して第2の冷却ロール14に圧接されるように樹脂シート11をガイドするものである。
冷却ロールのうち、前記第1及び第3の冷却ロール13,16 には、表面の温度調整を可能とする水冷式等の温度調整手段(図示せず)が設けられている。他の冷却ロール14には、温度調整手段は特に設けられていないが、設けても良い。なお、図1に一点鎖線で示したように、エンドレスベルト15内の第1の冷却ロール13の前に更に冷却ロール31を設けて第1の冷却ロール13に到るエンドレスベルト15の上流部分を予め冷却するようにしてもよい。また、この冷却ロール31は、エンドレスベルト15の張力調整用としても機能する。
次に、上記製造装置を使用した本実施形態の軟質透明ポリオレフィン樹脂シート11の製造方法を説明する。先ず、樹脂シート11と直接接触する金属製エンドレスベルト15及び第3の冷却ロール16の表面温度が50℃以下、露点以上に保たれるように、各冷却ロール13, 14,16 の温度制御をしておく。また、押出機に供給する樹脂シート11の原料は、単層系の場合には軟質ポリプロピレン系樹脂のペレット、多層系の場合には更に硬質ポリプロピレン系のペレットも用意する。
そして、前記樹脂シート11の原料を押出機に投入して溶融混練した後、Tダイ12より押し出された樹脂シート11を、第1の冷却ロール13と接触しているエンドレスベルト15と、第3の冷却ロール16とに略同時に接触するようにして第1と第3の冷却ロール13,16 の間に導入し、これらの第1と第3の冷却ロール13,16 で樹脂シート11を圧接して50℃以下に冷却する。この際、弾性材18は、第1と第3の冷却ロール13,16 間の押圧力で圧縮されるようにして弾性変形し、この弾性材18が弾性変形している両ロール13,16 の中心からの角度θ1 部分において樹脂シート11は、両ロール13,16 による面状圧接となっている。この際の面圧は、0.1MPa?20.0MPa である。
引き続き、この樹脂シート11を前記鏡面のエンドレスベルト15で第3の冷却ロール16に対して圧接して50℃以下に冷却する。エンドレスベルト15でこの冷却ロール16側に押圧された樹脂シート11は、冷却ロール16の中心からの角度θ2 で冷却ロール16に抱き込まれ、樹脂シート11は、この抱き角度θ2 部分においてエンドレスベルト15と第3の冷却ロール16により面状に圧接されている。この際の面圧は、0.01MPa ?0.5MPaである。
次に、樹脂シート11をエンドレスベルト15に重なるように沿わせた状態でエンドレスベルト15の回動と共に第2の冷却ロール14側に移動させ、この樹脂シート11をエンドレスベルト15を介して第2の冷却ロール14に対して圧接して50℃以下に冷却して本実施形態の軟質透明樹脂シート11を製造する。樹脂シート11を第4のロール17のガイドによりこの冷却ロール14側に押圧した際、この樹脂シート11は、エンドレスベルト15を介して冷却ロール14の中心からの角度θ3 部分において面状に圧接されている。この際の面圧は、0.01MPa ?0.5MPaである。なお、図1の2点鎖線で示すように、樹脂シー11は、第1と第3の冷却ロール13,16 で冷却した後、直ちにエンドレスベルト15から剥離して引き取るようにしてもよい。
本実施形態によれば、ポリオレフィン系樹脂を原料としてTダイ12より押し出された溶融樹脂シート11に対して、弾性材18が弾性変形している第1と第3のロール13, 16の角度θ1 部分において両ロール13,16 によるシート11の面状圧接と冷却を行い、引き続き、角度θ2 部分において金属製エンドレスベルト15と第3の冷却ロール16によるシート11の面状圧接と冷却を行った後、第2の冷却ロール14の角度θ3 部分においてエンドレスベルト15と第2の冷却ロール14によるシート11の面状圧接と冷却を行うため、得られたシート11は下記特性(a?c)を有している。
(a)引張り弾性率が20?1000MPa
(b)体積分率の大部分を占める非結晶樹脂組成とは異なる屈折率を有する異物の平均長さが10μm 以下、かつシート面の任意の断面内における異物の個数が500 個/mm^(2)以下
(c)少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.2 μm 以下」(段落【0049】?【0058】)

1e.「〔実施例1?17〕上記第1実施形態において、各実施例のシート原料の具体例、配合割合等を下記のように変えて樹脂シート11を製造した。実施例1?8の樹脂シート11は、単層構造である。各実施例の樹脂シート11が有する前記特性(a?c)を表1に示す。
押出機の直径…90mm。
Tダイの幅…800mm 。
弾性材…材質:シリコーンゴム、厚さ:10mm、硬度:30度。
シートの引取り速度…16m/min 。
シートと接触しているエンドレスベルトとロールの表面温度…20℃。
実施例1の軟質ポリオレフィン系樹脂…低立体規則性ホモポリプロピレン(MI:3.1 g/10分、密度:0.90g/cm^(3)、引張り弾性率:500MPa、PI:76%、rrrr/(1-mmmm):24.2%、沸騰ヘプタン不溶分:90wt%)。出光石油化学株式会社製TPO E-2900(商品名)。シートの厚さ…0.2mm 。
・・・
実施例15の中間層の軟質ポリオレフィン系樹脂…高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、MI:4g/10分、密度:0.921g/cm^(3))。東ソー株式会社製ペトロセン190 (商品名)。中間層の厚さ…0.16mm。
実施例15の両表面層の樹脂…ランダムポリプロピレン(エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン含有量:4wt%、MI:11g/10分)。グランドポリマー株式会社製グランドポリプロS235(商品名)。各表面層の厚さ…0.02mm。
・・・
〔比較例1,2〕冷却ロールを使用した従来のタッチロール式のシート成形法で樹脂シートを製造した。冷却ロールの温度は、40℃である。比較例1の場合、原料樹脂は、実施例1と同じである。比較例2の場合、実施例15と同じ3層構造であり、原料樹脂も同じである。」(段落【0075】-【0087】)

1f.「【表1】

」(段落【0093】の【表1】)

1g.「【表2】

」(段落【0094】の【表2】)

1h.「表1より、実施例1?8に係る軟質透明ポリオレフィン樹脂シート11によれば、前記特性(a?c)を有する軟質ポリオレフィン系樹脂よりなるため、全ヘイズと内部ヘイズが低くて透明性が良好である。また、グロスが高くて光沢も良好であることがわかる。また、実施例9?17に係る軟質透明ポリオレフィン樹脂シート11によれば、両表面層の少なくとも一方の表面層が、硬質ポリプロピレン系樹脂よりなる多層構造の場合にも同様の良好な特性が得られることがわかる。また、本発明に係る製造方法によって、前記特性(a?c)を有する軟質透明ポリオレフィン樹脂シート11を製造することができる。
一方、表2より、比較例1によれば、得られた樹脂シートは、全ヘイズと内部ヘイズが高くて透明性が不良である。また、グロスが低くて光沢も不良であることがわかる。比較例2によれば、得られた樹脂シートは、全ヘイズが高くて透明性が不良である。また、グロスが低くて光沢も不良である。」(段落【0095】?【0096】)

1i.「【図1】

」(16頁の【図1】)

2.刊行物1に記載された発明

刊行物1には、「冷却ロールと、この冷却ロールと樹脂シートを介して当接する金属製エンドレス部材とを有し、前記冷却ロールと金属製エンドレス部材との間に樹脂シートが導入されてこの樹脂シートが冷却される部分の前記金属製エンドレス部材の背面側には弾性材が設けられた製造装置を使用した軟質透明ポリオレフィン樹脂シートの製造方法」において(摘示記載1aの【請求項22】)、弾性材を弾性変形させながら軟質透明樹脂シートを面状に圧接して冷却すること(摘示記載1aの【請求項22】)、金属製エンドレス部材は少なくとも2個のロール間に巻装されること(摘示記載1aの【請求項23】)、第3の冷却ロール16が鏡面を有していることが記載されている(摘示記載1d及び1i)。

また、刊行物1には、ホモポリプロピレンの立体規則性について^(13)C-NMRを用いて測定したペンタッド分率において、mmmmの割合(PI 値)が50?90%である低立体規則性ポリプロピレン系樹脂を用いることが記載されており(摘示記載1aの【請求項3】)、さらに実施例1には、低立体規則性ポリプロピレン系樹脂のみを配合したシートが記載されていることからみて(摘示記載1e及び1f)、ポリプロピレン単独重合体からなるポリプロピレン樹脂シートが記載されていることは明らかであるといえる。

そうすると、刊行物1には、「少なくとも2個のロール間に巻装された金属製エンドレス部材と鏡面冷却ロールとの間に溶融状態にあるポリプロピレン単独重合体からなる軟質透明ポリプロピレン樹脂シートを導入し、その導入されて樹脂シートが冷却される部分の金属製エンドレス部材の背面側に設けた弾性材を弾性変形させながら軟質透明樹脂シートを面状に圧接して冷却する軟質透明ポリプロピレン樹脂シートの製造方法」の発明(以下、「引用発明1」)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明1との対比・判断

そこで、本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1における「少なくとも2個のロール間に巻装された金属製エンドレス部材」は、本願発明における「複数の冷却ロールに巻装されたエンドレスベルト」に相当し、引用文献1における「溶融状態にあるポリプロピレン単独重合体からなる軟質透明ポリプロピレン樹脂シート」は、本願発明における「溶融したプロピレン単独重合体からなる溶融ポリプロピレン」に相当し、引用発明における圧接して冷却することにより最終的に得られる「軟質透明ポリプロピレン樹脂シート」は、本願発明における「ポリプロピレン系シート」に相当する。
そして、刊行物1には、Tダイ12より押し出された樹脂シート11を、第1の冷却ロール13と接触しているエンドレスベルト15と、第3の冷却ロール16とに略同時に接触するようにして第1と第3の冷却ロール13,16 の間に導入し、これらの第1と第3の冷却ロール13,16 で樹脂シート11を圧接して50℃以下に冷却し、この際、弾性材18は、第1と第3の冷却ロール13,16 間の押圧力で圧縮されるようにして弾性変形することが記載されており(摘示記載1d及び1i)、さらに樹脂シートと直接接触している金属製エンドレス部材及び冷却ロールの温度が露点?50℃であることが記載されており(摘示記載1a及び1c)、本願発明におけるシートを急冷する際の温度と同じ範囲であることから(本願明細書の段落【0010】)、引用発明1における「樹脂シートが冷却される部分の金属製エンドレス部材の背面側に設けた弾性材を弾性変形させながら軟質透明樹脂シートを面状に圧接して冷却する」工程は、本願発明における「エンドレスベルトおよび鏡面冷却ロールで溶融ポリプロピレンを圧接してシート状に成形するとともに、急冷してポリプロピレン系樹脂シートを成形するシート形成工程」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明1とは、「複数の冷却ロールに巻装されたエンドレスベルトと鏡面冷却ロールとの間に溶融したプロピレン単独重合体からなる溶融ポリプロピレンを導入後、前記エンドレスベルトおよび鏡面冷却ロールで前記溶融ポリプロピレンを圧接してシート状に成形するとともに、急冷してポリプロピレン系樹脂シートを成形するシート成形工程、を備えるポリプロピレン系シートの製造方法。」である点で一致しているが、以下の点で相違している。

相違点1:本願発明は、「ポリプロピレン系樹脂シートの少なくとも一方の表面に、防曇剤とバインダ樹脂との混合水溶液であって前記防曇剤および前記バインダ樹脂を固形分量としてそれぞれ10?400mg/m^(2)を塗布した後、乾燥させてコート層を形成するコート層形成工程」を備えることにより、防曇性を付与しているのに対し、引用発明1は、コート層形成工程についての規定がない点。

上記相違点1について検討すると、刊行物1には、軟質透明樹脂シートの用途として、食品包装用や農業用温室カバ-が列記されているが(摘示記載1b)、当該食品包装用や農業用温室カバーの用途に供する際に、防曇性を付与させること自体、文献を提示するまでもなく、本願出願前に周知慣用の技術であることから、引用発明1にかかるポリプロピレン系シートに、防曇性を付与することは、上記周知慣用の技術を採用した程度のことに過ぎない。
そして、食品包装用や農業用のポリオレフィン系樹脂シートに防曇性を付与する手段として、ポリオレフィン系樹脂シートの表面に、防曇剤とバインダ樹脂との混合水溶液を塗布した後、乾燥させてコート層を形成するコート層形成工程については、例えば特開平11-222531号公報(特許請求の範囲の請求項1?2、段落【0001】、段落【0018】、段落【0020】、段落【0022】)、特開平9-104773号公報(特許請求の範囲の請求項1、段落【0033】?【0039】)、特開平8-53558号公報(特許請求の範囲の請求項1、段落【0008】、段落【0019】?【0020】)、特開昭53-18641号公報(特許請求の範囲、第1頁左欄下から2行?同右欄第2行、第2頁右上欄第14行?同左下欄第11行、第3頁左上欄第20行?同右上欄第5行)、特開2000-280422号公報(特許請求の範囲の請求項1?6、段落【0002】?【0003】、段落【0022】)にも記載されているとおり、周知技術に過ぎないものと認められるとともに、当該周知技術には、ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレンを用いること(特開昭53-18641号公報の第1頁左欄下から2行?右欄第2行及び第3頁左下欄?右下欄の実施例2、特開2000-280422号公報の特許請求の範囲請求項5及び実施例4)、防曇剤を含有するコート層を形成する際に、固形分量として単位面積あたりの付着量に着目すること(特開平9-104773号公報の段落【0024】、特開2000-280422号公報の段落【0016】)、がそれぞれ認められる。
そうすると、引用発明1にかかるポリプロピレン系シートに防曇性を付与し、その際に、上記周知のコート層形成工程を採用するとともに、コート層の固形分量を、単位面積あたりの付着量に基づいて規定することは、その発明の属する通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)にとり周知の技術を採用した程度のことに過ぎず、当業者が容易に想到しうるものである。

また、本願発明にかかるシート形成工程とコート層形成工程を採用することにより奏される効果について、本願明細書には、本願発明にかかるシート形成工程を採用した実施例1?3とともに、透明化核剤を用い、一般のタッチロール成形を採用した実施例4が記載されており、当該実施例4は、本願発明にかかるシート形成工程ではないことから本願発明の実施例ではないと認められるが、実施例1?3と実施例4とを対比すると、実施例1?3は熱成形後の成形体透明性が◎であるのに対し、実施例4はこの成形体透明性が△であり、それ以外に効果の差異はないことから、有利な効果を確認できるのは熱成形後の成形体透明性のみであるといえる。
しかしながら、本願発明の製造方法で製造されるものは「防曇性ポリプロピレン系シート」であって、「熱成形用」に限定されていないことからすると、熱成形せずに用いる「防曇性ポリプロピレン系シート」も包含しているものと認められるが、そうであれば、実施例4に比して、実施例1-3の結果が熱成形後の成形体透明性のみにおいて有利な効果であることをもって、本願発明の進歩性を認めることはできない。
なお、仮に、本願発明が、熱成形用のポリプロピレン系シートの製造方法と解されるとしても、刊行物1には、本願発明にかかるシート形成工程により得られるポリプロピレン系樹脂シートが、一般のタッチロール成形により得られるポリプロピレン系シートに比べて透明性に優れていることが示されており(摘示記載1e?1h)、さらに、刊行物1に列記されている用途からポリプロピレン系シートを熱成形等の各種成形手段に供することは明らかであることから(摘示記載1b)、上記熱成形後の成形体透明性の効果は当業者が容易に予測しうるものであり、当業者が刊行物1に記載された発明に基いて容易に発明できたものと認められる。

さらに、コート層の固形分量に関する数値限定について、本願明細書には、防曇剤重量が本願発明の範囲外である比較例2が、実施例1?4に比べてシート外観、熱成形後の成形体外観及び成形体防曇性が劣ることが記載されており、また防曇剤重量及びバインダ重量が本願発明の範囲外である比較例3が、実施例1?4に比べてシート防曇性、熱成形後の成形体防曇性が劣ることが記載されているが、当該実施例及び比較例の結果は、防曇剤の単位面積あたりの重量とバインダ樹脂の単位面積あたりの重量のそれぞれを10?400mg/m^(2)とすることの臨界的意義を示すものではない。

4.審判請求人の主張について

請求人は、平成22年3月8日提出の意見書において、
「本願発明は極性の低いポリプロピレン(プロピレンの単独重合体)からなるポリプロピレン系シートの製造方法であります。これに対し、刊行物1にはポリオレフィン樹脂シートの製造方法が記載されており、その材料として、数多くのポリオレフィン系樹脂が例示されております。しかしながら、刊行物1には多種多様なポリオレフィン系樹脂が単に列記されているに過ぎず、ポリオレフィン樹脂シートとして実質的に示されているものは、ゴムをホモポリプロピレンに混合した低立体規則性ポリプロピレンからなるポリオレフィン樹脂シート(実施例1、出光石油化学(株)製の『TPO E-2900』)、エチレン-プロピレン共重合体からなるポリオレフィン樹脂シート(実施例2?5)、ゴムや他のポリオレフィンを低立体規則性ポリプロピレンに混合したものからなるポリオレフィン樹脂シート(実施例6?8)、LLDPE、エチレン-オクテン共重合体、非晶質オレフィン、結晶性ポリオレフィンなどを混合した樹脂組成物である軟質のポリオレフィン系樹脂からなる層を備えるポリオレフィン樹脂シート(実施例9?17)であり(刊行物1の段落[0075]?[0087]参照)、プロピレンの単独重合体からなるポリオレフィン樹脂シートは刊行物1には記載されておりません。」と主張している。
しかしながら、刊行物1には、実施例1において低立体規則性ホモポリプロピレンのみを配合したシートが記載されており(摘示記載1e及び1f)、この実施例にはゴムを配合するとの記載がないことからみて、プロピレンの単独重合体からなるポリオレフィン樹脂シートが記載されているとみるのが妥当である。また、仮に、出光石油化学(株)製の「TPO E-2900」がゴムを配合したものであるとしても、刊行物1には、ホモポリプロピレンの立体規則性について^(13)C-NMRを用いて測定したペンタッド分率において、mmmmの割合(PI 値)が50?90%である低立体規則性ポリプロピレン系樹脂を用いることが記載されており(摘示記載1aの【請求項3】)、この「低立体規則性ポリプロピレン系樹脂」が、ゴムを含有しないポリプロピレン単独重合体である態様を包含することが明らかであることから、引用発明1にかかる軟質透明ポリプロピレン樹脂シートがゴムを含有しないポリプロピレン単独重合体からなる態様を包含することが明らかであり、よって請求人の上記主張は採用することができないものである。

また、請求人は、上記意見書において、
「そして、刊行物1のポリオレフィン樹脂シートは比較的に極性の高い上記のポリオレフィン系樹脂を用いており、防曇剤などの接着性が良好であることから、仮にポリオレフィン樹脂シートに対し防曇剤を塗布するとしても、当業者が敢えて防曇剤だけでなくバインダ樹脂も塗布すべきと認識することはないと考えます。このように、刊行物1に記載のポリオレフィン樹脂シートの製造方法において、ポリオレフィン樹脂シートに対し防曇剤だけでなくバインダ樹脂も塗布する必然性や動機は全くありません。もちろん、刊行物1には、防曇剤およびバインダ樹脂をポリオレフィン樹脂シートに塗布することなど何ら記載も示唆もされておらず、防曇剤をポリオレフィン樹脂シートに塗布することさえも何ら記載も示唆もされておりません。従って、かかる刊行物1の記載からは、それぞれ特定量の防曇剤およびバインダ樹脂をポリプロピレン系樹脂シートに塗布するという本願発明の構成(B)は当業者といえども決して容易に想到できるものではありません。また、上記構成により達成される効果、すなわち、防曇性ポリオレフィン系シートの透明性、熱成形性を向上させることができ、しかも、コート層の塗膜強度を高くできるとともに、その表面のべたつきを抑えることができるという本願発明の効果も刊行物1の記載からは到底予期されるものではありません。」と主張している。
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂シートの表面に、防曇剤とバインダ樹脂との混合水溶液を塗布した後、乾燥させてコート層を形成するコート層形成工程の周知技術として示した特開平11-222531号公報、特開平9-104773号公報、特開平8-53558号公報、特開2000-280422号公報には、比較的極性の高いポリオレフィン系樹脂をシート基材として用いることが記載されているとともに、当該周知技術として示した特開昭53-18641号公報には、比較的極性の低いポリオレフィン系樹脂をシート基材として用いることが記載されていることからみて、シート基材として用いるポリオレフィン系樹脂の極性が、ポリオレフィン樹脂シートに対し防曇剤だけでなくバインダ樹脂も塗布する必然性や動機に影響を及ぼすということはできず、よってポリオレフィン系樹脂シートを構成するポリオレフィン系樹脂の極性により、引用発明1にかかる軟質透明ポリプロピレン樹脂シートに防曇性を付与し、その際に、上記周知のコート層形成工程を採用するとともに、コート層の固形分量を、単位面積あたりの付着量に基づいて規定することについての容易想到性が左右されるものではない。
そして、本願発明にかかるシート形成工程とコート層形成工程を採用することにより奏される効果については、前述のとおり格別顕著なものとはいえないことから、請求人の上記主張は採用することができないものである。

5.まとめ

よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5.むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての当審において通知した平成21年12月16日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由は妥当なものであり、本願は、この理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり結審する。
 
審理終結日 2010-04-12 
結審通知日 2010-04-13 
審決日 2010-04-26 
出願番号 特願2002-536362(P2002-536362)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 仁芦原 ゆりか森川 聡  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小野寺 務
▲吉▼澤 英一
発明の名称 防曇性ポリプロピレン系シートの製造方法  
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所  
代理人 中山 寛二  
代理人 石崎 剛  
代理人 木下 實三  

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