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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1217953
審判番号 不服2008-18966  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-24 
確定日 2010-06-10 
事件の表示 特願2004- 71094「電子写真用トナー製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開、特開2005-258191〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年 3月12日の出願であって、平成20年 6月17日付で拒絶査定がなされ、これに対して同年 7月24日に審判請求がなされるとともに、同年 8月25日付で手続補正がなされたものである。
これに対して、当審において、平成21年11月12日付で、平成20年 8月25日付の手続補正を却下するとともに拒絶理由を通知したところ、平成22年 1月18日付で意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の発明は、その明細書及び図面の記載から見て、平成22年 1月18日付手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
少なくとも着色剤粒子とトナー主樹脂とを混練し、トナー主樹脂中に着色剤粒子を分散させ、生成した混練物を粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記着色剤粒子は、色材粒子と該色材粒子が前記トナー主樹脂に接触することのないよう該色材粒子の表面を完全に被覆した色材粒子被覆樹脂とからなることを特徴とする電子写真用トナーを製造する電子写真用トナー製造方法であって、
転相乳化法により、色材粒子を色材粒子被覆樹脂によりその表面を完全に被覆させて着色剤粒子を生成するカプセル化工程と、
前記カプセル化工程でカプセル化された着色剤粒子とトナー主樹脂とを混練してトナー主樹脂中に着色剤粒子を分散させ混練物を生成する混練工程と、
前記混練工程で得られた混練物を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で得られた粉砕物を分級する分級工程と、
を有し、
前記カプセル化工程における転相プロセスにおいて、反応容器に前記色材粒子被覆樹脂の溶液を投入し、撹拌羽根で所定回転速度にて撹拌しながら転相水を添加し、前記撹拌羽根におけるトルクの変化の有無によって転相の有無を確認し、転相確認後、反応容器を外部から加熱して、樹脂溶液中の溶媒を蒸発させ、かつ、
前記着色剤粒子中に含有されている色材粒子の混合割合は、重量比率で10重量%から50重量%の範囲に含まれ、かつ、
前記色材粒子被覆樹脂は前記トナー主樹脂と同種の樹脂材料から構成される電子写真用トナー製造方法。」

3.引用例の記載
当審において、平成21年11月12日付で通知した拒絶理由で引用した本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2003-223017号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
(なお、下線は、当審において付与したものである。)

(a)「【請求項1】着色剤及び結着樹脂(1)を含有する混合物を溶融状態にて混練し、その後、前記混合物を冷却し、次いで粉砕する工程によりトナーを製造する方法であって、前記着色剤として、顔料を結着樹脂(2)中に分散させた顔料分散体を製造し、次いで前記顔料分散体を水性媒体中に乳化させ、更に水性媒体から分離する工程を経て製造される着色樹脂微粒子を用いることを特徴とするトナーの製造方法。」

(b)「【0007】また、特開平5-100486号公報、特開平6-239907号公報では、着色剤とビニルモノマーを混合し、これを水中で懸濁重合、あるいは乳化重合させてカプセル化された着色剤を製造して、これをトナーの製造に用いる方法が示されている。しかしながら、このような重合法による着色剤のカプセル化には次のような問題点がある。
1)モノマーのように低粘度の液状化合物に着色剤を微分散した状態で重合をするため、顔料の凝集や偏り等を発生しやすい。
2)着色剤の含有量を増加すると、重合反応の阻害が発生しやすくなるため着色剤の含有量を多くできない。
3)樹脂の種類がビニル重合系樹脂に限定され、用途によっては相溶性が不足するため色相が変化する。
4)乳化剤が混入し、特に高温高湿下での帯電量が低下しやすい。
以上の問題点により重合法で着色剤をカプセル化し、それを着色剤の替わりに用いたとしても、先に挙げた課題を十分に解決することはできない。
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、結着樹脂と着色剤の溶融混練物を粉砕してトナーを製造する粉砕法において、着色剤がトナー表面に露出することがなく、また、トナーを小粒径化しても、あるいは各種着色剤を使用しても帯電量のばらつきがなく、安定した帯電量及びシャープな帯電量分布を有するトナーの製造方法を提供するものである。」

(c)「【0024】
本発明の製造方法において着色剤として使用する着色剤含有樹脂粒子は、顔料を結着樹脂(2)中に分散させた顔料分散体を製造し、次いで前記顔料分散体を水性媒体中に乳化させ、更に水性媒体から分離する工程を経て製造される。このようにして製造される着色剤含有樹脂粒子は、顔料が樹脂に吸着され、個々の粒子内に顔料がカプセル化されており、着色剤含有樹脂粒子の表面に顔料が露出していないという特徴を有する。これは、着色剤を結着樹脂(2)中に分散させてから、水系において樹脂の親水性?疎水性のバランスを利用しながら着色剤含有樹脂粒子を製造するためである。したがって、このような特徴を有する着色剤含有樹脂粒子を着色剤として用い、粉砕法により製造する本発明のトナーにおいては、トナー粒子の表面に着色剤が露出することを極力減じることができる。特に、前記顔料分散体を水性媒体中に乳化させ、着色剤含有樹脂粒子を形成した後に結着樹脂(2)に架橋構造を導入した場合その効果は顕著となる。なお、本発明における結着樹脂(2)は、顔料を分散し、着色剤含有樹脂粒子を形成するための結着樹脂であり、該着色剤含有樹脂粒子を分散する結着樹脂(1)と使用方法において区別する。
【0025】前記着色剤含有樹脂粒子を形成するための結着樹脂(2)としては、スチレン(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン尿素樹脂、またはポリエステル樹脂の中から選ばれる少なくとも一種以上の樹脂を用いることが好ましい。結着樹脂(2)の選択は、いずれの樹脂であっても本発明の効果は同様に得られるが、フルカラー等の発色性、透明性が要求される用途では、結着樹脂(2)を用いた着色剤含有樹脂粒子を分散させる結着樹脂(1)との相溶性が良好な樹脂を選択することが好ましい。したがって、結着樹脂(2)と結着樹脂(1)は同種の樹脂であることが特に好ましい。また、結着樹脂(2)に架橋構造を導入する場合は、スチレン(メタ)アクリル樹脂が好ましい。」

(d)「【0027】また、結着樹脂(2)と顔料の比率は、着色剤含有樹脂粒子内の顔料の分散構造を考慮して適宜決定する。例えば、一つの着色剤含有樹脂粒子内に多数の顔料粒子を含有させるようにする場合は、結着樹脂(2)/顔料=98/2?50/50(重量比)の如く結着樹脂(2)を多く配合する。また、一つの着色剤含有樹脂粒子内に1個?数個の顔料粒子を含有させるようにする場合は、結着樹脂(2)/顔料=49/51?1/99(重量比)の如く顔料を多く配合する。」

(e)「【0028】次に本発明の着色剤含有樹脂粒子の製造方法について説明する。本発明の着色剤含有樹脂粒子の製造方法は以下の工程からなる。
第一工程:顔料を結着樹脂(2)中に分散させることにより顔料分散体を製造する工程、
第二工程:第一工程で得られた顔料分散体を水性媒体中に乳化して、着色剤含有樹脂粒子を製造する工程、
第三工程:得られた着色剤含有樹脂粒子を水性媒体から分離し乾燥する工程、の上記3工程からなる。」

(f)「【0034】この方法で用いる結着樹脂(2)はカルボキシル基等の酸性基を有する樹脂である。酸性基を含有する結着樹脂(2)は、酸性基を中和することにより自己水分散性の樹脂となる。自己水分散性を有する樹脂は、酸性基がアニオンとなることにより親水性を増し、水性媒体(水または水を主成分とする液媒体)中に分散する。酸性基を中和するために用いる塩基としては、特に制限はなく、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのごとき無機塩基や、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミンのごとき有機塩基が用いられる。
【0035】前記の結着樹脂(2)と着色剤と有機溶剤からなる顔料分散体を、塩基の存在下に、水性媒体と混合して乳化する際には転相促進剤を添加するのが好ましい。転相促進剤とは、転相促進機能を有するものを指している。すなわち、顔料分散体に水性媒体(水または水を主成分とする液媒体)を添加する工程においては、有機溶剤を含む顔料分散体の有機連続相に水を徐々に添加することで、Water in Oilの不連続相が生成し、さらに水を追加して添加することで、Oil in Waterの不連続相に転相して、水性媒体中に顔料分散体が粒子(液滴)として浮遊する懸濁液が形成される。この時、Water in Oilの不連続相からOil in Waterの不連続相への転相をよりスムーズに促進させるための機能を有するものを指して転相促進剤と称している。
【0036】転相促進剤は、次のものが使用できる。
(1)アルコール溶剤
(2)金属塩化合物
【0037】アルコール溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノール、t-ブタノール、sec-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどが使用できる。勿論、その他のものであっても使用できる。中でも好ましいものは、水に溶解し沸点が低い、イソプロパノール、n-プロパノールが好ましい。アルコール溶剤の使用量は、樹脂固形分100重量部当たり、概ね、10?50重量部程度であるが、勿論、この量に限定されるものではない。
【0038】金属塩化合物としては、公知のものが使用できるが、2価以上の金属塩で水に溶解するものが好ましい。例えば、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化第一銅、塩化第二銅、塩化第一鉄、塩化第二鉄、などが挙げられる。金属塩化合物の使用量は、樹脂固形分100重量部当たり、概ね、0.01?3重量部程度であるが、勿論、この量に限定されるものではない。
【0039】本発明においては、顔料分散体を乳化した後に、結着樹脂(2)に架橋構造を導入することが好ましい。そうすることにより着色剤含有樹脂粒子と結着樹脂(1)との溶融混練物を粉砕する際に、トナー粒子の表面に着色剤が露出することを極力減じることができる。」

(g)「【0101】
(結着樹脂(2)の合成例;R-4)
メチルエチルケトン114部、イソプロピルアルコール12部及び水24部を反応容器に入れ、80℃に加熱した後、以下に示した割合の混合物を、窒素気流下で一括して仕込み、反応を開始した。
アクリル酸 54.0重量部
スチレン 364.8重量部
アクリル酸ブチル 181.2重量部
パーブチルO 0.6重量部
反応開始3時間経過後から、1時間おきに、反応樹脂溶液の約10部をサンプリングして、同量のメチルエチルケトンで希釈し、ガードナー粘度計で粘度を測定した。粘度がM-Nとなる時点で、メチルエチルケトン567部、及びイソプロピルアルコール63部からなる混合溶媒を添加した。この時のモノマー残存率をガスクロマトグラフィーを用いて定量し、重合率を計算した結果、51%であった。反応溶液の温度を80℃に加熱した後、以下に示した割合の混合物を1時間にわたって滴下した。
アクリル酸 54.0重量部
スチレン 456.6重量部
アクリル酸ブチル 89.4重量部
パーブチルO 18.0重量部
滴下終了後、3時間ごとに3回「パーブチルO」2部を添加し、さらに4時間反応を継続させた。反応終了後、この樹脂溶液を加熱脱気して固形樹脂(R-4)とした。R-4は、2山の分子量分布を持ち、その重量平均分子量は110000であった。また、この2山をその境目で区切ると、重量平均分子量が33000と350000の2つの部分に分割でき、その比が77/22であった。R-4の酸価は70,ガラス転移温度は63℃であった。
【0102】(顔料分散体P1の調整例)前記樹脂(R-4)50部とシアン顔料(ファーストゲンブルーTGR(大日本インキ化学工業社製))50部とメチルエチルケトン185部をデスパーでプレ分散した後、アイガーモーターミルM-1000(米国アイガー社製モーターミル)で分散を行い、顔料分散体のマスター溶液を得た。その後メチルエチルケトンを用いて顔料分散体のマスター溶液の固形分含有量を35重量%に調整した。固形分中の顔料の割合は50重量%であった。シアン顔料はマスター溶液中で微細に分散していた。更に、得られた顔料分散体のマスター溶液114.3部に(R-4)60部をデスパーで攪拌して溶解し、顔料分散体P1を得た。得られた顔料分散体P1は、メチルエチルケトンにより固形分含有量を55重量%に調整した。固形分中の顔料の割合は20重量%であった。」

(h)「【0105】(着色剤含有樹脂粒子の合成例1;PR-1)顔料分散体(P1)545.5部とメチルエチルケトン66.7部、イソプロピルアルコール43部、及び16.4%の水酸化ナトリウム水溶液9.8部とを添加して、良く混合し、攪拌を続けながら水680部を加えた。その後、減圧下に、溶剤、及び水の一部を留去して着色剤含有樹脂粒子の水スラリーを得た。得られたスラリーは、遠心分離機によるスキミング方式により固液分離を行い、ウエットケーキを凍結乾燥して、着色剤含有樹脂粒子の粉体(PR-1)を得た。着色剤含有樹脂粒子中の顔料含有量は20.0%であった。」

(i)「【0122】(実施例1?12)表2に記載した結着樹脂(1)、着色剤含有樹脂粒子、離型剤、帯電制御剤を各々記載された重量比率でヘンシェルミキサーを用いて混合した。その後、その混合物を2軸混練機で混練した。このようにして得た混練物を粉砕、分級して体積平均粒子径8.0?8.5ミクロンの「トナー原体」を得た。
【0123】更に、実施例1?6の「トナー原体」については、「トナー原体」100重量部に対し、シリカH?2018(クラリアント(株))1重量部とチタンJMT-150AO(テイカ(株))0.5部をヘンシェルミキサーで混合して、外添処理を行った。その後、篩いを通して実施例のトナーとした。また、実施例7?12の「トナー原体」については、「トナー原体」100重量部に対し、シリカHDK3050EP(ワッカーケミカルズ(株))1重量部をヘンシェルミキサーで混合して、外添処理を行った。その後、篩いを通して実施例のトナーとした。」

以上の記載からみて、引用例には次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されているものと認められる。

「顔料が結着樹脂(2)中にカプセル化され分散された顔料分散体である着色剤と結着樹脂(1)と含有する混合物を混練し、その後、前記混合物を粉砕してトナーを製造する粉砕法であって、
結着樹脂(2)と結着樹脂(1)は同種の樹脂であり、
結着樹脂(2)/顔料=98/2?50/50(重量比)の如く結着樹脂(2)を多く配合して、顔料を結着樹脂(2)中に分散させることにより結着樹脂(2)と着色剤と有機溶剤からなる顔料分散体を得て、転相促進剤を添加した顔料分散体に攪拌を続けながら水を徐々に添加することで、Water in Oilの不連続相が生成し、さらに水を追加して添加することで、Oil in Waterの不連続相に転相して、水性媒体中に顔料分散体が粒子(液滴)として浮遊する懸濁液が形成され、その後、得られた着色剤含有樹脂粒子を水性媒体から分離し乾燥し、
結着樹脂(1)、着色剤含有樹脂粒子、離型剤、帯電制御剤を混練し、混練物を粉砕、分級してトナー原体を得る方法」

当審において、平成21年11月12日付で通知した拒絶理由で周知技術として例示した本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2001-518543号公報には、以下の記載がある。

(2a)「【0083】・・・溶液を添加し、その後転相が終わるまで(トルクの低下によって検出される)約45分間、撹拌した。・・・」

当審において、平成21年11月12日付で通知した拒絶理由で周知技術として例示した本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平10-87758号公報には、以下の記載がある。

(3a)「【0040】・・・溶媒を加えることにより・・・。・・・、トルクの低下により同定することができる転相の終了まで約45分間撹拌した。・・・」

当審において、平成21年11月12日付で通知した拒絶理由で周知技術として例示した本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平9-114135号公報には、以下の記載がある。

(4a)「【0027】転相乳化の原理を利用した球形着色微粒子の形成工程に於いては、前記有機溶媒溶液(A)に水性媒体(B)を添加してゆくに従い、転相点(W/OからO/Wに変わる点)に至るまでは粘度が増大してゆき、転相点を過ぎた直後に急激に粘度の低下が起こる・・・。
【0031】転相乳化は、有機溶媒溶液(A)と水性媒体(B)とを混合することにより行うことができるが、本発明においては、本発明の効果の点でより好ましい結果が得られる、有機溶媒溶液(A)へ水性媒体(B)を添加するという方法により転相乳化を行う。
【0032】有機溶媒溶液(A)への水性媒体(B)の添加方法については、「転相乳化に必要な水性媒体量」の全てを、攪拌しながら一定速度で加えることでも、任意の速度で加えることでも(添加速度を途中で変えることも含む)着色微粒子は得られるが、予め「転相乳化に必要な水性媒体量」の50重量%以上を一度に仕込み、残りの水性媒体を0.5時間以上かけて一定速度で加え、慎重に転相点を通過させた方が、より生産性が向上するだけでなく、得られる着色樹脂微粒子の粒度分布がシャープになり、またそのロット再現性が向上する。
【0033】この場合、「転相乳化に必要な水性媒体量」の内の、前記一度に仕込まれる水性媒体量は、転相乳化に必要な水性媒体量の50?95重量%、好ましくは55?80重量%程度で、残りの20?45重量%の水性媒体を毎時10?40重量%前後の一定速度で加えることが好適である。この水添加時間は、実用的には0.5時間?4時間程度以内で選択するのがよく、その様にすれば、全水性媒体量を一定速度で長時間かけて加えるよりも効率的である。
【0034】前記「転相乳化に必要な水性媒体量」とは、W/OからO/Wへの転相が起こって、ボイド(空隙)がなく機械的強度に優れた球形着色樹脂微粒子の分散体液ができるまでに必要な最小量の水性媒体量であり、これは樹脂組成、有機溶媒組成、乳化剤や中和剤などによって決まってくるものである。尚、「転相乳化に必要な水性媒体量」を加え終わった後で、後工程に於ける微粒子の凝集発生防止などのために、さらに過剰の水性媒体を追加して加えることが好ましい。」

当審において、平成21年11月12日付で通知した拒絶理由で周知技術として例示した本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2003-103951号公報には、以下の記載がある。

(5a)「【0280】・・・上記のアクリルポリマーの溶液100gをトリエチルアミン2.71gで中和し、攪拌しながら水を滴下した。溶液は徐々に増粘し、約150gの水を滴下した辺りから著しく粘度が低下して転相が完了した。・・・」

当審において、平成21年11月12日付で通知した拒絶理由で周知技術として例示した本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2000-309507号公報には、以下の記載がある。

(6a)「【0051】第二の方法:転相の操作を行う。この場合、親油相と親水相とを別々に加熱して50?90℃にする。本発明の組成物を含む親油相の方を500?15,000rpm、好ましくは1,000?2,000rpmで回転する回転翼型攪拌機を用いて激しく攪拌しながら、親水相を親油相に、親水相が直ちに親油相に吸収されるような速さで徐々に添加する。この操作を、粘度の急激な変化によって特徴づけられる転相が起こるまで続ける。親水相を上方から添加する場合、親水相を、親水相が親油相の上に1?3秒間停滞する程度のもっと速い速さで、さらに添加してもよい。その後、乳濁液を、穏やかに攪拌(100?1,000rpm、好ましくは300?500rpm)しながら25℃程度まで冷却する。」

当審において、平成21年11月12日付で通知した拒絶理由で周知技術として例示した本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2003-12709号公報には、以下の記載がある。

(7a)「【0077】その後均一混合液をハーモテック(エム・テクニクス社製 商品名 HMT-CA-2.0)に投入し、アンカー部の回転数を65rpm、クレアミックス ローター部の回転数を7,000rpmで攪拌しながら徐々に水を添加した。水の添加につれ増粘し始め、約200部を加えた辺りからチキソ性がでてきた。更に水の添加つれローター部に回転数を20,000rpmまであげて混合攪拌を行なった。約750部の水を加えた時点で急激に粘度が低下し、転相が起きたことが確認された。その後水以外の成分が20%になるように水を添加した。この乳化分散液を重合装置(攪拌機、還流冷却器及び窒素ガス流入管を備えた重合装置)に入れ、窒素気流下75℃に昇温して24時間重合を行ない、着色樹脂微粒子水分散液を得た。」

4.対比
本願発明と、引用例発明とを対比する。
引用例発明の「着色剤と結着樹脂(1)と含有する混合物を混練し、その後、前記混合物を粉砕してトナーを製造する」は、本願発明の「着色剤粒子とトナー主樹脂とを混練し、トナー主樹脂中に着色剤粒子を分散させ、生成した混練物を粉砕し」「電子写真用トナーを製造する」に相当する。
引用例発明の「結着樹脂(2)と結着樹脂(1)は同種の樹脂であり」は、本願発明の「色材粒子被覆樹脂は前記トナー主樹脂と同種の樹脂材料から構成される」に相当する。
引用例発明の「結着樹脂(2)/顔料=98/2?50/50(重量比)の如く結着樹脂(2)を多く配合」したことは、本願発明の「着色剤粒子中に含有されている色材粒子の混合割合は、重量比率で10重量%から50重量%の範囲に含まれ」ることに相当する。
引用例発明の「顔料が結着樹脂(2)中にカプセル化され分散された顔料分散体である着色剤」は、本願発明の「着色剤粒子は、色材粒子と該色材粒子が前記トナー主樹脂に接触することのないよう該色材粒子の表面を完全に被覆した色材粒子被覆樹脂とからなること」に相当する。
引用例発明の「顔料を結着樹脂(2)中に分散させることにより結着樹脂(2)と着色剤と有機溶剤からなる顔料分散体を得て、転相促進剤を添加した顔料分散体に攪拌を続けながら水を徐々に添加することで、Water in Oilの不連続相が生成し、さらに水を追加して添加することで、Oil in Waterの不連続相に転相して、水性媒体中に顔料分散体が粒子(液滴)として浮遊する懸濁液が形成され、その後、得られた着色剤含有樹脂粒子を水性媒体から分離し乾燥し」は、本願発明の「転相乳化法により、色材粒子を色材粒子被覆樹脂によりその表面を完全に被覆させて着色剤粒子を生成するカプセル化工程」「における転相プロセスにおいて、反応容器に前記色材粒子被覆樹脂の溶液を投入し、撹拌羽根で所定回転速度にて撹拌しながら転相水を添加し、転相確認後、樹脂溶液中の溶媒を蒸発させること」に相当する。

したがって、本願発明と、引用例発明とは、
「少なくとも着色剤粒子とトナー主樹脂とを混練し、トナー主樹脂中に着色剤粒子を分散させ、生成した混練物を粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記着色剤粒子は、色材粒子と該色材粒子が前記トナー主樹脂に接触することのないよう該色材粒子の表面を完全に被覆した色材粒子被覆樹脂とからなることを特徴とする電子写真用トナーを製造する電子写真用トナー製造方法であって、
転相乳化法により、色材粒子を色材粒子被覆樹脂によりその表面を完全に被覆させて着色剤粒子を生成するカプセル化工程と、
前記カプセル化工程でカプセル化された着色剤粒子とトナー主樹脂とを混練してトナー主樹脂中に着色剤粒子を分散させ混練物を生成する混練工程と、
前記混練工程で得られた混練物を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で得られた粉砕物を分級する分級工程と、
を有し、
前記カプセル化工程における転相プロセスにおいて、反応容器に前記色材粒子被覆樹脂の溶液を投入し、撹拌羽根で所定回転速度にて撹拌しながら転相水を添加し、転相確認後、樹脂溶液中の溶媒を蒸発させ、かつ、
前記着色剤粒子中に含有されている色材粒子の混合割合は、重量比率で10重量%から50重量%の範囲に含まれ、かつ、
前記色材粒子被覆樹脂は前記トナー主樹脂と同種の樹脂材料から構成される電子写真用トナー製造方法。」である点で一致し、次の点において相違する。

〔相違点1〕
転相終了後の溶媒の除去に、本願発明では「反応容器を外部から加熱して、樹脂溶液中の溶媒を蒸発させる」とするのに対して、引用例発明では、単に「分離し乾燥」している点。

〔相違点2〕
転相の有無の確認を、本願発明では「撹拌羽根におけるトルクの変化の有無」により行うとするのに対して、引用例発明では転相終了の確認の手段が示されていない点。


5.判断
5-1.相違点1についての検討
乾燥の方法として加熱することは、溶媒除去に使用される常習手段の選択にすぎない。

5-2.相違点2についての検討
請求人も、『審査官殿のご指摘のとおり、今回挙げられた参考文献1および2には、転相によって粘性が著しく変化する点が記載されておりますので、これらの参考文献1および2は「撹拌羽根におけるトルクの変化の有無によって転相の有無を確認」する動機づけにはなり得るかと思われます。』と認めるとおり、次の段階に進むために転相の前後で溶液の粘度が急激に減少することで転相を確認ことは、従来周知(上記2a?7a参照)である。したがって、それを撹拌羽にかかるトルクの変化として捉えて転相が完了したことを確認後、次の段階に進むことは、当業者にとって容易に想到し得たことである。

5-3.作用効果について
請求人は、以下のように主張する。
『審査官殿のご指摘のとおり、今回挙げられた参考文献1および2には、転相によって粘性が著しく変化する点が記載されておりますので、これらの参考文献1および2は「撹拌羽根におけるトルクの変化の有無によって転相の有無を確認」する動機づけにはなり得るかと思われます。
しかしながら、参考文献1および2では、いずれも転相が完了した後にさらに150gの水を加える構成を採用しているため、本願発明のように転相完了を確認した後ただちに次の工程に移行するわけではありません。このため、参考文献1および2の内容に触れた当業者は、転相ポイントを確実に把握して、転相確認後の処理(例:溶媒を蒸発させるための加熱、転相水の添加液量の制御)を最適なタイミングで開始することを試みようと思わないと思料いたします。つまり、参考文献1および2には、本願発明のように転相ポイントを確実に把握して以降の工程に役立てるといった技術的思想が開示されていないと思料いたします。
・・・
さらに、審査官殿は、「本願明細書には、転相後の処理を最適なタイミングで実施することの必要性、転相確認後の処理が遅れることによる問題について記載されておらず、出願人が主張する本願発明の効果は、何れも本願明細書の記載に基づかない主張、又は、当業者であれば構成から自明な効果にすぎない。」旨の認定をされておりますが、この認定に対しては以下のとおりご説明申し上げます。
まず、本願明細書段落0027には、「…この転相により、色材粒子であるカーボンブラック粒子表面にポリエステル樹脂溶液の微小液滴を形成する(色材粒子を内包する状態で)。…」との記載があり、この記載から転相と同時に本願発明の「着色剤粒子」が生成されることが分かります。
そして、請求項1に「…前記着色剤粒子は、色材粒子と該色材粒子が前記トナー主樹脂に接触することのないよう該色材粒子の表面を完全に被覆した色材粒子被覆樹脂とからなる…」と記載されていることからも明らかなように、色材粒子が色材粒子被覆樹脂に内包された時点で、本願発明の着色剤粒子にとって必要十分な状態が生じており、それ以上撹拌する必要性がなくなります。
逆に、本願明細書に触れた当業者であれば、着色剤粒子が生成された後も着色剤粒子を溶媒中に放置して撹拌を続けていると、溶媒との接触によって色材粒子を内包する色材粒子被覆樹脂の微小液滴の安定性が悪化するという問題、および撹拌という物理的作用によって着色剤粒子同士が凝集して粒子径が拡大するという問題が発生し得ることは容易に想到し得ると思料いたします。例えば、本願明細書の段落0035には、着色剤粒子が生成したら反応容器を外部から加熱して溶媒を蒸発させる点が記載されており、段落0042および図2には、その結果として、着色剤粒子の粒度分布を狭く抑えることができ好適な結果が得られた旨が記載されております。
よって、審判請求書において述べた「本願新請求項1?3に係る発明では、転相乳化法によるカプセル化工程を好適に実施することが可能となり、完全カプセル化された着色剤粒子を、超微小に、かつ、平均粒度のバラツキを抑えつつ生成することが可能になるという」作用効果は、いずれの引用文献および参考文献の記載からも当業者が予測不可能である一方で、本願明細書の記載からは自明なものであると思料いたします。』
(平成21年7月9日付回答書)
『その理由は以下のとおりです。審判請求書にても述べさせていただいたように、上記参考文献1?7は、転相によって溶液の粘度が急激に変化することを示すものではありますが、電子写真用トナー製造方法のカプセル化工程において、撹拌羽根におけるトルクの変化をトリガにして加熱を行う点が明示されているわけではありません。このため、上記参考文献1?7は、電子写真用トナー製造方法のカプセル化工程において、撹拌羽根におけるトルクの変化をトリガにして加熱を行う点が周知である旨の認定の根拠になり得るものではないと思料いたします。
また、引用文献1にも、転相ポイントを確実に把握して、転相確認後の処理(例:溶媒を蒸発させるための加熱、転相水の添加液量の制御)を最適なタイミングで開始することを試みる動機付けは開示されておらず、その示唆もされていないように思われます。
引用文献1に係る発明が、転相ポイントを確実に把握することを意図するものであるのなら、転相終了の確認の手段が示されていてしかるべきと思われますが、審判官殿も認定されているとおり、引用文献1には転相終了の確認の手段が示されておりません。引用文献1には転相促進剤を用いるなど転相を促進する点は記載されておりますが、転相終了の確認についてその示唆もしておらず、転相ポイントを確実に把握することの必要性についても何ら記載がされておりません。
審判請求書にても述べさせていただいたように、上記相違点1係る構成を採用することにより、転相ポイントを確実に把握することが可能になり、その結果、転相確認後の処理(例:溶媒を蒸発させるための加熱、転相水の添加液量の制御)を最適なタイミングで開始することが可能になります。
転相確認後の処理の開始が遅れると、色材粒子を内包する状態で色材粒子の表面に形成された色材粒子被覆樹脂の微小液滴の安定性が悪化したり、着色剤粒子となるべき微小な粒同士が凝集して粒子径が拡大したりするという不具合が発生する虞があります。
本願新請求項1に係る発明では、色材粒子被覆樹脂の溶液や転相水を撹拌する撹拌羽根におけるトルクの変化の有無によって転相ポイントを確実に把握することが可能であるため、色材粒子の表面に形成された色材粒子被覆樹脂の微小液滴の安定性が保たれ、また、着色剤粒子となるべき微小な粒同士の凝集の発生を予防することが可能になります。その結果、本願新請求項1に係る発明では、転相乳化法によるカプセル化工程を好適に実施することが可能となり、完全カプセル化された着色剤粒子を、超微小に、かつ、平均粒度のバラツキを抑えつつ生成することが可能になるという作用効果を奏します(本願明細書段落0042および図2参照。)。
このような作用効果は、上記相違点1および2に係る構成を採用することによって得られる格別のものであり、引用文献1および参考文献1?7等の周知技術から当業者が予測不可能なものであると思料いたします。このため、引用文献1および参考文献1?7等の記載から当業者が本願新請求項1の発明に想到することは困難であると思料いたします。』

しかしながら、本願発明には「撹拌羽根におけるトルクの変化の有無によって転相の有無を確認し、転相確認後、反応容器を外部から加熱して・・・」と規定され、本願明細書には「【0035】トルクの変化が生じた時点が転相ポイントであるため、転相確認後、反応容器を外部から加熱(80℃程度)して、樹脂溶液中の溶媒を蒸発させる。」と記載されているだけであることから、上記のように出願人が主張する作用効果を認めることができない。

さらに、仮に請求人の主張する作用効果を認めるとしても、請求人が指摘するような悪化する問題は転相後も転相のための激しい撹拌を続けていることによって生じることであるところ、上述したように、溶液の粘度が急激に減少することで転相を確認しつつ、転相の終了まで転送させるための撹拌を行うことは、従来周知(上記2a?4a,6a,7a参照)(穏やかな撹拌を続けている場合はある。)である。

以上のことから、本願発明に格別の効果の差異は認められない。

5-4.まとめ
以上のことから、本願発明は、引用例発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。

6.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-04-19 
出願番号 特願2004-71094(P2004-71094)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 大輔川口 真隆  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 伏見 隆夫
一宮 誠
発明の名称 電子写真用トナー製造方法  
代理人 小澤 壯夫  
代理人 小森 久夫  
代理人 特許業務法人 楓国際特許事務所  

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