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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1217983
審判番号 不服2008-17999  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-14 
確定日 2010-06-09 
事件の表示 平成10年特許願第 46204号「高出力動作用垂直空洞面放出レーザおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月25日出願公開、特開平10-256654〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成10年2月10日(パリ条約による優先権主張1997年2月10日、米国)に出願したものであって、平成20年4月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月14日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年8月13日付けで手続補正がなされたものである(以下、平成20年8月13日付けでなされた手続補正を「本件補正」という。)。

2 本件補正についての却下の決定
(1)結論
本件補正を却下する。

(2)理由
ア 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1につき、補正前の
「垂直空洞面放出レーザであって:
表面を有する基板(42);
前記基板の前記表面上に配された熱放散層(30,44,54);
前記熱放散層(30,44,54)上に配された第1ミラー・スタック(26);
前記第1ミラー・スタック(26)上に配された活性領域(21);および
前記活性領域(21)上に配された第2ミラー・スタック(18);
から成ることを特徴とする垂直空洞面放出レーザ。」

「垂直空洞面放出レーザであって:
表面を有する基板(42);
前記基板の前記表面上に配された金属対金属融着熱放散層(30,44,54);
前記金属対金属融着熱放散層(30,44,54)上に配された第1ミラー・スタック(26);
前記第1ミラー・スタック(26)上に配された活性領域(21);および
前記活性領域(21)上に配された第2ミラー・スタック(18);
から成ることを特徴とする垂直空洞面放出レーザ。」
に補正する内容を含むものである。

イ 補正の目的
上記アの補正の内容は、補正前の請求項1の「熱放散層」を「金属対金属融着熱放散層」に限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。

ウ 独立特許要件
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(ア)刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-29374号公報(以下「引用例」という。)には、以下の記載がある。

a 「(3)成長用基板上に結晶成長した発光領域を含みかつ成長用基板が除去された結晶成長層が新たなSi基板に接合されてなる面出射型半導体発光素子。」(1頁左下欄下から4行?末行)

b 「結晶成長後,成長用基板をエッチング等により除去し,新たな基板としてSiを用いることで放熱特性に優れた高出力発光素子が得られる。作製が容易でかつ均一性の優れたものであり,後加工も容易であるから,LEDアレーや面発光レーザ等への応用,展開も可能である。」(1頁右下欄6行?11行)。

c 「GaAs基板1上にn-Ga_(0.3)Al_(0.7)Asクラッド層2,Ga_(0.6)Al_(0.4)As活性層3およびp-Ga_(0.3)Al_(0.7)Asクラッド層4を順次成長させる(第1図(A))。・・・
p-Ga_(0.3)Al_(0.7)Asクラッド層4上にオーミック電極を形成し,その最上層にはAuが露出するようにしておく。
そして,このオーミック電極上にp-Si基板5を置き,加熱することにより,Si基板5とp-Ga_(0.3)Al_(0.7)Asクラッド層4とを接着させる(第1図(B))。SiとAuは第2図に示すような状態図に従って合金化するからAuとSiを直接接触させながら熱処理することによりp-Ga_(0.3)Al_(0.7)Asクラッド層4とSi基板5を接着することができる。クラッド層4とSi基板5との接合面はAuとSiの合金化領域6となる。」(3頁右上欄5行?左下欄1行)。

(イ)引用発明
a 上記(ア)aによれば、引用例には、「成長用基板上に結晶成長した発光領域を含みかつ成長用基板が除去された結晶成長層が新たなSi基板に接合されてなる面出射型半導体発光素子。」の発明が記載されているものと認められる。

b 上記(ア)cによれば、上記aの発明における「成長用基板上に結晶成長した発光領域を含」む「結晶成長層」は、クラッド層2、活性層3及びクラッド層4からなるものと認められる。

c 上記(ア)cによれば、上記aの発明における「結晶成長層」が「新たなSi基板に接合」されることは、具体的には、クラッド層4上にオーミック電極を形成し、その最上層に露出するAuをSi基板と直接接触させながら熱処理することによりSiとAuを合金化してその接合面がAuとSiの合金化領域6となるように接着されることにより行われるものであると認められる。

d 以上によれば、引用例には、次の発明が記載されているものと認められる。

「成長用基板上に結晶成長した、発光領域を含みかつ成長用基板が除去されたクラッド層、活性層及びクラッド層からなる結晶成長層が、クラッド層上にオーミック電極を形成し、その最上層に露出するAuをSi基板と直接接触させながら熱処理することによりSiとAuを合金化してその接合面がAuとSiの合金化領域となるように接着されることにより新たなSi基板に接合されてなる面出射型半導体発光素子。」(以下「引用発明」という。)

(ウ)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a 本願明細書の「活性領域21は、第1ミラー・スタック18に隣接する第1クラッディング領域23および第2クラッディング領域24間に挟持された、活性構造22を含む。」(【0016】)との記載によれば、本願補正発明の「活性領域(21)」は、「第1クラッディング領域23および第2クラッディング領域24間に挟持された、活性構造22を含む」ものと認められる。
してみると、引用発明の「クラッド層、活性層及びクラッド層からなる結晶成長層」は、本願補正発明の「活性領域」に相当する。

b 引用発明の「新たなSi基板」は、本願補正発明の「表面を有する基板(42)」に相当する。

c 引用発明の「合金化領域」は、「基板の表面上に配された金属対金属融着層」である点で、本願補正発明の「前記基板の前記表面上に配された金属対金属融着熱放散層(30,44,54)」と一致する。

d 本願補正発明の「垂直空洞面放出レーザ」は、「面出射型半導体発光素子」である点で引用発明と一致する。

e 以上によれば、両者は、
「面出射型半導体発光素子であって:
表面を有する基板;
前記基板の前記表面上に配された金属対金属融着層;
活性領域;
から成る面出射型半導体発光素子。」
である点で一致し、以下の(a)及び(b)の点で相違するものと認められる。

(a)金属対金属融着層が、本願補正発明は、「金属対金属融着熱放散層(30,44,54)」であるのに対して、引用発明の「合金化領域」は、そのようなものであるのかどうか不明である点(以下「相違点1」という。)。

(b)面出射型半導体発光素子が、本願補正発明では、垂直空洞面放出レーザであり、本願補正発明は、「第1ミラー・スタック(26)上に配された活性領域(21);および前記活性領域(21)上に配された第2ミラー・スタック(18)」を備え、「金属対金属融着熱放散層(30,44,54)上に」「第1ミラー・スタック(26)」が配されるのに対して、引用発明は、そのようなものでない点(以下「相違点2」という。)。

(エ)判断
a 相違点1について
(a)本願補正発明の「金属対金属融着熱放散層」の技術的意義について検討するに、本願明細書には次の記載がある。

「 【0011】
好適実施例では、熱放散層は、金ゲルマニウム(AuGe)または金(Au)物質から成り、熱を活性領域からシリコン基板に効果的に放散させる。」、
「 【0025】
熱放散層30を形成する際、ニッケル(Ni),金ゲルマニウム(AuGe),金(Au),クロム(Cr),亜鉛金(ZnAu),チタン・タングステン(TiW),チタン金(TiAu)等のようないずれかの適切な物質を、分布ブラッグ反射器26上に配する。・・・合金を含ませることによって、熱放散層30は、更に、完成されたVCSEL素子の電気接点としても作用する。
【0026】
次に図2を参照し、本発明のVCSEL素子の一部として、第2ウエハ構造40を作成する。第2ウエハ構造40は、・・・基板42の上面43上に、熱放散層44をエピタキシャル的に堆積する。熱放散層44を形成する際、金(Au)等のようないずれかの適切な物質を基板42上に配する。
【0027】
次に図3を参照すると、本発明による完成されたVCSEL素子の簡略断面図が示されている。図示してあるのは、開示した本発明の方法にしたがって製造したVCSEL50である。製造の間、図1のウエハ構造10は図2のウエハ構造40との、金属対金属ウエハ(metal to metal wafer fused)融着を行う。より具体的には、ウエハ構造10をウエハ構造40上にフリップ装着し(flip mount)、図1の熱放散層30および図2の熱放散層44の融着(fusing)を可能にする。一旦融着すると、2つの別個に形成された熱放散層は、基板42に隣接配置された1つの熱放散層54となる。」

(b)上記(a)によれば、本願補正発明の「金属対金属融着熱放散層」とは、AuGeまたはAu等からなる2つの熱放散層が融着して1つの熱放散層とするものであって、熱を活性領域から(シリコン)基板に効果的に放散させるという技術的意義を有するものと認められる。

(c)他方、上記(ア)bによれば、引用例には、新たな基板としてSiを用いることで放熱特性に優れた高出力発光素子が得られることが記載されており、引用発明の「合金化領域」は、SiとAuを合金化してその接合面を接着しつつ、活性領域で発生した熱をSi基板に伝達して放熱する機能を有するものと理解できる。

(d)そうしてみると、引用発明の「AuとSiの合金化領域」及び本願補正発明の「金属対金属融着熱放散層」とは、いずれも、二つの層を融着しつつ、熱を活性領域から基板に伝達させるとの技術的意義を有するものであって、引用発明の「AuとSiの合金化領域」も「金属対金属融着熱放散層」と表現することができるものと認められるから、相違点1は、実質的な相違ではない。

(e)なお、引用発明の「AuとSiの合金化領域」のSiについて、「金属」に該当しないものと解したとしても、被接着物の双方に金属融着材を設けて、両者を接触させて融着一体化することは、周知の技術である(例えば、原査定の拒絶理由で引用した特開平2-54589号公報の2頁左下欄15行?右下欄4行の記載を参照)から、引用発明のSi基板上にAuなどの金属融着材を設け、「金属対金属融着」との構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計変更程度のことにすぎない。

b 相違点2について
面出射型半導体発光素子として、活性領域の上下に多層膜からなるミラー(本願補正発明の「ミラー・スタック」に相当。)を配した面発光レーザは、本願優先日当時において周知のものである(例えば、原査定の拒絶の理由で引用した特開平9-8415号公報の【0016】?【0020】及び図1のほか、特開平8-213693号公報の1頁【要約】欄を参照)。
そして、上記(ア)bによれば、引用例には、面出射型半導体発光素子の面発光レーザへの応用が可能であることが記載されるところであるから、引用発明を面発光レーザに応用するに際し、活性領域の上下にミラースタックを配する上記の周知の面発光レーザの構成を採用し、垂直空洞面放出レーザとすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。
また、そのようにする際に、金属対金属融着熱放散層上に第1ミラー・スタックが配されることは、当然のことであるから、結局のところ、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことというべきである。

(オ)小括
以上の検討によれば、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記2(2)アにおいて、補正前のものとして示したとおりのものである。

(2)判断
前記2(2)イのとおり、本件補正は、特許請求の範囲を減縮を目的としたものと認められるところ、前記2(2)ウで検討したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものである本願補正発明が、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、減縮前の本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいてに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-07 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願平10-46204
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
P 1 8・ 575- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏崎 康司古田 敦浩門田 かづよ  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 吉野 公夫
杉山 輝和
発明の名称 高出力動作用垂直空洞面放出レーザおよびその製造方法  
代理人 恩田 誠  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  
代理人 池上 美穂  

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