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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1218045
審判番号 不服2009-5351  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-12 
確定日 2010-06-10 
事件の表示 特願2003-161264「転がり軸受の潤滑装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月24日出願公開、特開2004-360828〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年6月5日の出願であって、本願の請求項1に係る発明は、平成17年1月20日付け、平成20年10月3日付け、平成21年4月10日付け及び平成22年3月4日付けの各手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】 転がり軸受内に一部が入っている潤滑油導入手段から潤滑油を微量ずつ吐出して潤滑する転がり軸受の潤滑装置において、前記潤滑油導入手段に流量調整装置を設け、軸受箱に設けられた冷却油循環路へ冷却油供給装置から冷却油を供給する冷却油供給回路を設け、この冷却油供給回路から分岐させて、前記冷却油の一部を、上記潤滑油導入手段へ吐出用の潤滑油として導く潤滑油供給回路を設け、この潤滑油供給回路に流入油量調整用の圧力調整弁を設け、内輪の軌道面に続く外径面を、軌道面側が大径となる斜面部とし、前記潤滑油導入手段を、前記転がり軸受の外輪に隣接して設けられたリング状の潤滑油導入部材とし、この潤滑油導入部材の内径部に軸方向に延びて前記転がり軸受内に入る鍔状部を設け、この鍔状部は内径面が前記内輪の斜面部に隙間を持って沿い、前記潤滑油導入部材内に、前記潤滑油供給回路に入口が連通し出口が前記鍔状部の内径面に臨む潤滑油の経路を設けたことを特徴とする転がり軸受の潤滑装置。」(以下「本願発明」という。)

2.引用刊行物とその記載事項

これに対して、当審が平成22年1月4日付けの拒絶理由通知で引用した刊行物は、次のとおりである。

刊行物1:実公昭56-25791号公報
刊行物2:特開2002-61657号公報
刊行物3:特開2002-54643号公報
刊行物4:特開平10-58278号公報

(1)刊行物1(実公昭56-25791号公報)の記載事項

刊行物1には、「スピンドル軸受装置における給油装置」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「図面は本考案に係る給油装置を備えた砥石軸スピンドル装置の構成説明図であつて、1はスピンドルハウジング本体2、フロントカバー3、およびリヤ-カバー4とから構成された密閉型のスピンドルハウジングで、このスピンドルハウジング1内を両端近傍にはデイスタンスカラー5,5を介してボールベアリング6,6および7,7が複列配設され、このボールベアリング6,6および7,7により先端に砥石軸8aを備えたスピンドル8が回転自在に設けられている。
9,9は上記スピンドルハウジング本体2内に形成された潤滑油供給孔で、この供給孔9,9に供給された潤滑油は、上記デイスタンスカラー5,5のほぼ半周にわたつて形成された周溝5a,5aを経て、デイスタンスカラー5,5から各ボールベアリング6,6および7,7の運動部に向かつて噴射され、排出孔10,10および15,15から排出されるようになつている。」(第1ページ第2欄第34行?第2ページ第3欄第14行)

(イ) 「13,13は上記スピンドルハウジング本体2内に形成された冷却油供給孔で、この供給孔13,13は各ボールベアリング6,6および7,7の外周に形成された他方の周溝12,12に連通され、この周溝12,12に供給される冷却油により各ボールベアリング6,6および7,7を外周から冷却し、排出孔14,14から排出されるようになつている。また上記供給孔13,13は上記スピンドル8のボールベアリング6,6および7,7の軸受部の両側と対応する位置まで分割延設され、この分割延設された冷却油供給孔13a,13aからスピンドル8に向けて冷却油をシヤワー状に噴出して冷却し、排出孔15,15……から排出されるようになつている。」(第2ページ第3欄第22?35行)

(ウ) 「20は潤滑および冷却用の油が収納されたタンク、21はこのタンク20内に収納された油を冷却する冷却循環経路であつて、送出ポンプ22によつて送出されるタンク20内の油を、圧力設定用のリリーフ弁23、および冷却器24を通過せしめて冷却し、再びタンク20内にもどすことによつてタンク20内の油の温度を一定に維持するようになつている。」(第2ページ第3欄第36?43行)

(エ) 「25は上記冷却循環経路21から分割され、かつ上記潤滑油供給孔9,9に連通された潤滑油供給路で、この供給路25には送出ポンプ22によつてタンク20内の油が供給され、流量制御弁26で流量制御された後、フイルター27を経て潤滑油供給孔9,9に供給されるようになつている。」(第2ページ第3欄第44行?第4欄第6行)

(オ) 「28は上記潤滑油供給路25から分割された冷却油供給路で、この冷却油供給路28には冷却器29および流量制御弁30が介在され、送出ポンプ22から送出されるタンク20内の油の一部をこの冷却器29で更に冷却して冷却油とし、この冷却油を上記冷却油供給孔13,13に供給するようになつている。」(第2ページ第4欄第7?13行)

(カ) 「そしてこの潤滑油供給路25に供給された潤滑油は、潤滑油供給孔9,9を経て、デイスタンスカラー5,5からそれぞれボールベアリング6,6および7,7の運動部分に高流速で噴射され、このボールベアリング6,6および7,7を潤滑するとともに、この潤滑油供給路25に供給された潤滑油の一部は、各ボールベアリング6,6および7,7の外周に設けられた周溝11,11内に圧送され、各ボールベアリング6,6および7,7に静圧を負荷する。」(第2ページ第4欄第34?43行)

(キ) 「一方、冷却油供給路28に供給された油は冷却器29において更に冷却されて冷却油となり、この冷却油は冷却油供給孔13,13を経てボールベアリング6,6および7,7の外周に設けられた周溝12,12内に圧送され、ボールベアリング6,6および7,7を外周から冷却するとともに、分割延設された供給孔13a,13aからスピンドル8の軸受部の両側部に直接噴射され、スピンドル8を冷却する。」(第2ページ第4欄第44行?第3ページ第5欄第8行)

上記記載事項(ア)?(キ)及び図面の記載を総合すると、刊行物1には、
「デイスタンスカラー5,5から潤滑油を噴射して潤滑するスピンドル軸受装置における給油装置において、冷却循環経路21から分割して潤滑油供給路25を設け、潤滑油供給孔9,9を経て上記デイスタンスカラー5,5へ噴射用の潤滑油を供給するとともに、この潤滑油供給路25に流量制御弁26を設け、上記潤滑油供給路25から分割して冷却油供給路28を設け、スピンドルハウジング本体2内に形成された冷却油供給孔13,13に冷却油を供給するようにしたスピンドル軸受装置における給油装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特開2002-61657号公報)の記載事項

刊行物2には、「転がり軸受のエアオイル潤滑構造」に関し、図1とともに次の事項が記載されている。

(ク) 「【0010】
【発明の実施の形態】この発明の第1の実施形態を図1および図2と共に説明する。転がり軸受1は、内輪2と外輪3の転走面2a,3a間に複数の転動体4を介在させたものである。転動体4は、例えばボールからなり、保持器5のポケット(図示せず)内に保持される。この転がり軸受1の内輪2の外径面に、転走面2aに続く斜面部2bを設け、この斜面部2bに隙間δを持って沿うノズル部材6を設ける。斜面部2bは、内輪2の幅面から転走面2aに続いて設け、また内輪2の反負荷側(軸受背面側)の外径面に設ける。転がり軸受1がアンギュラ玉軸受である場合、内輪2のカウンタボアを設ける部分の外径面が上記斜面部2bとされる。
【0011】ノズル部材6は、その先端部6aaを保持器5の内径面と内輪2の外径面の間における転動体4の近傍に位置させる。ノズル部材6は、リング状の部材であって、転がり軸受1に軸方向に隣接して設けられ、側面の内径部から軸方向に伸びる鍔状部6aを有している。この鍔状部6aは、内径面が内輪2の斜面部2bと同一角度の傾斜面に形成されて、保持器5の直下まで伸び、その先端がノズル部材6の前記先端部6aaとなる。ノズル部材6の鍔状部6aと内輪2の斜面部2bとの間の隙間δは、内輪2と軸との嵌合、および内輪2の温度上昇と遠心力による膨張とを考慮し、運転中に接触しない範囲で出来るだけ小さな寸法に設定される。
【0012】ノズル部材6は、内輪斜面部2bに対面して開口するエアオイルの吐出溝7を有し、この吐出溝7に吐出口8aが開口する吐出孔8が設けられている。吐出溝7は円周方向に延び、環状に形成されている。吐出孔8は、ノズル部材6の円周方向の1か所または複数箇所に設けられている。吐出孔8は、吐出したエアオイルが内輪斜面部2bに直接に吹き付け可能なように、吐出口8aの吐出方向を斜面部2bに向け、かつ斜面部2bに対して吐出方向が傾斜角度βを持つように設けられている。吐出溝7は、吐出孔8から斜面部2bへの直接の吹き付けを阻害しない断面形状とされている。
【0013】ノズル部材6は、軸受1の外輪3を取付けたハウジング9に取付けられる。ノズル部材6のハウジング9への取付けは、外輪間座10を介して行っても、直接に行っても良い。図1の例は、外輪間座10を介して取付けた例であり、外輪間座10の一側面の内径部に形成した環状の切欠凹部10aに、ノズル部材6を嵌合状態に設けてある。ノズル部材6の軸受外の部分の内径面は、内輪間座11に対して接触しない程度に近接している。ノズル部材6をハウジング9に直接に取付ける場合は、例えば図3に示すように設けられ、ノズル部材6が外輪間座を兼ねるものとできる。
【0014】ノズル部材6の吐出孔8は、その吐出口8aの近傍部8bが一般部よりも小径の絞り孔に形成されている。吐出孔8の入口は、ハウジング9からノズル部材6にわたって設けられたエアオイル供給路13に連通している。エアオイル供給路13は、ハウジング9にエアオイル供給口13aを有し、ハウジング9の内面にハウジング部出口13bを有している。ハウジング部出口13bは、外輪間座10の外径面に設けられた環状の連通溝13cに連通し、連通溝13cから、径方向に貫通した個別経路13dを介して、ノズル部材6の各吐出孔8に連通している。エアオイル供給口13aは、圧縮した搬送エアに潤滑油を混合させたエアオイルの供給源(図示せず)に接続されている。」

上記記載事項(ク)及び図1の記載を総合すると、刊行物2には、
「転がり軸受1内に一部が入っているノズル部材6からエアオイルを吐出して潤滑する転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、内輪2の転走面2aに続く外径面を、転走面2a側が大径となる斜面部2bとし、上記ノズル部材6を、上記転がり軸受1の外輪3に隣接して設けられたリング状のノズル部材6とし、このノズル部材6の内径部に軸方向に伸びて上記転がり軸受1内に入る鍔状部6aを設け、この鍔状部6aは内径面が上記内輪2の斜面部2bに隙間δを持って沿い、上記ノズル部6内に、エアオイル供給路13に入口が連通し出口が上記鍔状部6aの内径面に臨むエアオイルの吐出孔8を設けた転がり軸受のエアオイル潤滑構造。」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3(特開2002-54643号公報)の記載事項

刊行物3には、「転がり軸受のエアオイル潤滑構造」に関し、図1とともに次の事項が記載されている。

(ケ) 「【0013】
【発明の実施の形態】この発明の第1の実施形態を図1,図2と共に説明する。転がり軸受1は、内輪2と外輪3の転走面2a,3a間に複数の転動体4を介在させたものである。転動体4は、例えばボールからなり、保持器5のポケット(図示せず)内に保持される。この転がり軸受1の内輪2の外径面に、転走面2aに続く斜面部2bを設け、この斜面部2bに隙間δを持って沿うノズル部材6を設ける。斜面部2bは、内輪2の幅面から転走面2aに続いて設け、また内輪2の反負荷側(軸受背面側)の外径面に設ける。転がり軸受1がアンギュラ玉軸受である場合、内輪2のステップ面を設ける部分の外径面が上記斜面部2bとされる。
【0014】ノズル部材6は、その先端部6aaを保持器5の内径面と内輪2の外径面の間における転動体4の近傍に位置させる。ノズル部材6は、リング状の部材であって、転がり軸受1に軸方向に隣接して設けられ、側面の内径部から軸方向に伸びる鍔状部6aを有している。この鍔状部6aは、平坦な内径面が内輪2の斜面部2bと同一角度の傾斜面に形成されて、保持器5の直下まで伸び、その先端がノズル部材6の上記先端部6aaとなる。ノズル部材6の鍔状部6aと内輪2の斜面部2bとの間の隙間δは、内輪2と軸との嵌合、および内輪2の温度上昇と遠心力による膨張とを考慮し、運転中に接触しない範囲で出来るだけ小さな寸法に設定される。
【0015】内輪2の斜面部2bには、円周溝7が設けられている。円周溝7は円周方向に延びて環状に形成されており、断面がV字状に形成されている。ノズル部材6は、内輪斜面部2bの円周溝7に対面して吐出口8aが開口する吐出孔8が設けられている。吐出孔8は、ノズル部材6の円周方向の1か所または複数箇所に設けられている。吐出孔8は、吐出したエアオイルが内輪斜面部2bの円周溝7に直接に吹き付け可能なように、吐出口8aの吐出方向を円周溝7に向け、かつ斜面部2bに対して吐出方向が傾斜角度βを持つように設けられている。断面V字状の円周溝7の転走面2a寄りの側壁斜面7aの軸心に対する傾斜角度は、内輪2の斜面部2bの傾斜角度よりも大きくなる。
【0016】ノズル部材6は、軸受1の外輪3を取付けたハウジング9に取付けられる。ノズル部材6のハウジング9への取付けは、外輪間座10を介して行っても、直接に行っても良い。図1の例は、外輪間座10を介して取付けた例であり、外輪間座10の一側面の内径部に形成した環状の切欠凹部10aに、ノズル部材6を嵌合状態に設けてある。ノズル部材6の軸受外の部分の内径面は、内輪間座11に対して接触しない程度に近接している。なお、ノズル部材6をハウジング9に直接に取付ける場合は、例えば図5に示すように設けられ、ノズル部材6が外輪間座を兼ねるものとできる。
【0017】ノズル部材6の吐出孔8は、その吐出口8aの近傍部8bが一般部よりも小径の絞り孔に形成されている。吐出孔8の入口は、ハウジング9からノズル部材6にわたって設けられたエアオイル供給路13に連通している。エアオイル供給路13は、ハウジング9にエアオイル供給口13aを有し、ハウジング9の内面にハウジング部出口13bを有している。ハウジング部出口13bは、外輪間座10の外径面に設けられた環状の連通溝13cに連通し、連通溝13cから、径方向に貫通した個別経路13dを介して、ノズル部材6の各吐出孔8に連通している。エアオイル供給口13aは、圧縮した搬送エアに潤滑油を混合させたエアオイルの供給源(図示せず)に接続されている。」

上記記載事項(ケ)及び図1の記載を総合すると、刊行物3には、
「転がり軸受1内に一部が入っているノズル部材6からエアオイルを吐出して潤滑する転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、内輪2の転走面2aに続く外径面を、転走面2a側が大径となる斜面部2bとし、上記ノズル部材6を、上記転がり軸受1の外輪3に隣接して設けられたリング状のノズル部材6とし、このノズル部材6の内径部に軸方向に伸びて上記転がり軸受1内に入る鍔状部6aを設け、この鍔状部6aは内径面が上記内輪2の斜面部2bに隙間δを持って沿い、上記ノズル部6内に、エアオイル供給路13に入口が連通し出口が上記鍔状部6aの内径面に臨むエアオイルの吐出孔8を設けた転がり軸受のエアオイル潤滑構造。」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

(4)刊行物4(特開平10-58278号公報)の記載事項

刊行物4には、「潤滑油流量調節装置を備えた主軸装置」に関し、図1?3とともに次の事項が記載されている。

(コ) 「【0014】回転軸3の通路13には流量調節手段17が嵌着され、回転軸3の中空部1から環状溝15方向へ供給される潤滑油の流量を回転軸3の回転数に応じて調節する。また、環状溝15に供給された潤滑油によりボールベアリング5の内輪11が内側から冷却される。環状溝15の外周は、ボールベアリング5の内輪11の内周面により全面的に被覆、密封されており、そのため、中空部1内に供給された潤滑油は回転軸3の環状溝15を通して外界に漏洩することはない。ボールベアリング5の内輪11には、環状溝15に対応して直径方向に給油孔19が穿設してあり、これによって、環状溝15とボールベアリング5の内輪11とが連通し、リテーナ16で回転可能に位置決め、挟持されたボールベアリング5の鋼球21(転動体)を冷却する。図1において潤滑油は、潤滑油供給管9から矢線で示すように中空部1内に供給され、次いで回転軸3に設けられた通路13、流量調節手段17、環状溝15を経てボールベアリング5の内輪11に穿設した給油孔19を通り鋼球9の転動面に供給され、転動面を潤滑、冷却して外部に流出する。」

上記記載事項(コ)及び図1?3の記載を総合すると、刊行物4には、
「回転軸3の通路13に流量調節手段17を嵌着して、潤滑油供給管9から中空部1内に供給された潤滑油が、回転軸3に設けられた通路13、流量調節手段17、環状溝15を経てボールベアリング5の内輪11に穿設した給油孔19を通り鋼球の転動面に供給されて転動面を潤滑すること。」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

3.発明の対比

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「デイスタンスカラー5,5」は、転がり軸受であるボールベアリング6,6および7,7に潤滑油を導入するための手段及び部材である点で、本願発明の「潤滑油導入手段」及び「潤滑油導入部材」に相当し、また、引用発明の「噴射」は、本願発明の「吐出」の一態様であり、更に、引用発明の「スピンドル軸受装置における給油装置」は、本願発明の「転がり軸受の潤滑装置」に相当する。さらに、引用発明の「冷却循環経路21」は、本願発明の「冷却油供給装置」に相当し、また、引用発明の「潤滑油供給路25」は、「潤滑油供給孔9,9を経て上記デイスタンスカラー5,5へ噴射用の潤滑油を供給する」ように設けられるものである点で、本願発明の「上記潤滑油導入手段へ吐出用の潤滑油として導く潤滑油供給回路」に相当し、更に、引用発明の「流量制御弁26」は、潤滑油の流量を制御するという機能からみて、本願発明の「流入油量調整用の圧力調整弁」に相当する。更に、引用発明の「スピンドルハウジング本体2内に形成された冷却油供給孔13,13」は、本願発明の「軸受箱に設けられた冷却油循環路」に相当し、また、引用発明の「冷却油供給路28」は、「スピンドルハウジング本体2内に形成された冷却油供給孔13,13に冷却油を供給する」ように設けられるものである点で、本願発明の「軸受箱に設けられた冷却油循環路へ冷却油を供給する冷却油供給回路」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
【一致点】
「潤滑油導入手段から潤滑油を吐出して潤滑する転がり軸受の潤滑装置において、軸受箱に設けられた冷却油循環路へ冷却油を供給する冷却油供給回路を設け、上記潤滑油導入手段へ吐出用の潤滑油として導く潤滑油供給回路を設け、この潤滑油供給回路に流入油量調整用の圧力調整弁を設けた転がり軸受の潤滑装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

【相違点1】
潤滑油導入手段は、本願発明が、「転がり軸受内に一部が入っている」潤滑油導入手段から潤滑油を「微量ずつ」吐出して潤滑するものであり、前記潤滑油導入手段に「流量調整装置を設け」られたものであるとともに、「内輪の軌道面に続く外径面を、軌道面側が大径となる斜面部とし、前記潤滑油導入手段を、前記転がり軸受の外輪に隣接して設けられたリング状の潤滑油導入部材とし、この潤滑油導入部材の内径部に軸方向に延びて前記転がり軸受内に入る鍔状部を設け、この鍔状部は内径面が前記内輪の斜面部に隙間を持って沿い、前記潤滑油導入部材内に、前記潤滑油供給回路に入口が連通し出口が前記鍔状部の内径面に臨む潤滑油の経路を設けた」ものであるのに対して、引用発明が、「デイスタンスカラー5,5」に流量調整装置を設けることなく潤滑油を噴射して潤滑するものであり、当該潤滑と転がり軸受の内輪との関係は明らかでない点。

【相違点2】
本願発明では、「冷却油供給装置から」冷却油を供給する冷却油供給回路を設け、「この冷却油供給回路から分岐させて、前記冷却油の一部を」、上記潤滑油導入手段へ吐出用の潤滑油として導く潤滑油供給回路を設けているのに対して、引用発明では、冷却油供給装置に相当する「冷却循環経路21から分割して」潤滑油供給路25を設けているとともに、上記潤滑油供給路25から分割して冷却油供給路28を設けている点。

4.当審の判断

(1)相違点1について
上記のとおり刊行物2及び3には、「転がり軸受1内に一部が入っているノズル部材6からエアオイルを吐出して潤滑する転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、内輪2の転走面2aに続く外径面を、転走面2a側が大径となる斜面部2bとし、上記ノズル部材6を、上記転がり軸受1の外輪3に隣接して設けられたリング状のノズル部材6とし、このノズル部材6の内径部に軸方向に伸びて上記転がり軸受1内に入る鍔状部6aを設け、この鍔状部6aは内径面が上記内輪2の斜面部2bに隙間δを持って沿い、上記ノズル部6内に、エアオイル供給路13に入口が連通し出口が上記鍔状部6aの内径面に臨むエアオイルの吐出孔8を設けた転がり軸受のエアオイル潤滑構造。」という技術事項を含む発明が記載されている。すなわち、上記「ノズル部材6」が「内輪2」に潤滑油を導入する手段は、「転がり軸受内に一部が入っている」ものであってエアオイルを「微量ずつ」吐出して転がり軸受を潤滑するものであり、その構成は、上記相違点1に係る本願発明の「内輪の軌道面に続く外径面を、軌道面側が大径となる斜面部とし、前記潤滑油導入手段を、前記転がり軸受の外輪に隣接して設けられたリング状の潤滑油導入部材とし、この潤滑油導入部材の内径部に軸方向に延びて前記転がり軸受内に入る鍔状部を設け、この鍔状部は内径面が前記内輪の斜面部に隙間を持って沿い、前記潤滑油導入部材内に、前記潤滑油供給回路に入口が連通し出口が前記鍔状部の内径面に臨む潤滑油の経路を設けた」構成に相当するものである。そして、転がり軸受に対してどの程度の量の潤滑油を吐出して潤滑するかということは、転がり軸受の負荷や運転の条件に応じて当業者が適宜設定する設計的事項というべきところ、上記刊行物1には「軸受部への潤滑油の供給量は必要最小限にとどめることが望ましい」(第1ページ第2欄第10?11行)との記載もあることに照らせば、当業者が潤滑油の供給量を微量ずつ吐出して転がり軸受を潤滑するようにすることは適宜実施できることであり、そのために、引用発明のデイスタンスカラー5,5から潤滑油を噴射して軸受を潤滑する構成に代えて、上記刊行物2及び3にそれぞれ記載の「ノズル部材6」が「内輪2」に潤滑油を導入する手段を適用することは、当業者が容易に想到できることである。
次に、本願発明は、潤滑油導入手段に「流量調整装置を設け」られている点について検討する。本願発明の上記流量調整装置は、潤滑油導入手段の潤滑油の流量を調整する機能を有するものであるとしても、その構成が特定されていない一般的なものである。他方、上記刊行物4に記載された「流量調節手段17」は、回転軸3の通路13に設けられてボールベアリング5を潤滑するものであるが、転がり軸受の潤滑装置における潤滑油導入手段に潤滑油の流量を調整する機能を有する流量調整装置を設けたものということができる。さらに、このような流量調整装置を潤滑油導入手段に設けることは、従来から転がり軸受の潤滑装置における潤滑の形式を問わず必要に応じて実施されている周知の技術(例えば、特開2000-249151号公報の段落【0021】?【0024】及び図12、図13に記載の多孔質焼結体19、実公昭33-1531号公報の第1ページ右欄第14?17行及び図面に記載の調整板18を参照)である。そうすると、引用発明と刊行物2?4に記載された発明がいずれも転がり軸受装置の潤滑装置である点で共通するものであることに照らせば、引用発明の転がり軸受の潤滑装置に上記刊行物2及び3の潤滑油を導入する手段を適用するに際して刊行物4に記載された技術事項及び上記周知の技術に例示した流量調整装置を設けることは当業者が容易に想到できたことである。
したがって、引用発明に上記刊行物2及び3に記載された潤滑油を導入する手段を適用して刊行物4に記載された技術事項及び上記周知の技術に例示した流量調整装置を設けることにより、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
刊行物1の図面の記載を詳細にみると、引用発明の給油装置は、冷却循環経路21から連続して設けられた冷却油供給路28に冷却油を供給するとともに、当該冷却油供給路28から分岐して冷却油の一部を吐出用の潤滑油として潤滑油供給路25に導いているものである。
そうすると、上記相違点2に係る本願発明と引用発明との相違は、表現上の相違にすぎないから、実質的な相違点ではない。

(4)作用効果について
本願発明が奏する作用効果は、いずれも刊行物1ないし4に記載された発明及び上記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、上記の当審の拒絶理由通知に対する平成22年3月4日付けの意見書において、
「本願発明は、潤滑油供給回路の上流部での潤滑油供給回路の流入油量調整用の弁に加えて、転がり軸受内に一部が入る潤滑油導入手段に流量調整装置を設けたため、上流部の流入油量調整用の弁で調整された流量を、軸受への流入直前位置で再度調整することができます。そのため、微量潤滑のための適切な流量調整が行え、安定した微量潤滑が行えます。」
と主張している。
しかしながら、転がり軸受の潤滑装置において、潤滑油供給回路の上流部での潤滑油供給回路の流入油量調整用の弁に加えて、さらに流量調整装置を設けることは、結局適切な量の潤滑油を吐出するようにすることにほかならないから、転がり軸受の負荷や運転の条件に応じて当業者が適宜採用できることであり、その具体的構成が上記刊行物2?4に記載された発明及び上記周知の技術から当業者が容易に想到できたものであることは、上記に説示したとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1ないし4に記載された発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-03-30 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-04-19 
出願番号 特願2003-161264(P2003-161264)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔山崎 勝司  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 大山 健
常盤 務
発明の名称 転がり軸受の潤滑装置  
代理人 杉本 修司  
代理人 野田 雅士  

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