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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800277 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
管理番号 1218534
審判番号 無効2008-800278  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-08 
確定日 2010-05-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4057230号発明「絶縁被覆電気導体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4057230号は、平成12年10月3日に出願(特願2000-304211号)されたものであって、平成19年12月21日に、その特許権が設定登録され、その後、請求人日立電線株式会社から本件無効審判が請求されたものである。
以下に、請求以後の経緯を整理して示す。

平成20年12月 5日付け 審判請求書の提出
平成21年 3月16日付け 審判事件答弁書の提出
同日付け 訂正請求書の提出
平成21年 5月18日付け 手続中止通知書の送付
平成21年 7月 7日付け 手続中止解除通知書の送付
平成21年 8月 5日付け 審判事件弁駁書の提出
平成21年11月11日付け 参加申請書提出(参加申請人 日立マグネットワイヤ株式会社)
平成21年11月30日付け 審判事件答弁書(再答弁書)の提出
平成21年12月16日付け 参加許否の決定(本件参加の申請を許可)
平成21年12月28日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人及び参加人より)
平成22年 1月14日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)平成22年 1月14日 口頭審理の実施
同日付け 審理終結通知(口頭による)

第2 平成21年3月16日付け訂正請求書による訂正について
平成21年3月16日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)が認容すべきものであるか否かについて検討する。

1 本件訂正の内容
本件訂正は、訂正請求書及び添付した全文訂正明細書の記載から見て、以下の訂正事項a?cからなるものと認める。なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲につき、
「【請求項1】
溶接されて回路を形成するコイル中に溶接箇所が設けられているコイルに使用される多層絶縁被覆金属導体において、前記多層絶縁被覆金属導体の多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなり、前記多層絶縁被覆層が金属導体に設けられ、該金属導体は酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であることを特徴とする被覆金属導体。」とあるのを、
「【請求項1】
部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル中に溶接箇所が設けられているコイルに使用される多層絶縁被覆金属導体において、前記多層絶縁被覆金属導体の多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなり、前記多層絶縁被覆層が金属導体に設けられ、該金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であることを特徴とする被覆金属導体。」と訂正する。

(2)訂正事項b
明細書の段落【0006】につき、
「すなわち、本発明は、
(1)溶接されて回路を形成するコイル中に溶接箇所が設けられているコイルに使用される多層絶縁被覆金属導体において、前記多層絶縁被覆金属導体の多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなり、前記多層絶縁被覆層が金属導体に設けられ、該金属導体は酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であることを特徴とする被覆金属導体、
(2)前記多層絶縁被覆金属導体の絶縁被覆層の最下層としてポリアミドイミド樹脂からなる絶縁被覆層を有することを特徴とする(1)項記載の被覆金属導体、及び
(3)金属導体の横断面が円以外の形状を有する(1)または(2)項記載の被覆金属導体を提供するものである。
本発明における作用が奏される理由については明確ではないが、ポリイミド樹脂は高温時でも室温時に比べ弾性率の低下が少なく、ポリエステルイミド樹脂やH種ポリエステル樹脂は、初期弾性率が高く、また高温時でも軟化しないことによるものと考えられる。」とあるのを、
「すなわち、本発明は、
(1)部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル中に溶接箇所が設けられているコイルに使用される多層絶縁被覆金属導体において、前記多層絶縁被覆金属導体の多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなり、前記多層絶縁被覆層が金属導体に設けられ、該金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であることを特徴とする被覆金属導体、
(2)前記多層絶縁被覆電金属導体の絶縁被覆層の最下層としてポリアミドイミド樹脂からなる絶縁被覆層を有することを特徴とする(1)項記載の被覆金属導体、及び
(3)金属導体の横断面が円以外の形状を有する(1)または(2)項記載の被覆金属導体を提供するものである。
本発明における作用が奏される理由については明確ではないが、ポリイミド樹脂は高温時でも室温時に比べ弾性率の低下が少なく、ポリエステルイミド樹脂やH種ポリエステル樹脂は、初期弾性率が高く、また高温時でも軟化しないことによるものと考えられる。」と訂正する。

(3)訂正事項c
明細書の段落【0012】につき、
「導体は酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であり、好ましくは20ppm以下の低酸素銅または無酸素銅の導体を使用することができる。酸素含有量が30ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
また、導体はその横断面が所望の形状のものを使用できるが、円以外の形状を有するものを使用するのが好ましく、特に平角形状のものが好ましい。」とあるのを、
「導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅である。酸素含有量が15ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
また、導体はその横断面が所望の形状のものを使用できるが、円以外の形状を有するものを使用するのが好ましく、特に平角形状のものが好ましい。」と訂正する。

2 本件訂正の適否
以下に、本件訂正の適否について検討する。
ここでは、「願書に添付した明細書又は図面」を「訂正前明細書」という。また、本件訂正前の特許請求の範囲請求項1については「旧請求項1」と、本件訂正後については「新請求項1」という。

(1)訂正事項aについて
ア この訂正は、まずは、旧請求項1に記載されていた「溶接されて回路を形成するコイル」との記載を、新請求項1では、「部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル」と訂正し、同項に係る発明である被覆金属導体が使用される、溶接されて回路を形成するコイルが、「部分形状に形成された導体同士」が溶接されて形成されたものであることを明りょうにするもので、
更に、この訂正は、旧請求項1に記載されていた「該金属導体は酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅または無酸素銅」との記載を、新請求項1では、「該金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅」と訂正し、同項に係る発明である被覆金属導体につき、その低酸素銅または無酸素銅の酸素含有量を数値的に限定するものといえる。
イ そして、訂正前明細書には、「【従来技術】 ・・・導体を丸以外の形状とすることは、コイル状の回路形成に際して電線を直接長いまま巻回することが困難となるため、短い導体を該コイルの部分形状に形成した後、導体同士を溶接して全体の回路を形成する手法が行われるようになった。」(段落【0002】、審決註;「・・・」は省略を意味する。以下同じ。)との記載、及び「[実施例1] 1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)に、・・・皮膜を形成し、その全体の皮膜厚さを45μmとした。」(段落【0014】)との記載が認められ、この訂正は、これらの訂正前明細書の記載を根拠にしたものである。
ウ 以上のことから、この訂正は、明りようでない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当し、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、この訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

(2)訂正事項b及び訂正事項cについて
これらの訂正は、訂正事項aと整合を図るべく訂正前明細書の段落【0006】、段落【0012】の記載を訂正するもので、明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、先の「(1)訂正事項aについて」で検討したことから、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかであるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

(3)訂正請求に対する請求人の主張について
請求人は、弁駁書によれば、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、又は明りようでない記載の釈明を目的とするものではなく、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるから、訂正事項aを有する本件訂正は、認容すべきではない旨を主張し、その理由として、要するに、次のア及びイの主張をしていると認められる。
ア 「部分形状に形成された導体」に関する明示的な記載は、訂正前明細書の従来技術の説明にあるだけであって、本件発明についての実施の形態及び実施例の説明中には記載されていないし、また、コイルには様々な形態のものがあるから、旧請求項1に記載されていた「溶接されて回路を形成するコイル」が、必ずしも「部分形状に形成された導体同士」が溶接されて回路を形成するコイルであるとはいえないから、訂正事項aのうち、旧請求項1に記載されていた「溶接されて回路を形成するコイル」とあるのを、新請求項1では、「部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル」とする訂正は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
イ 訂正前明細書の段落【0014】に、実施例として、酸素含有量が「15ppmの銅」についての記載はあるものの、低酸素銅の酸素含有量が15ppm以下であってもよいことについての記載はないから、訂正事項aのうち、旧請求項1に記載されていた「該金属導体は酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であること」とあるのを、新請求項1では、「該金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であること」とする訂正は、訂正前明細書に根拠がないにもかかわらず為されたものであって、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
以下に、請求人の主張について検討する。
上記アについて
訂正前明細書には、従来技術に関し、「導体を丸以外の形状とすることは、コイル状の回路形成に際して電線を直接長いまま巻回することが困難となるため、短い導体を該コイルの部分形状に形成した後、導体同士を溶接して全体の回路を形成する手法が行われるようになった。」(段落【0002】)、「これらのコイルを形成するためには、・・・ヒュージング(圧力をかけながら電気溶接する)やTIG溶接などの電気溶接方法がとられるようになってきた。・・・しかしながら、ヒュージングやTIG溶接では、導体に直接熱を加えて導体を溶解し、導体同士を接続することから、・・・導体温度の上昇は、その近傍の絶縁被覆の劣化を生じさせ、さらに被覆材料中の低分子量成分が熱により蒸発し、被覆に膨れ(発泡)を生じさせることとなり近傍の被覆材料の電気特性が低下することがある。・・・また、このような被覆の膨れは、従来から使用されえているポリアミドイミド樹脂単体では回避することができなかった。」(段落【0003】)の記載、及び、本件特許に係る発明に関し、「本発明は、モーターや発電機などのコイルを構成するために好適な、コイル中の回路に溶接箇所を設けることにより回路を形成するような場合の溶接熱にも耐えられる被覆(金属)導体を提供することを目的とするものである。」(段落【0004】)の記載がある。
以上の記載によれば、本件特許に係る被覆金属導体の発明は、「短い導体を該コイルの部分形状に形成した後、導体同士を溶接して全体の回路を形成する手法で製造するコイル」、すなわち、「部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル」に使用することを前提として、その場合に生ずる問題点である、溶接部分近傍の絶縁被膜の溶接熱による劣化や、さらに被覆の膨れ(発泡)を解決し、溶接熱にも耐えられるような被覆(金属)導体を提供することを目的としてなされたものであることを理解することができる。
そして、このような理解を踏まえて、訂正前明細書の実施の形態及び実施例の記載をみれば、これらの実施の形態や実施例に記載された被覆金属導体が、「部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル」に使用することを前提としたものであることは明らかであるから、訂正前明細書の実施の形態及び実施例の説明中に、「部分形状に形成された導体」に関する明示的な記載がないとしても、訂正前明細書には、本件特許に係る被覆金属導体を使用するコイルとして、新請求項1に記載した「部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル」が実質的に記載されていたものと認められる。
したがって、訂正事項aのうち、旧請求項1に記載されていた「溶接されて回路を形成するコイル」とあるのを、新請求項1では、「部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル」とする訂正は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、請求人の主張する上記アは理由がない。

上記イについて
訂正前明細書には、「導体は酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であり、好ましくは20ppm以下の低酸素銅または無酸素銅の導体を使用することができる。酸素含有量が30ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。」(段落【0012】)と記載されており、この記載からみて、金属導体が含有する酸素量を制限して、酸素含有の許容量の上限を規制する理由は、溶接部分に含有酸素に起因するボイドが発生することを防止し、溶接部分の電気抵抗が悪化し、強度が低下するのを防止するためであること、及び、ボイドの発生を防止することができる酸素の許容量の範囲が、「30ppm以下」であることが記載されていると認められる。
一方、上述したとおり、訂正前明細書には、実施例1において、導体の酸素含有量として、「15ppm」という数値も記載されている。
してみると、訂正事項aのうち、旧請求項1に記載されていた「該金属導体は酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であること」とあるのを、新請求項1では、「該金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であること」とする訂正は、該金属導体が含有する酸素量について、ボイドの発生を防止することができる酸素の許容量の範囲として、訂正前明細書に既に記載されていた数値の範囲内において、訂正前明細書の実施例に関する記載として既に記載されていた数値を用いて、その範囲をより狭い範囲に減縮したものということができるから、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものと認めることができる。
したがって、請求人の主張する上記イは理由がない。

3 まとめ
本件訂正は、特許法第134条の2第1項の規定を満たし、また、同条第5項において準用する特許法第126条第3、4項の規定に適合するので、これを認める。

第3 発明の内容
先の「第2」で述べたとおり、本件訂正が認められるから、本件訂正後の請求項1?3の内容は、次のとおりである(以下、請求項に対応して、「本件訂正発明1?3」という。)。

「【請求項1】 部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル中に溶接箇所が設けられているコイルに使用される多層絶縁被覆金属導体において、前記多層絶縁被覆金属導体の多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなり、前記多層絶縁被覆層が金属導体に設けられ、該金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であることを特徴とする被覆金属導体。
【請求項2】 前記多層絶縁被覆金属導体の絶縁被覆層の最下層としてポリアミドイミド樹脂からなる絶縁被覆層を有することを特徴とする請求項1記載の被覆金属導体。
【請求項3】 金属導体の横断面が円以外の形状を有する請求項1または2記載の被覆金属導体。」

第4 請求の趣旨と、請求人の主張する無効理由

1 請求人は、審判請求書によれば、「特許第4057230号の請求項1乃至請求項3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求める。

2 そして、請求人は、審判請求書によれば、特許法第36条第6項第1号の規定に基づく無効理由1、3、5及び7と、特許法第36条第4項の規定に基づく無効理由2、4、6及び8を主張しているので、これを適用条文に基づいて整理すると、以下の無効理由A及び無効理由Bを主張するものと認める。

A;
本件訂正発明1?3に係る特許は、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由A」という。)
B;
本件訂正発明1?3に係る特許は、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由B」という。)

3 また、請求人は、審理の全趣旨によれば、平成21年3月16日付け訂正請求書による訂正(本件訂正)が認められた場合にも、上記無効理由A及び無効理由Bを包含したままであると主張するものと認める。

第5 答弁の趣旨と、被請求人の主張

1 被請求人は、答弁書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の乙第1?3号証を提出している。なお、乙第4号証は、参考資料とし、証拠として採用しない。

乙第1号証;特許第3911274号公報
乙第2号証;特許第4041471号公報
乙第3号証;特公昭62-21203号公報

2 そして、被請求人は、答弁書によれば、請求人が主張する無効理由A及び無効理由Bに理由はないと主張しているものと認める。

3 また、被請求人は、審理の全趣旨によれば、本件訂正が認められるべきであり、そして、その場合にも、請求人が主張する無効理由A及び無効理由Bに理由はないと主張するものと認める。

第6 当審の判断

1 まず、請求人主張の無効理由A(本件訂正発明1?3に係る特許は、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)改正前の特許法第36条第6項第1号(以下、「特許法旧第36条第6項第1号」という。)が規定する要件を満たすものであるか否か)について判断する。

(1)特許請求の範囲の記載が、特許法旧第36条第6項第1号に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許の請求項1?3は、前記「第3」のとおりであるほか、本件訂正明細書には、「発明の詳細な説明」として、次の記載がある。なお、「・・・」は、省略を表す。
ア 技術分野
「本発明は、モーターや発電機などのコイルを構成するために好適な、コイル中の回路に溶接箇所を設けることにより回路を形成するような場合の溶接熱にも耐えられる絶縁被覆電気導体に関する。」(段落【0001】)
イ 技術背景
「近年、・・・コイル作成方法も、従来からの巻線と呼ばれていた電線を円周上に巻回してコイルを作成する方法ではなく、コイルの形状に合致した断面形状を持つ被覆導体をつなぎ合わせてコイルを形成する方法が取られるようになった。・・・導体を丸以外の形状とすることは、コイル状の回路形成に際して電線を直接長いまま巻回することが困難となるため、短い導体を該コイルの部分形状に形成した後、導体同士を溶接して全体の回路を形成する手法が行われるようになった。
これらのコイルを形成するためには、導体同士の接続が必要となる。導体を接続するために従来は半田付けが行われていた部分に、ヒュージング(圧力をかけながら電気溶接をする)やTIG溶接などの電気溶接方法がとられるようになってきた。・・・
従来、丸エナメル線に使用される被覆材料はポリエステルなどの各種樹脂が使用されてきた。しかしながら、ヒュージングやTIG溶接では、導体に直接熱を加えて導体を溶解し、導体同士を接続することから、接続部分の近傍の絶縁被覆はきわめて高い温度となるため大きな熱劣化を受けることとなる。たとえば、通常の溶接で銅同士を接続するためには、銅の温度を銅の融点以上とする必要があり、そのためにはおよそ1100℃以上に導体温度が上昇する。導体温度の上昇は、その近傍の絶縁被覆の熱劣化を生じさせ、さらに被覆材料中の低分子量成分が熱により蒸発し、被覆に膨れ(発泡)を生じさせることとなり近傍の被覆材料の電気特性が低下することがある。このように溶接の熱が被覆に影響を与えることは周知であるが、この影響を少なくすることは、電気機器の信頼性向上のためにも必要である。溶接部分の導体温度が1100℃となった場合、絶縁性能が必要である皮膜が受ける熱は、溶接部分から10mmの距離でおよそ600℃となる。また、このような被覆の膨れは、従来から使用されているポリアミドイミド樹脂単体では回避することができなかった。」(段落【0002】?【0003】)
ウ 発明の開示
(ア)「本発明は、モーターや発電機などのコイルを構成するために好適な、コイル中の回路に溶接箇所を設けることにより回路を形成するような場合の溶接熱にも耐えられる被覆電気導体を提供することを目的とするものである。」(段落【0004】)
(イ)「本発明者らは、被覆電気導体の被覆の材質に注目し、溶接時の熱にも耐えられ、さらに被覆の膨れなどの異常が生じない被膜構成を見いだした。
この溶接時の熱に耐えうる被膜構成に関して発明者らは、溶接時の熱が瞬間的にかかることに着目し、その被膜の耐熱性(瞬間耐熱性)の検証を実施した。被膜の瞬間耐熱性は、導体の溶接時に導体側から伝導すること、導体側に形成されている被覆材料が最も熱劣化を受けやすいこと、導体側の被覆材料から発生する分解ガスが被覆全体にボイドやブリスター(微細な発泡)を生じさせることを確認した。このため、ボイドなどの発生に対抗するために、被覆が加熱されても軟化しない材料を被覆の一部として使用する事を検討し、被覆の一部に特定の材料(ポリイミドやポリエステルイミド、H種ポリエステル樹脂)を使用することで本発明の目的を達成することを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。」(段落【0005】)
(ウ)「 (省略)
本発明における作用が奏される理由については明確ではないが、ポリイミド樹脂は高温時でも室温時に比べ弾性率の低下が少なく、ポリエステルイミド樹脂やH種ポリエステル樹脂は、初期弾性率が高く、また高温時でも軟化しないことによるものと考えられる。」(段落【0006】)
(エ)「また、最上層を形成するポリアミドイミド樹脂、あるいは最下層を形成するのに用いることができるポリアミドイミド樹脂は、市販品(例えば、日立化成(株)社製 商品名 HI406など)を用いるか、常法により、例えば極性溶媒中でトリカルボン酸無水物とジイソシアネート類を直接反応させて得たもの、あるいは、極性溶媒中でトリカルボン酸無水物にジアミン類を先に反応させて、まずイミド結合を導入し、ついでジイソシアネート類でアミド化して得たものを用いることができる。ポリアミドイミド樹脂は、他の樹脂に比べ熱伝導率が低く、絶縁破壊電圧が高く、焼付け硬化が可能なものである。
本発明の被覆金属導体においては、上記のように絶縁被覆層の最上層に前記ポリアミドイミド樹脂を使用する。ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種である絶縁被覆層に接触する最上層にポリアミドイミド樹脂を使用することにより、強い曲げ加工を受けた場合でも、クレージングや皮膜の割れといった皮膜の伸び率に起因する不具合を解消できる。
(中略)
なお、本発明の被覆電気導体において、被覆の各樹脂層を形成するための樹脂の形成方法には特に制限はなく、公知の各種の方法によって行うことができる。」(段落【0008】?【00010】)
(オ)「また、絶縁被覆電気導体において、絶縁被覆層の最下層をポリアミドイミド樹脂とし、さらにその他の樹脂層を介するかまたは直接にポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする被覆金属導体とすることにより、モーターや変圧器トランスなどで、使用されるときに導体側から伝導する熱に対して、該絶縁皮膜が熱劣化を起こしにくいという作用がある。
樹脂被覆用ワニスは導体上に塗布焼き付けを行い、該被覆電気導体を得ることができる。」(段落【0011】)
(カ)「導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅の導体である。酸素含有量が15ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
また、導体はその横断面が所望の形状のものを使用できるが、円以外の形状を有するものを使用するのが好ましく、特に平角形状のものが好ましい。」(段落【0012】)
(キ)「導体上にこれらの樹脂ワニスを塗布する方法は常法でよく、たとえば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法や、もし導体断面形状が四角形であるならば、井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いることができる。これらの樹脂ワニスを塗布した導体はやはり常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼き付け条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400?500℃にて通過時間を30?90秒に設定することにより達成することができる。
本発明において前記のポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂およびH種ポリエステル樹脂の少なくとも1種からなる層の厚さは、特に制限はないが、好ましくは4?35μm、より好ましくは5?18μmである。また、ポリアミドイミド樹脂層の厚さは、全体で、好ましくは10?40μm、より好ましくは10?35μmである。
被覆する皮膜の全体の厚さは、15?55μm程度であるが、好ましくは25?50μmである。」(段落【0013】)
(ク)「【実施例】以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお実施例および比較例の被覆樹脂の構成などは表1および表2にまとめて示した。また、このようにして得られた樹脂被覆導体についての評価試験結果を表3?表5に示した。
[実施例1]
1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)に、下層から、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)、ポリイミド樹脂(PI)(東レデュポン(株)製 商品名 #3000)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)の順に皮膜を形成し、その全体の皮膜厚さを45μmとした。それぞれの被膜厚さについては表1に記載のとおりである。皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼付炉にて450℃でおよそ15秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表3に示した。
[実施例2、3]
使用樹脂は実施例1と同等にし、また樹脂被覆の焼き付けの条件も同一とした。ただし、それぞれの皮膜厚さについては、表1に記載のとおり変更した。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表3に示した。」(段落【0014】)
(ケ)「本発明の被覆金属導体は良好な瞬間耐熱性を有し、過酷なコイル製造工程で高温度の熱がかかる導体の溶接などの加工に対しても皮膜にボイドやブリスターを生起することがなく、健全性が維持されるため、絶縁電線が劣化してしまうことがない。また、本被覆金属導体を使用する場合に、導体側から伝導する熱に対しても絶縁皮膜が熱劣化を起こしにくく、信頼性の高いコイルを提供することができるようになる。このことはコイルを用いる機器全体の性能を高くし、機器に対する信頼性を高めることに寄与するという優れた効果を奏するものである。」(段落【0023】)

(3)上記(2)によれば、本件訂正発明1は、「部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル中に溶接箇所が設けられているコイルに使用される多層絶縁被覆金属導体」において、前記多層絶縁被覆金属導体の「多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からな」ることに発明の特徴を有するものであることが認められる。
ところで、請求人は、本件訂正発明1の目的は、「溶接熱にも耐えられる被覆電気導体の提供」(段落【0004】)であり、本件訂正明細書に、「絶縁被覆(金属)導体において、絶縁被覆層の最下層をポリアミドイミド樹脂とし、さらにその他の樹脂層を介するかまたは直接にポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする被覆金属導体とすることにより、モーターや変圧器トランスなどで、使用されるときに導体側から伝導する熱に対して、該絶縁皮膜が熱劣化を起こしにくいという作用がある」(段落【0011】)ことが記載されているから、本件訂正発明1において、絶縁被覆層の最下層の構成、すなわち、最下層の材質や厚さは必須の構成条件である旨の主張(審判請求書、6頁下から16行?7頁5行、8頁下から3行?9頁下から9行、弁駁書、8頁10行?9頁19行)をし、要するところ、このような必須の構成条件について記載がない請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないという趣旨の主張をしているものと認められる。
しかし、本件訂正明細書の上記記載は、絶縁被覆の最下層をポリアミドイミド樹脂とするような実施態様とすれば、さらに使用時に導体側から伝導する熱(溶接時の熱ではない)に対して、該絶縁皮膜が熱劣化を起こしにくいという2次的作用があることを記載したものであって、このような記載があるからといって、本件訂正発明1において、絶縁被覆層の最下層の材質や厚さが必須の構成条件である解すべき理由はない。
本件訂正発明1は、絶縁被覆層の最下層の構成(材質や厚さ)を特徴とする発明ではなく、部分形状に形成した導体同士を溶接して回路を形成する場合に、溶接の熱による導体温度の上昇が、その近傍の絶縁被覆の熱劣化を生じさせ、被覆に膨れ(発泡)を生じさせることとなり近傍の被覆の電気特性が低下することを解決課題とし、それを解決するために、上記のような被覆金属導体の絶縁被覆層の構成としたものと理解することができる。

(4)本件特許の請求項1に記載の「多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からな」るものとすることについて、本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」には、上記(2)ウ(イ)?(ケ)のとおり、被覆金属導体の絶縁被覆層の構成を、「多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からな」るものとすることによって、「本発明の被覆金属導体は良好な瞬間耐熱性を有し、過酷なコイル製造工程を高温度の熱がかかる導体の溶接などの加工に対しても皮膜にボイドやブリスターを生起することがなく、健全性が維持されるため、絶縁電線が劣化してしまうことがない」ことが記載されており、その理由として、導体の溶接時に導体側から伝導する熱により導体側に形成されている被覆材料が熱劣化を受けて、そこから分解ガスが発生しても、被覆の一部に特定の材料(ポリイミドやポリエステルイミド、H種ポリエステル樹脂)を使用することで、ボイドなどの発生に対抗するために、被覆全体にボイドやブリスターが発生することを防止できる作用を奏することが記載され、さらに、このような作用を奏する理由として、ポリイミド樹脂は高温時でも弾性率の低下が少なく、また、ポリエステルイミド樹脂やH種ポリエステル樹脂は初期弾性率が高いので高温時でも軟化しないことが記載されているから、特許請求の範囲に記載された「多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からな」る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、かつ発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであると認められる。

(5)また、請求人は、本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」には、実施例1乃至4において、3層の多層絶縁被覆層を有する被覆金属導体しか開示されおらず、4層以上の多層絶縁被覆層を有する被覆金属導体が裏付けられていないから、4層以上の多層絶縁被覆層を含む請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張(審判請求書、8頁12?23行)している。
しかし、本件訂正発明1の特徴的な部分は、上述のとおり、上記課題の解決のために、「多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からな」ることにあり、絶縁被覆層の層の数にあるのではないし、また、発明の詳細な説明には、上記(2)ウ(オ)のとおり、「絶縁被覆電気導体において、・・・さらにその他の樹脂層を介するかまたは直接にポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする被覆金属導体」と記載し、被覆金属導体の絶縁被覆層が4層以上となる場合についても裏付けられているから、「多層絶縁被覆層を有する被覆金属導体」については、発明の詳細な説明に、好ましい実施の態様を示す実施例として、3層の多層絶縁被覆層を有する被覆金属導体を記載すれば足りるのであって、さらに4層以上の絶縁被覆層を有する実施例を開示することをもって裏付けれられている必要はないというべきである。
さらに、請求人は、本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」には、実施例1乃至4において、酸素含有量が15ppmの銅しか開示されていないから、酸素含有量が15ppm以下を含む請求項1?3に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないとも主張(審判請求書、7頁下から14?末行等)しているが、上記(2)ウ(カ)のとおり、「導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅の導体である。酸素含有量が15ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。」
ことが記載されており、ここで、技術常識に照らして、このように酸素含有量の少ない銅が低酸素銅または無酸素銅であることは明らかといえるから、特許請求の範囲に記載された「金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅である」発明は、発明の詳細な説明に記載されたものというべきである。

(6)以上述べたところからすると、本件訂正発明1についての本件訂正明細書は特許法旧第36条第6項第1号に適合するというべきであるから、これに反する請求人の主張は理由がないというべきである。そして、本件訂正発明2?3は、いずれも本件訂正発明1を引用したものであるから、本件訂正発明1と同様に特許法旧第36条第6項第1号に適合しないとする請求人の主張にも理由がないことになる。

2 次に、請求人主張の無効理由B(本件訂正発明1?3に係る特許は、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)改正前の特許法第36条第4項(以下、「特許法旧第36条第4項」という。)が規定する要件を満たすものであるか否か)について判断する。

(1)本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」には、上記(2)ウ(エ)?(ク)のとおり、本件訂正発明1?3の製造方法について、「最上層を形成するポリアミドイミド樹脂は、あるいは最下層を形成するのに用いることができるポリアミドイミド樹脂は、市販品(例えば、日立化成(株)社製 商品名 HI406など)を用いるか、常法により、例えば極性溶媒中でトリカルボン酸無水物とジイソシアネート類を直接反応させて得たもの、あるいは、極性溶媒中でトリカルボン酸無水物にジアミン類を先に反応させて、まずイミド結合を導入し、ついでジイソシアネート類でアミド化して得たものを用いることができる」こと、「被覆の各樹脂層を形成するための樹脂の形成方法には特に制限はなく、公知の各種の方法によって行うことができる」こと、「樹脂被覆用ワニスは導体上に塗布焼き付けを行い、該被覆電気導体を得ることができる」こと、「導体上にこれらの樹脂ワニスを塗布する方法は常法でよく、たとえば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法や、もし導体断面形状が四角形であるならば、井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いることができる」こと、「これらの樹脂ワニスを塗布した導体はやはり常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼き付け条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400?500℃にて通過時間を30?90秒に設定することにより達成することができる」こと、「ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂およびH種ポリエステル樹脂の少なくとも1種からなる層の厚さは、特に制限はないが、好ましくは4?35μm、より好ましくは5?18μmである」こと、「ポリアミドイミド樹脂層の厚さは、全体で、好ましくは10?40μm、より好ましくは10?35μmである」こと、「被覆する皮膜の全体の厚さは、15?55μm程度であるが、好ましくは25?50μmである」ことが記載され、さらに、実施例として、「[実施例1]1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)に、下層から、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)、ポリイミド樹脂(PI)(東レデュポン(株)製 商品名 #3000)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)の順に皮膜を形成し、その全体の皮膜厚さを45μmとした」こと、「それぞれの被膜厚さについては表1に記載のとおりである」こと、「皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼付炉にて450℃でおよそ15秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった」こと等が記載されている。
これらの記載からすれば、本件訂正発明1?3を当業者が容易に実施することが認められるから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものと認められる。

(2)請求人は、例えば、最下層の厚さを0.01μmにした場合の絶縁被覆層を有する場合、又は、最下層の材質をポリアミドイミド樹脂以外のものにする場合に、被覆金属導体を当業者は容易に実施できないと主張する。
しかし、請求人が、最下層の厚さとして、0.01μmという厚さを例示した根拠が不明であるし、また、上述したとおり、絶縁被覆の各層は、従来から知られた常法により形成することが記載されており、一方、被覆材料はポリエステル樹脂などの各種樹脂が従来使用されていたことも技術常識といえるから、当業者であれば、必要に応じて、絶縁被覆層の最下層の材質や厚さを選定することができたものというべきである。

(3)以上述べたところからすると、本件訂正発明1についての本件訂正明細書は特許法旧第36条第4項に適合するというべきであるから、これに反する請求人の主張は理由がないというべきである。そして、本件訂正発明2?3は、いずれも本件訂正発明1を引用したものであるから、本件訂正発明1と同様に特許法旧第36条第4項に適合しないとする請求人の主張にも理由がないことになる。

第7 むすび
以上によれば、請求人の主張する理由によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
絶縁被覆電気導体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル中に溶接箇所が設けられているコイルに使用される多層絶縁被覆金属導体において、前記多層絶縁被覆金属導体の多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなり、前記多層絶縁被覆層が金属導体に設けられ、該金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であることを特徴とする被覆金属導体。
【請求項2】
前記多層絶縁被覆金属導体の絶縁被覆層の最下層としてポリアミドイミド樹脂からなる絶縁被覆層を有することを特徴とする請求項1記載の被覆金属導体。
【請求項3】
金属導体の横断面が円以外の形状を有する請求項1または2記載の被覆金属導体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、モーターや発電機などのコイルを構成するために好適な、コイル中の回路に溶接箇所を設けることにより回路を形成するような場合の溶接熱にも耐えられる絶縁被覆電気導体に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気絶縁物で被覆された導体は各種の電気機器に組み込まれ、コイルの用途に大量に使用されている。それはモーターや発電機に代表される電気機器に特に多く使用されている。導体断面が丸形状以外の形状の巻線は、その被覆材料にガラスや紙などの絶縁物を横巻きしたものが旧来使用されてきた。これは、非常に信頼性を要求される機器、たとえば、発電所用の発電機のコイル、変圧器のコイルや車両用の駆動モーターなどの用途に使用されていたものである。
近年、これらの機器より小型の機器にも導体が丸形状以外の巻線、おおむね平角形状のものが使用されるようになってきた。これらの小型機器でもコイルの形状において高性能化が進められ、コイル作成方法も、従来からの巻線と呼ばれていた電線を円周上に巻回してコイルを作成する方法ではなく、コイルの形状に合致した断面形状を持つ被覆導体をつなぎ合わせてコイルを形成する方法が取られるようになった。この小型機器での丸形状以外の導体の巻線を使用することは、コイルのコアとの空隙がなくなり、磁界ロスが少なくなり結果として性能向上となることと、小型機器に使用されるコイルがさらに小型化できることにより進展しているものである。導体を丸以外の形状とすることは、コイル状の回路形成に際して電線を直接長いまま巻回することが困難となるため、短い導体を該コイルの部分形状に形成した後、導体同士を溶接して全体の回路を形成する手法が行われるようになった。
これらのコイルを形成するためには、導体同士の接続が必要となる。導体を接続するために従来は半田付けが行われていた部分に、ヒュージング(圧力をかけながら電気溶接をする)やTIG溶接などの電気溶接方法がとられるようになってきた。これは、従来使用されてきた半田付けでは、半田に含有する鉛などが製品を廃棄する際に環境に与える影響が大きいことと、半田付け部分が機器の振動に対して信頼性が低いことから、現在使用されている導体(銅など)同等のものを接続材料として使用することが要求されるようになったことに由来している。
【0003】
従来、丸エナメル線に使用される被覆材料はポリエステルなどの各種樹脂が使用されてきた。しかしながら、ヒュージングやTIG溶接では、導体に直接熱を加えて導体を溶解し、導体同士を接続することから、接続部分の近傍の絶縁被覆はきわめて高い温度となるため大きな熱劣化を受けることとなる。たとえば、通常の溶接で銅同士を接続するためには、銅の温度を銅の融点以上とする必要があり、そのためにはおよそ1100℃以上に導体温度が上昇する。導体温度の上昇は、その近傍の絶縁被覆の熱劣化を生じさせ、さらに被覆材料中の低分子量成分が熱により蒸発し、被覆に膨れ(発泡)を生じさせることとなり近傍の被覆材料の電気特性が低下することがある。このように溶接の熱が被覆に影響を与えることは周知であるが、この影響を少なくすることは、電気機器の信頼性向上のためにも必要である。溶接部分の導体温度が1100℃となった場合、絶縁性能が必要である皮膜が受ける熱は、溶接部分から10mmの距離でおよそ600℃となる。また、このような被覆の膨れは、従来から使用されているポリアミドイミド樹脂単体では回避することができなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、モーターや発電機などのコイルを構成するために好適な、コイル中の回路に溶接箇所を設けることにより回路を形成するような場合の溶接熱にも耐えられる被覆電気導体を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、被覆電気導体の被覆の材質に注目し、溶接時の熱にも耐えられ、さらに被覆の膨れなどの異常が生じない被膜構成を見いだした。
この溶接時の熱に耐えうる被膜構成に関して発明者らは、溶接時の熱が瞬間的にかかることに着目し、その被膜の耐熱性(瞬間耐熱性)の検証を実施した。被膜の瞬間耐熱性は、導体の溶接時に導体側から伝導すること、導体側に形成されている被覆材料が最も熱劣化を受けやすいこと、導体側の被覆材料から発生する分解ガスが被覆全体にボイドやブリスター(微細な発泡)を生じさせることを確認した。このため、ボイドなどの発生に対抗するために、被覆が加熱されても軟化しない材料を被覆の一部として使用する事を検討し、被覆の一部に特定の材料(ポリイミドやポリエステルイミド、H種ポリエステル樹脂)を使用することで本発明の目的を達成することを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)部分形状に形成された導体同士が溶接されて回路を形成するコイル中に溶接箇所が設けられているコイルに使用される多層絶縁被覆金属導体において、前記多層絶縁被覆金属導体の多層絶縁被覆層の最上層がポリアミドイミド樹脂であって、最上層に接触する下層で最下層でない絶縁被覆層が、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなり、前記多層絶縁被覆層が金属導体に設けられ、該金属導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であることを特徴とする被覆金属導体、
(2)前記多層絶縁被覆金属導体の絶縁被覆層の最下層としてポリアミドイミド樹脂からなる絶縁被覆層を有することを特徴とする(1)項記載の被覆金属導体、及び
(3)金属導体の横断面が円以外の形状を有する(1)または(2)項記載の被覆金属導体を提供するものである。
本発明における作用が奏される理由については明確ではないが、ポリイミド樹脂は高温時でも室温時に比べ弾性率の低下が少なく、ポリエステルイミド樹脂やH種ポリエステル樹脂は、初期弾性率が高く、また高温時でも軟化しないことによるものと考えられる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において被覆層の一部を形成するために用いられるポリイミド樹脂は、特に制限はなく全芳香族ポリイミド及び熱硬化性芳香族ポリイミドなど周知のポリイミド樹脂を用いることができる。例えば、市販品(東レ・デュポン社製 商品名 #3000など)を用いるか、常法により、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン類を極性溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸溶液を用い、被覆を形成する際の焼き付け時の加熱処理によってイミド化させることによって得られるものを用いることができる。
また、ポリエステルイミド樹脂は、ポリイミドの主鎖中にエステル結合を導入して得られる周知のものを用いることができる。市販品としては、例えば、Isomid40SH(日触スケネクタディ(株)製 商品名)が挙げられる。
本発明のうち、H種ポリエステル樹脂は、芳香族ポリエステルのうちフェノール樹脂などを添加することによって樹脂を変性させたもので、耐熱クラスがH種であるものを言う。市販のH種ポリエステル樹脂としては、Isonel200(米スケネクタディインターナショナル社製 商品名)等を挙げることができる。
【0008】
また、最上層を形成するポリアミドイミド樹脂、あるいは最下層を形成するのに用いることができるポリアミドイミド樹脂は、市販品(例えば、日立化成(株)社製 商品名HI406など)を用いるか、常法により、例えば極性溶媒中でトリカルボン酸無水物とジイソシアネート類を直接反応させて得たもの、あるいは、極性溶媒中でトリカルボン酸無水物にジアミン類を先に反応させて、まずイミド結合を導入し、ついでジイソシアネート類でアミド化して得たものを用いることができる。ポリアミドイミド樹脂は、他の樹脂に比べ熱伝導率が低く、絶縁破壊電圧が高く、焼付け硬化が可能なものである。
【0009】
本発明の被覆金属導体においては、上記のように絶縁被覆層の最上層に前記ポリアミドイミド樹脂を使用する。ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種である絶縁被覆層に接触する最上層にポリアミドイミド樹脂を使用することにより、強い曲げ加工を受けた場合でも、クレージングや皮膜の割れといった皮膜の伸び率に起因する不具合を解消できる。
【0010】
また本発明導体の被覆の最上層を形成する樹脂には、常法によりワックスや潤滑剤を分散、混合して自己潤滑樹脂として最上層の被覆として使用することもできる。これに使用されるワックスとしては、通常用いられるものを特に制限なく使用することができ、例えば、ポリエチレンワックス、石油ワックス、パラフィンワックス等の合成ワックスおよびカルナバワックス、キャデリラワックス、ライスワックス等の天然ワックス等が挙げられる。潤滑剤についても特に制限はなく、例えば、シリコーン、シリコーンマクロモノマー、フッ素樹脂等を用いることができる。なお、本発明の被覆電気導体において、被覆の各樹脂層を形成するための樹脂の形成方法には特に制限はなく、公知の各種の方法によって行うことができる。
【0011】
また、絶縁被覆電気導体において、絶縁被覆層の最下層をポリアミドイミド樹脂とし、さらにその他の樹脂層を介するかまたは直接にポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、およびH種ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする被覆金属導体とすることにより、モーターや変圧器トランスなどで、使用されるときに導体側から伝導する熱に対して、該絶縁皮膜が熱劣化を起こしにくいという作用がある。
樹脂被覆用ワニスは導体上に塗布焼き付けを行い、該被覆電気導体を得ることができる。
【0012】
導体は酸素含有量が15ppm以下の低酸素銅または無酸素銅である。酸素含有量が15ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
また、導体はその横断面が所望の形状のものを使用できるが、円以外の形状を有するものを使用するのが好ましく、特に平角形状のものが好ましい。
【0013】
導体上にこれらの樹脂ワニスを塗布する方法は常法でよく、たとえば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法や、もし導体断面形状が四角形であるならば、井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いることができる。これらの樹脂ワニスを塗布した導体はやはり常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼き付け条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400?500℃にて通過時間を30?90秒に設定することにより達成することができる。
本発明において前記のポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂およびH種ポリエステル樹脂の少なくとも1種からなる層の厚さは、特に制限はないが、好ましくは4?35μm、より好ましくは5?18μmである。また、ポリアミドイミド樹脂層の厚さは、全体で、好ましくは10?40μm、より好ましくは10?35μmである。
被覆する皮膜の全体の厚さは、15?55μm程度であるが、好ましくは25?50μmである。
【0014】
【実施例】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお実施例および比較例の被覆樹脂の構成などは表1および表2にまとめて示した。また、このようにして得られた樹脂被覆導体についての評価試験結果を表3?表5に示した。
[実施例1]
1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)に、下層から、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)、ポリイミド樹脂(PI)(東レデュポン(株)製 商品名 #3000)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)の順に皮膜を形成し、その全体の皮膜厚さを45μmとした。それぞれの被膜厚さについては表1に記載のとおりである。皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼付炉にて450℃でおよそ15秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表3に示した。
[実施例2、3]
使用樹脂は実施例1と同等にし、また樹脂被覆の焼き付けの条件も同一とした。ただし、それぞれの皮膜厚さについては、表1に記載のとおり変更した。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表3に示した。
[比較例1]
1.8×2.5mmで四隅のr=0.5mmの平角導体(実施例1と同質の銅)に、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)の皮膜を形成し、その全体の皮膜厚さを45μmとした。皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼き付け炉にて450℃でおよそ15秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表3に示した。
【0015】
【表1】

【0016】
[参考例1]
2.0×3.0mmで四隅のr=0.8mmの平角導体(酸素含有量20ppmの銅)に、下層から、H種ポリエステル樹脂(HPE)Isonel200(米スケネクタディインターナショナル社製 商品名)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)の順に皮膜を形成し、その全体の皮膜厚さを50μmとした。皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼き付け炉にて450℃でおよそ20秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表4に示した。
[参考例2]
使用樹脂は参考例1と同等にし、また樹脂被覆の焼き付けの条件も同一とした。ただし、それぞれの被覆厚さについては、表2に記載のとおり変更した。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表4に示した。
[比較例2]
2.0×3.0mmで四隅のr=0.8mmの平角導体(参考例1と同質の銅)に、H種ポリエステル樹脂(HPE)Isonel200(米スケネクタディインターナショナル社製 商品名)の皮膜を形成し、皮膜厚さを50μmとした。皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼き付け炉にて450℃でおよそ20秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表4に示した。
【0017】
[実施例4]
1.5×2.4mmで四隅のr=0.6mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)に、下層から、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)、ポリエステルイミド樹脂(PEI)Isomid40SH(日触スケネクタディ(株)製 商品名)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)の順に皮膜を形成し3層構造とし、その全体の皮膜厚さを35μmとした。皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼き付け炉にて450℃でおよそ20秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表5に示した。
[参考例3]
1.5×2.4mmで四隅のr=0.6mmの平角導体(実施例4と同質の銅)に、下層から、ポリエステルイミド樹脂(PEI)Isomid40SH(日触スケネクタディ(株)製 商品名)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(日立化成(株)製 商品名 HI406)の順に皮膜を形成し、その全体の皮膜厚さを35μmとした。皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼き付け炉にて450℃でおよそ20秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった。この樹脂被覆導体ついて、評価試験を行った結果を表5に示した。
[比較例3]
5×2.4mmで四隅のr=0.6mmの平角導体(実施例4と同質の銅)に、ポリエステルイミド樹脂(PEI)Isomid40SH(日触スケネクタディ(株)製 商品名)の皮膜を形成し、その全体の皮膜厚さを35μmとした。皮膜の形成に際しては導体の形状と相似形のダイスを複数個使用して、炉長8mの焼き付け炉にて450℃でおよそ20秒の焼き付け時間にて複数回焼き付けをおこなった。この樹脂被覆導体について、評価試験を行った結果を表5に示した。
【0018】
【表2】

【0019】
評価の方法
曲げ(エッジワイズ曲げ)
被覆導体のエッジ面方向に180°に曲げを行う(エッジワイズ曲げ)。曲げ半径は導体の幅方向の寸法と同等にした(1w曲げ)。この曲げを行ったのち、JIS C3003規定のピンホール試験を実施し、ピンホールの発生を調査した。「良」は曲げを行ったとき皮膜割れが見られず、ピンホールの発生もないことを意味している。
瞬間耐熱性(ヒュージング)
被覆導体のフラット面を直交させ、その交差部分の上下を電極で挟み、表記載の電流条件にて溶接を行った場合の溶接直近の被覆の荒れを調査した。「良」はボイドや焼けがないことを意味している。
瞬間耐熱性(TIG溶接)
被覆導体2本の端末を5mmだけ被覆を剥離し、それぞれを平行に剥離面がエッジ面で接触するように固定したものの突き合わせ面をTIG溶接した。条件は表による。この場合の溶接面部分直近の皮膜の荒れを調査した。「良」は、ボイドや焼けがないことを意味している。
絶縁破壊電圧
JIS C3003記載の金属箔法を用いて実施した。表にはn=5の平均値を示した。
また、230℃の恒温槽に5日間静置したサンプルについても実施した。
【0020】
【表3】

【0021】
【表4】

【0022】
【表5】

【0023】
【発明の効果】
本発明の被覆金属導体は良好な瞬間耐熱性を有し、過酷なコイル製造工程で高温度の熱がかかる導体の溶接などの加工に対しても皮膜にボイドやブリスターを生起することがなく、健全性が維持されるため、絶縁電線が劣化してしまうことがない。また、本被覆金属導体を使用する場合には、導体側から伝導する熱に対しても絶縁皮膜が熱劣化を起こしにくく、信頼性の高いコイルを提供することができるようになる。このことはコイルを用いる機器全体の性能を高くし、機器に対する信頼性を高めることに寄与するという優れた効果を奏するものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2000-304211(P2000-304211)
審決分類 P 1 113・ 537- YA (H01B)
P 1 113・ 536- YA (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山内 達人  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 青木 千歌子
吉水 純子
登録日 2007-12-21 
登録番号 特許第4057230号(P4057230)
発明の名称 絶縁被覆電気導体  
代理人 星野 宏和  
代理人 飯田 敏三  
代理人 飯田 敏三  
代理人 平田 忠雄  
代理人 今 智司  
代理人 平田 忠雄  
代理人 星野 宏和  
代理人 宮前 尚祐  
代理人 宮前 尚祐  
代理人 今 智司  

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