• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1218564
審判番号 不服2009-18321  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-29 
確定日 2010-06-18 
事件の表示 特願2006-118280号「減速装置の連結構造」拒絶査定不服審判事件〔平成18年8月31日出願公開、特開2006-226533号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成12年5月18日に出願した特願2000-146609号の一部を平成18年4月21日に新たな特許出願としたものであって、平成21年6月22日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年9月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成21年9月29日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年9月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成21年9月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
入力軸に対して一体となって回転する太陽歯車、該太陽歯車の周囲に配置されて該太陽歯車と外接噛合する遊星歯車、自身が固定されて前記遊星歯車と内接噛合する内歯歯車、及び前記遊星歯車の公転成分を取り出すキャリアを備える単純遊星歯車構造の遊星減速機と、
該遊星減速機の前記キャリアに連結されてその回転動力が入力される伝達軸、該伝達軸に同軸的に設けられる入側傘歯車、及び該入側傘歯車と噛合する出側傘歯車を備える直交伝達構造の直交減速機と、
を備える減速装置における前記遊星減速機及び前記直交減速機の連結構造において、自身の両端に形成される入側及び出側連結面によって、前記遊星減速機の伝達容量に対応した取付面寸法を有する前記遊星減速機の出力側取付面と、前記直交減速機の伝達容量に対応しかつ前記遊星減速機の出力側取付面とは異なる取付面寸法を有する前記直交減速機の入力側取付面とを連結可能な筒状の継フランジを、該遊星減速機と該直交減速機との間に介在させると共に、前記継フランジの内周に、前記入側傘歯車に同軸的に設けられる前記伝達軸、及び該伝達軸に連結される前記キャリアを回転自在に配設した
ことを特徴とする減速装置の連結構造。」と補正された。(なお、下線は補正箇所に関して審判請求人が付したものである。)

上記補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「筒状の継フランジ」について、「前記遊星減速機の出力側取付面と前記直交減速機の入力側取付面とを連結可能」とされていたのを、「前記遊星減速機の伝達容量に対応した取付面寸法を有する前記遊星減速機の出力側取付面と、前記直交減速機の伝達容量に対応しかつ前記遊星減速機の出力側取付面とは異なる取付面寸法を有する前記直交減速機の入力側取付面とを連結可能」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例とその記載事項
引用例1:特開2000-110895号(以下、「引用例1」という。)
引用例2:国際公開第98/11651号(以下、「引用例2」という。)

2-1.引用例1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例1には、「減速機シリーズ」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(あ)「【0013】図1は実施形態の減速機シリーズの全体像を示す構成図である。この減速機シリーズは、出力機構部Sの選択群と変速機構部Hの選択群と入力機構部Nの選択群とからなる。このシリーズでは、相手機械に合せられるよう容量あるいはトルク(具体的には大きさ)に応じて何種類かの「枠番」が設定されており、各枠番毎に夫々本発明が適用できるようになっている。即ち、各枠番の選択群から各1個ずつ選択した出力機構部Sと変速機構部Hと入力機構部Nとをこの順に連結することにより、相手機械に対する取合寸法が同一(枠番が同一)という条件の下で複数の変速比を選択可能とした1台の減速装置を構成することができるようになっている。従って、ユーザーは、目的に応じたトルク(容量)、大きさ、あるいは回転速度を有する減速装置をシリーズの中から選ぶことができる。」
(い)「【0022】そして、各出力機構部S11、S21、S31と変速機構部H11、H21については、互いのインロー部(芯合わせのための嵌合部)寸法A及び取付ボルトピッチ径Bが統一され、選択した任意のもの同士を組合せることができるようになっている。また、各変速機構部H11、H21と入力機構部N11、N21についても、互いのインロー部寸法C及び取付ボルトピッチ径Bが統一され、選択した任意のもの同士を組合せることができるようになっている。」
(う)「【0026】図4は直交軸タイプS2の出力機構部S21と、単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21と、モータ直結タイプN1の入力機構部N11とを組み合わせて構成したギヤドモータの構造例を示している。図5は図4のV -V 矢視断面図である。」
(え)「【0032】次に、図4に示す直交軸タイプの出力機構部S21は、入力軸線Lと直交するよう配置された出力軸21を有している。この場合、出力軸21はホローシャフト(中空軸)よりなる。この出力機構部S21では、ギヤボックス22の一側部に入力軸23を軸受24a、24bにより回転自在に配置すると共に、ギヤボックス22を貫通すると共に入力軸23と直交するように出力軸21を回転自在に配置し、入力軸23に設けたベベルピニオン26と、出力軸21に設けたベベルギヤ27とを噛み合わせた構成にしている。
【0033】入力軸23の基端側には動力入力側としてのフランジ25が設けられ、該フランジ25には、入力軸線Lを中心とする円周上に一定ピッチで複数のピン100が固定されている。これらのピン100は、前述したインラインタイプの出力機構部S11の場合と全く同じ役目をするものであり、その数、外径、及び中心からの位置が夫々同一とされている。
【0034】また、ギヤボックス22の端部には、組合せ相手である変速機構部(図4の例では変速機構部H21)との連結用のフランジ29が設けられ、該フランジ29には、変速機構部側のインロー部(図4の例ではインロー部77a)と嵌まり合うインロー部29a(寸法A)と、連結のための取付ボルト101の通し孔29b(ピッチ径B)が設けられている。」
(お)「【0048】この単純遊星歯車構造は、入力軸としてのモータ出力軸M1に結合された太陽歯車71と、該太陽歯車71と外接噛合する3つの遊星歯車72と、該遊星歯車71が内接噛合するケーシングを兼ねた内歯歯車77と、遊星歯車72をニードルベアリング73を介して回転自在に保持するピン100(この場合、保持ピンとして機能)とからなる。なお、ここでは、太陽歯車71、遊星歯車72、内歯歯車77はいずれも騒音低減のためにヘリカルギヤで構成されている。
【0049】また、ケーシングを兼ねる前記内歯歯車77の端面には、出力機構部S21(別のタイプの出力機構部でも可)側との芯合わせのためのインロー部77a(寸法A)が設けられている。そして、出力機構部S21と変速機構部H21とモータ直結タイプの入力機構部N11とを合体し、取付ボルト101で締め付けることにより、図4に示すギヤドモータが構成されている。
【0050】このようにして構成した単純遊星歯車構造を内蔵するギヤドモータでは、入力軸であるモータ出力軸M1が1回転すると、太陽歯車71が回転する。太陽歯車71が回転すると、遊星歯車72が内歯歯車77に内接しながら太陽歯車71の外周を公転する。遊星歯車72はピン100に支持されており、このピン100の太陽歯車71に対する公転が、フランジ25から出力機構部S21の入力軸23に伝達される。そして、入力軸23に伝達された減速回転が、ベベルギヤピニオン26、ベベルギヤ27を介して直角方向に変換され出力軸21に伝達される。」
(か)「【0057】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、シリーズの部品の種類を極力少なくした上で、相手機械に適した設計を容易になすことができる。特に、出力機構部の選択群の中に、インラインタイプの他に直交軸タイプと平行軸タイプとを入れたので、相手機械の取付態様に柔軟に対応することができるし、ホローシャフト化の要請にも応えることができる。また、変速機構部の選択群の中に、揺動内接噛合歯車構造タイプと単純遊星歯車構造タイプを入れてあるので、1/3?1/100の範囲内の変速比をも十分にカバーすることができる。」
(き)上記記載事項(え)及び図4に示されている態様から、直交軸タイプS2の出力機構部S21において、そのギヤボックス22の一側部は筒状に変速機構部H21側に突き出している部分(以下、「ギヤボックス22一側部の筒状連結部」という。)を有しており、該ギヤボックス22一側部の筒状連結部の端部にフランジ部29が形成されているとともに、該ギヤボックス22一側部の筒状連結部の内周に、ベベルピニオン26に同軸的に設けられている入力軸23、入力軸23のフランジ25、及びピン100が軸受24a,24bにより回転自在に配置されていることが看取される。

上記記載事項及び図面(特に、図4)の記載を総合すると、引用例1には、

「入力軸としてのモータ出力軸M1に結合された太陽歯車71と、該太陽歯車71と外接噛合する3つの遊星歯車72と、該遊星歯車72が内接噛合するケーシングを兼ねた内歯歯車77と、遊星歯車72をニードルベアリング73を介して回転自在に保持するピン100とからなる単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21と、
前記ピン100が固定されるフランジ25を備えた入力軸23、該入力軸23に設けたベベルピニオン26と、出力軸21に設けたベベルギヤ27とを噛み合わせた構成の直交軸タイプS2の出力機構部S21と、
を備える減速機における前記単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21及び直交軸タイプS2の出力機構部S21との連結構造において、直交軸タイプS2の出力機構部S21は、その端部に変速機構部H21と取付ボルト101で連結されるフランジ29が形成されているギヤボックス22一側部の筒状連結部を、前記単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21と直交軸タイプS2の出力機構部S21との間に有するとともに、該ギヤボックス22一側部の筒状連結部の内周に、ベベルピニオン26に同軸的に設けられている入力軸23、入力軸23のフランジ25、及びフランジ25に固定されたピン100が回転自在に配置されている
減速機の連結構造。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。

2-2.引用例2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例2には、「Adaptersystem(アダプタ装置)」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。なお、引用例2の記載事項の摘記にあたっては、その翻訳文として引用例2の公表公報である特表2001-501433号公報の記載を援用した。また、ウムラウト、エスツェットは表記できないので適宜代用表記した。

(く)「Die Erfindung betrifft・・・中略・・・gewahrleistet.」(第1頁第2行?第2頁第2行)
(翻訳文)「本発明は、駆動される装置特に歯車装置のピニオンにモータのメインシャフトを連結するためのアダプタ装置に関する。
動力工学の分野では、遂行すべき仕事が多様なので、特に可変の装置を設計することが重要である。一方では、種々の構造のモータ、特に電気モータの使用を可能にすべきであり、他方では、このような電気モータにより、種々異なる型式の駆動装置、例えば対応する(種々の)駆動ピニオンを備えたすべての種類の歯車装置を駆動できるようにすべきである。部品を一緒に組み付けることに関する問題点を実質上無くすようにモータ及び歯車装置が同じ製造者により提供される場合でさえ、部品の製造及び保管についての労力及び費用は決してばかにならない。これは、異なる方法で設置又は装着される異なるモータを種々の寸法を有する歯車装置に(又は歯車装置をモータに)適合させねばならないという事実から明白である。
本発明の目的は、簡単な手段により高い作動信頼性での種々の組み合わせを可能にするようにした、駆動される装置特に歯車装置のピニオンに(電気)モータのメインシャフトを連結するためのアダプタ装置を開示することである。」(公表公報の明細書第6頁第4?18行)
(け)「Beim erfindungsgemasen Adaptersystem・・・中略・・・aufweisen.」(第10頁第19行?第11頁第5行)
(翻訳文)「本発明に係るアダプタ装置においては、上述のように、種々の形の第1及び第2のフランジ23、24及びアダプタシャフト10を備える異なるハウジング半部分を設けることができる。この例を第7図ないし第9図に示す。
第7、8、9図に示すように、3つのすべての実施の形態において、アダプタフランジ23は(歯車装置への)装着のために同じ寸法を有する第1のハウジング半部分25上に設けられる。3つの実施の形態は種々のピニオンを配置できるアダプタシャフト10のピニオン取り付け部11に関して異なり、アダプタを同じ歯車ハウジングに取り付けることができるが、伝達比の異なる歯車装置に連結できるように、ピニオンのボア直径を冠歯車の歯底直径に適合させる。
第2のハウジング半部分26上の第2のフランジ24も、フランジ上への電気モータのシャフト10及びカップリング素子40の装着の仕方により、3つの実施の形態において異なる。第7-9図の例示的な実施の形態においては、対応した異なるシャフト直径を有する異なるパワーのモータが歯車装置に取り付けられ、各歯車装置は同じ種類のハウジング内に収容されるが、異なるピニオン直径を有する。」(公表公報の明細書第12頁第20行?第13頁第6行)

3.発明の対比
本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「入力軸としてのモータ出力軸M1に結合された太陽歯車71と、該太陽歯車71と外接噛合する3つの遊星歯車72と、該遊星歯車72が内接噛合するケーシングを兼ねた内歯歯車77と、遊星歯車72をニードルベアリング73を介して回転自在に保持するピン100とからなる」「単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21」は、その機能および技術常識などからみて実質的に、本願補正発明の「入力軸に対して一体となって回転する太陽歯車、該太陽歯車の周囲に配置されて該太陽歯車と外接噛合する遊星歯車、自身が固定されて前記遊星歯車と内接噛合する内歯歯車、及び前記遊星歯車の公転成分を取り出すキャリアを備える」「単純遊星歯車構造の遊星減速機」に相当し、以下同様に、「前記ピン100が固定されるフランジ25を備えた入力軸23、該入力軸23に設けたベベルピニオン26と、出力軸21に設けたベベルギヤ27とを噛み合わせた構成の」「直交軸タイプS2の出力機構部S21」は「該遊星減速機の前記キャリアに連結されてその回転動力が入力される伝達軸、該伝達軸に同軸的に設けられる入側傘歯車、及び該入側傘歯車と噛合する出側傘歯車を備える」「直交伝達構造の直交減速機」に、「減速機」は「減速装置」に、「ベベルピニオン26」は「入側傘歯車」に、「入力軸23」は「伝達軸」に、「ピン100(及び、入力軸23のフランジ25)」は「キャリア」に、それぞれ相当する。
また、引用例1発明の「ギヤボックス22一側部の筒状連結部」と本願補正発明の「筒状の継フランジ」とは「筒状の連結部分」である限りでは共通しているから、引用例1発明の「直交軸タイプS2の出力機構部S21は、その端部に変速機構部H21と取付ボルト101で連結されるフランジ29が形成されているギヤボックス22一側部の筒状連結部を、前記単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21と直交軸タイプS2の出力機構部S21との間に有するとともに、該ギヤボックス22一側部の筒状連結部の内周に、ベベルピニオン26に同軸的に設けられている入力軸23、入力軸23のフランジ25、及びフランジ25に固定されたピン100が回転自在に配置されている」との事項と本願補正発明の「自身の両端に形成される入側及び出側連結面によって、前記遊星減速機の伝達容量に対応した取付面寸法を有する前記遊星減速機の出力側取付面と、前記直交減速機の伝達容量に対応しかつ前記遊星減速機の出力側取付面とは異なる取付面寸法を有する前記直交減速機の入力側取付面とを連結可能な筒状の継フランジを、該遊星減速機と該直交減速機との間に介在させると共に、前記継フランジの内周に、前記入側傘歯車に同軸的に設けられる前記伝達軸、及び該伝達軸に連結される前記キャリアを回転自在に配設した」との事項は、少なくとも、「筒状の連結部分を、該遊星減速機と該直交減速機との間に有すると共に、前記筒状の連結部分の内周に、前記入側傘歯車に同軸的に設けられる前記伝達軸、及び該伝達軸に連結される前記キャリアを回転自在に配設した」点では共通しているといえる。

[一致点]
よって、本願補正発明と引用例1発明とは、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、

「入力軸に対して一体となって回転する太陽歯車、該太陽歯車の周囲に配置されて該太陽歯車と外接噛合する遊星歯車、自身が固定されて前記遊星歯車と内接噛合する内歯歯車、及び前記遊星歯車の公転成分を取り出すキャリアを備える単純遊星歯車構造の遊星減速機と、
該遊星減速機の前記キャリアに連結されてその回転動力が入力される伝達軸、該伝達軸に同軸的に設けられる入側傘歯車、及び該入側傘歯車と噛合する出側傘歯車を備える直交伝達構造の直交減速機と、
を備える減速装置における前記遊星減速機及び前記直交減速機の連結構造において、筒状の連結部分を、該遊星減速機と該直交減速機との間に有すると共に、前記筒状の連結部分の内周に、前記入側傘歯車に同軸的に設けられる前記伝達軸、及び該伝達軸に連結される前記キャリアを回転自在に配設した
減速装置の連結構造。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
遊星減速機と該直交減速機との間にある「筒状の連結部分」が、本願補正発明では、遊星減速機と直交減速機との間に「介在」されている、「自身の両端に形成される入側及び出側連結面によって、前記遊星減速機の伝達容量に対応した取付面寸法を有する前記遊星減速機の出力側取付面と、前記直交減速機の伝達容量に対応しかつ前記遊星減速機の出力側取付面とは異なる取付面寸法を有する前記直交減速機の入力側取付面とを連結可能な筒状の継フランジ」であるのに対し、引用例1発明では、単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21と直交軸タイプS2の出力機構部S21との間にあるギヤボックス22一側部の筒状連結部であって、上記のような「継フランジ」ではない点。

4.当審の判断
4-1.相違点の検討
一般的に、部品同士を連結してユニット化する際に、その連結部を何れか一方の部品と一体とすることも別部材とすることも従来から慣用されていることであるとともに、種々の異なる大きさの部品同士を適宜な連結部を介して連結可能とすることも従来から慣用されていることであるから、引用例1発明において、単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21と直交軸タイプS2の出力機構部S21とを連結してユニット化する際に、その連結部である「筒状連結部」を「ギヤボックス22」と一体又は別部材とするか、及び、連結部によって種々の異なる大きさの機構部同士を連結可能とするかは、当業者が適宜選択する設計的事項であるといえるところであるが、さらに、モータや変速機等の複数の部品がユニット化されている動力伝達機構の分野においても、連結部を部品とは別部材とすること即ち両端に連結面を有する継フランジで部品同士を連結することは、例えば、上記引用例2のFig.7?9における「第1及び第2のフランジ23,24」や、特開平5-300695号公報の「歯車側フランジ部34a」と「モータ取付け板34b」とで構成される「入力軸箱34」にみられるように従来周知の技術であるとともに、種々の異なる大きさの部品同士を連結可能とするために、継フランジの両端の連結面の寸法を適宜大きく又は小さく設計することも、例えば、上記引用例2の記載事項(く)(け)及びFig.7?9や、上記特開平5-300695号公報の段落【0021】【0022】及び図1?3に見られるように従来周知の技術である。
してみると、引用例1発明について同一技術分野に属する上記従来周知の技術を考慮すれば、単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21と直交軸タイプS2の出力機構部S21とを連結する際に、その連結部である「筒状連結部」を「ギヤボックス22」とは別部材即ち両端に連結面を有する筒状の継フランジとし、該継フランジの両端の連結面の寸法を、単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21及び直交軸タイプS2の出力機構部S21の(連結面の)大きさに対応した寸法に設計することは、当業者が容易になし得たものである。そして、その際に、単純遊星歯車構造タイプH2の変速機構部H21及び直交軸タイプS2の出力機構部S21としてどのような(伝達容量等の)大きさのものを選択するかは、動力伝達効率、剛性、作用する荷重等を考慮して適宜選択するものであり、連結される両機構部H21,S21の大きさに対応して、継フランジの両端の連結面の寸法が設計されるものである。
結局、引用例1発明、引用例2発明及び上記従来周知の技術に基づいて、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

また、本願補正発明が奏する作用効果は、引用例1発明、引用例2発明及び上記従来周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

4-2.まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2発明及び上記従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4-3.審判請求人の主張について
審判請求人は、審尋に対する平成22年2月19日付け回答書において、「審査官殿は、前述したように、『引用文献1(引用文献1は、本審決における「引用例1」に相当。以下同様。)には、出力機構部と変速機構部の取り合い寸法が統一されたシリーズである旨の記載はあるが、その前提・背景として、(取り合い寸法の同異とは無関係に)遊星減速機と直交減速機を連結した減速装置という発明を抽出することは可能である』と認定しています。しかし、この認定は、本願発明の内容を知った後に引用文献1を検討すれば、かかる発明を抽出できるという後知恵の認定であって、引用文献1の記載に基づいて、審査官殿が認定したような発明を抽出することは不可能であると思料します。・・・中略・・・つまり、『出力機構部と変速機構部の取付面寸法を同一にする』という構成は、引用文献1の発明に必須の構成要件であり、この構成があって始めて引用文献1の課題が解決されます。そして、『取付面寸法が異なる』という構成が、引用文献1の上記必須構成と干渉することは明らかであり、引用文献1の発明において『取付面寸法が異なる』という構成を採用すると、『部品種類を最小限に抑えながら、・・・』という引用文献1の課題が解決できなくなってしまいます。したがって、引用文献1をベースとして、『取付面寸法が異なる』場合を着想すること自体に阻害要因があります。以上のように、引用文献1の記載に基づいて抽出できるのは、『取付面寸法が同一の遊星減速機と直交減速機を連結した減速装置』という発明のみであって、『取付面寸法が異なる遊星減速機と直交減速機を連結する減速装置』という発明を抽出することは不可能です。・・・中略・・・ なお、審判請求書においても述べましたが、引用文献1の記載に基づいて、『取付面寸法が異なる遊星減速機と直交減速機を連結する減速装置』という発明を抽出できない点については、本願の親出願(特願2000-146609)の審判においても認められています(親出願における審尋回答書、審決参照)。」旨の主張をしている。
上記主張について検討する。
まず、原審審査官が前置報告書において、引用例1から「(取り合い寸法の同異とは無関係に)遊星減速機と直交減速機を連結した減速装置」という発明を抽出可能であるとしたことについては、「(取り合い寸法の同異とは無関係に)」との事項は括弧内に記載されていること及び文意からみて、引用例1から「遊星減速機と直交減速機を連結した減速装置」という発明が抽出可能であると解するのが相当であり、そのことが引用例1から認定できることは、上記2.及び3.に示したとおりである。また、該前置報告書においては、取り合い寸法(取付面の寸法)が異なる場合の連結(継フランジ)に関しては従来周知である旨も記載されているから、引用例1から「取付面寸法が異なる遊星減速機と直交減速機を連結する減速装置」という発明を直接的に抽出することが意図されていないことは明らかである。
次に、引用例1をベースとして、「取付面寸法が異なる」場合を着想すること自体に阻害要因がある旨の主張については、引用例1には「遊星減速機と直交減速機を連結した減速装置」の発明が記載されていること、及び、「この(減速機)シリーズでは、相手機械に合せられるよう容量あるいはトルク(具体的には大きさ)に応じて何種類かの「枠番」が設定されており」(上記記載事項(あ)を参照)とされ、減速機に容量あるいはトルクに応じた各種異なる大きさのものがあることが示唆されていること、並びに、同一技術分野において、種々の異なる大きさの部品同士を連結可能とするために、継フランジの両端の連結面の寸法を適宜大きく又は小さく設計することは従来周知の技術であること(上記4-1.参照)を考慮すれば、引用例1をベースとして、遊星減速機と直交減速機の大きさ(取付面寸法)が異なる場合の連結を着想することに格別の困難性があったとはいえない。
また、「取付面寸法が異なる遊星減速機と直交減速機を連結する減速装置」という発明を抽出できない点については、本願の親出願(特願2000-146609)の審判においても認められている旨の主張をしているが、本願とその親出願である特願2000-146609号とでは、その審判請求時における特許請求の範囲に記載された発明が異なるものであり、引用例1から「取付面寸法が異なる遊星減速機と直交減速機を連結する減速装置」という発明を抽出できないことを理由に特許すべきものとしたことはない。

さらに、審判請求人は、平成21年9月29日付け審判請求書の請求の理由において、「引用文献1?3(引用文献2は、本審決の「引用例2」に相当。以下、同様。)のいずれにも、遊星減速機と直交減速機の組合せの減速装置に特有の本願発明の課題や構成に関わる記載・示唆がないことを併せて考慮すれば、引用文献1?3に基づいて、本願発明が容易に想到できるはずがありません。」との主張をしている。
しかしながら、「相手機械や回転動力源などの仕様(要求)に柔軟に対応し、動力伝達効率を最適な状態に維持しながら装置全体の小型化を図った減速装置の連結構造を得る」との課題(本願の願書に最初に添付された明細書段落【0016】)は、遊星減速機と直交減速機の組合せの減速装置に特有の課題とは認められないだけでなく、上述したように、モータや変速機等の複数の部品がユニット化されている動力伝達機構の分野において、種々の異なる大きさの部品同士を連結可能とするために、継フランジの両端の連結面の寸法を適宜大きく又は小さく設計することが従来周知の技術であることからすれば、実質的に、従来から認識されている程度の課題にすぎないものであるから、上記の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について
1.本願発明
平成21年9月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、本願の願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
入力軸に対して一体となって回転する太陽歯車、該太陽歯車の周囲に配置されて該太陽歯車と外接噛合する遊星歯車、自身が固定されて前記遊星歯車と内接噛合する内歯歯車、及び前記遊星歯車の公転成分を取り出すキャリアを備える単純遊星歯車構造の遊星減速機と、
該遊星減速機の前記キャリアに連結されてその回転動力が入力される伝達軸、該伝達軸に同軸的に設けられる入側傘歯車、及び該入側傘歯車と噛合する出側傘歯車を備える直交伝達構造の直交減速機と、
を備える減速装置における前記遊星減速機及び前記直交減速機の連結構造において、
自身の両端に形成される入側及び出側連結面によって、前記遊星減速機の出力側取付面と前記直交減速機の入力側取付面とを連結可能な筒状の継フランジを、該遊星減速機と該直交減速機との間に介在させると共に、前記継フランジの内周に、前記入側傘歯車に同軸的に設けられる前記伝達軸、及び該伝達軸に連結される前記キャリアを回転自在に配設した
ことを特徴とする減速装置の連結構造。」

2.引用例とその記載事項
引用例1及び引用例2とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は実質的に、上記【2】で検討した本願補正発明の、「筒状の継フランジ」についての、「前記遊星減速機の伝達容量に対応した取付面寸法を有する前記遊星減速機の出力側取付面と、前記直交減速機の伝達容量に対応しかつ前記遊星減速機の出力側取付面とは異なる取付面寸法を有する前記直交減速機の入力側取付面とを連結可能」との事項を「前記遊星減速機の出力側取付面と前記直交減速機の入力側取付面とを連結可能」との事項に拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記【2】3.及び4.に記載したとおり、引用例1発明、引用例2発明及び上記従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1発明、引用例2発明及び上記従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用例1発明、引用例2発明及び上記従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-30 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-04-22 
出願番号 特願2006-118280(P2006-118280)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
P 1 8・ 575- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔鈴木 充  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 川上 溢喜
大山 健
発明の名称 減速装置の連結構造  
代理人 小島 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ