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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1218620
審判番号 不服2007-25261  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-13 
確定日 2010-06-17 
事件の表示 特願2002-309302「アンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月20日出願公開、特開2004-147040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年10月24日の出願であって、平成19年8月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月12日付けで審判請求時の手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年10月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の平成19年7月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「導体地板と、
前記導体地板から所定周波数でほぼ1/4波長の所定長さだけ離れた位置に設けられて、前記所定周波数で共振する励振ダイポールアンテナと、
前記導体地板上に立設されて、前記所定周波数で前記所定長さよりも短い長さを有する複数個の非励振モノポールアンテナとを備え、
前記励振ダイポールアンテナは、中央部に給電点を有し且つ前記導体地板に対してほぼ平行に配置され、
前記各非励振モノポールアンテナは、
前記励振ダイポールアンテナの延長方向に沿って離間配置されるとともに、
前記導体地板との接続側に設けられた給電端子と、
前記給電端子に装荷されたリアクタンス素子とを有し、
前記給電端子とは反対側の端部が前記励振ダイポールアンテナ側を向くように、前記導体地板上にほぼ垂直に設けられたことを特徴とするアンテナ装置。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「導体地板と、
前記導体地板から所定周波数で1/4波長の所定長さだけ離れた位置に設けられて、前記所定周波数で共振する励振ダイポールアンテナと、
前記導体地板上に立設されて、前記所定周波数で前記所定長さよりも短い長さを有する複数個の非励振モノポールアンテナとを備え、
前記励振ダイポールアンテナは、中央部に給電点を有し且つ前記導体地板に対してほぼ平行に配置され、
前記各非励振モノポールアンテナは、
前記励振ダイポールアンテナの延長方向に沿って離間配置されるとともに、
前記導体地板との接続側に設けられた給電端子と、
前記給電端子に装荷されたリアクタンス素子とを有し、
前記給電端子とは反対側の端部が前記励振ダイポールアンテナ側を向くように、前記導体地板上にほぼ垂直に設けられたアンテナ装置であって、
前記非励振モノポールアンテナは、前記励振ダイポールアンテナの給電点に対してE面カット面内での対称位置に配置された第1および第2の非励振モノポールアンテナからなり、
前記第1の非励振モノポールアンテナの電流励振係数をI1、前記励振ダイポールアンテナの電流励振係数をI2としたときに、複素平面上に表示される電流励振係数比I1/I2は、前記励振ダイポールアンテナのE面ビーム幅を規定するために、前記複素平面上で第1の円軌跡を描く領域の外側に設定されることを特徴とするアンテナ装置。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の「非励振モノポールアンテナ」の構成に「前記非励振モノポールアンテナは、前記励振ダイポールアンテナの給電点に対してE面カット面内での対称位置に配置された第1および第2の非励振モノポールアンテナからなり、前記第1の非励振モノポールアンテナの電流励振係数をI1、前記励振ダイポールアンテナの電流励振係数をI2としたときに、複素平面上に表示される電流励振係数比I1/I2は、前記励振ダイポールアンテナのE面ビーム幅を規定するために、前記複素平面上で第1の円軌跡を描く領域の外側に設定される」という構成を付加することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
A.原審の拒絶理由に引用された特開2002-185245号公報(以下、「引用例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「【請求項1】 導体地板から周波数f_(1)で略1/4波長離れた位置に設けられた周波数f_(1)で共振するダイポールと、上記ダイポールを給電する線路とを備えて構成された周波数f_(1)で動作する素子アンテナを、周波数f_(1)においてのビーム走査時にグレーティングローブの発生しない素子間隔で上記導体地板の一方の面上に複数配列して形成したアレーアンテナにおいて、上記素子アンテナの一つ以上の素子アンテナについて、素子アンテナから所定の距離隔てた位置に所定の長さの導体から成るポールを上記導体地板にほぼ垂直に上記導体地板の一方の面上に複数配置して設けたことを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項2】 上記ポールを配置する位置の上記導体地板に、上記周波数f_(1)での波長に対して開口径が小さく上記アレーアンテナのアレー素子パターンに影響しない大きさの凹状の窪みを設け、上記ポールを上記凹状の窪みの底部へ伸長し、上記ポールを所定の長さとしたことを特徴とする請求項1記載のアレーアンテナ。」(2頁1欄、請求項1、2)
ロ.「【0017】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の一形態を説明する。なお、ここで述べるアレーアンテナは広角ビーム走査特性を有するため、素子間隔は例えば略1/2波長程度に狭いものとする。
実施の形態1.図1(a)はこの発明の実施の形態1を示すアレーアンテナの構成図である。また、図1(b)は上記図1(a)中に示す点線A-Aでの断面図である。図1において、1は導体地板、2は周波数f1で動作するダイポール(素子アンテナ)であり、2aはダイポールの放射部、2bはダイポールの給電線路部である。一般に、ダイポールの放射部2aは導体地板1から周波数f_(1)で略1/4波長上方に設けられている。また、3は導体地板1上に略垂直に設置されたポールであり、ある特定の長さをもち、線状導体または導体面を有するものである。」(3頁4欄?4頁5欄、段落17)
ハ.「【0020】図2を用いてアレー素子パターンのビーム幅が広がる効果について示す。(a)の左図は3素子アレー6を示し、右図は3素子アレー6の中心素子を励振した場合のアレー素子パターン7を示す。便宜上、このときのビーム幅をBとする。ビーム幅Bは、励振ダイポール素子4に隣接する非励振ダイポール素子5上の特に給電線路部に分布する結合波に起因した誘起電流からの再放射の影響で励振ダイポール素子4の単体での放射パターンのビーム幅からは狭くなっている。次に、(b)の左図に示すようにある特定の長さを持つポール3は励振素子近傍に複数配列しており、励振ダイポール素子4からの結合波により誘起電流が分布する。これら誘起電流からの再放射パターンは右図のようなパターン形状となる。すなわち、ポール3上の誘起電流はモノポールモードであるのでアンテナ正面方向でナル点をもつ。また、励振ダイポール素子4の左右に配置するポール3上には互いに逆相の誘起電流が分布し、ポール3同士で配置位置の違いがありアレーファクタが生じるため複数のポール3上の誘起電流からの再放射パターンは、パターンの左右で位相は同相である。かつ、この再放射パターンは、励振ダイポール素子4の近傍に同相となるようにポール3を配置するためアレー素子パターン7とは略同相となる。ポール3からの再放射パターン8と3素子アレーでのアレー素子パターン7との畳重で構成されるアレーアンテナ9((c)左図)のアレー素子パターン10は(c)の右図となる。畳重される両放射パターンは互いに略同相であるので、アレー素子パターン10のビーム幅Cはアレー素子パターン7のビーム幅Bに対して広くなる。図1(a)に示すように、周波数f_(1)で動作するダイポール2全ての近傍にポール3を設けることで、全てのダイポール2のアレー素子パターンのビーム幅を広げることができる。図3にシミュレーションの一例を示す。ポールを設けることでビーム幅が広がる効果があるのがわかる。
【0021】以上のように、この実施の形態1によれば、周波数f_(1)で動作するダイポール2を素子アンテナとするアレーアンテナに、ある特定の長さをもつポール3を各ダイポール2の近傍に、導体地板1に対して略垂直に複数配置しているので、ポール3上に分布する誘起電流からの再放射の影響でアレー素子パターンのビーム幅を広げる効果がある。
【0022】なお、図1では、ポール3は規則正しく配列されているが、その必要性は必ずしもある訳ではない。このポール配置位置はビーム幅を制御する際のパラメータとなす。また、ポール3の長さは周波数f_(1)における波長に依存し、長さの変化によりビーム幅を微調することが可能である。さらに、ポール3とダイポールの給電線路部2bが平行になっている必要はなく、ポール3の傾きによってもビーム幅を微調することが可能である。」(4頁5欄?6欄、段落20?22)
ニ.「【0023】実施の形態2.前記実施の形態1では、特定の長さを持つ複数個のポールをアレーアンテナに設けていたが、この実施の形態2ではポールの配置のしかたを変えた場合のアレーアンテナについて説明する。図4はこの実施の形態2のアレーアンテナにおける断面図である。図4において、11は導体地板1のポール3を配置する位置に設けた凹状のくぼみである。
【0024】次に動作について説明する。アレーアンテナとしての動作、結合波に起因するポール3上に分布する誘起電流からの再放射の影響でアレー素子パターンのビーム幅が広がる動作については、前記実施の形態1で述べたことと同様であるため、ここでは省略する。
【0025】ところで、この実施の形態2では、導体地板1上のポール3配置位置に設けた凹状のくぼみ11によりポール3の上方への伸びを抑制しつつ所定の長さに伸長することができる。このため、ダイポールの放射部2aへの干渉や製作上の不都合なくアレーアンテナの動作周波数f_(1)で共振しやすい長さにポール3の長さを調節することが可能で、アレー素子パターンビーム幅を調節できる効果を有する。また、凹状のくぼみ11の開口径の大きさは周波数f_(1)の波長に対して十分に小さいとするので、このくぼみ11がアレー素子パターンに影響を及ぼすことはない。なお、凹状のくぼみ11は、導体地板1を窪ませてつくってもよく、または導体地板1をえぐって設けるなどしてもよい。」(4頁6欄?5頁7欄、段落23?25)
ホ.「【0028】さて、この実施の形態3では、図5(a)に示すようにジグザグに蛇行させたポール12aを配置している。このため、低姿勢のままポールの長さを適宜に伸長することができ、ポール上に分布する誘起電流の大きさを変えることが可能である。すなわち、低周波数においてビーム幅を広げる効果を低姿勢のポールで実現できる。また、図5(b)に示すメアンダ状に蛇行させたポール12b、(c)に示す螺旋状ポール12cを用いても同様の効果が得られる。」(5頁7欄、段落28)

上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記「周波数f_(1)」はアンテナが共振するいわゆる「所定周波数」であり、上記「略1/4波長」は「1/4波長の所定長さ」である。
またポールに関して上記「所定の長さの導体から成るポールを上記導体地板にほぼ垂直に上記導体地板の一方の面上に複数配置して設けた」構成における「所定の長さの導体から成るポール」は図2、図4及び段落25の記載から「前記所定周波数で前記所定長さよりも短い長さ」を有する「非励振モノポールアンテナ」であることは明らかであるから、前記ポールは「前記導体地板上に立設されて、前記所定周波数で前記所定長さよりも短い長さを有する複数個の非励振モノポールアンテナ」である。
また上記「ダイポールアンテナ」は図1及び段落17の記載によれば「中央部に給電点を有し且つ前記導体地板に対してほぼ平行に配置され」ている。 また前記「非励振モノポールアンテナ」は図面から明らかなように「前記励振ダイポールアンテナの延長方向に沿って離間配置される」とともに、「前記導体地板との接続側の所定長が前記導体地板の凹状のくぼみ内に配置される構成」とを有し、「前記接続側とは反対側の端部が前記励振ダイポールアンテナ側を向くように、前記導体地板上にほぼ垂直に設けられ」ている。
また前記「非励振モノポールアンテナ」は上記「ダイポールアンテナの延長方向」がいわゆる「E面カット面」であることを考慮すると「前記励振ダイポールアンテナの給電点に対してE面カット面内での対称位置に配置された第1および第2の非励振モノポールアンテナ」で構成されており、その導体地板上の長さを調整することにより「結合波に起因するポール上に分布する誘起電流からの再放射」を調整し結果として「パターンのビーム幅」を調整するものである。
また上記「アレーアンテナ」はいわゆる「アンテナ装置」である。
したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。
(引用発明)
「導体地板と、
前記導体地板から所定周波数で1/4波長の所定長さだけ離れた位置に設けられて、前記所定周波数で共振する励振ダイポールアンテナと、
前記導体地板上に立設されて、前記所定周波数で前記所定長さよりも短い長さを有する複数個の非励振モノポールアンテナとを備え、
前記励振ダイポールアンテナは、中央部に給電点を有し且つ前記導体地板に対してほぼ平行に配置され、
前記各非励振モノポールアンテナは、
前記励振ダイポールアンテナの延長方向に沿って離間配置されるとともに、
前記導体地板との接続側の所定長が前記導体地板の凹状のくぼみ内に配置される構成とを有し、
前記接続側とは反対側の端部が前記励振ダイポールアンテナ側を向くように、前記導体地板上にほぼ垂直に設けられたアンテナ装置であって、
前記非励振モノポールアンテナは、前記励振ダイポールアンテナの給電点に対してE面カット面内での対称位置に配置された第1および第2の非励振モノポールアンテナからなり、
その導体地板上の長さを調整することにより結合波に起因するポール上に分布する誘起電流からの再放射を調整し結果としてパターンのビーム幅を調整するアンテナ装置。」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明を対比すると、引用発明の「前記導体地板との接続側の所定長が前記導体地板の凹状のくぼみ内に配置される構成」は当該所定長部分がポールの共振周波数をf_(1)とするための延長部であり、前記導体地板上のポール部分がアンテナとしての実効部となる。そして、当該実効部と延長部の接続点をアンテナ基部とすると、前記引用発明の構成は「前記導体地板との接続側に設けられた基部と、前記基部から延びる延長部を有する」構成と等価であるから、当該引用発明の構成と補正後の発明の「前記導体地板との接続側に設けられた給電端子と、前記給電端子に装荷されたリアクタンス素子とを有する」構成はいずれも「給電側のアンテナ端部にアンテナの長さ調整部を有する」構成である点で一致している。
また補正後の発明の「給電端子とは反対側の端部」と引用発明の「接続側とは反対側の端部」はいずれも同じ端部である「給電側とは反対側の端部」を指す用語であるから、両者は「給電側とは反対側の端部」である点で一致しており、且つ両者の間に実質的な差異はない。
また補正後の発明の「前記第1の非励振モノポールアンテナの電流励振係数をI1、前記励振ダイポールアンテナの電流励振係数をI2としたときに、複素平面上に表示される電流励振係数比I1/I2は、前記励振ダイポールアンテナのE面ビーム幅を規定するために、前記複素平面上で第1の円軌跡を描く領域の外側に設定される」構成と引用発明の「その導体地板上の長さを調整することにより結合波に起因するポール上に分布する誘起電流からの再放射を調整し結果としてパターンのビーム幅を調整する」構成はいずれも「所望のビーム幅を得るためにポール上に分布する誘起電流を調整した」構成である点で一致している。
したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
「導体地板と、
前記導体地板から所定周波数で1/4波長の所定長さだけ離れた位置に設けられて、前記所定周波数で共振する励振ダイポールアンテナと、
前記導体地板上に立設されて、前記所定周波数で前記所定長さよりも短い長さを有する複数個の非励振モノポールアンテナとを備え、
前記励振ダイポールアンテナは、中央部に給電点を有し且つ前記導体地板に対してほぼ平行に配置され、
前記各非励振モノポールアンテナは、
前記励振ダイポールアンテナの延長方向に沿って離間配置されるとともに、
給電側のアンテナ端部にアンテナの長さ調整部を有し、
前記給電側とは反対側の端部が前記励振ダイポールアンテナ側を向くように、前記導体地板上にほぼ垂直に設けられたアンテナ装置であって、
前記非励振モノポールアンテナは、前記励振ダイポールアンテナの給電点に対してE面カット面内での対称位置に配置された第1および第2の非励振モノポールアンテナからなり、
所望のビーム幅を得るためにポール上に分布する誘起電流を調整したアンテナ装置。」

(相違点1)「給電側のアンテナ端部にアンテナの長さ調整部を有する」構成に関し、補正後の発明は「前記導体地板との接続側に設けられた給電端子と、前記給電端子に装荷されたリアクタンス素子とを有する」構成であるのに対し、引用発明は「前記導体地板との接続側の所定長が前記導体地板の凹状のくぼみ内に配置される構成」である点。

(相違点2)「所望のビーム幅を得るためにポール上に分布する誘起電流を調整した」構成に関し、補正後の発明は「前記第1の非励振モノポールアンテナの電流励振係数をI1、前記励振ダイポールアンテナの電流励振係数をI2としたときに、複素平面上に表示される電流励振係数比I1/I2は、前記励振ダイポールアンテナのE面ビーム幅を規定するために、前記複素平面上で第1の円軌跡を描く領域の外側に設定される」構成であるのに対し、引用発明は「その導体地板上の長さを調整することにより結合波に起因するポール上に分布する誘起電流からの再放射を調整し結果としてパターンのビーム幅を調整する」構成である点。

そこで、まず上記相違点1の「給電側のアンテナ端部にアンテナの長さ調整部を有する」構成について検討するに、引用発明の延長部は一般にアンテナの電気的実効長を共振波長に一致させるためのいわゆる延長コイルと同等なリアクタンス素子として機能しているのであるから、当該延長部の構成を同等な機能を有するリアクタンス素子で置換するとともに、実効部と延長部の接続点をアンテナの給電端子と定義することにより、引用発明の「前記導体地板との接続側の所定長が前記導体地板の凹状のくぼみ内に配置される構成」を補正後の発明のような「前記導体地板との接続側に設けられた給電端子と、前記給電端子に装荷されたリアクタンス素子とを有する」構成とする程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。

ついで、上記相違点2の「所望のビーム幅を得るためにポール上に分布する誘起電流を調整した」構成について検討するに、引用例のアンテナ装置は非励振アンテナの(導体地板上方部分の)長さを変えることにより非励振アンテナの誘起電流を変化させ、ポール上に分布する誘起電流からの再放射を調整し結果としてビーム幅を広げるものであるから(引用例段落20?22、28参照)、当該技術手段に基づいて、所望のビーム幅を得るためのパラメータをアンテナの長さからアンテナの長さに対応して変化するアンテナ電流に変更すること自体は当業者であれば適宜なし得ることであり、当該アンテナ電流を誘起元の励振アンテナを流れる電流との比で表現することや該電流比が複素平面上のどのような範囲に存在しているかを明らかにすること等も設計仕様若しくは実験または計算等により当業者であれば適宜なし得ることである。
また前記パラメータの種類をアンテナの長さからアンテナを流れる電流比に変えたからといって所望のビーム幅を得るためのアンテナの物理的な構成が変わるわけではないから、所望のビーム幅を有するように調整された引用発明の励振アンテナ及び非励振アンテナの両アンテナを流れる電流の比を測定すれば補正後の発明でいう設定範囲と同様な範囲に収まるであろうことは十分に予測されることである。
したがって、前記「所望のビーム幅」の具体的な所望値に基づいて、アンテナの長さをパラメータとした引用発明の「その導体地板上の長さを調整することにより結合波に起因するポール上に分布する誘起電流からの再放射を調整し結果としてパターンのビーム幅を調整する」構成を電流比をパラメータとした補正後の発明のような「前記第1の非励振モノポールアンテナの電流励振係数をI1、前記励振ダイポールアンテナの電流励振係数をI2としたときに、複素平面上に表示される電流励振係数比I1/I2は、前記励振ダイポールアンテナのE面ビーム幅を規定するために、前記複素平面上で第1の円軌跡を描く領域の外側に設定される」構成とする程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。

以上のとおりであるから、補正後の発明は、引用発明に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正(審判請求時の手続補正)は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明に基づいて容易に発明できたものであるから、上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。
なお、平成21年10月2日提出の審尋回答書に記載されている補正案も検討したが、当該補正案でも、所望のビーム幅を有するように調整された引用発明の励振アンテナ及び非励振アンテナの両アンテナを流れる電流の比を測定すれば補正後の発明でいう設定範囲と同様な範囲に収まるであろうことは十分に予測されることであり、その具体的な範囲の設定は「所望のビーム幅」に関する単なる設計的事項に過ぎないものであるから、当該補正案は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-16 
結審通知日 2010-04-20 
審決日 2010-05-06 
出願番号 特願2002-309302(P2002-309302)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01Q)
P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 賢司  
特許庁審判長 竹井 文雄
特許庁審判官 松元 伸次
新川 圭二
発明の名称 アンテナ装置  
代理人 古川 秀利  
代理人 大宅 一宏  
代理人 上田 俊一  
代理人 曾我 道治  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 梶並 順  

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