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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1218635 |
審判番号 | 不服2008-11706 |
総通号数 | 128 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-08 |
確定日 | 2010-06-17 |
事件の表示 | 特願2004-131696「電子線露光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日出願公開、特開2005-317657〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、平成16年4月27日に特許出願されたものであって、平成20年4月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年6月9日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成20年6月9日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年6月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正の概略 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1について、 「【請求項1】 電子線を放出する電子源を備え所望の転写パターンに応じた領域から電子線を放出させるマスクプレートと、マスクプレートと電子線レジスト層が塗布された被転写基板との間に配置される電子レンズとを備えた電子線露光装置であって、電子源が、多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過層が下部電極と表面電極との間に設けられ、表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加された時に表面電極を通して電子を放出する弾道電子面放出型の電子源からなり、被転写基板と表面電極との間に被転写基板を高電位側として電圧を印加する第1の電圧印加手段と、電子源の表面電極と下部電極との間に駆動電圧を印加する第2の電圧印加手段とが設けられてなり、前記マスクプレートは、前記電子源における前記表面電極の表面に前記転写パターンを規定する金属膜あるいは導電性膜からなる電子吸収層が形成されてなることを特徴とする電子線露光装置。」 とあったものを 「【請求項1】 電子線を放出する電子源を備え所望の転写パターンに応じた領域から電子線を放出させるマスクプレートと、マスクプレートと電子線レジスト層が塗布された被転写基板との間に配置される電子レンズとを備えた電子線露光装置であって、電子源が、下部電極上に形成した多結晶シリコン層を用いて形成された電子通過層であり多数のナノメータオーダのシリコン微結晶および各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜を有する電子通過層が下部電極と表面電極との間に設けられ、表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加された時に表面電極を通して電子を放出する弾道電子面放出型の電子源からなり、被転写基板と表面電極との間に被転写基板を高電位側として電圧を印加する第1の電圧印加手段と、電子源の表面電極と下部電極との間に駆動電圧を印加する第2の電圧印加手段とが設けられてなり、前記マスクプレートは、前記電子源における前記表面電極の表面に前記転写パターンを規定する金属膜あるいは導電性膜からなる電子吸収層が形成されてなることを特徴とする電子線露光装置。」(以下、「本願補正発明」という。) と補正するものである。 上記補正は、 (1)「下部電極と表面電極との間に設けられ」る「電子通過層」を「下部電極上に形成した多結晶シリコン層を用いて形成され」「下部電極と表面電極との間に設けられ」る「電子通過層」に限定する補正、 (2)「半導体微結晶」を「シリコン微結晶」に限定する補正、 (3)「絶縁膜」を「シリコン酸化膜」に限定する補正、 からなるものであって、何れも平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に適合するか)について検討する。 2.引用する刊行物に記載された発明 刊行物1:特開2004-103942号公報 刊行物2:特開2000-100316号公報 2-1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1(特開2004-103942号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (A)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、面状電子ビームを加工対象基板に照射し、加工対象基板にパターンを一括等倍転写して面露光する電子ビーム面露光装置および面露光方法に関するものである。」 (B)「【0020】 【発明の実施の形態】 以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の電子ビーム面露光装置および面露光方法を詳細に説明する。 【0021】 図1は、本発明の電子ビーム面露光装置の一実施形態の構成概略図である。この図に示すように、本実施形態の電子ビーム面露光装置10は、パターン化BSE電子源(Ballistic Surface-emission Electron Source:弾道面放出型冷陰極電子源)12と、加工ステージ14と、引出し電源16と、加速電源18と、真空チャンバ20と、電流計22とを備えている。同図には、加工対象基板24も示してある。 【0022】 電子ビーム面露光装置10において、パターン化BSE電子源12は、面状電子ビーム源26、Au(金)電極28、Al(アルミ)電極30、および吸収材32により構成されている。 【0023】 面状電子ビーム源26は、n型のシリコン基板34と、このシリコン基板34の表面(図中下面)全面に形成されたポリシリコン層36と、このポリシリコン層36の表面を陽極酸化処理して形成された多孔質ポリシリコン層38とを含む。 【0024】 Al電極30は、面状電子ビーム源26のシリコン基板34の裏面(図中上面)の全面に形成され、Au電極28は、多孔質ポリシリコン層38の表面(図中下面)の外周部を除く、ほぼ全面を覆うように形成されている。 【0025】 また、Au電極28の表面には、パターン化された吸収材32が形成されている。吸収材32は、多孔質ポリシリコン層38の全面から放出される面状電子ビームを吸収する役割を果す。本実施形態の場合、吸収材32はEBレジスト(電子ビームを照射することによって露光される材料)で構成され、点状電子ビーム描画装置等を用いて、点状電子ビームによりマスクレスで直接走査露光されてパターニングされる。 【0026】 ここで、面状電子ビーム源26、Au電極28およびAl電極30により構成されるダイオードは、本発明者の一人である越田信義により、特開平8-250766号公報において提案された半導体冷電子放出素子である。この半導体冷電子放出素子のAu電極28とAl電極30との間に所定の一定時間、所定の電圧を印加することにより、多孔質ポリシリコン層38の表面全面から多重トンネル伝導による弾道電子の放出が開始される。 【0027】 電子ビーム面露光装置10は、この半導体冷電子放出素子を、電子ビーム面露光装置10の電子ビーム源として利用したものであり、以下に述べるような特徴を備えている。 【0028】 A)単結晶シリコン基板上に平面型で構成できる電子源であり、電子ビームの放出面(すなわち、吸収材32が存在しないAu電極28の表面)から垂直に電子ビームを放出できるので、収束電界や収束磁界を必要とせず、加工対象基板24へのパターンの一括等倍転写が可能である。 B)1?30Paまでの低真空雰囲気中で安定な電子放出動作が可能である。 C)電子放出の均一性が高く、ホッピング等の短時間変動がない。 D)電子放出源は、多孔質ポリシリコン層38のシリコン微結晶の1つ1つであり、直径2?3nmの均一な粒径でできているため、高密度かつ安定度の高いエミッション特性が得られる。 E)マイクロ秒(μs)オーダーの電子放出オンオフ特性を有している。 F)直径100,150,200,300mm等の広領域電子源を低価格で形成できる。」 (C)「【0029】 Au電極28とAl電極30との間には、スイッチ40を介して引出し電源16が接続されている。引出し電源16は、Au電極28側がプラス、Al電極30側がマイナスとされている。また、Al電極30とグランドとの間には、加速電源18が接続されている。加速電源18は、グランド側がプラス、Al電極30側がマイナスとされている。本実施形態では、引出し電源16の電圧Vpsおよび加速電源18の電圧Vwは可変である。 【0030】 引出し電源16により電圧Vpsを印加すると、面状電子ビーム源26の多孔質ポリシリコン層38の全面から電子ビームが放出される。また、引出し電源16の電圧Vpsを高くするに従って、電子ビームの放出量が増大する。また、加速電源18により電圧Vwを印加すると、面状電子ビーム源26の多孔質ポリシリコン層38の全面から放出された電子ビームが加速される。また、加速電源18の電圧Vwを高くするに従って、電子ビームの加速度が増大する。 【0031】 加工ステージ14は、加工対象基板24を載置するための台であると共に、後述するように、本実施形態ではグランドに接続されており、パターン化BSE電子源12の電子ビームの放出面(カソード)から放出される面状電子ビームを捕獲するためのアノードとして機能する。加工ステージ14は、パターン化BSE電子源12のAu電極28の表面(図中下面)に対向した近接位置に平行に配置されている。 【0032】 加工対象基板24の表面全面にはEBレジスト42が形成されている。EBレジスト42は、電子ビームを照射することによって露光(感光)され、本実施形態の場合、吸収材32のパターンと略同一なパターンが一括等倍転写される。 ・・・・・ 【0034】 電流計22は、真空チャンバ20の外部に配置され、加工ステージ14とグランドとの間に接続されている。すなわち、加工ステージ14および加工対象基板24は、電流計22を経由してグランドに接続されている。これにより、加工ステージ14(すなわち、加工対象基板24)は、前述のように、面状電子ビームを捕獲するためのアノードとして機能する。電流計22により、パターン化BSE電子源12から照射される電子ビームの全電流量が計測される。」 (D)「【0036】 次に、本発明の電子ビーム面露光方法に従って、電子ビーム面露光装置10の作用を説明する。 【0037】 真空チャンバ20内は1?30Paの真空雰囲気とされている。また、加速電源18により、パターン化BSE電子源12のAl電極30には常時-2?5kVの電圧Vwが印加されている。引出し電源16の電圧Vpsは、本実施形態の場合には数10Vである。スイッチ40をオンすれば、引出し電源16から供給される電圧VpsがAu電極28とAl電極30との間に印加され、オフすれば印加されない。 【0038】 上記状態において、スイッチ40をオンし、引出し電源16により、あらかじめ決定された所定の一定時間、パターン化BSE電子源12のAu電極28とAl電極30との間に数10Vの電圧Vpsを印加すると、面状電子ビーム源26の多孔質ポリシリコン層38の表面全面から電子ビームが放出される。多孔質ポリシリコン層38から放出された面状の電子ビームはAu電極28を透過し、Au電極28の表面全面から放出される。 【0039】 この時、パターン化された吸収材32が存在する箇所の電子ビームは、吸収材32により吸収され、吸収材32が存在しない箇所からだけ電子ビームが放出される。これにより、パターン化BSE電子源12からは、その放出面に対して垂直方向に、吸収材32によりパターン化された面状の電子ビームが放出される。また、パターン化BSE電子源12から放出された面状の電子ビームは、加速電源18の電圧Vwにより加速される。 【0040】 加工対象基板24は、パターン化BSE電子源12の電子ビームの放出面に対向した近接位置に配置されている。従って、放出面から垂直に放出され、加速された面状の電子ビームは、ほとんど角度分散することなく、加工対象基板24上に形成されたEBレジスト42の表面に対して垂直に照射される。これにより、パターン化された吸収材32と略同一なパターンが、加工対象基板24上に形成されたEBレジスト42に一括等倍転写される。 【0041】 電子ビーム面露光装置10は、電子ビームにより、100nm以下の超高分解能な微細露光が可能である。また、等倍露光であり、マスクレスで、投影系、収束系、偏向系等が不要なため、構造が簡単で小型化が可能である。また、構造が非常に単純であるため、従来よりも格段に安価に装置を構成することができる。さらに、面状電子ビームによる一括露光であるため、点状電子ビームと比べて、非常にスループットが高いという特徴がある。」 (E)「【0047】 吸収材32は、電子ビームを吸収できる材質のものがいずれも使用可能である。また、吸収材32のパターニングの方法も何ら限定されず、例えば100nm以上の分解能でよい場合には、光リソグラフィ技術を使用してパターニングしてもよい。また、吸収材32を直接走査露光する場合も、吸収材32の上に塗布されたレジストをパターニングした後、パターニングされたレジストをマスクとして吸収材32をパターニングするようにしてもよい。 【0048】 上記実施形態では、吸収材32は、電子ビームを完全に吸収(ブロック)できる厚さとしている。これに対し、吸収材32の厚さを部分的に変更してもよい。これにより、吸収材32に対する電子ビームの透過率を部分的に変更することができる。このように、吸収材32の厚さに応じて、吸収材32を透過する面状電子ビームの透過率を変え、加工対象基板24上にパターン化された吸収材32の厚さに対応した3次元パターンを露光することも可能である。」 (刊行物1に記載された発明) 以上の記載事項(A)?(E)と図面から、刊行物1には以下の発明が記載されている。 「電子線を放出する面状電子ビーム源26、Au電極28、Al電極30、吸収材32を備え所望の転写パターンに応じた領域から電子線を放出させるパターン化BSE電子源(弾道面放出型冷陰極電子源)12と、表面にEBレジスト42が形成された加工対象基板24が載置される加工ステージ14とを備えた電子ビーム面露光装置であって、 面状電子ビーム源26は、n型のシリコン基板34と、該シリコン基板34の表面全面に形成されたポリシリコン層36と、該ポリシリコン層36の表面を陽極酸化処理して形成された多孔質ポリシリコン層38を含み、 前記Al電極30は、面状電子ビーム源26のシリコン基板34の裏面の全面に形成され、前記Au電極28は、面状電子ビーム源26の多孔質ポリシリコン層38の表面の外周部を除く、ほぼ全面を覆うように形成されており、 加工ステージ14および加工対象基板24は、電流計22を経由してグランドに接続され、 Au電極28とAl電極30との間には、Au電極28側をプラス、Al電極30側をマイナスとする引出し電源16が設けられてなり、Au電極28とAl電極30との間に電圧Vpsが印加された時にAu電極28を透過して面状の電子ビームが放出され、 Al電極30とグランドとの間に、グランド側をプラス、Al電極30側をマイナスとする加速電源18が設けられてなり、 加工対象基板24は、面状電子ビームを捕獲するためのアノードとして機能し、 Au電極28の表面に、パターン化されたEBレジストで構成される吸収材32が形成されている電子ビーム面露光装置。」(以下、「引用発明」という。) 2-2 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2(特開2000-100316号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (F)「【0008】 【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、上記目的を達成するために、導電性基板と、導電性基板の一表面側に形成された強電界ドリフト層と、該強電界ドリフト層上に形成された金属薄膜とを備え、金属薄膜を導電性基板に対して正極として電圧を印加することにより導電性基板から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし金属薄膜を通して放出される電界放射型電子源であって、前記強電界ドリフト層は、少なくとも、導電性基板の主表面に略直交して列設された柱状の半導体結晶と、半導体結晶間に介在するナノメータオーダの半導体微結晶と、半導体微結晶の表面に形成され当該半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜とからなることを特徴とするものであり、電子放出特性の真空度依存性が小さく且つ電子放出時にポッピング現象が発生せず安定して高効率で電子を放出することができ、また、導電性基板として単結晶シリコン基板などの半導体基板の他にガラス基板などに導電性膜を形成した基板などを使用することもできるから、従来のように半導体基板を多孔質化した多孔質半導体層を利用する場合やスピント型電極に比べて、電子源の大面積化及び低コスト化が可能になるという効果がある。」 (G)「【0013】 【発明の実施の形態】図2に本実施形態の電界放射型電子源10の概略構成図を、図3(a)?(e)に電界放射型電子源10の製造方法における主要工程断面図を示す。なお、本実施形態では、導電性基板としてn形シリコン基板1(抵抗率が略0.1Ωcmの(100)基板)を用いている。 【0014】本実施形態の電界放射型電子源10は、図2に示すように、n形シリコン基板1の主表面上に急速熱酸化されたポリシリコン層5が形成され、該ポリシリコン層5上に急速熱酸化された多孔質ポリシリコン層6が形成され、該多孔質ポリシリコン層6上に金属薄膜たる金薄膜7が形成されている。また、n形シリコン基板1の裏面にはオーミック電極2が形成されている。 【0015】ところで、本実施形態では、導電性基板としてn形シリコン基板1を用いているが、導電性基板は、電界放射型電子源10の負極を構成するとともに真空中において上述の多孔質ポリシリコン層6を支持し、なお且つ、多孔質ポリシリコン層6へ電子を注入するものである。 【0016】また、上述の多孔質ポリシリコン層6は、導電性基板と金属薄膜との間に電圧を印加したときに導電性基板から注入された電子がドリフトする強電界ドリフト層である。 【0017】以下、製造方法について図3を参照しながら説明する。 【0018】まず、n形シリコン基板1の裏面にオーミック電極2を形成した後、n形シリコン基板1の表面に膜厚が略1.5μmのノンドープのポリシリコン層3を形成することにより図3(a)に示すような構造が得られる。・・・・・。 【0019】ノンドープのポリシリコン層3を形成した後、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、白金電極(図示せず)を負極、n形シリコン基板1(オーミック電極2)を正極として、ポリシリコン層3に光照射を行いながら定電流で陽極酸化処理を行うことによって、多孔質ポリシリコン層4(以下、PPS層4と称す)が形成され図3(b)に示すような構造が得られる。・・・・・。 【0020】次に、急速熱酸化(RTO:Rapid Thermal Oxidation)技術によってPPS層4及びポリシリコン層3の急速熱酸化を行うことにより図3(c)に示す構造が得られる。ここに、図3(c)における5は急速熱酸化されたポリシリコン層を、6は急速熱酸化されたPPS層(以下、RTO-PPS層6と称す)を示す。・・・・・。 【0021】次に、RTO-PPS層6上に金属薄膜たる金薄膜7を例えば蒸着により形成することによって、図3(d)および図2に示す構造の電界放射型電子源10が得られる。・・・・・。」 (H)「【0029】次に、本実施形態の電界放射型電子源の電子放出の機構について説明する。 【0030】まず、電子放出の機構を調べるために、陽極酸化処理後の図3(b)の試料のPPS層4断面をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察したところ、柱状のポリシリコンの周辺に、ナノメータオーダ(直径5nm前後)の微結晶シリコン層が成長していることが確認された。また、ポリシリコン層3成膜後の図3(a)の試料の断面をTEMにより観察したところ、膜成長方向(図3(a)の上下方向)の細い柱状のグレイン(結晶粒)の集合体(柱状構造)でポリシリコン層3が構成されていることが確認された。・・・・・。 【0031】上述のTEM観察の結果から、図3(d)に示す急速熱酸化された多孔質ポリシリコン層6(RTO-PPS層6)は、つまり、強電界ドリフト層は、図1に示すように、少なくとも、柱状の半導体結晶であるポリシリコン61と、ポリシリコン61の表面に形成された薄いシリコン酸化膜62と、柱状のポリシリコン61間に介在するナノメータオーダの半導体微結晶である微結晶シリコン層63と、微結晶シリコン層63の表面に形成され当該微結晶シリコン層63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜であるシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。 【0032】しかして、本実施形態の電界放射型電子源10では、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、金薄膜7をn形シリコン基板1に対して正極として印加する直流電圧Vpsが所定値(臨界値)に達すると、n形シリコン基板1側からRTO-PPS層6に熱的励起により電子e-が注入される。一方、RTO-PPS層6に印加された電界はほとんどシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子は酸化膜64にかかっている強電界により加速されRTO-PPS層6におけるポリシリコン61の間の空間を表面に向かって図1中の矢印Aの向きへ(図1中の上方向へ向かって)ドリフトする。ここに、RTO-PPS層中の電子のドリフト長は後述のように微結晶シリコン層63の粒径に比べて非常に大きいので、ほとんど衝突を起こすことなくRTO-PPS層6の表面に到達する。RTO-PPS層6の表面に到達した電子e-はホットエレクトロンであって、ホットエレクトロンは熱平衡状態よりも数kT以上のエネルギを有するので、RTO-PPS層6の最表面の酸化層を介して金薄膜7を容易にトンネルし真空中に放出される。 【0033】ところで、本実施形態の電界放射型電子源10では、上述の図7で説明したようにポッピングノイズが発生せずに高効率で安定して電子を放出することができるが、これは、RTO-PPS層6は各グレインの表面が多孔質化し各グレインの中心部分(図1のポリシリコン61)では結晶状態が維持されていることから、電圧の印加により生じた熱が上記結晶状態が維持された部分(図1のポリシリコン61)を伝導して外部に放出され、温度上昇が抑制されるからであると推考される。 【0034】以上をまとめると、強電界ドリフト層たるRTO-PPS層6は、強電界が存在しうる半絶縁性を備え、また、電子散乱が少なくドリフト長が大きく、さらに、ダイオード電流Ipsの熱暴走を抑えるだけの熱伝導率を有するので、高効率で安定して電子を放出することができるのだと考えられる。」 (刊行物2に記載された発明) 上記記載事項(F)?(H)と図面から、刊行物2には、以下の電子源が記載されている。 「オーミック電極2と金属膜7との間に、導電性基板としてのn形シリコン基板1,急速熱酸化されたポリシリコン層5、急速熱酸化された多孔質ポリシリコン層6が設けられ、 該急速熱酸化された多孔質ポリシリコン層6は、柱状の半導体結晶であるポリシリコン61と、ポリシリコン61の表面に形成された薄いシリコン酸化膜62と、柱状のポリシリコン61間に介在するナノメータオーダの半導体微結晶である微結晶シリコン層63と、微結晶シリコン層63の表面に形成され当該微結晶シリコン層63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜であるシリコン酸化膜64とから構成され強電界ドリフト層として機能し、 オーミック電極2と金属膜7との間に金属膜7を高電位側とする駆動電圧が印加された時に電子が微結晶シリコン層63とほとんど衝突を起こすことなくドリフトし、金属膜7を通してホットエレクトロンの電子を放出する面放出型の電子源。」 3.対比 本願補正発明と、引用発明とを対比する。 (1)引用発明では、「Au電極28」が「面状電子ビーム源26」の表面に形成され、「Al電極30」が「面状電子ビーム源26」の裏面に形成されており、「Au電極28とAl電極30との間に電圧Vpsが印加された時にAu電極28を透過して面状の電子ビームが放出」されることから、引用発明における「Au電極28」、「Al電極30」が、それぞれ、本願補正発明の「表面電極」、「下部電極」に相当し、引用発明における「面状電子ビーム源26」、「Au電極28」、「Al電極30」は、一体として本願補正発明の「電子源」に相当する。 (2)引用発明における「EBレジスト42」、「加工対象基板24」、「引出し電源16」、「吸収材32」、「電子ビーム面露光装置」は、それぞれ、本願補正発明の「電子線レジスト層」、「被転写基板」、「第2の電圧印加手段」、「電子吸収層」、「電子線露光装置」に相当する。 (3)引用発明における「パターン化BSE電子源(弾道面放出型冷陰極電子源)12」は、「面状電子ビーム源26」、「Au電極28」、「Al電極30」、および「吸収材32」により構成され、「Au電極28」を透過し、「吸収材32」でパターン化されて放出される面状の電子ビームが「加工対象基板24」上に形成された「EBレジスト42」の表面に対して垂直に照射され、パターン化された「吸収材32」と略同一なパターンが、「加工対象基板24」上に形成された「EBレジスト42」に一括等倍転写されることから、引用発明における「パターン化BSE電子源(弾道面放出型冷陰極電子源)12」は、本願補正発明の「マスクプレート」に相当する。 してみると、両者は、 「電子線を放出する電子源を備え所望の転写パターンに応じた領域から電子線を放出させるマスクプレートを備えた電子線露光装置であって、電子源が、表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加された時に表面電極を通して電子を放出する弾道電子面放出型の電子源からなり、電子源の表面電極と下部電極との間に駆動電圧を印加する第2の電圧印加手段とが設けられてなり、前記マスクプレートは、前記電子源における前記表面電極の表面に前記転写パターンを規定する電子吸収層が形成されてなることを特徴とする電子線露光装置。」 の点で一致するものの、下記の点で相違し、その余に格別の相違点は認められない。 (相違点1) 被転写基板に形成された電子線レジスト層は、本願補正発明では「塗布」されたものであるのに対し、引用発明では塗布されたものか否か記載されていない点。 (相違点2) マスクプレートと被転写基板との間に、本願補正発明では「電子レンズ」を備えるのに対し、引用発明では備えていない点。 (相違点3) 下部電極と表面電極を備える弾道電子面放出型の電子源が、本願補正発明では、「下部電極上に形成した多結晶シリコン層を用いて形成された電子通過層であり多数のナノメータオーダのシリコン微結晶および各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜を有する電子通過層が下部電極と表面電極との間に設けられ」ているのに対し、引用発明では、具体的構造が不明である点。 (相違点4) 電子線吸収層が、本願補正発明では「金属膜或いは導電性膜からなる」のに対し、引用発明では、電子ビームを吸収できる材質からなるものの、「金属膜或いは導電性膜」からなるのか否か不明である点。 (相違点5) 被転写基板と表面電極との間に電圧を印加する手段として、本願補正発明では、「被転写基板と表面電極との間に被転写基板を高電位側として電圧を印加する第1の電圧印加手段」を備えるのに対し、引用発明では、加工対象基板24が電流計22を経由してグランドに接続され、Al電極30とグランドとの間に、グランド側をプラス、Al電極30側をマイナスとする加速電源18が接続されている点。 4.判断 以下、上記相違点について判断する。 (相違点1について) 被転写基板にレジスト層を形成する際に、塗布により形成する技術は、周知の技術であり、引用発明に前記周知の技術を採用し、相違点1に係る構成と為すことは、当業者が容易に為し得ることである。 (相違点2について) 電子線露光装置として、電子線を収束するレンズを備える装置は周知(例えば、拒絶査定で周知例として引用した特開昭47-36975号公報には、収束コイル6を備えることが、同じく特開昭51-8875号公報には集束コイル7を備えることが開示されており、何れも電子レンズとしての機能を有しているものと認められる。)であるから、引用発明を電子レンズを備える周知の露光装置として構成することに困難性はない。 したがって、引用発明に上記周知技術を適用し、相違点2に係る構成と為すことは、当業者が容易に想到し得たことである。 (相違点3について) 刊行物2に記載された電子源は、電子が微結晶シリコン層63をほとんど衝突を起こすことなくドリフトし、金属膜7を通してホットエレクトロンを放出する電子源であるから、弾道電子放出型の電子源であると言える。 そして、刊行物2の「金属膜7」が本願補正発明の「表面電極」に相当し、以下同様に、「強電界ドリフト層」が「電子通過層」に、「ナノメータオーダの半導体微結晶である微結晶シリコン層63」が「ナノメータオーダのシリコン微結晶」に、「シリコン酸化膜64」が「シリコン酸化膜」に相当する。また、刊行物2のn形シリコン基板1(導電性基板)は、電界放射型電子源10の負極を構成するとともに真空中において上述の多孔質ポリシリコン層6を支持し、なお且つ、多孔質ポリシリコン層6へ電子を注入するものである(上記摘記事項(G)【0015】参照)から、刊行物2の「オーミック電極7」が形成された「n形シリコン基板」は、本願補正発明の「下部電極」に相当する。 してみると、刊行物2に記載された電子源は、「下部電極上に形成した多結晶シリコン層を用いて形成された電子通過層であり多数のナノメータオーダのシリコン微結晶および各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜を有する電子通過層が下部電極と表面電極との間に設けられ、表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加された時に表面電極を通して電子を放出する弾道電子面放出型の電子源」であり、相違点3に係る構成を備える電子源である。 そして、引用発明の電子源と刊行物2に記載された電子源は、何れも弾道電子面放出型の電子源であるから、引用発明の電子源として刊行物2に記載された電子源を用い、上記相違点3に係る構成と為すことは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。 審判請求人は、平成20年12月22日付け回答書において、電子レンズを利用する電子線露光装置の電子源として弾道電子面放出型の電子源を用いることで高精細化が図れる旨主張するが、弾道電子面放出型電子源の放出電子の角度分散が小さいことは周知(例えば、越田他 ”量子サイズナノシリコンの発光と新規機能” 信学技報 TECHNICAL REPORT OF ICICE LQE99-16 電子情報通信学会 1999-06 特に5頁左欄5-13行参照)であるから、請求人が主張する作用効果も当業者が予測しうる程度のものであり、格別の作用効果とは認められない。 (相違点4について) 電子線露光装置に用いる電子線吸収層として、「金属膜或いは導電性膜」からなる電子線吸収層を用いることは、例えば原査定の理由に引用された特開昭55-15232号公報(金属膜24参照)、特開昭47-36975号公報(金その他適当な導体層によって電子を吸収することが、2頁左下欄6-12行に記載されている。)、特開昭51-8875号公報(2頁右上欄12-16行の導電性材料のパターンをつくることで、チャージアップの問題が防止できる旨の記載参照)に記載されるように電子線露光装置の技術分野において周知の技術手段であるから、引用発明における電子線吸収層として、金属膜或いは導電成膜からなる周知の電子吸収層を用いて相違点4に係る構成となすことに、格別の困難性は認められない。 また、チャージアップを防止するという作用効果も、電子源が弾道電子面放出型であるか否かで格別の差異が生じるものではないから、上記周知技術に基いて当業者が容易に予測しうる程度のものである。 (相違点5について) 一般に、電流計22は実質的に電位差を有するものではないから、引用発明における加工対象基板24は実質的にグランド、即ち、加速電源18のプラス側に接続されているといえる。そして、加工対象基板24は面状電子ビームを捕獲するためのアノードとして機能する、即ち、加工対象基板24の電位が面状電子ビーム源26の電位より高電位となるよう加速電源18を接続するのであり、加速電源18のマイナス側を電子ビーム源26のAu電極28とAl電極30の何れに接続するかは、当業者が適宜為し得る設計的事項にすぎないものと認められる。 したがって、加工対象基板24とAu電極28との間に加工対象基板24を高電位側として電圧を印加するよう加速電源18を接続し、上記相違点5に係る構成と為すことは、当業者が容易に想到しうるものである。 以上のとおり、上記相違点1?5は、何れも刊行物1、2に記載された発明と周知技術とに基いて当業者が容易に想到しうる程度のものであり、また、本願補正発明が奏する作用効果も、刊行物1、2に記載された発明と周知技術とに基いて当業者が容易に予測しうる程度のものである。 したがって、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明と周知技術とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.本件補正についてのむすび 以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成20年6月9日付けの手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年2月4日付け手続補正書により補正された請求項1に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。 「電子線を放出する電子源を備え所望の転写パターンに応じた領域から電子線を放出させるマスクプレートと、マスクプレートと電子線レジスト層が塗布された被転写基板との間に配置される電子レンズとを備えた電子線露光装置であって、電子源が、多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過層が下部電極と表面電極との間に設けられ、表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加された時に表面電極を通して電子を放出する弾道電子面放出型の電子源からなり、被転写基板と表面電極との間に被転写基板を高電位側として電圧を印加する第1の電圧印加手段と、電子源の表面電極と下部電極との間に駆動電圧を印加する第2の電圧印加手段とが設けられてなり、前記マスクプレートは、前記電子源における前記表面電極の表面に前記転写パターンを規定する金属膜あるいは導電性膜からなる電子吸収層が形成されてなることを特徴とする電子線露光装置。」(以下、「本願発明」という。) 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項等は、前記「第2」の「2.(2)」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から、 (1)「電子通過層」とあったところを、「下部電極上に形成した多結晶シリコン層を用いて形成された電子通過層」に、、 (2)「半導体微結晶」とあったところを「シリコン微結晶」に、 (3)「絶縁膜」とあったところを「シリコン酸化膜」に、 する限定を解除したものに相当する。 そうすると、本願発明の発明特定事項の全てを含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が前記第2に記載したとおり、刊行物1,2に記載された発明と周知技術とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1,2に記載された発明と周知技術とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-03-31 |
結審通知日 | 2010-04-06 |
審決日 | 2010-05-06 |
出願番号 | 特願2004-131696(P2004-131696) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 海 |
特許庁審判長 |
小松 徹三 |
特許庁審判官 |
日夏 貴史 村田 尚英 |
発明の名称 | 電子線露光装置 |
代理人 | 西川 惠清 |
代理人 | 森 厚夫 |