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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1218638 |
審判番号 | 不服2008-14840 |
総通号数 | 128 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-06-12 |
確定日 | 2010-06-17 |
事件の表示 | 特願2003-124099「インクジェット式記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月18日出願公開、特開2004-322605〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成15年4月28日の出願であって、平成19年6月28日付け拒絶理由通知に対して、同年8月28日付けで手続補正がなされたが、平成20年5月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月12日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年同月26日付けで明細書の手続補正がなされたものである。 これに対し、当審において、平成20年11月7日付けで審査官により作成された前置報告書について、平成21年12月24日付けで審尋を行ったところ、審判請求人は平成22年2月26日付けで回答書を提出した。 第2 平成20年6月26日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年6月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理 由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであり、その特許請求の範囲の請求項1について、 本件補正前に、 「【請求項1】インク吐出により印字を行うインクジェット式記録装置であって、 インク液が充填される圧力室と、 前記圧力室に連通して形成されたノズル孔と、 前記圧力室上に形成され、機械的伸縮により前記圧力室を変形させて当該圧力室に圧力を発生させ、前記ノズル孔からインクを吐出させる圧電素子と、 乾燥気体を供給する露点制御手段と、を備え、 前記乾燥気体を前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に流しながら、 前記圧電素子および当該圧電素子の近傍雰囲気の露点を、前記インクジェット式記録装置が設置される環境の露点よりも低い値に保つことを特徴とするインクジェット式記録装置。」とあったものを、 「【請求項1】インク吐出により印字を行うインクジェット式記録装置であって、 インク液が充填される圧力室と、 前記圧力室に連通して形成されたノズル孔と、 前記圧力室上に形成され、機械的伸縮により前記圧力室を変形させて当該圧力室に圧力を発生させ、前記ノズル孔からインクを吐出させる圧電素子と、 乾燥気体を供給する露点制御手段と、を備え、 前記乾燥気体を、前記圧電素子に電圧を印加している状態で、前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に流し続けながら、 当該圧電素子の近傍雰囲気の露点を、前記インクジェット式記録装置が設置される環境の露点よりも低い値に保つことを特徴とするインクジェット式記録装置。」と補正する内容を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (2)本件補正後の請求項1に係る発明についての上記(1)の補正内容は、次のア及びイからなる。 ア 本件補正前の請求項1の 「前記乾燥気体を前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に流しながら」との記載を、 「前記乾燥気体を、前記圧電素子に電圧を印加している状態で、前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に流し続けながら」とする補正。 イ 本件補正前の請求項1の 「前記圧電素子および当該圧電素子の近傍雰囲気の露点を」との記載から「前記圧電素子および」との文言を削除する補正。 2 補正目的 (1)上記1(2)アの補正内容は、乾燥気体を流す際は圧電素子に電圧が印加されている状態であること、及び、その間に乾燥気体が流し続けられることを限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。 (2)上記1(2)イの補正内容は、本件補正前の「前記圧電素子および当該圧電素子の近傍雰囲気」との記載から「前記圧電素子および」との文言を削除するものであるが、実質的な内容を変更するものではない。 (3)よって、補正内容ア及びイからなる本件補正後の請求項1に係る発明についての補正は、全体として、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認め得るものであることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。 3 独立特許要件 (1)本件補正発明 本件補正発明を再掲すると、以下のとおりのものである。 「【請求項1】インク吐出により印字を行うインクジェット式記録装置であって、 インク液が充填される圧力室と、 前記圧力室に連通して形成されたノズル孔と、 前記圧力室上に形成され、機械的伸縮により前記圧力室を変形させて当該圧力室に圧力を発生させ、前記ノズル孔からインクを吐出させる圧電素子と、 乾燥気体を供給する露点制御手段と、を備え、 前記乾燥気体を、前記圧電素子に電圧を印加している状態で、前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に流し続けながら、 当該圧電素子の近傍雰囲気の露点を、前記インクジェット式記録装置が設置される環境の露点よりも低い値に保つことを特徴とするインクジェット式記録装置。」 (2)引用文献に記載の事項 原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-331663号公報(以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の事項が記載されていると認められる。 ア 「【請求項1】 ノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の前記圧力発生室に対応する領域に振動板を介して設けられた圧電素子とを有するインクジェット式記録ヘッドにおいて、 前記流路形成基板の前記圧電素子側に接合されて当該圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を確保する圧電素子保持部を画成する封止部材を有すると共に、該封止部材とは別部材に設けられ前記圧電素子保持部と連通し且つ外気と遮断された空間である封止部を少なくとも一つ有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を介して圧電素子を設けて、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。」 ウ 「【0006】このようなインクジェット式記録ヘッドでは、大気中の水分等により、圧電素子が破壊するという問題がある。この問題を解決するために、圧電素子を所定空間内に封止して大気と遮断すると共に、その空間中に不活性流体を封入して圧電素子の破壊を防止した構造が提案されている。」 エ 「【0073】一方、流路形成基板10に設けられた弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約0.5?3μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、本実施形態では、弾性膜50及び下電極膜60が振動板として作用するが、下電極膜が弾性膜を兼ねるようにしてもよい。」 オ 「【0101】(実施形態3)図5は、実施形態3にかかるインクジェット式記録ヘッドの断面図である。 【0102】本実施形態は、圧電素子保持部に乾燥流体を充填し且つ内部圧力を大気圧以上の略一定の圧力に保持して圧電素子の水分に起因する破壊を防止するようにした例である。 【0103】すなわち、本実施形態では、図5に示すように、第1の封止部材130上に取り外し可能に固定された第2の封止部材140の第2の封止部141に乾燥流体170が圧縮されて充填され、且つ第2の封止部141と第1の封止部131とを連通する貫通孔132部分に、例えば、ダイヤフラム弁等の気圧調整弁180が設けられている。 【0104】このような構成では、第2の封止部141内の乾燥流体170が圧電素子保持部33内に供給され、圧電素子保持部33内には常に乾燥流体170が充填されている。そして、圧電素子保持部33の圧力変化に伴って気圧調整弁180が開閉し、第2の封止部141から圧電素子保持部33に供給される乾燥流体170の流量が調整される。具体的には、圧電素子保持部33内に流れ込む乾燥流体170の流量が、圧電素子保持部33内の圧力低下に伴って増加し、圧電素子保持部33内の圧力増加に伴って低下するように調整される。 【0105】これにより、圧電素子保持部33内は、乾燥流体170が略一定の圧力で充填された状態に保持され、圧電素子保持部33内の湿度の上昇が防止されるため、圧電素子300の水分に起因する破壊を確実に防止することができる。 【0106】また、圧電素子保持部33に供給される乾燥流体170の供給量が気圧調整弁180によって適宜調整され乾燥流体170が圧電素子保持部33内に効率的に供給されるため、長期間に亘って圧電素子300の破壊を防止することができる。」 カ 図5から、圧力発生室12と、圧力発生室12に連通して形成されたノズル開口21と、圧力発生室12上の設けられた圧電アクチュエータとを備え、第2の封止部141内の乾燥流体170を、気圧調整弁180を介して圧電素子保持部33内に供給するようにしたインクジェット式記録ヘッドが看取される。 上記記載から、引用文献には次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)と認められる。 「インク滴を吐出させるインクジェット式記録装置であって、 圧力発生室と、 圧力発生室に連通して形成されたノズル開口と、 圧力発生室上に設けられた圧電素子と、を備え、 乾燥流体を圧電素子保持部内に供給することで、圧電素子保持部内の湿度の上昇を防止し、圧電素子の水分に起因する破壊を防止するようにしたインクジェット式記録装置。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「インク滴を吐出させるインクジェット式記録装置」は本件補正発明の「インク吐出により印字を行うインクジェット式記録装置」に相当し、同様に、 「圧力発生室」は「インク液が充填される圧力室」に、 「圧力発生室に連通して形成されたノズル開口」は「圧力室に連通して形成されたノズル孔」に、 「圧力発生室上に設けられた圧電素子」は「圧力室上に形成され、機械的伸縮により前記圧力室を変形させて当該圧力室に圧力を発生させ、前記ノズル孔からインクを吐出させる圧電素子」に、相当する。 イ 乾燥流体は湿度が低く、その露点温度の低いことは、当業者にとって自明のことである。 してみれば、引用発明の「乾燥流体を圧電素子保持部内に供給することで、圧電素子保持部内の湿度の上昇を防止し、圧電素子の水分に起因する破壊を防止する」と 本件補正発明の「乾燥気体を供給する露点制御手段と、を備え、 乾燥気体を、前記圧電素子に電圧を印加している状態で、前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に流し続けながら、 当該圧電素子の近傍雰囲気の露点を、前記インクジェット式記録装置が設置される環境の露点よりも低い値に保つ」とは、 「乾燥気体を供給する露点制御手段と、を備え、 乾燥気体を、前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に供給する」という点で共通する。 してみると、本件補正発明と引用発明とは以下の点で一致する。 <一致点> 「インク吐出により印字を行うインクジェット式記録装置であって、 インク液が充填される圧力室と、 前記圧力室に連通して形成されたノズル孔と、 前記圧力室上に形成され、機械的伸縮により前記圧力室を変形させて当該圧力室に圧力を発生させ、前記ノズル孔からインクを吐出させる圧電素子と、 乾燥気体を供給する露点制御手段と、を備え、 前記乾燥気体を、前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に供給するようにしたインクジェット式記録装置。」 一方で、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で相違する。 <相違点> 乾燥気体の供給に関し 本件補正発明では「乾燥気体を、前記圧電素子に電圧を印加している状態で、前記圧電素子および当該圧電素子の近傍に流し続けながら、 当該圧電素子の近傍雰囲気の露点を、前記インクジェット式記録装置が設置される環境の露点よりも低い値に保つ」と特定されるものであるのに対して、引用発明では上記特定を有していない点。 (4)判断 上記相違点について検討する。 ア 引用文献には「圧電素子の水分に起因する破壊」について具体的に明示されていないが、湿度の高い環境下で圧電素子に電圧を印加すると絶縁破壊の可能性が高いことは、本願出願前に周知の事実である(例えば、特開2000-43258号公報の【0007】、特開平11-206150号公報の【0004】、特開平4-315484号公報の【0008】及び【0010】、特開平4-145673号公報の第2頁左下欄乃至同頁右下欄、特開平4-85976号公報の第2頁右上欄を参照。以下「周知事実」という。)。 イ また、圧電素子の絶縁破壊を防止するために、圧電素子を格納したケース内に乾燥気体を通気することも、本願出願前に周知である(例えば、特開平8-153910号公報の【0005】乃至【0007】、特開平6-350157号公報の【0004】乃至【0012】、特開平4-327942号公報の【0007】乃至【0010】、特開平3-82376号公報の第2頁右上欄を参照。以下「周知技術」という。)。 ウ してみれば、引用発明において、「圧電素子の水分に起因する破壊」である「絶縁破壊」を防止するために、乾燥気体を圧電素子に電圧を印加している状態で圧電素子の近傍に流し続ける構成を採用することは、当業者が容易に着想し得たことである。 エ 引用発明において、上記ウの構成を採用すれば、「圧電素子の近傍雰囲気の露点を、前記インクジェット式記録装置が設置される環境の露点よりも低い値に保つ」ことができることになる。 オ 以上のことから、引用発明において、上記<相違点>に係る本件補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 また、本件補正発明の奏する効果も、引用発明、周知事実及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 (5)独立特許要件についてのまとめ 本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 補正却下の決定のむすび 上記「3」のとおり、本件補正発明は特許法第29条第2項の規定により 特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。 したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1(1)」にて本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3(2)」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、前記「第2 3(3)」で検討した本件補正発明から、「前記圧電素子に電圧を印加している状態で」及び「流し続けながら」という限定を省いたものに実質的に相当する。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-04-14 |
結審通知日 | 2010-04-20 |
審決日 | 2010-05-06 |
出願番号 | 特願2003-124099(P2003-124099) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大仲 雅人、横林 秀治郎 |
特許庁審判長 |
江成 克己 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 桐畑 幸▲廣▼ |
発明の名称 | インクジェット式記録装置 |
代理人 | 藤井 兼太郎 |
代理人 | 内藤 浩樹 |
代理人 | 永野 大介 |