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審決分類 審判 査定不服 4号方法の発明の実施に使用するもの。 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 1項2号公然実施 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1218757
審判番号 不服2008-18791  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-24 
確定日 2010-06-16 
事件の表示 特願2005-310167「医学的診断及び治療法のための神経細胞突起局在mRNAの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日出願公開、特開2006- 68021〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,1995年11月3日(パリ条約による優先権主張1994年11月3日,米国)を国際出願日とする出願(特願平8-515541号)をし,これを分割してその一部につき新たな特許出願をしたものであって,平成20年4月22日付で拒絶査定がなされたところ,平成20年7月24日に審判請求がなされるとともに,平成20年8月25日に手続補正がなされたものである。

第2 平成20年8月25日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月25日の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正により,請求項1は,
「特定神経細胞突起におけるmRNA発現をプロファイリングする方法であって,
(a)特定の神経細胞突起の細胞体又は突起中のmRNA集団をcDNAに転化すること,
(b)該cDNAを二重鎖にすること,
(c)該二重鎖cDNAをaRNAに線状に増幅させること,および
(d)該aRNAを逆相ノーザン分析におけるプローブとして用いて,mRNA発現プロフィルを作成すること
を含む方法。」
から,
「特定神経細胞突起におけるmRNA発現をプロファイリングする方法であって,
(a)細胞体からの異なる距離において離断することにより特定の神経突起細胞を単離すること,
(b)特定の神経細胞突起の細胞体又は突起中のmRNA集団をcDNAに転化すること,
(c)該cDNAを二重鎖にすること,
(d)該二重鎖cDNAをaRNAに線状に増幅させること,および
(e)該aRNAを逆相ノーザン分析におけるプローブとして用いて,mRNA発現プロフィルを作成すること
を含む方法。」に補正された。
なお,補正後の請求項の(a)にある「神経突起細胞」は「神経細胞突起」の誤記と認められるので,以下,「神経細胞突起」と統一して記す。

上記補正は,補正前の請求項1の発明を特定するために必要な事項となっていない,すなわち新たに追加された工程である「神経細胞突起の単離」について,「細胞体からの異なる距離において離断する」という限定を設けるものであるから,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものにあたらない。
したがって,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2.なお,仮に本件補正が,限定的減縮であるとした場合に,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について,念のために検討しておく。

(1)特許法第36条第6項第2号について
本願補正発明の「細胞体からの異なる距離において離断することにより特定の神経細胞突起を単離する」という発明特定事項について,発明の詳細な説明には,段落0011に,「隣接細胞からの重複突起を含まない単離された海馬細胞を低密度培養物中で同定した。これらの条件下で,ニューロンは単離された細胞として又は小さい2?4細胞群として,直接基質上で又はグリア細胞上で成長する。ニューロンはシナプス相互作用を含めた形態学的基準によって同定される。個々の近位神経細胞突起と遠位神経細胞突起とを,それらを細胞体からの異なる距離において離断し,アンチセンスRNA(aRNA)増幅処理の第1工程に必要な試薬を含むマイクロピペット中に吸引することによって,回収した。多くの場合,単一細胞から多重の突起を単離した後に,細胞体を吸引した。個々の神経細胞突起又は細胞体を下記aRNA増幅処理によって処理して,mRNA発現プロフィルを得た。細胞体中又は細胞突起中のmRNA集団をオリゴ-dT-T7プライマーを用いて相補的DNA(cDNA)に転化させた。cDNAを二重鎖にした後に,T7RNAポリメラーゼを用いてこれを線状に増幅させてaRNAにした。逆ノーザン分析のために,aRNAはmRNA発現プロフィルのプローブとして役立った。この後の実験では,aRNAを二重鎖cDNAにして,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる実験のための鋳型として用いた。」と説明されているように,個々の近位神経細胞突起と遠位神経細胞突起を単離するものである。
ところが,複数の神経細胞から,特定の複数の軸索を単離して集める場合,細胞体から全く同じ距離で離断することは困難であることから,「細胞体からの異なる距離において離断することにより特定の神経細胞突起を単離する」ようになるものであるし,また,1つの神経細胞から,その複数の特定の樹状突起を単離する場合にも,細胞体から全く同じ距離で離断することは困難であることから,「細胞体からの異なる距離において離断することにより特定の神経細胞突起を単離する」ようになるものである。
したがって,「細胞体からの異なる距離において離断することにより特定の神経細胞突起を単離する」というだけの記載では,個々の近位神経細胞突起と遠位神経細胞突起を単離することを必ずしも意味せず,明確ではないから,本願補正発明について,請求項1の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

(2)特許法第36条第4項について
本願補正発明の「特定の神経細胞突起の細胞体又は突起中のmRNA集団をcDNAに転化すること」という発明特定事項は,細胞体と突起を任意的に選択される事項として含んでいる。そして,このうち突起ではなく細胞体のmRNA集団を用いた場合に,特定神経細胞突起におけるmRNA発現をプロファイリングできるはずもなく,そのような発明が,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので,本願補正発明について,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

(3)進歩性について
i)引用例
原査定の拒絶の理由に,引用文献2として引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるSociety for Neuroscience Abstracts,Vol.19,No.1-3(1993)p.805(以下,「引用例2」という。)の327.16と番号付けされている抄録は,「海馬の神経突起中の種々のmRNAの存在」という表題であって,
「樹状突起分枝の最も遠位の部分へのmRNAの選別と輸送が,ニューロンが微環境に応答する能力において,重要な役割を果たすかもしれないことが提案された。理想的には,細胞の翻訳装置と共同して,軸索でのmRNAの量の局在化は,細胞がシナプスの信号に応じてタンパク質を局在的に合成する方法を提供するかもしれない。最近合成された放射性同位体標識されたRNAに関するオートラジオグラフによる局在化の研究は,mRNAの量が軸索への輸送のためにターゲットとなることを提案する。
現在の研究において,単一の神経突起の中にあるmRNAの量を評価するために,少し修正したin-situ転写方法はaRNA増幅と共に使用された。これらの実験は,電圧作動性チャネルやリガンド作動性チャネルのような候補cDNAのパネルを含んでいる逆ノーザンブロットを使用した。単一の神経突起およびそれらの同系統の神経細胞の分析は,細胞体と細胞の両方の中にあるのと同様に,細胞の軸索あるいは細胞体で豊むmRNAがあることを示唆する。候補遺伝子へのアプローチは利用可能なcDNAの数により限定されるが,また,それにより新しいmRNAの分布を決定することが可能である。この目的で,ニューロン中のポリA mRNAの分布を決定するために,aRNAの量はディファレンシャル・ディスプレイPCR(Sience257:967,1992)で検査された。予備的な証拠は,その特定のmRNAが差別的に軸索で分布することを示唆する。」と記載されている。

原査定の拒絶の理由に,引用文献1として引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるProc.Natl.Acad.Sci.USA.,Vol.89,No.7(1992)p.3010-3014(以下,「引用例1」という。)は,「単一の生きたニューロンにおける遺伝子発現の分析」の表題の論文であり,図2に示されるように,細胞中でmRNAを逆転写しcDNAとし,cDNAを二重鎖として鋳型として用い,aRNAを増幅する方法が記載されている。

ii)対比
引用例2には,単一の神経突起の中にあるmRNAを,in-situ転写とaRNA増幅し,候補cDNAのパネルを用いて逆ノーザンブロットにより調べることが記載されており,その逆ノーザンブロットにおいては,増幅されたaRNAは,当然にプローブとして使用されるものであるし,cDNAのパネルを用いたものであるから,個々のcDNAに対応するmRNAの発現の有無,すなわちmRNA発現プロフィルが作成されるものである。
そうすると,本願補正発明と引用例2に記載される発明は,「特定の神経細胞突起の突起中のmRNA集団を,aRNAに増幅させ,aRNAを逆相ノーザン分析におけるプローブとして用いて,mRNA発現プロフィルを作成する」点で一致しているが,以下の点で相違している。

相違点1:本願補正発明においては,細胞体からの異なる距離において離断することにより特定の神経細胞突起を単離するのに対し,引用例2には,単離方法が明記されていない点。
相違点2:本願補正発明においては,突起中のmRNA集団をcDNAに転化し,該cDNAを二重鎖にし,該二重鎖cDNAをaRNAに線状に増幅させるるのに対し,引用例2においては,in-situ転写とaRNA増幅が使用されたと記載されるだけである点。

iii)判断
(相違点1について)
引用例2の最後の文には,予備的な証拠により,その特定のmRNAが差別的に軸索で分布することが示唆されることが示されているのであるから,当業者であれば軸索の異なる部位を単離してみようとするものであるし,そのときには,当然に,細胞体からの異なる距離において離断することが必要になるものである。

(相違点2について)
引用例1には,単一の生きたニューロンにおいて,in-situでmRNAを逆転写しcDNAとし,cDNAを二重鎖として鋳型として用い,aRNAを増幅する方法が記載されており,引用例2と同じく,微量のmRNAをもとに,aRNAを増幅する技術に関するものであるから,当業者であれば,引用例2におけるin-situ転写とaRNA増幅に,引用例1に記載された方法を適用することは,容易になし得ることである。

したがって,本願補正発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

この点について請求人は,本願出願時にはRNAを回収するという目的をもって個々の神経突起細胞を単離した人はおらず,ほとんどの人がそれは不可能であると考えていたし,事実,単離される前にRNAは破壊されてしまうと考えていたはずであり,また,遺伝子発現の継時的変化を解析する際に使用されるディファレンシャルディスプレイ法は単一の細胞又は細胞の小区域に対して使用されておらず,何故ならば人々は複数のディファレンシャルディスプレイ生成物の良好な増幅を得るには神経突起細胞が材料として小さすぎると考えたはずだからであることを主張している。
ところが,引用例2には,神経細胞突起のmRNAをもとにaRNA増幅したことが示されているのであるから,当業者が,これを不可能であると考えるはずがないものである。また,ディファレンシャルディスプレイ法は本願の発明の要件とはなっていないものであるし,引用例2には,ディファレンシャル・ディスプレイPCR(Sience257:967,1992)で検査したことが記載されているのであるから,当業者がこれを利用できないとは考えるはずがないものである。

(4)むすび
したがって,仮に本件補正が限定的減縮であるとしても,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成20年8月25日の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1及び4に係る発明(以下,「本願発明1」及び「本願発明4」という。)は,平成18年8月17日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
特定神経細胞突起におけるmRNA発現をプロファイリングする方法であって,
(a)特定の神経細胞突起の細胞体又は突起中のmRNA集団をcDNAに転化すること,
(b)該cDNAを二重鎖にすること,
(c)該二重鎖cDNAをaRNAに線状に増幅させること,および
(d)該aRNAを逆相ノーザン分析におけるプローブとして用いて,mRNA発現プロフィルを作成すること
を含む方法。」
「【請求項4】
配列番号:1から配列番号:28までを含むcDNAクローン。」

第4 当審の判断
1.平成15年改正前特許法第37条について
本願発明1と本願発明4は,解決しようとする課題も主要部も明らかに相違している。
また,本願発明1を特定発明にした場合に,本願発明4は,本願発明1の方法に直接使用するものでないし,本願発明4を特定発明としても,本願発明1は,本願発明4のものを,生産し,使用し,又は,取り扱う方法でなく,特許法第37条に規定する要件を満足しない。
なお,平成20年8月25日の手続補正が却下されない場合であっても同様である。

2.進歩性について
本願発明1は,前記「第2 2.(3)」で検討した,本願補正発明と引用例2の相違点1を,発明特定事項として含まないものである。
したがって,前記「第2 2.(3)iii)」における,相違点2についての判断と同様の理由により,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから,本願発明1及び本願発明4について,本願は,特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
また,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願に係るその他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-20 
結審通知日 2010-01-21 
審決日 2010-02-03 
出願番号 特願2005-310167(P2005-310167)
審決分類 P 1 8・ 112- Z (C12N)
P 1 8・ 644- Z (C12N)
P 1 8・ 572- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 鵜飼 健
上條 肇
発明の名称 医学的診断及び治療法のための神経細胞突起局在mRNAの使用  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  

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