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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C21D
管理番号 1218770
審判番号 不服2006-16346  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-30 
確定日 2010-06-15 
事件の表示 特願2001-184073「レールを硬化する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月15日出願公開、特開2002- 47516〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第一 手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成13年5月16日(優先権主張2000年5月29日、オーストリア国)を国際出願日とする出願であって、その願書に添付した明細書又は図面についての平成18年6月30日付け手続補正がなされた後、平成17年8月30日付けで拒絶査定されたものである。
この拒絶査定を不服として、平成18年6月30日付けで本件審判請求がなされ、平成18年7月20日付けで手続補正がなされた。
その後、当審において、平成18年7月20日付け手続補正は却下され、平成21年10月6日付けで手続補正がなされた。

第二 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1?20に係る発明は、平成21年10月6日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。

「レール支持手段及び冷却装置からなり、オーステナイト組織から室温において安定な組織に組織を変態することによって、冷却によりレール又はレール頭部を硬化する装置において、レール支持手段が、50mより大きい長さのレール(1)に相当する長手方向延びを有しかつ箱プロファイル(20,21)を有しかつレールの曲げに対する大きな抵抗モーメントを有しかつレールに沿って間隔を置いて設けられる少なくとも3つの位置決め要素(3)及び締付け解除可能な締付け手段(4)を有する支持構造(2)として形成され、位置決め要素(3,3′)が、レール頭部の方へ向くレール脚の第1の面用の接触面(31,31′)を持ち、取外し可能な締付け手段(4,4′)が、レール脚の第1の面とは反対側の面用の接触面(41,41′)を持っていることを特徴とする、レール又はレール頭部を硬化する装置。」

2.当審の拒絶理由の概要
当審の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

この出願の請求項1?20に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開平8-170120号公報
引用文献2 特開平8-295938号公報
引用文献A 特開平1-246323号公報
引用文献B 特開昭59-74227号公報
引用文献C 特開平5-287365号公報
引用文献E 英国特許第195,147号明細書

3.当審の判断
(1)引用文献の記載事項
引用文献1、2,A、Eには、以下の記載がある(明瞭化のため下線を引いた。)。
引用文献1
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鉄系材料をγ域から冷却するときに形材表面部分からの排熱を強めて異形圧延材、特に走行用又は鉄道用軌条を熱処理するための方法であつて、軌条の希望する横断面範囲(単・複)、特に頭部範囲で強さを高め、特に耐摩耗性を高めまた硬さを高めた微細パーライト組織への変態が起き、場合によつては室温に冷却するとき、特に組織変態後に強力に冷却された横断面範囲(単・複)で長手軸線に対して垂直に圧延材、特に軌条の熱歪みによる変形又は反りが低減され、好ましくは実質的に防止され、圧延材の剛性及び両振り曲げ疲れ強さの向上が達成されるようになつたものに関する。」

引用文献2
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱間圧延を終えあるいは熱処理の目的で加熱されたオーステナイト域温度以上の熱を保有する高温のレールを、空気などの冷媒で冷却してパーライト変態させるための高温レールの冷却方法及びその装置に関するものである。」

引用文献A
(A-1)「本発明は、熱延直後、または再加熱してオーステナイト領域の温度を有しているレールを連続的に長手方向に移動させながら、空気等の冷媒を噴射することによりレール頭部を急冷させ、耐耗性の微細パーライトを形成させたレールを製造するための熱処理装置におけるレールの拘束装置に関するものである。」(1頁左下欄末尾7行)

引用文献E
引用文献Eには、以下の事項が記載されていると認められる。
(E-1)この装置は、ブラケットbによりローラーcを支持している水平のビームaからなり、ローラーcの上に、処理される(レールの)フランジや、ダブルヘッドレールの底部を支持するようになっている。ビームaの下には小さいタンクdが配置され、所定の量の冷水を蓄えており、水の量はレールのプロファイルによって定められ、各被処理物の処理後に新しくされる。800?850℃にて、ロール上に来たレールは、フランジ部においてビームaでつり下げられ、fig.2のように、レールのヘッドは自由に開放される。そのヘッドは水に漬けられ、その深さは、プロファイルによって変化する。そして、ヘッドには、処理されるレールの断面積と1m当たりの重量に応じて実験により決定された一連の浸漬がなされる(3頁左欄57行?3頁右欄79行)。

(E-2)焼きもどし処理(tempering)により湾曲形になる傾向のレールの変形を防ぐため、この装置には、例えば、締付けボルト(fastening bolts)eがビームaに沿って、備え付けられ、この装置に設置されたレールは、水平になるように保持され、ローラーcと、それに近接されたボルトとで、生じる変形を極小の変形に制限する(3頁右欄120行?4頁2行)。

(E-3)3.請求項2において、固定ボルト(locking bolts)、または締付けデバイス(fastening devices)のようなものがビームaに設けられ、処理中に、レールや処理対象物をしっかりと、維持し、焼入れプロセスにおいて、それらの変形を防止する装置(4頁右欄(請求項3.)42行?48行)。

(E-4)fig.1?4には、ビームaがレールに相当する長さを有し、断面形状が箱状であり、レールに沿って間隔をおいて5つのローラーc、及び2つの締付けボルト(fastening bolts)eを有するレールを支持する構造が記載され、ローラーcは、レール頭部の方へ向くレール脚の第1の面と接触し、締付けボルト(fastening bolts)eが、レール脚の第1の面とは反対側の面と接触していることが図示されている。

2.対比・判断
(1)引用発明の認定
引用文献Eには、水平のビームaと、それに設けられたブラケットbにより支持されたローラーcからなり、ローラーcは(レールの)フランジを支持し、ビームaの下には小さいタンクdがあり、冷水を蓄え、レールのヘッドが、この冷水に漬けられるようにした装置が記載されている(E-1)。

この装置は、焼入れ処理(tempering)により湾曲形になる傾向のレールの変形を防ぐための装置であり、さらに締付けボルト(fastening bolts)eが備え付けられており、ローラーcと、締付けボルト(fastening bolts)eとで、処理中に生じる(レールの)変形を極小の変形に制限する装置である(E-3)。

さらに、この装置は、請求項(claim)として、(E-3)に記載された装置であるから、上記締付けボルト(fastening bolts)eは、(E-3)に記載された締付けデバイス(fastening devices)とも言える。

この装置は、fig.1?4に図示されているように、ビームaがレールに相当する長さを有し、その断面形状を箱状とし、レールに沿って間隔をおいて5つのローラーc、及び2つの締付けボルト(fastening bolts)eを有し、ローラーcが、レール頭部の方へ向くレール脚の第1の面と接触用の接触面を持ち、締付けボルト(fastening bolts)eが、レール脚の第1の面とは反対側の面用の接触面を持つものを含むと認められる。

この装置の、レールに相当する長さでかつ箱状のビームaを有し、かつレールに沿って間隔を置いて設けられる複数のローラーc及び締付けボルト(fastening bolts)を有するレールを支持する構造は、レールを支持する手段と言える。

上記装置を、本願発明の記載ぶりにそって整理すると、引用文献Eには、以下の発明が記載されている。

「レールを支持する手段と冷水を蓄えたタンクdからなり、レールヘッドを冷却する装置において、レールを支持する手段が、断面形状が箱状のビームaを有し、かつ、レールに沿って間隔をおいて設けられた5つのローラーc、及び2つの締付けデバイス(fastening devices)を有する構造として形成され、ローラーcが、レールヘッドの方へ向くレール脚の第1の面と接触用の接触面を持ち、締付けボルト(fastening bolts)eが、レール脚の第1の面とは反対側の面用の接触面を持つレールヘッドを冷却する装置」(以下「引用発明」という。)

(3)本願発明と引用発明との対比
引用発明の「レールを支持する手段」、「冷水を蓄えたタンクd」、「断面形状が箱状のビームa」、「5つのローラーc」、「締付けデバイス(fastening devices)」は、それぞれ、
本願発明の「レール支持手段」、「冷却装置」、「箱プロファイル」、「すくなくとも3つの位置決め要素」、「締付け手段」に相当する。

したがって、本願発明と、引用発明とは以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「レール支持手段及び冷却装置からなり、レール頭部を冷却する装置において、レール支持手段が、レールに相当する長手方向延びを有しかつ箱プロファイルを有し、かつレールに沿って間隔を置いて設けられる少なくとも3つの位置決め要素及び締付解除可能な締付け手段を有する支持構造として形成され、位置決め要素が、レール頭部の方へ向くレール脚の第1の面用の接触面を持ち、取外し可能な締付け手段が、レール脚の第1の面とは反対側の面用の接触面を持っている装置。」

(相違点)
相違点1
本願発明は、「オーステナイト組織から室温において安定な組織に組織を変態することによって、冷却によりレール又はレール頭部を硬化する装置」であるのに対して、
引用発明は、「レールヘッドを冷水に漬けるようにした装置」である点。

相違点2
本願発明は、「レール支持手段が、50mより大きい長さのレールに相当する長手方向延び」を有しかつ「レールの曲げに対する大きな抵抗モーメント」を有しているのに対して、
引用発明は、レールを支持する手段の、長さと長手方向延び、抵抗モーメントについては不明の点。

相違点3
本願発明は、「少なくとも3つ」の「締付け解除可能」及び「取外し可能」な「締付け手段」を備えているのに対して、
引用発明は、「2つ」の「締付けデバイス(fastening devices)」しか備えておらず、上記「締付け解除」及び「取外し」については不明の点。

(4)相違点についての判断
相違点1について、
本願発明の「オーステナイト組織から室温において安定な組織に組織を変態することによって、冷却によりレール又はレール頭部を硬化する」ことは、本願発明の装置の使用方法としてレールの組織、硬さを規定したものであり、本願発明の装置の特定事項とはいえず、相違点1は、実質的な相違点ではない。

仮に、相違点であるとしても、「オーステナイト組織から室温において安定な組織に組織を変態することによって、冷却によりレール又はレール頭部を硬化する」ことは、引用文献1、2、Aに記載されているように周知技術であり、引用発明において、同様にすることは、当業者が適宜なし得たことである。

相違点2について
引用発明のレールを支持する手段は、レールの長さに応じて適宜の長さに設計できるものであるから、支持する手段が、周知の50mより大きい長さのレールに応じて、該レールに相当する長手方向に延びを有するように設計することは、当業者が適宜なし得たことである。

また、レールを支持する手段は、レールの曲がりを防止するのであるから、「レールの曲げに対する大きな抵抗モーメント」を有するようにすることは当然であり、当業者が適宜なし得たことである。

相違点3について
引用発明の、2つの締付けデバイス(fastening devices)を、さらに増やして締め付ければ、よりレールの変形を防止できることは、当業者が容易に予測できることであるから、少なくとも3つ備えることは、当業者が適宜なし得たことである。

また、引用発明の締付けデバイス(fastening devices)において、締付け後は普通解除する必要があるし、取外す必要があれば、それらの必要に応じて、「締付け解除可能」及び「取外し可能」にすることは、当業者が適宜なし得たことである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献Eに記載された発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-25 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願2001-184073(P2001-184073)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 葉子  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 植前 充司
山本 一正
発明の名称 レールを硬化する方法及び装置  
代理人 中平 治  

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