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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1218952
審判番号 不服2008-19232  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-30 
確定日 2010-06-21 
事件の表示 特願2002-548042「高精度混合を実施するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月13日国際公開、WO02/46317、平成16年 9月 2日国内公表、特表2004-526943〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年12月4日(パリ条約による優先権主張平成12年12月6日、米国、平成13年10月17日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年12月27日付け拒絶理由通知に対して、平成18年4月11日付けで手続補正が、同年11月30日付拒絶理由通知に対して、平成19年3月2日付けで手続補正が、そして、同年9月28日付け拒絶理由通知に対して、同年12月25日付けで手続補正がされたが、平成20年年4月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

そして、本願の請求項1?10に係る発明は、平成19年12月25日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲請求項1?10に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。
「【請求項1】所望の範囲内の色度を生成する蛍光ランプを製造するための蛍光体の適切な混合を求めるための方法であって、該方法は、
所望の色度を得るために、各蛍光体の混合物に対する各蛍光体の量を計算するステップ(108)であって、前記蛍光体のそれぞれが、初期重量及びスペクトル内容を有する、ステップ(108)と、
前記蛍光体を混合して、初期作業混合物を生成するステップ(110)と、
前記初期作業混合物を使用して初期プロトタイプを準備するステップ(112)と、
前記初期作業混合物における前記蛍光体の励起に基づき、前記初期プロトタイプの色度を測定するステップ(114)と、
前記蛍光体の前記初期重量及び前記スペクトル内容に基づき、前記初期作業混合物の初期重み付け色度を決定するステップと、
前記初期作業混合物の前記初期重み付け色度が前記初期プロトタイプの前記測定された色度に収束するまで、前記蛍光体の前記初期重量を調整するステップと、
前記初期プロトタイプの前記色度と色度の前記所望の範囲とを比較し、前記初期プロトタイプの前記色度が、前記色度の所望の範囲内にあるか判定するステップ(116)と、
前記初期プロトタイプの前記色度が色度の前記所望の範囲外にある場合には、コンピュータを媒介して、蛍光体量の初期調節量を計算するステップ(118)と、
蛍光体量の前記初期調節量を前記初期作業混合物に追加して、後続作業混合物を生成するステップ(110)と、
前記後続作業混合物を使用して後続プロトタイプを準備するステップ(112)と、
前記後続作業混合物における蛍光体の励起に基づき、前記後続プロトタイプの色度を測定するステップ(114)と、
前記後続プロトタイプの前記色度と色度の前記所望の範囲とを比較し、前記後続プロトタイプの前記色度が、色度の前記所望の範囲内にあるか判定するステップ(116)と、
前記後続プロトタイプの前記測定された色度が前記所望の範囲内に収束するまで、前記後続作業混合物における前記蛍光体の前記重量を調整するステップ、
を含む方法。」

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「照明学会誌」第66巻 第12号、昭和57年12月社団法人照明学会発行(以下、「引用例1という。)第544?549頁には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(1-ア)「4 .蛍光体
蛍光体は,紫外線を特定の可視光色に変換する機能を有するわけであるが,その光色を実現する分光分布は無数に存在している.この無数の分光分布の中で,ランプの可視変換効率や演色性に有利な分光分布は,どのようなものであるかを知ることは光源開発上きわめて重要である.
従来,蛍光ランプや蛍光水銀ランプは,用途に合わせた最適な光色を出すために,様々な分光分布を持つ蛍光体を単体または混合して,試行錯誤によって選び出すというたいへんばく大な時間を要するものであったが,近年のコンピュータの発展と計算技術の進歩により,この分野もシミュレーションにより結果を予測できるに至った.
H. F. Iveyは,白色光で最高の効率を与える分光分布を決定するためにシミュレーションを行ない,445nmと570?590nmにピークを有する蛍光体を混合すれば,この目的を達成できることを報告し,さらに実際の蛍光ランプ,および蛍光水銀ランプに関し詳細な研究を行なった.そして白色光の最も高い効率は,発光ピークが445nmと580?590nmにあり,幅の狭い発光スペクトルを有する二つの蛍光体を混合したときに,2600Kの黒体軌跡上に色温度を有し,効率114.5lm/Wが得られることを示した.
W. Walterは,蛍光ランプにこの方式とさらに演色性と効率の関係を考慮してシミュレーションを行ない,効率と演色性には,逆の関係があることを理論計算から導いた.
W. A. Thorntonは,Walterと同様の結論を出し,新たに3種の蛍光体を用いる方法を提案した.Thorntonはシミュレーションの結果,450nm,540nmおよび610nmの三つの波長域に発光を集中させれば,平均演色評価数R_(a)が約80の高演色性と高効率が得られることを示した.この基本概念は,最近商品化された3波長域発光形蛍光ランプの基礎となっている.M. Koedomらも同様の結論を示した.さらにH. H. Haftらは白色と同じ効率77.5lm/Wで,R_(a)=83,色温度4300Kの3波長域発光形蛍光体組成を実現した.」(第548頁左欄第3行?右欄第2行)

上記摘記事項(1-ア)の記載から、分光分布を決定するためのコンピュータを用いたシミュレーションは、蛍光ランプの開発を目的としたものであることが読み取れる。
上記摘記事項(1-ア)の記載から、2種または3種の蛍光体の混合比をシミュレーションすることが読み取れる。

これらの記載事項によると、引用例には、次の発明(以下、「引用例発明という。」)が記載されていると認められる。

「白色を生成する蛍光ランプを開発するために蛍光体の最適な混合を求めるための方法であって、
白色を得るために複数の蛍光体の混合比をシミュレーションするステップを有し、
前記ステップでの計算結果を用い、蛍光ランプの開発を行うことを含む方法」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「染色工業」第33巻 第8号、昭和60年7月 株式会社色染社発行(以下、「引用例2という。)第403?409頁には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(2-ア)「CCMシステムは各種販売されているが,使用機器,計算方式等でCCM精度が微妙に変わってくる.しかしいずれにしてもCCMの基本はKubelka-Munkの式を基礎としてソフトウエアが確立されており,しかも便宜的にサンプルとマッチング結果のトータル積分値を合わせるメタメリズム方式をとらざるを得ないために,CCMソフト自体内容的には各社ともそう大差ないものと思われる.市販されているCCMシステムはすべて一発処方という訳にはいかないにしても一次処方による試染データを使って,処方修正をするなどの方法でかなり好結果が得られるため,従来の目視による勘の手作業にくらべ試染回数は1?3回程度でよく,試染回数の減少と精度ある的確なマッチングとして有効に利用することができる.
しかし,測定方式,処方計算,染料の選択,染色物の演色性など多くの問題点があるために,一般的にはそれらを考慮してCCMを行っている.」(第403頁左欄第9?26行)

(2-イ)「3. 市販CCMシステムの一次処方予測精度について
CCMシステムを市販しているメーカは我国で10社以上にのぼっている.そこで全国の染色業者に納入実績のある大手CCMシステムメーカ2社のCCMシステムから出力される一次処方予測の精度を比較する機会を得たので参考までにその内容についてふれてみたい.
まず,実験の条件としては無蛍光のアクリル用カチオン染料によってあらかじめ三原色で染色した既知濃度の見本色をポリクロマチック方式で測色し,三原色も同様の方式で測色したものを用い見本色に対する混色予測を行った.市販しているCCMソフトでは一次処方を見本色の三原色を用いた場合,どの程度の精度でマッチングさせることが可能か極めて興味深く,そのCCM結果は当場予測結果とも合わせて第2表のようなデータが得られた.染色物はいずれもポリクロマチック方式の分光反射率からX,Y,Zを算出し,その値をマンセル値に変換し,目で見た感覚として表現してみたものであるが,マンセル値で若干の差はあっても,実際に目で見た感じでは見本と比較した場合,各方式とも大差は見られない.
CCMの条件としてまったく基本的には問題ない条件であるため,各社のソフトレベルによってどれだけ既知濃度まで近づけることができるか興味あるデータであったが各社ともいずれもほとんど差がなく,一次処方算出のソフトレべルとしてはどの方式も大差のない結果を示している.
また予測データはほとんど補正する必要がなく,精度の高い値であるが,これを一回補正することによって見本色の既知濃度とほとんど一致させる分量を補正することは各社とも可能なはずである.勿論この方法は見本色に使用した三原色を用いて処方予測をするという極めてCCMではよい条件であるが,各社が目標値に向かってどの程度精度よくアプローチすることができたか「一次処方予測」に限定してこの結果を見る限りではCCMソフトはほとんど同じレべルにあろと予想される.」(第407頁左欄第5行?第408頁左欄第1行)

(2-ウ)第2表「見本色に対するCCM一次処方と試染結果」には、黄色(Y)、赤色(R)、青色(B)の成分比によるCCM一次処方の結果が表形式で記載されている。(第408頁))

3.対比・判断
本願発明と引用例発明とを対比する。
(1)引用例発明の「白色を生成する蛍光ランプを開発するための蛍光体の最適な混合を求めるための方法」と、本願発明の「所望の範囲内の色度を生成する蛍光ランプを製造するための蛍光体の適切な混合を求めるための方法」とは、開発をもとに製造が行われるという技術常識からみて、「所望の色度を生成する蛍光ランプを開発するための蛍光体の適切な混合を求めるための方法」という点で共通する。
(2)引用例発明の「白色を得るために複数の蛍光体の混合比をシミュレーションするステップ」と、本願発明の「所望の色度を得るために、各蛍光体の混合物に対する各蛍光体の量を計算するステップ(108)であって、前記蛍光体のそれぞれが、初期重量及びスペクトル内容を有する、ステップ(108)」とは、蛍光体の混合に係る計算を行っていることから、「所望の色度を得るために、各蛍光体の混合物に対する各蛍光体の混合に係る計算を行うステップ」という点で共通する。

(3)プロトタイプを開発段階に作成することは一般的な開発手法であることからみて、引用例発明の「前記ステップでの計算結果を用い、蛍光ランプの開発を行うこと」と、本願発明の「前記蛍光体を混合して、初期作業混合物を生成するステップ(110)と、
前記初期作業混合物を使用して初期プロトタイプを準備するステップ(112)と、
前記初期作業混合物における前記蛍光体の励起に基づき、前記初期プロトタイプの色度を測定するステップ(114)と、
前記蛍光体の前記初期重量及び前記スペクトル内容に基づき、前記初期作業混合物の初期重み付け色度を決定するステップと、
前記初期作業混合物の前記初期重み付け色度が前記初期プロトタイプの前記測定された色度に収束するまで、前記蛍光体の前記初期重量を調整するステップと、
前記初期プロトタイプの前記色度と色度の前記所望の範囲とを比較し、前記初期プロトタイプの前記色度が、前記色度の所望の範囲内にあるか判定するステップ(116)と、
前記初期プロトタイプの前記色度が色度の前記所望の範囲外にある場合には、コンピュータを媒介して、蛍光体量の初期調節量を計算するステップ(118)と、
蛍光体量の前記初期調節量を前記初期作業混合物に追加して、後続作業混合物を生成するステップ(110)と、
前記後続作業混合物を使用して後続プロトタイプを準備するステップ(112)と、
前記後続作業混合物における蛍光体の励起に基づき、前記後続プロトタイプの色度を測定するステップ(114)と、
前記後続プロトタイプの前記色度と色度の前記所望の範囲とを比較し、前記後続プロトタイプの前記色度が、色度の前記所望の範囲内にあるか判定するステップ(116)と、
前記後続プロトタイプの前記測定された色度が前記所望の範囲内に収束するまで、前記後続作業混合物における前記蛍光体の前記重量を調整するステップ」とは、「前記ステップでの計算結果を用い、蛍光ランプの開発を行うこと」という点で共通する。

以上、(1)?(3)の考察から、両者は、

(一致点)
「所望の色度を生成する蛍光ランプを開発するための蛍光体の適切な混合を求めるための方法であって、
所望の色度を得るために、各蛍光体の混合物に対する各蛍光体の混合に係る計算を行うステップを有し、
前記ステップでの計算結果を用い、蛍光ランプの開発を行うことを含む方法」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
「所望の色度を得るために、各蛍光体の混合物に対する各蛍光体の混合に係る計算を行うステップ」において、本願発明が、「蛍光体のそれぞれが、初期重量及びスペクトル内容を有」し、かつ「各蛍光体の混合物に対する各蛍光体の量を計算する」のに対し、引用例発明ではシミュレーションを行っているものの、具体的計算方法の記載が不明である点。

(相違点2)
前記ステップでの計算結果を用い、蛍光ランプの開発を行うことが、本願発明では、「前記蛍光体を混合して、初期作業混合物を生成するステップ(110)と、
前記初期作業混合物を使用して初期プロトタイプを準備するステップ(112)と、
前記初期作業混合物における前記蛍光体の励起に基づき、前記初期プロトタイプの色度を測定するステップ(114)と、
前記蛍光体の前記初期重量及び前記スペクトル内容に基づき、前記初期作業混合物の初期重み付け色度を決定するステップと、
前記初期作業混合物の前記初期重み付け色度が前記初期プロトタイプの前記測定された色度に収束するまで、前記蛍光体の前記初期重量を調整するステップと、
前記初期プロトタイプの前記色度と色度の前記所望の範囲とを比較し、前記初期プロトタイプの前記色度が、前記色度の所望の範囲内にあるか判定するステップ(116)と、
前記初期プロトタイプの前記色度が色度の前記所望の範囲外にある場合には、コンピュータを媒介して、蛍光体量の初期調節量を計算するステップ(118)と、
蛍光体量の前記初期調節量を前記初期作業混合物に追加して、後続作業混合物を生成するステップ(110)と、
前記後続作業混合物を使用して後続プロトタイプを準備するステップ(112)と、
前記後続作業混合物における蛍光体の励起に基づき、前記後続プロトタイプの色度を測定するステップ(114)と、
前記後続プロトタイプの前記色度と色度の前記所望の範囲とを比較し、前記後続プロトタイプの前記色度が、色度の前記所望の範囲内にあるか判定するステップ(116)と、
前記後続プロトタイプの前記測定された色度が前記所望の範囲内に収束するまで、前記後続作業混合物における前記蛍光体の前記重量を調整するステップ」と、蛍光体のプロトタイプを作成し、測色を行い、その結果を基に蛍光体の混合量の調整を行うか否かを判断し、調整が不要になるまで調整したプロトタイプを作成するという工程、及び、測色結果をもとに計算の基礎となるデータの補正を行うことに相当するステップである「前記蛍光体の前記初期重量及び前記スペクトル内容に基づき、前記初期作業混合物の初期重み付け色度を決定するステップ」を有しているのに対し、引用例発明では、そのような具体的構成を有するか否か不明である点。
また、上記相違点に伴い、方法の目的が、本願発明では、「所望の範囲内の色度を生成する蛍光ランプを製造するため」であるのに対し、引用例発明では、「白色を生成する蛍光ランプを開発するため」である点。

(4)当審の判断
(ア)(相違点1)について
上記(2-ア)乃至(2-ウ)からみて、引用例2には、蛍光を含む材料の混色を、コンピュータを用いた色計算手法であるCCM(Computer Color Matching)を用いて、一次処方予測として、混色する3種類の材料の混合比に係る量を計算しており、実測値との比較に分光反射率を用いていることが読み取れる。
そして、この計算にあたっては、各材料のスペクトルに係るデータが必要であることは当然のことであり、かつ、混合比をもとに各材料の重量に算出することは、実際の色混合を行う際に当然行うべき事項であることからみて、引用例2には、蛍光を含む材料の混色を、CCMを用い、混色する3種類の材料の混合比に係る量を計算しており、すなわち、計算過程に蛍光体の重量及びスペクトルに係る情報が含まれ、用いられていることが記載されているといえる。

よって、引用例発明に記載された蛍光体の混合比をシミュレーションするステップに対し、計算機を用いた混色技術という同一分野に属する引用例2に記載された計算手法を適用し、本願発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

(イ)(相違点2)について
(a)混色を要する物の製造技術分野において、各色の材料の混合比を求め、それをもとに材料を配合して試作し、測色を行った結果を基に蛍光体の混合量の調整を行うか否かを判断し、調整が不要になるまで調整したものを作成する技術は、本願の優先権主張の日前に周知の技術である。

例えば、特開2000-111408号公報には次の記載がある。
「【0027】複数種とは、少なくとも2種類であるが、3種類以上であってもよい。組み合わせる複数種の透明樹脂ペレットが決まれば、得られる混合ペレットの色は、各透明樹脂ペレットの測色値とその配合割合との関数で表される。
<調色方法(1)>具体的には、測色装置として分光光度計を用いた場合、個々のペレットの分光反射率Rから以下の計算式で混合ペレットの色が算出できる。
【0028】
K/S=(1-R)^(2 )/2R …(1)
(K/S)_(m) =(K/S)_(1) ×C_(1) +・・・+(K/S)_(i )×C_(i) …(2)
K/S:吸収係数/散乱係数
(K/S)_(m) :混合ペレットの予測値
(K/S)_(1-i) :個々のペレットの測定値
C1 :各ペレットの配合割合(C_(1) +・・・+C_(i) =1)
すなわち、個々のペレットの分光反射率R1-i から(1)式で(K/S)_(1-)iが求められ、(K/S)_(1-i )とC_(1-i) とから(2)式で混合ペレットの(K/S)_(m) が予測される。
【0029】(K/S)_(m) から、混合ペレットの分光反射率R_(m )やL* 、a* 、b* (CIE1976)などの色に関する情報値を算出することができる。逆に、目的色のL* 、a* 、b* やRm から(K/S)_(m) を求め、その(K/S)_(m )値が得られるように、ペレット配合割合C_(1-i) を決定することもできる。目的とする混合色が決定すれば、複数種の透明樹脂ペレットの配合割合を算出することができる。このような調色技術は、通常の塗料や着色樹脂の製造における調色技術と基本的に同じである。
・・・(中略)・・・
【0040】【発明の実施形態】〔透明樹脂ペレットの測色〕図1に示す透明樹脂ペレットの測色装置は、ペレット支持バット10と測色計20とパーソナルコンピュータ30とを備えている。ペレット支持バット10は、ホウロウ容器であり、図2に平面形状を示すように、全体が矩形の浅い皿状をなしている。ペレット支持バット10の内底面は白色になっている。ペレット支持バット10には、測色を行う透明樹脂ペレット40はペレット支持バット10の周壁とほぼ同じ一様な厚みでペレット支持バット10の内部に層状に堆積されている。
【0041】測色計20は、ペレット支持バット10の真上に間隔をあけて配置されている。測色レンズなどを備えた測色部22で透明樹脂ペレット40の表面の一定範囲について測色を行う。図2に示すように、測色計20の測色範囲Eは、ほぼ楕円形状をなしている。測色計20で得られた測色情報を含む電気的信号は、パーソナルコンピュータ30に入力され、色相や濃度などの色の評価を行うための情報に変換するソフトウェアで演算処理され、パーソナルコンピュータ30のモニタ画面で、透明樹脂ペレット40の測色情報を確認することができる。測色結果は、パーソナルコンピュータ30に接続されたプリンタで紙に打ち出すことができる。また、予め目標とする標準色および標準色に対する色差の許容範囲を決めておけば、この標準色と測定色との色差が許容範囲を超えたときに警報を発する警告灯36を備えておくことができる。
【0042】透明樹脂ペレット40の測色は、ペレット支持バット10の1個所だけで行ってもよいが、図2に示すように、ペレット支持バット10の全体に等分に配置された複数個所E1 ?E9 で測色を行い、その結果を、パーソナルコンピュータ30で総合的に評価することで、ペレット支持バット10内での透明樹脂ペレット40の分布や姿勢の偏り、照明光のばらつきなどの誤差要因を無くして、より正確な測色情報を得ることができる。
〔調色装置〕図3に示す透明樹脂ペレットの調色装置は、測色計20、制御コンピュータ34、混合装置50、コンベア60などを備えている。
・・・(中略)・・・
【0045】コンベア60のうち、吐出口58の下流側で回収容器62の手前の上方位置に測色計20が配置されている。コンベア60の上に層状に堆積した混合ペレット40mが測色計20で測色される。測色計20で得られた測色情報は、制御コンピュータ34に送られる。制御コンピュータ34には、調色すべき目的の色に関する情報が記憶されており、目的色と実際の測定色とが比較処理される。
【0046】測定色と目的色との色差が許容範囲内であれば、そのまま作業が継続され、回収容器62に回収された混合ペレット40mが透明樹脂成形体の成形に使用される。前記色差が許容範囲を超えていると、制御コンピュータ34から混合装置50に指令が出され、各透明樹脂ペレット40a、40b、40cの混合割合が修正される。このとき、予め測色されて制御コンピュータ34に記憶されている各透明樹脂ペレット40a、40b、40cの測色情報を元にして、配合割合を増やすべきペレットと減らすべきペレットとを選択する。
【0047】混合割合が変更された後で、混合ペレット40mに対する測色計20の測色情報から、測定色と目的色との色差が許容範囲内に入ればよいし、まだ許容範囲を外れていれば、再び混合装置50における混合割合の修正が行われる。なお、各ホッパ52…内に収容された透明樹脂ペレット40a…の色にバラツキがある場合には、一度は測定色と目的色とが一致しても、その後に経時的に目的色と測定色との色差が拡大する場合があり、その場合にも、前記した混合割合の修正作業が行われる。ホッパ52…に新たな生産ロットの透明樹脂ペレット40a…が供給されたりした場合にも、混合割合の修正が必要になる。」(段落【0027】?【0047】)

また、特開平2-108930号には次の記載がある。
「第3図には、色処方作成の基本的なフローチャートが示されている。第1図による測定レイアアウトか、好ましくはチューリッヒ、リーゲンスドルフのグレターク社(Gretag AG)の分光光度計SMP100によってマスター6の分光測光的分析が行われる。測定値(反射曲線R(λ)または測色値X、Y、Z)は、入手しうる着色料iの表面状態に無関係な光学データにKiとSi、およびその他の制約条件、例えば、構成される組合せの形式(着色料の数が3か4かそれ以上の組合せか)、組合せの法則(様々な着色料群から着色料iだけか)、着色料の材料費などと共にコンピュータに供給される。さらに付加的条件として、反復のしきい値ΔEと最小色偏差ΔFも共にコンピュータに送られ、計算はその後に実行される。その後、もし、可能性あるあらゆる組合せが尽きると、このマスターは利用できる着色料iを用いては再現しえないことになる。しかし、このようなことは、普通は起こらず、適切な着色料の組合せと、組み合わせた着色料の既知のKi、Siからの係数のマトリックスの構成が次の段階になる。好ましくは3ビーム理論による係数の計算によって、最初の近似的処方C_(1)、C_(2)、・・・、C_(i)が得られる。この処方と共に仮想の反射曲線R_((λ))*が計算され、マスターについて測定されたR_((λ))と比較される。もし2つの反射曲線R_((λ))とR_((λ))*の差が反復のしきい値ΔEよりも大きければ作業が反復され、より改良された処方が計算される。反射曲線R_((λ))とR_((λ))*の差が反復のしきい値ΔEよりも小さいか等しくなると、その色処方Cが表示器14上に表示される。彩色は、この処方C_(1)、C_(2)、・・・、C_(i)に照らして調整される。続く第2の試料61が再び分光光度分析され、第2の反射曲線R_(1(λ))がマスター6の反射曲線R_((λ))と比較される。もしも、その差が所定の最小色偏差値ΔFよりも小さければ、調整は成功したと見なされる。もし、そうでなければ、入力データ(例えば、反復のしきい値ΔE、2次的条件、あるいは、最小色偏差値ΔFさえも)を再検討して調整したうえ全作業を反復する必要がある。」(第5頁左下欄第1行?右下欄第20行)

(b)一般的に、計算機によるシミュレーションを行う場合、シミュレーションの精度を上げるために実測値をもとにシミュレーションのデータを補正することは広く行われていることであり、コンピュータを用いた混色計算を行う分野においても、測色結果をもとに計算の基礎となるデータを補正することは、本願優先権主張の日前に周知の技術である。

例えば、特開平2-108930号公報には、次の記載がある。
「この分析は、第1図による測定装置のレイアウトを用い、反射光の光沢成分無しで行ってもよいが、従来の積分球ジオメトリ-を用いることもでき、その場合は光沢も共に測定されるので、測定結果は試料(配色較正済み)の表面状態に左右されることになる。したがって、従来の方法で決定されたデータはその後の処理の前に修正される必要がある。」(第5頁左上欄第14行?右上欄第1行)

また、特開平4-155226号公報には次の記載がある。
「したがって、本発明は、コンピュータ・カラーマッチングを用いて着色剤の配合割合を決める方法において、色合わせ目標色の各分光反射率ρ_(Tar(λ))と、着色剤を塗布する支持体もしくは、当該支持体に明度が最大の着色剤を塗工してなる支持体の各分光反射率ρ_(Rea(λ))とを比較し、ρ_(Tar(λ))のいずれかの波長が、ρ_(Rea(λ))より大きい反射率を有する場合においては、ρ_(Tar(λ))(またはそれから求まる三刺激値X_(Tar)、Y_(Tar)、Z_(Tar))に一定の係数ε(ただし、εは0<ε<1の実数を示す)を乗じて、色合わせ目標色の補正分光反射率ρ^(*)_(Tar(λ))(または補正したX^(*)_(Tar)、Y^(*)_(Tar)、Z^(*)_(Tar))を求め、当該補正分光反射率ρ^(*)_(Tar(λ))(または当該補正三刺激値X^(*)_(Tar)、Y^(*)_(Tar)、Z^(*)_(Tar))に対して着色剤の配合割合から求められる演算上の分光反射率ρ_(Cal(λ))(または演算上のX_(Cal)、Y_(Cal)、Z_(Cal))を一致させるよう演算し、ρ_(Tar(λ))のいずれかの波長がρ_(Rea(λ))より大きい反射率を有さない場合においては、ρ_(Tar(λ))(またはρ_(Tar(λ))から求められる三刺激値X_(Tar)、Y_(Tar)、Z_(Tar))に対して、着色剤の配合割合から求められる演算上の分光反射率ρ_(Cal(λ))(または演算上の分光反射率ρ_(Cal(λ))から求められる三刺激値X_(Cal)、Y_(Cal)、Z_(Cal))を一致させるよう演算し、着色剤の配合を決めることを特徴とする着色剤の調整方法、
並びに、コンピューターカラーマッチングを用いて着色剤の配合割合を決める方法において、色合わせ目標色の各分光反射率ρ_(Tar(λ))と着色剤を塗布する支持体もしくは、当該支持体に明度が最大の着色剤を塗工してなる支持体の各分光反射率ρ_(Rea(λ))とを比較し、ρ_(Tar(λ))のいずれかの波長がρ_(Rea(λ))より大きい反射率を有する場合においては、着色剤の配合割合から求められる演算上の分光反射率ρ_(Cal(λ))に対して、一定の係数1/ε(εは0<ε<1の実数を示す)を乗じて求めたρ^(*)_(Tar(λ))から求まる演算上の補正三刺激値X^(*)_(Cal)、Y^(*)_(Cal)、Z^(*)_(Cal)または分光反射率ρ_(Cal(λ))から求められる三刺激値X_(Cal)、Y_(Cal)、Z_(Cal)に対して、-定の係数1/ε(ただしεは0<ε<1の実数を示す)を乗じて、演算上の補正三刺激値X^(*)_(Cal)、Y^(*)_(Cal)、Z^(*)_(Cal)を求め、当該目標色の三刺激値X_(Tar)、Y_(Tar)、Z_(Tar)に対して、前記演算上の補正三刺激値X^(*)_(Cal)、Y^(*)_(Cal)、Z^(*)_(Cal)を一致させるよう演算し、ρ_(Tar(λ))のいずれかの波長が、ρ_(Rea(λ))より大きい反射率を有さない場合においては、ρ_(Tar(λ))から求められる三刺激値X_(Tar)、Y_(Tar)、Z_(Tar)に対して、着色剤の配合割合から求められる演算上の分光反射率ρ_(Cal(λ))から求められる三刺激値X_(Cal)、Y_(Cal)、Z_(Cal)を一致させるよう演算し、着色剤の配合割合を訣めることを特徴とする着色剤の調整方法を提供するものである。」(第4頁左上欄第7行?右下欄第2行)

(c)したがって、引用例発明の蛍光ランプ開発の具体的工程として、混色を要する物の製造技術分野における周知の各色の材料の混合比を求め、それをもとに材料を配合して試作し、測色を行った結果を基に蛍光体の混合量の調整を行うか否かを判断し、調整が不要になるまで調整したものを作成する技術を採用し、計算精度を上げるために周知の補正技術を付加し、本願発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、上記の周知技術の採用の際に、物の製造過程に係る技術常識を参酌し、引用例発明の混色目的を開発から製造に変更し、本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明の奏する効果についても、引用例及び周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

(ウ)なお、請求人は、審判請求書において、次の主張を行っている。
(a)請求項1の「蛍光体の初期重量及びスペクトル内容に基づき、初期作業混合物の初期重み付け色度を決定し、初期重み付け色度が初期プロトタイプの測定された色度に収束するまで、蛍光体の初期重量を調整すること。」は、「正規化」等の工程に相当するものとして、「『正規化』機能とは、初期プロトタイプを作成する段階で、測定計器の較正を自動的に行って測定計器に起因する測定偏差を補償する機能であるが、具体的には、蛍光体の初期重量及びスペクトル内容に基いて決定される理論値である『初期重み付け色度』と、測定計器毎にバラツキのある測定値である『色度』との偏差を、蛍光体の初期重量を調整して打ち消すようにしたものである。
そして、本願発明は、その特有の構成に基づき、明細書記載の作用・効果を奏するものであるところ、このような本願発明の構成は、引用文献1?3には記載も示唆もされていない。」

(b)「引用文献2の『蛍光のある染料のCCMについては的確なCCM方式が確立されていない現状であり、その実際についてはあまり知られていない。』(『2a.』参照)、『蛍光を含むCCMは条件が複雑であり、簡単に解決できる問題ではない。』(『2b.』参照)等の記載からみて、引用文献2は、蛍光体配合へのCCMの適用が困難であることを示唆するものであると言える。なお、この点に関し、上記拒絶査定の備考後段において、『当該記載により、当業者が蛍光体配合にコンピュータカラーマッチングを適用することが不可能であると判断するとまでは言えない。』と述べられているが、その根拠は特段示されていない。」旨を主張。

上記主張を検討するに、上記(a)に関し、上記(イ)(b)で検討したとおり、混色等各種シミュレーションの精度を上げるために実測値をもとにシミュレーションのデータを補正することは周知の技術であり、当該周知技術をシミュレーションに適用するのであれば、本願発明のように当然蛍光体の重量を調整ようにすることは、計算原理からみて格別の困難なく設計できるといえる。
また、上記(b)に関し、上記引用例2には、結論として「以上蛍光を含んだ染料のCCMについて測色方式の違いによるCCM実験の一部を報告したが,いずれにしても蛍光を含むCCMは条件が複雑であり,簡単に解決できる問題ではない.これらの実験結果がわずかでも参考になれば幸いである.」(第409頁左欄第30?34行)としており、蛍光を含むCCMにおける条件設定の難しさについて言及してはいるものの、記載した実験結果をもとに今後の発展を期待する結論としてまとめたものと読み取れるから、CCMを蛍光に適用すること自体を否定しているものとはいえないし、蛍光体の混合に計算を用いた予測を行うことは、国際公開第98/36441号パンフレットに、「また、本発明の色度範囲を構成する色度点(0.285,0.332)は、最も青色側にある点であるため、SCAの混光比率が最大になる点である。
その色度点のLAPとYOXとSCAの光束比率[%]は、混光する3種類の単体の蛍光体を有する単色の蛍光ランプの色度値から、加法混色の公式に基づいて計算すると、81:9:10となる。このときLAPとSCAのみの混光比率[%]では、89:11となる。
これより、SCA等の発光波長のピークが420?470[nm]にある蛍光体と、LAP等の発光波長ピークが530?580[nm]にある蛍光体の混光比率[%]B:Gにおいて、Bを4?11[%]、Gを96?89[%]とすることによって、光色の色味が少なく白色感のある蛍光ランプを実現することができる。」(第34頁第5?14行)に記載されているように周知の技術である。
よって、上記主張は採用できない。

したがって、本願発明は、引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-27 
結審通知日 2010-01-28 
審決日 2010-02-09 
出願番号 特願2002-548042(P2002-548042)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 佳規  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 居島 一仁
後藤 時男
発明の名称 高精度混合を実施するためのシステムおよび方法  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 社本 一夫  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  

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