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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1218989
審判番号 不服2007-25488  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-18 
確定日 2010-06-23 
事件の表示 特願2003-551195「抗菌性着色加硫ゴム物品」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月19日国際公開、WO03/50173、平成18年 1月12日国内公表、特表2006-501315〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年9月30日(パリ条約による優先権主張 2001年12月12日 米国)の出願であって、平成16年10月29日に手続補正書及び上申書が提出され、平成18年7月26日付けで拒絶理由が通知され、平成19年2月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月13日付けで拒絶査定がなされた。それに対して、同年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月17日に手続補正書が提出され、同年11月28日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成20年2月25日付けで前置報告がなされ、当審において平成21年7月28日付けで審尋がなされ、期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、請求人から何らの応答もなかったものである。

第2.平成19年10月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定
1.補正の却下の決定の結論
平成19年10月17日付けの手続補正を却下する。

2.理由
[1]補正の内容
平成19年10月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、本件補正前の
「 【請求項1】
少なくとも一つの非シリコーンゴム成分を含み、更に少なくとも一つの銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)を含んで成る寸法安定性着色加硫ゴム物品であって、ブラック着色剤はその中に存在せず、該着色ゴム物品は、検知し得る量の硫黄系加硫剤を含まず、かつ、最低0.075μg/dm^(2) の表面利用可能銀量(surface available silver)を示すゴム物品。
【請求項2】
前記銀系抗菌性化合物は、銀元素、酸化銀、銀塩、銀イオン交換化合物、銀ゼオライト、銀ガラス、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる請求項1に記載のゴム物品。
【請求項3】
前記物品は、少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤を更に含む請求項1に記載のゴム物品。
【請求項4】
前記物品は少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤を、更に含む請求項2に記載のゴム物品。
【請求項5】
前記少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤は、フィラー、オイル、およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる請求項3に記載のゴム物品。
【請求項6】
前記少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤は、ケイ酸金属、ステアリン酸金属、金属酸化物、金属炭酸塩、クレー、シラン油処理シリカ、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる親水性フィラーである請求項5に記載のゴム物品。
【請求項7】
前記少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤は、フィラー、オイル、およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる請求項4に記載のゴム物品。
【請求項8】
前記少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤は、ケイ酸金属、ステアリン酸金属、金属酸化物、金属炭酸塩、クレー、シラン油処理シリカ、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる親水性フィラーである請求項7に記載のゴム物品。
【請求項9】
前記ゴム成分は、EPDM、NBR、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる請求項1に記載のゴム物品。
【請求項10】
表面利用可能銀イオン量(surface availability of silver ions)が最低0.075μg/dm^(2) を示す着色ゴム物品の製造方法であって、
a)少なくとも一つのゴム成分(その大部分は非シリコーンゴムでなくてはならない)、少なくとも一つの銀系抗菌性化合物(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)、少なくとも一つの着色剤、少なくとも一つのフィラー成分、および少なくとも一つの加硫剤化合物を含有する未加硫ゴム組成物を一緒に配合し、ここで、ブラック着色剤は存在せず、該組成物中に存在する該加硫剤化合物は検知し得る量の硫黄系化合物を含まないものであり、
b)該ゴム組成物を予め選択した形状に成形し、
c)該ゴム組成物を高圧下、高温に暴露して加硫する
工程を含む方法。
【請求項11】
前記銀系抗菌性化合物は、銀元素、酸化銀、銀塩、銀イオン交換化合物、銀ゼオライト、銀ガラス、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一つのフィラー成分は、同時に銀イオン放出制御添加剤として機能する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つのフィラー/銀イオン放出制御添加剤は、フィラー、オイル、およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも一つのフィラー/銀イオン放出制御添加剤は、ケイ酸金属、ステアリン酸金属、金属酸化物、金属炭酸塩、クレー、シラン油処理シリカ、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる親水性フィラーである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ゴム成分は、EPDM、NBR、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる請求項10に記載のゴム物品。」から、本件補正後の
「 【請求項1】
少なくとも一つの非シリコーンゴム成分を含み、更に少なくとも一つの銀系抗菌剤を含んで成る寸法安定性着色加硫ゴム物品であって、ブラック着色剤はその中に存在せず、前記ゴム成分はEPDMであり、前記銀系抗菌剤は無機抗菌剤であり、該着色ゴム物品は、検知し得る量の硫黄系加硫剤を含まず、かつ、最低0.075μg/dm^(2) の表面利用可能銀量(surface available silver)を示すゴム物品。
【請求項2】
前記銀系抗菌性化合物は、銀元素、酸化銀、銀塩、銀イオン交換化合物、銀ゼオライト、銀ガラス、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる請求項1に記載のゴム物品。
【請求項3】
前記物品は、少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤を更に含む請求項1に記載のゴム物品。
【請求項4】
前記物品は少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤を、更に含む請求項2に記載のゴム物品。
【請求項5】
前記少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤は、フィラー、オイル、およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる請求項3に記載のゴム物品。
【請求項6】
前記少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤は、ケイ酸金属、ステアリン酸金属、金属酸化物、金属炭酸塩、クレー、シラン油処理シリカ、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる親水性フィラーである請求項5に記載のゴム物品。
【請求項7】
前記少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤は、フィラー、オイル、およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる請求項4に記載のゴム物品。
【請求項8】
前記少なくとも一つの銀イオン放出制御添加剤は、ケイ酸金属、ステアリン酸金属、金属酸化物、金属炭酸塩、クレー、シラン油処理シリカ、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる親水性フィラーである請求項7に記載のゴム物品。
【請求項9】
表面利用可能銀イオン量(surface availability of silver ions)が最低0.075μg/dm^(2) を示す着色ゴム物品の製造方法であって、
a)少なくとも一つのゴム成分(その大部分は非シリコーンゴムでなくてはならない)、少なくとも一つの銀系抗菌性化合物、少なくとも一つの着色剤、少なくとも一つのフィラー成分、および少なくとも一つの加硫剤化合物を含有する未加硫ゴム組成物を一緒に配合し、ここで、ブラック着色剤は存在せず、前記ゴム成分はEPDMであり、前記銀系抗菌剤は無機抗菌剤であり、該組成物中に存在する該加硫剤化合物は検知し得る量の硫黄系化合物を含まないものであり、
b)該ゴム組成物を予め選択した形状に成形し、
c)該ゴム組成物を高圧下、高温に暴露して加硫する
工程を含む方法。
【請求項10】
前記銀系抗菌性化合物は、銀元素、酸化銀、銀塩、銀イオン交換化合物、銀ゼオライト、銀ガラス、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも一つのフィラー成分は、同時に銀イオン放出制御添加剤として機能する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一つのフィラー/銀イオン放出制御添加剤は、フィラー、オイル、およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つのフィラー/銀イオン放出制御添加剤は、ケイ酸金属、ステアリン酸金属、金属酸化物、金属炭酸塩、クレー、シラン油処理シリカ、およびそれらの任意の混合物よりなる群から選ばれる親水性フィラーである請求項12に記載の方法。」へと補正するものである。

すなわち、本件補正は、請求項1において、「(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」との事項を削除し、かつ、「前記銀系抗菌剤は無機抗菌剤であり」との事項を付加する補正事項(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。
そうすると、本件補正前の請求項1(以下、「補正前請求項1」という。)では、「銀系抗菌剤」を、「(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」との事項で限定していたところ、本件補正後の請求項1(以下、「補正後請求項1」という。)では、「銀系抗菌剤」を「無機抗菌剤」に限定するものとなった。

[2]補正の目的について
補正前請求項1における「銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」は、「シリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させた」銀系抗菌剤を包含しない銀系抗菌剤である。
一方、出願時の技術常識からみて、上記「シリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させた」銀系抗菌剤は、いわゆる無機抗菌剤の一種であるから、補正後請求項1における「無機抗菌剤」は、上記「シリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させた」銀系抗菌剤を包含するものと認められる。
すなわち、補正後請求項1の、「無機抗菌剤」である「銀系抗菌剤」は、補正前請求項1の「銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」に包含されていない「シリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させた」銀系抗菌剤を包含するものである。
したがって、補正事項1は、補正前請求項1における「銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」との事項を、概念的により下位の事項に限定するものではない。
よって、補正事項1は、補正前請求項1における発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
したがって、補正事項1は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものではない。
また、補正事項1が、請求項の削除、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正のいずれかを目的とするものでないことは、明らかである。

[3]むすび
したがって、補正事項1を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
上記のとおり、平成19年10月17日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1?15に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明15」という。)は、平成19年2月1日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

第4.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成18年7月26日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2の概要は、本願発明1?15は、下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。

引用文献2:特開平9-176495号公報

第5.当審の判断
1.引用文献の記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
<摘示ア>「【請求項1】 高分子材料に、抗菌性金属、およびその化合物、・・・からなる群より選ばれる少なくとも1種の防苔・防黴剤が配合されていることを特徴とする屋外用絶縁高分子材料組成物。
【請求項2】 前記防苔・防黴剤が、銀、・・・からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の屋外用絶縁高分子材料組成物。
【請求項3】 前記高分子材料がポリオレフィン系樹脂・・・であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の屋外用絶縁高分子材料組成物。
【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の屋外用絶縁高分子材料組成物の架橋体からなる構造部品を有する屋外用高電圧機器。」(特許請求の範囲)
<摘示イ>「ポリオレフィン系樹脂としては、・・・エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、・・・等が挙げられる。」(段落【0009】)
<摘示ウ>「ポリオレフィン系樹脂を高分子材料とする組成物には、架橋剤として有機過酸化物を用いる。」(段落【0012】)
<摘示エ>「本発明の組成物には、抗菌性金属、およびその化合物、・・・からなる群から選ばれる防苔・防黴剤が必須成分として配合される。具体的には、銀、・・・などが挙げられ、樹脂との相溶性等を考慮して適宜選択される。銀、・・・など抗菌性金属はゼオライト、セラミック、シリカゲル等を担体として使用することができる。
その配合量は、・・・目安として組成物中の1ppm?10重量%の範囲にあることが好ましい。」(段落【0014】?【0015】)
<摘示オ>「本発明の組成物には、特性を損なわない範囲で他の・・・、顔料、・・・等を配合しても良い。例えば、酸化チタン、・・・等を用いることができる。」(段落【0016】)
<摘示カ>「碍子等、高度の耐トラッキング性を要求する屋外用高電圧機器の場合には、高分子材料としてポリオレフィン系樹脂・・・を使用することが好ましく、さらに組成物に金属水和物が配合されていることが好ましい。金属水和物としては、水酸化アルミニウム、・・・等が挙げられるが、耐候性の観点から水酸化アルミニウムがより好ましい。」(段落【0018】)

2.引用文献2に記載された発明
摘示ア?カからみて、引用文献2には、「エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)に、抗菌性金属である銀およびその化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の防苔・防黴剤、水酸化アルミニウム及び顔料又は酸化チタンが配合され、前記防苔・防黴剤の配合量が組成物中の1ppm?10重量%である屋外用絶縁高分子材料組成物を、架橋剤として有機過酸化物を用いて架橋した架橋体」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.対比、判断
[1]本願発明1について
引用発明における「エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)」、「抗菌性金属である銀およびその化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の防苔・防黴剤」及び「架橋体」は、それぞれ、本願発明1における「非シリコーンゴム成分」、「銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」及び「加硫ゴム物品」に相当する。
また、引用発明は顔料又は酸化チタンを含んでおり、出願時の技術常識からみて、顔料又は酸化チタンが着色作用を有することは明らかであるから、引用発明は着色されているものと認められる。
そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、「少なくとも一つの非シリコーンゴム成分を含み、更に少なくとも一つの銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)を含んで成る着色加硫ゴム物品」である点で一致し、相違点1?4で一応相違する。
<相違点1>
本願発明1は、「着色加硫ゴム物品」が「寸法安定性」との事項で特定されているのに対し、引用発明は、かかる特定がない点。
<相違点2>
本願発明1は、「着色加硫ゴム物品」について「ブラック着色剤はその中に存在せず」との事項で特定されているのに対し、引用発明は、かかる特定がない点。
<相違点3>
本願発明1は、「着色加硫ゴム物品」について「検知し得る量の硫黄系加硫剤を含まず」との事項で特定されているのに対し、引用発明は、かかる特定がない点。
<相違点4>
本願発明1は、「着色加硫ゴム物品」について「最低0.075μg/dm^(2) の表面利用可能銀量(surface available silver)を示す」との事項で特定されているのに対し、引用発明は、かかる特定がない点。

(1)相違点1について
本願明細書には、以下の事項が記載されている。
<摘示キ>「本発明は、フィラー(例えば、炭酸カルシウム、白土または焼成クレー、シラン被覆または混合シリカ、二価ケイ酸金属、アルミニウム三水和物、およびそれらの任意の混合物)、物品にブラック以外の色調を与えるための少なくとも一つの着色剤、必要に応じ、少なくとも一つの可塑剤(例えば、フタレートオイル及びパラフィンオイルのようなオイル)からなる群から選ばれる少なくとも1つの無着色性銀イオン放出制御添加剤を含む、このような加硫ゴム含有物品を包含する。」(段落【0009】)
<摘示ク>「用語「寸法安定」は、より小さい部分への崩壊無しに構造上取り扱われ得る、加硫ゴム物品を含むことが意図される。従って、物品は、ある程度の構造一体性を示し、ゴムであり、ある程度の曲げ弾性率を示さなければならない。」(段落【0010】)
<摘示ケ>「加えて、一般的に及び好ましくは、ある種のフィラー及び補充的にオイル(例えば、二価シリケート、シラン被覆または混合シリカ、酸化亜鉛、クレー、アルミニウム三水和物塩、炭酸カルシウム、及び他の種類であって、銀抗菌剤含有EPDMおよび/またはNBR(単に好ましい例として)ゴム組成物を変色させないもの)は、加硫ゴム物品に曲げ弾性率及び構造一体性の両方を与えるため必要である。ゴム成分単独では、一般に、このような添加剤無しでは適当な寸法安定性を示さない。」(段落【0013】)

摘示キ、ク及びケからみて、「アルミニウム三水和物」は、本願発明1のゴム物品に「寸法安定性」を付与する添加剤であるものと認められる。
そして、引用発明は、上記「アルミニウム三水和物」に相当する「水酸化アルミニウム」を含んでおり、また、出願時の技術常識を考慮しても、引用発明において、「水酸化アルミニウム」が架橋体の寸法安定性に寄与することを阻害する要因があるとは認められない。
したがって、引用発明は、本願発明1と同様に、寸法安定性を示すと解するのが相当である。
よって、相違点1は、実質的に相違点とは認められない。

(2)相違点2について
出願時の技術常識からみて、摘示オに記載された「顔料」が黒色顔料に限られないことは明らかであり、また、摘示オに記載された「酸化チタン」が白色顔料であることも明らかであるから、引用発明は、黒色顔料以外の顔料を含む態様、すなわち、ブラック着色剤を含まない態様を包含するものである。
したがって、相違点2は、実質的に相違点とは認められない。

(3)相違点3について
引用文献2には、引用発明において硫黄系加硫剤を使用することは記載されておらず、また、出願時の技術常識を考慮しても、引用発明において、「架橋剤」である「有機過酸化物」に代えて硫黄系加硫剤を使用することが当業者にとって自明であるとは認められない。
したがって、引用発明は、検知し得る量の硫黄系加硫剤を含まないものと認められる。
よって、相違点3は、実質的に相違点とは認められない。

(4)相違点4について
本願明細書には、摘示キ?ケに加えて、さらに、以下の事項が記載されている。
<摘示コ>「加えて、一般的に及び好ましくは、ある種のフィラー及び補充的にオイル(例えば、二価シリケート、シラン被覆または混合シリカ、酸化亜鉛、クレー、アルミニウム三水和物塩、炭酸カルシウム、及び他の種類であって、銀抗菌剤含有EPDMおよび/またはNBR(単に好ましい例として)ゴム組成物を変色させないもの)は、加硫ゴム物品に曲げ弾性率及び構造一体性の両方を与えるため必要である。ゴム成分単独では、一般に、このような添加剤無しでは適当な寸法安定性を示さない。驚くべきことに、このような添加剤が存在すると、所望の銀イオンとの、そこに存在する抗菌性成分中での有害な反応が無いだけでなく、目的物品表面での銀イオン放出を制御する能力も付与される。・・・。
特定の科学理論に拘束されることを意図しないが、上記のようなフィラー、とりわけ本質的に親水性のフィラー(二価シリケート、シラン被覆シリカ、酸化亜鉛など)の中には、物品に水分を取り込むように働き、そうして、物品内部から表面へ銀イオンを移動させるものがあると考えられる。このような状況において、ゴム物品は、向上した銀放出性を示すので、より多量の利用可能な表面銀イオン(available surface silver ions)の存在により、ある種の菌に対して高い対数殺菌率を生じ得る。他の親水性フィラー、例えば顔料、クレー及び炭酸カルシウム(例として)には、目的物品の外に水を維持し、それによって物品表面への銀イオンの移動を防ぐという逆の挙動を示すものがあると考えられる。従って、このような銀イオン利用性の低下は、ゴム物品の抗菌効力を低減させる。実際、全ゴム物品の実際の抗菌効力は、ある量のこのような一般的に必要なフィラー及びオイルの存在によって制御され得る(ある親水性帯電防止剤も、シリカと同じ挙動を示すようである。)。・・・これらのゴム成分を、以下「銀イオン放出制御添加剤」と称する。」(段落【0013】?【0014】)
<摘示サ>「本発明の生ゴム組成物の抗菌剤は、いかなる標準的銀系化合物でもあり得る。トリクロサンのような有機物タイプと対照的に、このような化合物は低い熱安定性を示さず、従って、異なった温度で対象基質または基材中に残る。従って、このような抗菌剤は、上述したように、所望される表面放出のために、より制御し易い。このような抗菌剤は、限定するわけではないが、銀塩、酸化銀、銀元素、並びに最も好ましくは、イオン交換物、ガラス及び/またはゼオライト化合物である。」(段落【0018】)
<摘示シ>「一般的に、このような抗菌性化合物は、ゴム組成物に、ゴム組成物の総重量の約0.1?10重量%、好ましくは約0.1?約5重量%、より好ましくは約0.1?約2重量%、最も好ましくは約0.2?約2.0重量%の量で添加される。」(段落【0020】)
<摘示ス>「本発明の抗菌性物品は、「疎水性繊維及び固体基材の抗菌特性の評価」と題する AATCC ドラフト方法、並びに JIS2 2801 の試験方法に従って、24時間後、良好な対数殺菌率を示す。・・・。
このような抗菌活性は、目的ゴム物品上の利用可能な表面銀イオンが充分量である場合にのみ認識される。従って、表面積当たりの数値が高いこと(例えば、約0.075 ppb/cm^(2)以上)が、良好な抗菌効力のために必要である。」(段落【0022】?【0023】)
<摘示セ>「抗菌性及び抗真菌活性に関して、本発明の物品の効力にとって非常に重要なことは、有害な量の硫黄系加硫剤及び加硫促進剤が、ゴム物品から除かれることである。上述したように、特定の科学理論に拘束されることを意図しないが、ゴム組成物及び/またはその物品中、硫黄は好ましい銀系抗菌剤と反応し、不可逆的に銀イオンと結合する(例えば硫化銀のように)と考えられる。そうすると、得られた硫化銀などは抗菌剤として効力がなく、従ってそれらが存在すると、最終生成物が抗菌的に不活性となる。従って、検知し得る量の硫黄加硫剤及び加硫促進剤を含まない加硫ゴム物品を製造することが必要とされてきた。用語「検知し得る量」は、少量の存在は許容すると解されるべきである。存在する硫黄と銀のモル比が1:1(及びそれ以上)であると、所望の最終加硫物品中で抗菌活性の明らかな損失を引き起こすことが分かっている。しかしながら、硫黄よりも銀のモル量が多ければ、少なくとも幾らかの抗菌特性が所望物品に付与される。従って、硫黄の銀イオンに対するモル比が0.25:1?約0.000000001:1の範囲であれば、少なくとも許容できる。しかしながら、主加硫剤は、対象ゴムに所望の抗菌活性を与えるため、非硫黄性で、(必ずではないが、好ましくは)過酸化物系化合物でなくてはならない。」(段落【0025】)

摘示サ?セからみて、本願発明1は、「銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」を所定量含み(以下、「抗菌剤要件」という。)、かつ、「検知し得る量の硫黄系加硫剤を含ま」ないこと(以下、「加硫剤要件」という。)によって、「最低0.075μg/dm^(2) の表面利用可能銀量(surface available silver)」を達成するものと認められる。
なお、摘示コからみて、摘示キに記載された「アルミニウム三水和物」等の「無着色性銀イオン放出制御添加剤」は、物品内部-表面間の銀イオンの移動を制御する作用を有するものと認められるが、本願明細書の記載を検討しても、本願発明1において、「無着色性銀イオン放出制御添加剤」の配合が「最低0.075μg/dm^(2) の表面利用可能銀量(surface available silver)」の達成を阻害するものとは認められない。
そして、引用発明における「抗菌性金属である銀およびその化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の防苔・防黴剤」は、本願発明1における「銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」に相当し、引用発明における「抗菌性金属である銀およびその化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の防苔・防黴剤」の配合量1ppm?10重量%は、本願明細書に記載の「銀系抗菌剤(ただし、銀系抗菌剤がシリカゲルにチオスルファイト銀錯体を担持させたものである場合を除く)」の配合量(摘示シ)と差異がない。
また、引用発明は、上記「(3)相違点3について」で述べたとおり、検知し得る量の硫黄系加硫剤を含まないものである。
そうすると、引用発明は、抗菌剤要件及び加硫剤要件を備えるものと認められる。
したがって、引用発明は、本願発明1と同様に、「最低0.075μg/dm^(2) の表面利用可能銀量(surface available silver)」を達成するものと認められる。
よって、相違点4は、実質的に相違点とは認められない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献2に記載された発明と同一である。

第6.むすび
したがって、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-14 
結審通知日 2010-01-19 
審決日 2010-02-04 
出願番号 特願2003-551195(P2003-551195)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 純  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 内田 靖恵
小野寺 務
発明の名称 抗菌性着色加硫ゴム物品  
代理人 田中 光雄  
代理人 柴田 康夫  
代理人 森住 憲一  
代理人 山田 卓二  

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