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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F22B
管理番号 1218991
審判番号 不服2007-28503  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-18 
確定日 2010-06-23 
事件の表示 特願2002-182584号「ボイラ装置の腐食抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年1月29日出願公開、特開2004-28395号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成14年6月24日の特許出願であって、平成19年8月22日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年9月18日)、これに対し、同年10月18日に拒絶査定不服審判が請求がなされた。
そして、平成22年1月26日付けで当審にて拒絶理由通知がなされ、同年4月1日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明について
(1)本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年4月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水部3と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5とを備えたボイラ装置1において、pH調整剤を用いて前記ボイラ2における腐食を抑制する方法であって、一定時間毎に前記給水部3の給水路10中の給水の全炭酸濃度を測定する測定工程と、この測定工程における測定結果に基づいて、その都度、pH調整剤の供給量を決定する供給量決定工程と、この供給量決定工程において決定された供給量に基づいて、前記給水部3に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程とを含み、前記供給量決定工程において、全炭酸を含む給水から熱分解により生成されるアルカリを考慮して前記ボイラ2の腐食を抑制するのに最適な供給量を算出し、pH調整剤の供給量の無駄をなくすように、pH調整剤の供給量が調節可能となっていることを特徴とするボイラ装置の腐食抑制方法。」

(2)刊行物
当審における平成22年1月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-323083号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「【請求項1】 ボイラに接続された給水ラインに、脱アルカリ軟化手段と膜脱気手段とpH調節手段とが配置されていることを特徴とするボイラ給水処理装置。
【請求項2】 H形強酸性陽イオン交換樹脂塔とNa形強酸性陽イオン交換樹脂塔を並列配置して成り、前記各塔からの軟水を混合してpH調整を行う手段と、
前記手段の下流側に直列配置されて前記軟水に膜式脱気を行って脱気水にする膜式脱気装置と、
前記膜式脱気装置の下流側に配置されて前記脱気水のpH調整を行う手段とが、ボイラに接続された給水ラインに配置されていることを特徴とするボイラ給水処理装置。」(【特許請求の範囲】、下線は当審にて付与、以下同様。)
b)「【発明の属する技術分野】本発明はボイラ給水処理装置に関し、更に詳しくは、酸素や炭酸ガスの溶存濃度が低減して、ボイラ本体のみならず、蒸気配管や復水配管の防食にも資するボイラ給水を得ることができるボイラ給水処理装置に関する。とりわけ、薬注によってpH調整を行うことなくボイラ給水のpH調整も行うことができるボイラ給水処理装置に関する。」(段落【0001】)
c)「また、逆浸透膜装置に市水を通水して含有されている塩類を除去したのち、得られた処理水を膜式脱気装置に通水して溶存酸素などを脱気する装置も知られている。これらの装置による処理は薬剤を使用することなく進められるのでノンケミカル処理と呼ばれている。しかし、これらの装置による処理水をボイラ給水として使用する場合には、そのpH調整のために、最終的にはアルカリ剤などを薬注することが必要となる。
したがって、この場合にも、前記した従来の方法の場合と同じように、タンク本体や配管系統に対する使用薬剤の腐食作用、また蒸気用途への薬剤の影響などを配慮することが必要になる。
【発明が解決しようとする課題】本発明では、従来のボイラ給水処理における前記した問題を解決し、システムとして安価であり、酸素や炭酸ガスの溶存濃度が低減して、ボイラ本体のみならず蒸気配管や復水配管の防食に資するボイラ給水を得ることができる新規構造のボイラ給水処理装置が提供される。」(段落【0010】ないし【0012】)
d)「【発明の実施の形態】以下に、本発明の装置例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、装置例A_(1)の全体的な基本構成を示す概略図である。図1において、ボイラ1には給水ラインp_(1)が接続されていて、ここに市水のような原水が処理対象水として供給される。
給水ラインp_(1)の最上流側には、例えばH形強酸性陽イオン交換樹脂塔2が配置されて原水を軟化するための脱アルカリ軟化手段を構成し、その下流側には膜式脱気装置3が配置されて前記脱アルカリ軟化手段で得られた軟水を脱気するための膜脱気手段を構成している。膜式脱気装置3の下流側には、前記膜式脱気装置3で得られた脱気水を貯留する給水タンク4が配置されている。そして給水タンク4からは膜式脱気装置3の上流側の給水ラインにまで至る配管が付設されて、給水タンク4-膜式脱気装置3を循環するタンク内脱気用循環ラインp_(2)が形成されている。
給水タンク4の下流側の給水ラインには、NaOHやKOHのようなアルカリ剤を貯留する薬液タンク5aとこれらアルカリ剤を給水ラインに薬注する薬注ポンプ5bとをもって構成されるpH調整手段5が接続されている。この装置A_(1)では、まず給水ラインp_(1)に供給された原水は、H形強酸性陽イオン交換樹脂塔2を通水する過程で、含有されていたCa^(2+),Mg^(2+),Na^(+)などはH^(+)に交換される。したがって、この軟水は酸性になっている。そして溶存酸素は残留している。
ついで、この軟水は膜式脱気装置3へ送流される。酸性化した軟水中に含有されていた炭酸塩アルカリ成分は遊離炭酸を経て炭酸ガスに分解して脱気され、同時に軟水中に残留していた溶存酸素も脱気されて、軟水は脱気水になる。このときに用いる膜式脱気装置3としては一般に用いられているものであれば何であってもよい。例えば図2で示したように、装置3内を膜モジュール3aで真空室3bと液室3cの2室に画分し、液室3cに送水ポンプ3dによってH形強酸性陽イオン交換樹脂塔2からの軟水を圧入するとともに強制的に排水し、同時に、真空室3bには真空ポンプ3eを接続して真空脱気する装置をあげることができる。
また、図3で示したように、真空室3bに窒素ガス発生器または窒素ガスボンベ3fを接続し、ここから所定量の窒素ガスを送入して膜モジュール3aの膜面をスイープする膜式脱気装置を使用すると、軟水中の酸素や炭酸ガスの除去率が向上するので好適である。膜式脱気装置3から流出した脱気水は、給水タンク4に送流されてそこに貯留される。そして、脱気水を循環ラインp2に強制的に循環させることにより、給水タンク4に貯留される脱気水の脱気が反復される。
給水タンク4に貯留されている脱気水は酸性であるため、これをこのままの状態でボイラ1に供給することはできない。したがって、薬注ポンプ5bを作動して薬液タンク5a内の薬液の所定量を給水ラインp_(1)に供給することにより脱気水のpH値が調整されたのちボイラ1に供給される。以上の説明で明らかなように、装置A_(1)では、H形強酸性陽イオン交換樹脂塔1で原水を軟水化するとともにそれを酸性化し、つぎの膜式脱気装置3で含有されている炭酸塩アルカリ成分を炭酸ガスに分解して、軟水中の溶存酸素と炭酸ガスを同時に脱気して脱気水とし、pH調整手段5でこの脱気水のpH値を9程度にするという態様でボイラ給水処理が進行する。」(段落【0015】ないし【0020】)
e)「【発明の効果】以上の説明で明らかなように、本発明のボイラ給水処理装置は、給水ラインに、脱アルカリ軟化手段と膜脱気手段とpH調整手段とを配置しているので、供給された原水は、給水ラインを流れていく過程で、順次、軟水化され、溶存する酸素や炭酸ガスが除去され、そしてpH値が所定値に調整される。したがって得られたボイラ給水は、ボイラ本体のみならず、蒸気配管と復水配管に対する腐食作用は減退する。そのため、本発明の装置を動作させれば、長期に亘り安定かつ効率的に防食効果に優れたボイラ給水を供給することができる。」(段落【0049】)

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物には、次の発明が記載されている。
「ボイラ1とボイラ1に原水を供給する給水ラインp_(1)が接続されたボイラ給水処理装置A_(1)において、NaOHやKOHのようなアルカリ剤を用いたボイラ1の防食に資する方法であって、
給水ラインp_(1)に接続され、薬液ポンプ5bを作動して薬液タンク5a内のNaOHやKOHのようなアルカリ剤を所定量供給することにより脱気水のpH値を9程度に調整するpH調整手段5
を備えたボイラ1の防食に資する方法。」

(3)対比
本願発明と刊行物に記載された発明を対比する。
刊行物に記載された発明の「ボイラ1」は、その構成および機能からみて、本願発明の「給水を加熱して蒸気を生成する」「ボイラ2」に相当し、以下同様に、
「ボイラ1に原水を供給する給水ラインp_(1)」は「ボイラ2へ給水を供給する給水部3」に、
「ボイラ給水処理装置A_(1)」は「ボイラ装置1」に、
「NaOHやKOHのようなアルカリ剤」は「pH調整剤」に、
「ボイラ1の防食に資する方法」は「ボイラ2における腐食を抑制する方法」および「ボイラ装置の腐食抑制方法」に、
「給水ラインp_(1)に接続され、薬液ポンプ5bを作動して薬液タンク5a内のNaOHやKOHのようなアルカリ剤を所定量供給することにより脱気水のpH値を9程度に調整するpH調整手段5」は「給水部3に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程」および「pH調整剤の供給量が調節可能となっていること」に、
それぞれ相当する。
そして、刊行物に記載された発明のボイラ1が、ボイラ1において発生した蒸気を負荷側へ供給する蒸気配管を具備することは当業者にとって明らかな技術事項であるから、刊行物に記載された発明の「ボイラ1」は、本願発明の「ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5」を備えるものといえる。
したがって、上記両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点]
「給水を加熱して蒸気を生成するボイラと、このボイラへ給水を供給する給水部と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5とを備えたボイラ装置1において、pH調整剤を用いて前記ボイラ2における腐食を抑制する方法であって、
給水部3に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程を含み、pH調整剤の供給量が調節可能となっているボイラ装置の腐食抑制方法。」
[相違点]
本願発明では、一定時間毎に給水部3の給水路10中の給水の全炭酸濃度を測定する測定工程と、この測定工程における測定結果に基づいて、その都度、pH調整剤の供給量を決定する供給量決定工程と、この供給量決定工程において決定された供給量に基づいて、給水部3に対してpH調整剤を供給するpH調整剤供給工程とを含み、供給量決定工程において、全炭酸を含む給水から熱分解により生成されるアルカリを考慮してボイラ2の腐食を抑制するのに最適な供給量を算出し、pH調整剤の供給量の無駄をなくすように、pH調整剤の供給量が調節可能となっているのに対して、刊行物に記載された発明では、給水ラインp_(1)に配置され、薬液ポンプ5bを作動して薬液タンク5a内のアルカリ剤を所定量供給することにより脱気水のpH値を9程度に調整するpH調整手段5を備えた点。

(4)当審の判断
ボイラの腐食防止の技術分野において、ボイラに供給される給水に含まれる全炭酸のうち、中性付近において存在する炭酸水素イオン(重炭酸イオン)に相当するMアルカリ度を測定し、測定されたMアルカリ度から、給水中に含まれる炭酸水素イオンが熱分解され、炭酸イオン、水酸化物イオン等を生じて缶水のpHを高める作用を考慮して、pH調整剤の濃度を決定し、決定された濃度とするための供給量だけ給水にpH調整剤を供給して缶水のpHを11?11.8付近に調節するpH調整剤供給工程を含んだボイラの腐食抑制方法は、本願出願前周知の技術事項である(例えば、特開2002-18487号の段落【0004】や特開平10-325508号公報の段落【0002】、【0017】を参照。以下、「周知の技術事項1」という。)。
また、当審における平成22年1月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-355804号には、ドレン配管の防食に効果的な復水処理剤の注入量に制御できる方法を提供することを目的として(段落【0004】)、ドレン回収率と原水のMアルカリ度により、給水のMアルカリ度が分かり、給水のMアルカリ度から復水処理剤の注入量を決定(段落【0015】)することにより、ドレン配管の防食に効果的な復水処理剤の薬注量を制御した(段落【0025】)ことが記載され(他にも段落【0001】、【0002】を参照。)、同じく、前記拒絶理由通知書において提示した特開平7-185590号公報には、カルシウムスケーリングの起こり得る条件を予測し、必要に応じてスケーリング防止対策を実施可能とすることにより、薬品費および維持管理費などのランニングコストを低減し、効率的なスケーリング防止対策を可能としたカルシウムスケーリング防止方法を提供することを課題とし(段落【0007】)、廃水のカルシウム濃度および全無機炭素濃度をモニターしているので、炭酸ナトリウムの必要添加量を計算可能であり、必要量のみを加えることができる(段落【0037】)ことが記載され(他にも段落【0002】、【0038】、【0039】、【図4】参照。)ている。
このように、水に薬品を供給して、装置に供給される水により装置の悪影響を防止する技術分野において、薬品の供給量を適正にするために、薬品供給前の水に含まれる特定物質の濃度を測定し、測定された濃度に応じて無駄のない効果的な薬品の供給量を決定することは、本願出願前周知の技術事項である(以下、「周知の技術事項2」という。)。
さらに、このものにおいて、測定対象の濃度測定タイミングを連続時間とするか、一定時間毎とするのかは当業者が必要に応じてなし得たものである。
したがって、刊行物に記載された発明に、上記周知の技術事項1であるpH調整剤供給工程を適用して、上記相違点1における本願発明が具備する発明特定事項に想到することは当業者が容易になし得たものである。
さらに、当該適用に際して、上記周知の技術事項2に倣って、刊行物に記載された発明のpH調整剤の供給量を無駄のない効果的な適正量とする程度のことは、当業者が適宜なし得たものである。
また、本願発明が、全体として奏する効果についてみても、刊行物に記載された発明および周知の技術事項が奏する効果から当業者が予測できる範囲内のものである。
よって、本願発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-22 
結審通知日 2010-04-26 
審決日 2010-05-07 
出願番号 特願2002-182584(P2002-182584)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F22B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長崎 洋一
豊島 唯
発明の名称 ボイラ装置の腐食抑制方法  

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