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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1219081
審判番号 不服2006-25545  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-10 
確定日 2010-06-24 
事件の表示 平成11年特許願第291267号「キヌクリジン誘導体含有医薬」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月18日出願公開、特開2000-109481〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成7年12月27日を国際出願日とする出願である特願平8-520367号の一部を平成11年10月13日に新たな特許出願としたものであって、平成18年7月3日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年10月12日付けで拒絶査定がなされたところ、同年11月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明

本願の請求項1?3に係る発明は、平成18年9月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたものであって、そのうち請求項1は以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「【請求項1】3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩を含有する医薬。」


3.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、「補正によって特許請求の範囲に記載される化合物は限定されたが、出願当初明細書に記載の薬理試験における化合物が特定されていない点、及び、薬理試験結果が具体的数値により明らかにされていない点に変わりはないから、上記補正により本願明細書の記載不備が解消することはない。次に意見書について検討する。新たに薬理試験結果を提出することによって本願明細書の記載不備を解消することはできない。また、意見書の記載をみても、本願明細書の【0025】、【0026】に記載の「本発明化合物」が上記3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレートのシュウ酸塩であること、及び、そのM_(3)受容体に対するKi値等が6.1×10^(-9)等であることが当業者に自明であると認めることはできない。したがって、上記意見書によって本願明細書の記載不備が解消することもない。」として、本願明細書の記載は、特許法第36条第4項(平成14年法律等24号附則第2条第1項の規定により、なお従前の例によるとされる特許法第36条第4項の意。以下、単に「特許法第36条第4項」という。)に規定する要件を満たしていないというものである。


4.当審の判断

(1)医薬発明の記載要件

本願発明は、有効成分の「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」を、医薬用途に使用するという、医薬についての用途発明(「以下、「医薬発明」という。)である。

特許法第36条第4項は、「発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定し、その経済産業省令に当たる特許法施行規則24条の2は、明細書に「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきことを規定する。
つまり、特許法には、発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより」、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」ことが規定されている。
そして、明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないとき(例えば、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)には、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないこととなる。

医薬発明は、ある物の未知の属性の発見に基づき、当該物の新たな医薬用途を提供しようとする「物の発明」である。
ここで、医薬発明における、当業者が「発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」とは、その発明が、医薬としての有用性があることの確認に他ならず、医薬発明の場合には、その有効成分である化合物が、実際にその医薬用途において有用であることが確認できなければ、新たな医薬を提供しようという「課題」が解決できることが理解できないから、その発明において、有用な発明が提供されたという技術的な意義を理解することができないことになる。
そして、医薬発明は、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、又はどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明であることから、当業者がその発明を実施することができるように発明の詳細な説明を記載するためには、出願時の技術常識から、当業者が化合物等を製造又は取得することができ、かつ、その化合物等を医薬用途に使用することができる場合を除き、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。さらに、薬理試験結果は、請求項に係る医薬発明における化合物等に薬理作用があることを確認するためのものであるから、明細書において、薬理試験結果が記載されているというためには、有効成分として使用する化合物に関して、その具体的な構造を明らかにすることができないといった特段の事情がある場合を除き、個別の化合物の化学構造を明らかにした上で、どの化合物を、どのような薬理試験系において適用したのか、さらに、該化合物と対応づけられた薬理活性試験の具体的なデータが示されていることが必要である。また、薬理試験系の性質上、結果を数値データで記載することができない場合には、数値データと同視すべき程度の客観的な記載、例えば、医師による客観的な観察結果などの記載で許容される場合もあるが、薬理試験結果は数値データで記載されることを原則とするものである。
すなわち、医薬発明において、化合物の構造から有用性を予測することは、例えば、ある化学構造上の特徴と薬理作用との関連性が十分研究されているような特殊な場合を除き、化学構造のみから薬理作用を予測することは困難であり、有効成分として、いかなる化合物を、いかなる薬理試験系において、いかなる量で用いた場合に、どの程度の薬理効果が得られるのか、医薬発明をどのように実施するのかを発見するために、当業者であっても期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があることから、発明の詳細な説明に有効量、投与方法、製剤化方法が記載されていても、薬理試験結果の記載が不十分である場合には、当該化合物等が実際に医薬用途に使用し得るかどうかについて、当業者が予測することは困難であって、発明の詳細な説明に薬理試験結果又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があり、それがなされていない発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないものであるといわなければならない。

以下、上記のような事情を踏まえて本願明細書の記載を検討する。

(2)有効成分の具体的構造及び薬理活性に関する本願明細書の記載

本願発明に関し、本願明細書には、以下の記載がある。

(a)本発明者らは、…従来化合物とは異なる基本骨格を有する新規なキヌクリジン誘導体を創製し、これらが優れた選択的ムスカリンM_(3)受容体拮抗作用を有することを知見して、本発明を完成した。即ち、本発明化合物は下記一般式(I)で示されるキヌクリジン誘導体、その塩、そのN-オキシド又はその四級アンモニウム塩、及び、該化合物又はその塩と製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物、殊にムスカリンM_(3)受容体拮抗剤に関する。


(式中の記号は以下の意味を有する。
A環:アリール基、…であり、これらの環は任意の置換基で置換されていてもよい
X:単結合又はメチレン基
R:ハロゲン原子、…で置換されていてもよい低級アルキル基
l:0又は1
m:0又は1乃至3の整数
n:1又は2の整数、以下同様)」(段落【0005】?【0006】参照)

(b)「…。本発明化合物(I)は従来のムスカリンM_(3)受容体拮抗剤と異なり、基本骨格として以下に示す環の窒素原子上にキヌクリジニルオキシカルボニル基等が結合したテトラヒドロイソキノリン骨格(Ia)又はイソインドリン骨格(Ib)を有する点に構造上の特徴を有する。

さらに、本発明化合物(I)はテトラヒドロイソキノリン又はイソインドリンのそれぞれ1位にXを介してA環、即ちアリール基、…から選択される環基を有する点に特徴を有する。…」(段落【0010】?【0019】参照)

(c)「【発明の効果】本発明化合物は、ムスカリンM_(3)受容体に対して親和性及び選択性を有し、M_(3)受容体拮抗薬として、M_(3)受容体が関与する種々の疾患、特に、神経性頻尿…等の泌尿器疾患、慢性閉塞性肺疾患…等の呼吸器疾患、過敏性大腸症候群…等の消化器疾患の予防又は治療剤として有用である。特に、本発明化合物は、心臓等に存在するM_(2)受容体と比較して平滑筋や腺組織等に存在するM_(3)受容体に対する選択性が高く、心臓等への副作用の少ないM_(3)受容体拮抗薬として、特に尿失禁…等の予防薬若しくは治療薬として有用性が高い。本発明化合物のムスカリン受容体に対する親和性及び拮抗作用は、以下の試験により確認された。」(段落【0023】参照)

(d)「ムスカリン受容体親和性試験(in vitro)
a.膜標本の調製

c.ムスカリンM_(3)受容体結合試験
… 結果:本発明化合物(I)は、M_(3)受容体に対して10^(-8)乃至10^(-10)MのKi値を有し、M_(2)に比して、十倍以上高い親和性を有していた。」(段落【0024】?【0025】参照)

(e)「ムスカリン受容体拮抗試験(in vivo)
a.ラット律動的膀胱収縮に対する試験
…本試験の結果、本発明化合物は良好なED_(30)値を示した。
b.ラット唾液分泌に対する試験
…本試験の結果、比較化合物として試験したアトロピンのID_(50)値は、前記ラット律動的膀胱収縮に対する試験のED_(30)値と比較して、同程度の値であるのに対し、本発明化合物のID_(50)値は前記ED_(30)値と比較して、5倍以上であり、相対的に唾液分泌に対する作用が弱いことが示された。
c.ラット徐脈に対する試験

結果:本発明化合物(I)の徐脈に対する作用は十分に低く、数mg/kgの投与では観察されなかった。上記ムスカリン受容体親和性試験(in vitro)の結果、本発明化合物(I)はM_(3)受容体に選択的かつ高い親和性を有していた。更にムスカリン受容体拮抗試験(in vivo)においても良好なムスカリンM_(3)拮抗作用を示し、他方ムスカリンM_(2)受容体に関与する徐脈に対する作用は低く、従って本発明化合物(I)はムスカリンM_(3)受容体に選択的に拮抗するものであることが示された。更に、従来の抗コリン剤の有していた口渇等の副作用も低いものであった。」(段落【0026】?【0027】参照)

(f)「本発明化合物又はその塩の一種又は二種以上を含有する医薬組成物は、通常の製薬学的に許容される担体を用いて調製される。本発明における医薬組成物の投与は経口投与、又は注射剤…等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。投与量は症状…等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常経口投与の場合成人投与量は1日当たり0.01mg/kg乃至100mg/kg程度であり、これを一回で、あるいは2?4回に分けて投与する。また、症状によって静脈投与される場合は、通常成人1回当たり、0.001mg/kg乃至10mg/kgの範囲で1日に1回乃至複数回投与される。製剤用の担体としては、固体又は液体状の非毒性医薬用物質が挙げられる。本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤…等が用いられる。…」(段落【0028】?【0029】参照)

(g)「実施例1
エチル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボキシレート0.70g、3-キヌクリジノール0.41gのトルエン溶液30mlに…により3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート0.11gを黄色油状物として得た。これを…により3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート・シュウ酸塩0.08gを無色結晶として得た。
融点:122-124℃(i-PrOH-i-PR_(2)O)
元素分析値(C_(25)H_(28)N_(2)O_(6)・0.75H_(2)Oとして)
C(%) H(%) N(%)
理論値 64.43 6.38 6.01
実験値 64.25 6.15 5.88 」(段落【0041】参照)

(h)「【表3】


」(段落【0052】参照)

(3)検討

本願発明が、薬理データ等の記載がなくても、有用性が理解できるものでないことは、本願の化合物が、本願出願時において未知の化合物であったことに加えて、本願明細書に、「本発明者らは、上記ムスカリンM_(3)受容体拮抗作用を有する化合物につき、鋭意検討した結果、従来化合物とは異なる基本骨格を有する新規なキヌクリジン誘導体を創成し、これらが優れた選択的ムスカリンM_(3)受容体拮抗作用を有することを知見して、本発明を完成した」(摘示事項(a)の段落【0005】)と記載されるように、従来知られていたムスカリンM_(3)受容体拮抗作用を有する化合物は、本願の化合物とは基本骨格を異にしていたこと、及び、請求人も、審判請求書において、「本発明化合物がこのような強い効力を有しているか否かは本願明細書に記載されております薬理試験結果を行って初めて判明したものであります」と述べていることからも明らかである。

そこで、本願明細書において、摘示事項(a)?(h)の記載において、薬理データといえる記載、すなわち、有効成分として使用する化合物の化学構造が明らかにされた上で、該化合物と対応づけられた薬理活性試験のデータが示されている記載があるか否かを検討する。

本願発明において有効成分として使用する化合物は、「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」であり、摘示事項(a)に記載される一般式(I)の化合物において、A環がフェニル基、Xが単結合、lが0、mが0、nが2である化合物であって、摘示事項(g)において、その製造例が、摘示事項(h)において、化学構造式が具体的に記載されている。ここで、当該化合物と対応づけられた薬理活性試験のデータが示されている記載があるか否かを検討すると、摘示事項(a)?(h)の記載のみならず、明細書の全記載においても、「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」が医薬として有用であることを裏付ける薬理データは明記されていない。

次に、本願明細書の摘示事項(c)?(e)の記載が、薬理データに相当するものといえるか否かについて検討する。

摘示事項(c)において、本発明化合物は、ムスカリンM_(3)受容体に対して親和性及び選択性を有し、M_(3)受容体拮抗薬として、M_(3)受容体が関与する種々の疾患の予防又は治療剤として有用であることが記載され、摘示事項(d)において、ムスカリン受容体親和性試験の結果として「本発明化合物(I)は、M_(3)受容体に対して10^(-8)乃至10^(-10)MのKi値を有し、M_(2)に比して、十倍以上高い親和性を有していた」ことが、摘示事項(e)において、ムスカリン受容体拮抗試験に関し、a.ラット律動的膀胱収縮に対する試験の結果として「本発明化合物は良好なED_(30)値を示した。」こと、b.ラット唾液分泌に対する試験試験の結果として「比較化合物として試験したアトロピンのID_(50)値は、前記ラット律動的膀胱収縮に対する試験のED_(30)値と比較して、同程度の値であるのに対し、本発明化合物のID_(50)値は前記ED_(30)値と比較して、5倍以上であり、相対的に唾液分泌に対する作用が弱いことが示された。」こと、c.ラット徐脈に対する試験の結果として「本発明化合物(I)の徐脈に対する作用は十分に低く、数mg/kgの投与では観察されなかった。上記ムスカリン受容体親和性試験(in vitro)の結果、本発明化合物(I)はM_(3)受容体に選択的かつ高い親和性を有していた。更にムスカリン受容体拮抗試験(in vivo)においても良好なムスカリンM_(3)拮抗作用を示し、他方ムスカリンM_(2)受容体に関与する徐脈に対する作用は低く、従って本発明化合物(I)はムスカリンM_(3)受容体に選択的に拮抗するものであることが示された。更に、従来の抗コリン剤の有していた口渇等の副作用も低いものであった。」ことが記載される。
しかしながら、本願発明の場合、有効成分として使用する化合物の具体的な構造を明らかにすることができないといった特段の事情があるものとすることはできないにもかかわらず、これらの試験において使用された化合物に関しては、単に「本発明化合物(I)」、すなわち、摘示事項(a)に記載される一般式(I)において定義される多種多様な置換基を有するキヌクリジン誘導体に包含される化合物を使用したことが記載されるだけであり、具体的に如何なる化学構造を有する化合物が使用されたのかを特定する記載がなされておらず、明細書の記載全体を考慮しても、摘示事項(c)?(e)の試験結果が、一般式(I)で示される化合物のうちの特定の一化合物である「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」の試験結果であるものと認める根拠を見出すことができない。

また、医薬発明における有用性の裏付けは、必ずしも、その化合物の薬理試験データがなければならないというものではなく、代表的ないくつかの化合物の薬理試験データによって、薬理試験データのない他の化合物の有用性も裏付けられる場合があり得る。このような観点から、本発明化合物についての有用性が裏付けられるかについて検討する。
しかし、上述のとおり、本願明細書には、本件の式(I)で表される化合物は、定義される置換基の種類や組み合わせの多さを考えると、対象となる化合物数が膨大になり、全ての化合物を合成して実験することは可能であったとしても現実的ではないことや、当該技術分野において、基本骨格が同一であったとしても、種々の置換基の構造が異なれば薬理活性も異なってくることが技術常識であるところ、多種多様な置換基を有する化合物を包含する一般式(I)で示される化合物の全てが、すべて近接したKi値を示し、摘示事項(c)?(e)で示された試験結果を示すとは考え難いことから、摘示事項(c)?(e)の「本発明化合物(I)」の試験結果の記載は、式(I)で表される化合物のすべてを試験した結果を示したものではないことは明らかであり、式(I)で表される化合物のうちの一部の化合物について実験した結果を示したものと解するのが合理的であるところ、本願明細書には、その実験に用いた化合物が具体的に記載されておらず、「本発明化合物(I)」についての試験の結果としての記載しかない。
そうすると、実験に用いた化合物が明らかでなければ、その実験結果から、医薬用途の有用性が確認できる範囲を特定することができないこととなり、結局、本願明細書における、上記実験結果の記載から、「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」の医薬用途についての有用性が裏付けられているということはできない。
また、摘示事項(b)に記載されるように、本発明化合物(I)は従来のムスカリンM_(3)受容体拮抗剤と異なり、基本骨格として環の窒素原子上にキヌクリジニルオキシカルボニル基等が結合したテトラヒドロイソキノリン骨格(Ia)又はイソインドリン骨格(Ib)を有する点、さらに、テトラヒドロイソキノリン又はイソインドリンのそれぞれ1位にXを介してA環、即ちアリール基等の環基を有する点に特徴を有するものであり、本願発明は、本発明化合物(I)のうち基本骨格として以下に示す環の窒素原子上にキヌクリジニルオキシカルボニル基等が結合したテトラヒドロイソキノリン骨格(Ia)を有し、テトラヒドロイソキノリンの1位にフェニル基を有するする「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」を有効成分とする医薬に関するものであるというのであるからから、「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」のM_(3)受容体拮抗薬としての薬理活性が当業者にとって技術常識であったものとすることもできない。
そうしてみると、発明の詳細な説明の記載から、式(I)で表される化合物のうち、有用性が認められたとされる化合物の具体的な構造を確認することができず、本願発明の有効成分である「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」の医薬としての有用性が確認できない。

したがって、摘示事項(c)?(e)の記載、並びに、有効量、投与方法、製剤化方法に関する摘示事項(f)の記載は、「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」が医薬として有用であることの裏付けとなる薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載と認めることはできないものである。

(4)小括

以上、要するに、本願明細書の発明の詳細な説明には、単に 「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」の医薬用途が形式的に述べられているのみであって、上記化合物が示す具体的な医薬としての効果について何ら開示がないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を容易に実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえない。


また、請求人は、「本発明化合物」が特定のKi値を有していることが具体的な数値により示されており、しかも、Ki値が-logの値で、8?10という極めて限定的な数値で示されていることから、本願明細書には、本発明化合物が、医薬、特にムスカリンM_(3)受容体拮抗剤として機能するものであることを推認できる、薬理試験の結果が記載されており、それに基づけば、本発明化合物の一種である 「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」のM_(3)受容体に対するKi値が6.1×10^(-9)等であることは当業者が当然に期待し、推認し得る結果である旨主張する。
しかし、この請求人の主張は、式Iで表される化合物の全範囲が、上記の薬理試験結果の記載により、上記医薬用途についての有用性が確認できるといえて初めて成り立つ主張である。
出願人が主張する本願明細書の上記記載が、「3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩」の医薬としての有用性を裏付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載と認めることはできないものである点については、上記検討したとおりであり、さらに、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものか否かの判断にあたっては、あくまで願書に添付した明細書の記載を対象とし、そしてこれを理解するために利用できるものは、出願時の当業者の有する技術常識であるのに対して、請求人が提示した上記手続補正書等に記載された、3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレートのシュウ酸塩のKi値が6.1×10^(-9)という特定の数値を有することが、本願出願時における当業者の技術常識であったとすることは到底できないものであるので、上記請求人の主張は採用することができない。


4.むすび

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、3-キヌクリジニル 1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-イソキノリンカルボキシレート、その塩又はその四級アンモニウム塩が医薬として有用であることが、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載によって裏付けられておらず、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえないものであり、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-21 
結審通知日 2010-04-22 
審決日 2010-05-10 
出願番号 特願平11-291267
審決分類 P 1 8・ 531- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 關 政立  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 上條 のぶよ
星野 紹英
発明の名称 キヌクリジン誘導体含有医薬  
代理人 森田 拓  
代理人 矢野 恵美子  
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