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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1219093
審判番号 不服2007-14352  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-17 
確定日 2010-06-24 
事件の表示 特願2002- 16711「電子データ転送プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月31日出願公開、特開2003-216519〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願の手続きの概要は、以下のとおりである。

平成14年 1月25日 出願
平成18年11月 2日付け 拒絶理由通知
平成18年12月27日 意見書・手続補正
平成19年 1月19日付け 拒絶理由通知(最後の拒絶理由)
平成19年 3月23日 意見書・手続補正
平成19年 4月10日付け 補正の却下の決定
(平成19年3月23日の手続補正)
平成19年 4月10日付け 拒絶査定(平成19年1月19日付け
拒絶理由による)
平成19年 5月17日 審判請求
平成19年 6月15日 手続補正
平成21年12月10日付け 審尋
平成22年 2月 9日 回答


2.平成19年6月15日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年6月15日の手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正について
平成19年3月23日の手続補正は却下されているから、平成19年6月15日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、平成18年12月27日の手続補正書に記載されたとおりの

「 【請求項1】 ユーザの位置を特定する位置特定ステップと、
前記位置特定ステップにより特定された位置に基づきユーザの移動を確認する確認ステップと、
前記確認ステップによりユーザの移動が確認されると、それに応じて、複数のサーバの中から、前記位置特定ステップにより特定された位置に近いサーバを選択する選択ステップと、
所定の電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップとをコンピュータに実行させる、電子データ転送プログラム。
【請求項2】 ユーザの移動を判定する移動判定ステップと、
前記移動判定ステップによりユーザが移動したと判定されると、それに応じて、複数のサーバの中から、ユーザの最寄りのサーバを選択する選択ステップと、
所定の電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップとをコンピュータに実行させる、電子データ転送プログラム。
【請求項3】 前記選択ステップは、所定の位置と最寄りのサーバとを予め対応付けて記録したリストに基づいて選択を行なう、請求項1または2に記載の電子データ転送プログラム。
【請求項4】 前記指示ステップは、転送する電子データを示すリストを作成し、当該リストに記載されている電子データのみの転送指示を行なう、請求項1?3のいずれかに記載の電子データ転送プログラム。
【請求項5】 前記指示ステップは、予め設定されたフォルダに格納されている電子データのみの転送指示を行なう、請求項1?4のいずれかに記載の電子データ転送プログラム。
【請求項6】 前記所定の電子データを保存していないサーバに、当該所定の電子データへのショートカットを作成させる、請求項1?5のいずれかに記載の電子データ転送プログラム。」

から、平成19年6月15日の手続補正書に記載されたとおりの

「 【請求項1】 ユーザの位置を特定する位置特定ステップと、
前記位置特定ステップにより特定された位置に基づきユーザの移動を確認する確認ステップと、
前記確認ステップによりユーザの移動が確認されると、それに応じて、複数のサーバの中から、前記位置特定ステップにより特定された位置に近いサーバを選択する選択ステップと、
前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に予め記憶されている、転送する電子データを特定するためのリストに示された電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップとをコンピュータに実行させる、電子データ転送プログラム。
【請求項2】 ユーザの移動を判定する移動判定ステップと、
前記移動判定ステップによりユーザが移動したと判定されると、それに応じて、複数のサーバの中から、ユーザの最寄りのサーバを選択する選択ステップと、
前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に予め記憶されている、転送する電子データを特定するためのリストに示された電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップとをコンピュータに実行させる、電子データ転送プログラム。
【請求項3】 前記選択ステップは、所定の位置と最寄りのサーバとを予め対応付けて記録したリストに基づいて選択を行なう、請求項1または2に記載の電子データ転送プログラム。
【請求項4】 前記指示ステップは、転送する電子データを特定するリストをユーザが当該電子データにアクセスしたときに作成し、当該リストに記載されている電子データのみの転送指示を行ない、当該電子データの転送後に当該リストをクリアする、請求項1?3のいずれかに記載の電子データ転送プログラム。
【請求項5】 前記指示ステップは、予め設定されたフォルダに格納されている電子データのみの転送指示を行なう、請求項1?4のいずれかに記載の電子データ転送プログラム。
【請求項6】 前記所定の電子データを保存していないサーバに、当該所定の電子データへのショートカットを作成させる、請求項1?5のいずれかに記載の電子データ転送プログラム。」(下線部は補正の箇所を示すものとして、当審で付したものである。)

と補正するものである。


(2)補正の目的について
本件補正は上記のとおりのものであって、その補正の前後の内容を対比すると、本件補正は以下(a)(b)及び(c)の補正事項を含むものと認められる。

(a)請求項1及び2において、自動的に転送させる所定の電子データが、「前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に予め記憶されている、転送する電子データを特定するためのリストに示された」電子データであることを特定する補正。
(b)請求項4において、電子データを示すリストの作成に関し、転送する電子データを特定するリストであり、ユーザが当該電子データにアクセスしたときに作成することを特定する補正。
(c)請求項4において、指示ステップには、当該電子データの転送後に当該リストをクリアするという処理が含まれることを加える補正。

上記の各補正事項について検討する。
上記補正事項(a)は、電子データがどのような電子データであるかを限定する補正であり、また、上記補正事項(b)は、電子データを示すリストが、電子データを特定するリストであることを限定し、かつ、ユーザが当該電子データにアクセスしたときに作成することを限定するものである。したがって上記補正事項(a)及び(b)は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
上記補正事項(c)は、指示ステップに「当該電子データの転送後に当該リストをクリアする」という新たな処理を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するものではない。また当該補正事項(c)は、請求項の削除、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでもないことは明らかである。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


(3)独立特許要件について
前記(2)において判断したように、本件補正はいわゆる目的外の補正を含むものであり特許法の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである場合に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(3-1)本願補正発明について
本件補正後の請求項1の記載を再掲すると、次のとおりである。

「ユーザの位置を特定する位置特定ステップと、
前記位置特定ステップにより特定された位置に基づきユーザの移動を確認する確認ステップと、
前記確認ステップによりユーザの移動が確認されると、それに応じて、複数のサーバの中から、前記位置特定ステップにより特定された位置に近いサーバを選択する選択ステップと、
前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に予め記憶されている、転送する電子データを特定するためのリストに示された電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップとをコンピュータに実行させる、電子データ転送プログラム。」


(3-2)引用例
原査定の拒絶理由で引用された特開2000-276425号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、以下(ア)?(ウ)の事項が記載されている。

(ア)「【0085】図8に、プレミアユーザに対するユーザデータベース82の形式の一例を示す。
【0086】ここでは、「ユーザ識別子」、「キャッシュ順位」、「接続セル識別子」、「近隣キャッシュサーバ識別子」という4つのフィールドを持つ。
【0087】ユーザ識別子は、プレミアユーザの識別子(例えばユーザID)である。
【0088】キャッシュ順位は、プレミアユーザの移動端末装置1から通知されるBookmark情報(例えば、いくつかのWWWページのURLと、そのページの優先順位を決定可能な情報(例えば、優先順位自体を示す情報、あるいは過去のアクセス頻度、過去のアクセス頻度から求めたアクセス可能性、あるいはリストにおける優先順位の高い順にWWWページをソートした場合におけるその出現順、など))に含まれるWWW情報のうち、その(決定された)優先順位の順に、上位何位までをキャッシュするかを示す。例えば、プレミアユーザのクラスに応じて、
クラスA…上位10位までキャッシュ
クラスB…上位5位までキャッシュ
クラスC…上位3位までキャッシュ
などのように設定する。
【0089】接続セル識別子は、プレミアユーザの移動端末装置1が現在接続している無線基地局12に対応するセル識別子であり、プレミアユーザの移動端末装置1から通知される。
【0090】近隣キャッシュサーバ識別子は、プレミアユーザの移動端末装置1が現在接続している無線基地局12に対応するキャッシュサーバ3の識別子である。近隣キャッシュサーバ識別子は、上記の接続セル識別子をもとにキャッシュサーバ位置データベース84を検索することにより得られる。」

(イ)「【0094】まず、プレミアユーザの移動端末装置1が無線基地局12aに接続すると、移動端末装置1から管理装置8にユーザ識別子と接続セル識別子とBookmark情報とを含む接続メッセージが通知される。なお、移動端末装置1は、無線基地局12aが送信するデータから接続セル識別子を知ることができるものとする。
【0095】通知メッセージを受信した管理装置8は、ユーザデータベース82のエントリうち受信したユーザ識別子に該当するエントリの接続セル識別子フィールドに、受信した接続セル識別子を登録する。
【0096】また、管理装置8は、接続セル識別子とキャッシュサーバ識別子との対応を登録したキャッシュサーバ位置データベース84を保持しており、現在、プレミアユーザの最近隣に位置するキャッシュサーバの識別子を求めるために、上記受信した接続セル識別子をキーとしてキャッシュサーバ位置データベース84を検索し、これによって得られたキャッシュサーバ識別子をユーザデータベース82の上記エントリの近隣キャッシュサーバ識別子フィールドに登録する。
【0097】なお、キャッシュサーバ位置データベース84には、各キャッシュサーバの記憶容量などの属性情報、各キュッシュサーバのキャッシュポリシーなどをさらに保持するようにしてもよい。
【0098】以降、通信中にプレミアユーザの接続セルが変化すると、その都度、ユーザ識別子と新規の接続セル識別子とを含む移動メッセージが移動端末装置1から管理装置8に通知され、管理装置8では、該プレミアユーザの最近隣キャッシュサーバを再検索し、ユーザデータベース82の該当する接続セル識別子フィールドおよび近隣キャッシュサーバ識別子フィールドを更新する。すなわち、常に各プレミアユーザの現在の最近隣キャッシュサーバが管理装置8のユーザデータベース82にエントリされていることになる。
【0099】このような管理装置8は、スポンサーデータベース81、ユーザデータベース82をもとに、システム中の該当するキャッシュサーバに対して、どのWWWページをキャッシュすべきかを示す命令を発行する。」

(ウ)「【0102】また、各プレミアユーザについては、新たなネットワーク接続時には、ユーザデータベース82をもとに、近隣キャッシュサーバ識別子で示されるキャッシュサーバに、プレミアユーザの移動端末装置1から受信したBookmark情報に含まれるWWWページのリストとキャッシュ順位の内容から決定される所定個数のWWWページのデータをキャッシュすべき旨のキャッシュ命令を発行する。セル間の移動時には、新たなキャッシュサーバに同様のキャッシュ命令を発行するか(この場合、スポンサーデータベース81には、ユーザ側からネットワーク接続時に受信したBookmark情報に含まれるWWWページのリストとキャッシュ順位の内容とから決定された、キャッシュすべきWWWページの識別子のリストを保持しておくためのフィールドを設けるものとする)、あるいは移動元の最近隣キャッシュサーバ(もしくは移動先の最近隣キャッシュサーバ)に、移動元の最近隣キャッシュサーバから該当するWWW情報を移動先の最近隣キャッシュサーバに移動もしくはコピーさせる命令を発行する、などの処理を行う。
【0103】なお、セル間の移動時にキャッシュサーバ3に対して行う移動もしくはコピーすべきキャッシュデータの指定方法については、管理装置8からキャッシュサーバ3に移動もしくはコピーすべきWWWページのリストを通知するようにしてもよいし、キャッシュサーバ3内でキャッシュしたWWWページとユーザ識別子との対応を保持し、管理装置8からキャッシュサーバ3へは移動もしくはコピーすべきキャッシュデータに対するユーザ識別子を通知するようにしてもよい。」


(a)上記摘記事項(イ)の【0094】段落に「なお、移動端末装置1は、無線基地局12aが送信するデータから接続セル識別子を知ることができるものとする。」と記載されているように、接続セル識別子は無線基地局12aが送信するデータによって特定されており、ここで、接続セル識別子は接続セルを示す識別子であることから、引用例に記載されたものは接続セルを特定するステップを有していると考えられる。
さらに上記摘記事項(イ)の「【0098】以降、通信中にプレミアユーザの接続セルが変化すると、その都度、ユーザ識別子と新規の接続セル識別子とを含む移動メッセージが移動端末装置1から管理装置8に通知され、」との記載によれば、接続セルが変化することによって「通知」がなされるから、特定された接続セルが変化したことを確認するステップを有していると考えるのが自然である。
したがって、引用例に記載されたものは、接続セルを特定するステップを有するとともに、前記接続セルを特定するステップにより特定された接続セルに基づき接続セルの変化を確認するステップを有するということができる。

(b)さらに、上記摘記事項(イ)の【0098】段落の「通信中にプレミアユーザの接続セルが変化すると、その都度、・・・・・・管理装置8では、該プレミアユーザの最近隣キャッシュサーバを再検索し、ユーザデータベース82の該当する接続セル識別子フィールドおよび近隣キャッシュサーバ識別子フィールドを更新する。すなわち、常に各プレミアユーザの現在の最近隣キャッシュサーバが管理装置8のユーザデータベース82にエントリされていることになる。」との記載は、複数のキャッシュサーバの中から、再検索によって現在の最近隣キャッシュサーバを選択していると解するのが自然である。そして、この選択は接続セルが変化する都度行われるから、上記(a)の検討を踏まえれば、このような選択が、接続セルの変化を確認するステップにおいて、接続セルが変化したと確認された場合に行われるということができる。また、現在の最近隣キャッシュサーバとは接続セルを特定するステップによって特定された接続セルに最も近いキャッシュサーバのことである。
したがって、引用例に記載されたものは、接続セルの変化を確認するステップにより接続セルが変化したと確認されると、それに応じて、複数のキャッシュサーバの中から、接続セルを特定するステップによって特定された接続セルに最も近いキャッシュサーバを選択するステップを有しているということができる。

(c)また、上記摘記事項(ウ)には「・・・セル間の移動時には、・・・移動元の最近隣キャッシュサーバ(・・・・・)に、移動元の最近隣キャッシュサーバから該当するWWW情報を移動先の最近隣キャッシュサーバに移動もしくはコピーさせる命令を発行する、などの処理を行う。
【0103】なお、セル間の移動時にキャッシュサーバ3に対して行う移動もしくはコピーすべきキャッシュデータの指定方法については、管理装置8からキャッシュサーバ3に移動もしくはコピーすべきWWWページのリストを通知するようにしてもよい・・・」と記載され、セル間の移動時に、移動すべきWWWページのリストによりWWWページを指定し、移動元の最近隣キャッシュサーバから移動先の最近隣キャッシュサーバへの移動を命令しており、これらはセル間の移動に伴って自動的に行われると考えるのが自然である。
したがって、引用例に記載されたものは、移動すべきWWWページを特定するリストによって示されたWWWページを、移動先の最近隣キャッシュサーバに自動的に移動させるように命令をするステップを有しているものと考えられる。

(d)引用例に記載されたものは、電子データであるWWWページを移動するための方法であるから、電子データ移動方法ということができる。

したがって、上記摘記事項(ア)?(ウ)の内容を総合すると、引用例には、

「接続セルを特定するステップと、
前記接続セルを特定するステップにより特定された接続セルに基づき接続セルの変化を確認するステップと、
前記接続セルの変化を確認するステップにより接続セルの変化が確認されると、それに応じて、複数のキャッシュサーバの中から、接続セルを特定するステップによって特定された接続セルに最も近いキャッシュサーバを選択するステップと、
移動すべきWWWページを特定するリストによって示されたWWWページを移動先の最近隣キャッシュサーバに自動的に移動させるように命令をするステップと、
を有する電子データ移動方法。」

との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。


(3-3)対比
本願補正発明を引用発明と対比すると、

(a)引用発明の「キャッシュサーバ」「移動」「命令」が、それぞれ本願補正発明の「サーバ」「転送」「指示」に相当する。

(b)引用発明の「接続セル」は、プレミアユーザの移動端末装置のいる位置を示すものであるから、本願補正発明の「ユーザの位置」に相当する。そうすると引用発明の「接続セルを特定するステップ」が、本願補正発明の「ユーザの位置を特定する位置特定ステップ」に相当する。

(c)さらに、引用発明において「接続セルの変化」はプレミアユーザの移動を意味するから、引用発明の「前記接続セルを特定するステップにより特定された接続セルに基づき接続セルの変化を確認するステップ」が本願補正発明の「前記位置特定ステップにより特定された位置に基づきユーザの移動を確認する確認ステップ」に相当する。

(d)引用発明の「WWWページ」は電子的なデータであるから、本願補正発明の「電子データ」に相当する。よって、後述する点で相違するものの、引用発明の「移動すべきWWWページを特定するリスト」は本願補正発明の「転送する電子データを特定するためのリスト」に相当する。そして引用発明の移動先の最近隣のキャッシュサーバ」とは最も近いキャッシュサーバを選択するステップにより選択されたキャッシュサーバであるから、引用発明の「移動すべきWWWページを特定するリストによって示された、WWWページを移動先の最近隣キャッシュサーバに自動的に移動させるように命令をするステップ」は、本願補正発明の「転送する電子データを特定するためのリストに示された電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップ」に相当する。


そうすると、両者は、

[一致点]
「ユーザの位置を特定する位置特定ステップと、
前記位置特定ステップにより特定された位置に基づきユーザの移動を確認する確認ステップと、
前記確認ステップによりユーザの移動が確認されると、それに応じて、複数のサーバの中から、前記位置特定ステップにより特定された位置に近いサーバを選択する選択ステップと、
転送する電子データを特定するためのリストに示された電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップとを有するもの」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明における「転送する電子データを特定するためのリスト」は、「前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に予め記憶されている」ものであるのに対して、引用発明におけるリストはそのようなものではない点。

[相違点2]
本願補正発明が各ステップをコンピュータに実行させる電子データ転送プログラムであるのに対して、引用発明は各ステップを有する電子データ移動方法である点。


(3-4)判断
[相違点1について]
上記「(3-2)」の摘記事項(イ)に摘記したように、引用例には「まず、プレミアユーザの移動端末装置1が無線基地局12aに接続すると、移動端末装置1から管理装置8にユーザ識別子と接続セル識別子とBookmark情報とを含む接続メッセージが通知される。」と記載され、移動すべきWWWページを特定するリストを作成するために必要なBookmark情報は基地局に接続した時に管理装置8に通知されているから、その後の移動に伴う接続セルを特定するステップより前に、移動すべきWWWページを特定するリストを作成し、記憶しておくようにすることは、当業者が設計を行う上で適宜なし得た程度の事項にすぎない。さらに、上記「(3-2)」の摘記事項(ア)に「キャッシュ順位は、プレミアユーザの移動端末装置1から通知されるBookmark情報(例えば、いくつかのWWWページのURLと、そのページの優先順位を決定可能な情報(例えば、優先順位自体を示す情報、あるいは過去のアクセス頻度、過去のアクセス頻度から求めたアクセス可能性、あるいはリストにおける優先順位の高い順にWWWページをソートした場合におけるその出現順、など))に含まれるWWW情報のうち、その(決定された)優先順位の順に、上位何位までをキャッシュするかを示す。」と記載されているように、Bookmark情報には過去のアクセス頻度が含まれ、移動すべきWWWページのリストの作成にこれが使用される。よって、キャッシュの有効性を高めるため、アクセスの都度、新しく求めたアクセス頻度に基づいて、移動すべきWWWページを特定するリストを作成し、接続セルの特定に先立ってリストを更新する構成とすることも格別の事項とはいえない。
したがって、相違点1とした本願補正発明の構成は、当業者が引用発明、及び引用例に記載された事項から容易に想到できたものである。

[相違点2について]
引用発明の各ステップを実際に実行しているサーバーのような構成は、プログラムによってコンピュータに特定の機能を実行させるようにして実現することが周知の技術事項である。したがって、引用発明の「電子データ移動方法」から当該方法をコンピュータに実行させる「電子データ転送プログラム」を発明することが格別困難であったということはできない。
したがって、相違点2とした本願補正発明の構成は、当業者が引用発明及び周知の技術事項に基づき容易に想到できたものである。

以上検討したとおり、本願補正発明は、当業者が引用発明、引用例に記載された事項、及び周知の技術事項から容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(3-5)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書(平成19年6月15日の手続補正書参照)において、以下のとおり主張している。

「(2) 本願発明の説明
本願の各請求項に記載された発明は、ユーザの位置を特定する前に既に特定されている転送する電子データを特定するためのリストに基づいて、ユーザの位置を特定した際に即座にファイルサーバに当該電子データの転送命令を送信させるものであって、特許請求の範囲の記載から明らかなように、以下のように構成されるものである。
・・・中略・・・
上記のような構成を有するが故に、本願の新請求項1および新請求項2に係る発明によって、ユーザの位置情報を特定(把握)した際に、転送すべき電子データと転送元のサーバと転送先のサーバとを即座に特定(把握)することができる。
(3) 引用発明の説明
引用文献1には、移動端末1が無線基地局12に接続される情報配信システムが開示されており、移動端末1の移動に応じてWWWサーバ2にあるWWW情報(WEBページなど)を移動端末1の最寄りの基地局12に付随するキャッシュサーバ3にキャッシュさせることが記載されている(段落番号0093?0169など)。より詳細には、引用文献1には、移動端末1の位置を特定する際に前記移動端末1が記憶しているBookmark情報を取得して、前記キャッシュサーバ3に前記Bookmark情報に含まれるWWWページのデータの取得命令を送信するシステムが開示されている。
・・・中略・・・
(4) 本願発明と引用発明との対比
本願の新請求項1および新請求項2に係る発明は、前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に予め記憶されている、転送する電子データを特定するためのリストに示された電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップをコンピュータに実行させるということを一つの特徴とする。換言すれば、転送する電子データを特定するためのリストが、前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に予め記憶されているものである。実施の形態との対応においては、ユーザがファイルサーバ7の電子データへアクセスする度に、当該ファイルサーバ7が自動的に、どの電子データへユーザがアクセスしたかを転送指示装置3へ通知するものである。
一方、引用文献1に記載の発明は、ユーザの位置情報を特定する際に移動端末1から電子データに係る情報を吸い上げるシステムに関するものであって、当該システムにおいては、移動端末1の位置を特定してから、それぞれのキャッシュサーバがBookmark情報に含まれるWWWページのアドレスを調べる(DNSサーバへ問い合わせる等)必要がある。具体的には、移動端末1にBookmark情報やアクセス履歴情報を記憶させて、移動端末1の位置を特定する際に、当該情報が移動端末1から管理装置へ通知されるものである。
本願の新請求項1および新請求項2に係る発明においては、転送すべき電子データに関するリストが、予めコンピュータ(転送指示装置3に対応)上に作成されているため、転送すべき電子データがいずれのサーバに蓄積されているかを予め特定しておくことが可能である。その結果、ユーザの位置情報さえ特定できれば即座に転送指示を行なうことが可能となる。つまり、ユーザの位置情報の把握から転送指示までのプロセスが簡略なものとなり、電子データの転送を迅速に行なうことが可能となる。これによって、従来よりも、ユーザの移動に対して高いレスポンスで電子データの転送を行なうことができる。
また、新請求項1および新請求項2に係る発明においては、ユーザは、ユーザの位置情報を特定するための装置のみを携帯していればよいものであって、ユーザの位置情報を特定する際に移動端末1から電子データに係る情報を吸い上げる引用文献1に係るシステムと比較して利便性が高い。
そして、上記の新請求項1および新請求項2に係る発明の特徴点である「前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に、予め記憶されている転送する電子データを特定するためのリストに示された電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップをコンピュータに実行させる」という構成は、引用文献1に開示も示唆もされていない構成であって、引用文献2および引用文献3にも開示も示唆もされていない構成である。
(5) まとめ
したがって、上述した本願の新請求項1および新請求項2に係る発明の特徴的な構成およびその効果が、引用文献1-3において開示も示唆もされていない以上、いかに当業者といえども、引用文献1-3に基づいて本願の新請求項1および新請求項2に係る発明に容易に想達できたとは到底思えるものではない。また、本願の請求項3-6に記載の発明は、直接または間接的に新請求項1または2に従属するものであって、引用文献1-3に対して少なくとも新請求項1または2と同様の相違点を有するものである。」

しかしながら、当審の判断は前記(3-4)で判断したとおりであり、上記審判請求人の主張はこれを採用することはできない。


(4)まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に本件補正が発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとしても、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



3.本件補正前の請求項1に記載された発明(本願発明)について
平成19年6月15日の手続補正は上記「2.」に記載したとおり却下されたので、本件補正前の平成18年12月27日の手続補正書に記載されたに請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「ユーザの位置を特定する位置特定ステップと、
前記位置特定ステップにより特定された位置に基づきユーザの移動を確認する確認ステップと、
前記確認ステップによりユーザの移動が確認されると、それに応じて、複数のサーバの中から、前記位置特定ステップにより特定された位置に近いサーバを選択する選択ステップと、
所定の電子データを前記選択ステップで選択されたサーバに自動的に転送させるよう指示する指示ステップとをコンピュータに実行させる、電子データ転送プログラム。」


(2)原査定の拒絶の理由について

平成19年4月10日付けの拒絶査定に記載された理由の概要は以下のとおりである。

「この出願については、平成19年1月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」

また、平成19年1月19日付けの拒絶理由通知書で通知された理由の概要は以下のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項:1?6
引用文献:1?3
備考:
引用文献1の段落番号【0093】?【0169】等には、移動端末装置の移動を検知すると、近隣のキャッシュサーバに、リストに含まれるWWWページの情報を移動する構成が開示されている。
また、請求項5に記載された、予め設定されたフォルダに格納されている電子データのみの転送指示を行う構成は、引用文献2(段落番号【0018】等)にも記載されているように周知である。
また、請求項6に記載された、所定の電子データを保存していないサーバに、当該所定の電子データへのショートカットを作成させる構成は、引用文献3(請求項3、段落番号【0031】?【0032】等)に記載されているように周知である。
したがって、本願の請求項1?6に係る発明は、引用文献1に記載された発明に、上記各周知技術を適用することにより、容易に発明をすることができたものである。

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引 用 文 献 等 一 覧

1.特開2000-276425号公報
2.特開2000-298612号公報
3.特開2001-75843号公報 」


(3)引用例について
原査定の拒絶理由で引用された引用例に記載された事項は、上記「2.(3-2)」に記載したとおりである。


(4)対比、判断
本願発明は、本願補正発明から、自動的に転送させる所定の電子データが、「前記位置特定ステップによってユーザの位置が特定されるより前に予め記憶されている、転送する電子データを特定するためのリストに示された」電子データであるとする限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3-4)」に記載したとおり、引用発明、引用例に記載された事項、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明は、本願補正発明と同様の理由(ただし、[相違点1]に係る理由は除く)により、引用発明、引用例に記載された事項、及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明、引用例に記載された事項、及び周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

よって、本願発明は、引用発明、引用例に記載された事項、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


4.むすび
上記「3.」で述べたとおり、本願請求項1に係る発明は、引用発明、引用例に記載された事項、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-14 
結審通知日 2010-04-20 
審決日 2010-05-07 
出願番号 特願2002-16711(P2002-16711)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 572- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須藤 竜也  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 松田 直也
山本 章裕
発明の名称 電子データ転送プログラム  
代理人 深見 久郎  
代理人 酒井 將行  
代理人 仲村 義平  
代理人 森田 俊雄  
代理人 堀井 豊  
代理人 野田 久登  
代理人 荒川 伸夫  

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