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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1219120
審判番号 不服2008-241  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-04 
確定日 2010-06-24 
事件の表示 特願2002- 77164「2波長反射防止膜および該2波長反射防止膜を施した対物レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 2日出願公開、特開2003-279702〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年3月19日になされた出願である。平成19年7月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年10月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものの、同年11月27日付けで拒絶査定がなされた。この査定に対し、平成20年1月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年2月4日付けで手続補正書が提出された。



第2 平成20年2月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕

平成20年2月4日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕

1 本件補正の目的
(1)本件補正後の特許請求の範囲
平成20年2月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前(平成19年10月1日付けの手続補正によって補正した。以下、同じ。)の明細書の特許請求の範囲の記載を以下のとおり補正することを含むものである(下線は、請求項2についての補正箇所を示す)。

<本件補正後の特許請求の範囲>
「【請求項1】 深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域から近赤外域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり、
反射防止を行う可視域から近赤外域の波長が750nm付近であり、前記基板側から1層目と3層目の薄膜に、反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率が1.6?1.95の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、且つ各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基材側から1層目の薄膜が0.4λ≦nd1≦0.6λ、2層目の薄膜が0.4λ≦nd2≦0.6λ、3層目の薄膜が0.2λ≦nd3≦0.3λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.3λであることを特徴とする2波長反射防止膜。
【請求項2】 深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり、
反射防止を行う可視域の波長が550?650nm付近であり、前記基板側から1層目と3層目の薄膜に、反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率が1.6?1.95の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、且つ各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基材側から1層目の薄膜が0.5λ≦nd1≦0.7λ、2層目の薄膜が0.05λ≦nd2≦0.2λ、3層目の薄膜が0.25λ≦nd3≦0.5λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.35λであることを特徴とする2波長反射防止膜。
【請求項3】 前記低屈折率材料は、MgF2またはSiO2であり、前記中間屈折率材料は、La2O3とAl2O3との混合材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の2波長反射防止膜。
【請求項4】 300nm以下の深紫外域の光により観察を行い、可視域から近赤外域の波長域の光により焦点を合わせる機構(オートフォーカス)を持つ光学機器に用いられる対物レンズであって、
媒質の異なる正レンズと負レンズからなる複数の単レンズで構成され、全体として負のパワーを有する第1のレンズ群と、
前記第1のレンズ群より物体側に配置され、媒質の異なる正レンズと負レンズからなる複数の単レンズで構成された第2のレンズ群と、を具備し、
前記第1および第2のレンズ群の各レンズ表面には、第1乃至第3のいずれか一記載の2波長反射防止膜が形成されていることを特徴とする対物レンズ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲は、平成19年10月1日付けの手続補正により、下記のとおりのものとなっていた。

<本件補正前の特許請求の範囲>
「【請求項1】 深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域から近赤外域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり、
反射防止を行う波長が750nm付近にある場合、前記基板側から1層目と3層目の薄膜に、設計主波長248nmにおける屈折率が1.6?2.0の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、且つ各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基材側から1層目の薄膜が0.4λ≦nd1≦0.6λ、2層目の薄膜が0.4λ≦nd2≦0.6λ、3層目の薄膜が0.2λ≦nd3≦0.3λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.3λであることを特徴とする2波長反射防止膜。
【請求項2】 深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域から近赤外域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり、
反射防止を行う波長が550?650nm付近にある場合、前記基板側から1層目と3層目の薄膜に、設計主波長248nmにおける屈折率が1.6?2.0の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、且つ各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基材側から1層目の薄膜が0.5λ≦nd1≦0.7λ、2層目の薄膜が0.05λ≦nd2≦0.2λ、3層目の薄膜が0.25λ≦nd3≦0.5λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.35λであることを特徴とする2波長反射防止膜。
【請求項3】 前記基板は、石英もしくは螢石であることを特徴とする請求項1又は2記載の2波長反射防止膜。
【請求項4】 前記低屈折率材料は、MgF2またはSiO2であり、前記中間屈折率材料は、La2O3とAl2O3との混合材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の2波長反射防止膜。
【請求項5】 前記設計主波長の光の入射角が0?70°の範囲に設定されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の2波長反射防止膜。
【請求項6】 300nm以下の深紫外域波長の光により観察を行ない、可視域から近赤外域の波長域の光により焦点を合わせる機構(オートフォーカス)を持つ光学機器に用いられる対物レンズであって、
前記対物レンズは、複数の単レンズから構成され、これら単レンズ表面にそれぞれ請求項1乃至5のいずれかに記載の2波長反射防止膜を形成したことを特徴とする対物レンズ。
【請求項7】 媒質の異なる正レンズと負レンズからなる複数の単レンズで構成され、全体として負のパワーを有する第1のレンズ群と、
前記第1のレンズ群より物体側に配置され、媒質の異なる正レンズと負レンズからなる複数の単レンズで構成された第2のレンズ群と、を具備し、
前記第1および第2のレンズ群は、前記正レンズと負レンズとの間に空気間隔が設けられ、且つ開口数が0.7以上であることを特徴とする請求項6記載の対物レンズ。」


(3)本件補正の目的について
請求項2に係る補正について検討する。
請求項2に係る補正のうち、まず、本件補正前の「深紫外域と可視域から近赤外域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり」(下線は当審による。)を「深紫外域と可視域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり」と補正することについて検討する。本件補正前の請求項2には「反射防止を行う波長が550?650nm付近にある場合」と記載されていることから、深紫外域以外の波長が「近赤外域」ではなく「可視域」であることは、本件補正前の請求項2の記載から明らかである。したがって、当該補正事項は誤記の訂正であると認められる。
次に、本件補正前の「反射防止を行う波長が550?650nm付近にある場合」(下線は当審による。)を「反射防止を行う可視域の波長が550?650nm付近であり」と補正することについて検討すると、当該補正事項は単に言い換えただけのものである。
さらに本件補正前の「設計主波長248nmにおける屈折率が1.6?2.0の中間屈折率材料」(下線は当審による。)を「反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率が1.6?1.95の中間屈折率材料」と補正することについて検討する。「設計主波長」が反射防止を行う波長であることは明らかであるから、「設計主波長248nmにおける屈折率」を「反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率」と補正することは単に言い換えただけのものである。本件補正前の「屈折率が1.6?2.0」を「屈折率が1.6?1.95」と補正することは、屈折率の範囲を限定するものである。
以上を総合すると、請求項2に係る補正は、全体としては、「中間屈折率材料」の波長248nmにおける屈折率が、本件補正前には「1.6?2.0」の範囲であったものを「1.6?1.95」の範囲に限定することを補正の内容とするものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。

そこで、本件補正後の請求項2に記載されている発明特定事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて、以下に検討する。


2 本願補正発明

本願補正発明は、次のとおりのものである。

<本願補正発明>
「 深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり、
反射防止を行う可視域の波長が550?650nm付近であり、前記基板側から1層目と3層目の薄膜に、反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率が1.6?1.95の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、且つ各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基材側から1層目の薄膜が0.5λ≦nd1≦0.7λ、2層目の薄膜が0.05λ≦nd2≦0.2λ、3層目の薄膜が0.25λ≦nd3≦0.5λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.35λであることを特徴とする2波長反射防止膜。」


3 刊行物及び各刊行物の記載事項

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2001-66402号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下記、「(3)引用発明の認定」において特に関連する部分に下線を引いた。)。

ア 【要約】の欄
「【課題】 KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)及びHe-Neレーザー波長(λ=633nm)の両波長において、それぞれ実用に足りうる充分な反射防止波長幅を有する2波長反射防止膜を提供する。」

イ 【特許請求の範囲】の欄
「【請求項1】 基板上に設けられ、HfO_(2)及びSc_(2)O_(3)からなる群から選ばれた物質よりなる第1層と、この第1層上に設けられ、MgF_(2)及びSiO_(2)からなる群から選ばれた物質よりなる第2層と、この第2層上に設けられ、Al_(2)O_(3)、LaF_(3)及びNdF_(3)からなる群から選ばれた物質よりなる第3層と、この第3層上に設けられ、MgF_(2)及びSiO_(2)からなる群から選ばれた物質よりなる第4層とを有することを特徴とする2波長反射防止膜。
【請求項2】 前記第1層の光学的膜厚が130nm以上、145nm以下であり、前記第2層の光学的膜厚が10nm以上、45nm以下であり、前記第3層の光学的膜厚が85nm以上、115nm以下であり、前記第4層の光学的膜厚が45nm以上、70nm以下であることを特徴とする請求項1記載の2波長反射防止膜。」

ウ 段落【0001】?段落【0017】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、2波長反射防止膜に関し、特にKrFエキシマ・レーザーとHe-Neレーザーを利用する光学系において、それぞれの波長での反射率を最小にする2波長反射防止膜に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、半導体集積回路の高集積化に伴い、縮小投影型露光装置の光源の短波長化が進んでいる。特にエキシマ・レーザーの実用化により、エキシマ・レーザーを光源とした縮小投影型露光装置が注目を浴び、実験機レベルにおいては、0.5μm以下のパターン形成が報告されている。
【0003】このような状況の中で、エキシマ・レーザーとしては、最も一般的であるKrFエキシマ・レーザー波長(248nm)における反射防止膜が必要とされている。エキシマ・レーザー用反射防止膜は、レーザー照射による光学特性の変化やレンズの面精度を低下させない膜の吸収などを考慮して開発することが重要である。これまでにも、KrFエキシマ・レーザー波長を含む広帯域反射防止膜は、例えば特開昭64-61702号公報に開示されている。この技術は、紫外域で吸収の少ない蒸着材料を用いた6層構成からなり、波長λ=150?250nm、又はλ=250?450nmまでをカバーする反射防止膜となっている。
【0004】また、露光装置においては、位置合せ(アライメント)の高精度化に伴い、露光光源だけでなく、レチクルとウエハの位置合せに使うアライメント光も投影レンズに通すTTLアライメント方式が主流になりつつある。一般に、アライメント光は、照射によるレジストの焼き付けを防止するために、露光光源とは離れた波長が用いられる。特に、アライメント光は、光源の安定性,取扱いの容易さの点から、一般的にはHe-Neレーザー(波長λ=633nm)が用いられている。従って、このようなTTLアライメント方式においては、KrFエキシマ・レーザー波長のみならず、アライメント光の波長をも考慮した反射防止膜が要求されることになる。
【0005】特開昭63-113501号公報においては、紫外域で吸収の少ない材料を用いた4層構成からなり、λ=248nmとλ=470?800nmの両波長域において波長の少ない反射防止膜が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】レンズに反射防止膜を形成する方法として、通常は蒸着法が用いられる。レンズに反射防止膜を蒸着すると、膜厚は蒸着源からの法線とレンズ曲面の接線とのなす角θのcosθにほぼ比例する。つまり、レンズ中心に対しては、通常はレンズ周辺部の膜厚が薄くなる。このことは光学特性におきかえると、干渉に係わる光路長が短くなることに等しく、同じ材料の反射防止膜を用いても、レンズ周辺部においては、反射防止される波長域が短波長側に移動してしまうことになる。従って、反射防止膜によって反射防止される波長域が広いほど、レンズ周辺部まで反射防止効果が維持できることとなる。
【0007】しかし、従来においては、エキシマ・レーザーの波長域とアライメント光の波長域の2波長での反射防止膜を考えた場合、一方の波長域において広範囲に反射防止効果を得ようとすると、他方の波長域において反射防止効果が得られる波長の範囲が狭くなってしまうという問題点があった。
【0008】すなわち、前述の特開昭64-61702号公報に開示されている反射防止膜においては、KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)の波長域では、非常に広い波長域にわたって反射防止効果が得られるが、He-Neレーザー(λ=633nm)の波長においては反射防止効果を有していない。
【0009】また、特開昭63-113501号公報に開示されている反射防止膜においては、He-Neレーザー(λ=633nm)の波長域では非常に広い範囲で反射防止効果が得られるが、KrFエキシマ・レーザー(λ=248nm)の波長域では、ほとんどレーザーの発振波長でしか反射防止効果が得られておらず、実際に曲率を有するレンズに蒸着すると、レンズの中心近傍しかKrFエキシマ・レーザーが透過しないという問題点があった。
【0010】本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)及びHe-Neレーザー波長(λ=633nm)の両波長において、それぞれ実用に足りうる充分な反射防止波長幅を有する2波長反射防止膜を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1の発明の2波長反射防止膜は、基板上に設けられ、HfO_(2)及びSc_(2)O_(3)からなる群から選ばれた物質よりなる第1層と、この第1層上に設けられ、MgF_(2)及びSiO_(2)からなる群から選ばれた物質よりなる第2層と、この第2層上に設けられ、Al_(2)O_(3)、LaF_(3)及びNdF_(3)からなる群から選ばれた物質よりなる第3層と、この第3層上に設けられ、MgF_(2)及びSiO_(2)からなる群から選ばれた物質よりなる第4層とを有することを特徴とする。
【0012】請求項2の発明は、請求項1記載の発明であって、前記第1層の光学的膜厚が130nm以上、145nm以下であり、前記第2層の光学的膜厚が10nm以上、45nm以下であり、前記第3層の光学的膜厚が85nm以上、115nm以下であり、前記第4層の光学的膜厚が45nm以上、70nm以下であることを特徴とする。
【0013】ここで光学的膜厚とは屈折率nと膜厚dとの積ndをいう。
【0014】上記構成の2波長反射防止膜においては、第3層には、第4層や第2層の屈折率より高い屈折率を有する物質を用い、第1層には、第3層の屈折率より高い屈折率を有する物質を用いている。また、第1層,第3層の屈折率は基板の屈折率よりも高い。そして、いずれの層に用いられる物質もKrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)及びHe-Neレーザー波長(λ=633nm)においで吸収が少ないものである。
【0015】このような物質を用い、上記の4層構造とすることで、KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)及びHe-Neレーザー波長(λ=633nm)の両波長において、それぞれ実用に足りうる充分な反射防止波長幅を有する2波長反射防止膜が得られる。
【0016】また、各層の膜厚は、特性を調整する許容幅を有し、上記の範囲内で最適な膜厚が選択される。もし、一層でもこの膜厚の範囲より外れると、他の層の膜厚を上記範囲内で変化させても前述の2波長を満足する反射防止膜を得ることは困難となる。
【0017】本発明に用いられる基板は、紫外域で吸収が少なく、透過率が高いことが望まれることから、好ましくは合成石英(SiO_(2)。)又は蛍石(CaF_(2))が用いられる。」

エ 段落【0019】?段落【0026】
「【0019】
【発明の実施の形態】真空蒸着装置内に合成石英からなるレンズ基板を設置し、真空蒸着法により表1?表3に示した物質と光学的膜厚とを有する2波長反射防止膜を、それぞれ実施の形態1?3としてレンズ面上に形成した。
【0020】
【表1】
入射角0°
材 料 光学的膜厚(nm)
入射物質 空 気
第4層 MgF_(2) 50
第3層 Al_(2)O_(3) 100
第2層 MgF_(2) 40
第1層 HfO_(2) 130
基板 合成石英

【0021】
【表2】
入射角0°
材 料 光学的膜厚(nm)
入射物質 空 気
第4層 MgF_(2) 62
第3層 NdF_(2) 105
第2層 SiO_(2) 28
第1層 Sc_(2)O_(3) 132
基板 合成石英

【0022】
【表3】
入射角0°
材 料 光学的膜厚(nm)
入射物質 空 気
第4層 MgF_(2) 65
第3層 Al_(2)O_(3) 90
第2層 MgF_(2) 30
第1層 Sc_(2)O_(3) 135
基板 合成石英

【0023】上記各実施の形態において、成膜は、基板を250℃の温度に加熱し、到達真空度が1×10^(-5)Torrに達したときに蒸着を開始した。以上のようして作成した実施の形態1?3の2波長反射防止膜の分光特性をそれぞれ図1?図3示す。なお、分光特性は入射光の入射角を0°とし、入射物質を空気として測定した。
【0024】図1?図3によれば、いずれの実施の形態に係る2波長反射防止膜も、KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)では反射率0.2%以下、He-Neレーザー波長(λ=633nm)では反射率0.4%以下であり、両波長域において、広い低反射波長域を有している。
【0025】また、レーザーに対する耐久性に関しては、パワー密度50mJ/cm^(2)のエキシマ・レーザーを6×10^(6)ショット連続照射し、レーザー照射前後での透過率の変化を測定したところ、透過率の変化は認められなかった。
【0026】
【発明の効果】本発明の2波長反射防止膜は、KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)とHe-Neレーザー波長(λ=633nm)の2波長において広い低反射率波長域を有している。従って、レンズ面に蒸着法で形成した場合に、レンズ全面で均一な光強度分布が得られる。また、吸収の少ない材料を使ってため、レーザーに対する耐久性にも優れている。」

オ 【図1】、【図2】、【図3】
【図1】?【図3】にはそれぞれ下記のことが図示されている。
【図1】 実施の形態1の2波長反射防止膜の分光特性を示す特性図。
【図2】 実施の形態2の2波長反射防止膜の分光特性を示す特性図。
【図3】 実施の形態3の2波長反射防止膜の分光特性を示す特性図。


(2)引用例2
原審において平成19年7月23日付けの拒絶理由通知書で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平6-160602号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下記「相違点の検討・判断」において特に関連する部分に下線を引いた。)。

ア 【要約】の欄
「【目的】 紫外域と可視域の双方で安定した反射防止を行った2波長反射防止膜を得ること。」

イ 段落【0001】?【0009】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は2波長反射防止膜に関し、例えば波長200nm?300nm程度の紫外域の波長と、波長600nm?700nmの可視域の波長の2つの波長の光に対して反射防止を効果的に行った2波長反射防止膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近の半導体素子製造用の投影露光装置(ステッパー)では高解像力化を図る為に露光光としてg線やi線の光よりも短い波長の光、例えばエキシマレーザから放射される波長248nmの紫外域の光を用いたものが種々と提案されている。
【0003】一方、このような投影露光装置においてレチクルとウエハとの相対的な位置合わせ(アライメント)を高精度に行う為に露光波長とは異なり、ウエハ面の観察が可能な可視光で、かつフォトレジストに非感光の光、例えばHe-Neレーザから放射される波長632.8nmの光を用いたアライメント系が種々と提案されている。
【0004】このような投影露光装置において用いられる光学系のレンズやミラー等の面には紫外域と可視域の双方の波長域で所定の透過率(又は反射率)を有した薄膜が施されている。例えば、特開昭63-113501号公報、特開平2-127601号公報、特開平3-12605号公報等では紫外域と可視域で所定の反射防止を行った反射防止膜が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の反射防止膜は、例えばY_(2)O_(3)のような屈折率が1.9以上の高屈折率材料を一部に用いて構成している。
【0006】一般にY_(2)O_(3)のような高屈折率材料は波長300nm以下の紫外領域での吸収率が高い。この為、半導体素子の製造装置(投影露光装置)において高解像力化を図る為に光源としてKrFエキシマレーザ(発振波長248nm)からの光を用いると投影レンズの透過率が低下し、又光の吸収により光学部材の温度が上昇し、光学性能が変動してくるといった問題点があった。
【0007】更に光の吸収により反射防止膜が損傷し、膜構成が変化し、所定の分光特性(反射防止)が得られなくなってくるという問題点があった。
【0008】本発明は反射防止膜の材質の屈折率及び膜構成を適切に設定することにより、主に波長300nm以下の紫外領域と波長600nm?700nmの可視領域の2つの領域における光に対して光学的に安定して光の吸収が少なく、かつ所定の反射防止を効果的に行った、例えば半導体素子製造用の投影露光装置(ステッパー)に用いる光学部材(レンズ、ミラー)に好適な2波長反射防止膜の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の2波長反射防止膜は
(1-1)光の入射側から基板面上へ順に低屈折率材料と中間屈折率材料の薄膜を交互に積層し、紫外域の波長と可視域の波長の2つの波長の光に対して反射防止を行ったことを特徴としている。又、前記低屈折率材料はMgF_(2) ,SiO_(2) ,BaF_(2) ,LiF,SrF_(2) ,AlF_(3) ,NaF及びこれらの混合物又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分であり、前記中間屈折率材料はAl_(2) O_(3),LaF_(3) ,NdF_(3) ,YF_(3) 及びこれらの混合物又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分であることや、前記低屈折率材料と中間屈折率材料を交互に4層から7層積層したこと等を特徴としている。」

ウ 段落【0013】?段落【0019】
「【0013】
【実施例】表1?表8に本発明の2波長反射防止膜の実施例1?8の膜構成の具体例を示す。
【0014】本実施例では基板に合成石英(波長248nmでの屈折率1.51)を用いている。そして光入射側(空気側)より順に第1層、第2層‥‥と薄膜を4層?7層積層して2波長反射防止膜を構成している。反射防止膜の層数が多いと成膜(蒸着)に時間がかかり、又バラツキが大きくなる為に本実施例では4層?7層としている。
【0015】対象とする2波長の光は波長200nm?300nmの紫外領域においては波長248nm(KrFエキシマレーザからの発振波長)の光であり、波長600nm?700nmの可視領域においては波長632.8nm(He-Neレーザからの発振波長)の光である。
【0016】本実施例では反射防止膜の膜構成として高屈折率材料を用いず紫外領域で比較的吸収が少なく、かつ可視領域でも有効な低屈折率材料と中間屈折率材料を相互に4層?7層積層している。成膜の製造方法としては公知の真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を用いている。
【0017】ここで低屈折率材料とは、波長248nmにおける屈折率が1.55以下の、例えばMgF_(2) ,SiO_(2) ,BaF_(2) ,LiF,SrF_(2) ,AlF_(3) ,NaF及びこれらの混合物又は化合物より成る材料をいう。
【0018】中間屈折率材料とは、波長248nmにおける屈折率が1.55?1.90のAl_(2 )O_(3) ,LaF_(3) ,NdF_(3) ,YF_(3) 及びこれらの混合物又は化合物より成る材料をいう。
【0019】高屈折率材料とは、波長248nmにおける屈折率が1.90以上のY_(2) O3,HfO_(2) ,ZrO_(2) 等の材料をいう。」

エ 段落【0026】?【0031】
【0026】次に本実施例の2波長多層反射防止膜の具体的な膜構成の実施例1?8を表1?表8に示す。
……(中略)……
【0028】表1、表2(実施例1、2)の膜構成における反射特性(分光特性)を図1に、表3(実施例3)?表6(実施例6)の分光特性を図2?図5に、表7、表8(実施例7、8)の分光特性を図6に示す。図1?図6においてRは反射率曲線を示す。
【0029】表1?表8の実施例1?8において光学素子の波長λ_(0 )=248nmにおける透過率はいずれも99.8%以上で殆んど吸収がなかった。
……(中略)……
【0031】
【表1】
≪表1≫ λ_(0)=248nm 入射角 0°
材料 屈折率(n) 光学的膜厚(nd)
入射媒質 空気 1.00
第1層 MgF_(2) 1.39 0.29λ_(0)
第2層 Al_(2)O_(3) 1.74 0.14λ_(0)
第3層 SiO_(2) 1.51 0.32λ_(0)
第4層 Al_(2)O_(3) 1.74 0.51λ_(0)
出射媒質(基板) 合成石英 1.51


≪表2≫ λ_(0)=248nm 入射角 0°
材料 屈折率(n) 光学的膜厚(nd)
入射媒質 空気 1.00
第1層 MgF_(2) 1.39 0.29λ_(0)
第2層 Al_(2)O_(3) 1.74 0.14λ_(0)
第3層 SiO_(2) 1.51 0.32λ_(0)
第4層 Al_(2)O_(3) 1.74 0.51λ_(0)
第5層 SiO_(2) 1.51 0.50λ_(0)
出射媒質(基板) 合成石英 1.51


≪表3≫ λ_(0)=248nm 入射角 0°
材料 屈折率(n) 光学的膜厚(nd)
入射媒質 空気 1.00
第1層 MgF_(2) 1.39 0.34λ_(0)
第2層 Al_(2)O_(3) 1.74 0.08λ_(0)
第3層 MgF_(2) 1.39 0.33λ_(0)
第4層 Al_(2)F_(3) 1.74 0.52λ_(0)
出射媒質(基板) 合成石英 1.51


≪表4≫ λ_(0)=248nm 入射角 0°
材料 屈折率(n) 光学的膜厚(nd)
入射媒質 空気 1.00
第1層 MgF_(2) 1.39 0.31λ_(0)
第2層 NdF_(3) 1.66 0.17λ_(0)
第3層 MgF_(2) 1.39 0.24λ_(0)
第4層 NdF_(3) 1.66 0.54λ_(0)
出射媒質(基板) 合成石英 1.51


≪表5≫ λ_(0)=248nm 入射角 0°
材料 屈折率(n) 光学的膜厚(nd)
入射媒質 空気 1.00
第1層 MgF_(2) 1.39 0.31λ_(0)
第2層 LaF_(3) 1.62 0.16λ_(0)
第3層 MgF_(2) 1.39 0.24λ_(0)
第4層 LaF_(3) 1.62 0.53λ_(0)
出射媒質(基板) 合成石英 1.51


≪表6≫ λ_(0)=248nm 入射角 0°
材料 屈折率(n) 光学的膜厚(nd)
入射媒質 空気 1.00
第1層 SiO_(2) 1.51 0.27λ_(0)
第2層 Al_(2)O_(3) 1.85 0.16λ_(0)
第3層 SiO_(2) 1.51 0.33λ_(0)
第4層 Al_(2)O_(3) 1.85 0.47λ_(0)
出射媒質(基板) 合成石英 1.51


(3)引用発明の認定
引用例1の【要約】には、「 KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)及びHe-Neレーザー波長(λ=633nm)の両波長において、それぞれ実用に足りうる充分な反射防止波長幅を有する2波長反射防止膜を提供する。」と記載されており、引用例1には「KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)及びHe-Neレーザー波長(λ=633nm)の両波長において、それぞれ実用に足りうる充分な反射防止波長幅を有する2波長反射防止膜」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0017】の「本発明に用いられる基板は、紫外域で吸収が少なく、透過率が高いことが望まれることから、好ましくは合成石英(SiO_(2)。)又は蛍石(CaF_(2))が用いられる。」との記載及び段落【0022】の【表3】を参酌すると、上記2波長反射防止膜は合成石英基板に被覆されることが把握される。
引用例の段落【0022】の【表3】を参酌すると、2波長反射防止膜は基板側から順に、第1層目の薄膜は光学的膜厚が135nmのSc_(2)O_(3)であり、第2層目の薄膜は光学的膜厚が30nmのMgF_(2)であり、第3層目の薄膜は光学的膜厚が90nmのAl_(2)O_(3)であり、第4層目の薄膜は光学的膜厚が65nmのMgF_(2)である2波長反射防止膜が記載されていると認められる。なお、引用例の段落【0013】において、「光学的膜厚とは屈折率nと膜厚dとの積ndをいう。」と定義されている。
以上を総合すると、引用例1には下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)及びHe-Neレーザー波長(λ=633nm)の両波長において、それぞれ実用に足りうる充分な反射防止波長幅を有する2波長反射防止膜であって、
合成石英基板に被覆されたものであり、
基板側から順に、第1層目の薄膜は光学的膜厚が135nmのSc_(2)O_(3)であり、第2層目の薄膜は光学的膜厚が30nmのMgF_(2)であり、第3層目の薄膜は光学的膜厚が90nmのAl_(2)O_(3)であり、第4層目の薄膜は光学的膜厚が65nmのMgF_(2)である2波長反射防止膜。
ここで、光学的膜厚とは屈折率nと膜厚dとの積ndをいう。」


4 本願補正発明と引用発明との対比

本願補正発明と引用発明を対比する。
本願の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施の形態においては基板として石英を用いていること及び技術常識からして、引用発明の「合成石英基板」が本願補正発明における「深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面」に相当するとことは当業者には明らかである。また、引用発明における「波長(λ=248nm)」及び「波長(λ=633nm)」がそれぞれ本願補正発明における「深紫外域」及び「可視域」であること、及び、引用発明における2波長反射防止膜が基板表面におけるこれらの波長の光の反射を防止するものであることは技術常識である。以上を踏まえると、引用発明における「KrFエキシマ・レーザー波長(λ=248nm)及びHe-Neレーザー波長(λ=633nm)の両波長において、それぞれ実用に足りうる充分な反射防止波長幅を有する2波長反射防止膜であって」及び「合成石英基板に被覆されたものであり」と、本願補正発明における「深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり」及び「反射防止を行う可視域の波長が550?650nm付近であり」とは「深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり、反射防止を行う可視域の波長が550?650nm付近であり」の点で一致する。
引用発明における「MgF_(2)」及び「Al_(2)O_(3)」は、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載によると、それぞれ、反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率が「1.4」及び「1.7」である。したがって、引用発明における「基板側から順に、第1層目の薄膜は光学的膜厚が135nmのSc_(2)O_(3)であり、第2層目の薄膜は光学的膜厚が30nmのMgF_(2)であり、第3層目の薄膜は光学的膜厚が90nmのAl_(2)O_(3)であり、第4層目の薄膜は光学的膜厚が65nmのMgF_(2)である」と、本願補正発明の「前記基板側から1層目と3層目の薄膜に、反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率が1.6?1.95の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、」とは「前記基板側から3層目の薄膜に、反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率が1.6?1.95の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、」の点で一致する。
引用発明における「135nm」、「30nm」、「90nm」及び「65nm」の光学的膜厚は、λ=248nmを用いて表現し直すと、それぞれ、「0.544λ」、「0.121λ」、「0.363λ」及び「0.262λ」となる。したがって、引用発明の「基板側から順に、第1層目の薄膜は光学的膜厚が135nmのSc_(2)O_(3)であり、第2層目の薄膜は光学的膜厚が30nmのMgF_(2)であり、第3層目の薄膜は光学的膜厚が90nmのAl_(2)O_(3)であり、第4層目の薄膜は光学的膜厚が65nmのMgF_(2)である」と本願補正発明の「各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基材側から1層目の薄膜が0.5λ≦nd1≦0.7λ、2層目の薄膜が0.05λ≦nd2≦0.2λ、3層目の薄膜が0.25λ≦nd3≦0.5λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.35λである」とは「各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基板側から1層目の薄膜が0.5λ≦nd1≦0.7λ、2層目の薄膜が0.05λ≦nd2≦0.2λ、3層目の薄膜が0.25λ≦nd3≦0.5λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.35λである」の点で一致する(なお、請求項2においては、「基材側から1層目」との記載があるところ、技術常識も踏まえて、これは「基板側から1層目」の誤記であるとして引用発明との一致点を評価した。)。
なお、審判請求書の請求の理由の記載を参酌すると、引用発明における「Sc_(2)O_(3)」の波長λ=248nmにおける屈折率は「2.11」である。

以上を総合すると、本願補正発明と引用発明とは、
「深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり、
反射防止を行う可視域の波長が550?650nm付近であり、前記基板側から3層目の薄膜に、反射防止を行う設計主波長λ=248nmにおける屈折率が1.6?1.95の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、且つ各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基板側から1層目の薄膜が0.5λ≦nd1≦0.7λ、2層目の薄膜が0.05λ≦nd2≦0.2λ、3層目の薄膜が0.25λ≦nd3≦0.5λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.35λであることを特徴とする2波長反射防止膜。」
の点で一致し、次の相違点の点で相違する。

〈相違点〉
基板側から1層目の層のλ=248nmにおける屈折率が、本願補正発明では「1.6?1.95」であるのに対して、引用発明においてはその値が不明であり、請求人の主張によればその値は「2.11」である点。


5 相違点の検討・判断

(1)相違点の検討・判断
上記相違点について検討する。
一般に、反射防止膜において、透明材料を公知の材料の中から適宜選択して、設計変更を行うことは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。例えば、コストを下げるために、より安価な材料を用いて設計することは通常の設計指針の一つである。また、製造の容易性等の観点から、使用する材料の種類を削減することも設計指針の一つである。その他、例えば、原審において平成19年7月23日付けの拒絶理由通知書で引用した引用例2に記載されているように(前記摘記事項「ウ」を参照。)、吸収率等を考慮して屈折率が1.9以上の高屈折率材料を用いないで反射防止膜を構成するという設計指針も当業者にとっては自明の選択肢であって、技術常識に過ぎない。以上を踏まえると、引用発明において第1層目の薄膜の材料として、「Sc_(2)O_(3)」に代えて、例えば、第3層目の薄膜の材料と同じ「Al_(2)O_(3)(波長λ=248nmにおける屈折率が1.7)」を用いてシミュレーション等を行って設計し直すことは、当業者が適宜試みる程度のものであって、通常の設計活動の範囲を超えるものとはいえない。

(2)本願発明の作用効果について
次に本願発明の作用効果について検討すると、請求人は、平成19年10月1日付けの意見書において、薄膜の膜厚構成において引用発明との相違点を有することにより、例えば、深紫外域の波長に対して使用を想定し、レンズ間に接着剤を用いない無接合の対物レンズに本願発明の2波長反射防止膜を用いた場合、300nm以下の紫外域波長及び750nm又は550?650nm波長域においても、対物レンズの光の入射角が大きくなる領域の光に対して十分な反射防止を得られ、満足のいく透過率を確保することができるという優れた効果を得ることができる旨、及び、引用発明は、無接合対物レンズなどへ適用を考慮に入れた場合、レンズ表面への光の入射角が大きくなる、例えば入射角が55°以上の領域に対しても十分に反射防止を得るという点について本願補正発明と技術的課題が異なる旨主張している。
上記請求人の主張について検討すると、本願出願前において、反射防止膜が広い入射角度範囲で反射防止効果を有するべきことは、当業者にとっては技術常識であり、自明な設計指針に過ぎない(例えば、特開2001-4803号公報、特開平6-347603号公報、特開平10-253802号公報、特開平11-248903号公報、特開平9-258006号公報及び特開2000-357654号公報等参照)。してみれば、引用発明において、第1層目の薄膜の材料として、「Sc_(2)O_(3)」に代えて、第3層目の薄膜の材料である「Al_(2)O_(3)」を用いてシミュレーション等を行って設計し直す際に反射防止膜が広い入射角度範囲で反射防止効果を有するということも設計指針に加えて設計し直すことは当業者の当然の配慮事項であると認められる。したがって、請求人の主張する作用効果は特別に顕著なものとは認められない。

(3)相違点の検討・判断の小括
以上より、上記相違点は格別のものとは認められず、また、本願補正発明が奏する作用効果も、引用発明及び技術常識から当業者が予測できる範囲のものであると認められる。
よって、本願補正発明は、引用発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


6 本件補正についての結び

以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記結論のとおり決定する。



第3 本願発明について

1 本願発明
平成20年2月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1から7に係る発明は、本件補正前の、平成19年10月1日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1から7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

<本願発明>
「 深紫外域から近赤外域まで透過する基板表面に被膜することで前記基板表面における深紫外域と可視域から近赤外域の2つの波長域の光の反射を防止する2波長反射防止膜であり、
反射防止を行う波長が550?650nm付近にある場合、前記基板側から1層目と3層目の薄膜に、設計主波長248nmにおける屈折率が1.6?2.0の中間屈折率材料、2層目と4層目の薄膜に、前記設計主波長における屈折率が1.35?1.55の低屈折率材料が用いられ、且つ各層薄膜の光学的膜厚ndi(i=1,2,3,4:基板側から)が、前記設計主波長λに対して、基材側から1層目の薄膜が0.5λ≦nd1≦0.7λ、2層目の薄膜が0.05λ≦nd2≦0.2λ、3層目の薄膜が0.25λ≦nd3≦0.5λ、4層目の薄膜が0.2λ≦nd4≦0.35λであることを特徴とする2波長反射防止膜」


2 刊行物及び各刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、前記「第2」の「3」に記載したとおりである。


3 対比・判断

本願発明は、前記「第2」の「2」?「5」で検討した本願補正発明において、基板側から1層目と3層目の薄膜の波長248nmにおける屈折率について、「1.6?1.95」という範囲を拡げて「1.6?2.00」としたものに相当する。

そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、その発明特定事項の数値範囲を更に限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」の「5」に記載したとおり、引用発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


(3)むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-20 
結審通知日 2010-04-27 
審決日 2010-05-11 
出願番号 特願2002-77164(P2002-77164)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 良子後藤 慎平  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 神 悦彦
岡田 吉美
発明の名称 2波長反射防止膜および該2波長反射防止膜を施した対物レンズ  
代理人 佐藤 立志  
代理人 砂川 克  
代理人 竹内 将訓  
代理人 河井 将次  
代理人 河野 哲  
代理人 勝村 紘  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 峰 隆司  
代理人 福原 淑弘  
代理人 白根 俊郎  
代理人 河野 直樹  
代理人 風間 鉄也  
代理人 岡田 貴志  
代理人 山下 元  
代理人 市原 卓三  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 村松 貞男  
代理人 堀内 美保子  
代理人 中村 誠  
代理人 橋本 良郎  
代理人 野河 信久  

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