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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1219157
審判番号 不服2008-27110  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-24 
確定日 2010-06-24 
事件の表示 特願2004-117210「フィルム状太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月27日出願公開、特開2005-303013〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成16年4月12日の出願であって、平成20年8月7日付けで手続補正がなされ、同年9月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同年11月21日付けで手続補正がなされたものである。

(2)本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成20年11月21日付けの手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 フィルム基材上に半導体からなる光電変換層を含む積層体が形成されてなるフィルム状太陽電池であって、上記フィルム基材がベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重縮合してなるポリイミドベンゾオキサゾールを含むフィルムからなり、上記フィルム基材は膜厚が3?200μmであり、長手方向の30?300℃での平均の線膨張係数が2?16ppm/℃であり、長手方向の引張弾性率が5GPa以上であり、長手方向の引張破断強度が300MPa以上であり、かつ引張破断伸度が24?36%である、フィルム状太陽電池。」

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-107073号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1)「2、特許請求の範囲
(1)支持基板上に耐熱性透明樹脂を形成し、前記耐熱性透明樹脂上に順次透明電極層、アモルファスSi層、金属電極層、保護樹脂層を形成し、その後に液中への浸漬か、又は強制的な機械的剥離手段により耐熱性透明樹脂を支持基板から剥離し、可撓性のある太陽電池を形成することを特徴とする薄膜太陽電池の製造法。
・・・
(3)耐熱性透明樹脂がポリイミドであり、その支持上基板上の剥離が水中への浸漬処理である特許請求の範囲第1項記載の薄膜太陽電池の製造法。」(1頁左下欄4行?末行)

(2)「発明が解決しようとする問題点
従来のBタイプの製造方法は可撓性のある太陽電池に採用され、支持基板のうえに耐熱性絶縁層を形成して耐熱性絶縁層の上に、金属電極層、アモルファスSi層、透明電極層、透明保護膜層を順次形成して構成されていた。しかしながら、アモルファスSi太陽電池の性質上アモルファスSi層においては、P型層、I型層、N型層と順次形成するのがボロンの拡散による1層中のドナー準位の補償の点から望ましい、しかしながら、この場合のBタイプの従来の可撓性太陽電池においては、アモルファスSi層を、P型層、I型層、N型層と形成しても、光の入射方向はN型層側からとしなければならない。光の入射方向も、アモルファスSi層に対しては、P型層側から入光するのが光劣化防止、ホールの移動度、SiCを使用した窓効果を利用する点で望ましい。そのため、Bタイプの太陽電池では、Aタイプの太陽電池と比較して初期の光照射時の短絡電流値が少なく、90%程度の電流値であり、光照射試験後は、短絡電流値で初期値に比べ50%以上小さくなるという光劣化現象を示していた。またAタイプとして、特公昭62-22274号公報に示されたようにポリエーテル・エーテルケトン等の耐熱性透明樹脂フィルムを透明基板にもちいて、耐熱性透明樹脂フィルム基板、透明電極層、アモルファスSi層(P型層、I型層、N型N)、金属電極層を順次形成すると、太陽電池の光電特性面ではガラス基板で作った太陽電池とほぼ同等な性能を得る事ができ、かつ光劣化もガラス基板太陽電池と同様な性能を得るはずである。しかしながら、フィルム膜厚をおよそ30μとした場合透明電極層、アモルファスSi層、金属電極層等を製膜した際に、各層の製膜時、各層の膜より生じる応力、および耐熱性透明樹脂フィルムにかかる各製膜時の熱的ストレス(150℃?300°C)により耐熱性透明樹脂フィルムが熱収縮応力でカーリング(反り)を生じてしまう。太陽電池の直列結線をするためにはメタルマスクを使用して各層をパターンニングするため、メタルマスクの基板に対する位置合わせが必要であるが、この耐熱性透明樹脂フィルムのカーリングにより、メタルマスクの耐熱性透明樹脂フィルムに対する位置合わせが難しかった。耐熱性透明樹脂フィルムのカーリングを防ぐために耐熱性透明樹脂フィルムの厚さを増すと、耐熱性透明樹脂フィルムによって光が吸収される量が増え、太陽電池の発電領域に到達する光量が落ちて、発電量が少なくなり太陽電池特性上、Aタイプよりも劣り、実用に耐えないという問題があった。また製膜中耐熱性透明樹脂がカーリングするためと思われるが、PIN接合が確保できないためにショート不良、またはフィルファクター(F.F.)の低下を招いていた。
本発明はこのような問題点を解決するもので、耐熱性透明樹脂を基板としてガラス基板太陽電池と同等な性能を得る事を目的とするものである。」(2頁左上欄9行?同頁右下欄4行)

(3)「実施例
以下、本発明の一実施例を第1図に基づいて説明する。ガラス支持基板1上に例えば芳香族テトラカルボン酸無水物(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物)と芳香族ジアミン(3,3’ジアミノジフエニルスルフォン)を重縮合しポリアミド酸として塗布し、約300℃でイミド化させた耐熱性透明樹脂2を厚さ30μに形成する。」(3頁右上欄9行?17行)

(4)上記(1)ないし(3)からみて、引用例には、
「耐熱性透明樹脂フィルムを透明基板にもちい、耐熱性透明樹脂フィルム基板、透明電極層、アモルファスSi層、金属電極層を順次形成し、フィルム膜厚をおよそ30μとした場合透明電極層、アモルファスSi層、金属電極層等を製膜した際に、各層の製膜時、各層の膜より生じる応力、および耐熱性透明樹脂フィルムにかかる各製膜時の熱的ストレス(150℃?300°C)により耐熱性透明樹脂フィルムが熱収縮応力でカーリング(反り)を生じてしまい、製膜中耐熱性透明樹脂がカーリングするためと思われる、PIN接合が確保できないためのショート不良、またはフィルファクター低下を招くという問題点を解決するもので、耐熱性透明樹脂を基板としてガラス基板太陽電池と同等な性能を得る事を目的とする、支持基板上に耐熱性透明樹脂を形成し、前記耐熱性透明樹脂上に順次透明電極層、アモルファスSi層、金属電極層、保護樹脂層を形成し、その後に液中への浸漬か、又は強制的な機械的剥離手段により耐熱性透明樹脂を支持基板から剥離し、可撓性のある太陽電池を形成する薄膜太陽電池の製造法によって製造された薄膜太陽電池であって、
前記耐熱性透明樹脂が、芳香族テトラカルボン酸無水物(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物)と芳香族ジアミン(3,3’ジアミノジフエニルスルフォン)を重縮合しポリアミド酸とし、約300℃でイミド化させたポリイミドである耐熱性透明樹脂を厚さ30μに形成したものである、薄膜太陽電池。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「耐熱性透明樹脂」は、その上に順次透明電極層、アモルファスSi層、金属電極層、保護樹脂層を形成するものであるから、引用発明の「耐熱性透明樹脂」は、本願発明の「フィルム基材」に相当する。

(2)引用発明の「薄膜太陽電池」は、可撓性のある太陽電池を形成する薄膜太陽電池の製造法によって製造されたものであるから、本願発明の「フィルム状太陽電池」に相当する。

(3)引用発明の「アモルファスSi層」は、半導体からなる光電変換層であることが当業者に自明であるから、上記(1)及び(2)に照らすと、引用発明は、本願発明の「フィルム基材上に半導体からなる光電変換層を含む積層体が形成されてなるフィルム状太陽電池」を備える。

(4)また、引用発明の「耐熱性透明樹脂」は、ポリイミドであり、芳香族テトラカルボン酸無水物(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物)と芳香族ジアミン(3,3’ジアミノジフエニルスルフォン)を重縮合したものであるから、上記(1)に照らすと、本願発明の「フィルム基材」と、「芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重縮合してなるフィルムからな」る点で一致するとともに、引用発明の「耐熱性透明樹脂」は、厚さ30μに形成するものであるから、引用発明は、本願発明の「フィルム基材は膜厚が3?200μmである」との事項を備える。

(5)上記(1)ないし(4)から、本願発明と引用発明とは、
「 フィルム基材上に半導体からなる光電変換層を含む積層体が形成されてなるフィルム状太陽電池であって、フィルム基材が芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重縮合してなるフィルムからなり、上記フィルム基材は膜厚が3?200μmである、フィルム状太陽電池。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

フィルム基材につき、本願発明では、芳香族テトラカルボン酸無水物類と重縮合する芳香族ジアミン類が、「ベンゾオキサゾール構造を有する」ものであり、重縮合したものが「ポリイミドベンゾオキサゾールを含むもの」であって、「長手方向の30?300℃での平均の線膨張係数が2?16ppm/℃であり、長手方向の引張弾性率が5GPa以上であり、長手方向の引張破断強度が300MPa以上であり、かつ引張破断伸度が24?36%」の特性のものであるのに対し、引用発明では、芳香族ジアミン類が、「ベンゾオキサゾール構造を有する」ものではなく、上記のような特性のものかどうか不明である点(以下「相違点」という。)。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重縮合してなるポリイミドベンゾオキサゾールは、本願出願時に周知(例.特表平11-505184号公報(請求項7、12頁6行?19行、20頁6行?末行を参照。)、特表平11-504369号公報(請求項9,24、14頁20行?15頁7行を参照。)、特開平6-56992号公報(段落【0011】?【0015】を参照。))であって、ポリイミドベンゾオキサゾールが、高耐熱性の樹脂であることも、本願出願時に周知(例.前記特開平6-56992号公報(段落【0001】を参照。)、特開昭61-196596号公報(3頁右下欄4行?7行、3頁右下欄末行?4頁左上欄2行、8頁右下欄15行を参照。)、特開平7-75197号公報(請求項3、段落【0005】,【0006】,【0010】?【0013】を参照。))である。

(2)してみれば、引用発明において、芳香族ジアミンを「ベンゾオキサゾール構造を有する」ものとし、前記芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸無水物とを重縮合してなる「耐熱性樹脂」を、「ポリイミドベンゾオキサゾールを含むもの」となすことは、当業者が容易に想到することができたことである。

(3)フィルム基材につき、「長手方向の30?300℃での平均の線膨張係数」、「長手方向の引張弾性率」、「長手方向の引張破断強度」及び「引張破断伸度」の数値範囲を特定することの技術上の意義について、本願明細書には以下の記載がある。

ア 「【0050】
本発明で用いるフィルム基材の長手方向の線膨張係数は、2?16ppm/℃であることが好ましい。線膨張係数がこの範囲内であれば、太陽電池を構成するための半導体層の線膨張係数と近似するので、太陽電池の製造の際の加熱・冷却の際に寸法変化に伴う残留応力が小さくなる。その結果、光電変換効率の低下を抑制することができるばかりでなく、太陽電池そのものの寿命、信頼性が低下し難くなり、フィルム基材と半導体からなる光電変換層との接着性が良好になる。
【0051】
長手方向の線膨張係数はフィルムの面配向係数に依存し、面配向係数は、一般に、グリーンフィルム成膜時の昇温プロファイルを調整したり、イミド化と同時にまたはイミド化の前に延伸を施したりすることで制御し得る。たとえば、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの面配向係数を高くするためには、グリーンフィルムに加える熱量を小さくしたり、イミド化反応前、ないし反応中にフィルムを縦方向、横方向、あるいは縦横両方向に延伸したりする手段が挙げられる。逆に、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの面配向係数を低くするためには、グリーンフィルムに加える熱量を高くしたりする手段が挙げられる。さらに、本発明者らは、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)をイミド化する際の加熱条件により、得られるフィルムの面配向係数を制御し得るという新たな知見を見出した。
【0052】
本発明者らはさらに、X線で測定される面配向係数を制御することがフィルムの線膨張係数を制御することにつながるという知見を得た。この知見は、フィルムを構成する高分子の厚み方向の配向の分布が、フィルム全体の線膨張係数を支配するという思想に基づいている。尚、従来は、屈折率、あるいは赤外線吸収によりフィルムの面配向係数が測定されていた。本発明で用いるフィルム基材は、X線回折法で測定される面配向係数が0.77?0.92であることが好ましい。フィルムの面配向係数がこの範囲内であれば上述した線膨張係数のものを得ることができる。面配向係数はフィルムを構成する分子の高次構造を表現するパラメーターであって、フィルムを構成する分子のうち、高い秩序性を有する結晶部分において、その構成単位である結晶格子のある特定格子面が、フィルム面に対して配向している程度を数値化したものである。この数値が高いほど、前記特定格子面の向きとフィルム面の向きとの差が小さいことを意味する。本発明では、「ある特定格子面」とは、2θ=21.8°付近の回折ピークを与える格子面である。
【0053】
本発明で用いるフィルム基材の長手方向の引張弾性率は、好ましくは5GPa以上である。そのような引張弾性率を有するフィルム基材は、外力による変形が生じ難く、結果として、フィルム表面に形成された半導体層などに破断や欠陥が生じ難くなる。長手方向の引張弾性率は7GPa以上がより好ましく、9GPa以上がさらに好ましい。長手方向の引張り弾性率の上限は特に制限されないが、事実上25GPa程度である。
【0054】
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの長手方向の引張弾性率は、分子構造やフィルムの密度によって制御可能である。フィルムの密度はイミド化反応の加熱条件により調整可能である。イミド化の方法としては、熱閉環法による2段階以上の熱処理が好ましく、
1段目の熱処理:150?250℃で1?10分間の処理、
2段目の熱処理:400?600℃で0.1?15分間の処理、
1段目の熱処理終了後から2段目の熱処理開始までの昇温条件:2?7℃/秒、
の条件で熱処理することが好ましい。
【0055】
本発明で用いるフィルム基材の長手方向の引張破断強度は300MPa以上であることが好ましい。そのような引張破断強度を有するフィルム基材は、外力によるフィルム基材や半導体層へのダメージが生じ難い。長手方向の引張破断強度の上限に関しては特に制限されない。フィルム基材の長手方向の引張破断強度とは、フィルム基材を破断に至るまで長手方向に引張るのに要する強度である。ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの引張
破断強度は、ポリアミド酸の分子量の制御や、グリーンフィルム作製からイミド化工程にいたるまでの、アミド結合の加水分解の程度により調整可能である。
より具体的には、上述したポリアミド酸溶液の還元粘度を1.2dl/g以上、好ましくは1.5dl/g以上、なお好ましくは1.7dl/g以上とし、さらにポリアミド酸溶液を支持体に塗布する時点から、イミド化が完了するまでの間の作業雰囲気の相対湿度を75%RH以下、好ましくは60%RH以下、なお好ましくは不活性ガス雰囲気とすることにより上記引張強度を実現することができる。」

イ 「【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0068】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN-メチル-2-ピロリドンに溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
【0069】
2.フィルム基材の厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
【0070】
3.フィルム基材の引張弾性率、引張破断強度および破断伸度
測定対象の基材フィルムを、長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R) 機種名AG-5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張強度及び破断伸度を測定した。
【0071】
4.フィルム基材の線膨張係数(CTE)
測定対象のフィルム基材について、下記条件にてMD方向およびTD方向の伸縮率を測定し、30℃?45℃、45℃?60℃、…と15℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を300℃まで行い、全測定値の平均値をCTEとして算出した。MD方向、TD方向の意味は上述のとおりである。
装置名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 20mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0072】
5.フィルム基材の融点、ガラス転移温度
測定対象のフィルム基材について、下記条件で示差走査熱量測定(DSC)を行い、融点(融解ピーク温度Tpm)とガラス転移点(Tmg)をJIS K 7121に準拠して求めた。
装置名 ; MACサイエンス社製DSC3100S
パン ; アルミパン(非気密型)
試料重量 ; 4mg
昇温開始温度 ; 30℃
昇温終了温度 ; 600℃
昇温速度 ; 20℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0073】
6.フィルム基材の熱分解温度
測定対象のフィルム基材を充分に乾燥したものを試料として、下記条件で熱天秤測定(TGA)を行い、試料の重量が5%減る温度を熱分解温度とみなした。
装置名 ; MACサイエンス社製TG-DTA2000S
パン ; アルミパン(非気密型)
試料重量 ; 10mg
昇温開始温度 ; 30℃
昇温速度 ; 20℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0074】
7.フィルム基材の面配向係数
測定対象のフィルム基材を測定治具に装着して以下の条件にてX線回折測定を行って、2θ=21.8°付近に現れる回折ピークについての極点図を求めた。
装置名 ;(株)リガク製RINT 2100PC、多目的試料台
電圧、電流値 ;40kV、40mA
測定法 ;反射法および透過法
走査範囲 ;反射法 α;15?90°/2.5°間隔
β;0?360°/5°間隔
反射法 α;0?15°/2.5°間隔
β;0?360°/5°間隔
スリット ;DS 0.1mm、SS 7mm、RS 7mm、
縦発散制限スリット 1.2mm
走査スピード ;連続(360°/min)
検出器 ;シンチレーションカウンター
【0075】
図1は、この極点図を模式的に表したものである。図中、2本の破線部における回折強度プロファイルからピーク半値幅(HMDおよびHTD)を求め、HMDおよびHTDの平均値をHa(単位:°)と定義した。尚、ピーク半値幅は、リガク製解析プログラムを用いて求めた。このようにして得られたHaから、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの面配向係数を次式により算出した。
面配向係数 =(180°- Ha)÷180°
【0076】
8.光電変換特性
変換効率をAM=1に調節したオリエル社のソーラーシュミレータで測定した。」


ウ 「【0084】
【表1】



(4)上記(3)によれば、本願発明における「フィルム基材」につき、
ア 「長手方向の30?300℃での平均の線膨張係数」を「2?16ppm/℃」と特定することの技術上の意義は、太陽電池を構成するための半導体層の線膨張係数と近似させることにより、太陽電池の製造の際の加熱・冷却の際に寸法変化に伴う残留応力が小さくすることにあると認められる。なお、「30?300℃での平均の」とは、30℃?45℃、45℃?60℃、…と15℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を300℃まで行い、全測定値の平均値を意図するものと認められる。
イ 「長手方向の引張弾性率」を「5GPa以上」と特定することの技術上の意義は、外力による変形が生じ難く、フィルム表面に形成された半導体層などに破断や欠陥が生じ難くすることにあると認められる。
ウ 「長手方向の引張破断強度」を「300MPa以上」と特定することの技術上の意義は、外力によるフィルム基材や半導体層へのダメージが生じ難くすることにあると認められる。
エ 「(長手方向の)引張破断伸度」を「24?36%」とする特定については、実施例において測定された値の範囲に特定する以上の技術上の意義は認められない。

(5)上記(4)によれば、本願発明において、フィルム基材につき、「長手方向の30?300℃での平均の線膨張係数が2?16ppm/℃であり、長手方向の引張弾性率が5GPa以上であり、長手方向の引張破断強度が300MPa以上であり、かつ引張破断伸度が24?36%」の特性のものに特定する技術上の意義は、太陽電池を構成するための半導体層の線膨張係数と近似させることにより太陽電池の製造の際の加熱・冷却の際に寸法変化に伴う残留応力が小さくすること、及び、フィルム表面や半導体層について、外力によるダメージ、破断、欠陥を生じ難くすることであると認められる。

(6)他方、引用発明は、膜厚30μm程度の耐熱性透明樹脂フィルムを透明基板に用いたときに、アモルファスSi層等の各層の製膜時に、該各層の膜より生じる応力、および耐熱性透明樹脂フィルムにかかる各製膜時の熱的ストレス(150℃?300°C)により耐熱性透明樹脂フィルムが熱収縮応力でカーリング(反り)を生じること、そのことによると思われる、PIN接合が確保できないためのショート不良、またはフィルファクター低下を招くことを解決するものであると認められ、このことは、上記(5)の本願発明の技術上の意義と共通するものと認められる。また、引用発明において、耐熱性透明樹脂フィルムとして、フィルム表面や半導体層のダメージ、破断、欠陥が生じにくい特性のものを選択することは、当業者が当然考慮する程度のことである。

(7)しかるところ、引用発明において、透明基板に用いられる耐熱性透明樹脂フィルムである「耐熱性透明樹脂」につき、「長手方向の30?300℃での平均の線膨張係数」、「長手方向の引張弾性率」、「長手方向の引張破断強度」及び「引張破断伸度」の指標は、適宜設計的に定められるべきものであり、これらの指標を、本願発明のごとく「長手方向の30?300℃での平均の線膨張係数が2?16ppm/℃であり、長手方向の引張弾性率が5GPa以上であり、長手方向の引張破断強度が300MPa以上であり、かつ引張破断伸度が24?36%」とすることに、格別の困難性があるものとは認められない。

(8)以上の検討によれば、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成となすことは、上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。

(9)また、本願発明において、上記の各数値範囲を本願発明のごとく特定したことに格別の臨界的意義が認められず、本願発明の奏する効果が、引用発明及び周知技術から当業者が予測可能な域を超える程の格別顕著なものとは認められない。

(10)したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-23 
結審通知日 2010-04-27 
審決日 2010-05-10 
出願番号 特願2004-117210(P2004-117210)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 田部 元史
右田 昌士
発明の名称 フィルム状太陽電池  
代理人 高島 一  

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