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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1219393
審判番号 不服2009-34  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-05 
確定日 2010-06-28 
事件の表示 平成 9年特許願第240902号「液力式の動力式・車両ブレーキ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月 7日出願公開、特開平10- 86804〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成9年9月5日(パリ条約による優先権主張 1996年9月7日 ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成20年9月29日(起案日)付けで拒絶査定され、これに対し、平成21年1月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、 平成19年8月23日付け及び平成20年5月16日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 液力式の動力式・車両ブレーキ装置であって、ハイドロポンプが設けられていて、該ハイドロポンプの吸込み側が制動液体貯蔵タンクにかつ送出側がホイールブレーキシリンダに接続されていて、この場合、各ホイールブレーキシリンダに前置されて流入弁が接続されており、更に、ホイールブレーキシリンダを制動液体貯蔵タンクに接続する流出弁、並びに、電子的な制御装置が設けられていて、該制御装置に電気的な制御信号が、調節可能な制動力目標値信号発生器、及び、ホイールブレーキシリンダに接続された制動圧センサから供給されるようになっており、前記制御装置が、流入弁及び流出弁を、ホイールブレーキシリンダ内で制動力目標値信号発生器の信号に関連した制動圧が調節されるように、制御する形式のものにおいて、流入弁(22)及び流出弁(24)が、同一に構成された圧力制限マグネット弁又は差圧マグネット弁であり、該圧力制限マグネット弁又は差圧マグネット弁は、該弁に作用する差圧もしくは該弁の流入側の圧力が車両ブレーキ装置の許容最高圧力に達した場合に開放されるようになっていることを特徴とする、液力式の動力式・車両ブレーキ装置。」

3.刊行物に記載された事項
(1)刊行物1
本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭63-61671号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「ブレーキ圧力制御装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「本発明は、2系統のブレーキ配管を有する車輌のブレーキ力倍力作用、制動力配分、アンチロック、駆動輪のトラクションコントロール、停止保持、車間距離調整及び障害物回避のための自動ブレーキ等、種々のブレーキ力制御を可能にするフェルセーフ面での信頼性の高いブレーキ圧力制御装置に関する。」(第2ページ右上欄第14行?20行)

(イ)「第1図に示す第1実施例の装置は、ブレーキペダル1に踏力が加えられるとマスターシリンダ2に制動液圧が発生し、その液圧がノーマルオープン型の電磁遮断弁3を経由して車輪ブレーキ4に導かれる。また、第2液圧源として電動モータ5に駆動されてマスターシリンダのリザーバタンク6からブレーキ液を吸込み・加圧するポンプ7を設けてあり、ここで生成された高圧ブレーキ液は畜圧器8に蓄えられ、ノーマルクローズ型の電磁導入弁9を経由してマスターシリンダからの圧液流路10とポンプ圧供給路11の合流点12から流路13に導入されて車輪ブレーキに流れるようになっている。さらに合流点12には、リザーバタンク6に至る排出路14が接続され、この排出路中にノーマルクローズ型の2個の電磁排出弁15、16が直列に設けられている。
排出弁15は、電磁コイル15aを外装した固定鉄芯15bと、磁化後の固定鉄芯に吸引されて排出路14を開く可動弁体15cとこの弁体15cを閉弁位置に付勢するスプリング15eを具備して成る。排出弁16と導入弁9もそれと同一構造である。」(第3ページ右上欄第1行?左下欄第2行)

(ウ)「かかる構成とされた第1実施例の装置は、遮断弁3と導入弁9に給電し、排出弁15、16は非給電となすと流路10、14が閉、11が開となって畜圧器8に畜えられたポンプ圧が流路13に流れ、車輪ブレーキ4が加圧される。また、この後、導入弁9を非給電、排出弁15、16を給電状態にして流路11を閉、14を開にすると、流路13内のブレーキ液が排出されて車輪ブレーキ4が減圧され、さらに、導入弁9と排出弁15、16を共に非給電にすると、車輪ブレーキ4に一定の圧力が保持される。従って、マスターシリンダ2が圧力を発生しているか否かに拘らず、遮断弁3により流路10を閉じて導入弁9、排出弁15、16を適宜に作動させることにより、車輪ブレーキ4に任意の液圧を負荷することができる。なお、各弁の作動時期は、適当なセンサーからの情報を活用して決めれば良く、これによって、アンチロック、駆動輪のトラクションコントロール、停止保持、ブレーキ倍力作用、制動力配分、車間距離調整や障害物回避等の自動ブレーキと云った各種ブレーキ力の制御を総括して実行することが可能になる。」(第3ページ左下欄第3行?右下欄第4行)

(エ)第1図から、ポンプ7の吸込み側がリザーバタンク6にかつ送出側が車輪ブレーキ4に接続されている点、及び導入弁9は車輪ブレーキ4に前置されている点が看取できる。

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
[刊行物1記載の発明]
「ブレーキ圧力制御装置であって、ポンプ7が設けられていて、該ポンプ7の吸込み側がリザーバタンク6にかつ送出側が車輪ブレーキ4に接続されていて、この場合、各車輪ブレーキ4に前置されて遮断弁3、導入弁9が接続されており、更に、車輪ブレーキをリザーバタンク6に接続する排出弁15,16が設けられていて、導入弁9及び排出弁15,16が同一構造の電磁弁であるブレーキ圧力制御装置。」

(2)刊行物2
本願優先日前に頒布された刊行物である特表平3-505070号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「トラクションスリップ調整装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、大文字を小文字で表記した箇所がある。

(オ)「弁4が降下しないか、又は誤ってANDゲート9の信号を終了させない場合には車輪における制動圧の上昇又は低下は可能でない。この欠点を回避するために弁装置4は、主制動シリンダ内の圧力が上昇すると一方向弁11を介して動作して弁装置を導通させる、圧力に依存する要素を有する。」(第2ページ左下欄第20行?25行)

(カ)「第3図においては、電磁石44が、制御の際に弁体45を操作し、制動圧導管の部分2a’と2b’との間の接続を中断する集積弁装置4’が設けられている。一方向弁111を介して制御室46が制動導管部分2aと接続されている。制動導管部分2aで圧力が上昇するとピストン47がばね48の作用に抗して摺動される。これにより押棒49が作動され、押棒は、電磁石44が制御されている場合でも弁体45をその弁座から持上げることができる。」(第2ページ右下欄第11行?19行)

4.対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、その機能からみて、刊行物1記載の発明の「ブレーキ圧力制御装置」は本願発明の「液力式の動力式・車両ブレーキ装置」に相当し、以下同様に、「ポンプ7」は「ハイドロポンプ」に、「リザーバタンク6」は「制動液体貯蔵タンク」に、「導入弁9」は「流入弁」に、「排出弁15、16」は「流出弁」に、「同一構造」は「同一に構成された」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1記載の発明の「電磁弁」は、マグネット弁である限りにおいて本願発明の「圧力制限マグネット弁又は差圧マグネット弁」に相当する。
さらに、刊行物1記載の発明は、上記記載事項(ウ)から電子的な制御装置を備えていることは明らかであり、「車輪ブレーキ4」は、圧力制御されていることから、「ホイールブレーキシリンダ」を備えていることは明らかである。
したがって、本願発明の用語を使用して記載すると、両者は、
「液力式の動力式・車両ブレーキ装置であって、ハイドロポンプが設けられていて、該ハイドロポンプの吸込み側が制動液体貯蔵タンクにかつ送出側がホイールブレーキシリンダに接続されていて、この場合、各ホイールブレーキシリンダに前置されて流入弁が接続されており、更に、ホイールブレーキシリンダを制動液体貯蔵タンクに接続する流出弁、並びに、電子的な制御装置が設けられていて、流入弁及び流出弁が、同一に構成されたマグネット弁である、液力式の動力式・車両ブレーキ装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、「制御装置に電気的な制御信号が、調節可能な制動力目標値信号発生器、及び、ホイールブレーキシリンダに接続された制動圧センサから供給されるようになっており、前記制御装置が、流入弁及び流出弁を、ホイールブレーキシリンダ内で制動力目標値信号発生器の信号に関連した制動圧が調節されるように、制御する」形式であるのに対し、刊行物1記載の発明はそのような構成を有しているのか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明は、「マグネット弁」が、「圧力制限マグネット弁又は差圧マグネット弁」であり、「弁に作用する差圧もしくは弁の流入側の圧力が車両ブレーキ装置の許容最高圧力に達した場合に開放されるようになっている」のに対し、刊行物1記載の発明はそのような構成を有していない点。

上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
ブレーキ制御において、調節可能な制動力目標値信号発生器とホイールブレーキシリンダに接続された制動圧センサから、制御装置に電気的な信号を供給することは、従来周知の事項である(例えば、特開平8-85431号公報の段落の【0079】?【0084】等を参照)。
そして、刊行物1記載の発明において、どのような物理量、検出量に基づいてブレーキ圧力制御するかは適宜の設計事項であり、上記周知の事項を採用して、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
液圧回路において、回路内の圧力が高圧になりすぎることを防止するために、弁に作用する圧力が設定圧を超えると液体を排出させる(リリーフ機能)ことは、広く知られていることであり、刊行物1記載の発明の導入弁9及び排出弁15、16を含む各電磁弁においても同様に設計するのが好適であることは当業者に明らかである。
一方、刊行物2には、作用する圧力が所定圧を超えると液圧により開放されるマグネット弁(弁装置4)の発明が記載されている。
そうすると、刊行物1及び2記載の発明に接した当業者であれば、刊行物1記載の発明の導入弁9及び排出弁15、16を含む各電磁弁に、リリーフ機能をもたせる手段として、刊行物2記載の上記マグネット弁を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。その際、液圧により開放される設定圧を、車両ブレーキ装置の許容最高圧力とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎない。そして、このようにしたものは、実質的にみて、相違点2に係る本願発明の構成を具備するということができる。

また、本願発明の作用効果について検討しても、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。

なお、審判請求人は、審判請求書の平成21年2月4日付けの手続補正書において「引用文献6(審決注:本審決の「刊行物2」、以下同様)に開示の弁4は、本願発明の対象のホイールブレーキシリンダ内の圧力の調節のための弁ではなく、動作状態を規定するための弁(切り換え弁)であり、ドライブスリップ調整に際して、電気的に制御されて、遮断位置に切り換えられるようになっているものであります。そして、引用文献6に記載の圧力発生器5は、弁4を遮断位置に切り換えた場合にのみ車輪制動シリンダ3内に圧力を生ぜしめて、対応する車輪を制動するようになっているものであります。ドライブスリップ調整は、ドライブスリップ時(トラクッションスリップ時)の両方の車輪の回転数の整合(等しくすること)を目的とするものであります(引用文献6の2頁の左欄下段の11行目の「回転数が整合される」)。引用文献6に記載の技術においては、ドライブスリップ調整(トラクッションスリップ調整)の終了の後に、弁装置(4,11,12)への信号を中断して、制御導管(2a,2b)を再び導通させるようになっているものであります(同2頁の左欄下段の17行乃至19行)。この点からも、引用文献6に記載の弁4は、該弁の上述の機能若しくは作用からして、引用文献1の特開昭63-61671号公報に記載のブレーキ圧力制御装置の遮断弁3に対応するものであり、したがって、引用文献6に開示の技術は、従来の当業者にとっては、引用文献1の遮断弁3を引用文献6の弁4によって代替することを示唆する程度であるにすぎないものであると思量致します。」(【請求の理由】の3.本願発明が特許されるべき理由の項参照。)と主張している。
しかしながら、刊行物2記載の弁装置4は、弁に作用する圧力が所定圧を超えると液圧により開放される点で、リリーフ機能を備えたマグネット弁であることは、当業者に容易に理解できることである。また、刊行物2記載の「弁装置4」は、その機能又は作用からみて、確かに、刊行物1記載の発明の「遮断弁3」に対応するものであると認められるが、液圧回路全体において考慮した場合、遮断弁3に限らず導入弁9や排出弁15,16にもリリーフ機能を設けることが好適であることは、明らかであるから、刊行物2記載のリリーフ機能を備えたマグネット弁である弁装置4を、刊行物1記載の発明の導入弁9に適用することに格別の困難性は認められない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-02 
結審通知日 2010-02-05 
審決日 2010-02-16 
出願番号 特願平9-240902
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 道広  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 藤村 聖子
川上 益喜
発明の名称 液力式の動力式・車両ブレーキ装置  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 杉本 博司  
代理人 二宮 浩康  

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