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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200513073 | 審決 | 特許 |
不服200625545 | 審決 | 特許 |
不服200421574 | 審決 | 特許 |
不服200421594 | 審決 | 特許 |
不服200730533 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1219434 |
審判番号 | 不服2009-19209 |
総通号数 | 128 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-10-08 |
確定日 | 2010-07-01 |
事件の表示 | 特願2002- 63483「脳の老化予防剤」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月16日出願公開、特開2003-261456〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成14年3月8日の特許出願であって、その請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という)は、願書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールを含有することを特徴とする、脳の老化予防剤。」 2.当審の拒絶理由 これに対して、当審において、平成21年12月15日付けで通知した拒絶理由は、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず特許を受けることができない、というものであり、具体的には、本願明細書の発明の詳細な説明には、脳の老化を防止することができることを裏づける薬理データが記載されていないことを指摘するものである。 3.当審の判断 (1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件について 特許法第36条第6項第1号の規定によれば、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること、との要件に適合するものでなければならない。 特許制度は、発明を公開させることを前提に、当該発明に特許を付与して、一定期間その発明を業として独占的、排他的に実施することを保障し、もって、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして、ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は、本来、当該発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから、特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。 そして、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、上記の観点に立って、本願について検討する。 (2)本願明細書の特許請求の範囲の記載について 本願発明に係る本願請求項1には、L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールを含有することを特徴とする、脳の老化予防剤が記載されている。 (3)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について ア 本願明細書の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。 (A)「従来から、フォスファチジルセリンやDHAについては、脳の学習能力及び記憶能力の改善食品中の有効成分としての用途が認められているが、脳の老化防止又は老化遅延作用は検討されていない。本発明者は、脳の老化を測定する指標を新たに定めることにより、脳の老化を一層正確に測定し、脳の老化を予防又は遅延させる作用を有する物質を得るべき検討をした結果、L-アルギニン、フォスファチジルセリン、DHA、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールを組み合わせることによって、特に顕著な効果を発揮することを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。本発明で有効成分として用いるこれらの物質は、脳の知的機能に寄与することが推定されているが、脳の老化予防・遅延作用は知られていない物質であって、血液脳関門を通過可能な異なる作用を有する種々の機能成分を、最小限の成分数で、且つ全て含むように選択したものである。 本発明の課題は、脳の老化を防止又は遅延させることのできる、新規の脳老化予防剤を提供することにある。」(段落0008) (B)「脳の老化防止とは、加齢によって起きる脳の老化を防止又は遅延させることを意味する。」と記載されている(段落0009)。 また、「L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールを含有する」組成物の性質やその用途に関連して以下の記載がある。 (C)「本発明の脳老化予防剤の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、・・・等の経口剤、又は・・・などの非経口剤を挙げることができる。 これらの経口剤は、・・・賦形剤、結合剤、・・・、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。・・・ 本発明の脳老化予防剤は、これに限定されるものではないが、L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉エキス、及びトコフェロールを、その合計量として、0.01?100重量%、好ましくは0.1?80重量%の量で含有することができる。 本発明の脳老化予防剤を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。本発明の脳老化予防剤に含まれる各有効成分の投与量は、投与対象に有効な量である限り、特に限定されるものではないが、例えば、通常、成人(体重60kgとして)において、1日に付き、L-アルギニン50mg?20g、フォスファチジルセリン20?300mg、ドコサヘキサエン酸50?700mg、イチョウ葉エキス40?480mg、及びトコフェロール50?2000mgであることができる。 また、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料を含む)、飼料、又はチューインガム等として飲食物の形で与えることも可能である。・・・ また、前記脳老化予防食品を製造する場合は、必要に応じて、例えば、ゼラチン、メチルセルロース、若しくはシェラック等の皮膜剤、グリセリン若しくは脂肪酸エステル等の活性剤、乳糖、デンプン、若しくはデキストリン等の賦形剤、油脂、ミツロウ、若しくは米糖ロウ等のロウ分、又はビタミン、ミネラル、若しくはアミノ酸等の栄養強化成分等を配合することができる。」(段落0016?0021) (D)「【調製実施例1】 L-アルギニン(味の素)50mg、フォスファチジルセリン含有ダイズ油抽出物(フォスファチジルセリン含有量=20重量%;タマ生化学)100mg、DHA含有魚油(DHA含有量=46重量%;タマ生化学)109mg、イチョウ葉エキス(EGb761;タマ生化学)40mg、及びトコフェロール含有植物油抽出物(総トコフェロール含有量=67重量%)75mg、精製小麦胚芽油(日清製粉)26mg、ミツロウ(横関油脂工業)25mg、及びグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン)25mgを攪拌混合して均一とした後、カプセル内容物が450mgのソフトカプセルを調製した。 なお、1カプセル中の各有効成分の純含有量は、L-アルギニン50mg、フォスファチジルセリン20mg、DHA50.14mg、イチョウ葉エキス40mg、及び総トコフェロール50.25mgとした。 【評価例1】 脳老化改善効果の試験は、本発明の脳老化予防剤を含有する、調製実施例1で調製したソフトカプセルを投与した被験者へのアンケートによる自己採点で行なった。 基本になる検定項目は、痴呆の診断スケールを参考に、老生変化による健常人の脳の老化現象を表現し得るにふさわしい項目、すなわち、(1)記憶力、(2)見当織、(3)注意力、(4)集中力、(5)意欲、及び(6)睡眠を選択した。具体的に対応する質問としては、表1に示す質問を行なった。 《表1》 項目 質問内容 (1)記憶力 (i)最近の出来事を時々忘れる (ii)古い記憶を忘れ勝ちになる (iii)身近な電話番号でも忘れることがある (2)見当織 (i)時々、場所や時間を間違えることがある (3)注意力 (i)メガネなど身の回りのものを置き忘れる (4)集中力 (i)寄せ算や引き算を間違いやすくなった (ii)時々、やる気がなくなることがある (5)意欲 (i)時に気分がふさぎ勝ちになることがある (ii)怒りっぽくなることがある (6)睡眠 (i)睡眠が不充分なことがよくある (ii)昼寝をしたくなることが多い ソフトカプセルの投与は、1日当たり3錠を、朝食後1錠、昼食後1錠、及び夕食後1錠に分けて、2か月間実施した。ソフトカプセルを投与した被験者は、32名(女性26名及び男性6名)であり、その年齢構成は35歳?83歳で、平均年齢は65.3歳であった。投与の開始前、投与開始から1か月経過後、及び投与開始から2か月経過後に、それぞれ、アンケート調査を行なった。投与の開始前におけるアンケート調査では、表1に示す各質問に対して、自覚症状の有無について回答を得た。また、投与開始から1か月又は2か月経過後のアンケート調査では、投与前のアンケートで自覚症状のあった項目についてのみ、「良く改善」、「少し改善」、及び「不変」の3段階評価で回答してもらった。なお、比較のために、プラセボを投与した被験者10名についても、同様のアンケート調査を行なった。比較のための被験者10名の内訳は、女性7名及び男性3名であり、その年齢構成は60歳?83歳で、平均年齢は66.4歳であった。 表2及び表3に、ソフトカプセルを投与した被験者の結果を示す。表2には、脳の健康度検定項目別改善率を示し、表3には、総合改善率を示す。また、表4に、比較(プラセボ)のための総合改善率を示す。 表2において、「投与期間」が「1か月」の欄における「件数」とは、投与の開始前におけるアンケート調査で、各質問に対して自覚症状有りと答えた回答の合計、すなわち、投与開始から1か月経過後のアンケートにおける3段階評価による回答の合計である。また、表2において、「投与期間」が「2か月」の欄における「件数」とは、投与開始から2か月経過後のアンケートにおける3段階評価による回答の合計である。更に、表2における「改善率(%)」とは、前記「件数」に対する、「良く改善」及び「少し改善」と答えた回答の合計の割合(百分率)である。 表3において、「件数」とは、表2に示す各検定項目における各「件数」の合計である。また、表3において、「良く改善」欄の数値(及び百分率)は、表2に示す「良く改善」欄における各検定項目毎の各「件数」の合計(及び表3の前記「件数」に対するその百分率)である。同様に、「少し改善」及び「不変」の各欄の数値は、表2に示す「少し改善」及び「不変」の各欄における各検定項目毎の各「件数」の合計(及び表3の前記「件数」に対するその百分率)である。 比較例(プラセボ群)では、総合改善率が1か月で5.6%であり、2か月で8.2%であった(表4参照)。比較のための被験者と比べて、本発明の脳老化予防剤を含有するソフトカプセルを投与した被験者では、脳の健康度及び老化の改善が認められた。 (表2?表4 省略) 【発明の効果】 本発明の脳老化予防剤によれば、脳の老化を防止又は遅延させることができる。」(段落0022?0031) イ 上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールを含有する組成物が脳の老化を防止するとの記載があり、その脳の老化の改善効果を裏付ける試験として【評価例1】が記載されている。 (4)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比 ア 特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない。そして、上記(2)から明らかなとおり、本願発明は、ある物質の未知の属性の発見に基づき、当該物質の新たな医薬用途を提供しようとするものであり、いわゆる医薬についての用途発明である。 そして、医薬についての用途発明は、一般に、個々の物質について医薬として有用か否かを調べる薬理試験を行い、その試験結果である薬理データを検討することにより発明がなされるものであるから、このような発明において、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように、当該物質(有効成分)が当該医薬用途において有用であることが、薬理データの記載が無くとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該物質が当該医薬用途において有用であることが、当業者に理解できる程度に薬理データを開示して記載することを要するものと解するのが相当である。 イ そこで、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許請求の範囲の本願請求項1の記載との関係で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かについて検討する。 本願発明は、脳の老化予防剤であるが、本願発明にいう「脳の老化予防」とは、加齢によって起きる脳の老化を防止し又は遅延させることを意味する(上記(B)の記載)ものであり、本願明細書の発明の詳細な説明に、「従来から、フォスファチジルセリンやDHAについては、脳の学習能力及び記憶能力の改善食品中の有効成分としての用途が認められているが、脳の老化防止又は老化遅延作用は検討されていない。」、あるいは「本発明で有効成分として用いるこれらの物質は、脳の知的機能に寄与することが推定されているが、脳の老化予防・遅延作用は知られていない物質であって」(上記(A)の記載)と記載されているように、脳の学習能力や記憶能力の改善、脳の知的機能の改善とは異なる概念である。 本願明細書の発明の詳細な説明には、薬理データが記載されていなくても、L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールを含有する組成物が脳の老化を防止することができると当業者に理解できるような理論的な説明等の記載はなんらなされていない。 そして、L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールの組成物が、脳の老化の改善効果を有することを裏付ける試験として記載されている【評価例1】は、【調製実施例1】として調製された組成物を被験者に投与し、(1)記憶力、(2)見当識、(3)注意力、(4)集中力、(5)意欲、(6)睡眠について、アンケートによる自己採点を行った結果であるが、投与期間は1か月及び2か月であり、【評価例1】は、年単位で進行する加齢による老化に比べると比較的短期間の投与期間である1か月あるいは2か月の投与による効果を評価したものであり、脳の学習能力や記憶能力の改善、あるいは脳の知的機能の改善を裏付けるものとはなり得るとしても、加齢によって起きる脳の老化を防止し又は遅延させることを裏づけるものとはいえない。また、このような比較的短期間の投与試験で、加齢による脳の老化防止における効果を評価できると認めるに足る説明はなされていないし、そのような技術常識が本願出願時に存在していたものと認めることもできない。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールを含有する組成物が、脳の老化を防止することができることが【評価例1】により裏付けられていると認識することは、本願出願時の技術常識を参酌してもできないというべきであり、本願明細書のこのような記載によっては、本願出願時の技術常識を参酌して、L-アルギニン、フォスファチジルセリン、ドコサヘキサエン酸、イチョウ葉又はイチョウ葉エキス、及びトコフェロールを含有する組成物が、脳の老化を防止することができると当業者に理解できる程度に薬理データを開示して記載しているとはいえない。 したがって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること、との要件に適合するものとは認められない。 なお、請求人は、(1)記憶力、(2)見当識、(3)注意力、(4)集中力、(5)意欲、(6)睡眠について、「改善効果が1か月又は2か月といった短期間で認められたことは、客観的に「生理的な脳の老化」に改善効果が認められたことを示していることは明らかと考えます。」と主張するが、【評価例1】における投与期間は1か月又は2か月であり比較的短期間であるのに、なぜその期間での改善効果をもって、年単位で進行する加齢によって起きる脳の老化を防止し又は遅延させることができるといえるのかについては何ら説明していない。 4.むすび 以上のとおりであるから、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-03-15 |
結審通知日 | 2010-04-27 |
審決日 | 2010-05-19 |
出願番号 | 特願2002-63483(P2002-63483) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鶴見 秀紀 |
特許庁審判長 |
内田 淳子 |
特許庁審判官 |
穴吹 智子 星野 紹英 |
発明の名称 | 脳の老化予防剤 |
代理人 | 森田 憲一 |
代理人 | 森田 憲一 |
代理人 | 山口 健次郎 |
代理人 | 山口 健次郎 |
代理人 | 森田 憲一 |
代理人 | 山口 健次郎 |