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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800038 審決 特許
無効2007800232 審決 特許
無効2008800283 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
管理番号 1219448
審判番号 無効2009-800125  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-06-16 
確定日 2010-06-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第4261103号発明「コンベヤー潤滑剤、応力亀裂に対する熱可塑性容器の不動態化および熱可塑性材料の応力亀裂抑制剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4261103号の請求項1、2、4、5に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4261103号の請求項3、6に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その6分の2を請求人の負担とし、6分の4を被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第4261103号は、2000年8月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年8月16日、米国)に国際出願され、平成21年2月20日に設定登録が行われたものである。
そして、本件無効審判請求後の手続の経緯は以下のとおりである。

無効審判請求 :平成21年 6月16日
答弁書提出 :平成21年10月13日
証拠申出書(請求人) :平成21年12月 4日
口頭審理陳述要領書提出(請求人) :平成22年 2月 5日
口頭審理陳述要領書提出(被請求人) :平成22年 2月 5日
口頭審理 :平成22年 2月 5日

2.本件特許発明
本件特許第4261103号の請求項1ないし6に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 水混和性シリコーン物質と水混和性潤滑剤との混合物を、コンベヤーの容器接触表面の少なくとも一部分に適用するか、あるいは容器のコンベヤー接触表面の少なくとも一部分に適用することからなる、コンベヤーに沿った容器の通路を潤滑する方法。
【請求項2】 前記シリコーン物質がシリコーンエマルジョン、微細なシリコーン粉末、またはシリコーン界面活性剤からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記混合物が0.5?8重量%のシリコーン物質と、50?90重量%の水混和性潤滑剤と、2?49.5重量%の水または親水性希釈剤とを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】 前記シリコーン物質がシリコーンエマルジョン、微細シリコーン粉末、またはシリコーン界面活性剤を含んでなり;そして水混和性潤滑剤がヒドロキシ含有化合物、ポリアルキレングリコール、エチレンとプロピレンオキシドとのコポリマー、ソルビタンエステルまたは前記潤滑剤のいずれかの誘導体を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 前記シリコーン物質がポリジメチルシロキサン、ポリアルキルシロキサン,またはポリフェニルシロキサンを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】 前記混合物が実質的に非水性である、請求項1に記載の方法。」(以下、それぞれ「本件特許発明1ないし6」ともいう。)

3.請求人の主張及び証拠方法
これに対して、請求人は、「第4261103号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、無効理由の概要は以下の(1)?(4)であり、本件特許は無効とすべきであると主張している。
(1)本件請求項1および2に係る発明は甲第1?3号証に記載された発明であり、本件請求項4に係る発明は甲第2号証に記載された発明であり、また、本件請求項5に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明であるため、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件請求項1、2、4及び5に係る発明の特許は無効とすべきである。
(2)本件請求項1?5に係る発明は、甲第1?12、15?17号証に記載された発明に基づいて出願前に当業者が容易にできた発明であって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるため、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件請求項1?5に係る発明の特許は無効とすべきである。
(3)本件請求項1、2、4?6に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項より、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えた範囲を含む発明であるため、本件特許出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないため、特許法第123条第1項第4号に該当し、本件特許は、無効とすべきである。
(4)本件特許の請求項6に係る発明に関しては、発明の詳細な説明に実施例の記載がなく、請求項6に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないため、本件特許出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(以下、それぞれ「無効理由(1)ないし(4)」という。)

また、請求人は、証拠方法として甲第1号証ないし甲第25号証を提出している。

[証拠方法]
甲第1号証:特公昭49-17993号公報
甲第2号証:特表平6-503116号公報
甲第3号証:特開平1-96294号公報
甲第4号証:信越シリコーン「消泡剤」(製品パンフレット)
甲第5号証 :MAZU(R)DF210 S DEFOAMERの製品安全データシート(Material Safety Data Sheet)
甲第6号証:特表平10-504846号公報
甲第7号証:特開平10-310646号公報
甲第8号証:特開平5-32789号公報
甲第9号証:特開平6-49210号公報
甲第10号証:特公平6-92540号公報
甲第11号証:Diversey社製「DICOLUBE TP」の製品カタログ
甲第12号証:同「DICOLUBE TP」の製品安全データシート
甲第13号証:米国国立衛生研究所ホームページ、ChemlDplus Lite(http://chem.sis.nlm.nih.gov/chemidplus/ProxyServlet?objectHandle=DBMaint&actionHandle=default&nextPage=jsp/chemidlite/ResultScreen.jsp&TXTSUPERLISTID =067762872 )
甲第14号証:米国国立衛生研究所ホームページ、ChemlDplus Lite(http://chem.sis.nlm.nih.gov/chemidplus/ProxyServlet?objectHandle=DBMaint&actionHandle=default&nextPage=jsp/chemidlite/ResultScreen.jsp&TXTSUPERLISTID=063148629 )
甲第15号証:日本ユニカー株式会社製「NUCシリコーン消泡剤」製品パンフレッ ト
甲第16号証:シリコーンニューズ 第72号、平成10年1月、発行元:信越化学株式会社シリコーン事業本部統括部
甲第17号証:大三工業株式会社製「食品工業用コンベアー用水溶性潤滑剤」(製品パ ンフレット)
甲第18号証:特許第4261103号の特許公報(本件特許明細書;証拠申出書に添付)
[以下は、口頭審理陳述要領書に添付]
甲第19号証:広辞苑第五版、1021頁、株式会社岩波書店
甲第20号証:特公平3-42427号公報
甲第21号証:特開平1-283201号公報
甲第22号証:甲第11号証の日本語翻訳
甲第23号証:甲第12号証を拡大した複写
甲第24号証:米国特許第7371711号明細書
甲第25号証:甲第24号証の出願手続きにおける2003年11月18日に米国特許商標庁へ提出したIDSの書類

なお、当事者間に甲第1ないし25号証の成立に争いはない。

4.被請求人の主張の概要
一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、以下のとおり、本件特許を無効とすべき理由はない旨の主張をしている。
(1-1)本件特許発明1および2は、特許出願前に日本国内において頒布された甲第1?3号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明に該当するとはいえないので、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、本件特許を無効とすべき理由はない。
(1-2)本件特許発明4は、特許出願前に日本国内において頒布された甲第2号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明に該当するとはいえないので、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、本件特許を無効とすべき理由はない。
(1-3)本件特許発明5は、特許出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明に該当するとはいえないので、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、本件特許を無効とすべき理由はない。
(2)本件特許発明1?5は、甲第1?12、15?17号証に記載された発明に基づいて出願前に当業者が容易にできた発明とはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、本件特許を無効とすべき理由はない。
(3)本件特許発明1、2、4?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものといえる発明であるため、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当せず、本件特許を無効とすべき理由はない。
(4)本件特許発明6は、発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているので、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしており、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当せず、本件特許を無効とすべき理由はない。

5.甲第1ないし17、19ないし25号証の記載事項
[甲第1号証]
(1)「本発明は新規なる殺菌性潤滑剤に関する。
現在牛乳、清涼飲料、ビール、酒等のビン詰工程における大型化、自動化の普及は目覚ましく、多くのボルトコンベヤーが利用されている。これらのボトルコンベヤーはビン類の流れより若干速いスピードで運転され、しかも自動制御のためビン類がストップしてもコンベヤーはそのまま回転されている場合があり、これらの場合はビン類とコンベヤー表面との動摩擦力を低下させる必要がある。
・・・
これらの目的のため、従来より高級脂肪酸のカリウムあるいはナトリウム塩を主体とする潤滑剤が使用されている。」(第1欄第22行?第1欄第36行参照)

(2)「即ち本発明は殺菌性両性界面活性剤もしくは殺菌性第4級アンモニニウム塩型カチオン界面活性剤またはこれらの混合物に、適量のN-高級アルキルグリシンあるいは高級アルキルアミンもしくはこれらの塩またはこれらの混合物を配合することよりなる殺菌性潤滑剤である。
本発明の使用目的に適する殺菌性両性界面活性剤としては例えばサラボン50液(商品名)があげられる。また殺菌性第4級アンモニウム塩型カチオン活性剤としては例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジウム等が好ましい。
N-高級アルキルグリシンとしては例えばN-ステアリルグリンン、N-ラウリルグリシンあるいはその塩酸塩、N-ミリスチルグリシン塩酸塩等が好ましい。また高級アルキルアミンあるいはこれらの塩としては例えばラウリルアミン酢酸塩、ラウリルアミン塩酸塩があげられる。
・・・
そのもつとも適した配合比率は殺菌性界面活性剤10部に対し、高級アルキルグリシンもしくは高級アルキルアミンあるいはこれらの混合物を約2?20部程度とする場合である。上記殺菌性潤滑剤には必要に応じ可溶化剤、消泡剤等を添加することができる。
本発明の殺菌性潤滑剤は通常約5?10%程度の水溶液とし、用時これを更に約5?20倍に希釈して使用するのが適当である。」(第2欄第23行?第3欄第20行参照)

(3)「処方例2
サラボン50液 2.0部
N-ラウリルグリシン塩酸塩50%含有水溶液 4.0部
ラウリルアミン塩酸塩50%含有水溶液 4.0部
水 9 0.0部
シリコンKM(商品名-シリコン系消泡剤) 0.05部」(第3欄第27行?第37行参照)

(4)「実施例2
潤滑試験
第1図に示す如く・・・ステンレス鋼板1の表面に第2表に示す各検液・・・を塗布する。ついでステンレス鋼板1表面上にのせた牛乳瓶2には・・・」(第3頁左欄19-33参照)及び第1図。

(5)第2表
表中に、「処方例2」を検液とし、塗布希釈倍率を5倍、10倍及び20倍とした潤滑性判定が記載されている(第6欄参照)。

(6)「殺菌性両性界面活性剤もしくは殺菌性第4アンモニウム塩型カチオン界面活性剤またはこれらの混合物に、適量のN-高級アルキルグリシンもしくは高級アルキルアミンあるいはこれらの塩またはこれらの混合物を配合することよりなるベルトコンベア用殺菌性潤滑剤」(特許請求の範囲参照)

そうすると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されている。
「ベルトコンベア用殺菌性潤滑剤として、
サラボン50液 2.0部
N-ラウリルグリシン塩酸塩50%含有水溶液 4.0部
ラウリルアミン塩酸塩50%含有水溶液 4.0部
水 9 0.0部
シリコンKM(商品名-シリコン系消泡剤) 0.05部
を処方し、
使用時これを更に約5?20倍に希釈して使用するのが適当であるベルトコンベア用殺菌性潤滑剤を用いてビン類とコンベヤー表面との動摩擦力を低下させる方法。」

[甲第2号証]
(1)「(一)式;
[(R^(1))(R^(2))N(R^(5))NH(R^(3))(R^(4))]^(+)(R^(6)COO)^(-)または[(R^(1))(R^(2))NH(R^(5))NH(R^(3))(R^(4))^(++)(R^(6)COO)_(2)^(-)(式中、・・・)を有する脂肪酸ジアミン塩の効果的潤滑量;
(一)脂肪酸ジアミン塩が形成するように脂肪酸および脂肪酸ジアミン塩のジアミン成分に十分な水溶性を付与するのに効果的な量のヒドロトロープ;
(一)水
からなる合成ポリマー包装材料と適合性のある水性液コンベヤー潤滑濃縮物。」(請求項1参照)

(2)「本発明は、コンベヤーシステムの荷重支持表面と合成ポリマー包装材料との間の界面に優れた潤滑性を提供できる水性潤滑剤組成物およびこのような潤滑剤を実施する方法に存する。・・・」(第4頁左上欄14-16行参照)

(3)「脂肪酸ジアミン塩
我々は驚いたことに、脂肪酸およびジアミンの中和生成物として得られる、選択された脂肪酸ジアミン塩の水溶液は、コンベヤーシステムの荷重支持表面に効果的な潤滑特性を与えることのできる、効果的なポリエチレンテレフタレート適含潤滑組成物として働くことを見いだした。・・・」(第4頁右上欄下から4行-左下欄1行参照)

(4)「アルコール
物理的安定性、潤滑性、および組成物の活性を増す目的で、本発明の新規な組成物は約1-5のヒドロキシ基を有する(C_(1-18))アルコールを含有してもよい。適当なアルコールは・・・・エチレングリコール、・・・低分子量ポリエチレングリコール化合物等を含む。」(第6頁左上欄2-7行参照)

(5)「他の成分
上記成分に加え、本発明の潤滑剤組成物はコンベヤー潤滑組成物に従来から使用されている成分を含有していてもよく、・・・消泡添加剤、・・・特定の特性を達成する。」(第6頁左上欄8-11行項参照)

(6)「濃度
広くは、本発明の固体および液体形態の濃縮潤滑剤組成物は脂肪属アミン塩約1-70wt%を含む。・・・本発明の潤滑剤組成物の好ましい液体濃縮物は約4-20wt%脂肪酸と1-10wt%ジアミンから作られた脂肪族アミン塩約5-25wt%を含む。液体濃縮物は約2-40wt%ヒドロトロープ、約2-30w t %界面活性剤、および約1-20wt%の金属イオン封鎖剤を含む。
・・・しかしながら動いているコンベヤー表面上へ本発明の潤滑組成物を施す前に、該組成物を使用強度・・・まで希釈しなければならない。希釈潤滑剤使用液は活性潤滑剤成分約50ないし20000ppm(wt/v)、好ましくは約100ないし10000ppm(wt/v)を含むものであり、・・・」(第6頁左上欄12行-同右上欄7行参照)

(7)表2

(第6頁参照)

(8)表3






(第7頁参照)

そうすると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されている。
「潤滑剤の固形配合成分として、
DF210(マザー ケミカル社から入手可能なMazu DF210(登録商標):活性成分10%を含有するシリコン脱泡剤)1.0wt%と、
(以下、数字はwt%を表わす。)
DuoCD 3.0
K215 21.9
Tall 23.8
NaOH 6.8
Petro 39.6
V220 4.0
または
DuoCD 3.0
K215 24.0
Coco 10.0
Tall 14.0
NaOH 4.0
Petro 40.0
V220 4.0
または
T-20 27.7
Tall 19.8
Petro 29.7(BA粉末として添加)
V100 4.0
PEG 17.8
または
T-20 28.0
Tall 19.8
SXS 20.0(90wt%活性粉末として添加)
V100 3.0
PEG 28.0
とを配合し、
ここで、
DuoCDは、アクゾ ケミ アメリカ、アーマク ケミカルズから入手可能なDuomeen CD(登録商標)(N-ココ-1,3-[プロパン]ジアミン)、
T-20は、アクゾ ケミ アメリカ、アーマク ケミカルズから入手可能なEthoduomeen t/20(登録商標)(平均10エトキシ単位を含有するエトキシレート化N-タロウ-1,3ジアミノプロパン)、
K215は、脂肪酸ジアミン成分であり、シェレックス ケミカル社から入手可能なVaronic K215(登録商標)(1分子当たり平均15モルのエチレンオキサイドを有するC_(10-18)アルキルアミンエトキシレート)、
Cocoは、ヤシ油脂肪酸、主にC_(12)及びC_(14)飽和脂肪酸を含有するC_(12-18)飽和および不飽和脂肪酸の混合物、
Tallは、タル油脂肪酸、主にモノ不飽和およびジ不飽和C_(18)脂肪酸を含有するC_(16-18)飽和および不飽和脂肪酸の混合物、
Petroは、ペトロケミカル社から入手可能なPetro LBA(登録商標)(C_(2-18)アルキルナフタレンスルホネート)、Petro BA(登録商標)はPetro LBAのダーク色の形態である、
SXSは、ナトリウムキシレンスルホネート40wt%の水溶液、
V100は、ダウ ケミカル社から入手可能なVersene 100(登録商標)(四ナトリウムEDTA40wt%を含有する水溶液)、
V220は、ダウ ケミカル社から入手可能なVersene 220(粉末化四ナトリウムEDTA)、
PEGは、その他の添加成分であり、ユニオン カーバイド社から入手可能な平均分子量約8000を有するポリエチレングリコールであり、
また、動いているコンベヤー表面上へ潤滑組成物を施す前に該組成物を使用強度まで希釈し、ここで、希釈潤滑剤使用液は活性潤滑剤成分約50ないし20000ppm(wt/v)、好ましくは約100ないし10000ppm(wt/v)を含むものである、
潤滑剤をコンベヤーシステムの荷重支持表面と合成ポリマー包装材料との間の界面に実施する方法。」

[甲第3号証]
(1)「1.殺菌性を有するカチオン界面活性剤および高級脂肪酸石鹸を配合することを特徴とするコンベヤーベルト用殺菌潤滑剤。
2.該カチオン界面活性剤がアルキルトリメチルアンモニウムハライド又はアルキルジメチルベンジルアンモニウムハライドから選ばれる特許請求の範囲第1項に記載の殺菌潤滑剤。
3.高級脂肪酸石鹸10部に対し、カチオン界面活性剤5部?15部を配合する特許請求の範囲第1項に記載の殺菌潤滑剤。
・・・」(「特許請求の範囲」参照)

(2)「現在、牛乳、清涼飲料、ビール、酒等におけるビン詰および缶詰工程の大型化省力化は急激に進展し、多くのコンベヤーベルトが使用されている。・・・ビン類とコンベヤー表面との動摩擦力が低ければ都合がよい。・・・」(第2頁左上欄4-12行参照)

(3)「本発明で用いられる高級脂肪酸石鹸としては、例えば炭素数8?22個の脂肪酸カリウム塩、ナトリウム塩およびアミン塩、・・・が挙げられ、これらは各々単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。これらのうち潤滑性が良好で好ましいものは、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸の如き炭素数12?18個の脂肪酸、ヤシ脂肪酸およびトール脂肪酸のカリウム塩、ナトリウム塩、ジエタノールアミン塩、並びにトリエタノールアミン塩である。
本発明の殺菌剤潤滑剤には、上記高級脂肪酸石鹸10部(重量部、以下同じ)に対し、殺菌性を有するカチオン界面活性剤3?20部、好ましくは5?15部を配合する。」(第3頁左上欄3-19行参照)

(4)「本発明の殺菌潤滑剤には上記成分の他、必要に応じ、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルアルキルアミン酸化エチレン付加物等可溶化剤、・・・、シリコン系消泡剤、・・・アルコール、グリコール等の安定剤を添加することもできる。」(第3頁右上欄14行-同左下欄3行参照)

(5)「本発明の殺菌潤滑剤を使用するに当たっては、高級脂肪酸の濃度として約0.01?0.1%、特に0.02?0.05%となるよう調整してコンベヤーに供給するのが適当である。・・・
使用に際し、前記成分を用事水に溶解して使用してもよいが、予め10?40%の水溶液にしておくこともできる。この場合にはコンベヤーに供給する際、調整しておいた溶液をさらに水で50?200倍に希釈して用いる。」(第3頁左下欄4-14行参照)

(6)「処方例6
ヤシ脂肪酸トリエタノールアミン塩 12.0
ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド 5.5
アミド化合物A 4.5
ポリエチレングリコールラウリン酸エステル 10.0
ラウリルアミン酸化エチレン付加物 2.0
シリコン系消泡剤 0.2
イソプロピルアルコール 5.8
水 60.0」(第4頁右上欄10-20行参照)

また、上記記載事項(6)の数字は、重量部を表すものと認められる。

そうすると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されている。
「殺菌性を有するカチオン界面活性剤に潤滑性を有する高級脂肪酸石鹸を配合したコンベヤーベルト用殺菌潤滑剤において、
ヤシ脂肪酸トリエタノールアミン塩 12.0
ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド 5.5
アミド化合物A 4.5
ポリエチレングリコールラウリン酸エステル 10.0
ラウリルアミン酸化エチレン付加物 2.0
シリコン系消泡剤 0.2
イソプロピルアルコール 5.8
水 60.0
をそれぞれ重量部含有し、
使用するに当たっては、高級脂肪酸の濃度として約0.01?0.1%、特に0.02?0.05%となるよう調整してコンベヤーに供給するのが適当であるビン類とコンベヤー表面との動摩擦力を低くする方法。」

[甲第4号証]
(1)「2.あらゆる泡に有効です
シリコーンは、その構造から・・・あらゆる泡に有効に作用します。

」(第2頁参照)

(2)「4 粉末型消泡剤
KM88P
一般工業用粉末型消泡剤で・・・」(第11頁参照)

(3)「5 エマルジョン型消泡剤
エマルジョン型消泡剤は、シリコーンオイルを各種の乳化剤で乳化したオイルエマルジョン型(O/W型)で、水系発泡液の消泡に使用されます。」の記載とともに、「KM」から始まる種々の品名についての説明が記載されている(第12,13頁参照)。

[甲第5号証]
(1)「Material Safty Data Sheet(製品安全シート)

(2)「MAZU(R) DF 210 S DEFOAMER(消泡剤)
・・・
Common Chemical Name:
10% SILICONE DEFOAMER/F.G.」

(3)「Color: Milky White(乳白色)
Form/Appearance: Liquid(液体)」

なお、( )内は、当審で付した仮訳。

[甲第6号証]
(1)「発明の分野
この発明は、プラスチック製コンベヤーシステムに使用するのに適した潤滑剤に関する。より詳細には、この発明は、プラスチック製のトラックまたはベルトの潤滑化によって、連続的に移動するプラスチック製コンベヤーの潤滑性を増大させるコンベヤー用潤滑剤に関する。」(第7頁4-8行参照)

(2)「食料や飲料の加工工業においては、食料や飲料を収容する容器の材質としては熱可塑性樹脂が利用される場合が多く、この種の容器の作業ステーション間の輸送はプラスチック製ベルトコンベヤーを用いておこなわれている。コンベヤー上でのバックアップ(back up)により容器がコンベヤー上で停止することがしばしばある。容器は停止してもベルトは連続的に移動する。容器の円滑な輸送を促進するために、潤滑組成物をコンベヤーベルトの表面上に噴霧する。潤滑組成物は一般的には、潤滑剤濃厚物を水で1:100?1:1000に希釈することによって得られる水性液である。」(第9頁5-12行参照)

(3)「この発明は、水との混合によってプラスチック製コンベヤーシステム上の容器の輸送を促進する潤滑剤となる熱可塑性樹脂適合性潤滑剤濃厚物を提供する。特に、本発明には、プラスチック製コンベヤーベルトまたはトラック用潤滑剤としてエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーの使用が含まれる。
ブロックコポリマー
エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーは当該分野においてはノニオン性界面活性剤として知られており、また、市販されている。この 種のブロックコポリマーとしてはBASF社製の「プルロニックス」が例示される。
・・・
本発明においてプラスチック製コンベヤーシステム用潤滑剤として用いるこの種のブロックコポリマーは液状、ペースト状または固体状であってもよく、単独で 使用してもよく、他の成分と併用してもよい。・・・最も好ましいブロックコポリマーは市販さ れている「プルロニックF-108」のようなポリマー、 即ち、平均分子量が14,600、溶融/流動点が57℃、粘度が2,800cps(77℃)、表面張力が41dyn/cm(25℃、0.1%)の室温で固体のポリマーである。」(第9頁下から2行-第11頁下から16行参照)

(4)「実施例3
以下の配合処方によって得られた潤滑剤組成物は実施例1および2で調製した組成物と同様の特性を示した。
成 分 重量(g)
プルロニックF-108 31.5
ポリオキシエチレン(20)ソルビタン モノオレエート 24.0
C_(8)?C_(10)アル コールエトキシレート ホスフェートエステル 25.0
タル油ナトリウムセッケン 10.0
Na_(4)EDTA 5.0
NaOH(50%) 4.0
シリコーン脱泡剤 0.5」(第21頁19行-第20頁3行参照)

そうすると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲第6号証発明」という。)が記載されている。
「水との混合によってプラスチック製コンベヤーシステム上の容器の輸送を促進する潤滑剤となる熱可塑性樹脂適合性潤滑剤濃厚物であって、以下の配合処方によって得られた潤滑剤組成物を、一般的には、潤滑剤濃厚物を水で1:100?1:1000に希釈することによって得られる水性液をコンベヤーベルトの表面上に噴霧する容器の円滑な輸送を促進する方法。
成 分 重量(g)
プルロニックF-108 31.5
ポリオキシエチレン(20)ソルビタン モノオレエート 24.0
C_(8)?C_(10)アル コールエトキシレート ホスフェートエステル 25.0
タル油ナトリウムセッケン 10.0
Na_(4)EDTA 5.0
NaOH(50%) 4.0
シリコーン脱泡剤 0.5」

[甲第7号証]
(1)「【発明の属する技術分野】本発明は、オルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法に関し、更に詳しくは、化粧料、繊維処理剤、潤滑剤、離型剤、ガラス繊維処理剤、艶出剤、消泡剤、紙処理剤などに有効に利用されるオルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法に関する。」(段落【0001】参照)

(2)「(実施例1?3及び比較例1?4)特開平5-32789号公報に準じ、下記組成成分を下記製造方法、並びに下記説明の製造装置及び下記表1に 記載される製造工程等の内容によりオルガノポリシロキサンエマルジョンを製造した。
(組成成分)
ジメチルシリコーン(100000cs) 40% 2000g
POE(9.5)ノニルフェニルエーテルリン酸 4% 200g
精製水 56% 2800g」(段落【0020】参照)

[甲第8号証]
(1)「産業上の利用分野】本発明は、オルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法に関するものであり、詳しくは化粧料、整髪料、繊維処理剤、潤滑剤、離型剤、ガラス繊維処理剤、艶出剤、消泡剤などに有効に利用されるオルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法に関するものである。」(段落【0001】参照)

(2)「実施例1
オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド 8部
精製水 2部
を混合して液晶を形成させる。これに、油相としてジメチルシリコーン(10万cS)20部を加えパドル、プロペラ等の撹拌機で混合する。均一にした後、ジメチルシリコーン(10万cS)20部を加え粘稠な透明状態になったら、精製水50部を加え、再び混合しエマルジョンを得た。得られたエマルジョンの平均粒子径は、0.24μmであった。」(段落【0025】参照)

[甲第9号証]
(1)「【産業上の利用分野】本発明はオルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法およびそのオルガノポリシロキサンエマルジョンにより処理してなる物に関するものであり、詳しくは、繊維処理剤,潤滑剤,離型剤,ガラス繊維処理剤,艶出剤,消泡剤,塗料成分等に有用なオルガノポリシロキサンエマルジョンの製造方法に関するものである。」(段落【0001】参照)

(2)「【実施例1】(A)成分として、粘度2500センチスト-クスの分子鎖両末端水酸基封鎖ジメチルポリシロキサンオイル39.2部と、(B)成分として式(CH_(3)O)_(2)Si[OSi(CH_(3))_(3)]_(2)で示されるアルコキシ基含有有機けい素化合物0.8部を均一に混合後、これに非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(6モル)ラウリルエ-テル4.0部、式C1_(6)H_(33)N(CH_(3))_(3)・Clで示されるカチオン系界面活性剤2.0部、水54部を加えて、コロイドミル型乳化機で乳化して均一なエマルジョンを調製した。・・・」(段落【0013】参照)

[甲第10号証]
(1)「[産業上の利用分野]
本発明は、オルガノポリシロキサンエマルジョンに関するものであり、詳しくは繊維処理剤、潤滑剤、離型剤、ガラス繊維処理剤、艶出剤、消泡剤、塗料成分などに有用とされる非イオン系のオルガノポリシロキサンエマルジョンに関するものである。」(第2欄7-12行参照)

(2)「実施例1
1000mlのビーカー中で、両末端ヒドロキシ基封鎖のジメチルポリシロキサン(粘度2500センチストークス)380部、式
(C_(2)H_(5))_(2)NO[(CH_(3))_(2)SiO]_(6)(CH_(3))_(2)SiON(C_(2)H_(5))_(2)で示されるアミノキシ基含有ジメチルポリシロキサン20部、ポリオキシエチレン(6モル付加)トリメチルノニルエーテル20部、ポリオキシエチレン(45モル付加)ノニルフェニルエーテル10部および水40部を10分間攪拌した後、コロイドミル乳化機を用いて乳化し、さらに水570部を加えて均一に乳化分散させた。」(第6欄46行-第7欄12行参照)

[甲第11号証]及びその日本語訳である[甲第22号証]
ファックス用紙(上端に16-MAY-1994 06:35との印字あり。)として、中性コンベア用潤滑剤「DICOLUBETP」について以下が記載されている(日本語訳を参照)。
(1)「シリコーンオイルおよびシリコーン界面活性剤を含む水溶液」

(2)「DICOLUBETPは、容器とコンベア間の摩擦を減らす。」

(3)「DICOLUBETPは、コンベアに薄いシリコーン膜を生じ、そのため従来のコンベア用潤滑剤に比べて短い適用時間しか要さない。」

(4)「DICOLUBETPは、容器上の印刷された色やポリエチレン被覆に影響を及ばさない。」

(5)「調整状態 液体
色 白」

[甲第12号証]及びその一部の拡大コピーである[甲第23号証]
不鮮明ではあるが、以下の文字が読み取れる。
(1)「BEST AVAILABLE COPY」

(2)「ON 04/11/96」

(3)「DICOLUBE TP」

(4)「CONCENTRATED (LIQUID) CONVEYOR LUBRICANT(濃縮液体コンベア用潤滑剤)」

(5)「LUBRICANT SOAP (67762-87-2)
SILICONE (63148-62-9)」

[甲第13号証]
United States National Library of Medicine(米国国立衛生研究所)ホームページ、「ChemlDplus Lite」インターネット表示画面のハードコピーで以下が読み取れる。
(1)「Siloxanes and Silicones di-Me,3-hydroxypropyl Me,ethers with polyethylene-porypropylene glycol mono-Bu ether
RN:67762-87-2」

[甲第14号証]
United States National Library of Medicine(米国国立衛生研究所)ホームページ、「ChemlDplus Lite」インターネット表示画面のハードコピーで以下が読み取れる。
(1)「Polydimethylsiloxanes
RN:63148-62-9」

[甲第15号証]
NUCシリコーン消泡剤について、
(1)「種類と特長 ・・・
エマルジョン型:水溶液系の消泡のためにコンパウンド型の消泡剤を乳化し、エマルジョンとしたものです。・・・」

[甲第16号証]
(1)「D.表面張力
・・・ジメチルシリコーンオイルは16?21dyn/cmと極めて低値を示す。表面張力が小さいことは表面エネルギーが小さいことを示しており、・・・潤滑剤、消泡剤・・・として優れた特性を発揮する。」(第7頁左?右欄参照)

(2)「F.潤滑剤
シリコーンオイルは・・・アルミニウム、亜鉛などの比較的軟らかい金属材料やプラスチック材料が接触する場合には優れた潤滑性を示す。」(第7頁右欄参照)

[甲第17号証]
(1)品名「スライダー」の「各種容器用」での使用法において、比重(20℃)が1.00?1.02であり、稀釈倍数が2?4倍、4?10倍、3?6倍で使用するコンベア潤滑剤が表として記載されている(「性状及び使用法」の頁参照)。

(2)「スライダーは、食品工業のコンベア上の容器類の流れをスムースにするために、特に研究開発された水溶性潤滑剤です。」(「スライダー」の頁参照)

[甲第19号証]
「混合物」の説明として、以下が記載されている。
(1)「1 数種のものが混じって一つとなったもの。」

(2)「2 二種またはそれ以上の物質が化学的結合をせずにまじり合ったもの。」

[甲第20号証]
(1)「消泡剤は、周知のシリコン系消泡剤(ジメチルポリシロキサンをO/Wエマルジョンとしたもの。)が使用できる。具体的には、市販のシリコンKM-86P:商品名:信越化学工業(株)製・・・」(第4頁左欄26-29行参照)

[甲第21号証]
(1)「本発明は上記成分の他に、必要に応じて5重量%以下の消泡剤、例えばジメチルポリシロキサンを主成分とするシリコーン系消泡剤を配合してもよく・・・」(第3頁左下欄3-6行参照)

(2)「実施例1
・・・
消泡剤0.25部(シリコン KM-73、信越化学工業株式会社製)・・・」(第3頁右下欄3-20行参照)

[甲第24号証]
本件と関連する米国特許明細書であり本件特許明細書と同様な内容が記載されている。

[甲第25号証]
甲第24号証の出願手続きにおける2003年11月18日付けIDS(INFORMATION DISCLOSURE STATEMENT)の書類の写しであって、以下が記載されている。
(1)「Material Safety Data Sheet for Dicolube TP dated 04/11/96(1 pg.)」(第5頁下から3欄目)

6.当審の判断
6-1.無効理由(1)について
6-1-1.本件特許発明1について
<甲第1号証発明との比較>
本件特許発明1と甲第1号証発明とを比較すると、
甲第1号証発明の「ビン類」及び「ベルトコンベア」は、それぞれ本件特許発明1の「容器」及び「コンベヤー」に相当し、
また、一般的には「シリコン」(ケイ素の英語名(silicon))は、「シリコーン」とは別の物質を表す用語ではあるが、通常「シリコーン」を「シリコン」と表記することも多く、また、甲第1号証発明の「シリコン」は消泡剤に用いられることから、本件特許発明1での「シリコーン」を意味するものと認められ(以下、他の証拠方法においても、同様な理由により、「シリコン」と「シリコーン」は同一物質を意味するものと認められる。)、
甲第1号証発明の『商品名が「シリコンKM」であるシリコン系消泡剤』(以下、単に「シリコンKM」ともいう。)は、甲第1号証発明において処方された「ベルトコンベア用殺菌性潤滑剤」が水溶液として用いられること及び水溶液の消泡を行うことを考慮すると、少なくとも水混和性を有することは明らかなことから、「シリコンKM」は、本願特許発明1の「水混和性シリコーン物質」に相当し、
甲第1号証発明の「ラウリルアミン塩酸塩50%含有水溶液」は、潤滑剤として用いられ、また、水溶液であるので「ラウリルアミン塩酸塩」は水混和性があることから、「ラウリルアミン塩酸塩」は、本願特許発明1の「水混和性潤滑剤」に相当し、
そして、甲第1号証発明の「ベルトコンベア用殺菌性潤滑剤」は、ビン類とベルトコンベア表面との動摩擦力を低下させるために用いられることから、ベルトコンベアのビン類接触表面の少なくとも一部分に適用するか、あるいはビン類のベルトコンベア接触表面の少なくとも一部分に適用することは明らかなことより、
両者は、
「水混和性シリコーン物質と水混和性潤滑剤との混合物を、コンベヤーの容器接触表面の少なくとも一部分に適用するか、あるいは容器のコンベヤー接触表面の少なくとも一部分に適用することからなる、コンベヤーに沿った容器の通路を潤滑する方法。」で一致し、相違点はない。

<甲第2号証発明との比較>
本件特許発明1と甲第2号証発明とを比較すると、
甲第2号証発明の「合成ポリマー包装材料」及び「コンベヤーシステム」は、それぞれ本件特許発明1の「容器」及び「コンベヤー」に相当し、
甲第2号証発明の「DF210」は、シリコン脱泡剤であるので、上記<甲第1号証発明との比較>で検討したのと同様に、少なくとも水混和性を有することは明らかなことから、本願特許発明1の「水混和性シリコーン物質」に相当し、
甲第2号証発明の「K215」は脂肪酸ジアミン成分であり、また、「PEG」はポリエチレングリコールであるので(「PEG」については、下記の本件特許発明4についての検討を参照。)、「K215」または「PEG」は、本願特許発明1の「水混和性潤滑剤」に相当することから、
両者は、
「水混和性シリコーン物質と水混和性潤滑剤との混合物を、コンベヤーの容器接触表面の少なくとも一部分に適用するか、あるいは容器のコンベヤー接触表面の少なくとも一部分に適用することからなる、コンベヤーに沿った容器の通路を潤滑する方法。」で一致し、相違点はない。

<甲第3号証発明との比較>
本件特許発明1と甲第3号証発明とを比較すると、
甲第3号証発明の「ビン類」は、本件特許発明1の「容器」に相当し、
甲第3号証発明の「シリコン系消泡剤」は、上記<甲第1号証発明との比較>で検討したのと同様に、少なくとも水混和性を有することは明らかなことから、本願特許発明1の「水混和性シリコーン物質」に相当し、
甲第3号証発明の「ヤシ脂肪酸トリエタノールアミン塩」、「ポリエチレングリコールラウリン酸エステル」または「ラウリルアミン酸化エチレン付加物」は、本件特許発明1の「水混和性潤滑剤」に相当することから、
両者は、
「水混和性シリコーン物質と水混和性潤滑剤との混合物を、コンベヤーの容器接触表面の少なくとも一部分に適用するか、あるいは容器のコンベヤー接触表面の少なくとも一部分に適用することからなる、コンベヤーに沿った容器の通路を潤滑する方法。」で一致し、相違点はない。

6-1-2.本件特許発明2について
<甲第1号証発明との比較>
本件特許発明2と甲第1号証発明とを比較すると、
本件特許発明2では、シリコーン物質がシリコーンエマルジョン、微細なシリコーン粉末、またはシリコーン界面活性剤からなるのに対し、甲第1号証発明では、商品名が「シリコンKM」であるシリコン系消泡剤は、シリコーンエマルジョン、微細なシリコーン粉末、またはシリコーン界面活性剤からなるか否か明確でない点で相違し、その他の点では一致している。

そこで上記相違点を検討すると、
『「シリコンKM」の商品名を有する消泡剤』は、甲第4号証、甲第20、21号証に記載され、これらの記載からすると、信越化学工業株式会社製のものであり、少なくともシリコーンエマルジョンまたは微細なシリコーン粉末のいずれかであることは、明らかであり、
また、水溶性のシリコン系消泡剤としてシリコーンエマルジョンを用いることは、本件出願前周知の技術(例えば、甲第7?10号証参照)であるので、
甲第1号証発明において、上記シリコン系消泡剤をシリコーンエマルジョン、微細なシリコーン粉末、またはシリコーン界面活性剤からなるとすることは、単なる周知技術の適用にすぎないことより、
上記相違点は、実質的な相違とは認められない。

<甲第2及び3号証発明との比較>
本件特許発明2と、甲第2号証発明及び甲第3号証発明とを比較すると、それぞれ<甲第1号証発明との比較>と同様に実質的な相違点はない。

6-1-3.本件特許発明4について
本件特許発明4と甲第2号証発明とを比較すると、
甲第2号証発明の「PEG」は、ポリエチレングリコールであり、潤滑剤としての機能を有することは技術常識であるので、本件特許発明4の「ポリアルキレングリコール」に相当することより、両者に相違点はない。

6-1-4.本件特許発明5について
本件特許発明5と甲第1号証発明とを比較すると、
甲第1号証発明の「シリコンKM」は、甲第4号証の記載事項(1)から「ジメチルポリシロキサン」、すなわち本件特許発明5の「ポリアルキルシロキサン」を含むものであることから、両者に相違点はない。

6-1-5.被請求人の主張について
被請求人は、答弁書において
『甲第1号証に記載の「シリコンKM(商品名-シリコン系消泡剤)」が、甲第4号証記載の「KM」シリーズのいずれかを表すとすると、そのシリコーン含有量は、項目「5.エマルジョン型消泡剤」を参照すると有効成分(何か有効成分なのか不明である。)が15.5?55%であることから、その有効成分がシリコーンを意図するとした場合、処方例2中のシリコーン成分は0.05部のほぼ半量以下ととなり極めて微量となることから、その機能はせいぜい文字どおり消泡機能を果たすにとどまり、それを本件特許発明1の潤滑作用を果たす成分に該当するということはできない。
因みに、本件特許明細書においても、例えば、段落0054、0058、0069などに、本件特許発明1の潤滑剤である構成(A)と(B)の混合物(C)以外のその他の添加剤として、「発泡抑制剤」(消泡剤相当)を例示している。
以上のとおり、請求人が、甲第1号証の処方例2の構成成分として記載された「シリコンKM(商品名-シリコン系消泡剤)」が、本件特許発明1の構成Aに相当すると認定したことは明白な誤りである。
つまり、「甲第1号証には、処方例2のシリコンKM(ポリジメチルシロキサンを含むシリコーンエマルジョン)、ラウリルアミン塩酸塩を含むベルトコンベア用潤滑剤組成物が開示され、これらが本件特許発明のAおよびBに該当する。」から、甲第1号証に記載された発明は、本願発明1の「(A)水混和性シリコーン物質と(B)水混和性潤滑剤との(C)混合物」の潤滑剤を利用するものであるとの主張の根拠は妥当でない。』と主張している。
しかし、発明の要旨の認定は、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明らかでないなどの特段の事情のない限り、明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁平成3年3月8日判決・昭和62年(行ツ)第3号審決取消事件)ところ、
本件の請求項1の記載には、用いられている用語の意義の解釈に不明確な点など特段の事情はなく、そして、請求項1の記載において「水混和性シリコーン物質」は、出願人が上記で主張しているように潤滑作用を果たす成分であるとの限定はないことより、上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであるので採用できない。
また、仮に、請求項1において「水混和性シリコーン物質」が潤滑作用を果たす成分であることを意味するとしても、本件特許発明1の「水混和性シリコーン物質」と甲第1号証発明の「シリコンKM」は同一の種類の物質であり、甲第1号証発明の「シリコンKM」も潤滑作用を有するものと認められることから、甲第1号証発明の「シリコンKM」は、本件特許発明1の「水混和性シリコーン物質」と相違するものとすることはできない。

同様の理由により、甲第2号証発明の「DF210」及び甲第3号証発明の「シリコン系消泡剤」は、それぞれ本件特許発明1の「水混和性シリコーン物質」と相違するものとすることはできない。

また、甲第2号証発明の「PEG」は、その他の添加成分とされているが、ポリエチレングリコールであり、潤滑作用を有することは技術常識であるので、本願特許発明4の水混和性潤滑剤である「ポリアルキレングリコール」と相違するものとすることはできない。

6-1-6.無効理由(1)のまとめ
本件特許発明1および2は甲第1?3号証に記載された発明であり、本件特許発明4は甲第2号証に記載された発明であり、また本件特許発明5は甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

6-2.無効理由(2)について
6-2-1.本件特許発明3について
<甲第1号証発明との比較>
本件特許発明3と甲第1号証発明とを比較すると、
本願特許発明3では、混合物が0.5?8重量%のシリコーン物質と、50?90重量%の水混和性潤滑剤と、2?49.5重量%の水または親水性希釈剤とを含んでなるのに対し、甲第1号証発明では、混合物がそのような比率でない点で相違する。

そこで、上記相違点について検討すると、
甲第1号証発明の「シリコンKM」は、0.05部と非常に少ない混合比率であり、ここで、0.05部はシリコンエマルジョン等としての混合比率で、シリコーン物質としてはさらに小さな混合比率であること、また、90.0部の水を含む潤滑剤を、更に5?20倍に希釈して用いていることを考慮すると、本件特許発明3と甲第1号証発明とでは、シリコーン物質及び水等の希釈剤の混合比率には大きな差があるものと認められ、
また、請求人が提示した他の証拠方法には、コンベヤーに沿った容器の通路を潤滑するのに際し、シリコーン物質を0.5?8重量%と高い混合比率にし、かつ、水または親水性希釈剤を2?49.5重量%と低い混合比率とすることについての開示はないこと、
そして、甲第7ないし10,16号証に示されているようにシリコーンエマルジョンが周知の潤滑剤であったとしても、これを甲第1号証発明の「シリコンKM」に替えて用い、または、これを甲第1号証発明の潤滑剤組成物中へ更に添加し、その際のシリコーン物質の混合比率を0.5?8重量%とし、加えて、水混和性潤滑剤を50?90重量%、水または親水性希釈剤を2?49.5重量%の混合比率で混合することが容易にできたとする理由はないことより、
上記相違点を当業者が容易になし得たものとすることはできない。

<甲第2,3,6号証発明との比較>
また、本件特許発明3と甲第2,3,6号証発明とを比較すると、それぞれ<甲第1号証発明との比較>で検討したのと同様な点で相違し、そして、同様な理由により該相違点を当業者が容易になし得たものとすることはできない。

6-2-2.請求人の主張について
甲第11号証は、1頁のみのファックス用紙で公知文献か否か特定できないものの、請求人が審判請求書において主張するように、「DICOLUBE TP」なる物質が、シリコーンエマルジョンであり、コンベア用潤滑剤として容器とコンベア缶の摩擦を減らすこと、及び、コンベアー上に薄膜を形成するため、従来のコンベアー潤滑剤と比較して投与時間が短くてよいことが公知であったとしても、出願人の主張しているような「投与時間が比較的短いこと」が「該製品や稀釈する水の使用量が少なくてもよいこと」を示唆しているとする理由はなく、また、混合物及び水または親水性希釈剤の混合比率を本願特許発明3のようになすことが容易であるとする根拠が示されているものでもない。

また、請求人は、審判請求書において、
「甲第17号証では、低稀釈倍率でコンベア用潤滑剤を使用しており、本件発明のようなコンベア用潤滑剤混合物を、水をほとんど使用しないでコンベアに塗布することは、同技術分野では既に行われていたことである」と主張しているが、
甲第17号証の品名「スライダー」なるコンベア潤滑剤が、いかなる組成を有する水溶性潤滑剤なのか明らかではなく、特に、水の混合比率が明確でないことより、希釈倍率が2?4倍等ということのみで、水をほとんど使用しないでコンベアに塗布することは、同技術分野では既に行われていたこととすることはできず、また、比重が1.00?1.02であるので、少なくとも、水は、本件特許発明3の2?49.5重量%よりは大きな混合比率になることは明らかである。

6-2-3.無効理由(2)のまとめ
本件特許発明1,2,4及び5については、上記「6-1.無効理由(1)について」で検討したとおり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないことより、無効理由(2)についての検討は要さない。
一方、本件特許発明3は、甲第1?12、15?17号証に記載された発明に基づいて出願前に当業者が容易にできた発明とすることはできない。

6-3.無効理由(3)について
6-3-1.本件特許発明1について
請求人は、審判請求書において、
『本件特許発明の請求項1に係る発明は、
「A.水混和性シリコーン物質と、
B.水混和性潤滑剤との、
C.混合物を、
D.コンベヤーの容器接触表面の少なくとも一部に適用するか、あるいは容器のコンベアー接触表面の少なくとも一部に適用すること
E.コンベアーに沿った容器の通路を潤滑する方法。」である。
そして、本件特許明細書【0036】では
「本発明において使用する組成物は、比較的少ない量で適用することができ、有意な量の水を使用するインライン希釈を必要としない。本発明の組成物は、薄い、実質的に滴下しない潤滑性皮膜を提供する。希薄水性潤滑剤と対照的に、本発明の潤滑剤は、コンベヤーおよび容器のより乾燥した潤滑、よりきれいな、より乾燥したコンベヤーラインおよび作業領域、および潤滑剤の使用の減少を提供し、これにより消耗、掃除および廃棄の問題を減少させる。」と記載されている。
また、本件特許明細書の【0183】実施例33では、77.2部の96重量%グリセロール、20.7部の脱イオン水、2.1部ポリジメチルシロキサン(60%シロキサンエマルジョン)を含む潤滑組成物を約20g動くベルトに90分かけて適用し、ショートトラックコンベアー試験を行っている。その比較として、標準的希薄水性潤滑剤(0.5%希釈物)を8リットル/時のスプレー適用速度で適用し、同様に試験している。その結果、前者の潤滑剤組成物の方は摩擦係数が低いことが示されており、さらに淡水で容易に洗浄可能であることも記載している。実施例34-36の潤滑組成物でも同様な結果を示している。
ここで、本件特許明細書の【0036】および実施例33-36の記載を検討すると、本件特許発明の「発明が解決すべき課題」として、水で希釈する必要がない潤滑剤を使用して、より乾燥したコンベヤーラインおよび作業領域、および潤滑剤の使用の減少を提供し、これにより消耗、掃除および廃棄の問題を減少させることであると理解できる。その解決手段として具体的に実施例では、70重量%程度グリセロール、1?2重量%程度のシリコーンエマルジョンおよび20重量%程度の水を含む潤滑剤組成物のみ開示されている。
これに対し、本件特許請求項1で規定する潤滑剤組成物として、単に水混和性シリコーン物質(構成要件A)および水混和性潤滑剤(構成要件B)を含む混合物(構成要件C)と規定している。つまり、構成要件AおよびBを含む混合物をボトル用コンベアーに塗布して使用することは、全て請求項1の発明の範囲内である。・・・本願優先日前より、水混和性シリコーン物質および水混和性潤滑剤を含むベルトコンベア用潤滑剤組成物を水で希釈した混合物の使用は公知であり(甲第1?3、6号証)、これらの水で希釈した潤滑剤組成物の使用も本件特許請求項1の発明の範囲に含まれるものである。従って、本件特許の請求項1に記載の発明と本件特許明細書の発明の詳細な説明とを対比すると、本件特許請求項1に記載の発明は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超える発明を含むものであると言える。』と主張している。

しかしながら、本件特許明細書の段落【0020】、【0036】、【0040】及び【0043】並びに実施例24?26及び実施例33-36の記載を検討すると、本件特許発明1の「発明が解決すべき課題」として、容器亀裂が抑制され、比較的少ない量で適用することができ、インライン希釈を必要としない、実質的に滴下しない潤滑剤を使用して、より乾燥したコンベヤーラインおよび作業領域、および潤滑剤の使用の減少を提供し、これにより消耗、掃除および廃棄の問題を減少させることであると理解できるところ、上記インライン希釈を必要としないことは、本件特許発明1の課題の一つであり、いわゆる濃厚水溶性潤滑剤を適用する態様は含むものであるが、必ずしも濃厚水溶性潤滑剤での適用に限られるものではなく、同段落【0043】に記載されているような「例えば、約1:1?5:1の水:潤滑剤の比で適用」など希釈する態様も含み、さらに、コンベヤーシステムの潤滑における他の課題を解決するために、従来慣用されている希釈率での潤滑剤の適用を排除するものでもない。
そして、本件特許発明1の「水混和性シリコーン物質と水混和性潤滑剤との混合物」は、コンベヤーに沿った容器の通路の潤滑という限られた分野に適用されるものであり、その具体的な組成例は、実施例24?26および実施例33?36に記載されており、「水混和性シリコーン物質」については、同段落【0047】に記載され、「水混和性潤滑剤」については、同段落【0045】に記載され、また、両者の混合割合については、同段落【0048】に記載されており、さらに、潤滑剤のコンベヤーへの適用については、同段落【0043】及び【0105】に記載されているところを参照すれば、
本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められ、また、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものとするほどのものではない。

なお、上記請求人の「水混和性シリコーン物質および水混和性潤滑剤を含むベルトコンベア用潤滑剤組成物を水で希釈した混合物の使用は公知であり(甲第1?3、6号証)これらの水で希釈した潤滑剤組成物の使用も本件特許請求項1の発明の範囲に含まれるものである。」との主張は、主に発明の新規性進歩性において検討されるべき事項であり、公知の技術が特許請求の範囲に含まれるか否かは、特許請求の範囲の記載要件の一つであるいわゆる「サポート要件」の判断において直接には影響するものではない。

6-3-2.本件特許発明2,4及び5について
本件特許発明2,4及び5は、本件特許発明1に従属し、
さらに、本件特許発明2は、水混和性シリコーン物質として、シリコーンエマルジョン等を規定し、本件特許発明4は、水混和性シリコーンとしてシリコーンエマルジョン等を規定し、かつ水混和性潤滑剤として、ポリアルキレングリコール等を規定し、本件特許発明5は、水混和性シリコーン物質として、ポリジメチルシロキサン等を規定するものであるが、
これらの規定されている事項も前項で説明したのと同様に発明の詳細な説明に開示されていることから、本件特許発明2,4及び5についても、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められ、また、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものとするほどのものではない。

6-3-3.本件特許発明6について
請求人は、審判請求書において、
『本件特許の請求項6に記載の発明は、水混和性シリコーン物質および水混和性潤滑剤を含む混合物が「実質的に非水性」であることを規定している。ここで、本件特許明細書の【0042】では、「句「実質的に非水性の」は、潤滑剤成分が非水性であり、不純物としてのみ水を含むか、あるいは潤滑剤を実質的に滴下しないようにする量の活性水を含むことを意味する。」と記載している。ここの記載から、定量的な水の濃度がどの程度か不明であるが、非常に低い濃度であると理解できる。
・・・本件明細書の実施例では、主に水混和性シリコーン物質としてシリコーンエマルジョン、水混和性潤滑剤としてグリセリンおよび水を含む混合物のみが記載され、いずれの実施例でそれらの成分の濃度もほぼ同じである。「非水性」である混合物と水を20%程度含む混合物では、その化学的性質が異なることは当業者に明白である。そして、請求項1で規定する、水混和性シリコーン物質や水混和性潤滑剤は非常に数多く存在すると考えられる。つまり、本件特許発明の請求項6における非水性の混合物全てが、本件特許発明の所望の効果を奏するか否かについては、容易に推定できない。本件明細書には、非水性である混合物に該当する実施例の記載はなく、またその効果も当業者に容易に予想できない。従って、本件特許請求項6に記載の発明は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超える発明を含むものであると言える。』と主張している。

しかしながら、「実質的に非水性」の技術的意味は、本件特許明細書の段落【0042】の「潤滑剤成分が非水性であり、不純物としてのみ水を含むか、あるいは潤滑剤を実質的に滴下しないようにする量の活性水を含むことを意味する。」との記載から十分に理解できる。そして、本件特許発明細書には、水を20%程度含むものではあるが水混和性シリコーン物質と水混和性潤滑剤との混合物をコンベヤーへ適用する実施例24?26及び実施例34?36が記載され、本件特許発明6の「水混和性シリコーン物質」については、同段落【0047】に記載され、「水混和性潤滑剤」については、同段落【0045】に記載され、また、両者の混合割合については、同段落【0048】及び【0072】に記載され、さらに潤滑剤のコンベヤーへの適用については、同段落【0043】及び【0105】に記載されているところを参照すれば、
本件特許発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められ、また、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものとするほどのものではない。

6-3-4.無効理由(3)のまとめ
以上のとおり、本件特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると認められることから、本件特許出願は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとすることはできない。

6-4.無効理由(4)について
請求人は、審判請求書において、請求項6に関して、
『本件特許明細書の【0042】では、「句「実質的に非水性の」は、潤滑剤成分が非水性であり、不純物としてのみ水を含むか、あるいは潤滑剤を実質的に滴下しないようにする量の活性水を含むことを意味する。」と記載している。ここの記載から、定量的な水の濃度がどの程度か不明であるが、非常に低い濃度であると理解できる。
本件明細書の実施例では主に水混和性シリコーン物質としてシリコーンエマルジョン、水混和性潤滑剤としてグリセリンおよび水を含む混合物のみが記載され、いずれの実施例でそれらの成分の濃度もほぼ同じである(実施例24?26、33?36)。
「非水性」である混合物と水を20%程度含む混合物では、その化学的性質が異なることは当業者に明白である。そして、請求項1で規定する、水混和性シリコーン物質や水混和性潤滑剤は非常に数多く存在すると考えられる。つまり、本件特許発明の請求項6に係る混合物を調製するに当たり、どのような水混和性シリコーン物質、水混和性潤滑剤を選択することは、出願当時の技術常識を勘案しても、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を強いることになる。さらに、「非水性」の混合物に関して、コンベアーにおける潤滑性能を評価しておらず、実際に所望の効果を奏するかどうか当業者には理解できない。つまり、本件明細書の発明の詳細な説明には当業者が、請求項6の方法の発明を使用できる程度に十分かつ明確に記載されているとはいえない。』と主張している。

しかしながら、「実質的に非水性」の意味については、本件特許明細書の段落【0042】に『句「実質的に非水性の」は、潤滑剤成分が非水性であり、不純物としてのみ水を含むか、あるいは潤滑剤を実質的に滴下しないようにする量の活性水を含むことを意味する。』と記載されており、当業者であれば理解できる程度に説明され、その機能についても、同段落【0020】、【0024】、【0027】及び【0036】等に記載されているとおり、少量の潤滑剤で、薄い、実質的に滴下しない潤滑性被膜を形成する機能を果たすものであることが理解できる。また、20%程度の水を含むものではあるが水混和性シリコーン物質と水混和性潤滑剤との混合物をコンベヤーへ適用する実施例24?26、33?36には、その組成例とともに、得られる作用効果に関しても当業者が理解できる程度に記載されている。
そして、当業者であれば、「実質的に非水性」の意味について同段落【0042】の記載に基づいて理解し、同段落【0047】の記載に基づいて「水混和性シリコーン物質」を適宜選択し、同段落【0045】の記載に基づいて「水混和性潤滑剤」を適宜選択し、同段落【0048】及び【0072】の記載に基づいてそれぞれの割合を適宜選択して混合物として、さらに、該混合物のコンベヤーへの適用については、同段落【0043】及び【0105】に記載されているところを参照すれば、本件特許発明6について実施できる程度に発明の詳細な説明は記載されているものといえる。
また、請求人は、本件特許発明6が、発明の詳細な説明の記載では当業者が実施できないという具体的な証拠を示しているわけでもない。

したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明6を当業者が実施できる程度に記載されているものと認められる。
以上のとおり、本件特許出願は、特許法第36条第4項に規定された要件を満たしていないとすることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1および2は甲第1?3号証に記載された発明であり、本件特許発明4は甲第2号証に記載された発明であり、また本件特許発明5は甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明であるため、本件の請求項1、2、4及び5に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件の請求項3及び6に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その6分の2を請求人の負担とし、6分の4を被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2010-02-18 
出願番号 特願2001-517646(P2001-517646)
審決分類 P 1 113・ 121- ZC (B65D)
P 1 113・ 113- ZC (B65D)
P 1 113・ 537- ZC (B65D)
P 1 113・ 536- ZC (B65D)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 鈴木 由紀夫
谷治 和文
登録日 2009-02-20 
登録番号 特許第4261103号(P4261103)
発明の名称 コンベヤー潤滑剤、応力亀裂に対する熱可塑性容器の不動態化および熱可塑性材料の応力亀裂抑制剤  
代理人 小林 良博  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 飯野 智史  
代理人 永坂 友康  
代理人 石田 敬  
代理人 大宅 一宏  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 古川 秀利  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
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